PandoraPartyProject

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月英(ユグズ=オルム)

 ユグズ=オルム――そこはファルカウ内部に存在する叡智の集積場である。
 咎の茨に包まれた白髪のハーモニア達が皆倒れ伏しているのを、一人の男がじっと見下ろしていた。
「全くふがいないものだねえ。各々が皆、栄えあるこの場に居ることを許された身でありながら、こうも簡単に寝てしまうだなんて。今まで一体何を読んできたんだい」
 男、『叡智の記録者』ニュース・ゲツクは大げさな身振りで肩をすくめ、たっぷりの溜息を吐き出した。
 とはいえこの状況では身の安全こそ確保出来ても、外に出る事すら叶わない。全く困ったものである。本館の書物だけならば――もっと言えば禁書庫についても――既に読み尽くしているのだから、暇で暇で仕方がない。彼には今起きている様々な出来事を知ることの出来る力(ギフト)があるが、文字通り朝飯前の日課に過ぎず、その程度の情報量では到底満足など出来はしないのである。
「……あの子(愛娘)なら、どうするだろうね?」
 ニュースは娘――のような存在――に期待している。
 どれほど面白い情報を、自身に摂取させてくれるのかを――

 ファルカウ覆う状況は余りに絶望的なものだった。ニュースはハーモニアの優れた魔術師だが、これほどの絶望的な状況をどうにか出来ると考えるほど自惚れてはいない。彼自身はたかが『観測者』であり、なにより『記録者』に過ぎないのだから。そんなニュースの観測によると、魔の領域に属する者や、それに連なる者達が眠らずに行動している様子が分かっている。
「そっちからは見えているのかな、聞こえているのかな。まあいいや、いま無理矢理、聞こえるようにするからね。どうだろう『冠位怠惰』。僕はね、反転してみる――というのも、やぶさかではないんだよ。だからほら、どうかな。原罪呼び声(クリミナル・オファー)ってやつ。ほらほら」
 ニュースは天井を仰ぎ、そのずっと向こうに存在する、気でもふれてしまいそうなほどの怖気へ向けて、平然と魔術的アクセスを重ねた。
 魔種(デモニア)はこの世界を破滅に導く存在である。
 けれど、どうだろう。寝てしまえば、その滅びさえ見届けることが出来ないではないか。
 寝ているうちに全てが終わってしまうなど、面白くないにも程がある。滅ぶならその様子を、細かに、明らかに、詳らかに、丸々と頭脳へ記録してこそだとは思わないだろうか。それに反転してみるという経験も面白い。中々余人に体験出来たことではないだろう。万に一つイレギュラーズが勝利するとして、なにも冠位と心中するつもりはない。そちらを記録するのも面白そうだ。
 ならば冠位連中とも利害は一致するのではないか。

 滅びを知る事が出来ないならば。
 冠たる叡智に記録出来ないのならば。

 ――だったらこんな世界、滅んでしまえばいいんだよ。


 ※深緑で何者かが蠢いているようです……。
 ※鉄帝国の方では祝賀会が開催されることとなりました。


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