PandoraPartyProject
喪失に回帰せよ
失ったものの話をしよう。
君にもあるだろう?
過去に失い、二度と戻らないもの。
多くの人は忘れ、別れ、前に進もうとする。
けれどそれが全てじゃない。私は知っているんだ。過去に生きたまま、先に進めない臆病な人間達を。
だって私自身が、そうだからね。
「母様(ママ)がいたんだ。世界で一番美しくて、世界で一番優しかった」
「過去形で語られるんですね」
聖騎士グラキエスの開いたロケットペンダントを横目に、聖女マリーンは問いかける。
それこそ聖女を絵に描いたような、美しい女性だ。
「お亡くなりに、なられたのですか?」
「そうさ。ずっとずっと前にね。私は母との再会を望んでいる」
「そ……」
そんなひとはありふれている。そう言いかけて、マリーンはやめた。
「どんな人だったのかしら?」
かわりに尋ねてくれたのは黒羊だった。髪の長い男性で、女性めいた口調で話す。
彼の優しげな眼差しを受けて、グラキエスは苦笑した。
「私の家庭は貧しくてね。明日のパンも満足に得られない生活だった。それでも母は私に優しかったよ。自分のパンをためらいなく私に与える、そういう人さ」
自分の子供だ。そういうことは誰でもするだろう。
けれど、とグラキエスは言った。
「母様は誰にでもそうした。年老いた老夫婦。道ばたに座り込む子供。酒浸りになった男。相手が誰でも、優しかったんだ。だからあのひとは好かれ、愛され、慕われて……そして早くして消えてしまった」
「それは……」
イルハンが声をあげ、そして開いた口を閉じてしまった。
憎まれ口を叩くのが得意な少年といった様子の彼も、しかして何も言えなかった。
だって分かっているのだ。失った悲しみを。取り戻したい渇望を。
星灯聖典に属する者はみな、多かれ少なかれ、そうだ。
「しかしこの聖骸布の力があれば、また出会うことができる。そういうことですね」
法衣を纏った飛行種の青年ナジュドは真面目くさった顔でいう。
「これはいわば、ルスト様の権能に干渉するための処理装置。
ひとつひとつは弱くとも、何十人何百人という願いが集まれば、帳として下ろす『正しい歴史』を僅かながら書き換えることができる」
「ああ。そうして、オイラの仲間とも再会できる……ってわけだ」
ネズミめいた獣種のズィールがハンマーの柄をさすりながら眼を細めた。
「言われたよ。帳の中だけの幻だって。けれど、オイラにとっては現実と一緒だ。そこから出なければ、ずっと一緒にいられるんだから……さ」
パタン、とロケットペンダントが閉じられる。
グラキエスはそれを服の下にしまうと、顔をあげた。
「ツロ殿が呼び出したという、ローレットの連中はどうなっている?」
少しばかり厳しい口調に、逆ハート型の錫杖を持ったシスター、アッバースがうやうやしくこたえた。
「庭園に残る選択をする者が相当数いたようです。何やら、腹に抱えた者もいるようですが……グラキエス様が手を下すことはないでしょう」
「お姉ちゃんはどうするのかな。私遊びに行っていい? あっ、一部の人は帰っちゃったんだっけ。お姉ちゃんがいないなら私はパス」
凶悪そうなハンマーを抱くように持ち、うっとりと笑うトゥールーン。
「やめておきなさい。あの場に立ち入るのも、干渉するのも――」
と、そこまでアッバースが言いかけたところで、グラキエスは手をかざした。
「薔薇庭園に招いたということは、わざわざ返すつもりもないということ。
一部は脱出に成功したようだけれど……残る選択をした者は、これからどうなるだろうね」
トゥールーンたちが押し黙る。あの場に溢れる呼び声にいずれ折れてしまうか、あるいは……。
「いずれにせよ、ローレットは、来るよね」
「ああ、来るだろうね。仲間を取り返しに。そして、この場所への道をこじ開けるために」
自分達も、動かなければなさなそうだ。
グラキエスはため息をつくと、歩き出した。
「さ、行こうか。『失ったもの』を守るために。
私達は星灯聖典。失ったものを取り返すものたちだ」
※天義にて星灯聖典の遂行者たちが動き出したようです。
※プーレルジールで奇跡の可能性を引き上げるためのクエストが発生しました!
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