PandoraPartyProject

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水鏡のあなた

「つづり」
 名は言霊。宿るその意味は、寂寞と焦燥。少女の唇から毀れ落ちた名はかたわれを呼んでいた。
 豊穣郷カムイグラよりシレンツィオリゾートへ視察とバカンスを兼ねてやって来た『双子巫女』は予想外の未来へと行き着いていた。
 ひとつのたましいをふたつに別ち、忌むべきとさえ囁かれていた巫女の娘はその命までもが別たれぬようにと手を繋いでいた――筈だった。
「どこ、行ったの」
 何時だって、手を引いてくれていたのは彼女だった。

 そそぎ――

 名前を呼んで、花瞼を伏せってから可笑しそうにころりころりと鈴鳴るように笑う彼女。
 姿形は似ていても、心の中までは映し鏡にならなかった愛しいかたわれが、異郷の地で姿を消してしまったのだ。
 つづり(p3n000177)が姿を隠して随分と時が経った。ひとつ、ふたつと眠れぬ夜を過ごしていたそそぎ(p3n000178)の耳に入ったのは第一次インス島攻撃作戦の終了と、二次作戦の移行への戦況変化。
 つづりと共にそそぎが行なった巫女としての仕事は、豊穣が勘案した竜宮への防護壁の展開である。
 美しき人の都。人が生きるが為に築かれた欲の都――『竜宮』。異郷でありながが豊穣の文化をなぞるように存在した神社での儀式で出来うる限りの魔物達を却けられないかと考えていたのだ。
 その全てを達成する事は無くつづりが姿を消してしまった。
 水竜より脈々と続き満ち溢れた生命の路。それは豊穣郷でも『神逐』の際に霊脈の浄化の儀を行なった経験を生かし、つづりが提案した防護陣の展開術式である。
 当時、カラカサと呼ばれた男に拐かされていたそそぎにとっては素知らぬ術式をつづりは優しく、丁寧に教えてくれた。
 白い指先が陣を砂の上に描く。ビーチの柔らかな砂の上に敷いたレジャーシートが埋もれてしまうほどに前のめりに膝を立ててその教えを眺めていたことをつづりは覚えている。
 まずは、こう。
 くるりと円を描いてから、土台を作る。
 それから、こう。
 土台の中に書き込まれる黄泉津の文字は、古くから伝わっていたものだった。
 何処で教わったの、と問い掛ければささめきごとのようにつづりは黄龍さまたち、と四神の名を指折り数える。
「覚えた?」
「覚えなくても、つづりがいるし」
「ううん、そそぎ一人になるかも」
「そんなこと、ない。セイメイに文句言うしかないでしょ、そんなの」
「セイメイはつづりとそそぎは一緒って行ってたから、わるくないよ。でも、なにかあるかもしれないし」
「なにもない、風牙にも抗議する」
「悪くないよ」
愛無にも、クレマァダにも」
「皆悪くない」
 いじっぱり、と頬を突いたつづりにそそぎは負けじと頬をぷうと膨らました。
 酷い事を言う『かたわれ』にムキになってしまったのだ。人工のあかりも、痛いほどのまなざしに濡れたおんなの唇も、慌てふためき「早い」と叱り付ける声も、ふたりで初めて見たものだった。
 二人で一緒。もう二度と別たれてなるものか。手を、離さないでいて。大切な、大切な――

「そそぎ、つづりが見つかった」
 緊張を孕んだその声音は新道 風牙(p3p005012)のものであった。常磐色の眸は不安を揺らがせ、槍を握る指先にも力が籠もる。
「本当に!?」
 立ち上がったそそぎを宥めるように恋屍・愛無(p3p007296)はその背を撫でた。
「深海の動乱はまだ続いている。どころか、再度の攻勢に転じるらしい。攻め時を見誤らぬようにとのことだろう。
 つづり君が見つかったのは、その戦場の只中……いや、こう言った方が分かり易いか。そそぎ君とつづり君が目を付けた霊脈の近くだ」
 どくり、と血液が体内に異様な速さで流れ出す感覚をそそぎは覚えた。足元に全ての血液が落ちて行き、頭の中が空っぽになるような感覚。
 視界を覆い隠すような暗澹たる闇の名前をそそぎはよくよく知っている。絶望、と呼ぶ恐ろしき存在だ。
「……え?」
 引き攣った声だけが毀れ落ちる。内臓を掻き混ぜられたかのような不快感に吐き気がする。
 戦場に、大切なあの娘が――?
「助けに、いかなきゃ」
「待て」
「でも、」
「違うんだ。そそぎ。……つづりは霊脈を壊そうとしている。『けがれ』を流し入れて、竜宮に悪影響を企てようと」
「つづりがそんなことするわけが――!」

 ――ううん、そそぎ一人になるかも。

 白んだ意識に、声が響いた気がした。かたわれの考えることだもの、直ぐに分る。愛しい唯一の、存在のことだもの。
 そそぎは唇をきゅう、と噛み締めた。身体全てに感じた悍ましい震えを払い、乞う。
「つづりが壊すより先に、防御陣を張る。それで、竜宮を護る。
 つづりは『そうして欲しかった』はず。皆の話、聞いた。夢遊病みたいになってるんでしょ?
 ……つづりも、そうだ。誰かに操られてる。あの時とは逆なんだ。私が――」
 そそぎは、不安を拭い去るように言った。
「私が、みんなと、つづりを助けなきゃ」
 準備をしなくては。霊脈を護って、つづりを助けて。
 もう二度と離れないように指先を捕まえていられるように――あの、海の中へ。

 ※シレンツィオ・リゾートで戦いの準備が始まっています……

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