PandoraPartyProject

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絶えず祈りなさい

 われわれは、主が御座す世界を正しさで溢れさせなくてはならない。
 ひとは産まれながらに罪を犯すが、主はわれらを許して下さる。
 故に、われらはその御心に応えるべく献身するのだ。

     ――――ツロの福音書 第一節

「やあ」
 この地がテュリム大神殿と呼ばれていることを佐藤 美咲(p3p009818)はその時初めて知った。
『神の国』と呼ばれたその場所はリンバスシティ内部のアリスティーデ大聖堂から転移することの出来た特異なフィールドであるらしい――であれば無論、イレギュラーズとて本来であれば容易く入れる場所ではない、が。彼女らは『招待』された側であればこそ例外であった。
「……どうも」
 警戒心を露わにして一歩後退する美咲の傍には椅子にどかりと腰を下ろしたグドルフ・ボイデル(p3p000694)の姿がある。
「やあ、だァ? わざと『道を開いたまま』にしやがったな」
 睨め付ける鋭い眼光を受け止めても遂行者――預言者『ツロ』は微笑んでいた。視線を廻らせれば彼の背後には俯き座るリゴール・モルトンの姿が存在して居た。いや更に他にも呼ばれている者の姿も見えようか――やれやれ。
「結構な人数を呼んだもんだな」
「遂行者(部下)が物好きなものでね。
 まあ、彼女達が選んだ人員だ。それなりに遣えるだろうと思ったのだよ」
 穏やかな笑顔ではあるが底が見えない。グドルフに言わせれば気味の悪い男である。
 このテュルム大神殿に直接『転移』させられたのはツロによって招待状を手渡されたイレギュラーズ達だ。そして、その中でもツロの『誘い』に対して受諾したのは――
「拙者と」
「私と、君達だね」
 夢見 ルル家(p3p000016)楊枝 茄子子(p3p008356)達も、だ。
 二人共、何食わぬ顔で神殿の礼拝堂の椅子に腰掛けている。
「……ワォ」
 思わず呟いたのは美咲自身が受諾したフリをしていたからだ。仲間達と示し合わせた訳ではない。
 ある意味で美咲にとっては予想外ではあるが仲間が居るのは心強いと言うべきか。
「他にも声を掛けたんでしょ。私達だけって訳がないじゃないか。
 お前が何を考えてるのかまでは追求しないでおいてやるけどさ……
 なるほど、なるほどね。私達に誘いを掛けてテュリム大神殿に、それからルルの庭園への召喚からやり直すってわけか。趣味が悪いね」
 眉を吊り上げた茄子子にツロは「言われているよ」と振り返った。背後でティーカップを傾けていた聖女ルルは「茄子子だもの」と気にする素振りもない。
「茄子子は私のことが嫌いだと思ってたのに、来るのね」
「正直キミ達の理念には一切心を動かされない。真実とか偽りとか本当に興味無いし勝手にやってて欲しい。
 あとざんげくんは友達だし、ルルは嫌いだよ。
 でも、イレギュラーズとか遂行者とか、神とか世界の危機とかそういうのは全部、全部本当はどうでもいいんだよね」
 茄子子はさらりと言ってのける。その隣で「あ、拙者はキャロちゃんのこと好きですよ」とルル家が手を上げた。
「大名……」
「大名じゃないですが」
「夢見何万石か不明大名は私のこと好きよね。もう一度聞いてあげる。『私がもしも平凡なお茶会をしましょう。武器を置いて』って頼めば誰か来るわけ?」
 ルルは真っ直ぐにルル家を見詰めていた。名が似ていた、最初はそれだけだった筈なのに――随分と彼女との距離が近くなった気がしている。
「えぇ、勿論! ですから、預言者ツロ、貴方の誘いを受けましょう。
 拙者がイレギュラーズである限り、拙者はキャロちゃんの敵です。拙者は本当の意味でキャロちゃんの友達になりたいんです。
 ツロ、貴方の言う正しさなんて心底興味ありません。今更元の世界に戻りたいともさほど思いません。キャロちゃんの側でハッピーエンドになる方法を一生懸命考えます」
 ルル家はにんまりと笑みを浮かべた。ルルは眉を吊り上げてから唇を引き結ぶ。
 どうにも気が抜ける笑顔だ。彼女とは何もかもを抜きにして友人になる事が出来れば一番だったのだろう。
「まぁ安心してください。ちゃんと仕事はしますよ。拙者はイレギュラーズの強さを信じています。
 拙者一人が反旗を翻したところで、皆は必ず勝ってくれると信じてます。
 だから安心して遠慮なく全力でイレギュラーズに敵対しますよ。……だってそうしないとキャロちゃんの側にいれないでしょう?」
 ルル家の本心は直隠しにしている。もしも、ルルが――カロル・ルゥーロルゥーを名乗る『聖遺物』に滅びのアークが紐付いて作られた存在が、生き延びて人間と成り得るなら。
 そんな未来を求めてしまって仕方が無いのだ。
(……何も結果が得られなかったとしても、それでも最後までキャロちゃんの側にいられるならそれでも構いません。
 ……ごめんなさい遮那くん。拙者は帰れないかも知れません)
 胸の内で、愛しい人の名を呼んでからルル家はその本心を悟られぬように微笑んだ。
「馬鹿な子……」
「馬鹿な子ついでにどう?
 ――私はシェアキムが欲しい。ずっと、ずっと、そのためだけに生きてきたから。
 だからさ、シェアキムを私にくれるなら貴方達の仲間にでもなんでもなっていい。
 ……どう? 仲間にする気になった?」
「信用できるとでも」
 遂行者アドレが食ってかかろうとする様子を背後でテレサがくすりと笑って見ていた。
 テレサを見詰めている美咲の視線を受け止めてから「美咲」と名を呼んだ。
「貴女は? 何を考えてこの場に残ったの? お仲間と共に庭園に行けば良かったのに」
「生憎、そういう『立場』なんでスよ」
「どういう意味かしら。詳しくお聞かせ願える?」
 なぜだかテレサの声音には、いくらかの鋭さが感じられる。美咲の背筋を冷たいものが伝うが。
「ローレットも二年かけて私を落とせてないのに、すぐってのは都合良すぎるんじゃないスか?」
 そもそも呼んだのはアンタ等の側ではないかと問い返す。
「それはそうなのだけれど、どうしてそんなに素直なのかは気になってしまうわ」
 テレサは「私はね『臆病』なの」と続けた。
「だから『立場』と言ったんスけど」
「ふうん……」
「……とはいえ、多少協力はしてやりまスよ。AITを失い、対イレギュラーズ戦力も不足しているでしょう。その穴を埋めてやりまス。
 でも、私の作戦で民間人虐殺とかせこいことは止めてくださいね。『遅かれ早かれ』なら、今である必要も無いでしょう。
 私、不意打ち系なんで察知されると致命的なんスよ。これは前提条件として考えてください。狙うなら特異運命座標を狙うべきでス」
「へえ、予想外。『使われて』くれるんだ?」
 ツロは黙って聞いていたが、ふむと顎を撫でてから頷いた。
「なら、特異運命座標を不意打ちで一人二人殺してきて貰うのはどうだろう。虐殺ではないから、君を信頼するのに丁度良いだろう?
 ルル家はルルの玩具だろうし、茄子子は『偽りの預言者』を引き摺り落とす。アッチの彼は――聞くまでもなさそうだ。なら、君は?」
 美咲は真っ直ぐにツロを見詰めていたがテレサが間に割り込んでから「また後でお話、しましょうか」と囁いた。
「……あんたの手引なんでしょう? テレサ」
「もちろんそうよ。ええ、だってもっと話したそうだったものだから」
「あの時の返事スけど、納得はまだでスが理解はしました。総量がマイナスの人も、あってはならなかった出来事も無数に存在する。混沌でも私の世界でもそれは同じ。
 それを考えると、神とやらに『召喚の日、作戦でヘマやらかして死にそうだった私を呼んだのは正しかったのか?』と聞いてみたくはありまスね。
 私の命題は『私というマイナスにどう結論をつけるのか』。
 協力はその対価。だから……『私は生きるべきでなかった』と証明してみせろ」
「ふうん、そう……本当に予想外。本当に『あっち』で待っていれば良かったのに」
「悪魔(わたしたち)と取引だなんて。そういうの、嫌いではないけれど」
 背を向けて立ち去ろうとしていたテレサは何か意味を込めたように微笑んでから、ルルへと「よろしくね」と囁いた。
 ルルはやれやれと立ち上がってから「新興宗教の教祖に、何だか意味ありげな眼鏡のおねーさん、それから大名と山賊ってキャラが濃いわ!」と叫んだ
「うるせェ女だ」
「何よ、山賊!」
 食ってかかる調子のルルを押し止めてからアドレは「ツロ様」と呼び掛ける。
「君に聞こう、グドルフ・ボイデル」
「ああ。預言者だか代弁者だかしらねえが、ハッキリ言えよ。『お仲間がクソ雑魚すぎて戦力が足りません! 助けて下さい!』ってなあ!」
 その言葉にアドレが身を乗り出しかけたが、次に彼を押し止めたのはルルだった。小声で「座ってろ」と囁くルルの言葉に従いアドレの手を掴んだのはルル家である。
「その誘いに乗ってやってもいい。元々ローレットに居たのもカネのためだ。
 俺が欲しいのはカネ、酒、オンナ――
 そして、この世界にグドルフ・ボイデルという男の名を未来永劫刻みつけてやる事。
 事を起こしたってこたァそれが手に入る算段はもう付いてんだろ?
 そこのハゲはどうせ大した実力も無え。俺にしとけよ」
 そこのハゲと指差されたリゴールはぴくりと肩を揺らした。
 そうだ。グドルフ・ボイデルは彼を救うために来た。

 ――リゴール。お前だけは必ず救ってみせる。

 遂行者とは何か。それを使役する冠位とは何か。ルル家が言う『滅びのアークと遂行者の結びつき』だけではない、魔種も、奇怪な存在もその全てを理解しなくてはならない。
(……全てを知る必要がある。その情報は必ず勇者達(イレギュラーズ)に有益となる。
 神よ。それが私に課した使命だと云うのならば)
 男は――『聖職者』は『山賊』らしく笑って見せた。
「これで晴れて裏切り者──俺も遂行者の仲間入りってワケだ!」
 はんと鼻を鳴らしてから、グドルフはリゴールの襟元を掴み上げわざとらしく引き摺った。
 されるが儘のリゴールの瞳にグドルフの――『よく知っているはずの男』の顔が真っ直ぐに映り込む。
 彼が何か口にする前にグドルフはツロの了承など気にする事無く、彼の体を入り口へと投げ遣った。
「とっとと失せな。ハゲのオッサンをいたぶる趣味は無ェ。
 ああ、ついでにローレットのカス共に伝えてこいよ。
 てめえらとのお友達ゴッコは、楽しかったぜ――てな!」
 大口を開けて笑ったグドルフは『顎を三回』擦った。それは『アラン』とリゴールだけが知り得える秘密のサイン。きっと、リゴールなら覚えているであろうその他愛の無い仕草の意味は『後は、俺に任せとけ』である。
 何を馬鹿なことをとリゴールは声に出して叫びたかった。けれど、リゴールは一歩後退った。
『今の自分』ではどうしたって足手まといになるだけだ。
 この手に力があれば……何度願ったか分からない。それを、また噛みしめる。

 ツロは黙って見ていた。
 しかし、その後、何かを思い直したように唇を吊り上げてから聖痕を与えてやろうとグドルフに告げたのだ。
 その場を後にしたリゴールを見送ってからルルは「女の子達にはお洋服を選んであげましょう」と微笑む。
「あ、オジサンはアドレになんとかして貰って」
「あ?」
「山賊だから誰かから追い剥ぎでもすれば?」
「テメェから剥ぐか」
 冗談、と笑ってからルルはルル家と茄子子の手を引く。「美咲と言ったわね、いらっしゃい」と声を掛けてから楽しげに歩き出した。
「大名には私が聖痕をあげる。ちゅーするのと普通に刻むのどっちが良い?」
「選択肢おかしくないですか?」
「んふふ。茄子子と美咲は、ひとまず『私から貰ったフリ』をなさい。テレサはそういう意味で置いていったでしょ」
 前を歩くルルを見遣ってから美咲は臓物全てが冷えた気がして「え?」と問うた。
「んふふ。私達ってそれ程甘くも無ければ優しくも無いのよ。
 ……ねえ、その選択は間違いじゃ無かったのかしら。あなた、一歩でも間違えれば死ぬわよ」

 ※一部のイレギュラーズが遂行者と行動を共にしている様です……!


 ※プーレルジールで奇跡の可能性を引き上げるためのクエストが発生しました!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

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