PandoraPartyProject

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戦わなければ生き残れない

 特別研究棟ヘキサゴン。ログインルームを内包するこの施設の一画で、ある計画が完了しつつあった。
 キーボードを高速で叩く白衣に眼鏡の男性、清水 湧汰。彼は長らくの間ここセフィロトで『無能』と呼ばれ続けた研究員である。
 だが彼の研究が、ないしは頭脳が優れたものであったことが、いまこのとき実証された。
 いや、それだけではない。
「さすがだぜユータ!」
 ガッツポーズをとって応援する清水 洸汰(p3p000845)
「まさか、回収したデータがこんな形で役立つとはな……」
 D区画の事件を解決し、その折に『人工の肉体』と『人工の魂』を融合させるすべについての研究データを回収してきた仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は、あれを破壊してしまわなくてよかったと内心で呟いた。
「情けは人のためならず……ですネ」
 ニッコリと笑う観音打 至東(p3p008495)
 彼女もまた、C区画の事件を解決する折に、敵と内通していたスタッフから『ROO内NPCのデータを現実に反映させる方法』を獲得していた。
 それらが結実したものが……。
「完成だ。エーテルコード2.0――起動!」
 エンターキーを叩く指。その音には、決意と熱意の力があった。

 ログイン装置にも、秘宝種のボディをメンテナンスする際の寝台にも見える装置に、一人の女性型秘宝種が横たわっている。
「遺失技術である秘宝種のメカニズム……とりわけ『コアの製造方法』には練達でも注目が集まっていた。人工的なAIをロボットに詰んだだけでは秘宝種にはならない。世界(混沌肯定)がそれを認めないからだ。
 けれど、今……俺たちは世界のルールを一つだけ突破する!」
 女性型秘宝種の目が、ぱちりと開いた。
 赤い瞳に似たそれは、人工的に作られたコアである。その証明に、きわめて近くから見れば何かのコードのようなものが走っているのがわかるだろう。
「これは……成功、したの?」
 無数のケーブルが接続された身体を起こし、周囲を見回す。
 そんな彼女に手を差し出したのは、ジェック・アーロン(p3p004755)だった。
「おはよう――エイス!」
 永き時を、そして世界の壁を越えて、二人の手がいま繋がれた。


「ROO内のNPCを、秘宝種のAIとして移植するリアルフィード計画……どうやら、成功したようだ」
 希望ヶ浜学園校長、無名偲・無意式(p3n000170)は折りたたみ式の携帯電話をパタンと閉じると、懐へとしまった。
 そして、西陣織らしき布で作られたネクタイを締め直す。
 都市周辺で暴走するロボットを駆除していたマニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)が手を止め、振り返る。
「そりゃあ凄いこと……なのか? AIロボットとどう違う」
「『人類か、そうでないか』だ」
 極めて明確であるにも関わらず計りようのないラインだが、この世界でだけは違う。
 『混沌肯定』というルールによって人類として認められたものだけが秘宝種であり、そうでないものはメカロバたちのようなAI搭載型ロボットにすぎない。
「ROOから移植するのは、なにも記憶や人格パターンといったデータだけじゃあない。
 ネクストという歪んだ世界に生成された『魂』をデータ化し、コアへとインストールする。
 この技術を応用すれば、ROOとは異なる電子生命体を秘宝種として完成させることも可能になるだろう。欠点として、定着した魂は二度とコアから離れなくなるが、な」
「丁寧に説明して貰って悪いんだが……」
 マニエラは腕組みをし、扇子をパチンと閉じた。
「なぜ『今』だ? 今やる必要があった、ということなんだよな?」
 その問いかけに、無名偲校長はニイイと悪魔のように笑った。
「そうとも、面白いのはここからだ」
「なによ、怖い顔しちゃって」
 夕凪 恭介(p3p000803)は操り糸の奇術によってロボットを鎮圧すると、無名偲校長へと振り返る。
「今このセフィロトという都市をハッキングし、破壊しようとしている姉ヶ崎-CCC。こいつの仕組みとリアルフィード計画は、およそ同一のものだ。
 そしておなじ因子をもつ『姉ヶ崎エイス』というNPCを、同じ方法でこの世界に定着させた場合、おきた競合によって互いを潰すべく動き出すだろう」
 アッ、と理解したように顔をあげる恭介。
「そのエイスちゃんて子を使えば、この騒動の黒幕ちゃんに直接アタックをかけられるってわけね?」


 慟哭、ROO内仮想世界ネクスト。
 この世界の中でもアンダーグラウンドと言うべき、バグの狭間にある空間『電脳廃棄都市ORphan』。
 明滅する『ネジ屋』や『雑草屋』のネオンが密集する狭苦しい建物の間を、越智内 定が歩いて行く。
 奇妙な厨房やカフェや、将棋盤が無秩序にならぶ和室やレトロゲーム筐体の墓場を通り抜け、開いたスチールドアの先には落ち着いた雰囲気のカフェがある。
 黙々とデータを読みふけるパラディーゾ『ドウ』や、ぼうっとコーヒーのあげる湯気を見つめる『クオリア』。『影歩き』や『カノン』、『星巫女』たちはカウンター席に並び、やってきた定へと手招きしている。
アンロックされたっていう例のヤツ……最初の効果が出た頃かな」
「多分」
 『ドウ』は小声でそうとだけ言って、データの閲覧へと意識を戻している。
 滝のように流れていくデータを覗き込んでみれば、どうやらそれは『現実世界』側からのアクセスであるようだ。
 この世界に干渉し、NPCのデータを直接現実世界に定着させる試みがある……と、オモテの連中は言っていた。
「これがあれば、外の世界を旅できるのかな?」
 『カノン』の言葉に、『星巫女』は大きく首をかしげて否定の声をあげた。
「無理でしょう。だって私達、バグですし」
 『クオリア』と『影歩き』はちらりとだけその横顔を見て、そして視線をまたカップへと戻す。
 ここは電脳廃棄都市ORphan。世界の歪みが生んだ空間にして、歪んだ者たち最後の楽園。
 流れ着いたことには、相応の意味があるのだ。
 けれど。こんな風に願うこともある。
「外の世界に行った、その『エイス』って子……元気でやれるといいね」
「そうだね。それに……今回の干渉を経て、ORphanもまた大きな変異を始めてる。もっと大きな冒険が、待ってそうだよ」
 『カノン』が、どこか嬉しそうに無き空を見上げる


「また、酷い事態になってきたわね」
 探求都市国家アデプト(通称『練達』)は今未曾有の危機に陥っている。
 首都セフィロトのネットワークを管理していたマザーAIが暴走し、都市機能を麻痺させるのみならず『外敵』と見なしたすべてのものを排除しようと動き出したのである。
 交通網の停止はもちろんのこと、自動運転車両すら人間めがけて突っ込んでくるというこの有様にサクラ(p3p005004)の疲労はピークに達しつつあった。
 話によれば、『姉ヶ崎-CCC』という存在が練達のネットワークをハックし、練達崩壊を目的としてネットワークに接続されたあらゆるAI機器ゆ兵器を用い攻撃を仕掛けているという。
「――ッ!」
 ギギッ、という激しい音に振り返ると大型のトラックがサクラめがけて突進してきていた。運転手の姿はない。これもAIの暴走によるものか。
 だがその巨体がサクラを跳ね飛ばすことは、なかった。
 剣の閃きがひとつだけあって、長い黒髪が靡いた。それだけだ。
「言うとおりに首都まで来てみれば……例の強敵とやらはどこだ?」
 視界にあるのは、左右真っ二つに切断されたトラック。
 鞘にスッと収めた刀。
 そして、片目でこちらを見る死牡丹・梅泉(p3n000087)であった。


 役者は揃い、舞台は整った。
「あれは……『私』……? この世界に、私を、作った……? 私を、ひとりぼっちにしたまま……?」
 広いホール状のスペースに、立体ホログラム装置が起動した。
 ノイズだらけの、それは女子高生の姿をしたホログラムだった。
 練達首都セフィロトにおいて、その強固かつ破壊困難なネットワークを維持する設備はいくつかあるが、その中でも保安のために厳重に秘匿されていた設備がある。
 それが地下深くに作られた隠しサーバールームであり、それこそが絶対破壊存在姉ヶ崎-CCCが入り込んだサーバーであった。
「ゆるさないから。みんな、みんな……そうやって私をひとりぼっちにするんだ!」
 姉ヶ崎-CCCの流した強力なコードが、それまでハッキングから免れていた多くのドローン兵器たちを強制的に支配下へと置いていく。
 更には、これによってマザーAIクラリスの支配していたネットワークが汚染されていった。
 姉ヶ崎-CCCが練達というセカイを破壊し尽くすのが先か。
 それとも、ローレット・イレギュラーズたちが彼女を破壊するのが先か。
 ラストサドンデスが、始まろうとしている。

 ※現実(混沌)に姉ヶ崎エイスが誕生しました! これによって姉ヶ崎-CCCの居場所が判明し最後の反撃に出ることが可能になりました!
 <ダブルフォルト・エンバーミング>Zap! Zap! Zap!の最終フェイズが解放されます!(プレイング期間はわずか! お急ぎください!)

これまでの再現性東京 / R.O.O

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