PandoraPartyProject

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嘲笑

「成る程、それでクリスチアン・バダンデールは撃ち漏らしたと。
 御身が出撃したにしてはパッとしない結末だったのではありませんかね」
 ヨル・ケイオスの口調には些か忖度が欠けていた。
 まさに思った通りに言った、という調子だったが椅子に座ったヨアヒム・フォン・アーベントロートは大して気に留めた様子も無かった。
「第十三騎士団の被害人員が五十七、封魔忍軍が八。
 比較的重篤なものに限定してもこの有様ですからねぇ。
 サリューは余程の煉獄だったご様子で」
「不敬であるぞ。我が采配に不満でもあるのかね?」
「いいえ。でも、あんまりいい状況ではないかなあ、と」
 報告書をぺらぺらとやりながらヨルは小さく肩を竦めていた。
 死人はもう大分少ないが、それでも腕利きに欠員が出たのは確かだ。
 クリスチアン・バダンデールを仕留めたならば勘定にお釣りは出ようが、そうでないと来ている。
「……大分派手にやりましたからね。
 どうもフィッツバルディ派の一部が状況を嗅ぎ回っているのも確かです。
 御身の仰る通り。差配しているのはアベルト氏ですが、後ろには公が居ると見て間違いないでしょう。
 ……ううむ。まぁ、サリューはアーベントロートの勢力圏です。
 彼等に出来る介入なぞたかは知れているでしょうが、動きを『掴ませた』事自体がきっと示威的意味を持っているんでしょうねえ」
 ヨアヒムの再登壇から暫く、幻想の政変は立て続けの急展開を迎えている。
 これだけ動けば周囲が騒がしくなるのも必然であり、それは概ねアーベントロートに利さない。
「何、予定通りであろう。暫くは幕間故な。
 精々無駄に嗅ぎ回らせ、犬共はくたびれさせてやれば良い。
 ……まぁ、不肖の娘(リーゼロッテ)が普通に捕まるような間抜けではない限りは、であるが」
「……本気で捕まえる気なのですよね?」
「無論。しかしアレは我が栄光の蒼薔薇の係累なれば――捕まるようなら却って笑えぬ話になるであろう?」
「……はぁ」
 ヨルは自分の性格を『とても悪い』と認じている。
 しかしながら、そんな彼女でもこの男の娘にだけはなりたくないと、そう思った。
「しかし」
「うん?」
「良くご無事でしたねぇ」
 死ねば良かったのに、とは言わない。
 ヨルも彼も最悪の性格であるが、クライアントに死なれて貰っても困るからだ。
「死牡丹梅泉は正直恐ろしい。一緒に部屋に突入した連中は残らず細切れでしたよね。
 ですが、そんな中で貴方様一人がこうして無傷で戻っておいでです。
『はて、そこにはどんな仕掛けがあるのやら』」
「ふむ?」
「それにもう一つ。彼をどう切り抜けたのかも気になります。
 この報告書の――最後の部分はヨアヒム様の申告故、御本人に尋ねるより答えはないでしょう?」
 最後にヨアヒムと会敵した死牡丹梅泉は『行方不明』という事になっている。
 サリューに探りを掛けた範囲ではそれは本当の事である。
 ……まぁ、クリスチアンなら上手く誤魔化しただろうが、彼は今深手を負って動けない状態だ。
 加えてこと梅泉に関しては紫乃宮たてはという分かり易過ぎるセンサーまでついている。
「後学の為にお聞かせ願えませんかねえ?」
「主の詮索とは――つくづく不敬な女じゃな」
 せせら笑うヨアヒムは目を細め「まあ片方は答えてやるか」と告げた。
「『切り札』を一つ使った。『アーベントロートの檻』をな」
「……お得意の遺失魔術ですかね?」
「うむ。空間転移の逆だが、こちらは閉じ込めてやるものよ。
 説明した所で貴様には分かるまいが、招かれざる客は檻の構える我が試練にさぞや嘆く事であろうよ」
(ヨアヒム様は……死牡丹梅泉を『何処か』に飛ばした?
 試練とやらは対象を仕留める為の攻勢、魔術を構築する為の制約でしょうか。
 どうにも測り切れないお人ですねぇ。不気味というか、底が知れないというか。
『この私にさえ、本当に味方だと思っていいのかを不安にさせる』)
 ヨアヒムは二重顎に触れて続けた。
「故に彼奴めは『退場』となろう。
 わしは一つ札を失ったが、彼奴めもこの先のキャストではない」
「才能ですよね、殆ど」
「うん?」
「いえ、こちらの話――」
 ヨルはヨアヒムがクリスチアンを狙ったのすら『遊び』の範囲であると承知していた。
 逃亡者となった愛娘を痛めつけ、何処までも追い詰める為の演出に他ならない。
 自称・性格最悪の彼女だが――目の前の男の思考には怖気立つ。
 実力にせよ、悪辣さにせよ。
 人の形をした怪物が居るのだとしたらこれの事に違いないと、そう思った。

サリューを舞台にした『暗闘』が決着したようです!

※リミテッドクエスト『<太陽と月の祝福>Recurring Nightmare』が公開されています!

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