PandoraPartyProject

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嘲笑う幻想

 奇しくもその四人が集ったのはリシャール等が会合を持った日の夜であった。
「この程は幻想も随分騒がしくなってきたではないか」
 その面立ちに苦悩を乗せた彼等とは全く逆に、半ば楽しそうな調子でそう言ったのはフィッツバルディ派に属するレイガルテの懐刀、カザフス・グゥエンバルツその人だった。
「所詮は毒蛇の巣よ。骨肉で殺し合うも彼奴等めには似合い。全くこれは好都合という他あるまいな」
 ほくそ笑むカザフスは『黄金双竜』レイガルテ・フォン・フィッツバルディに絶対の忠誠を誓っている。
 覇王の器と確かな知性、絶大な政治力を有する主君は数十年の間、カザフスにとって何よりも優先すべき絶対事項で在り続けてきた。
 アーベントロートには薔薇十字機関が存在するが、カザフスはレイガルテにとっての汚れ仕事担当だ。
『そんな彼は実の所、幻想なる国体がどうなろうとも構わない』。
 レイガルテの権勢が担保され、良い状況になるのなら手段は問わない性質ならば、アーベントロートの混乱は大歓迎といった所である。
「全く以ってその通り!」
 カザフスの『かなり危うい発言』に全面的な賛意を見せたのは同じくフィッツバルディ派に属する巨躯の男――バスチアン・フォン・ヴァレンシュタインであった。
 フィッツバルディ派とアーベントロート派は反目し合う関係だ。当然ながら友好的な精神は無いのだが、
「薄汚い旅人上がりなぞが三大貴族を名乗る等、言語道断。兼ねてより不快極まりなかったというものよ!」
 吐き捨てるように言ったバスチアンの表情はそれ以上に強い拘りを感じさせるものだ。
 彼の旅人嫌いは筋金入りであり、それが敵(アーベントロート)なればこの反応もむべなるかな、だ。
「まぁ、レイガルテ様はこの機を逃すまい。かの御方に腹案が無いとは思えぬしな」
 バスチアンとは対照的に冷静に――クロード・グラスゴルがそう言った。
 野心家であり、冷徹な彼は『能力』と『寿命』の双方でレイガルテを評価している。
 仕えるべき領袖は幸福な事に極めて有能であり、幸運な事に恐らくはクロードよりもずっと早く死ぬ。
 二点の事実はクロード・グラスゴルに当面の忠誠を誓わせるには十分だった。
 但しそれは二点が常に担保され続けるなら……の話である。
(でなければ、そろそろ潮時というものだろうからな――)
 言葉にせず、クロードは内心でせせら笑った。
 寿命の方はさて置いて、能力の方は絶対の保証のあるものではない。
「何れにせよ、自業自得というものだろう?
 暗殺令嬢等と悍ましい渾名で忌み嫌われ、栄光ある幻想貴族の体面を大いに汚した女なのだ。
 あの女が為した事は何だ? 僅かばかりの軍功と、口にするのも憚られる放蕩の数々ばかりではないか」
 渋面で言ったのはクロード・デュガ・ルージュ。
『僅かばかり』の評価はやや意見の分かれる主観的な評価かも知れないが――
 偶然にも二人の揃ったクロードもまた、同じくフィッツバルディ派。
 敵対するアーベントロート派の混乱に祝杯を挙げるのはやはり同派の四人だったという事だ。
「ともあれ、我々の考えは一致している。
 レイガルテ様がご決断なされた際には速やかかつ確実にその御意志を実行するのだ。
 その相手がアーベントロートであろうと『それ以外』であろうとそれは変わらぬ。
 ……問題無いな?」
 ジロリと威圧し、確認するカザフスに残りの三人は頷いた。
「少なくともアーベントロートが弱体化、あわよくば排斥されるチャンスなのだ。反対の理由なぞ無いな」
「レイガルテ様に失敗など無かろうよ」
「派閥の意向を無視しても――今回の内紛自体十分道理の通ったもの故にな」
 バスチアン、そして二人のクロード。
 三人の方は実を言えば『カザフス程、熱烈にレイガルテ至上主義ではない』のだが、この場の最上位である彼の意向に逆らう意味も無い。
 大方針で言えばカザフスの言葉は間違ってはおらず、各々はそれぞれの事情で十分レイガルテを『支持』しているのだから。
 三すくみは状況の均衡を保つ重要なパーツだった。
 しかしながら、揺れる幻想は長らく保持し続けてきた危ういバランスを今捨て去ろうとしている。
 その先で笑うのは天使か悪魔か?
『失楽園』の結末も、その正体も。未だ誰も知る由は無い――

特命を受けたイレギュラーズの一部と薔薇十字機関が激突したようです!

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