PandoraPartyProject

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憂鬱なる幻想

「この程は御足労に感謝する。
 全く――平時であればこのような集まりは要らない勘繰りを避け得ないものになるだろうがな。
 お歴々もご存知の通り、そうも言っていられない情勢になった」
 リシャール・エウリオン・ファーレルは彼が自身の邸宅に『招待』した面々、即ちロギア・フィルティス、シン・オルバークラフト、シルト・ライヒハート、三人の顔を順に見回してそう言った。
 彼の端正な顔には見て分かる程度には深い疲労が刻まれている。幻想東部域に領地を持ち、厄介な隣人(ネメシス)と国境を接する彼の立場からすれば国内の動乱――所謂アーベントロート事件である――は決して歓迎出来るものではなく、昼夜を問わぬ警戒と情報収集に追われれば『そんな顔』になるのも仕方なかったと言えるだろう。
「この情勢ではね。正直を言えば助かりました。
 国全体の大きな政治の話でも、個人的にここを泳ぎ切る意味でも……
 信頼出来る相手は一人でも多く必要な所でしょうからね」
「いや、まったく。ファーレル伯には音頭を取って貰った事に感謝する。
 確かに難しい局面だが、その点も含め伯の勇気と行動力には敬意を表する他は無い」
 そう述べた二人、シルトとロギアは幻想国内政治的には『バルツァーレク派』に属している。
 リシャールの言う所の『要らない勘繰りを避け得ない』は自身が『フィッツバルディ派』に属する事、
「……平時ならばいざ知らず。この状況で私に如何程の事が出来るかは分かりませんが」
 更には文人気質から『謙遜』してみせたシンが『アーベントロート派』に属する事に起因する。
 つまり、この四人は幻想国内で主導権を争う三貴族それぞれに近しい有力者であり、そういった面々が極個人的に秘密の会合を持つ事自体が稀有であるという事だ。
 より厳密に模様眺めをするならば、リシャールはフィッツバルディ派に属するが、先代フォルデルマン二世に仕えた彼は本質的には『王党派』であるし、ロギアやシルトはバルツァーレク派にありながら、領袖とは随分異なり気骨たくましく、逆にシンはオルバークラフトの方はさて置いて、アーベントロート派に置いておくには気持ちの優し過ぎる青年ではあるのだが。
 ともあれ、本来集まる事が憚られる面子が今日リシャールによって集められたのは偏に彼等が『派閥以前の良識派』であるからだ。
「信頼出来る筋の情報によれば、リーゼロッテ様が『失脚』したのは間違いない事実であるようだ。
 公式にアーベントロートは容疑による拘束を命じているが、私の調べた範囲に拠れば動いているのは十三番の――更に得体の知れない裏部隊だ。
 逮捕所か、出た命令はDead or Aliveだと聞いている」
「あの伏魔殿……まだおかしな牙を隠し持っておったか。それにしても生死問わず、実の娘をか?」
「……」
 リシャールとロギアの言葉にシンの表情が少し曇った。
 海千山千の武人気質に比べて、彼は聡明だが気持ちが優しく、幾分かの繊細さを持っている。
 無論、アーベントロート派に属する彼は最近の『穏やかになったお嬢様』と接する機会が一番多かったのも理由になるだろう。
「あの侯は掴み処が全く無いからね。俺達よりはロギアさん――様の方が分かるかも知れませんけど」
「『さん』でいい」
 ロギアが水を向けたシルトに苦笑した。
 シルトは生来飄々とした男である。話し方にせよ今日は若干『フォーマル寄り』だ。
 しかしながら、所々に癖は出ている。知己の三人はそれを先刻承知であった。
「残念ながら、正直を言って全く分からん。
 最初から徹頭徹尾ウマが合わぬ事は目に見えていたのでな。
 ……それでも家格を考えれば相手は幻想の最上位。関わり合うだけ無駄というものであろう?」
「だと思いました」
 肩を竦めたシルトは最初から期待をしていなかったようである。
「何れにせよ、侯の狙いを知るには侯自身の情報が必要でしょう。
 ……いや、『あの』アーベントロート家を嗅ぎまわって情報を集めるなんてのは正直ぞっとしますがね。
 常々、出来る事は出来る人がやればいいと思ってるんですよ、俺は。
 余人よりもより良い明日を望む事が叶う立場にいるならば、それって高貴な義務(ノブレス・オブリージュ)みたいなもんじゃないですか」
 シルトの言葉は相変わらず軽かったが、その一言こそ『今日の意味』である。
 互いの顔を見てその在り様を確認した四人の良識派達はこの国難に立ち向かう意志を共有している。
「……はい。今回ばかりはやるしかない、確かにそう思うのです」
 シンは荒事が得意ではない。
「そうしないと、きっと。とてつもなく悪い事が起きるような――そんな予感がするのです」

特命を受けたイレギュラーズの一部と薔薇十字機関が激突したようです!

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