シナリオ詳細
<ダブルフォルト・エンバーミング>猿でもできる平和の壊し方
オープニング
●違法軍事団体『枯柳』
爆発によってひしゃげたシャッターが、さらなる轟音によって突き破られる。
前方にスパイクを備えた装甲車が作った大きな穴は、その側面より次々と飛び出すブラックカラーの兵隊たちによって固められた。
駆けつけた警備員が拳銃を構えるも、狙いをつけるより早くアサルトライフルによる三点バースト射撃が彼を跪かせた。
手から落ち、回転して滑っていく血塗れの拳銃。
それを見たもう一人の警備員が両手をあげ、手から拳銃を落とす。
「こ、降参だ。ここは意識不明の重体者が保護されているエリアなんだ。だからこれ以じょ――」
言葉が遮られた。
塞がれたと言ったほうがいいだろうか。
ブラックカラーの制服に同じく黒いパワーサポーターを装着し、ヘルメットとガスマスクというきわめて没個性的な装備に身を包んだ人物が、脇から抜いた9ミリピストルの銃口を警備員の口に突っ込んだのである。
「お前は、三つ勘違いをしているなァ……」
片手で指を立てる。一本おると、展開した同装備の兵達がアサルトライフルを構え横一列に並んだ。
「ひとつ。ここがどういうエリアかは知っている」
もう一本指を折ると、兵達が一斉に射撃を開始。追って駆けつけた数名の警備員たちがたちまち血と肉の塊へと化した。
「ふたつ。降参は認めていない」
そして三本目の指を折ってから、男は『ああ』と唸ってガスマスクを外した。
顔に斜めの傷のある、壮年の男だ。
「命令は『保護されているイレギュラーズの肉体を含めた皆殺し』だ。二つ目が要らなかったな?」
そして、拳銃のひきがねを引いた。
●EMERGENCY or 無意式怪談
「ハァ――」
と、深いため息をついて歩く男がいた。
バブル時代に置き忘れてきたかのような紫色のスーツを纏い、背を丸め両手をポケットに入れた男。その不吉すぎる顔つきは、一ヶ月連続で親戚の通夜があったかの如き陰りようである。が、これが彼の三百六十五日標準の表情である。
名を、無名偲・無意式 (p3n000170)。再現性東京2010地区における有名スポット『希望ヶ浜学園』の、校長である。
彼は時代遅れの二つ折り携帯電話をポケットから取り出すと、ディスプレイに並んだ文字列に目を落とす。
――リア・クォーツ(p3p004937)
――ドラマ・ゲツク(p3p000172)
――ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
――Я・E・D(p3p009532)
――カイン・レジスト(p3p008357)
――クリム・T・マスクヴェール(p3p001831)
――コラバポス 夏子(p3p000808)
――リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
――バルガル・ミフィスト(p3p007978)
――八田 悠(p3p000687)
今から向かう特別研究棟『ヘキサゴン』にて、練達最新の技術によって保護されている十名の『意識不明者』たちのリストだ。
希望ヶ浜ゲーム部や現代TRPG部や実戦ミリタリー部、特別文芸部や隠れ手芸部をはじめとする希望ヶ浜学園の始末屋や掃除屋といった『希望ヶ浜特選部隊』の面々が彼の後ろから展開し、防衛モードに入っていた軍事ロボットの集団へと襲いかかる。
霊差偽装された竹刀や魔術偽装されたホビーガンがロボットたちを破壊していくその風景の中を、はじめと変わらぬため息をつきながら通り抜けていく無名偲校長。
「雇われ校長というヤツは、どうにも不自由がつきまとう」
見ろ、と顎をしゃくる。
希望ヶ浜特選部隊に戦闘を任せる形となったあなた――もとい、あなたを含むイレギュラーズたちは校長の案内のもと、ヘキサゴン建物前へと到着したのである。
防衛用の強固なシャッターは装甲車が貫くかたちで破壊され、壊れたシャッターをまたいで入ってみれば内部には数人の警備員らしき死体が転がっていた。
「一足遅かったが……まだ間に合うな。ついてこい」
そう言って、無名偲校長は死体の間をまたぐように歩いて行った。
●ログインルーム奪還作戦
経緯の詳細をあえて割愛して述べるが、ROOにログインするための施設はごく限られている。ROOが練達における悲願ともいうべき最優先国家事業であり、本来は混沌肯定(世界のルール)の突破を目的としているからだ。練達における元世界への帰還といった大目標はおろか、もし悪用されればどんな悲劇がおこるか計り知れない。
そのためログイン装置はひとつひとつが特別製でありそれが集まるログインルームも極めて厳重なセキュリティに守られていた。ここ特別研究棟ヘキサゴンがその集合体なのだが……マザーの暴走と姉ヶ崎のネットワークハッキングによりセキュリティは崩壊。かろうじて内部の人員の少数を守ることに成功したものの、脆弱化した施設へ突入した軍事団体による攻撃で今やヘキサゴンの一部であるここ『C区画』は彼らの制圧下にあるという。
「澄原財閥研究所、それにテアドール管理室もほぼ制圧下にある状態だ。そこにはイレギュラーズが向かっている筈だ。お前達にはここC区画の奪還をしてもらう」
通路を進みながら、無名偲校長は顔をしかめた。
「このまま練達という都市国家が崩壊すれば、希望ヶ浜地区は阿鼻叫喚の地獄と化すだろう。あの偽りの平和を維持することも叶わない。希望ヶ浜という幻想を維持することが俺の……」
言葉を途中で止め、そして脚も止める。
無名偲校長は丸めていた背筋を伸ばし、前方をじっと見つめている。
「さて、仕事だ。失敗すれば……そうだな。このエリアで保護されている意識不明者たちの命が危ういと思え」
前方側面の扉が開き、複数の武装した兵隊が飛び出してくる。
- <ダブルフォルト・エンバーミング>猿でもできる平和の壊し方完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別長編
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年12月17日 14時56分
- 参加人数30/30人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 30 人
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参加者一覧(30人)
リプレイ
●無意式怪談
悪魔があった。こちらに向けてアサルトライフルを構えた兵隊の首が突如としてむしるように千切りとられ、五指すべてが大鎌の刃となった右手が兵隊の頭を握りつぶす。中指と人差し指を眼孔にひっかけたまま、頭蓋骨ごと砕けたそれを肩越しに放り捨てた『それ』は、眼前に落ちた首と『それ』を交互にみるあなたに振り返る。
鬼か悪魔か妖怪変化か、それとも――。
「忘れろ。嘘だ」
●EMERGENCY
「校長がここまで出てくるなんて珍しいわね? 色々あると思うけど……せめ死なないようにね?」
いつでも戦えるようにと両手の腕輪をカチンと打ち鳴らす『幻耀双撃』ティスル ティル(p3p006151)。
右手の腕輪はきらめく太刀に、左手の腕輪は強固な籠手に変わった。
戦闘は、まだ始まっていない。
イリーガルなPMCである『枯柳』による襲撃を受けた特別研究棟ヘキサゴンC区画。シャッター前を守ろうとしていた警備員たちは殺害され、屋内にいる非戦闘員はいくつかの部屋に集め人質にされているという。
ログアウトロック状態となったローレット・イレギュラーズたちは最重要保護対象であるためか施設の奥で頑強に守られている筈だが……彼らの身は今この瞬間から既に危うい。
そんな状況のなか突入作戦を敢行したのが希望ヶ浜地区でも外の世界に関心や理解を示す面々で構成された特選部隊。そしてその中核をなすローレット・イレギュラーズ部隊であった。
案内人としてローレット・イレギュラーズと同行することになった『希望ヶ浜学園校長』無名偲・無意式 (p3n000170)は、首のない死体を不吉そうな顔で見下ろしていた。
警備員とは格好や武装が異なるが、敵の兵隊だろうか。警備員たちの抵抗によって死んだのかもしれない。
ティスルは校長が同じように殺されたらと考えて、ウッと顔をしかめた。
「希望ヶ浜が無くなるのはもちろん、私は貴方に死なれても後味悪いもの」
「安心しろ。俺は不死身だ。……嘘だがな」
正月の集まりで親戚全員の前で滑るおじさんのような、不吉すぎる半笑いで答える無名偲校長。
「そうだとも。鴉に睨まれただけで死ぬ」
「文鳥だってもうちょっとタフだと思うけど……」
ティスルは『また嘘を』と苦笑して、通路の反対側を示した。
『正義の味方』ルビー・アールオース(p3p009378)が『カルミルーナ』の弾倉に炸薬カートリッジを差し込み、鎌形態にして肩に担ぐ。
「私達はログインルームとは別のフロアに行って、『枯柳』の兵隊に対応しようと思う。
そっちは任せたよ! 看護師さんや研究員さんたちも助けなくっちゃね!」
『私達がみんなを救うんだ』と小さく呟き、赤いマントを翻して走り出すルビー。
彼女を一人で行かせるわけにはいかないという顔をして、『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)はじゃらりと両手の袖内から鎖を垂らし、首にかけていたヘッドホンを耳に装着する。
ノイズキャンセリングシステムを外音取り込みモードにしてどこか悪魔めいた音楽を手元の端末で再生するとルビーを追って走り出した。
「警備員を手早く始末して、非戦闘員を脅して集めて大雑把に情報を収集してまとめて処理(さつがい)する……か。性格はともかくやり方はプロだな」
「だからって……!」
「ああ、『だからって』許せねぇ。連中、こっちの追撃を意識して心理戦をしかけてきやがる」
聴いている音楽のせいか状況のせいか、どこか口の悪いマカライト。
そんな彼らに先行していた『砂礫の風狼』ウルファ=ハウラ(p3p009914)が、通路の曲がり角でスッと手をかざした。
犬型のドローン兵器が通路に立ち、警戒のシグナルを発していた。
「潰すか……?」
「まあ、待て。たかが犬と侮れば腕をもがれるぞ」
ウルファは手をかざし、空で車輪やバルブでも回すように手を動かした。
彼女をまく長い包帯がねじれるように犬の形をなし、パッと翳したウルファの『待て』のジェスチャーに答えて姿勢をぴたりと止める。
「式神か?」
「精霊じゃ。包帯で可視化しておるだけの」
ピッとウルファがジェスチャーを出した瞬間通路に飛び出す精霊『風狼』。
ドローン犬がそれに気付いて口を開き、デュアルソーの牙をむき出しにして襲いかかる。
もつれ合うように格闘を始める二匹。互角……かに見えたが、鋭く圧縮された水が飛びウォーターカッターのようにドローン犬を貫いていく。
突然のことに視線を動かすウルファとマカライト。
あとから追いついたティスルが顔を出すと、『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)が両手で拳銃を握るような姿勢で揃えた人差し指を構えていた。
「わたしたちの、役割は、敵を、攪乱することですの。あえて、目立って戦うほうが、理にかなっていますの」
「ふむ、確かに」
ウルファは一理あると言って通路に出ると、持参したアシカールパンツァーをナップザックから取り出した。
「では、まずは派手にいくか」
通路の奥めがけてみせかけだけのロケット弾を発射。
爆音が響く通路に、けたたましい足音が続く。
ノリアは腕まくりでもするような動作をして、眉尻をきゅっとあげた。
「強敵を撹乱する術ならば、海で、嫌というほど、慣れましたの」
「それって」
ちらりと尻尾をみるティスル。
ノリアは半透明な尻尾(尾びれ)でぴしゃんと空をかくと自分の位置を数十センチほど上昇させた。
「肉食魚から、のがれるために」
●Out of the Bottle
ノリアたちによる通称『遊撃隊』はログインルームとは逆側のフロアで起こした派手な騒ぎによって枯柳の兵達を部分的に引きつけることに成功していた。
「とはいえ、簡単に通してくれるほど甘くない、って?」
長い髪のさきを人差し指でくるくるとやる『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)。
折角希望ヶ浜部隊に合流したからか、それとも練達ではこのスタイルでいくことにしたのか、希望ヶ浜中等部の生徒『伊鈴』の身分と衣装、更には振る舞いを保っていた。
ぱっと髪から手を離し、旗を巻き取った戦旗をきゅっと結ぶ。
(まったくやってらんないわね! 校長もシケたツラして……私も身に覚えがあるからいいけど。後で一杯奢りなさいよ)
心の中で『神がそれを望まれる』と唱えると、槍のように構え走り出した。
旗の起源は槍先につけた皮であるという。
それを阻もうと通路に飛び出してきたのは枯柳の兵数名。アサルトライフルを構え乱射してくるが、『紫苑の魔眼・懺溜』を発動させることで一人を引きつけ突進。槍で打つようにして壁際へと叩きつける。
「……恋する乙女同盟、盟友の危機ね!」
『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)は今まさに危機にさらされている同盟の友(夜のガールズトークを連想する)を脳裏に描きつつ、ログインルームへ続く道へと走り出した。
「やるからには前のめり。攻撃は最大の防御と行かせてもらうのだわ――カードリリース!」
空中に翳した手の中にカードがするりと滑り出し、裏面の柄をめくる。
「『闇で悪魔な猫のお嬢様』!」
空に放り投げると、現れた御嬢様の幻影がレジーナの頬をそっと手袋越しに触れ、顔を近づけるようにしてレジーナと融合した。
するとレジーナは残像を作りながらジグザグに前進……したかと思えば残像たちがそれぞれ意志をもったかのように黒く美しい薔薇模様の剣やナイフや鉄扇を手に取り、敵兵の一人へと一斉に飛びかかった。
全ての残像が実体をもち、敵兵への連続攻撃コンボをひとりでキメるとレジーナは最後に残った薔薇模様の鉄扇を開いた姿勢で敵兵の背後で停止。遅れてやってきた打撃によって敵兵はジグザグに吹き飛んで天井にめり込んだ。
「ほう……」
『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)は若い仲間達に触発されたのか、上着の襟に手をかける。
「救助や防衛は別の仲間に任せておける。つまりは――」
バッと腕をひとふりしただけだというのに、ゲオルグは上半身の衣服を全て脱ぎ捨て五十台にして未だ屈強な、そして歴戦の傷跡のはしる上半裸体を露わにした。
「攻めに徹するとしよう」
ズンと踏み出した彼の動きに恐れを成してか、敵兵はゲオルグめがけて銃撃を乱射。
が、ゲオルグはまるで意に介さぬかのようにズッ、ズッと一歩ずつ踏みしめるように敵兵へと迫っていく。
彼を中心としたエリアには奇妙な糸のようなものが走り、銃弾によってゲオルグの胸や脇腹が傷付いてもその傷口が素早く縫合され塞がっていく。ゲオルグに息(スタミナ)切れがおきるような様子はまるでなく、汗ってナイフに持ち替えた敵兵めがけ手をかざす。
「二十秒だ。頼めるか」
「いいよ。たまには前に出ないとね。オウェードもお願い」
『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は杖をくるりくるりと自分の左右で回すように振ってから水平に構え直すと、敵陣めがけて勢いよく走り出した。
眼前に出現させた四角く水色の連想魔方陣を突き抜けると身体が魔力に包まれ、循環した魔力が彼の杖へと集まっていく。
「まったく、ROOとマザーの事だけでも大変なのに、身動きできない子達を狙ってくるとは。
本当に困った人達だ……悪いが手加減は出来ないよ。邪魔する者は全員なぎ倒す」
「や、やってみろ……!」
ナイフを握った敵兵が斬りかかるも、割り込んだ『黒鉄守護』オウェード=ランドマスター(p3p009184)がそれを防御。
「ログインしてなかったが……それが皮肉にも役立ったとは思わなかったのう……。
ログアウト出来ない知り合いも居る分、体育教師として行こうかね……」
オウェードは受けたナイフを力強くはじき返すと、武器をこれまた力強く構えた。
「ある時は希望ヶ浜の体育教師! その真の姿は黒鉄守護オウェードじゃ! ワシの居る限り青薔薇を散らす者は一片も無しッ!」
反撃にと繰り出した豪快なレジストクラッシュで相手の姿勢を派手に崩すと、そこへウィリアムの振り込んだ杖が接触。
接触したその瞬間、接点に現れた多重魔方陣が一瞬で凝縮し魔力の杭となって敵兵の肉体を貫いた。
敵兵の身体にはかなり頑丈なボディアーマーが装着され、相当にタフな肉体も併せ持っていた筈。であるにも関わらず、ウィリアムの魔法はたったの一撃でそれを突破したのだった。
「そろそろかな?」
お次をどうぞと言わんばかりにその場から飛び退き空間をあけるウィリアム。同じく飛び退くオウェード。
それを目で追って射撃をくわえようとした兵たちに、ゲオルグは突きのフォームで『アイゼン・シュテルン』の魔力をたたき込んだ。
爆発する魔力。吹き飛ぶ敵兵達。
「好機(チャンス)――」
『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)はその瞬間を逃さずダッシュ。
敵兵たちに気づかれぬよう回り道を使い後ろをとっていた彼女はここへきて突如姿を見せ、敵兵の一人にソバットキックをたたき込んだ。
側頭部を壁めがけてシュートする格好で打ち込んだ蹴りは、激しいダメージを受けた敵兵にトドメをさすのに充分だ。
(ROOは自分の店の仕事が忙しくてなかなかログインできる機会が少なかったが、ログアウト不能で意識不明にならずに済んだ。その機会をいま活かすときか)
素早くモカは天井からぶらさがった照明器具に掴まると対空位置をキープ。ギリギリ体勢を立て直そうとしたもう一人の兵の頭を両足でがしりと掴み、勢いよくロールした。
モカのスピンによって投げられる形になった敵兵は地面に頭をぶつけ気絶。
一方のモカはなんてこともないようにくるりと立ち上がり、そして手袋をした両手をはらった。
(……昔の工作員時代を思い出すな)
そんなモカの隣にスッと現れスタイリッシュにどんぶりと菜箸を構える『至高の一杯』御子神・天狐(p3p009798)。
「フッ、全員が怒濤の必殺技ラッシュを繰り出すこの流れ。わしの終末饂飩外院(ファイナルウドンゲイン)を本邦初公開する時がついに……来たか!」
キラーンと目の光をらんらんさせた天狐の前には、倒れた敵兵達が転がるのみだった。
構えた姿勢のままゆーっくりと振り返る天狐。
「わしのターンは?」
「敵は倒したんだから、もういいだろ」
『特異運命座標』囲 飛呂(p3p010030)が狙撃銃の『P-Breaker』を両手でしっかりと持ったまま、首をこきりとならしながら回した。
「終焉饂飩雷電(フィナーレウドンサンダー)は……?」
「また今度にとっとけ。……つか名前変わってねえ?」
そお? という顔で首をかしげる天狐と、目を合わせる飛呂。
次の瞬間、天井の通気ダクトを破壊し一人の兵士が現れた。
両手に鉄の爪を装備した隠密用タクティカルスーツとR社製タクティカルマスクを装着した――。
「新米の雑兵を何人か殺したようだが、『鉄のコンドル』と恐れられたこの俺キョンド――」
「暁月饂飩炎矢(ライジングウドンファイヤー)!」
おりゃーと言いながらどんぶりを相手の頭部めがけ逆さに叩きつける天狐。
かちわれるうどん。飛び散るだし汁。はじけるうどん。(このあとスタッフが美味しくいただきました)
直後、飛呂は真顔のまま狙撃銃を向け、名前を言いかけたままの敵兵心臓部を的確に打ち抜いた。狙いを付けてから撃つまでおよそコンマ七秒。練習をかさね身体に刻み込んだ、熟練のガンナーが見せる動きだった。
言葉を途切れさせ、倒れる敵兵。
天狐はヒョーウといいながらフィニッシュポーズをとっていたが、そのまま飛呂へと振り返る。
「おぬし、さては気付いておったな?」
「まーな」
それじゃあ行くか、と呟いて歩き出す飛呂。
(俺だって、練達が止まっちまったら……)
言葉にはしないが、想う。
希望ヶ浜で過ごした、平和な日々。新作スニーカーと学校帰りの唐揚げに熱をあげた毎日。おおきな事件はちいさなことで、小さな事件がおおきなさわぎだった思い出。
全部がひっくりかえってしまった今でも、それは大切な『日常』のまま残っている。
「恩返し……とは、違うのかね。なんて言うんだろーな、この感情」
●Monster in the House
肉体の筋力をサポートするパワードスーツ(強化外骨格)を纏った男が、部屋の中をゆっくりと横断する。
部屋の奥、壁際には膝を突き両手を頭の後ろに組んだ白衣の男女が並び、その両端にはアサルトライフルを握った男達が立っていた。
「俺は嫌いなものが三つある。湿気を吸ってへたったアメリカンドッグと、暴落したドル。それと命の危険があるのに嘘をつくヤツだ」
パワードスーツを纏った金髪の巨漢はちらりと振り向き、白衣の男のひとりに拳銃を向けた。
拳銃といっても、大人の両手のひらを合わせたサイズよりも大きく、男が鼻歌交じりに差し込んだ弾は対物ライフル用の99㎜弾であった。
重さもかなりのもののはずだが、男は……枯柳の古参兵ダルフ・レグランはトリガーガードに指を引っかけ軽々と回転させて握り直す。
「ログイン装置の管理パスワードを言え。最初の一文字を言ったやつは生かしてやる。それ以外を適当にひとり殺す。三秒以内だ。さーん」
と言いながら、眼鏡をかけた女性へと拳銃を向けた。
カウントが2から1へとうつるその瞬間。赤いオーラの弾丸がダルフの手首を打った。
部屋の天井部通気メンテナンスハッチから飛び降りるように現れた『Nine of Swords』冬越 弾正(p3p007105)によるものである。
弾正は更にクナイ型の武器を音のオーラによって作り出すと、部屋両サイドに立っていた男達へと次々に放つ。
「どの魂も、まだイーゼラー様の身元に行くべきではない。時が来るまで守り抜くのも黒き使徒たる俺の役目。我が神の力に仰天せよ!」
優れた奇襲攻撃によって男達は手にしていたライフルを取り落とし、そこへ壁抜けを行って部屋奥の研究員たちの背後より現れた『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が蛇銃剣アルファルドを端の男へと突きつけた。
「弾正、あまり無茶は……とは言ってる場合ではないか」
降参しようと両手をあげた男の頭部をアルファルドの柄部で殴りつけると、研究員達に『伏せていろ』と鋭く呼びかけた。
全員がその場に倒れ込むように伏せ、アーマデルは蛇鞭剣ダナブトゥバンを蛇腹形態へ変形させながら横薙ぎに放った。
蛇腹剣はダルフの片腕に絡みぐるぐると巻き付いて強力な磁石のように張り付くと、アーマデルの引く力によってダルフを転倒――させられなかった。
「な――」
あまりのパワーによって引っ張り戻され、アーマデルの方が地面へと投げ出される。
それに、ダルフの手首を撃ったはずにもかかわらず銃はその手にしっかりと握られていた。
「嫌いなものがもう一つあったぜ。良いところで邪魔に入る英雄気取りだ」
アーマデルの頭部に銃の狙いが付けられ、そして即座に引き金がひかれた。
凄まじい音と共に放たれるライフル弾頭。
常人がうければ頭部が爆発するかそれ以上の損壊を受ける威力だ。
が、しかし。
ギリギリのタイミングで飛び込み、ダイブするようにしてアーマデルへの射撃を身体でうける『はらぺこフレンズ』ニル(p3p009185)。
あまりの衝撃にそのまま吹き飛び壁に激突するも、身体はどうやら爆ぜ飛んでいなかった。
「痛た……」
ギリギリで強力な魔術障壁を展開したのだろう。が、それでも腹部から服へと広がる赤い血の色と口からもれる血がニルへの深いダメージを物語る。
「一般の人も、ニルが知らなくてもナヴァン様たちの知ってる人かもしれないし、ニルは守りたいのです」
それでも。それでもニルは床に手を突き、歯を食いしばって起き上がった。
ニルの見せたガッツの強さに、ダルフは僅かに動きを止めた。
混沌世界において、戦場で警戒すべきは強い武器を持ったガンマンでもガタイのデカい筋肉野郎でもない。二度と立ち上がりたくないような打撃を受けても、何かのために立ち上がるヤツだ。
ニルの決意に満ちた瞳に気圧されるように、彼の小さく細い身体に畏怖するように、巨漢のダルフは腰から取り出したライフル弾を再び銃に詰めた。
「うるせえ、寝てろ!」
再び狙いをつけたが、その弾がニルへ放たれることはない。
なぜなら部屋へと飛び込んできた『白き不撓』グリーフ・ロス(p3p008615)がダルフの腕に組み付き、強い力で押さえ込んだからだ。
パワードスーツで屈強なパワーを得ているとはいえ押さえ込まれながら無理矢理細かな狙いを付けることは難しい。
ダルフはもう一方の手でグルカナイフを抜いた。くの字型をした30㎝ほどの刀身をもつ戦闘用ナイフである。それがグリーフの肩へと凄まじい力でたたき込まれ、その組織を破壊する。
が、グリーフはそれでも腕から離れること無くダルフへとしがみついた。秘宝種独特の機械めいた肉体組織が露わになり、ダルフはチッと舌打ちする。
「人形風情が邪魔しやがって……!」
思い切り振り回し、グリーフを壁めがけて投げつける。
しかしその瞬間こそが最大の隙となった。
立ち上がったニルは走り出し、強力な魔力障壁をそのまま拳へと集める。鋼の籠手も鈍器となるように、障壁もまた武器となるのだ。
(飛呂も戦ってる。皆様だって。だから、ニルも――!)
繰り出した拳がダルフのパワードスーツが展開する耐衝撃エネルギーフィールドを突き破り、その顔面へとめり込んでいく。
「弾正!」
アーマデルは英霊たちの力を集め、蛇銃剣アルファルドへと凝縮していく。
英霊の声が、歌が、あるいは自然に震えた剣のパーツの振動音が聖歌の合唱のように響き、打ち出したコイン状の散弾へと力が伝達していく。
それらは耐衝撃エネルギーフィールドを消失させ、ニルの拳を更に深くめり込ませた。
当然それだけではない。弾正は空を走り蹴りを繰り出し、すね部分から露出させたオーラのナイフをダルフの脇腹へと突き立てた。
おかしなねじれかたをして、地面へと崩れ落ちるダルフ。
グリーフは損壊した自らのボディを治癒魔法によって応急修復措置をはかると、今度はこれまで伏せていた研究員たちへと歩み寄った。
「お怪我は」
問いかけに、研究員がむせながら顔を上げる。
「ああ、酷くやられた。打撲はともかく、骨折したやつもいる。そっちを優先してやってくれるか」
グリーフは研究員の目をみて、そしてこくりと頷いた。
(この施設にはЯ・E・Dさんも保護されていた筈。ですが……きっとЯ・E・Dさんなら、自分よりもこの人達の救出を優先しろと言うでしょうね)
グリーフは手早くけが人の応急処置をはかりながら、同じくけが人たちの治療とこの場からの脱出計画を練る仲間達を見た。
戦闘状態を一度解いて、アーマデルが通路側の安全を確保すべくのぞき見る。
「俺にとって大事な者は戻ってきたが、未だ戻らぬ者もいる。
彼らの身体と、それを維持する者達を守り抜かねば」
敬意のこもった彼の言葉に、弾正もまた頷く。
「しかし……この展開は予想すべきだったのかもしれないな。
R.O.Oのザムエルは、混沌側の存在と事情を知っていた。現実のR財団と情報交換をしていた可能性もあれば、現実のR財団が機密に辿り着く事も何ら不自然ではない」
「いえ、無理もありません……」
ニルは自分の回復(修復)を行いながら呼吸を整える。
「ログイン装置は厳重に守られていましたし、ニルたちローレット・イレギュラーズ以外が新規にログインすることはほとんどありませんでした。外部からの干渉なんて、誰も予想できなかったと思います」
願わくば、これ以上の死者を出さぬように……。
「今は、ニルたちにできることをしましょう。ここにいる皆様を、まずは安全な場所へ逃がさなくては」
●Rites Of Passage
複数のドローン兵器やパワードスーツで武装したPMC『枯柳』の制圧環境を脱することは、そう容易なことではなかった。
更には、ログアウトロック状態に陥ったローレット・イレギュラーズたちの肉体を保護するための部屋こと『保護室』は性別や種族、またはその身体特徴にあわせ五つほどに分かれやや離れて配置されていた。
結果として『本隊』と称した約9人のメンバーは道中での戦闘においてかなりの消耗をおこしていた。
「伝令です! 通して下さい、伝令です!」
枯柳の制服を着た兵士が、壊れたアサルトライフルを投げ捨てて保護室のひとつへと飛び込んできた。
八田 悠(p3p000687)やドラマ・ゲツク(p3p000172)、カイン・レジスト(p3p008357)といった主に女性を中心に保護した部屋である。
ドラマたちは半透明な睡眠チャンバーの中で安らかに眠り、太いコードや機械に囲まれたさまはさながら茨城のねむり姫である。
だとすれば、その部屋の中心でピストルを握っていたデラルド・ジャナギアは悪い魔女の立ち位置なのだが。
「おう、ローレット・イレギュラーズの連中は死んだか?」
「い、いいえ……」
開口一番のことばに伝令の兵は声をつまらせつつ答えた。
「突入してきた人数は23人。そのうち10人ほどを殺しましたが、残りは施設内に散っており現在ドローンに捜索させている所です」
「ま、そんなところかァ」
舌打ち交じりに言うデラルド。
そこへもう一人の兵が飛び込んできた。
「伝令です! 侵入してきたローレットの人数が分かりました。全員で29人、そのうち4人ほどが食堂に集めた研究員を救出して施設外へと移動させているようです。残りはこちらへ――」
食い違う二つの報告に、デラルドが顔をしかめる。
「アァ? じゃあなにか、どっちかが嘘つきってことか」
ごくりと息を呑む二人の兵士。
「あー、勘違いするなよ? 『先生怒らないから手を上げなさい』とか言うつもりはねえんだ」
デラルドはもう一丁の拳銃を抜き、そして兵士それぞれへと向けた。
「どっちも死ね。答えは死体に聞いとくぜ」
発砲――と同時に、動き出したのははじめに入ってきた方の兵隊だった。
兵隊……否、変装していた『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)はどこからともなくメイスを取り出すと、炎を纏わせ銃弾を防御。
デラルドへと強引に距離を詰める。
「ドラマ様たちを返して貰いますわ!」
強烈に殴りかかるヴァレーリヤ。
デラルドはパワードスーツの頑強な腕でそれを押さえ、止めた――が、先ほど撃ち殺した筈の『もうひとりの』伝令兵がいない。
その違和感によって湧き上がった不安は、次なる一手を止めるだけの余裕を残さなかった。
つまりは。
「やっと会えたわね……!」
『既に鎮圧を完了していた』部屋入り口通路から飛び込んできたイーリン、そしてレジーナ。更にはウィリアムによる超火力組がデラルドめがけて一斉放火をたたき込んだのである。
「クソが……!」
咄嗟にパワードスーツの背部に固定していた機関銃を展開。イーリンが必殺の『カリブルヌス・改』をたたき込むのと機関銃が火を噴くのはほぼ同時のことだった。
「動けない者の身柄を押さえる戦術的判断は正しい事は認めましょう。
ただ、狙う相手が悪かった。
そこには我が盟友が眠っている。
ならば貴様らは敵だ。
自らの行いを悔いながら絶望のままに死ぬがよい」
ごく僅かな間に早口でまくし立てたレジーナが大量の剣を召喚し、デラルドへと放射。
更にウィリアムの魔力が至近距離からたたき込まれ、デラルドのパワードスーツはそのボディもろともはじけ飛んだ。
「チェックメイト、かな」
ウィリアムは息をつき、そして部屋に設置された睡眠チャンバーたちからスッと目を背けた。
「彼女たちのことは頼むよ。周りの兵隊が集まってきてる」
ウィリアムが部屋の外へ出ると、通路にはゲオルグとオウェード、そしてモカと飛呂が待機していた。
「もう一仕事、と言ったところか」
ゲオルグはぐるりと肩を回し、通路へ現れる兵隊たちの射撃に反応するようにして治癒フィールドを展開。
「見るがいいッ! このイレギュラーズの奇跡をッ!」
武器を構え突撃していくオウェード。近接戦闘のスタイルに切り替えた兵隊と武器をぶつけ合わせ、頑強な肉体でその攻撃をうけきった。
一方、通路反対側からも現れた兵隊たちへと構えるモカ。
「一転して、今度は守る側か」
「けど、こっちから探し回らなくて済む」
飛呂は『援護は任せろ』と言ってライフルを構えその場に足をはった。
射撃――が通路に現れた兵の一人のあたまをとらえた瞬間、高速で距離をつめたモカによる回し蹴りが炸裂。最初の一人が撃たれたことでひっこんだ別の兵たちをなぐようにかりとっていく。
一方別の部屋。天狐は屋内用の荷車を引いて爆走していた。
「美咲殿、情報は引き出せたかの?」
「ええ、まあ」
荷車からヌッと起き上がる兵士の死体。……ではない。
顔を覆っていた巧妙な肉マスクを剥がし、『ダメ人間に見える』佐藤 美咲(p3p009818)はふうと息をついた。
デラルドに接触していた『もう一人の伝令兵』こそ、彼女であった。
「二択を迫るとどっちかを選びたくなるし、ひねくれたヤツは『どっちも!』とか言い出すんスよ。その時点で勝ち確っスね」
「すまん、うどんにたとえて話してくれ」
「出汁は西か東か」
「完全に理解したのじゃ!」
本隊が消耗していたのは事実だ。損耗率だけを見るなら、ヴァレーリヤの偽情報もあながち間違っていない。
おそらく、ドラマたちを守っている部隊員は作戦終了時には半分程度まで減っているだろう。
だが逆に言えば、それまで保てばこちらの勝ちだ。
「あ、おつかれさま☆」
到着したフロアでは、『トリック・アンド・トリート!』マリカ・ハウ(p3p009233)が枯柳の兵隊を始末している所だった。
もちろん、マリカなりの『始末』だが。
「憎い?苦しい?つらい?うんうん♪みーんな枯柳と財団のせいだね☆
いいよ、マリカちゃんの『お友達』にしてアゲル❤」
倒れてうめく兵隊の腕をおかしな方向にねじりながらささやきかけるマリカ。
彼女たちは本隊のように施設への突入や主戦力の撃破を目的とした部隊とも、後述する人質救出を目的とした部隊とも目的を異とする形で組織されていた。
美咲とマリカ、そして『あともうひとり』はここヘキサゴンC区画にいた内通者を探り出すことを目的とした情報収集部隊である。
マリカは非常にイリーガルな方法で兵を痛めつけ、そして痛めつけた(ないしは殺した)後にも渡って尋問を続けていた。
「それで? 目星はもうついてるんスよね?」
荷車を降りた美咲の問いかけに、マリカは『んー』とどこか可愛らしく首をかしげてみせた。
美咲の苦手なタイプ、かもしれない。相手に向ける感情と振る舞いが食い違うタイプの相手は、美咲は苦手だ。感情を躱しずらい。
(そういえば、バルガルさんもそうでしたっけ。あの人もログアウトロックがかかってるんでしたよねえ……)
美咲は脳内で、バルガルの生命維持装置をいじくる想像をした。主に呼吸を維持するための透明な管にプラスチックの洗濯ばさみを挟んだり外したりを繰り返すさまである。
「ま、ほかのついでに助けてあげるとこっスかねー」
思わず漏れた独り言に、もう一回逆向きに首をかしげるマリカ。
「いえなんでも。続きをどうぞ?」
手をかざす美咲に、マリカは全くかわらぬトーンで話を続けた。
「えっとね、内通者は三人いたよ。ひとりは枯柳の突入時に殺された警備員さん。『ようずみ』になったからだって。勿体ないよね」
「……」
マリカのいう『勿体ない』の意図がわかる美咲は黙って先を促した。
「もう一人は、いまさっき腕の関節を逆向きにした人っスか?」
「正解~☆」
マリカの反応からして、出すべき情報は出したといったところだろう。でもって、デラルドが保護室の制圧を完了したにも関わらずイレギュラーズたちを殺害しなかったということは、まだ彼らが得ていないパズルピースがあるということ。
「んー……だとしたらチョット計算が余るんスよねえ。突入した私らを牽制する意図にしてはコストが勝るし、研究員を絞るだけじゃ手に入らないピースなんて限られて……」
一方その頃。『あともうひとり』こと『一菱流段位』観音打 至東(p3p008495)は血塗れで倉庫の中に体育座りする警備員を後ろからそっと抱きしめていた。
「……ご同僚を失った心のいたみ、私めには想像もつきません、が。
まずはその辛さから、ゆっくりと吐き出してくださいまし。
嗚咽でも、涙でも。余人の目を厭うのならば、私の胸元にお隠れなさい。
遠慮はいりませんよ? 今のあなたを、世界の誰にも引き渡しはいたしませんから」
泣きじゃくる警備員の安堵を引き出すように頭を撫でると、警備員は嗚咽を漏らしながら少しずつ自分のことを語り始めた。
昔から小遣い稼ぎに外部の人間を施設内へ引き入れたり設備を横流しすることがあったということ。大抵の場合おおきな騒ぎにならなかったし、人が死んだり怪我をするようなこともなかったこと。
だが今回に限って、些細な情報の横流しが枯柳の突入を許す結果になってしまったこと。
全て語り終えてから、警備員の男は練達の警察組織に自首することを打ち明けた。
「……そうですか」
至東は肩を落とし、そしてもう一度男の頭を撫でてやった。
「安心してください。このことは紛うこと無く零すこと無く、託すべき人たちに託しますとも」
そして。『やった甲斐があった』というべきだろう……至東の腕の中で、男はあることを打ち明けた。
「ROOの中から、人格をダウンロードする手段が見つかったんだ。奴らは、それを手に入れようとしてる……」
●Golden Fleece
二つ並んだ睡眠チャンバーには、それぞれリア・クォーツ(p3p004937)とクリム・T・マスクヴェール(p3p001831)が眠っていた。
装置を維持するためのスタッフは最低限がそばにつき、ライフルを向けられた状態で作業を強制させられていた。
円形の、天井部に天使と雲の絵が描かれたすこしかわった部屋だ。科学や機械のイメージが強いセフィロトにおいて珍しくというべきか、魔術系の機材が多い。睡眠チャンバーも錬金術に使われるようなガラスの棺であった。
生命維持装置の管理を行うスタッフと、それを脅す兵隊。それ以外には二人の女がいるのみだ。
枯柳でも有名なコンビでハンヴィ&ダンヴィという。二人とも健康管理という言葉からほど遠い肥満体型の女で、どちらも御局様めいた雰囲気をしていた。そんな二人がパワードスーツを纏っているので、更にずんぐりとした奇妙な体型になってしまっている。
「さっさとやってェ? 連中が来る前に運び出さなきゃならないんだから!」
「殺さなくていいの? そういう契約だったと思うけど」
「そうだけどさァ」
眼鏡のおばさんといった顔つきのハンヴィが顔を歪めた。
「ローレットのイレギュラーズって、高く売れそうじゃない?」
「あぁ」
太りすぎて皺のよったダンヴィがそのゆるい頬をさらに緩める。
彼女らは部屋の中に持ち込んでいた犬型のドローン兵器数台を起動すると、その一つが敵の接近を感知したアラートを鳴らしたことに仰天した。
『もう!?』という顔をするハンヴィが部屋の入り口を見ると、ゆっくりと開いた両開きのドアから紫髪の女性が姿をみせた。
「大切な君に目覚めた時に笑われないように、不甲斐ない働きはできないさね……」
かけた言葉は、部屋の中にいる他の誰でも無く、リアにむけての言葉だ。
『雨は止まない』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)はガンブレードの柄を優しく撫でるように掴むと、その姿勢をわずかにおとした。
「敵来たんだけど!? さっさと行ってェ?」
ヒステリックに叫ぶハンヴィに応える形で犬型ドローン兵器『ドーベルマン』が走り出す。
二匹のドーベルマンが口を開き、チェーンソーめいた牙を振動させる。
が、シキの表情はそれでもなお穏やかだった。
飛びかかるドーベルマン。
ガンブレードを抜くシキ。
ガキンという音を鳴らし剣で牙をうけとめると、レバーを握り薬莢内に込められた魔力を発動。透明なジェット噴射によって高速の回転斬りを放ったシキは。ドーベルマンの頭部を切断しながらその後ろへと回り込む。
魔力の残滓が散り、『ザァッ』という雨音に似た残響をたてた。
「こんなに頑張るんだ。目が覚めたらお褒めの言葉の一つや二つ貰わなくちゃ」
波及した斬撃によってもう一匹のドーベルマンが切り飛ばされ、入り口側の壁へと激突。
顔を怒りに満たしたダンヴィがずんずんと近寄り両腕のパワーフィストからドルンというエンジン音と振動を放ち殴りかかる姿勢をとった。
「ネズミ一匹入り込んだくらいでさ――」
風を唸らせる轟音と共に放たれるパンチは、しかし。真正面からまっすぐぶつけられた槍のこじりによって止められた。
「――は?」
「こんな火事場泥棒がマジで出てくるとはね。手前の明日だってどうなるかも分からない状況だってのに、ねぇ?」
槍を突く姿勢をとった『律の風』ゼファー(p3p007625)が、うなだれるように顔を伏せていた。
わずかにあげた顔も、長い髪に隠れて表情がよく見えない。
ちらりとだけ見えた青い目がつめたくて、ダンヴィは背筋をゾッとした汗でいっぱいにした。
飛び退いて身を守るか、それとも殴り飛ばしてしまうか。自分の豪腕と迫力で男だって怯ませてきたダンヴィにとって、飛び退くという選択肢はなかった。
「どいてよ!」
振り込んだもう一方のパワーフィストがゼファーの頭部を狙うも、それは見事に空振りした。
脇の下をくぐり抜けるように移動したゼファーが何かをピッと閃かせたきりジャケットのポケットに両手を入れてしまったのだ。
後ろでがらんと槍が落ち、何がおきたのか分からない様子で目だけで振り返ろうとするダンヴィ。だが、首がうごかない。どころか部屋がひっくりかえり、頭にゴッという衝撃がはしった。
なぜだろう。入り口をむいたまま――ダンヴィの首はいつのまにか胴体から切り取られ落ちていた。
「その喧嘩、買ったわ」
睡眠チャンバーを見ると、リアとクリムが眠っている。
ゼファーがローレットという止まり木に『立ち止まって』随分と経つが……。
「死なすには惜しい良い男も、良い女も多すぎるのよ。この枝は」
作業員を脅しつけていたスタッフがゼファーの気迫に驚きライフルを向けるが、その時には既に『包帯の狼』によって喉元を食いちぎられていた。
合流し部屋へと入ってくるウルファ。そしてルビー。
ゼファーは右手の人差し指でささっと前髪を払って表情を露わにすると、余裕そうな垂れ目の笑みをハンヴィに向けた。
「一人も生かして帰さないわよ?」
「ふっざけんじゃ――!」
火炎放射器をとり、構えるハンヴィ。
だがそれよりもルビーがソードモードにしたカルミルーナから炸薬を爆発させるほうが早かった。
対物ライフルでも撃つような激しい銃声によって急加速した剣が、ハンヴィの腕へと豪快に突き刺さる。
「『誰かの夢を守る』……それも、ヒーローの条件の一つ。大事な幼馴染と約束した大事な夢」
ルビーの囁きの意味を理解できぬまま、ハンヴィは剣の突き刺さった痛みに絶叫した。
「痛ぁああああ!? だ、誰かなんとかしなさいよ! 誰か! 誰か来なさいよ!」
叫ぶも、それに応える者はいない。
ゼファーがエネミーサーチを発してみたが、このあたりにはハンヴィしかいなかった。
他は全員、いましがた喉を食い破られた兵隊とおなじ有様になっている。
ウルファはゆっくりと首を振った。
「今までは、その振る舞いで全てが上手くいったんじゃろうが……ここまでじゃな。火事場であろうと、深く眠っていようと、ローレットのイレギュラーズに手を出せばこうもなる」
両手を広げ、無数の包帯を放り投げた。
すると小さな風狼がいくつも組み上がり、グルルと風の音を鳴らす。
対照的に、ハンヴィはヒッと喉を鳴らした。
終わらせるには、たった一言でいい。
「――ゆけ」
同じ頃、『訊かぬが華』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)はパワードスーツを着た大柄な男性の腹を巨大な拳で殴り潰していた。
カイン・レジスト(p3p008357)とバルガル・ミフィスト(p3p007978)、そして仕切りを挟んでブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)が眠る部屋のすぐ手前。たまたま強固な扉のあった部屋であったらしく、扉で籠城していた所にエクスマリアたちが駆けつけたという格好である。
そして敵を発見し次第、黄金の頭髪を束ねダイヤモンドの如く固くしたそれを凄まじい速度で叩きつけたのである。
(無防備となっているところを狙うのは、戦術としては、当然のこと。
合理的な手段を取った、と言える、な。
だが、触れてはならないものに触れた以上、報いは受けてもらう。容赦は、しない)
相手がどんな名前だったのか、何を言いたかったのかも興味は無い。白目を剥いて倒れたそれを掴み、通路のすみへと放り投げる。
そこへやってきた『旅慣れた』辻岡 真(p3p004665)が扉を優しくノックした。
「ローレットイレギュラーズだ。そこに、妙に顔色の悪いメガネの男は眠っているかい?」
しばしの沈黙。やや身構えた様子のある室内から、ノックと返答が帰った。男性の声だ。
『はい……お仲間のかた、ですか?』
「お仲間……か」
真はくすりと笑い、そして目を閉じた。
「そうだね。彼には返してない恩義もあるし、なにより彼のいない世界はつまらないんだ」
『あっちもこっちも、おかげで楽しい世界なのさ』と小声で続ける真に、扉の向こうにいた男性もまたすこし笑った様子だった。
『昔の世界の同志……ってとこですか? 僕にもそういう人がいます』
「気持ちが分かってもらえてなによりだよ。全て終わったら宴会しようと伝えて。俺も校長と奢る側に回るって」
扉から離れると、真は瞳を開き拳を握りしめた。
飛行型のドローンが複数台、通路へと現れる。通路前方、そして後方からもだ。
後方を警戒していた『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)が、『追いつかれましたよ』と声をかけてくる。
「おいおい、タダでさえキレて感情的になるのを抑えてンのに、心を燃やす燃料を注ぎ足すな」
笑顔で真が走り出す。
リディアはあえてその場で立ち止まり、深く呼吸を整え始めた。
(私は信じているんです。
ログアウトロックを受けた人々は、必ず向こうでの使命を終えて帰還すると。
だって皆、とても強い人達です。
きっと諦めたりせずに、戦い続けているでしょう)
扉一枚向こう側にいるブレンダのことを想うと、心の奥からなにかがふつふつと湧き上がる感覚があった。湯が沸くように、もしくは炎が燃えるように。
「そんな寝首を掻こうという下衆が……私の師匠に! 汚らわしい手で触れようとするな!!」
見開いた目。青い瞳は深紅に染まり、リディアは強い踏み込みから凄まじい速度で飛行ドローンへと距離を詰めた。
繰り出した剣がドローンを切断し、更に周囲の壁面や床を切り裂いて行く。
真はその直後を狙い、こちらに銃撃をしかけるドローンへと殴りかかる。兵器といえど所詮は形ある物体。衝撃によってひしゃげ、壁面へとぶつかり墜落する。
が、その直後――天井からスッと何者かが物質透過をして現れた。あえて扉の前から動かなかったエクスマリアと、ドローンを一撃のもとに倒したリディアたちの、丁度中間の位置である。
ひょろながく、髪も長い男性だった。
彼はエクスマリアとリディアたちをそれぞれ見た後。
「おっと、ズレたか」
そう言って跳躍、再び天井へと透過して消える。
リディアやエクスマリアが思いついたのは全く同じ内容だ。
「扉をあけろ! 敵が透過してくるぞ!」
叫ぶや否や、室内から悲鳴。さきほど真が会話した男性のものだ。
間に合わないのか? 強固な扉を隔てた向こうで、大切なひとが今まさに手にかけられようとしているのか?
――否。
「『させる』か!」
リディアは歯を食いしばり、そして凄まじい速度で突進。扉めがけて剣を振り上げると、『師匠』の顔を思い浮かべながら、あるいはそのパワーを想像しながら、扉を一撃のもとに粉砕した。
そして、扉どころかそのフレームごとふきとんでできた大きなあなの向こうには、どこか意外な風景が広がっていた。
「間一髪、ですの」
ブレンダの眠る睡眠チャンバーとの間に割り込んだノリアが今まさに男が繰り出したナイフを己の腕で受け止めていた。細く白い腕に分厚い刀身が刺さり、肉を通し反対側から先端部が飛び出している。それはノリアの鼻先でとまり、更にはノリアの胸元に拳銃が押しつけられた。連続でひかれるトリガー。ひとつなぎになって銃声。
常人であれば崩れ落ちて然るべきだけのダメージを受けて尚、しかしノリアはその場から一歩たりとも動かなかった。
「このために」
流れる血が鼻先におちても、ノリアはまっすぐに相手を見た。
「このために、わたしは『ここ』へ、来たですの!」
「――ッ」
男がさらなる攻撃をしかけようと腕を振り上げた、瞬間。エクスマリアが黄金のエネルギーを発射した。光線がそのまま男の腕を貫き、その直後に鎖が男へと巻き付く。
「遅くなった……が、間に合ったようだ」
マカライトの放った鎖だ。マカライトはそのまま鎖を強く引っ張ると、男をチャンバーから引き離す。
それだけではない。突如としてマカライトは鎖を倍の数に増やすと、その全てでもって男を雁字搦めに縛り上げる。
「ティスル。今だ」
マカライトの脇を抜けて凄まじい速度で飛ぶティスル。剣が男の身体を斬り割き、高速ターンによる連続斬撃が男を八つに切り裂いて行く。
「悪いけど、今は降参を待っていられないの。
……手加減してる暇は無いし。正直、手加減する義理も無いわ」
バラバラに崩れ落ちる男を見下ろし、ティスルは鋭く開いていた翼をやっと閉じた。
真に同行させていたハムスターがぴょんとポケットから飛び出し、ティスルへと戻っていく。
「遅くなってごめんね。けど、他のフロアの制圧は済んだ。あとは皆を守るだけね」
●The Fool Triumphant
PMC枯柳の古参傭兵イワンドは臆病者で有名だった。
「この場所は俺だけの城ですからね……へへ、みんな、無駄に足掻いて死ねばいいんですよ……」
扉の前で拳銃を握り乾いた笑いを浮かべるイワンド。
彼のいる部屋は明るく、壁際にはどこかファンタジックな模様が描かれ、いくつもの花が咲いている。はじめはそういう装飾なのかと思っていたが、どうやらこの花や模様が魔術的意味をもっているらしく、ガラスの棺で眠るЯ・E・D(p3p009532)とリュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)はログアウト不能状態のまま随分長くたつというのに、まるで時が経っているように見えない。
偶然にもこの部屋を発見したイワンドはここに閉じこもり、いざとなれば彼女たちを人質にとることを画策していた。
そんな彼に、足音が近づく。
かりかり、かりかり……と壁を刀かなにかで削りながら歩く音だ。
「へーいたーいさーん、あーけーてっ」
小学生が友達を誘って歌うかのように言うと、扉を外からこつこつと刀で叩く。
「扉に近づくな! ここにいる連中がどうなっても――」
「あ、いるんだ。じゃあ入るね」
ぎん、という音とともに扉のロック部分が無理矢理に破壊され、そして開いた扉から『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)が顔を出した。
「私ちゃんらを探してたっしょ? もっとうれしそうな顔をしろよ!」
ヒッと短い悲鳴を上げて飛び退くイワンドに、『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が急速に距離を詰める。
細身の身体をいかして扉のスキマを滑り抜け、イワンドの手首をガッと掴むとねじり落とすように地面へと転倒させた。
「向こうに囚われちゃってる人は、現実で何か起きた時に対処出来ない。
だからボクはここにいるんだ!こっちで何かあった時にはボクが対処する、そうリアちゃんと約束したから!」
イワンドの顔面に槍の柄を叩きつけて気絶させると、キリッとした顔でガラスの棺をそれぞれ見た。
「リアちゃん! あ、いない!? どこ!?」
「コスプレ部の女教師なら、いまさっき保護されたそうだ。シキから連絡があったぞ」
折りたたみ式の携帯電話を畳み、ポケットにしまいこむ無名偲校長。
「そっか、よかった……リアちゃんは希望ヶ浜コスプレ部の立派な顧問だもんね。写真集、年末に販売するんだもんね……」
えへへ、といってじんわり浮かんだ涙を拭う焔。本人不在なので言いたい放題である。
「これでコスプレ部も安泰だね! タイムちゃん!」
「なんでこっちに振ったの!?」
校長の顔色の悪さを心配していた『優光紡ぐ』タイム(p3p007854)がサッと振り返る。
咳払いして、気を取り直してリュティスの棺へと近づき様子を確認してみる。
それこそ童話の眠り姫よろしく、一切の損傷や劣化を感じさせることなく、ともすればログインしたその日の状態がまるまま保存されているようですらある。
もっと言えば、棺の装飾の美しさや中に並べられた花もあいまって、なんだか綺麗な美術品のようだ。マッドハッターあたりの技術が使われているのだろうか。
そっとガラス面に触れ、表面を撫でるタイム。
「黒狼館だって随分静かになっちゃった。ポメ太郎も寂しそうだよ」
きっとみんな帰ってくると信じて、定期的に掃除をしにいくタイムだが……もしこのまま二度と帰ってこないのだとしたら、そんな悲しいことはない。
「再会の感動に水を差すようで悪いが……」
パチンと扇子を畳む音を立て、『無限陣』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)が扉の前で外をさししめした。
「敵が近づいてる。他のフロア同様、リュティスやЯ・E・Dを奪還すれば優位をとりかえせると思ってるんだろう」
とはいえ他にまともな生き残り方もない。無策と責めるは酷だろうか。
「無名偲校長、下がってな」
「ああ、そうするさ」
当の無名偲校長は部屋の奥にある椅子にどっかりと座り、足を組んでくつろぎはじめている。
余裕だな? と思う一方で、この状況下で? という思いもわいた。
『犬に噛まれただけで死ぬ』と言い張る人間が現場に出てくるこの事態、何か狙いがあるのだろうか。それとも……。
「心配するな」
椅子のひじかけに顎肘をついて笑う無名偲校長。
「俺はこの通り、何もしない。案内をしにきただけだ」
あまりに胡散臭い言い分だが、マニエラはひとまずその言葉を満額で受け取ることにした。
もし彼に『奥の手』があるんだとしたら、それは使わない方がより安全だということなのだろうから。
「来るよ!」
タイムが杖の先端に光を集め、長く伸びたそして幅の広い通路めがけて光弾を発射する。
突き当たりをまがって現れたのは無数の飛行ドローン。そしてパワードスーツを着た兵隊一名っきりだ。
光弾はドローンに命中。残るドローンが一斉に射撃をはじめたので、タイムはすぐさま治癒のフィールドを展開した。
マニエラは自らに魔術を付与すると、無名偲校長めがけて放たれた銃弾を自らの展開した魔術障壁で防御した。
空中で停止した無数の弾頭が、ワンテンポ遅れて地面へとおちカラカラという音を立てる。
「もし地獄の片道切符を手にしているんだったら……半分は私に使わせてもらっても良いんだぞ」
そう言って、くつろぐ無名偲校長の顔を見る。
校長は不吉そうに笑い、口の端だけを釣り上げた。
「そんなものは必要ない。既にここは地獄だ」
「……かもな」
ショットガンを構えこちらへと接近してくるパワードスーツ兵。
焔と秋奈は同時に飛び出すと、焔は炎を纏った槍を。秋奈は鋭く冴えた刀をそれぞれ迫る散弾を浴びながら繰り出した。
「みんなは、ボクが守る!」
「テロリスト鎮圧は学生の夢。うーん、ロマンしちゃったね」
傷だらけになりつつもパワードスーツごと破壊した二人は、崩れ落ちた相手を見下ろしてやっと息をついた。
戦いは、どうやらこれで終わりらしい。それからは追撃らしい追撃もなく、焔たちは保護室の警戒をするのみで残る時間は過ぎてくれた。
こうして、ローレット・イレギュラーズたちは制圧されたヘキサゴンC区画の奪還に成功。生き残っていた非戦闘員たちをも救出し、引き続きログアウトロック状態の仲間達を保護すべく現場の防衛へと移った。
が、得られたのはそれだけではない。
ログアウトロック者たちのサルベージ方法を探る中で偶然にも発見された技術が、このとき再発見されたのである。
それは、ROO内のNPCデータに直接アクセスし、現実側に反映させるという技術であった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
――C区画の奪還に成功しました!
――ログアウト不能者たちの保護に成功しました!
――区画内の生存していた非戦闘員たちの救出に成功しました!
――新たに、ROO内のNPCデータを現実側に反映させる技術が発見されたようです……
GMコメント
黒筆墨汁でございます。with無名偲無意式。
●オーダー
・『ログアウトロック』をされた一部イレギュラーズの肉体を守り抜くこと
・エリアを制圧した違法軍事団体『枯柳』を倒し、エリアを奪還すること。
以上二つがこのシナリオの成功条件になります。
『枯柳』はログインルームを制圧後、ログアウトロック状態となった意識不明のイレギュラーズたちを保護するブロックをまるごと人質とすることで制圧。看護師などの意地に必要なスタッフを取り調べながら順番に殺しています。
とはいえ皆さんの侵入にも気付いた筈なので、皆さんを排除するべく兵力を送り出してくることでしょう。
これらを撃滅し、ログアウトロック対応用特別ログインルームへと急行しましょう。
●エネミーデータ
違法軍事団体『枯柳』
厳密には民間軍事団体ですが、練達の破壊を目論む組織R財団からの資金や武器の援助を受け活動しています。
・一般兵
アサルトライフルやコンバットナイフなどで武装した兵隊たちです。
・ドローン兵器
飛行型と犬型という二種のドローンを用いています。これらは姉ヶ崎によるネットワークハックを受けておらず、枯柳の武器として活用されています。
・デラルド・ジャナギア
『枯柳』のリーダーです。顔に大きく斜めの傷がついており、やや残虐な性格です。
戦闘能力が高く、イレギュラーズの強敵となりえるでしょう。
・戦闘用パワードスーツ
強力な火器をそなえたパワードスーツ。それを着用した兵たちです。
これを倒すにはそれなりの戦力が必要になるでしょう。
●保護管理下にあるPC
2021/11/27時点で『ログアウト不可能』状態にあるPCのうち、以下の人々がこのエリアで保護されています。
このシナリオに失敗、ないしは大きなダメージを受けるような状態になった場合、暫く治療を必要とする状態になるかもしれません。
彼らを守るためにも、この戦いにいち早く勝利しなければならないのです。
――リア・クォーツ(p3p004937)
――ドラマ・ゲツク(p3p000172)
――ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
――Я・E・D(p3p009532)
――カイン・レジスト(p3p008357)
――クリム・T・マスクヴェール(p3p001831)
――コラバポス 夏子(p3p000808)
――リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
――バルガル・ミフィスト(p3p007978)
――八田 悠(p3p000687)
●味方NPC
・無名偲・無意式 (p3n000170)
https://rev1.reversion.jp/character/detail/p3n000170
希望ヶ浜学園の校長です。今回ログアウト不能者たちが保護されている部屋への案内をするという形で皆さんを先導しています。
……というか、彼は『犬に噛まれただけでも死ぬ』と言って現場に出てくることがこれまで一切ありませんでした。
なんで来たのか、そもそも何ができるのか、何を考えているのかさっぱりわかりませんが、少なくとも彼が味方であることは確実であるようです。(そうでなければ皆さんを連れてくる理由がないでしょう)
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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●ROOとは
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline
●希望ヶ浜学園
再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。
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