PandoraPartyProject

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野薔薇の園のテレサ

 今よりおよそ二百年ほど昔。
 不正義によって断罪された家があった。
 名をローザリアという。

 始まりは、一人の司祭の告発によるものだった。
 ローザリア家の奥方は七年もの間、死産を繰り返していた。
 一人娘のテレサを除き、長女レジアの他、名のない三名の赤子はいずれも葬られていた。
 奥方の子はいつも産まれる直前までは順調に育ち、必ず死んでしまうという。
 この時代、そうした悲劇は必ずしも珍しいことではなかった。だが『何か』を感じ取ったのだろう。それを司祭は尋常の沙汰ではないと訴えたのだ。
 しつこい訴えが功を奏したのか、ローザリア家は調査の対象となった。
 そしてついに、忌むべき儀式の存在が明らかになったのだ。
 ローザリア夫妻は赤子の魂をテレサに食わせ、希代の才ある魔術師として育てようとしていたらしい。
 夫妻は異端審問の末に処刑され、家は断絶されることになった。
 一人生き残った次女テレサの行方は、記録には残されていない。

「だから私は一人ではないの。テレサ=レジアなわけ」
「そう、面白いお話をありがとう」
 美しい庭園で、遂行者テレサレディ・スカーレットは白い丸テーブルを囲んでいた。
 ティーポットには、夏摘みの上質な茶葉が香っている。
「父や母を恨む?」
「あは、まさか。あなたとは違うわ。馬鹿な人達だったとは思うけど」
「私だってもう恨んではいないけれど。復讐なんて、終わってみればそんなものよ」
 ティーカップに注がれた紅茶へ一枚の花びらを乗せ、レディが笑った。
「その花びらはファティマ・アル=リューラね?」
「ええ、だってもったいないもの、けれど全てではないわ。一応は生きているから」
 テレサは遂行者であり、傲慢の魔種でもある。
 遂行者であるからには、ツロの預言書に従い、世界を正しい歴史に戻す必要がある。
 だがテレサはのらりくらりと、その任をサボっていた。
 そして綜結教会なる組織と手を結び、何らかの画策をしているようだ。
 レディもまた同様に、テレサや綜結教会と手を結んでいる魔種だ。こちらは色欲ではあるが――

 手を結ぶ三者の目的は、それぞれ似て非なるものである。
 そして先の戦いで、テレサは「レースをしている」と語った
 ではレース内容とは何なのか。
 綜結教会の目的は、狂神(彼等は異神と呼ぶが)の元『世界を一つにする』ことだ。
 一つというのは心的な意味ではなく、物理的なものである。
 つまりあらゆる物質や神秘的な力など、ありとあらゆるものを結合させて世界を白紙にする。そして狂神の支配によってあらゆる苦痛のない世界へと変えるのだという。
 レディ・スカーレットの目的は、彼女いわく「最も即物的で下らない」ものだ。単に彼女は天義という国を破滅させ、乗っ取り、彼女の楽園を作り上げたいというものだった。
 ならばテレサの目的はどうか。
 彼女は「人はそもそもこの世界に生れるべきではない」と言う。
 この世界では時は戻らず、死者もまた同じ。
「レディ。私はね、何かを始めるには、まず終わらせる必要があると思うの」
「それには同意するわ、ローザリアのお嬢さん」
 だから世界を滅ぼす。
 遅かれ早かれ、人はいずれ死ぬ。
 そして誰も産まれてこなければ、人の世は終わるのだ。
「手段は何だっていいわけ。あなたがこの国を滅ぼそうが、異神が世界を滅ぼそうが」
 あるいはルストが世界を新生させようが。
「必ずしも私がやる必要だってないわ、何でもいいの。何だって」
「ローザリアのお嬢さん。あなた、この世界が嫌いなのね」
「ええ、あなたは?」
「私は好きよ、愛しているわ。ずっと続けばいいとも思うの」
「でも愛するなら、看取ってあげたいんじゃない?」
「そうよ、きっと最後には壊してしまいたくなるの」
 二体の魔種は温かなマフィンを手に、くすくすと笑い合う。
「レースに『あの子』を乗せたのはどうして?」
「美咲のこと? お話をしたかっただけなのに、勝手に乗ってきたのよ、あの子。おかしいでしょう」
「ええ、悪魔と契約なんて、すべきではないのにね」
 テレサとレディがくすくすと笑い合う。
「あの子のこと、ツロは全く信用していないわ、アドレもね。当然だけれど」
 ツロの提案は佐藤 美咲(p3p009818)にイレギュラーズを殺させろというものだった。
「あの子のためにルルに貸しを作るのも癪だけれど」
「美咲という子は、きっとお仲間(ローレット)へ情報を持ち帰りたいのではなくて?」
「私としては一向に構わないのだけれど。怖いわ。私、臆病なものだから」
 両手で自身を抱きしめるようにして、テレサがくすくすと笑う。
「そんなことを赦したのなら、か弱い私なんて、きっと粛正されてしまいそう」
「不安症な子だこと」
「この子だって、そのために盗んでもらったんだから」
 テレサが指輪を撫でる。それはスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)の家に伝わる指輪リインカーネーションに良く似ている。それもそのはず。テレサは宿っていた聖霊を分断(シスマ)し、使役しているのだ。結界能力は非常に強固であり、テレサの戦力を底上げしている。聖霊の翼は徐々に黒く染まりつつあり、悲しげな表情をしていた。

「いずれにせよ、招かれざる客(ローレット)はここへ踏み込んでくるはずだけれど」
「怖いわ、震えてしまいそう」
「あら、温めてさしあげてもよろしくてよ」
「それはあなたの愛する子供達に、してさしあげてね」
 テレサは微笑むと、ティーカップに口づけした。
あの子達、どうなってしまうのかしら……

 ※天義で闇が蠢いています。


 ※プーレルジールで奇跡の可能性を引き上げるためのクエストが発生しました!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

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