PandoraPartyProject

PandoraPartyProject

心に信ずるは

 ――聖痕とは遂行者になる事だ。
 それは原罪の呼び声を受けるに等しい。
 旅人であろうと狂気に引きずり込まれ、純種であれば言わずもがな。
 されどそれは名誉である。真なる神の下へ馳せ参じられるのだから。
 偽りの神を捨てよ。己が魂を解放するのだ――

「だというのに、貴様らは我々を拒絶するのか」

 ――声を張り上げる。それは遂行者が一角、マスティマだ。
 彼が語り掛けるのは――ツロの招待を。神の国への誘いを拒絶した者達。
「ぶはははッ! この豚がオメェさんらみてぇな強者の遂行者にとって、誘うに値する存在と見做してくれたのは、あぁ確かに言われる様に光栄の至りだが……悪ぃな! その誘い、断らせてもらうぜ!」
 その内の一人がゴリョウ・クートン(p3p002081)である。
 ゴリョウはこの世の者ではなく、外なる世界より召喚された旅人。
 ――かつて彼は『世界の敵』諸共爆発四散した身の上だ。
 それで生は終焉を迎えたと思っていたのに。
 なんの運命の悪戯か、望外の人生の延長戦を貰えている。
 それだけでも十分この世界に対して恩があるのに――加えてかつての世界には存在すらしなかった美味い飯や米にも出会え、こっちで出来た家族や友や、元の世界からの悪友や血縁にも出会えた。
「俺にとっちゃ、アンタらに与するのは――
 ちぃとばかしこの世界を蔑ろにしすぎになっちまうって訳だ。
 それに。仮に手を取りなんぞした日にゃ先に行きやがった我が心の友が怖ぇしな!」
 ……あぁそれに何より。
「何より――愛する者がこの世界にはいる!
 足掻くだろ、そりゃ! 少なくとも容易く受けてやる訳にはいかねぇ事情があるんだわ!」
「ふ――ははは!」
 ゴリョウがそう宣言した途端、うれし気な哄笑が響いた。仮面の遂行者、サマエルである。
「いや――君ならそういうと思った。種明かしをしてしまえば、君を推薦したのは私なのだがね。
 君は気高く、情熱的だ。きっとそうするだろうと思っていた。
 だが――君と盾を並べ、堅牢たる我らが真なる歴史を守るという未来も、想像しなかったといえば嘘になる」
「それは光栄だ。オメェさんとは、やはり戦場で相対する方が性に合っているってな」
「無論だとも――どうだいツロ、イイ男だろう?」
「ははは。友の残滓、愛の価値が此方より何よりも上と言う訳だ――中々涙ぐましいものじゃないか。あぁ愛は尊い。まるで蕩ける美酒のようだからね、俺も実によく分かるよ。それで? そちらのお嬢さんたちも……一緒の可愛らしい意見なのかな?」
「……ルルやリスティアの事は正直気になるけど……
 貴方達の支配するこの場に残ることはできない!
 国を良い方向に変えてみせるって宣言したばかりだしね!」
 預言者ツロは口端に笑みの感情を灯しながら、ゴリョウ以外の者達にも視線を寄こそうか。そう、例えばスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)へと……彼女の視線もツロと交わるようにしながら、その傍にいる聖女ルルも捉える。
 きっとこの場に残ってのみ出来る事もあるのだろう。
 だけれどもダメだ。守りたい人達、守りたい場所がある。
 ――戻らなければならない。戻ってこそ守れるものがあるのだから!
「私は力なき人々を救わんとする神の為に戦うよ! 残す人とそうでない人を選別するなんて傲慢だ! ましてや魔物に変化させてしまうなんて……一体何の罪があってそんなことをするというの?」
「罪? いいや、あれは慈悲。偽りの神からの解脱の為だよ。
 彼らは救われていた――それを殺したのは君達だ」
「詭弁だよ、それは……! 預言者ツロ。
 貴方が自身の信じる神の為に戦うことは否定しない。
 でもそのやり方には賛同できないよ。絶対に」
 そうだ。やはりこんな遂行者達を信じる事なんて出来ない……!
 スティアはハッキリとツロを拒絶する意志を示そうか――そして。
「残念だね。ルル達と少しの時間であればお茶会に参加することはやぶさかではないけどね?
 ……ちゃんと帰してくれるならって条件がついちゃうけど」
「ふふふ。それは傲慢、いえ強欲というものね――
 保証書がないと安心して物も買えないタイプかしら?」
「じゃあ、だめだね。今度ゆっくりと出来る機会に、平穏なお茶会をしたいね。
 ――ただ一点だけ聞かせてほしいんだけど。
 もしも私を仲間に引き入れたとしてリスティアと共存できるの?」
「さぁ。出来るんじゃないかしら? えぇ瓜二つの顔が並ぶ事なんてきっと造作ないわ」
 リスティア。神の国の己とも言うべき存在。
 共存共生の可能性は果たしてあるのか……
 しかし試したことはないが、きっと出来るのではないだろうかとルルは大雑把に答えるものだ。神の国が在る限りリスティアも在る。彼女が消えるとすれば神の国が終焉を迎える時ぐらいだろうからと――
「預言者ツロ。私は天義の聖騎士だけど、神が正しいから教えに従ってるんじゃない。
 善き人であれ、隣人に優しい人であれ、邪な想いに負けるな。
 そういう教えを正しいと思ったから神様の教えを信じているんだ」
 続けて語るはサクラ(p3p005004)だ。彼女もまた、心に灯がある。
「私は結構ワガママなんだ。だから私が正しいと信じてるものの為に」
 そして――私が愛する人々と、世界の為に戦う。
 それは決して遂行者や、預言者ツロ、冠位傲慢ルストの為などではない。
 聖奠聖騎士の名を授かった時から……いやもっとずっと前から。
 自分は『そう』なんだと信じて生きてきたんだ。
「流石ロウライト家のお嬢さんだね。この国に殉じる為に生まれてきたかのような精神だ」
「どうも。誉め言葉として受け取っておこうかな。
 ……それより私のお祖父様やお母様はどこに? 此処に引っ張ったよね?」
「どうだったかな――マスティマ」
「知らん」
 微笑みの感情を顔に張り付けながら、預言者ツロは穏やかにマスティマへと視線を向けようか――『知らん』などとそっけなく返答したが、嘘だ。奴は何か知っている。そもそも目的があって誘いをかけたはずなのだから。
 ……あの二人がそう簡単に遂行者側に落ちるとは思えない。
 今は、そう信じよう――そして。
「決して。私達は貴方達の仲間になる事はありませんよ」
 ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)もまた、確かなる意志を瞳に宿しながら告げよう。
 遂行者になど与せぬと。あぁなぜならば……

 ――ココロ。行かないで。
 ――側にいてほしいから帰ってきて。

 知古たる者達の。そんな声が、聞こえた気がしたのだ。
 魂を揺さぶるものだった。遂行者の誘いなど、歯牙にもかけない程の……!
「だから、私は帰ります。お師匠様の下へ、大好きな人の……所へ!」
「どいつもこいつも。我らの誘いを軽んじるなど、二度とない栄誉栄達の機会だぞ!」
「そんなもの、塵芥ですよ!」
「ぶはははは! さっきも言ったろ悪いが、アンタらの新世界になんざ興味はないんでな! あぁ今夜も料理の仕込みがあるし、帰らねぇと寂しがる嫁さんも居るんだ! 縁がなかったと思って諦めてくんな! むしろお前さんらがこっちに来るってんなら歓迎してもいいけどな!」
「はっはっはっはっは」
 されば。預言者ツロは皆の応えに手を叩こうか。
 大仰に。大げさに。あぁとっても素晴らしいねと褒めてくれるように――
 刹那。
「ツロ」
「ん?」
「こいつらをタダで返す道理はないな?」
「あぁ。好きにしたらいいんじゃないかな?」
「では死ね」
「ちょっと! 私が前にいるんだけど!!」
 マスティマが動いた。聖遺物ロンギヌスを顕現させ、その槍を振るう。
 前面にルルがいたが『どうせお前なら躱せるだろ』と意にも介さず。
 聖槍ロンギヌス。神すら殺す槍の一閃が空間を薙ぎ払う――自身を世界最高最強の聖遺物だと信じ……いや信じるを通り越して狂信、正に傲慢の領域に到達しているマスティマ=ロンギヌスの一撃は絶大だ。
 誘いを断るイレギュラーズを見逃す理由がどこにもない。
 故に殺すと。あぁもし『我らを謀らんとしてる者』がいたならば同じ事だ。
 全員裁く。逃れられはしない。
 此処は至高なる世界にして遂行者の庭なのだからと――知れ。
「ああ、大変だな、君達も」
 サマエルは、我関せずというようにそういった。
「ああなったマスティマは厄介だぞ。私とて、その痛みを喜びに変える暇はない。
 だが――君たちならば、切り抜けられるのではないのかな?」
 諦観半分、しかし期待半分。興味深い見世物を見るような視線を、その仮面の下から感じられた。
「サクラちゃん!」
「分かってる! 必ず、切り抜けようッ!!」
 それでも危険を承知で此処へと至っていたイレギュラーズ達の動きは迅速だった。
 スティアが素早く魔法陣を展開し、サクラが抜刀。
 ツロ達の思い通りにはならない。必ず帰還してみせると――さすれば。

 その一撃に、介入した者達がいた。

 それはスティア達の動きに続く形でマスティマの一撃に真っ向から抗しようか――その者達、は。
「お祖父様……!」
「――無事か」
「はい、しかしお母様は……!?」
「説明は後にしよう。それよりも今は――この状況の打破が必要か」
 一人はサクラの祖父たるゲツガ・ロウライトであった。
 良くも悪くも『天義の聖騎士』の鏡たる彼に続いて、更に。
「すまないが、彼女達を帰して貰う……というのは?」
 ゆったりとした口調で――しかし、その表情こそ暗く青褪めている――セナ・アリアライトの姿も現れようか。
 名こそ天義貴族アリアライトを名乗るが彼は星穹(p3p008330)の実兄である。
「お兄様ッ!」
 酷く悍ましいものを見る目をして星穹は叫んだ。彼のその現状がこの場で誰よりも危うく見えたからだ。
「お兄様! セナ! セナ・アリアライト! 私を見なさい! その言葉は真実、貴方の心の底からの言葉だというのですか!?」
「……セラスチューム」
 本来の名を、生を受けたとき母より授かった名を呼ぶ兄の心は壊れかけている。聖女ルルや預言者ツロが言って居たではないか。
 天義という国は正義の名の元、白も黒に、黒も白にしてしまう傲慢さを有していたと。神の名代と口にすればどの様な罪を犯しても裁かれることは無かったと――
 その現実を前にして、青年の正義が打ち砕かれたことを知っている。セナの背後にその姿在るゲツガ・ロウライトは未だ口を開かない。
「お祖父様」と呼び掛けたサクラは祖父に何か考えがあるのだろうと敢て、気付かぬふりをした。
「お兄様。私を見て。あの日。セラスチュームの名が要らないといったのは、いつまでも過去に囚われていてはならないからです。
 私達にはきっと無慈悲に奪ってきた命があるし、踏み潰してきた想いがある。ならばその分まで生きなくてはならない。
 ……記憶がないから平凡な幸せを望むことも難しかったでしょう。だけど、平凡ではなくともささやかな幸せがあったことを忘れてはなりません。
 苦しいだけが私達の歩みだったでしょうか。間違いばかりを重ねた生き方だと思いますか?」
「いや……」
 真実、己が正しいと証明することは何人にも出来ない。それこそ神の所業である。
 母が『反転』した父から子を逃がしたとき、行く先が不幸であった事は否めない。だが、その愛こそ間違いだというならば如何様にも進めと妹は言った。
 ただし――『一人でなど行かせるものか』と彼女は言う。
 己の歩んだ道は何も間違いは無い。何かを間違えたと手、後悔と痛みを抱えて、泣いて、悩んで、進むのだ。
 星穹は『相棒と子ども達』との未来を望んでいる。左腕を失った痛みを忘れず、奪った命に恥じぬように生きていきたい。だから、兄とて宣言するべきだ――己が選ぶべきはなにか、を。
 ツロはその様子を見詰めてから「ああなんて皮肉だろうね」と呟いた。この様子をルスト・シファーよりも更に上、原初の魔種と呼ばれた男に見せてやりたい。
 彼の何よりも大切な妹の事は兄が手を伸ばしたところで何の感情も浮かべないというのに!
 どうだ、彼が滅ぼそうとしている世界にはこうして手を伸ばし、共に在ることを望む妹が居るのだ。
「……セラスチュームを危険な目に遭わせようとするなど、兄として失格だな。
 預言者ツロよ。セナ・アリアライトは星穹と共に一度この場に残ろう。
 その代わりに帰還を望む者達を返して貰うのは?」
「それにメリットはあるだろうか。生憎だけれど、『悪戯に呼んだ』訳じゃ無いのだよ」
 ツロは眉を吊り上げた。
 しかしと――ゆっくりと歩を踏み出したのはゲツガであった。
「メリットは、あるだろう。
 世界を救うパンドラを宿すイレギュラーズを呼び込みすぎたというべきか……
 拒絶の意志を宿すイレギュラーズ抱え込み過ぎれば、この地には亀裂が走ろう」
「ほう? 神の国の事について、まるで知ったような口を」
「原罪の呼び声に溢れたこの地に来ても尚、私やセナ殿が正気を保っているのがその証左――
 この地は、世界や人を塗りつぶす事に特化していても、抵抗されるのに慣れていない」
 微かに。ほんの微かに、ツロの表情に異変があったような気がした。
 ――ツロの強制招致の力は滅びのアークに属するものだ。そしてこの神の国自体も、広義の上ではそうだろう。
 神の国は彼らにとって都合の良い世界を作り出す――
 しかし。その力に抵抗できるのがパンドラ、引いてはその力を宿すイレギュラーズだ。
 滅びのアークの力で空間を捻じ曲げ、強制的に『抵抗できる異物』を引き摺り込んでしまった結果で、神の国に蔓延っている呼び声に影響が出ている……とゲツガは未だ保たれる己が正気を理由に推察するものだ。当然、その影響は致命的なものではないし、神の国自体を根幹から揺らがす程ではないだろう。だが……
「此処で、退路を断たれた者と一戦交えるか?
 亀裂走るこの領域で、それが如何な影響を他に及ぼすか……試してみるのも一興。
 ――然らば。背水の騎士の力、存分にお見せしようか」
「……ふむ。その言全て戯言だと切り捨てるのは簡単だが、そうだね」
 死を覚悟して最後の命の輝きを見せてくれん――
 ここは遂行者達の国だ。しかもイレギュラーズ達は孤立している。戦えば負ける事はないだろう、が。
 ツロは顎をさすりながら数秒程度思案を巡らせ……
「いいだろう。ただし、帰すのはイレギュラーズだけだ。
 貴方は残っていただこう、月光の騎士。それからセナ・アリアライトに、残る意思のある妹もね」
「なんだと、ツロ。正気か。此処で全員私が貫き殺してくれる」
「マスティマ――従ってもらう」
「怒られてるのウケる」
「預言者の判断なら、その通りにすべきではないかな。少なくとも私に異論はないよ」
 その言を受け入れるものであった。ツロが指を鳴らせば、再びにイレギュラーズ達を引き摺り込んだ『門』が開かれる。
 マスティマは反対せんとするも、ルルやサマエルはツロの判断を尊重せんとするもの。さればマスティマも仲間割れはすまいと引き下がろうか――そして。
「――ソフィーリヤ殿は無事だ。もし、私がなんとなれど、サクラ。その成長ぶりであれば最早私がいなくても何も問題ない――自分の魂と信念に従い、生きろ」
「お祖父様……ッ、分かりました。みんな、気をつけて……必ず無事に帰ってきてね!」
 されば、別れる寸前。最後の言をゲツガとサクラは交わそうか。
 サクラのその言は、己が祖父だけに向けられたものではない。
 この場に残ると決めたイレギュラーズ達にも向けられた――激励であった。
 留まる理由には、様々な思惑があろう。数多の信念が故かもしれぬ。
 戻るが故にこそ守れるものがあり。残るが故にこそ切り拓かれる何かがあるかもしれなければ。
 今、己が成すは彼らの無事を祈るのみ。
 ――門が、閉じられる。ツロの開いた力が完全に収束するのだ。
 後に残る者は、少なくとも容易には戻れまい。
 だが如何なる決断と未来が待ち受けていようとも、遂行者達の思惑通りにはさせない。

 すぐにまた。招待されてではなく、こちらから殴り込んでやろうと――誰かの心の内に、決意が芽生えた。

 ※ツロの誘いを受けたイレギュラーズの内、一部は脱出に成功したようです!


 ※プーレルジールで奇跡の可能性を引き上げるためのクエストが発生しました!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

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