PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<総軍鏖殺>紅き血涙

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――鉄帝にて政変起こる。
 それは正に青天の霹靂。今まで最強として君臨してきたヴェルス帝が敗北したのだ。
 新たに鉄帝国新皇帝として玉座に君臨したのは、冠位七罪。
 バルナバス・スティージレッドなる男。

「……やれやれ。あぁ本当にやれやれ、だ。」

 そしてその男が出した『勅令』に対し。南部戦線の拠点、城塞バーデンドルフ・ラインの執務室にて深い、深い吐息を零したのはザーバ・ザンザ(p3n000073)だ――南部戦線の総司令。鉄帝軍の英雄とも謳われる彼は今回の政変を歓迎していない。
 彼は何が何でもヴェルスが皇帝でなければならない、とまでは思っていない。皇帝が誰ぞに代わったとしても『相応しい者』であるならばそれでも良い――己がこの国を託すに足る相手であれば自らは支えるだけなのだ。
 しかしバルナバスは駄目だ。
 バルナバスが繰り出した勅令は『弱肉強食』とも言うべきモノであり、武以外の全てをかなぐり捨てた代物。統治の為の政策などとは到底言えない――

 ――新皇帝のバルナバス・スティージレッドだ。
   諸々はこれからやっていくとして、俺の治世(ルール)は簡単だ。
   この国の警察機構を全て解体する。奪おうと、殺そうと、これからはてめぇ等の自由だぜ。
   強ぇ奴は勝手に生きろ。弱い奴は勝手に死ね。
   だが、忘れるなよ。誰かより弱けりゃ常に死ぬのはお前の番だ。
   どうした? 『元々そういう国だろう?』

「それで監獄に囚われていた犯罪者まで解放するとはな……
 あぁ無茶苦茶がすぎるってものだ。
 その所為で俺に皇帝位に就け、などという連中まで出る始末――笑うしかない」
「閣下。残念ながら、今の所この国にとっては全く笑い事ではありません」
「分かってはいる。だから『とりあえず』は了承しただろう?」
 ザーバが語るのはゲルツ・ゲブラー(p3n000131)だ。
 とかく、この事態に対して鉄帝各地では反発する勢力や、混乱の最中に一旗挙げんと行動を開始する者達までいる――ザーバも、いや正確にはザーバが率いている南部戦線方面軍も、新皇帝に対して反発する者達であった。
 このような新皇帝を容認するぐらいなら英雄たるザーバこそが相応しい、と。
 あくまで一軍人としての領域と責務を今まで護り続けたザーバにすれば、新皇帝などという地位に興味はない。が、かといって何もせず静観というのも鉄帝国を想う彼の道理には沿わず、結局周囲の大きな期待に乗る形でやむなくザーバ派の長として活動を始めたのである。
 無論。ゲルツに語ったように彼にとってはあくまで『とりあえず』の話。
 行方不明のヴェルスが無事ならば彼にもう一度帝位に付いてもらうつもりだし、彼でなくとも相応しい者がいれば――己は再び一軍人としての地位に戻る。その前提の上で、ザーバ派は新皇帝に対する動きを見せ始めていた。
「とにかく。全軍を率いて帝都に進軍……などという訳にはいかん。
 帝都がどうであろうが、幻想軍への備えは崩せんからな」
「はい。まずは勅令により混乱している場を安定させるのが肝要かと」
「こちらに迎合する軍がいれば受け入れろ。それから民もな」
「承知しています……が。国境への備えを残しながらでは些か動き辛いのが難点でしょうか」
 そしてザーバ派としての目下の優先事項は勢力の拡大だ。
 南部戦線は常に国境に睨みを効かせておかなければならない――
 どうにも幻想は最近ゴタ付いているようではある、のだが。
 しかし油断ならない敵国である事に間違いはないのだ。
 故に今後どう動くにせよ己らを支持する基盤や戦力が必要。
 幸いと言うべきか……新皇帝の無茶苦茶な勅令を厭う者は少なくなく、その者達を取り込める余地は十分以上にあった。ザーバ派は、政変のあった帝都からかなり離れた位置に拠点があり、政変による混乱被害が比較的他よりもマシと言えるのも幸いだったろうか。
 しかしそれでもやる事は山積みだ。

 各地で湧く暴徒の鎮圧。
 伴って被害を受けている民の救出。
 浮足立っている他方面軍の掌握――などなど。

「あぁ。だからこそ此処は『連中』に頼らせてもらうとしようじゃないか」
「……まさか」
「もう呼んである――と、噂をすればグッドタイミングだ、イレギュラーズ」
 故にこそザーバは既に手を回していた。何でも屋たるローレットへと、だ。
 ザーバの執務室に案内されたのは幾人かのイレギュラーズ……そう貴方達である。
「我が国の事態はもう把握できているか? まだの者は後で此処のゲルツに聞いてくれ。
 とにかくお前達にもやってもらいたい事は山ほどあるが……
 まずは西のサンドラ地方に出向いてもらおうか」
「――たしかそこは、こちらへの恭順を示している民が」
「あぁ。だが、先程偵察からの挙がって来た報告によるとどうにもきな臭い。
 妙な魔物が湧いているようでな。早急な保護が必要だ」
 ザーバ曰く、バルナバスが帝位に就いてから魔物の類も増えているのだという。
 それはまるで自ら以外全てに怒り狂っているかの様な……感情を内包しているのだと。
 誰が名付けたか天衝種(アンチ・ヘイヴン)。
 ――彼らがサンドラ地方に湧いている報告があるのだという。
 被害が齎される前に、民の下へと赴き救助を行ってほしい、との事だ。
「ま。帝都の事を含めてなんとも厄介な状況だが……
 力のある者程、こういう事態に駆り出されるものだしな――頼んだぞ」
 そうしてザーバはイレギュラーズの肩を叩きながら言を紡ぐものである。
 数多の戦いを勝ち抜いてきた英雄と言えるイレギュラーズ達に。
 『期待している』と――言わんばかりに。


 ――憎い。憎い。憎い。
 その生物たちは怒り狂っていた。何に? 分からない。
 強いて言うなら『全て』にだ。
 憤怒の感情をもってして生まれた異物共。数多を憎む怪物共。
 其の名は天衝種(アンチ・ヘイヴン)。

「グ、ガ、ガッ……!!」

 彼らは目についたモノ全てに怒りと共に襲い掛かる。
 牙を突き立てるだろう。爪を振るいて命を奪わんとするだろう。
 滅びよ弱者。消え失せろ塵屑共――
 紅き血涙を流しながら。
 彼らはただ往く。怒りと共に。新皇帝の、弱者を鑑みぬ意思を――示す様に。

GMコメント

 鉄帝編ですね。よろしくお願いします!

●依頼達成条件
 天衝種(アンチ・ヘイヴン)の撃破。
 民の救出・保護。

●フィールド
 鉄帝南部に存在するサンドラ地方なる場所です。
 元々此処には小規模な村が幾つか点在しているのですが、その内の一つがザーバ派への恭順を示してきました。(村には女子供や老人などしかおらず、このままでは新皇帝の勅令の食い物にされるだけです……)

 ――が。どうにもこの地方に妙な魔物が湧いているとの報告が挙がってきました。
 その為、ザーバは村民を一端拠点の中で保護しようと考えている様です。
 皆さんはゲルツと共に村民の保護に向かってください。

 時刻は夕方~夜に差し掛かろうとしています。
 灯りの類は最初必要ありませんが、長期戦になると薄暗くなってくるかもしれません。
 村に辿り着いてから暫くすると後述する天衝種が襲い掛かってきます。
 彼らは退こうとせず、村民を皆殺しにしようとするでしょう――撃破してください!

●敵戦力
・天衝種(アンチ・ヘイヴン)グルゥイグダロス×10体
 巨大な狼の様な姿を持つ怪物です。激しい怒りの感情を身に宿しています。
 基本的には近接型で、俊敏な動作から鋭い爪や牙を用いて攻撃してきます。これらの攻撃を受けると【出血】系列、【毒】系列のBSが付与される事がありますのでお気を付けください。

・『幽寂たる』ホワイダニー
 天衝種の少し後方に位置しながら様子を窺っている人物です。
 何者なのかは不明ですが、天衝種に攻撃されない辺り味方ではありません。
 魔術師型の人物の様で、後方より雷撃の術を放ってくる事があります。

●サンドラ地方の民×複数
 女子供、老人だけで構成された小さな村の住民達です。
 鉄帝国の民とはいえ戦い慣れておらずザーバ派に救いを求めてきました。
 住民達を救出してあげてください――!

●ゲルツ・ゲブラー(p3n000131)
 鉄帝国軍人にしてラド・バウ闘士でもある男です。
 遠距離射撃を得意とする飛行種であり結構強いです。
 また、射撃程ではありませんが接近戦も出来、皆さんと共に戦います。

●ザーバ・ザンザ(p3n000073)
 ザーバ派の頭目です。
 本人的には乗り気ではないのですが、新皇帝候補の一人として担ぎ出されています。
 今回は依頼人であり、同行はしません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <総軍鏖殺>紅き血涙完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年09月30日 22時16分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
八田 悠(p3p000687)
あなたの世界
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
想光を紡ぐ

サポートNPC一覧(1人)

ゲルツ・ゲブラー(p3n000131)
鉄帝国保安部員

リプレイ


 ――鉄帝の動乱。政変に伴う余波を真っ先に受けるのはいつだって民衆だと『あなたの世界』八田 悠(p3p000687)は思考を巡らせるものだ。あぁ全く、そう言った事はどこも変わらないものだね……
「理解できないなぁ、なんでその地に住む人々を蔑ろにできるのか。
 感情の面だけじゃあない。損得の面ですらどう考えても全く利益がないんだよ」
「新皇帝だかなんだかわかんないけど無茶苦茶な事よね!! 全く、親の顔が見てみたいものよ!! 一体どういう育ちをすればそういう事が出来……え? 魔種? 冠位??? えっ???」
 過去と、そして今を見据えながら呟く悠の言に次いで『揺れずの聖域』タイム(p3p007854)も、斯様な無法を敷く新皇帝のツラは如何なものかと――思えば、冠位とかいう情報単語が聞こえてきた。なんでそんなのが堂々と皇帝なんて地位に就くのよ――!
「まぁいいわ――ともかく難しい事は上に任せてわたし達は今やれることをやるしかないのよ! 行きましょ! 村の人達はまだあちこちに散ってるみたい……お年寄りの方々や怪我人がいれば、すぐ誘導しないと!」
「うん! さぁ、村の皆! 集まって!
 魔物が来そうなんだ……今の内に立て籠もりの準備を!」
 ともあれ、と。タイムらと共に村へと辿り着いた『魔法騎士』セララ(p3p000273)は声を上げて村人達と意志を交わせていく――村人は気付いていないかもしれないが、セララは既に近付きつつある殺気を察知していた。
 が、まだ距離は在りそうだと出来る手を紡ぐものだ。
 可能な限り大きな家に集まってもらい、後はバリケードを中から築いてもらおう。
 そうすれば時間稼ぎは出来る筈だ……悠はいつ魔物が来ても良い様に陣取る位置を見つけ、タイムは自ら達がイレギュラーズである事とザーバ派から訪れたという身分を明かし――
「落ち着いて! まだ時間はある筈だから……!
 ゲルツさんも村人の誘導をお願いします! 私はこっちを見ますから!」
「あぁ分かった。後でまた合流しよう!」
「頼んだよゲルツ君――! さぁ皆! 私はローレットのマリア・レイシスだ!
 必ず君達は守りきってみせる――だから今は私達の指示に従っておくれ!」
 同時にゲルツにも村民らへの呼びかけを行ってもらおうと声を飛ばすものである。更に『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)も迅速に加われば、彼女の気高き名声も相まって村民らはイレギュラーズを信じて行動するもの。
「お年寄りと子供達を優先に落ち着いて避難しておくれ! そう、こっちの家だよ!  大丈夫! 私達は強い! 必ず守る! だから、ね? 深呼吸して慌てず避難するんだ!」
 マリアの声は彼らを統率し、その声色は彼らの心を落ち着かせようか。
 ……パニックになるのが一番危険だと彼女は知っている。注意散漫となり周囲に気遣う余裕もなくなった時に――新たなる災害がやってくるのだ。故にこそ彼女は常に民達と視線を交わせ、語り続ける。
「さぁ、お婆さん大丈夫かい? 私の手を取って! 一緒に避難所へ行こうね!」
「あぁ……ありがとうねぇ、お嬢さん」
「ふふ、礼には及ばないよ! ――君達を護る事こそ、私の使命だからね!」
 それは一人たりとも犠牲には出来ぬという堅き意志の表れ。
 彼女がかつての世界において属していた――ガイアズユニオンの矜持。
 手分けしてでも村民らを一人残らず救うのだ。必ず!
「大丈夫。フリック達 イル。イレギュラーズ ツイテル。
 ズット イル。ダカラ 皆 キット大丈夫」
「ええ――我々もバリケード作成をお手伝いします。さぁ、そこの本棚を此方へ」
「あ、あぁ分かった!」
 そして立て籠もる民家を定めれば『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)と『想光を紡ぐ』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)がその防備を固めんと動き出すものである。
 両者は敵の動きを阻めそうな代物をなんとか集め、陣地を構築せんとする。守りを固め、魔物が中に入ってこれない様にとするのだ……バリケードや柵をなるべく多く。そして厚く。
「……このような村で在れば、狩猟の文化はあるもの。
 ならばトラバサミの様な罠を用意できるでしょうか――探してきます」
「ン。フリック 此処デ ミンナ 護ル。サァ モウ少シ ファイト」
 同時にマグタレーナはフリックに声をかけてから村にもっと防備に優れたものがないかと探しに往くものだ。鉄条網や、そうでなくともロープがあれば上々と……そしてフリークライもまた、この地を護る罠を仕掛け、より強固に場を整えんとする――
 と。その時。
「来たよ美咲さん――連中だ!」
「もうですか。あと少しばかり準備したかったですが……やむを得ませんね」
 『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)は優れた耳で感じえた――敵が、もうすぐそこにまで迫ってきている事を。さすればフリークライ達と同様に陣地を構築せんと手伝っていた『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)は吐息を零すものだ。
 ……鉄帝は今、混沌としている。新皇帝の勅令により『何をしてもいい』のだ。
 ならば、と。ヒィロは是非とも一度やってみた事があるのだ――
「……自分はとってもつよいんだー、なんて思ってる強者ぶってる奴らを叩きのめして」

 上から目線で煽ってやるの――アハッ!

 ヒィロの微笑み。その色が口端に見えた時には――既に一撃が紡がれていた。


 戦端が開かれる。
 民を護らんと動くイレギュラーズ達。それがどうしたとばかりに突っ込んでくる魔物達。
 ――いや正確には『天衝種』と言うのだったか?
「まぁ何でもいいよね! ――ボクが全部倒してあげるよ!!」
 だが新種の魔物だろうがなんだろうがセララにとっては関係ない。
 必ず倒す。強さとは、暴虐に浸し他者から奪う為にあるものではないのだと証明する為に!
 刹那。彼女に光が纏う――白き輝きが彼女を昇華せしめ、更なる力として降り注ぐのだ。
 直後に放たれるは全霊の剣撃。閃光と見間違うが如き一閃は天衝種を切り裂きて。
「さぁこんなものじゃないよね?
 怒りに身を任せただけの存在なのか……見せてもらうよ!」
「さて……手筈通りに参りましょう。これより先には決して行かせませんよ」
 そのままセララは最前線を担う――直後にはマグタレーナより放たれる魔砲の一撃があるものだ。セララを避け、脇よりすり抜けんとした個体共を薙ぐ様に一撃一閃……出し惜しみなどしない。幸いと言うべきか、治癒役は厚いメンバーが揃っているのだから。
 それに。先んじて陣地工作を行っていた甲斐が戦場に響いてる。
 十分な時間があったとは言えない。しかしフリークライやマグタレーナと言った、場を整える技能に長けた者達が集っていた結果――少ない時間でも罠やバリケードを通常よりも遥かに強固に築き上げることが出来ていたのだ。
 その結果として敵の進行ルートを制限する事もある程度出来ている。
 マグタレーナ達の仕掛けたトラバサミなどの罠が、敵の歩みを淀ませているのだ。
「よし! このまま派手に行こう……!
 押し込んでいるんだと、皆に伝えてあげるんだ!」
「絶対に大丈夫! だから――暫く辛抱しててくださいね! 必ず、戻ってきますから!」
 更に戦線へと到達するのはマリアやタイムである。
 彼女達は常に村人たちの精神を気遣っている。彼らが不安なる色に染まらぬ様に、と……故にマリアは笑顔を一度、家に立て籠もる村人達に見える様に笑顔を紡いでから跳躍するものだ――紫電に駆け往く彼女の煌めきは戦場の殺意を押しのけん。
 同時にタイムも前へと赴き治癒の術を振るう。
 至る天衝種の道を阻むべく。建物には行かせぬと――強き意志を固めながら!
「アハハッ! どうしたの? その程度?
 犬みたいに喜び勇んで向かって来たのに、止められちゃうんだぁ!」
 直後にはヒィロが敵の視線を引き付けんと挑発を繰り返すものである。極限なる集中と、極限なる速度が合わされば無為なる敵からの攻撃など何するものぞ――超速へ至る彼女の軌道を捉え切れる者が、この戦場にどれほどいるか。
「ヒィロ。やる気たっぷりなのはいいけれど――出すぎはしない様に、ね」
 そしてそんな彼女に言を紡ぐのは相方たる美咲である。
 美咲は、ヒィロに気取られ隙が見えた天衝種へと斬撃放つ――
 或いは陣をすり抜けそうな個体がいればソイツを優先して、だ。
 一匹でも多く連中を削り取らんとすれば。
「この国って、どこも今はこんな感じなのかしら……体張って国と民を守ってるゲルツさんらとしては、遺憾ながらも動きにくそうね」
「まぁ、そんな状況でも成さねばならん事があるのなら――動くだけの事だ。溜息は零れるがな」
「分かるわ。まぁ――そういう時の為の私らだし?」
 ――ご期待には応えましょうとも。
 美咲は後方より射撃を紡ぐゲルツに視線を一瞬向けてから、再度撃を紡ぐものだ。
 天衝種達はイレギュラーズの策と行動により大きく阻まれている。が、彼らの牙は鋭く、その爪はマトモに受ければ肉を深く抉るだけの力があるだろう――まだ油断は出来ないものだ。
「――デモ サセナイ。フリック 約束シタ。皆ノ事 護ルッテ」
「誰も彼も、ここで倒れるには早すぎるのさ。舞台は幕降りず、未だ演者は健在なり――ってね」
 とは言え。此度のイレギュラーズ達には治癒役たる者が多かった。
 天衝種の爪が襲い掛かってこようと即座にフリークライや悠が補佐に入る。紡がれる治癒術がイレギュラーズの身に降り注ぎ、その傷口をすぐさまに塞ぐ程である。
 それは一方で敵に打撃を与える攻勢役が少ないとも言えるが。しかし各々卓越した能力を持つイレギュラーズ達がこの地に集っていれば――盤石が築かれつつあると言っていい。村人への被害の恐れさえなければ、イレギュラーズ達は目前に全力を繋げるのだから。
 ――ただ一つ懸念があるとすれば。
 敵陣後方にて怪しく佇んでいる一人の男の動向であったろうか。


 天衝種らの後方に位置するホワイダニーの動きは不気味な程に大人しかった。
 時折魔術を放っては来るものの――それにもどれだけの本気が込められていたか。
 何なのだあの人物は? 様子見? 偵察? あぁやはりそんな所だろうか。
「でーもー逃がさないよ! 今回のざまぁターゲットはアイツに決定ー!」
「……煩わしい。此方に来なければ良いものを」
 が。ヒィロは『そんな程度』で済まさない心算だ。
 彼女の優れし耳は奴の言動を微かだが捉えている。ホワイダニーの独り言、呟き、舌打ちなど……さすれば彼は天衝種側に犠牲が出ようとも、左程頓着していない様子であった。此処に至るイレギュラーズ達の力の方をこそ、観察している様な。
 だが、如何なる理由があろうがヒィロは攻めたてる。
 天衝種らの数が減っている今が好機なのだと――幾度も繰り返す挑発。挑発。挑発。挑発ッ! 交戦的な笑みと視線が決して敵を逃さぬものだ――そして。
「そっちだけ好き放題して退散できると思った?
 様子見に徹していればいつでも――なんて。それは舐めすぎよ」
「むっ……!」
 そのヒィロの動きに続く形でホワイダニーへと接近するは美咲である。
 連携した動き。刹那に達する超加速が、一気に距離を埋める――
 ヒィロの引き付け、美咲の一閃。紡がれ繋がれ放たれるは嵐の如く。
 が、追い詰めんとすればホワイダニーも些か力を込めて応戦するものである。
 彼女らを振りほどかんとする雷撃の奔流が二人を包む――
 天衝種を相手していた時から時折降り注がれていた一撃、か。
「これは――私相手に雷撃とは良い度胸だ! 何者だ! 名乗りたまえ!
 如何に無法を是とする今の鉄帝でも、戦う者としての礼儀はあるだろう!!」
「――これは鉄帝で名高きマリア・レイシス殿か。
 私はホワイダニー。お前達の様な高名たる者らとは異なる無名者なれば」
 然らば。マリアは時折己にも到達する雷撃の端を凌ぎながら、眼前にて襲い掛かってくる天衝種を蹴り穿つものである。ヒィロ達が突破できる程度には数は減ってきたが、まだ殲滅した訳ではないのだ――マリアはホワイダニーに言を紡ぎながらも周囲への警戒を怠らぬ。
 しかしやはり、奴は天衝種を操っている?
 ヒィロ達が奴に撃を届け始めた頃から――天衝種らの注意が民よりもホワイダニーの方向へ向いている様な気がしたのだ。攻勢よりも防衛へ。あれほど激しい怒りの感情を抱いていた連中が、防衛に回ろうとするとは……
「成程ね――やっぱりキミ、天衝種と何か関係があるんでしょ? 絶対に逃さないよ!
 天衝種のあれやそれや……話してもらう事が沢山ありそうだ!」
「そうはいかんな。本格的な交戦までは『命じられて』いないのだ――付き合うまい!」
 故にセララもまた、美咲と同様に加速して一気にホワイダニーに接触。彼を捕らえ、色々知っている事を話してもらおうと――雷光を纏った一撃を放つものだ。呼び寄せた天雷は、ホワイダニーの振るう雷撃にも決して押し負けぬ。
 同時。天衝種達がそんなセララや美咲達を妨害せんとホワイダニー側へと後退してくるものである。奴を逃がさんとまるで駒の様に――であれば。
「やはり所詮は走狗ですか……まぁいいでしょう。
 血を流させるのではなく流す方の痛みを味わうのもよろしいかと存じます。
 ――いいえ。別に怒ってはおりませんが。ええ。なんとなくそう思った次第でして」
「やれやれ。あんまり派手に喚かないでほしいなあ――犬の金切り声は、耳に響くよ。
 あんまり派手に喚かないでほしいなあ。
 聞こえなくなるじゃないか――君たちへ向けられた呪詛の囁きが、さ」
 直後にそれらを薙ぎ倒さんと、マグタレーナと悠が往くものである。
 残存の天衝種が後退したが故にこそ彼女らもまた前進し押し込む事叶う。マグタレーナの召喚せしめた存在が敵陣を喰らうように至れば、直後には悠はその一撃に合わせ花吹雪が如き極小の炎乱を天衝種の喉元へと。
 いずれもホワイダニーを逃すまいとする強い意志があるものだ。
 彼の立場は知れぬが、天衝種を連れているのならば新皇帝派に与しているに違いはあるまい。
「あぁ」
 故に悠は吐息を零すものだ。
 何故斯様な存在を許容するのか。
 民衆を一切無視した政権の末路など、いつだって決まり切っている。
「――早いか遅いかの違いしかない。それを分かっているかな?」
 在位期間最短記録でも狙ってみようか。あの新皇帝殿には。
 そしてその配下らしき――君にも、ね。
「天衝種達の動きが乱れてるわ! あとは一気に攻撃をお願い! 此処が攻め時よ……!」
「ン デモ 深追イ マズイ。無理 シナイヨウニ 村人 護ル 優先」
 そして。それでもホワイダニーの雷撃を中心に反撃を試みんとする彼方側であるが、駄目押しとばかりにタイムやフリークライの支援が降り注ぐものだ。傷深き者には、フリークライが天より振る光輪にて至高の恩恵を与え。タイムも福音紡ぎて傷を治癒しようか――
 体力も活力も万全に近い状態を整えれば、後は押し込むだけだ。
 美咲が声を張り上げ、ゲルツの援護射撃も加われば一気に戦線を押し上げて……
「チィ――! これがイレギュラーズの実力とは、想定以上だ……!
 やはり総帥は注視する事だけはある……!」
「――総帥? 一体誰の事かな? 新皇帝のバルナバス……っぽい言い方じゃないね!」
「黒幕ぶって大物ぶって忙しいね! さぁ――君は一体どこの所属なのかな!」
 刹那。ホワイダニーがまるで濁流の様に雷撃魔術を展開する。
 それは己を護らんとする天衝種も纏めて薙ぐかの如く――吹き飛ばされる『圧』を伴った一撃を、しかしセララは跳躍し斬り込もう。直後にはヒィロも続き、ホワイダニーを追い詰めんとし――さすれば。
「私は新皇帝派に属する『アラクラン』所属のホワイダニー。
 ――それだけだイレギュラーズよ。雌雄を決すは、またいずれとしよう!」
「アラクラン……!? くっ――!」
 美咲がホワイダニーを追撃せんとするが、しかし奴は一気に駆けだす。元より本格的に交戦する気のなかったホワイダニーには余力があり、更には天衝種達がそれを庇うように行動するが故にこそ厳しい所はあったか――ただしイレギュラーズは一気に距離を詰めるなどの手によって彼に危機を齎し、敵陣を大きく乱す事に成功していた。
 結果としてイレギュラーズ側の被害は軽微に留まっていた。無論、村人にも被害はない。
「アラクラン……一体なんの組織なのか知らないけれど、好きにはさせないよ……!」
「天衝種の殲滅を行いましょう。それが終わったら、次またいつ来るともしれないから……急いで村人さん達の移動を始めないと、ね」
 であればと。マリアは残る少数の天衝種を追い立て撃滅せんとし。
 完了すればタイムは皆の傷を確かめながら――村人達の方へと視線を送るものだ。
 ……故郷を離れるのは辛いだろうけれど。
「いつか絶対、戻って来れる様に約束するわ。
 いつか絶対にまた――鉄帝は元通りになるから」
 そう。祈りを込める様に紡ぎながら……

成否

成功

MVP

ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃

状態異常

なし

あとがき

 依頼お疲れさまでしたイレギュラーズ!
 アラクランとは一体何か。おや、そんな名前の出ていたtopもあった気がしますね……
 ともあれ鉄帝編はまだまだこれからですが、皆様の活躍により救われた村が、確かに此処にあったのです。

 ありがとうございました!

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