PandoraPartyProject

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女王の挽歌 hanson de la reine

 夜に閉ざされつつあるファルカウにて。
 虹色の門(ゲート)が、いくつもいくつも開いた。
 その中から無数の、武装した妖精たちが出撃していく。
 全ての門は閉じ、深き夜の中にこうこうと輝く妖精たちの光がある。
「妖精たちよ。人間たちを守り、撤退を助けなさい。そのあとは、あなたがたの考えで動くように」
 妖精の女王ファレノプシスが腕を振るうと、飛行していた妖精兵たちが一斉にターンし、撤退する人間達の支援へと動き始める。
 現地で戦っていた妖精たちにとって、その光景はあり得ざるものだった。
 女王が妖精郷を出るということは、女王が負っていた妖精郷の門アーカンシェルの維持をやめるということだ。それはすなわち、妖精郷と森の行き来が不可能となることを意味した。
 共に出撃した妖精たちはつまり、それを覚悟して出撃したということだ。
 そんな光景に対して、突然現れたファレノプシスを前に『夜の王』はぴたりと足を止めていた。
「現代の女王、か。ついに、アルヴィオンを捨てる気になったということか?」
「いいえ。妖精郷にはあの子がいます。私は、やるべきことを果たしに来たのです」
 ――ズン、と大きく踏み込む『夜の王』。無数の闇の手が伸びるが、ファレノプシスは眼前にピンと人差し指をたて、青白い蝶の形をしたオーラを出現させた。
 フッと優しく息を吹きかけると蝶は溢れんばかりの花弁へと変わり、伸びてきた闇の手をことごとく破壊してしまう。
「あなたの『王権』も、同じルーツをもつ王ならば拒否することができるのです。私の力を剥奪することはできませんよ」
「ならば、力尽くで殺すまで」
 『夜の王』は剣を握り、ファレノプシスへと一瞬で接近。大上段からの斬撃が遅う。
 斬撃はファレノプシスのを真っ二つに切り裂き余った勢いが地面を爆砕する。
 が、ファレノプシスだったものは細かい蝶の群れへと変わって散っていき、いつのまにか移動していたファレノプシスは『夜の王』の背後へと回り込んでいた。
 人差し指を突き出すようなフォームをとり、青白い矢を放つ。もし刹那に通り抜ける矢を停止させ凝視できる者がいたなら、それが小さな蝶であると分かるだろう。
 何発も放たれた矢を、しかし『夜の王』は翳した剣で払い落とす。
 地を蹴り、飛び上がる『夜の王』。ファレノプシスもまた上空へと舞い上がり、冥いダークカラーの光とパステルカラーの光がそれぞれ軌跡を描いて大空高く飛んでいき、はるか上空で激突。更に激突を繰り返し歪な二重螺旋を描くと、そのたびにおこした火花の如き魔術残滓が夜の空へと散り続ける。
 はるか上空。大量の蝶を作り出し次々に放つファレノプシス。
 複雑な軌道でホーミングするそれらを剣のたった一振りによって切り払い、『夜の王』はくつくつと笑った。
「この夜の中、力を振るえるのは貴様のみ」
 どこからともなく伸びた闇の手が、ファレノプシス下半身をがしりと掴んだ。
「対して、我が眷属はこの闇のどこからでも現れる。もはや勝負にすらなっていないのだ。哀れな女王よ」
 『夜の王』はファレノプシスを鷲掴みにすると、はるか上空から一気に地上へと急降下し、巨大な樹木へとファレノプシスを叩きつけた。
 樹木は雷でもうかたかのように真っ二つに割れ、その根元にファレノプシスが転がる。
「打つ手は、もはやなかろう。妖精よ、再び我等のペットとなるなら生かしてやろう。人間共々我が足元へ身を投げ、許しを請うがいい」
 ゆっくりと降下する『夜の王』。
 ファレノプシスは口からほろりと血を流すと、その身を起こした。
「いいえ。まだあります。……ひとつだけ」
 『夜の王』を見つめる、ファレノプシスの瞳。
 その瞳の輝きに既視感を覚えた『夜の王』は、思わず一歩後じさりした。
 だがもう遅い。
 その足元より虹色の光が湧き上がり、周囲の風景を『割った』のだ。
 まるで鏡を割るかのようにひび割れた景色がやがて砕けて散り、見たこともないような花園へと周囲の風景が切り替わっていく。
 ファレノプシスはゆっくりと飛び上がり、そして『歌』をはじめた。

 ――瓶詰めの木イチゴ。漆を塗った赤い櫛。エナメルの小さな靴。オルゴールの小箱に詰めた、名も知らぬ花。
 ――手を繋いだ指。終わらないダンス。花を踏んだあなたを、ここへ招きましょう。


「待て、これは――!」
 焦った声をあげる『夜の王』を前に、ファレノプシスは両手を組み、そして広げた。
 花束のようにいっぱいになった青い蝶が、大量の花びらになって散っていく。
 舞い上がるそれらは、風景を塗りつぶし――。
「『少女が夢見た幻灯郷(アヴァル・ファタ・モルガーナ)』――!」

 世界は花弁に包まれて、光に包まれて。
「さようなら。ありがとう……皆さん」
 異次元の花畑のむこうから、ファレノプシスがこちらへと微笑んだ。
 そして――。
 ひび割れていた風景は巻き戻し映像のように修復され、ファレノプシスたちだけを『向こう側』に残して最後のピースがぱちりと収まった。
 そこに、もう夜はない。
 晴れ渡る空と、夕方にさしかかった太陽があるだけだ。
 ファレノプシスも、いない。
「終わった……?」
「助かった……のか?」
 撤退中だった人々や妖精たちは振り返り、夜の消えた空を見上げる。
 しかし、半分が正解で。半分が不正解だ。
「――ぐ」
 どさりと音を立て、もといた位置へと落下するものがあった。
 骸の鎧――いや、『夜の王』だ。
 だが彼の周囲に夜のとばりはない。
 権能を異次元の向こう側に奪い取られ、なんとか己の身だけをこの場所に逃がしたのだろう。
 そう、『初代女王』がアルヴィオンから『夜の王』を追い払った時のように。
「一度ならず、二度までも……同じ手にかかるとは」
 このまま戦いを続けることは、無敵の権能を失った『夜の王』にとっても不利だ。
「さがるほか、あるまい」
 苦しげに呟き、そして『夜の王』は周囲の呪霊や夜の眷属たちと共にファルカウ上層へと撤退していったのだった。

 ※妖精郷の門が全て閉ざされました。女王ファレノプシスの行方はわかりません。

 ※アルヴィオンの妖精達が大勢救援に来るようです!


 ※夢の中に囚われた者達は『夢檻の世界』にいるようです……
 ※【夢檻】から抜け出す特殊ラリーシナリオと、冠位魔種の権能効果を減少させる特殊ラリーシナリオが公開されました。

これまでの覇竜編深緑編

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