PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<獣のしるし>紅たる世界の中で

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――鉄帝で動乱が生じている。
 その知らせを聞いたソフィーリヤ・ロウライトの歩みは自然と北に向いていた。
 紅き髪を風に靡かせる彼女は天義のシスター……として活動していた事もあるか。だが、彼女のより深い過去は鉄帝に根差している――『色々』あって彼女は鉄帝から天義に移り住み、惚れ込んだ者と子を成して、天義の者として過ごしていた時期も長かった、が。
 それでも生まれ故郷はあの北の大地。
 故国への想いを全て捨てた訳でもなければ――欠片も気にしていない筈はなく。

「さて……しかしどこに行こうかしらね」

 途上で想いを巡らせているのは、さて故国に向かうにしても何処の勢力の下へと往こうかと言う事だ。帝政派か、ザーバ派か。或いはラド・バウ独立区に赴いて帝都へと足を踏み入れてみようか。その辺りであれば昔馴染みの顔もあるかもしれないと――
 そう思っていれ、ば。
「んっ。何かしらこの気配は……?」
 彼女は感じえた。激しくぶつかり合う――闘争の気配だ。
 近い。こんな森の中で、一体誰と誰が?
 歩みを早め、様子を窺わんとソフィーリヤは駆ける――
 さすれば、そこで闘争を繰り広げていたのは一人の人間と無数の『影』だ。
 なんだアレは――? 『影』はまるで、重装甲の鎧を着込んだ騎士の様にも見える。
 だが確実なのは普通の人間ではない、と言う事である。
 魔物か。それともなんらか魔術によって作られた使い魔の様な存在か……気になる所だ。しかし、ソフィーリヤの視線はむしろ無数の影よりも――ソレに相対する者の方に注がれていた。なぜならば。
「……アスィスラ!? アスィスラ・アリーアル!?」
「ん? おぉ――お前はソフィーリヤか? はっ? ソフィーリヤ!!?
 いや待てや、わっけぇなオイ! どういう若作りしてんだお前!!?」
 それは己にとって見知った顔であったから。
 アスィスラと告げた男――彼は逞しき身体を宿しており『影』達を粉砕し続けていた。数の有利不利など凌駕する勢いで、だ。彼が拳を振るえば影の騎士達は吹き飛ばされるが如くに薙ぎ払われていく――
 強い。だが、強いこと自体はどうでもいい。それよりも。
「それよりも、貴方。『その姿』はどういう――」
「ま。テメェが来たんだったらこの場は任せようかね」
「はっ?」
「悪いが俺ぁ、本来別の用事があるんでな。こんなゴミみてぇな連中に茶々いれられたくねぇから、わざわざ国境近くなんて僻地まで来てボコボコにしてたが……ま、後はわけぇ連中の出番だ出番! 『紅桜』の実力、見せてもらうぜ――いや俺ぁ帰るけどな!」
 刹那。アスィスラは口端釣り上げ――
 影の一人を引っ掴んでソフィーリヤの下へと投げつけるものだ。
 超速の物体が飛来する――も。彼女は瞬時に跳躍し躱すものだ。天義のシスターとは言ったが、彼女は夫が亡くなってから出奔し各地を巡る旅を続け、戦いの勘を取り戻さんとしていた。そんな彼女にとってみればこの程度の撃、躱すのは訳ない。
 ……が。投げ飛ばされた影の方へと視線を向けた『影』達がソフィーリヤの姿を目に捉えれば、彼女へと殺意を向けてきて……
「アスィスラ! 待ちなさ……えぇいもう! 邪魔よッ!」
 その直後にはもう、アスィスラの姿はなかった。
 代わりに至るは無数の影たち。ソフィーリヤへと刃を向け、矢を向け彼女を討たんとする。
 ――まるでその身を喰らわんとするかのように。


 同時刻。イレギュラーズ達は国境付近の『殉教者の森』に向かっていた。
 依頼だ。なんでも『影の軍勢』がこの辺りを騒がしているが故に、偵察を行ってほしいと――国境付近に領土を持つ者達もいれば決して他人事ではないのだから。何が起こっているのかを把握したい意図を持つ者がいるのは当然であった。
 そして目的地へと辿り着いてみれば……感じ得るは戦闘の気配。
 もう誰かが戦っている――? そう思っていれば。
「あぁもう! なんてしつこい連中なの……キリがないわね!
 んっ? ちょっとそこの貴方達! もしかしてイレギュラーズかしら――
 なら味方と見ていいわよね! 手伝ってくれる!?」
 現れたのはソフィーリヤだ。
 『影』の者らに撃を振るわれ、跳躍しながらいなす彼女の身は地を滑る様に。同時。視線をイレギュラーズ達へと向けて、とりあえずこの魔物――? を共に倒さんと意志を伝えるものだ。
『■■――■■■――』
「さっきからこの調子で言葉が通じる様な連中じゃないのよね。
 ま、通じたとしても……きっと結果に変わりはないんでしょうけれど!」
 そして『影の兵』達はイレギュラーズをも標的とする様に闘志を向けようか。
 剣を、矢を向け。生者であれば見境なく襲い掛かる者達――
 更に敵の中枢にはなにやら『汚泥』の様な姿を持った魔物の姿もあった。穢れた汚泥は生者を逃がさぬ様に視線をイレギュラーズ達に向けてくる……
 えぇいなんだこいつらは。
 何故このような連中が天義の――そして鉄帝側に向かって動かんとするのか。
 特に『影の兵』達は、かつての強欲冠位における戦いの折を、なんとなし思い起こさせもしようか。
 或いは魔物の方は――ROOで戦った『ワールドイーター』達の事も――
 ……なんにせよ問答無用であれば迎撃するより他はない。
 幸いと言うべきか時刻は夜に関わらず周囲は月明かりに照らされ戦うに問題もない。あぁ――

 空に浮かぶ赤い月が、全てを嗤っている気がした。

GMコメント

 画像右の人は出てきません! ご縁があればよろしくお願いします!

●依頼達成条件
 全ての敵勢力の殲滅。

●フィールド
 『殉教者の森』と呼ばれる、鉄帝と天義の国境付近です。
 周囲は木々が広がっているのですが……非常に密集しており傍目にはこの地は黒く、陰鬱とした様子が広がっています。今回はその中でも若干鉄帝よりの側での戦闘となります。
 時刻は夜ですが、赤い月が周辺を照らしているので、暗闇の対策は必ずしも必要ではありません。

●敵戦力
『影の兵/汚泥の兵』×20
 まるで鎧を着込んだ騎士――の様な雰囲気を想わせる、影状の兵達です。ベアトリーチェ・ラ・レーテ(冠位強欲)の使用していた存在に似ていますが――はたして?
 正体はともかくとして重装甲な性質を宿しているようです。同時にそれなりに強力な『再生』能力もあり、両方が合わさると非常に頑強な事でしょう。しかし冠位強欲の様に不滅性はない為、再生・防御能力を押し切る攻撃を続けて行けば消滅する事でしょう。
 武器は主に剣を携えており、一部に弓を所持している者達がいます。
 弓側は数多の弓を放ってくるようで範囲攻撃が可能な様です。

 そして理由は不明ですが動く者――というよりも生きている者を見ると取り込もうとしてきます。まるで喰らうように。影が伸びて付着し、情報を自らの内に取り込まんとするかのように。

 ……が。全てではありませんが大半の兵は『誰か』と既に戦闘していた様で、かなり疲弊しています。

『ワールドイーター』グレーフ×1
 影の兵達の中枢に存在する一匹の怪物です。
 穢れた『汚泥の塊』の様な存在で無数の目も存在しています。周辺の『影の兵』を強化する力を持っている様で、奴のR2内に存在する『影の兵』は再生能力が強化されます。
 グレーフ自体は泥を触手の様に変じさせ攻撃してきます。
 これ自体にダメージはないのですが、どうも『最大HPと最大AP』自体が減っていく力を宿している様です。この力によって減った最大HP/APは、グレーフを倒すと即座に元に戻ります。
 奴の攻撃は、まるでその場にある情報を喰らう――そう。ワールドイーターであるかのようです。

●味方戦力
『ソフィーリヤ・ロウライト』
 サクラ(p3p005004)さんの母です。
 かつてはラド・バウ闘士としても名を馳せていたようです――『色々』あって天義に身を落ち着かせていましたが、夫が亡くなってからは出奔。戦いの勘を取り戻すべく、世界各地を旅していた様です……が。今回の鉄帝動乱を聞いて祖国へと歩みを進めていました。

 超接近戦型のパワーファイターです。
 戦闘の際は最前線にてその卓越した力を繰り広げる事でしょう――

●???
『アスィスラ・アリーアル』
 謎の人物です。既に戦線には存在しません。
 どうも彼は鉄帝側へと駆け戻って行った様です。ソフィーリヤは彼の事を知っている様子ですが……?

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <獣のしるし>紅たる世界の中で完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年11月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
浮舟 帳(p3p010344)
今を写す撮影者
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと

リプレイ


 謎の影の兵に怪物が蔓延り、天には赤い月、か。

「いい心地はしないね。特に、今の鉄帝は新しい問題を呑み込む余裕なんてないんだ。
 ――此処で止めさせてもらうとしよう」
「……ただでさえ鉄帝で色々あるというのに、天義では世界を蝕む獣ですか。何が起こっているかはわかりませんが……とにかくここで倒さなければいけない相手なのは確かですね。鉄帝側へと向かわせる訳にもいきません。撃滅しましょう」

 ほんの微かにだけ天を眺めた『桜舞の暉剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は、刹那の後には眼前を見据える。影の兵……どこか騎士らしき様相がある気もする、が。魔に属する者に在るは間違いない。故に打ち倒そうか――『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)も同様に、歪なりし敵共を見据えるものだ。
 動く。二人が狙うは中枢にありしグレーフ。
 泥の塊の意識を此方に誘導せんと一手を紡ぎ、シフォリィもまた極小の炎乱を此処に。
 奴めに投ずる様に放て――ば。
「えとえと。殉教者の森に偵察に向かうのが今回のお仕事と聞いていたですが、もう誰かが戦ってる……ですね。よくわかんないけど、あの影の兵さん達と戦ってるなら、助けた方がいいとメイは思うのです! 加勢するです!」
「そこの人! 大丈夫ですか……って」
 同時に戦線へと到達するは『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)に『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)だ――メイは、ヴェルグリーズが引き付けんとしているグレーフに万が一にも狙われぬ様に立ち位置に注意しながら、己が内より全霊を解放せしめ視線を巡らす。
 誰ぞが傷つけばすぐ様に治癒できる様に――必要なくば敵の兵を土葬の術に包む為に。
 そしてサクラは影の兵が一人を切り伏せる斬撃を伴いながら、間に割り込むものだ。
 先んじて彼らと戦っていた者との間に。
 ……が。目と目が合った瞬間に気付いた。その紅の髪と風貌――えっ!?
「お……お母様!?」
「ん……えっ、まさか……サクラ!?」
 母と娘の再会。例え幾年過ぎようとも――血は結び合う。
 胸がざわつく。時が過ぎ去り成長を得ようとも見間違うものか。そう。サクラは随分と成長たとしても! ソフィーリヤも変わ――あれ? あ、あれ? お母様、何も変わって無くない!?
「――はっ! いや分かった……さてはお母様のニセモノだね!! ふふん、精巧に作り上げたみたいだけど私の眼は誤魔化せないよ! ていうか10何年前に家出した時の姿のままだし! 本物のお母様ならね、今はえーとたしか……ひぃ!!? こ、この圧力は……本物ッ!!?」
 今何を口走ろうとしたのか――後でじっくりと話し合いましょうかね?
 笑みと共に、しかし内に秘められし『圧』はかつてない程の強敵に出会ったが如しだ――! わー! ごめんなさい、本物です――!! お母様、許して――!!
「へぇ、サクラさんにはお兄さんだけじゃなくてお姉さんも……?
 え、お母さん……お母さん!?」
「えぇ……!? サクラのお母さんって、とってもわかいんだね……!」
 ホントに? と驚愕の表情を見せるのは『浮遊島の大使』マルク・シリング(p3p001309)に『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)である。いや確かに髪の色や雰囲気に、なんとなく親子らしき気配があるが……若すぎないか? 一体お幾つで?
(たしかに似てる! 女の子はママ似で男の子はパパ似のおうちなのかな……?)
 じっー、とリュコスが改めて眺めるもの。似てるなぁ……
 ま、なにはともあれ感動の再会……などと洒落こんでいる場合ではない。
 敵は多い。『何故か』疲弊している敵も多い様だ、が。
 それでもこの数は決して手を抜く事は出来ぬとマルクは思考するもの。
 何より――あのワールドイーターという個体――
「ワールドイーターが現実に……? 一体何が起こっているというんだ。
 あれは仮想空間だけの存在じゃなかった、と言う事か?
 R.O.Oは……この事態を観測していた、とでも」
「――過去に相対したオリジナル。『喰う』事以外は本来僕が知る個体とは随分と異なる物も多いようだが。さっさと殲滅しよう」
 マルクにしろ『獏馬の夜妖憑き』恋屍・愛無(p3p007296)にしろ、R.O.Oでの出来事を忘れてはいない。
「なにより――微妙に見た目が被ってて気に入らん」
 が、どんな事情があるにせよ愛無には関係ない。
 滅びるがいい。世界喰らいなどと、大層な名を持ちしモノよ。
 マルクの紡ぐ神秘の泥が影の兵ごと押し流さんとする――直後にはリュコスが跳躍し、名乗り上げる様に影の兵共の注意を自らに向けんともしようか。グレーフへの道を通じさせる為に――そして愛無はイレギュラーズの介入により混迷とする状況を、空から俯瞰する視点と共に把握しながら往くものだ。
 己の一撃を、最も通しやすい所へと。
 まずは世界喰らいへの撃を邪魔せんとする者共を排除せしめん。
 愛無の咆哮が彼らへと降り注ぐ――苛烈なる音色が連中の身と魂を揺らして。

『■、■■■、■■■――!!』

 さすれば『今を写す撮影者』浮舟 帳(p3p010344)は聞いた。
 グレーフが――世界を喰らう獣が挙げた、雄たけびを。
 それは煩わしい人間共がまた現れたと憤怒するかの様に。

 紅い月に、吠え叫ぶ様に。


「さて――そんな騎士みたいな恰好してるからには遊びじゃない、って見せてもらいましょうか」
「お、お母様に見られてるなんて、戦いとはなんだか別の緊張が……
 ううん、とにかく! この魔物達を片付けないとね!」
 そしてイレギュラーズ達と影の兵の衝突は瞬く間に激化する――
 だからこそ些か体力の鈍っている個体を中心にサクラやソフィーリヤは狙うものだ。
 敵の数は多い。ならばその態勢が整えられる前に突き崩すのだ、と。
 サクラは剣撃一閃。薙ぎ払うが如く前線にて立ち振る舞えば――母の拳も振るわれようか。
「――ふッ!」
 短い呼吸。直後に紡がれし拳は――影の兵共を穿とうか。
 高速にして連撃。重く、鋭く、鎧すら貫かんばかりのソレはまるで剣にも見紛う。
 ……幼い頃。あれで拳骨なんぞされようものなら、と幾度思ったものか。
「でもでも、あの敵さん達どんどん回復して行ってるのです……
 時間がかかるとこっちが不利。一気に攻めなきゃ、ですね。
 メイ、しっかり回復するですから攻撃はおまかせするですよ!」
「ああ――速攻を仕掛けて行くとしよう。メイさん治癒に関しては頼んだよ」
 ともあれソフィーリヤは実に頼もしい限りで何よりだ――故にメイは自らも負けじと治癒の力を紡ぎあげるもの。勿論お母様も時に対象にして、だ。えいえいっ! と、腕を振って自らの魔力を皆に行き渡らせる。
 そして攻勢を行い続けるマルクであるが、彼はメイの様子にも気を配ろうか。
 彼女の治癒が皆に満ちているか否か。もしも彼女一人で治癒が追いつかぬ場合は、己もそちらの役目に入らんと注意を巡らせているのだ――ひとまず今は、向かってくる影の兵があらば魔力を剣に束ね、迎撃の一閃。誰ぞを近付かせもせぬ様に、と。
「メインデッシュはあちらの方なのでな。前菜は早々に片してしまわねば」
「ホントに、どこから来たんだろうねこの影みたいなのって……
 まだじょうきょうは、よくわからないけど……力をあわせてのりこえよう!」
 更に影兵達へと畳みかけたのが愛無とリュコスである。
 優れた三感をもってして狙いを引き付けんとしているリュコスは機を見計らって反転攻勢。空間ごと対象を斬砕せんとする一撃と共に影兵らを呑み込もうとしようか――そして愛無の方は、サクラ達と同様に疲弊している個体に狙い定める。
 再度の咆哮。地を薙ぐ様に貫いていく圧の旋律は肉体も精神をも破壊せしめん。
「……さて。影の兵達はともかく、やはりコレは厄介と言うかなんというか」
 直後。ヴェルグリーズは跳躍しながら躱すものだ。何を? 勿論グレーフの攻撃を、である。
 あの攻撃からは『厭な気配』が満ちている。
 何かを喰われてしまいそうな感覚――だが放っておけば周囲の影の兵を強化しうるのであるから溜まったものではない。苦笑しながらも、なんとか凌がんと彼は動き続ける。奴の攻勢に振り向きざまに剣の一閃を叩き返してやりながら。
「サクラさんの母君もいる事です、全力を以って対処いたしましょう。
 ここでこの者達を見逃してしまえば……次は誰が一体犠牲になってしまう事か」
 同時。シフォリィもグレーフの一撃を自らの剣にて捌こうか。
 漆黒の片刃剣が、黒き泥を想わせるグレーフの一撃と衝突す。グレーフはどこまでもどこまでも執拗に両名を狙い続けるものであれ、ば……シフォリィは超速の動きを連続させ、にグレーフへと負の一撃を叩き込んでやろう。
 奴の動きを鈍らせ、動きそのものを封ぜんとする様に。
『■ッ、■ッ、■ッ――!!』
 だが。グレースも只人に非ず。怪物の中の怪物である――
 グレーフの伸ばす泥の腕がヴェルグリーズやシフォリィを遂に捉え始める。やはり、それ自体にダメージは無い……しかし感じ得るものだ。体から『何か』が削り取られている様な感覚が――
「ッ……! 成程、ワールドイーターの名に恥じない、と言う訳ですか……!」
 刹那。素早く反応しえたシフォリィがグレーフの泥を斬り落とす。
 自らの一部分が欠けたかの様な感覚――勿論それは永久に、ではないだろう。
 しかしワールドイーターに『喰われる』と言うのはこういう事なのだろうか。
 奴に喰われた情報は、命は、世界は……
「ワールドイーター……やはり、その力は現実でも『在る』というのか?」
 その様子に反応を見せたのはマルクだ。
 ワールドイーターは世界を食らう獣だった。文字通りにR.O.Oの全てを喰らう。
 もしR.O.O.での『それ』が再現されると言うなら、絶対に止めないといけない。
「命を、世界を決して食わせる訳にはいかない……!」
「あぁ。こんな存在、鉄帝側に行くにせよ天義側に戻って来るにせよ放置できない……一体裏で誰が糸を引いているのか知らないが、征させてもらおうか」
 故に。グレーフより撃を受けつつもヴェルグリーズは健在。
 いやむしろその剣撃の鋭さは増していく程だろうか――終焉と虚脱を冠する斬撃の渦はグレーフの意識を常に此方へと向けさせる。
 だが些かに手が足りぬ。
 それはグレーフというよりも影の兵士達側に、だ。影兵達へと紡いだ攻勢により数は減っているが、殲滅しきれるにはあと一歩足りぬ。奴らの剣がイレギュラーズへと向けば――後方からは矢も放たれようか。此方も怪物の類であるからか……その膂力は脅威。
 技の冴えはイレギュラーズに軍配が挙がれども、これは。
「面倒だな。疲弊していた連中は押し切れつつある、が」
「ふぅ! ちょーきせんになったらまずそうだよね……行ける、かな!?」
 そんな敵勢からの撃を愛無にリュコスは凌ぎつつ、反撃の一手を紡ぐものだ。
 愛無はその最中にも周囲の観察を忘れない――敵布陣に薄き点が無いか、突破し敵陣を乱す箇所がないか。数の不利を補うための思案を常に忘れぬのだ。見つければ他の者にも警告の声を張り上げよう。然らばリュコスは、自らに集まっている敵の注意を引き続き寄せつつ……跳躍し、敵の斬撃を潜り抜けながら赤き闘気をその鎧へと叩きつけん。
 それでも、やはり攻め手を覆せる程ではなかった。
 影の兵達の弓がイレギュラーズ達を襲い来る――
 直後に至る数多の剣撃もまた降り注げば、イレギュラーズ達の傷は増えるもの。
「むむ、むむむ! あとちょっとだと、メイは思うのですが……!」
「しかしまずいね――これは、やむを得ないだろうか」
 それはメイの治癒力を徐々に上回りつつあった。メイは力の限り魔術を紡ぎあげるものだが――それでも、だ。マルクもまた治癒の方へと加わらんとするが、聡明たる彼は気付き得る……この状況ではやがて押され果てるのではないだろうか、と。
 故に。
「なら――せめて、お母様! アイツだけでも倒します! 力を貸して!」
「いいわよ! こういう状況の時は、少しでも最善を掴むもの……悪くない判断、ね!」
 サクラはグレーフへと狙いを定めるものだ。
 グレーフ自体には再生能力はなく、そしてヴェルグリーズやシフォリィからの撃により疲弊の跡が見える。ならば影の兵全てを押し切る事叶わなかったとしても、あの怪物だけは落とす事が出来ると踏んだのだ。
 だからこそ往く。影の兵が邪魔であれば、ソフィーリヤの掌底が敵を吹き飛ばし。愛無の咆哮が敵を無数に捉えれば――空いた穴へとサクラ達が突き進み、グレーフへ狙いを定めようか。
『■■――!!』
「煩い金切り声だね……! 一気に決める!」
「このワールドイーターだけは見逃せません――此処で仕留めましょう!」
 然らばシフォリィの動きもまた続くものだ。
 グレーフの動きは、鈍い。それは傷によるダメージもさることながら――マルクやシフォリィが奴の一撃を封じる事が出来ないかと試みた結果でもあろうか。あれも技ならば封じようもある筈だと――そしてその狙い通り、絶え間ない努力が実を結んだのだ。
 グレーフが苦し紛れの抵抗を見せんとするも、歴戦の彼女達はそんなモノでは止められぬ。
 超速の居合。サクラの至高が空を切り裂き神技に達し。
 その傷口へとシフォリィが無数の炎片を舞わす一撃を穿ち込めば――
『――■、■■■――!!』
「世界を蝕む獣が炎に蝕まれる気持ちでいかがですか? ああもう――応えられませんか?」
 グレーフは、絶叫を天に吼え挙げるものだ。
 泥が潰える。悪意の泥が。
 ……それでも、やはりと言うべきか影の兵達の動きは止まらぬ。
 イレギュラーズを、いや生きている人間を滅さんと刃を向けてくるものであり……
「限界ね。後は天義の騎士団にでも任せましょ! ――国境付近だから無理かしら?」
「死体の一つでも残れば回収したい所だったが……余裕はないか。
 やむを得ん。このまま撤退に移るとしようか――後日、また来てもいいだろう」
「……少しでも次につながる情報を手に入れたかったけれど仕方ないか」
 ならば、とソフィーリヤはイレギュラーズへと言を紡ぎ、撤退に移るものだ。ここは命を賭してでも、という場面ではないと……然らば愛無やヴェルグリーズは溶けつつあるグレーフの死骸を見据えながら残念そうに言の葉を零し、て。
「お母様! やっと話せるぐらいの時間が作れたね……今までどこいたの?
 でも、流石お母様だね。一人であれだけの数の兵を弱らせるなんて」
 同時。影の兵達の追撃を振り切りながら、サクラは母へと視線を向けるものだ。
 十何年ぶりの再会。暇があればもっとゆっくり話したい事もある、が。
「どこでどんな事をしてたの? 山にでも籠ってた?」
「あながち間違ってないわね……あちこち渡り歩いていたし。
 でも私だけでなんとかしてた訳じゃないわよ――
 やったのはアスィスラ。鉄帝のS級闘士がいたのよ……ま、元だけどね」
「――アスィスラ?」
「……だけどおかしいのよね。アスィスラは病に犯されて、とてもリングに立てる様な状況じゃなかった……弟子を育てたりするために引退した男なのよ。でもそれも随分前の筈なのに、あの肉体は……」
 とても病に犯された様な男の身体ではなかった――と、ソフィーリヤは言う。
 一体何が起こっているのか。天義にも、そして鉄帝にも。
「別の人……? 先に来て何かしようとしてた感じ?」
「うーん。どうかしらね、アスィスラも連中を薙ぎ払ってた訳だし、いらないちょっかいを出されるのが気に入らなくて潰しに来た……って所なのかも」
「ううん。色々調べてみたかったなぁ」
「はっ! ソフィーリヤさん? でした、よね。
 お体、どこも痛くないですか? 怪我があればメイが治すのです!」
「あら、ありがとう――可愛らしい子ね。でも大丈夫よ。腕っぷしにはね、自信があるから」
 と。更にソフィーリヤへと尋ねたはリュコスにメイだ。メイはサクラのお母様の事を気遣いつつ……今戦った泥――ワールドイーターの事についても何か知らないか、尋ねてみようか。
「いや、私も知らないわ――ここ最近は天義にもいなかったし、ね。
 聖都の連中とかに聞いた方が、まだ情報があるんじゃないかしらね」
「あ、そういえばお母様……たしか、鉄帝の方が故郷なんだよね? 心配なんでしょ。
 アリーアルさんって女性がザーバさんのとこにもいるって聞いたし、行ってみたら?」
「――へぇ? そうなの? それならちょっと顔を出してみようかしら。
 ふふ。久しぶりの鉄帝は、どうなっているかしらね……」
 されど、ソフィーリヤは世界各地を旅していた様で、此度の事件で出没している者達の事は知らぬ様だ。まぁ、天義中央も最近確認した事件……まだ仔細は分からないかと思えば。
「ですが……なんでしょうね。
 少なくとも普通の魔物でないのは確かです。
 向こうの世界から何かが来ている……?」
 或いは、元々この世界のどこかに――潜んでいた?
 ……何かが蠢いている。少なくともシフォリィは直感していた。

 天に浮かぶ紅い月は――この予兆であったのだろう、と。

成否

失敗

MVP

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女

状態異常

浮舟 帳(p3p010344)[重傷]
今を写す撮影者

あとがき

 依頼お疲れさまでしたイレギュラーズ。
 鉄帝と天義の国境に現れた謎の軍勢の正体は……またいずれ。
 ありがとうございました。

PAGETOPPAGEBOTTOM