PandoraPartyProject

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我こそは火種なり

 巨大な縦穴を抜け、どこかへと飛び去っていく。
 あまりに巨大で屈強な『ドラゴン』の存在感は、強大な亜竜たちにとっても恐怖の対象であった。
 それゆえに、羽ばたきの音が全く聞こえなくなるまで皆が顔を伏せ、震えそうな身体を抑えている。
 最初にハアと小さな息をついたのは巨大な四足獣(ドレイク)型亜竜ベルガモットであった。
「今回も、なんとか乗り切ったようですね」
 その凶悪な外見からは想像できないほど優しく囁くような言葉が、ベルガモットの額にある第三の目からテレパシー形式で発せられた。
 グルルと鳴る喉や鋭い牙はそのまま。凶悪さと優しさがベルガモットには入り交じっている。
 身体ごと深く伏せた姿勢でいた巨大な昆虫(カブトムシ)型亜竜ヘラクレスはゆっくりと頭を起こし、フシュウと熱気のこもった息を漏らした。
「ダガ、次も乗り切れるとは、カギラヌ。アダマンアントどもも活発化したが故……」
 口調は非常に固く、そして抑揚が時折ブレる。だがその声色や振る舞いは巌のごとく、武人めいた雰囲気を纏っている。
「アダマンアントによる小集落の群発的襲撃、か。非常に厄介なことだ。我々が生贄とすべきドラゴニアがこんな形で減らされるなど」
 吐き捨てるように言ったのは鬼か悪魔のような外見をした人型亜竜バルバジスであった。骨でできているのではと思うほど固い顔面から感情を読み取ることは難しいが、怒りの感情がオーラと熱気によって周囲へ漏れ出ているのがわかる。
 だがそこへ、水をさすものがあった。
 フフンと鼻で笑うような声がしてバルバジスが振り返ると、巨大な海蛇型亜竜アリアベルがあった。
「アリ如きに餌を奪われるようでは、管理者の座を降ろされるのも時間の問題ですわね?」
 鼻につくような、あるいは挑発するような女性の声だ。
「影響はごく僅かだ。それに、今のところ集落に新たな生贄候補を補充する必要もない」
 噛みつくような口調で言い返すバルバジス。
「ええ。目下の問題は、アダマンアントたちではありません。
 むしろ、アルティマへ侵入してきた連中こそ警戒すべきでしょう」
「……ローレット」
 ベルガモットの言葉に、ヘラクレスが重々しく言った。

 『アルティマ』とは七つの集落群の総称である。
 魂喰晶竜クリスタラードによって支配されたこの集落群にはそれぞれ強力な『管理者』となる存在があり、彼らにはクリスタラードによって命令を受けていた。
 それが、定期的に生贄を捧げることである。
 管理者たちはそれぞれのやり方で生贄を確保あるいは生産しクリスタラードに捧げていたが、先だって外へ出撃したクリスタラードが空腹をおぼえたためか求める生贄の数が急増。各集落に混乱が生じ……それはペイトやフリアノンという大集落にも影響を及ぼした。
 ローレット・イレギュラーズに託された使命はひとつ。
 各集落を管理者たちによる支配から解放し、クリスタラードを追い詰めることだ。
 霊喰集落アルティマと呼ばれるエリアは七つに分かれている。
 全ての支配者であるドラゴン、霊喰晶竜クリスタラードのもつ力の水晶が七つであることを起源にしてか、それぞれのエリアは色の名で呼ばれている。
 ――高い塔が並ぶブラックブライア。管理者、ブラックアイズ。
 ――地下空洞ホワイトホメリア。管理者、ホワイトライアー。
 ――死都ヴァイオレットウェデリア。管理者、超越者ヴァイオレット。
 ――溶岩地帯レッドレナ。管理者、バルバジス。
 ――海底遺跡オーシャンオキザリス。管理者、アリアベル。
 ――密林イエローイキシア。管理者、ヘラクレス。
 ――楽園グリーンクフィア。管理者、ベルガモット。
 集落に強行偵察という形で潜入したローレット・イレギュラーズは、それぞれの小集落が抱える問題や弱点を見つけ出し、それぞれ異なる攻略作戦を展開しはじめることとなった。
 すべては人々の解放のため。
 そして、恐るべきドラゴンへその手を届かせるため。

 ――<霊喰集落アルティマ>反乱の狼煙、我こそは火種なり

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