シナリオ詳細
Backdoor - Lost Code:ORphan
オープニング
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――Project:IDEA ユーザーネームを入力してください。
『D.M:administrator』
――Project:IDEA パスワードを入力してください。
『D.M:■■■■■■■■■■■■■■■■』
――Project:IDEA ユーザーを承認しました。お早うございます。Dr.マッドハッター。
「さて?」
振り返ったDr.マッドハッター (p3n000088)に佐伯 操(p3n000225)は肩を竦めた。
現在『Rapid Origin Online』は『3.0』まで進行している。其方の観測に練達の研究員は躍起となり、介入を受けるマザーの様子も気がかりだ。
操の整頓されたデスクには栄養ドリンクが無数に並び、彼女のかんばせにも疲労が滲んでいる。彼女の代わりに『あの』マッドハッターまでもが駆り出されているのだから相当なものだろう。
「可笑しなデータがないか?」
「いや、ありすぎて振り向いたのさ。操。実に愉快だとは思わないかい? これはバグの集合体としか呼べないではないか」
「………」
「聞こえなかったかい?」
聞こえたと操は嘆息した。R.O.Oでは『バグNPC』が多発している。彼らはパラディーゾと名乗り、イレギュラーズのデータを読み取ってHadesサイドのNPCとして暗躍しているようである。
そう、バグだ。
バグを追えば良いとは考えたが、Dr.マッドハッターが見つけてきたのは、あまりにも――
「操、此処は都市ではないだろうか? どうしてこんな場所から入れたのかは分らないけれどね。
あるパラディーゾを追いかけていったら辿り着いたのさ。どうにも彼女は『事情が違う』賓客のようだ。
……デスカウントのサーチが多かったプレイヤーのログアウトが不能になったのは確かだが、Hades(かれ)の既知もお呼び立てされていたらしいね! だからだろう! バグのデータ蓄積が少なかった事で彼らの側の『操作』が外れてしまった可能性さえある!」
「実に不思議な話だな。だが、基準は『そう』ではないのだろう?」
「そうだろう。デスカウントが少なくとも、データをしっかりと咀嚼されていた場合はしっかりとパラディーゾの責務を果たしているだろうさ。彼らが操作の手から外れたのは偶然だろうね」
マッドハッターが見つけたのは、バグが集積された存在であった。
無数のバグが乱雑に積み上げられた都市。
その地に『管理者権限』を有するだけのアバターを放り込む。ちなみに、そのアバターは適当な研究員の姿をしていた。
曰く、此方のマッドハッターや操の姿を知られないための対策らしい。
「誰か居るようだ。ドクター、声を掛けてみてくれないか?」
「やあ」
声を掛けられたことで、驚愕で『彼』は肩を跳ねさせた。驚愕に濡れた瞳は不安ばかりである。
「聞こえるかい?」
「……まあ」
「君は?」
「……越智内・定。君は『ノンプレイヤーキャラクター』でも『プレイヤー』でもないんだ。
良く分からないけれど、僕が知ってることだけを教えてあげるよ。ここは、初めましてなんだろう?」
●
越智内・定と名乗った青年から得た情報に操とマッドハッターは顔を見合わせた。
曰く、この場所は電脳廃棄都市ORphan(Other R.O.O phantom)と呼ばれている。
ネクストに語られる都市伝説であるそうだが、どこからでも入り込むことの出来るバグのコミュニティとして知られているらしい。
本来は破棄されるはずだったデータは何の因果か再構築され、『サイバー九龍城』とでも言わしめる都市を構築していた。
ネオン看板がぶら下がったその都市で定は『NPCでありながらバグを認識できる』存在として操達を迎え入れたのだ。
「驚いたな……君以外にも誰か?」
「居ますけれども」
問いかけに答えたのは小さな少女だった。だが、その姿に見覚えがある。同様に『それ』が何かを操達は直ぐに認識した。
――パラディーゾ。
バグによってコピーされたNPC。操の前に立っていたのはドウ(p3x000172)である。
「こんにちは。驚きましたか? 私も、まさか此処でお会いするとは思っていませんでした。
数人のパラディーゾが此処に身を寄せているようなので私もお邪魔したのですが……そちらは『管理者』ですか?」
「そうだと言えば?」
「えっ、折角冒険拠点を用意できたのに、もうここはなくなってしまうんですか!?」
慌てたように顔を覗かせた少女はカノン(p3x008357)。こちらもパラディーゾだ。
ますます可笑しな状況だとマッドハッターと操はモニターを眺めながら顔を見合わせた。管理者権限を駆使して『覗いている』以上、あちらにはコード入力でしか干渉は出来まい。
「何も決めつけなくとも。……『管理者』さんも此処を見つけてやってきただけなのでしょう?
こんにちは。『どうやら私たちの存在もバグ』であることから引き寄せられてしまったようです」
穏やかに微笑んだ小金井・正純(p3p008000)は『現実』の姿であった。
(Hadesとやらがログアウトを不能にした者達は現実の姿なのか……。成程、データの読み込みが『そちら』が早かっただけなのだろう)
操は正純が穏やかに微笑んでいる様子にも違和感を覚えた。彼女らはパラディーゾ、つまりは『悪事に荷担している』存在であるはずだ。Hades側の手駒である彼女らが穏やかに生活を営んでいる。それがどれだけ不思議なことであるかは簡単に分るだろう。
「私たちのことが不思議ですか? なら、此処を覗いていって見れば如何でしょう。
数人留守にしているパラディーゾも居ますが、『バグ影響』が途切れることが少しあります。その際には此処に身を寄せて――」
案内をしようとする正純はふと振り返って微笑んだ。
「へえ、此処を見つけるなんて優秀なデバッガーじゃない。……『管理者』?
なら、エラーコードが多発している場所を探したって事? 変な顔。ああ、そうよね。『NPC』はバグが分らないはずだものね。此処に居る人間は『ここがゲームだって』知ってるのよ、困ったものだけど」
正純に応えるように手を振ったリア・クォーツ(p3p004937)――彼女もパラディーゾであり『現実の姿』で存在している――は詰まらなさそうにそう言った。
「私たちはあのクソHadesが『ご招待』してくれたパラディーゾ。だからか、クソ女――アリスやピエロの指示は聞けなかったのよ。ねえ?」
「ええ。破滅は愉悦であることは確かですが、ワタクシ達は彼女たちとはどうやら『道』を違えていたみたいで」
くすりと笑ったパラディーゾ、ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)は唇で三日月を形作る。
「折角です。この『電脳廃棄都市ORphan』を探索してみては?
ワタクシたちバグの集積所、都市であることも確かですが……ここは『新しい発見』でもあるかもしれませんよ?」
●
「電脳廃棄都市ORphan、か」
操の呟きにマッドハッターは「驚いた発見だった! 実に愉快だ」と手を叩いて喜んだ。
ネクストを歪ませる原因であるのは確かだが、あれだけのバグの集積だ。此処を今すぐに排除するのは難しい。
「新しい発見と言っていたが、何があると思う?」
「どうやら、あの地はHadesの影響を受けていないようだからね。死んだデータであるから、だという理由は分る。
ならば、誰も知らない発見があるかも知れないさ! 例えば未知の異世界や『テストデータ』なんかがね」
「ああ、そういえば、私がテストデータに作ったな、『異世界』。
……研究員達が中学生の頃にノートに書いた世界なんかをベースにして随分と怒られたのを思い出した」
マッドハッターは陽田・遥始め黒歴史を上司に『ワールド・テストデータ』として作成された可愛らしい部下達を思い出して笑った。
「成程。そうしたデータがあるのならば探索してみるのも面白い。
……何れは、世界の危機を終えた後こそが本腰だろうけれどね! まずは『何かしてみる』のもありだろう」
- Backdoor - Lost Code:ORphan完了
- GM名夏あかね
- 種別長編
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年11月30日 22時05分
- 参加人数20/20人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 20 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(20人)
リプレイ
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――電脳廃棄都市ORphan。
ゲーム内にてマップを開くが、座標を取得することは叶わない。観測モニターサイドでもエラーメッセージばかりが表示されている。
有象無象、有耶無耶。何もかもが出鱈目に積み上がった此の場所の通称は『サイバー九龍城』。無機質ながらも存在感を放ったネオンが幾度も点滅を繰り返す。
その空間にぼんやりと立っていた『物語の娘』ドウ(p3x000172)は右を一瞥、左を一瞥。そして――眼前に立つ『己の姿』に首を捻って。
「何とも、またまた不思議な場所に行き当たったようですね。電脳廃棄都市ORphan……
これまでも度々おかしな場所を目にしてきましたが、その中でもとびっきりおかしな場所ですね!?」
然うして振り返れば、無味乾燥としているように思えたR.O.Oの世界を思い切り乱雑にオブジェクトを配置し、全てを混ぜ込んだカオスとしか形容できない街が彼女の姿を迎え入れる。
「この世界……廃棄された異世界が入ってるのか。まるで境界の図書館みてえだナ」
呟く『雷陣を纏い』桃花(p3x000016)に小さく頷いたのは『himechan』空梅雨(p3x007470)。彼女らにとっては知り得た姿――否、空梅雨にとっては自分自身と言えよう――が目の前で微笑んでいる。ドウと同じく、そうして目の前に存在しているのは天国篇(パラディーゾ)と名付けられた此の世界の落とし子、無機質なバグにより生み出されたデモニアとも呼べる存在だ。
「パラディーゾってのは敵対するもんだと思ってたんだが、そうじゃないやつもいるたぁナ。クリストっつーのも意外とツメが甘ェナ?」
「いいえ、いいえ。パラディーゾと云うものはそもそもに於いてHadesは関係がありませんから」
首を振ったのは『影歩き』を名乗るパラディーゾ、詰まりは空梅雨の現実世界の姿を移し身にしたパラディーゾである。
「むぅ……ワタクシが囚われている間にあのような……
何故Hadesとやらの目に留まったかはとんと思い当たる節がございませんが。自身の写し身というのは気味が悪いものですね……」
享楽的に、嗜虐的に、そして、その己への嫌悪を抱いた空梅雨は『影歩き』のかんばせに貼り付けられた妖艶な笑みに些か不快感を示していた。
直ちに危害を加えてくるわけでもない様子は友人、桃花の零した言葉に雑談混じりに答えたことからも窺えよう。
「無暗に刺激するのはイレギュラーズにとって逆効果にも成り得ましょう……こほん、ここは『わたし』として、彼女を見張るしかなさそうですね!」
「そうだナ……ヒメ……っつーかヴィオの再現っつーんならそんな心配もネー気はするが、再現がハンパなら逆にアブネーかもナ」
肩を竦める桃花に空梅雨とて頷いた。己自身の再現が高く『変容している』可能性というのが『此の世界のバグ』である。
「しかし、ORphan……もし、わたしの世界……邪神が人の世に邪悪の種を撒いた世界由来のものが流れ着いていたとしたら。
……危険度が高いのは、寧ろそちらかもしれませんからね」
二人を眺める『影歩き』は微笑み続けるだけだ。境界の図書館みたいだと云う言葉に『大鴉を追うもの』クシィ(p3x000244)はふと、「そうだなァ」と呟いた。
「もしかしたら俺の故郷もあるかもしれねェ。折角のチャンスだし色々と別の世界を見て回りてェ……が、先ずは今後の為に土台を固めるとすっかね!」
そういしょうと振り向いたクシィに頷いたのは『妖刀付喪』壱狐(p3x008364)。電脳廃棄都市の名を欲しいままにするORphan。
バグデータに消去されたデータ。廃棄されたそれらが流れ着いた集積地とううのだから調べ街がある。壱狐は出来そうなことを頑張ろうと心に決めて。
「なんともまぁ、此処まで膨れ上がったバグがあったものです。出てくる物が安全な物ばかりだと、良いのですが」
そうとも行かぬのが此の世界だろうと『Error Lady』デイジー・ベル(p3x008384)はやれやれと云わんばかりに肩を竦めて。
「不要データの蓄積による偶発的なファイルの形成……みたいな感じなんだろうか?
規模のデカいシステムだしコレ位の代物が出来上がってもおかしくはないのかもな。探れば研究の裏側っぽいモノが見れそうだし、少し覗いてみるか」
独りごちた『ガジェッティア』雀青(p3x002007)は「こういうのは『バックヤード』って言うのかね……?」と問いかける。
問いに答えたのはパラディーゾ『ドウ』。彼女は「私たちは管理者ではないので知り得ないのです」と首を振った。
「管理者では無い、と云うと?」
「パラディーゾという存在にはそうした顕現は与えられてないのです。あるのは……簡単に言えば自死(データ消去)を自ら行えるくらいでしょうか。
先程、『影歩き』が云ったように私たちはHadesによる作品ではありません。管理者権限データを一部のみ与えられた『アリス』による作品群だと思って下さい」
つまり、この空間についての詳細については知らないのだとドウは淡々と告げた。それでも、彼女らはHadesの目論む世界破壊に協力する姿勢は見せては居ない。コントロールの権限より外れた――意図的であるかはさておいて、だ――存在であるならば、言葉に従うべきかと雀青は「さて」と呟いた。
「居住区域含め、このデータ内を散策しても?」
雀青の問いかけにドウは「どうぞ」と微笑んで見せた。
●
『ここ 落ち着く 好き』
――何か面白いものがあるといいねぇ。ヒヒ!
テケリ・ケリ。楽しげにきゃらきゃらと笑った『不明なエラーを検出しました』縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)は形の可笑しなサクラメントをまじまじと眺めていた。都市郊外から何処まで周辺を探索できるのか、デバッグを行うように動くのが縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の今回の命題である。
探索を行う事は、此の世界での重要な動き方の一つである。バグを感知しようと周辺を確認した『妖精勇者』セララ(p3x000273)は「むう」と唇を尖らされた。右を見ても左を見ても、どこもバグでしかない。住民とてバグの集合体だ――そもそも、パラディーゾもバグの密集であるか。
「ボクはROOの世界も、そこに生きる人達も本物だと思ってる。だから絶対にこの世界を救わないとね」
「僕のような人でもかい?」
肩を過ごした越智内・定を見たセララは「バグなんだね」と呟いた。彼は廃棄されたはずのNPCデータである。そして、本来ならばR.O.OのNPCは此の世界がゲームである事を把握することは叶わない。つまり――セララの言葉を理解し、セララが『プレイヤー』であることを認識する定はバグの集合体なのだ。
「でも、君はコントロール可能な『バグ』だよね? コントロール不可能な『バグ』があれば、魔種やパラディーゾだってピンチになるかも知れないし。
意図的に相手にバグを与えるような仕組みがあれば上手く活用できそうだよねって思って。だから、君はボクが護るべき此の世界の住民だよ!」
「そっか……」
何処か安堵したような定をまじまじと見つめてから『プリンセスセレナーデ』指差・ヨシカ(p3x009033)は息を呑んだ。
(自分のNPCが居るだなんて思っても見ていなかったけれど……まあ、うん、そうだね。
見れば分かる。あれは彼女に出会う前の僕だ。
混沌の世界に喚ばれて、それでも何も出来ずに学校とバイト先と部屋を往復していただけの頃の僕だ)
ヨシカは息を呑んだ。定の暗いかんばせは毎朝鏡で厭と言うほどに見たものだ。俯いて、どうしてこんな事になったんだと学生寮で呻いただけの毎日。
悲嘆に暮れても日常を繰り返すしか平時の精神を保つことが出来ずに希望ヶ浜(らくえん)に逃げ込んだ、だけの自分自身だ。
「君は……」
思わず声を掛けそうになったヨシカは首を振った。違う、此処で声を掛けるのは又別だ。
あの頃よりは前を向ける様になった。あの頃よりは笑うようになった。大きな声を出したり、走り回ったり、怪我をしたり。
そんな『あの頃』では考えられて居なかったような現実が其処に存在していた。
(――それでも、僕はまだ……あの頃の僕と大して変わらない。
大事な人一人守れず、自己保身に走る僕を此処に住む僕が知ったらどう思うだろうか。
そんな事なら”僕”と代われ、そう言うだろうか。結局僕は、まだ大事な一歩を踏み出せずにいる。居るんだ。あれを見れば、分かる)
立ち竦んだヨシカに「自分がいるって、変だよねえ」と笑ったのは『ご安全に!プリンセス』現場・ネイコ(p3x008689)。
肩をぽんと叩いてから、彼女は「定さん」と呼びかけた。虚ろな黒い瞳が焦点を合わせてネイコを見つめる。
「……なんだい?」
「えっと、こっちでもジョーさんって言っていいのかな? ジョーさんは此の場所の住民だから、色々と教えてくれないかな?」
ジョーさんと呼ばれたことに驚いたのか定はネイコをまじまじと見つめる。その様子を眺めていた『怪異狩り』にゃこらす(p3x007576)は「ここじゃ、俺等は初めましてだからよ」と声を掛ける。
「ああ、そうか。何も知らないんだよな、君たちは」
「まあな。けど、初めて訪れた街ってのはちょいとばかし心を躍らせるもんだ。ここが『どんな場所』であってもよ。
俺達は何も知らないんだよ。数人のパラディーゾが滞在してるっていったって、『誰が』居るのかさえ」
もしかしたら自分自身のパラディーゾも居るのかも知れない。そう危惧したにゃこらすは首を振る。自分を嫌っていようが、関係は無い。今は自由気ままな猫なのだ。にゃーにゃーにゃー。ぶなぁごと鳴いて全てを有耶無耶にしてやればいい。
「パラディーゾか。そうだね、僕も何度か見てきたさ。ああ、見たよ。勿論」
「えぇと? ……ちょい待ってや。あー……」
ううんと首を捻ったのは『神落し』入江・星(p3x008000)。
「色々と理解が追いつかんのやけど、R.O.Oの中にあのAIというか敵連中の力の及ばんところで、バグやら不具合やらの集まる場所で。
……そこになーぜか、パラディーゾがいて、他の連中と身を寄せあって生きている、と。
めちゃくちゃ見覚えがあるっつーか、毎朝鏡で見る顔もあるしなぁ。んーー、考えても何もわからんし、まずはこの辺キチッと調査せんとなぁ」
どうしてパラディーゾが此処に居るのだと告げる星は「星巫女? って呼べばええんかな。案内してくれるんやったら、一緒にどうやろう?」と定の元へと『星巫女』を呼び寄せた。
「おや、私もご一緒しても良いのですか?」
「……まあ、この人達が言うしね。僕はいらなく無い?」
ぶつぶつと呟いた定の手をぎゅっと握ってからネイコは「そんなこと無いよ!」と声を張った。『引っ込み思案』な彼を引っ張り出すのはネイコは得意だ。現実で、彼と友達なのだから、こっちでだって上手くいくはずと疑わない。
そんな『花丸ちゃん』が友達として大好きで尊敬しているのだとヨシカは彼女を見つめていた。自分自身に「女の子に手を引かれてびっくりして、及び腰になるなよ」と言ってやりたくなったが、自分がそう言われれば屹度、立ち直れないと考え直してヨシカは口を噤んだのだった。
「んー、すごく煌びやかでゴチャゴチャしてワクワクする場所。様々な世界が見れる……? ならまだ見ない私が知りたい世界が見れるかも……?」
星巫女の説明が聞きたいという『ハンドルネームは』グレイ(p3x000395)は此れは言わば舞台裏やトラッシュボックス。台本や黒歴史ノートの1冊や2冊くらいで的そうだと好奇心と探究心を剥き出しにした。
そんなグレイに『星巫女』は「ご期待に添えれば嬉しいのですが」と微笑んだのだった。
●
「バグまみれ……目がチカチカするッスー!」
『食いしん坊ドラゴン』リュート(p3x000684)はぴょこぴょこと皆の後ろを突いていこうと考えた。リュートの予感ではこのバグ塗れの場所には珍味や屋台が沢山ある筈だ。
「バグってる場所のご飯もきっとバグっててバグった美味しさッス! リュートの胃袋は頑丈ッスから、多少のバグなら食べ切れるッス!」
まるで暴食の獣であるリュートの様子にくすりと微笑んだのは『仮想世界の冒険者』カノン(p3x008357)。案内しましょうかとリュートに微笑んだ冒険者の少女の姿が気になって仕方ないのだ。
その理由は単純明快だ。
「有り得ざるバグの都市、何があるかも知れない未知の場所! これは冒険精神が疼きますねっ。クエストでなくても探索したくなりますっ」
――そんな『同じ事を言う』『同じ顔』が目の前に居たら、気にもならないわけが無い。
「そんな訳で、初めましてもう一人の私。どうぞよろしくお願いしますね!」
「はっ! もう一人の私ですね。初めまして。こちらこそ、どうぞ宜しくお願いしますね!」
微笑んだ『カノン』は冒険に対する探究心に溢れているようである。つまりは、カノンの考える『二倍の冒険が、いやパラディーゾとなり能力が強化されてるならそれ以上に冒険が出来る』可能性は十分に溢れているのだ。
「折角の機会ですし、冒険技能や探索技能で探し出し一緒に冒険に参りましょう。
あちらも準備万端に拠点まで用意してますし、複製されたデータであろうと私は私――きっと冒険を堪えはしない筈です!」
「リュートも『お口で冒険したいッス!」
ぴょんと跳ねたリュートに「屋台での冒険もいいですよね! 沢山お料理はありますよ! けど、内部ならドウさん達が詳しいかも知れませんね!」と『カノン』は微笑んだ。
名を呼ばれた『ドウ』はドウと向き合っている。都市の収集をするドウの後ろを付いて歩いていたようなのだ。
「分かったッス!」
リュートがぴょんぴょんと跳ねて向かうその背を見送ってから郊外へと向かおうとするカノンにパラディーゾ『カノン』は「あ!」と声を上げる。
「良ければご一緒にどうでしょうか?」
「ああ。サイバー九龍城も気になるが、その周辺に何があるのかくらいは調べておきたいからな。
万が一敵わない敵が出て来てもサクラメントがあれば戻る事は出来る。
何も無ければ、何も無かったという情報が分かるからな。無駄になる事は無いだろう。ご一緒しても?」
問いかける『大樹の嘆きを知りし者』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)に勢いよく飛び込んできたのは『サイバークソ犬』ロク(p3x005176)。
「何何! すごいね! ここ、すごいよね! わあ、バグの集まった都市?
わたし、こういうの好き! 面白そう! なにかいいもの見つかると良いなあ! 郊外に行こうよ! やりたいこともあるんだ!」
尻尾をぶんぶんと振ったロクに「何がやりたいんだ?」とベネディクトは問いかける。まるで、愛犬を見ているような心地になったのはチョットだけ秘密だ。
「ええっとね、ここってよくわからないけど壊れたごみ箱なんでしょ? よくわからないけど!
じゃあ、どんなごみ箱なのか試してみたって良いよね! 他の人を巻き込まないようにね! ロバを使うんだ!」
「「ロバ?」」
Wカノンの問いかけにロクはうんうんと頷いた。お楽しみの実験タイムでロバを本気で攻撃して、ロバを倒してみる。それから、自分を倒しtメイル。
ロバと自分が玉砕して、安心安全なサクラメントを確認する。つまりはサクラメントの実験――なのだろう。
『未知 探索』
「ええ、そうです」
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の言葉を何となくにでも理解して見せた『カノン』はご一緒にいかがでしょうかと問いかける。
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の目的はと言えば、真っ直ぐに進むことだ。道中でのモンスターは一先ずは排除してみる。ロクも『電脳廃棄都市ORphanエリアの終わり』を探してみたいと提案した。
『とても 面白い』
「だよね! 此の場所は何処まで進んでいけるんだろうね?」
ロクと縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の問いかけに『カノン』はカノンを見遣って「気になりますね!」と声を掛けた。
つまり、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は飛行、水中、何だって使用してこの年の終わりを目指してみせるのだそうだ。
『未知 不確定 観測 たのし』
意思の疎通を目指す彼らの様子を眺めてから『友達』ジェック(p3x004755)はベンとベネディクトの袖をくいと引いた。
「……変なとこ。Hadesも練達も把握してなかったとしても……多分今回のでHadesも気付いた。から、調査はなるはや、が良い」
「ああ。そうだな。Hadesの追跡から逃れるためにも早々に情報を収集しておきたい。
……もしかするとアリスは此の場所を知っているのかも知れないが……彼女はHadesとは直接的には繋がっていない、謂わば協力者だ。それは気にしなくても良いか」
ベネディクトにこくりと頷いたジェックは「ベン、行こう」と小さな歩幅で歩き出す。ロクが『ロバ突撃』をするねとぶんぶんと尾を振って歩いて幾瀬を見送ってから、ジェックはこてりと首を傾いだ。
「……『何もなさそうに見える場所』には『在っちゃダメな物がある』って相場が決まってる。多分。
最悪サクラメントから戻ってこれる。けど、念のため来た道が分かんなくならないよう気をつける」
「ああ。目印も何もない場所に赴く場合は迷う事に注意しなくてはね」
「……ん」
こくんと頷くジェックにベネディクトは「さて、行ってみるか」と街を抜ける。乱雑と積み上がっていたバグの山を抜ければ、一寸先は闇の有様だ。
オブジェクトが均等に配置されているわけでは無い。例えば、草原フィールドデータであるはずなのに上空には海がある。何もかもが確りと整えられていない有様だ。
「……もしエネミーが存在するなら、その理由がある筈。何もないところにエネミーは配置されない」
「いや……これは、どうだろうな」
「……ん?」
「何もかもがバグではあるが――そのエネミーが配置されている筈が無いのならば、それこそがバグで、何処かに出入り口があるのかも知れない」
「出入り口?」
ジェックはぱちりと瞬いた。確かに、そうだ。何らかの出入り口――例えば、ベネディクトはデータが存在するダンジョンやバグホールが存在するのでは無いかとジェックに問いかける。
「うん。……此処はリアルな仮想現実。……だからエネミーがいるなら、その痕跡が残っている筈。それを追う。
……辿り着くのは巣穴か、別のバグ溜まりか、それとも何かへの入り口から……全部外れで、エネミーは突然生み出されるのかもしれないけど」
「ああ。もしかすると、その奥は『別の何か』かもしれない。場所を記憶するだけにしようか」
それ以上の深追いは何が待っているかは分からない。そう告げるベネディクトは周囲にオブジェクトが存在しなくなったことに気付いた。
データがここまで追いついていないのだろうか。例えば、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧が空を『泳いだ』ように。例えば二人のカノンがランタンに火を灯したように。
――例えば幾分か距離を歩いたというのに、後ろからロクが追いかけてきたように。
「……Hadesも操も知らなかったからってマザーが知らない理由にはならない。……マザーが此処を放置する理由は……なんだろう」
呟いたジェックに先を行く『カノン』がくるりと振り返る。カノンは彼女はパラディーゾで、それがどういう存在であるか理解していると息を呑んだ。
「屹度、偶然の蓄積ですよ。其処に、廃棄されたデータが積み上がった。バックアップのつもりで存在した其れがバグによって空間を作ったのでは無いでしょうか」
理知的な、それでいて、落ち着き払った『カノン』にカノンはパラディーゾがなんたるかと悩ましく感じ始める。
(……ですが、此処で会った彼女達に害意はなく、私から見てまだ何もしてない相手です。
本来なら敵対する相手かもしれませんが、その気は出せなさそうです――少なくとも今は。むしろ親しみすら感じます。私ですしね)
彼女の冒険への熱意が、そして、自分自身であることが、どうしてもカノンに『パラディーゾ・カノン』を疑う気持ちを薄れさせていた。
「ですから、此処は誰にも把握されていない『未知』ばかりなんだとおもいます!
そんな場所を冒険するなら『死んで』はいられませんよね。ふふ、だから私、もっと沢山の世界を冒険しましょう!
ここにはテストデータも山ほどあるんです。屹度、ダンジョンだってありますよ。私は『バグNPC』ですから死んでしまうかも知れませんが、私なら死にませんよね!」
「……ええっと」
「私同士で頑張れば、私が少し死んでも大丈夫です! ね!」
――パラディーゾはパラディーゾ。彼女は『冒険者』としての側面が強すぎてこの場に取り残されていたのか。
ぎゅっと手を繋いだ『カノン』の危うさを感じ取ってからジェックはそろそろとベネディクトの背後へと下がった。
「……ベン、パラディーゾは、不思議」
「ああ……だが、パラディーゾの彼女は言っていた。『いろんな世界を冒険出来る』
それが此の仮想現実を作る際のテストデータの蓄積ならば、本当にR.O.Oにダンジョンなんかを発見できるかも知れないな」
呟いたベネディクトにジェックはこくりと頷いた。
空を泳いで、突然、『海(そら)』が消え失せて、ふわふわと降りてきた縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は『可笑しい』とその場に立っていた。
「どうかしたの?」
問うたロクに縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は「ここ、壁がある」とジェスチャーで伝えたのだった。
……どうやら、漆黒の闇で、世界は区切られているようだ。その先はまだまだノーデータ。つまり、何も存在しない――未知である。
●
「おいしいッス!」
もごもごと料理を食べ続けるリュートの様子を眺めながらドウは「ふむ」と呟いた。
「……こういう場所のゴミ箱って、変なのが落ちてたりするんッスよねー。
珍しいたべもの屋さんのチラシとか無いっすかね? うーん、食べられそうなものはなさそうッス?」
首を傾いだリュートは冷蔵庫の中のスイーツや酒場の秘蔵酒、戸棚のおまんじゅう。祖梳いた者を探したいとぴょんぴょんと跳ね続ける。
『境界』を思い出し――『現実』と繋がる可能性を感じさせる。ひょっとすれば秘宝種に新たな可能性が与えられるかも知れないのだ。
「『九龍城』……『日本』ほどの高頻度ではないですが、たまに旅人さんから聞くコトのある名前ですね。
そう称されると言うコトは……この場所が其処とそっくりなのですか? 大凡ヒトが生活するような場所には見えないのですが……」
「ええ。そうですよ。そのような、と言うべきでしょうか。ですが、其れだけ乱雑にものが積み重なった空間だと思って下さい」
『ドウ』の言葉にドウは成程と呟いた。幾重にも積み重なったバグデータは様々な形をしている。其れ等は山のように積み重なり一区画では高層マンションを思わせる。別の場所を見遣れば全く別の景色が広がっている。どうにも、一言では形容出来なさそうだ。
クシィが「こっちにきたのか?」と首を傾いだのは彼女が向かったのが歓楽街の咆哮だったからだろう。リュートが料理を楽しみに入っていく背中を見つめてからドウは小さく頷く。
「ええ。周囲の散策をしているんですよ」
「成程。ああ、じゃあパラディーゾに聞きたいんだけどよ、こっちは酒場はあるのかい?」
「ええ。その歓楽街のような看板を辿っていけば一区画にそうした酒場……ギルドと、私は呼んでいました。その様な場所がありますよ」
『ギルド』は住民達が情報を集積させる場所らしい。と、言うのもこの場所は『バグ』である以上は直ぐに姿を変えて仕舞うのだそうだ。昨日まであった存在が、そこにはなくなったり、今日になれば其れの姿が変容したり。そうした情報を集めるためにギルドを利用しているらしい。
だが、彼らはバグだ。専らギルドの一角で酒に溺れている住民も多いようだが。
「オーケー。ありがとうな」
クシィは考える。バグと行っても都市の体裁を整えて日常生活を営んでいるのだ。衣食住が必要――或いは、『そうすることで人間らしさを保っている』のかもしれない。通常のNPCのように生活を営むことこそが存在の確率になるとでも思っているかのような。
「まあ、そうか。ただ必要最低限に生きてくだけじゃあ心が痩せちまう。特にこんな、世界から切り離されたような立場と場所じゃあな」
だからこその酒場、賭博だとクシィは脚で情報を集めようと住民達を探す。こんな場所だ。厄介者だ、爪弾きにはならないが『取り込まれないように』と囁いた『ドウ』は穏やかに微笑んでいた。
「取り込まれる?」
問うたセララに『ドウ』は頷く。
「こんな場所ですから、バグはどんな動きをするか分かりませんしね」
「そっかあ。協力者は見つかると思う?」
セララはクシィが向かった方角を眺めて問いかける。自身も、情報屋さんがいるなら協力したいと考えていたからだ。
「今は分かりません。何分『外』は大騒ぎになってくる頃でしょうから――『外』が落ち着いたら住民も心を開いてくれるかも知れませんね」
「そっかあ」
むうとセララは唇を尖らせる。此の場所は『ネクスト』から離れているかのような言い草だ。例えば、セララが危惧するバグNPCが此の場所のバグを利用する可能性や強力な武器などのチートコードを求めていたのだが――『ドウ』自身は「今は利用できません」の一点張りだ。
「それってどうして?」
「色々とアンロックされてるんですよ。バグかもしれませんが。機能が解放されると良いですよね」
『ドウ』も知らないのだと言えばセララは「うーん」と更に悩ましげに唸った。
「シュペルのおかげで全てのリプレイは動画で見れるんだよね?
この冒険のリプレイを練達の科学者に見せたら分析して色々有効活用を思いついてくれるかも。だから色んなバグを見て回るのだー」
「その情報、頂けますか?」
ずいずいと迫っていく『ドウ』を見遣ってから、ドウは成程と呟いた。
「……姿はネクスト世界での私と同じ、ですが……この雰囲気はまるで4年前、故郷から出る前の自分のようで違和感さえあります」
「そうですか?」
「ええ。廃棄データが集まってくる、情報の集積場のようなこの世界は、とても興味が唆られる対象なのでしょう? 分かります」
ドウは最低でも興味を引ける未知があれば彼女からは情報を引き出せるだろうとも考えた。そうして、会話を重ねたのはドウにとって興味をそそる一つ。
「私が気になる情報は……やはり気になるのはつい先日行き当たり、消えていってしまった『データワールド・ワンダーランド』の行方でしょうか。
とは言え、こちらに関して保持している情報は『黄金色の昼下がり』と言う世界の名前と、あの世界で拾った鍵のみ……何か、流れ着いている情報はあるのでしょうか」
「その世界は私も『アリス』に探すようにと言われていました。見つかると良いですね。
此処になければ、もう彼女の故郷は何処にも存在していませんから……」
呟いた『ドウ』にドウは暗い表情をした。彼女の故郷データが残っているかは――
探索中の一行の中で壱狐は「解析は他の人にお任せした方が良さそうですし……ここの住人も利用できないようなモノ(データ)がある場所を教えてくれませんか?」と問いかける。
カノンから様々な知識を『聞いて』居たというドウは「ゴミはおおいですが」と指さした。この都市そのものがバグだ。利用できないデータは山のようにあるらしい。
「これって、修復しても良いんでしょうか? 職人として仮に電脳世界であろうと不具合塗れは据わりが悪いですからね。
ここに流れ着くようなデータですし、何か面白い事が分かるといいのですけどねー?」
――ロックが掛かっています。
壱狐はむ、と唇を尖らせた。ドウにデータを渡したいが、それを彼女は受け取ることが出来ないようだ。
理由を問いかければ「私はパラディーゾなのでこれ以上何かあると『知識を得ることが出来なくなるかもしれないじゃないですか』」と応える。何とも、『ドウ』らしい理由なのだろう。
「これをサルベージやリサイクルすることは難しいのでしょうか」
「通常のデータとは違いますから、難しそうですね。解析も……全てがロックがかかっていますが、これなんかは……」
ドウが指さしたデータを取り上げた壱狐は真四角のデータをまじまじと眺める。鍵のマークが明らかに飾られているが、それは手にすることが出来そうだ。
「それなら、外の技術者などなら解析できるんじゃ無いでしょうか。……パスコードを知っている、という意味で」
●
「っと、その前に1つ質問、この中で1番古いの知ってるなら後で教えてほしい。
ROOのひいては練達のはじまり、この国の光と影を知れたらいいな……知ってどうするというのもあるけど……ただの好奇心」
データが重なった空間を眺めて、グレイは首を傾げる。『星巫女』は「私たちにもさっぱりです」と肩を竦めた。
『星巫女』達を始め、探索に赴く仲間達を見送ったグレイは何でもかんでも扉を開いてみようと考えた。
窓、扉、門、宝箱、開けれる物はなんでも開けてみればいい。奥へ奥へと異世界を目指したいのだ。様々な場所に掛かったのはロック。
現在は利用できませんという言葉ばかりだが、グレイはその中でも何らかの『可能性』を探したいと願っていた。
密林、火山地帯、蒸気文明、地獄、江戸、天上海、お菓子世界、終焉迎えた世界。それらはグレイにとって『おぼろげな記憶』を取り戻すための道である。
「本かテキストデータ、古い映写機がどこかにないのかな? ……っと、既視感からか無意識に境界図書館の中かと勘違いした。
……旅人が元の世界に戻る手掛かりが此処から見つかるかもしれないね?」
「それは――どうだろうか」
雀青は肩を竦める。其れには難しい可能性がある。と、言うのも例えば彼女が『現実世界で経験した実験』のように、個人のデータを用いた仮想の世界を組み上げただけかも知れない。
「そもそも、練達の悲願は元の世界に戻る手がかりだ。だからこそ、斯うしてデータを確認しても、まだロックがかかっているのは……」
「データが不十分だから?」
「かも、しれないし。廃棄されたからかもしれない」
「成程……」
グレイは呟いてから雀御の横顔を見遣った。
「そういえば……何故廃棄データに異世界のものがあるんだ?」と呟いた雀青にグレイは「星巫女さんたちが言うには……『異世界』って……『ネクストではない場所』を指してるみたい」と言う。
「なら、旅人の元世界のデータでは無く……」
「それそのものの意味、……かな?」
成程、得られる情報も限られている。デイジーは「難しいですね」と二人へと近付いた。
「このような込み入った場所だと、どうやって探し当てれば良いのか正直情報が少ないです。聞き込みをしてみたのですが……」
「聞き込み?」
「はい。住民の皆さんに、……えーと、確か相手の目をじーっと見ていれば確率が上がると本に書いてあったような……じーっ、と」
デイジーはそうして問いかけたが住民達は奇妙な廃棄異世界がある場所は知っていると行った。
それはネクストとは別のファンタジー世界のようである。どうやら、R.O.Oの作成時にアバターを利用して適当に動かすために使っただけのワールドデータのようだった。それらは見ることしか出来ず、エネミーもまるごと廃棄されて跋扈されていたが、立ち入ろうとする度にばちんと音をさせて自身等を弾いたのだ。
「ロックされていたようですね」
「ロックして廃棄した……って事だよな」
「ですが、何度か試している内に『ロック解除コードを入力して下さい』と表示されました。
異世界の情報を練達の研究者の皆さんに持って行けば、何らかを知れるかも知れませんね」
デイジーは書き留めておいたとメモを見せる。それは雀青やグレイも同じだ。其れ等のデータを利用すればロック解除の手立てを練達の研究者達に伝えられるだろう。
R.O.Oと練達に起きている――起きる筈、と言うべきか。時間の流れがなんとも曖昧だ――未曾有の大事件をクリアすれば別の『異世界データ』の探索も行えるようになるだろう。
「で! 聞いてもええ?」
「はい」
星の言葉に『星巫女』はこくんと頷いた。穏やかな空間が此処には広がっている。
「この空間は色んな廃棄された異世界データと繋がるってことやけど、パラディーゾの君らもその世界に行ったり出来るん?
てかしたことある? そんで、いつからここはこうなのか。話を聞けるなら、ここに1番長くいる存在に話を聞きたいんやけど」
「一番長い……は」
「……僕かも」
定が手を上げれば「やったぜ!」とネイコがその背を叩いた。彼女は定の無事を約束し、彼の案内を聞きながら都市内を隈無く歩き回った。
例えば、謎の扉を開けば、その外は普通に『航海』の海の中だった。どうやら沈没船だ。
例えば、冷蔵庫を開いたら、その中は普通に『神光』の畑であったし、窓を開けてみれば幻想の街に出た。何とも奇妙な構造だ。
其れ等を知っているがバグNPCは出る事が無いらしい。曰く、出てデータが破損したら『本当の意味で死んでしまう』不安を感じたからだそうだ。
「へえー……。もっと情報あるかなっておもったけど、ジョーさんが教えてくれるなら嬉しいよね!」
「ええ……」
少し、嫌そうである。
「だって、折角探索に来たんだもん。だったらちゃんと情報をゲットしていかないとねっ!
それに黒歴史……げふんげふん、テストデータとか別の世界のかけらとか、申し訳ない気持ちもあるけどそれはそれとして見たくなったりするよね?」
「止めてあげなよ……。ほら、誰だってあるだろ? 鎖とか十字架が好きな時期。ああいうのを見るんだぜ? 心が死んでしまうよ。僕だったら」
「え、しない? でも……こう、何か役に立つかもしれないし!?」
ずいずいと寄ったネイコから逃れるように定は後方へと下がっていく。ヨシカはその様子を眺めながらくすりと笑った。
「だって、『別の世界のかけら』っていいのよ? 名前がとても曖昧よね、他の名称はないのかしら。
それに、私、凄く安心できないのよ。それに此処に身を寄せるパラディーゾ達が軒並みHadesの選んだ者達と言うのも臭うわ。
……その『別の世界のかけら』と言うのを集めるのは、Hadesの指示なのかしら?」
「違いますよ。どちらかといえば、アリスさん、でしょうか……」
呟いた星巫女にヨシカはぱちりと瞬いた。確かに『クオリア』は彼の言うことは聞かないだろう。
「……ねえ、ただこの場に居ないパラディーゾも数人いると言う話、それから『バグ影響』が途切れた際に此処に立ち寄ると言う事は、バグの影響下に陥る時もあると言う事よね?」
「そう、ですね」
「……アリスの言うことを聞いている、というなら、アリスの指揮下に入ることもあるのよね?」
「ええ。もしかすると、です。私たちはHadesが呼び寄せたことでデータの欠落が多くアリスさんの指揮下に入るには不十分ですが……。
私としては『彼女が此の場所で自分の世界を探したい』というのは悪いことでは無いと思っていますよ」
星巫女の言葉にヨシカとにゃこらすが顔を見合わせた。黒歴史データと思わしき場所を指さす定に従って『十字架とか鎖とか、その他諸々盛りだくさん』な登場人物が謎の忍術を使っている世界を眺めてからにゃこらすは爆笑した。
「忍者!」
「忍者って」
「……陽田 遥さんという研究員がいまして……?」
にゃこらす、星、ネイコの様子に星巫女は「言わないであげて下さい」と笑う。どうやら、誰かの黒歴史も山のようにあるのだ。
「ああ、すまん。思わず笑った。『バグ影響』はデータの欠落っていっていたが、それならお前らは自分の意思でアリスの貯めに世界の欠片を集めてるのか?」
「ええ。少なくとも私は。ですが『影歩き』は別の目的がありますし、『クオリア』自身も同情してのことかもしれませんね。
アリスは現実世界で『混沌に取り込まれ消え失せる』所をこのR.O.Oに自身を取り込む事で難を逃れました。その際に構築した世界さえ、失えば……」
最早何も残っていない。そう言うしか無いのだろう。星巫女やクオリアはそうした彼女に協力しているだけなのだろう。
「捨てられた街と言うだけはある……何か一つを拾うにも、落ちている物が多すぎるわね」
呟いたヨシカはHadesが取り込んだパラディーゾ達で此処に居ない存在は『バグ影響』を強く受けて戦いに出ているのかと独りごちてからにゃこらすの手もをと覗き込んだのだった。
「こ、これは」
「……そうだな」
にゃこらすは目をそらした。どうにも現地で生活する住民達の様子を眺めてみるが、皆、普通のプレイヤーのように生活をしている。
それこそ、R.O.OのNPCとは余り変わらない様子は『バグ』や『不可思議な場所』であることさえ忘れさせる。
「そういえば、これだけ見知った顔が居るのだから私の知っている人なんかも居ないかしら。
ひよのさんとか、あとは……その、何? な、なじみさんとか?」
「ああ、そうかもしれないね!」
「確かに」
ネイコとにゃこらすに頷かれて、ヨシカは「そうだよね」と頷く。
「パラディーゾ達にも聞いてみようか。彼女たちは色んな所を出歩いているみたいだし、もしかしたら見かけたりしているかもしれない。
そうじゃなくても、特徴を伝えておけば出先で探してくれるかも知れないからね……いつの間にか普段の言葉遣いをしてしまっていたわね」
はっとしたヨシカに定は「なじみさん?」と問うた。
彼は知らない様子だが――その特徴を伝えておけば聞き込みをしておいてくれるらしい。
例えば、『全く違う異世界(データ)』に彼女達がいる可能性も、もしかするとあるのかもしれない。
●
桃花と空梅雨の目的はパラディーゾ『影歩き』の観察だった。ヴァイオレットの姿を取った彼女が何を思って何をするのかは興味があると告げた桃花に空梅雨は大仰に何度も頷く。
「もう見るからに悪人面ですし胡散臭い! 笑い方も変ですし何しでかすか解らない雰囲気ですよね!
警戒を解かず監視を行います。いつでも銃を抜けるように……」
「ヒメ、めちゃくちゃ自分の悪口言うじゃねえカ。
桃花チャンはヴィオの見た目は可愛いし、綺麗だしで好きなんだけどナ。あのネーチャンも持ち帰りテーぐらいダ」
憤慨した空梅雨の傍らで桃花が口にしたそれを――「……モモ? 冗談ですよね?」じとりと冷ややかな視線で見遣った空梅雨の手には銃が握りしめられていた。
「いや、ジョーダンだよジョーダン。そんな目で見るなよナ!」
慌てる桃花に空梅雨は唇を尖らせる。彼女に可愛いと言われることは友人として慕われ好かれているとイコールだ。詰まりは、悪い気はしないのだが。腑に落ちないのは確かなことなのである。
「さて、モモ。具体的に調べるのは、彼女が『イレギュラーズの何を視ているのか』です。
3人のパラディーゾはバグデータが薄く、敵勢力の制御を外れてるそうですが……何かしらの目的を持っている事は間違いないと思います。
イレギュラーズに対して、味方なのか、敵なのか……それをはっきりさせるまでは、目を離しません!」
空梅雨が振り返れば――桃花は其処には立っては居なかった。
影歩きの動向を観察し、注視して動きを把握してやると意気込んでいた空梅雨は「そもそも」と口を開く。
「ワタク……わたしのコピーだったら碌でもない事しても何ら不思議では……」
――背後に彼女がいない事に気付いた瞬間である。
「ってちょっとモモ!? 不用意な接触は……って、ああもう……!」
項垂れた空梅雨の目の前では早々に彼女の観察に飽きてしまった桃花がひらひらと手を振って歩み寄って行く。
「よーよー影歩きチャン。折角だから観光案内してくれヨナ!」
「ワタクシの案内でよろしいのですか?」
遠目に見ても埒が開かない。こういうのは特攻あるのみだとずんずんと歩み寄った桃花に空梅雨は「モモ!」と慌てて駆け寄った。
「ご友人はワタクシを警戒しているようですけれど」
「いーんだッテ。ま、あんたらバグディーゾの総意はシラネーけどヨ。アンタ自身はこれからどうしていきたいんだ?
それを聞いてヒメが納得したら観光案内くらいはしてくれンだロ? いーよな、ヒメ」
「……ああ、もう……」
がっくりと肩を落として項垂れる空梅雨を振り返った桃花に『影歩き』はくすりと笑った。
「ワタクシの『データ』は通常の取得をされていないのです。ええ、それは先程から皆が申していますでしょう?
だからこそ……ワタクシは『別たれて』しまった。もう一方の『ワタクシ』は唯のケダモノ……それを消し去れば素直に此の世界より消え失せましょう」
『影歩き』の言葉に、空梅雨は息を呑んだ。それは――自身が危惧していたことか。
ヴァイオレット・ホロウウォーカーは邪神と呼ぶべき存在をその影に潜めている。よくよく見れば彼女の影は自ら動くことは無い。唯の、人の如き姿である。
「ワタクシを疎ましいならば此処で殺して仕舞えばよいのです。ですが、『あれ』はワタクシにしか察知できませんから……」
「つまりアンタは『別たれた存在』がこの『電脳廃棄都市』の何処かに潜んでて、ソレを殺すために此処に居るってのカ?」
桃花の問いかけに、彼女は悍ましいほどに美しく微笑んで見せた。
世界の探索もそろそろ済んだ頃だろうか。『いとしき声』P.P.(p3x004937)はと言えば、最初からパラディーゾの『クオリア』に狙いを付けていた。
見知った、と言ってしまえば余りにも可笑しい言葉になるが『よく知っている』そのかんばせをまじまじと見つめてからP.P.は乱雑に置かれていた椅子を指さした。
「御機嫌よう、パラディーゾ・クオリア。お話ししましょうよ。出掛けるより、対話をしたい気分なの」
「ええ、構わないわよ。で?」
矢張り此方の出方を伺っているか――クオリアの問いかけに小さな体で椅子に登ったP.P.は一度息を吐いてから彼女のかんばせをまじまじと見遣る。
「ねえ、アンタも本物とか偽物とか、そういうのに拘るのかしら?
作られた世界に居るから偽物とか、混沌にいるから本物とか、至極どうでもいいと思わない? 生きてるのよ、みんな」
「生きては無いわよ。少なくともパラディーゾと此処の住民はね。
NPCは『生物』として作られているけれど、私は違う。私は、アンタは別個体だし、本物も偽物も関係なく立場が違うじゃ無い」
P.P.はふ、と小さく笑った。ああ、やっぱり『あたし』ではないか。
「アンタ達はアンタ達の世界に、あたし達はあたし達の世界に、確かにね。
ていうか、あたしは清く正しい神の信徒だし、アンタみたいな愛想と態度の悪い女と一緒にされたくないし。アンタもアベリアを見習った方がいいわよ」
「アンタもあたしを見習いなさいよ。そんなだから大きくなれないんでしょ」
つんとした態度を取った『クオリア』にP.P.は「此れには訳があるんだよ」と立ち上がった。見上げれば、自分自身のコピーであるというのに、大人が目の前に立っているような圧迫感がある。
唇を尖らせてからP.P.は一度、腰掛ける。木で出来たテーブルは簡単に壊れそうな我楽多。椅子は段ボールの有様。とてもじゃないが落ち着いたティータイムは楽しめない。
「それで、アンタには聞きたい事が色々あるのだけど、まずは……アンタ達は『クソ女とピエロ陣営』なのかしら?
そうだったら、アンタはあたしの敵よ。ここに紅茶でもあったらぶっかけて終わりだったわ」
「……そうじゃないって言ったらどうするのよ」
「そうね。そうじゃないなら……アンタに協力してもらいたい事があるわ。クソ女陣営のパラディーゾとあんた達の違いは?」
「『ハデス』に呼ばれたかどうかじゃない? あたしのデータをHadesからもらい受けたのはアリスだけど、あたしのデータを取り込んだのはアリスじゃないものね」
「なら、ドウとカノンは何故クソ女たちの影響を受けないの? 普通、あの子達だって受けるでしょ」
「受けてるでしょ。でも、『コピーデータの性格を反映した』らそうだっただけじゃないの?
ドウは引きこもっていたいし、カノンは冒険がしたい。それが強く反映されたら、ああなるでしょ。
皆、そうよ。元のデータが好戦的だったり、悪は許さずなんて掲げてたらそれだけ強く戦う可能性がある。
Hadesが呼び寄せたデータから作られたパラディーゾでもアリスに従ってるパターンがあるのはそういうこと。まあ、他にも『コピーデータの欠損』とか色々あるみたいだけどね」
そう言って『クオリア』が視線を送ったのは『影歩き』であった。彼女の影に潜んだ『邪神』は『ヴァイオレットという女の体』と別たれてしまった。それ故に、彼女は邪神を探して此の地に残っているという。
同様に『星巫女』はと言えば、信ずる神が此の世界には存在せず、パラディーゾとして戦闘の意思を見せなかったため此の地の住民の世話を焼いているらしい。
「そもそも、アンタに出来る事って何?」
「自死、位かしら? あとは、権能があるわ。あたしのは『旋律を聴くこと』――近距離レーダーの役割を果たすわ。
それだけよ。後は、此の世界に飽きたら死ねば良いだけ。アリスは『お優しく』もあたし達に死ぬ権利は与えてくれたって訳ね」
何とも、それは優しいのかどうかとP.P.は「クソ女らしいわ」と呟いた。
情報を簡単に纏めてしまえば、Hadesによってアカウントロックが行われたプレイヤーのデータは通常の方法では無い形で取得されたらしい。故に、欠損している場合が多く、アリスが求める挙動とは別の行動を取ることが稀に見られるそうだ。そうで無い場合は出陣しているだろう、と『クオリア』は言った。同様にアバターのデータの反映により『引きこもることを選んだパラディーゾ・ドウ』は此の地でひっそりと潜伏し『冒険がしたいパラディーゾ・カノン』は世界の危機をさておいて、この新規ワールドとも呼ぶバグ世界に魅入られてしまったらしい。
「まあ、人それぞれ、か。後聞きたい事は………ここには『ワールド・テストデータ』があるって聞いたわ。
それを使えば、この世界の修復……もしくは再製ってできるのかしら。もし可能であれば、バグに苦しむマザーの助けになれるかと思ってね。
マザーが倒れれば練達は滅ぶ。そして、それにはクソハデスの野郎が関わっている。だったら、あたしは絶対にそれを阻止しなきゃいけないのよ!」
「どうして?」
「ど、どうして?」
突然の問いかけにP.P.はたじろいだ。『クオリア』は「あたしはどうでもいいけど」と呟く。
「……分からないわ」
「なら、最後。これも聞いても良い?」
P.P.の問いかけに『クオリア』は「何かしら」と首を傾いだ。此れまでの彼女の問いかけに次は何が来るのかと身構えた様子である。
「あたしはハデスを『破壊したくない』。追い込んで力をそぎ取って、壊れる寸前のあいつのデータを抜き取りたいの。
あたしのアバターに格納してもいい……アンタにその手段が用意できるなら、もしくはその当てがあるなら欲しい」
「変なことを考えるじゃ無い。どうして?」
「そんなの決まってるじゃない。全てあいつの思い通りにさせたくないから。
ハデスは壊さず、マザーの前に突き出す。その時のクソハデスの顔を見てみたい、それだけよ――で?」
P.P.の問いかけにクオリアは肩を竦めた「無理よ」と。「分からない」と首を振った彼女は嘘を吐いているわけでは無いだろう。
「……分からないのはどうして?」
「あたしたちは『バグデータ』だけど『正式な管理者』じゃないわ。そんな事、誰にも分からない。
そもそも、此の場所は本来は存在しない廃棄都市。テストデータと言えども『ネクスト』のデータがそのまま残されている訳じゃ無いのよ」
『クオリア』のその言葉にクシィは「例えばどんなだ」と問いかけた。彼女は出来るだけ此の地でのツテを得ておきたいと歩き回った後らしい。
最後に、彼女の言葉が引っかかったのだろう。異世界に行けるのならば己の故郷のような場所があるのではないか――と。
「練達の研究者が思い思いに作成した『歪な世界』でしょ。あたしがアリスから教わったのは調査も終わってるでしょうけれど」
「『テストデータ』『異世界』ですか? そうですね、アリスさんから聞いたのは『練達の研究者が適当に作った変な世界』ですよね。
全くネクストとは違うMMOのゲームデータだとか、黒歴史ノートから世界観を適当に頂いてきたものだとか……」
顔をひょこりと覗かせたドウにカノンは「行ってみたいです!」と瞳を輝かせ――
「クソ女から聞いたって――やっぱり、クソ女の派閥じゃねーか!」
叫んだP.P.の前には気付けば紅茶が置いてあり――彼女は勢いよく『クオリア』目がけてばしゃりと掛けたのだった。
――『電脳廃棄都市ORphan』の探索によって『XXXXXXXXXXX』がアンロックされました。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
『ORphan』での冒険の続きは――『決戦』のその後で。
GMコメント
夏あかねです。電脳廃棄都市ORphanを覗き見に。
本シナリオは『Rapid Origin Online 3.0』とは関係しないR.O.Oサブストーリー長編シナリオです。
●目的
電脳廃棄都市ORphanの探索(大目的)
●特殊エリア『電脳廃棄都市ORphan』
Other R.O.O phantom。ネクストに語られる伝説都市『ORphan』。
曰く廃墟の扉から、曰く地下道の封鎖壁から、曰く邪教徒の棺から、曰く海底神殿から――世界各地のどこかにひっそりと存在する入り口から、その都市は繋がっている。
本来世界にあるべきでなかった都市。世界に生まれる筈のなかった住民。
それはまさしく、バグのコミュニティであった――
このエリアは『本来はR.O.Oには存在しない』筈の場所です。大規模なバグや消去されたデータが集積された空間となります。
住民の多くはごみばこに入っていたデータがバグで再構築された他、ネクストに存在し得ない異常空間とその住民や旅人世界の再現物などです。
故に、サイバー九龍城とさえ呼ばれており、ネオン看板があちこちにぶら下がった煩雑とした場所です。
この地は操を始め練達側の人間も、Hadesも把握していない場所でしょう。つまり本当の意味で『有り得ては居ない場所』です。
ですが、パラディーゾというバグによって動くNPCが出入りすることで出入り口が分かり易い位置にも存在し、今回発見に至りました。
●NPC
・越智内・定
越智内・定さんのR.O.Oでの姿。住民です。
NPCとして存在していたが、不要であるとシステムが判断してデータを消去――した筈が、データベースエラーの結果『電脳廃棄都市ORphan』にて当該データは再構築された存在です。
彼はバグで『この世界がゲームである事を知っています』。そして『リスポーンする』PCを見るだけでも畏れるでしょう。
・パラディーゾ『ドウ』
パラディーゾであるドウ(p3x000172)さんです。この地を甚く気に入っているのか無数のデータを『読んで』引きこもっているようです。
・パラディーゾ『カノン』
パラディーゾであるカノン(p3x008357)さんです。冒険者として各地を見て回るというPCのデータに寄り添った形でこの地を拠点に冒険をしているようです。
・パラディーゾ『星巫女』
星巫女を名乗るパラディーゾ。小金井・正純(p3p008000)さんの姿をしています。彼女は皆さんを案内するつもりのようです。
・パラディーゾ『クオリア』
クオリアを名乗るパラディーゾ。リア・クォーツ(p3p004937)さんの姿をしています。彼女は干渉するつもりはなさそうです。
・パラディーゾ『影歩き』
影歩きを名乗るパラディーゾ。ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)さんの姿をしています。彼女はこちらを観察しています。
どうやら、パラディーゾには『害を与える』という考えは現時点ではないようです。位階も称していません。
また、『星巫女』『クオリア』『影歩き』と名乗る三人のパラディーゾは特殊なログアウト不可能措置がとられた為、バグデータも薄いようです。
パラディーゾである五人は『電脳廃棄都市ORphan』にある『別の世界のかけら』に興味があるようですが――
●行動指針
推奨される行動は『電脳廃棄都市ORphan』での探索を中心としたものとなります。
都市内を自由に探索することが可能となります。
電脳廃棄都市ORphanに存在するデータは非常に不可思議なものです。
消去されたデータや、バグエネミーやNPCの生活拠点でもあるようです。
また、探索が中心ですが皆さんのお好きな行動を取ることが出来る長編シナリオです。気になることはやってみてください。
ただし、当シナリオはRapid Origin Online 3.0には関連しておりませんので、そちらの『情報収集』には向かないことをご承知おきをお願いします。
【ORphanの調査ポイント ※これ以外の行動も可能】
(1)生活拠点の情報収集
NPC達が住まうサイバー九龍城を探索することが出来ます。
旅人達の世界をモチーフにしたものもありそうです。旅人の皆さんの故郷の品などもあるかも知れませんね。
また、この空間は何処かに繋がっている様子です。小さな扉や冷蔵庫の扉など、そうしたものから『廃棄された異世界データ』へと渡ることが出来るかも知れません。
(2)都市郊外の調査
No data……。詳しいことは分りません。都市郊外は伽藍堂としており、なにも存在していないようにも見えます。
郊外に向かう場合は不自然に光っている『形の可笑しなサクラメント』が拠点となりそうです。
危険なエネミーなどが存在している可能性もあります。危険エネミーの対処は『都市の管理』の上では必要です。
ORphanの住民達のためにエネミー排除をしてみるのも良いかも知れませんね。
●ROOとは
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
R.O.O3.0においてデスカウントの数は、なんらかの影響の対象になる可能性があります。
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