PandoraPartyProject

PandoraPartyProject

汽車の嘶き

 ぼう、ぼう、と獣は吠える。
 石炭を喰らい、身の内に炎という心臓を燃やし、蒸気の血液が駆け巡る鋼鉄の身体に、同様に鉄の骨と筋肉をきしませるその怪物が走るのは、鉄帝という国中に張り巡らされた、線路と言う名の血管。
 ZSL5600型。愛称を『ヴォウク』と呼ばれたそれは、鉄帝でもよく見かけるタイプの蒸気機関車であり――ここ、ボーデクトンの市庁舎からも良く視える。その蒸気の音は、狼の吠え声にも似ている。
「ボーデクトン周辺の町々に」
 蒸気式簡易通信機から聞こえるのは、首都に滞在するレフ・レフレギノの声だ。市長室の些か簡素なつくりのソファに腰かけたヴェルンヘル=クンツは、淹れたてのコーヒーの味を楽しみながら、それを聞いていた。
「帝政派が攻撃を仕掛けてくるなんて噂があるらしいねぇ~~。
 ボーデクトンの方はしきりに話題に乗ってるんだろう?
 間違いなく帝政派の罠だッ! でも、僕らはこれに対応しないといけないッ!」
「周辺の街をとられれば、すなわち線路の利を奪われたも同然。同時に、ボーデクトンを敵に包囲されることも同義だな?」
 ヴェルンヘルが言う通り――ボーデクトンは、鉄帝西部の線路網の一大収束地となっている。この都市から西部に属する各地の都市に物資のやり取りするわけだが、これはタコ足にも似た状態だ。つまり、今から足を切り裂いてやるぞ、と帝政派は宣言しているわけで、それを無視すれば足を失ったタコの頭だけが残る。それではボーデクトンという地を抑えている利がまったくなくなるわけだ。
 そうなれば、ボーデクトンに救う現皇帝派としては、ブラフと分かっていても足を守らざるを得ない。もちろん、バルナバスや他の狼藉者がそんな『後のこと』などを考えたりは――前者は圧倒的力と余裕故に。バルナバスは『タコの頭』だけになったとしても人類を鏖殺できるだろう。ちなみに後者は馬鹿であるが故に――しないだろうから、これはある程度『秩序だった行動を行う』現軍部のレフ・レフレギノ将軍相手だから通じる、上品なブラフともいえる。
「この策を考えた奴は意地が悪いねぇ。どうあってもボーデクトンの新皇帝派(ぼくら)は動かざるを得ないわけだ。で、その隙をついて、ボーデクトンをとるッ!」
 パンッ、と手を叩いて見せる。
「もちろん、手をこまねいて見ているつもりはないよ。増援は送るつもりだからね。それに、そんな噂を流すくらいなら……帝政派が攻撃を仕掛けてくるのも、きっと間近だ」
「おそらくは大規模な作戦を展開するだろうな。南部や、帝都も狙われるんじゃないか?」
「まぁ、そうだろうねぇ! とは言え、帝都を狙うとしたら――ラド・バウの連中がなんか動くかもね。それはきっと、『アラクラン』(きみたち)がなんかしてるんだろう?」
 ケタケタと笑うレフの声に、ヴェルンヘルは「さぁて」と軽く言い放った。
「なんにしても、戦いの時は近いさ――」
 ヴェルンヘルが、窓の外を見やる。そこからは寒々としたボーデクトンの景色が見えて、そのはるか西方には、サングロウブルクの街が存在するはずだった――。

「間もなく動くことになるじゃろう」
 バイル・バイオンがそう告げるのへ、帝政派のメンバーであるイレギュラーズ達は、静かに頷いた。
 サングロウブルク、ボーデクトン対応会議室。些か手狭なこの室内のは、多くのイレギュラーズ達がその姿を見せている。
「現地の反皇帝組織……イズルード大尉の抵抗組織じゃが、彼らとも連携がつながっている。すでに、皆の作戦通り、帝政派によるボーデクトン周辺地域への一斉攻撃の噂は流しておる」
「偵察兵の報告だと、ボーデクトンから部隊が移動しているみたい」
 スティア・エイル・ヴァークライト (p3p001034)がそういうのへ、恋屍・愛無 (p3p007296)は、
「敵からすれば、防衛に回らざるを得ないだろう。雁字搦めの策だ」
「多少は頭の回る奴が相手で助かったなァ」
 レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン (p3p000394)がわずかに笑みを浮かべる。
「そうだね。周りのことなんて知るか! なんてタイプじゃなかったのは良かったよ」
 サクラ (p3p005004)が頷く。しかし、ひとまずの行動の成果を喜ぶ一同とは違い、壁に背をもたれ、厳しい目で腕を組むコルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)が静かに言葉を紡ぐ。
「……ボーデクトンにいたのは、間違いなく魔種だった」
 その言葉に、仲間達は頷く。先のボーデクトンでの調査において、イレギュラーズ達の目の前に姿を現したのは、ヴェルンヘル=クンツを名乗る魔種であった。その魔種が、ボーデクトン奪還の最大の障害になるのは間違いあるまい……。
「うむ。その対処を、皆にお願いすることになるじゃろう。
 ボーデクトン奪還作戦は、もう間もなくと思ってくれ。速やかに、準備を頼む」
 バイルの言葉に、皆は様々な思いを胸中に浮かべながら、決戦への時を数えることとなる――。


 また別の場所では、クラースナヤ・ズヴェズダー革命派の拠点、ギアバジリカから大量の僧兵や歯車兵たちが出撃していた。
 新皇帝派に占領されている鉄道駅ルベンを奪還すべく、イレギュラーズと共に出撃しているのだ。
 現地ではグロース将軍の放った新皇帝派軍が待ち構えるだけでなく、怒りにまかせ挙兵したオースヴィーヴル領の戦士達まで乱入してくるという。しかしこれだけの戦力があれば、対抗することは可能だろう。
 出撃の様子を、高所の窓から見下ろすヴァルフォロメイ(p3n000289)
「戦闘用歯車兵の生産がなんとか間に合ったな。ったく、技術者たちには入って早々無理させちまったぜ……」
 苦笑するが、その雰囲気は明るい。
 彼の手元にある資料には、現在もちうるギアバジリカの技術力で生産できる歯車兵を、8:12:12の割合でそれぞれルベン攻略用の戦闘員、ルベン探索用の調査員、そして難民キャンプの防衛・警備員として配置する旨が記されていた。
「これだけ残していけば防御面でも安心だろう」
 実際、難民キャンプの民が歯車兵の配置される規模を見て安堵する様子が見られ、子供が外で遊んでいる風景も見える。
 更に言うなら、6割近い歯車兵をルベン攻略に投入できたおかげで、危険視されていたルベン攻略作戦にも乗り出すことが出来たのだ。
「この調子でルベンを抑えられりゃあ、ギアバジリカの設備もかなり拡張できる。冬を越えるのも難しくなくなるだろう」
 そう呟きながら、ヴァルフォロメイの表情は穏やかなものへと変わっていく。
「イレギュラーズ、彼らが加わってくれて、本当に良かったな」
 あとは頼んだぞ。ヴァルフォロメイは心の中で告げ、窓に背を向けた。


 同じ頃。南部戦線主力軍が母体となっているザーバ派が目標地点とする鉄道施設『ゲヴィド・ウェスタン』でも動きがあった――
「がっはっは! わりぃな、国境付近のゴミ共をぶちのめしてたら遅くなっちまったぜ――一応言っとくが、迷った訳じゃねぇからな? 信じろよ? 信じろって!」
「……アスィスラ殿。別に何も申していませんが」
 その地へと辿り着いたのは一人の男。
 隆々、と言っていい程に逞しき肉体を宿す男の名は、アスィスラ・アリーアル。
 新皇帝による武の暴力を歓迎する一人である――その眼前ではアラクランに属するホワイダニーという男が、アスィスラを出迎えんとしていたか。陽気にして豪快に笑うアスィスラへと吐息を一つ、零しながら。
「それよりもまずい事態です。南部のザーバ派が動かんとしています」
「だろうな。まぁ連中も馬鹿じゃなけりゃあ、国を取り戻す為に動くだろうよ。だがそれの何が問題だ? こんな辺鄙な所、くれちまったって左程の問題はあるめぇよ――帝都にだってまだ距離があるじゃねぇか」
「いえ。それが……つい近頃になって判明したのですが、この街には列車砲がありまして」
「――はぁ、列車砲だぁ? んなもんが、この街に眠ってるってのか?」
「然り。だからこそ南部戦線はこの街の奪取の為に軍勢を動かしている訳だ」
 と、その時だ。ゲヴィド・ウェスタンの価値に気付いていないアスィスラへと続けざまに声をかけたのは、軍服姿の男。シグフェズル・フロールリジである。
 アスィスラと比べれば非常に小柄な鉄騎種だが――しかし。
 その身に内包されし『圧』は人のソレではない。
 世界を喰らう因子。魔種として堕ちた男――
「ここの軍人どもは健気にも孤軍にて列車砲を死守し続けていたらしい。存在を隠し、いつか正しき鉄帝国の為に――とな。アラクラン共がもう少し気付くのに早ければ色々手は打てたのだが。軍事施設奪取の為の兵力が収束する時間がかなりギリギリだ」
「……我々も鉄帝各地に散っておりますが故、全土の街を細かくとは」
「無能の言ほど塵芥に等しいモノもないな」
「止めとけ止めとけ! 言い争ったって何にもなるめぇよ。
 つまり――ザーバ派はもう近くにまで来てんだろ?
 じゃあ連中と一戦交えて追い払えばいいだけの話じゃねぇか」
「脳筋が……お前は純粋に殴り合いたいだけだろうが」
 然らば、と。アスィスラは告げるものだ。
 ザーバ派が来る? だからどうした全て叩き潰してやればいいだけの話ではないか。
 それが今の鉄帝国の形であるはずだ。それが今のこの国の在るべき姿の筈だ。
「楽しみじゃねぇか。俺が闘士を『引退』してからどんな新世代が生まれたか――見せてもらうぜ」
 彼は笑う。この街より更に南……
 ザーバ派の拠点があるであろうバーデンドルフ・ラインを――見据えながら。

 ※帝政、ザーバ派、革命、ラド・バウ各派が、『目的』のため最終準備を開始しています。
 ※各地にて、現皇帝派が迎撃態勢を整え始めたようです……。
 ※大きな戦いが、間近に迫っています……!

鉄帝動乱編派閥ギルド

これまでの鉄帝編

トピックス

PAGETOPPAGEBOTTOM