PandoraPartyProject

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零れ落ちたファンデーション

 帝都スチールグラード城塞。
 本来皇帝が住まう筈の空間は――皇帝が暗殺され、それ以降空白の座としてあり続けた。
 ……しかし、そこで一つの物語の決着が見られる。

 皇帝暗殺の真犯人、『闇に落ちしビッツ・ビネガー』の決着によって。

 城塞の隠し通路を突き進む。「ここは?」と沙月(p3x007273)が問えば、秘密の通路であり、ごく一部の者しか知らぬ道であるという――
 少しばかり狭苦しく、天井は低め。あまり歩き心地は良くないが、桃色の結晶一色に染まっていた外よりはある意味マシだろうか。
 シフルハンマ(p3x000319)は困惑しつつも、しかし今はと護衛するように立ち回るものだ。
「子供一人くらいなら守り切れるさ――後は、存分に」
「ええ、道中お願いね。この子たちは私みたいな『闘士』とは違うから」
「自分の親、それも皇帝を殺害したって疑われたのは大変だよな。
 犯人に言いたいことがあるなら言ってくるといいぜ。言うまでの状況はおれっちたちが作り上げるからな!」
「難しい事情は分からないけどね――ガツンと物言ってやらないとね!」
 同時。リック(p3x007033)も任せておけとばかりにビッツをこの先へと送り届ける事を約束する。
 オルタニア(p3x008202)も同様にこの先にいるであろう皇帝暗殺の犯人へと思考を馳せるものだ。

「だけどよ――親父の仇に会って何を話そうってんだ」

 が。シラス(p3x004421)にとっては些か複雑であった。
 彼は、ビッツは『Sクラス』だ。それは現実のシラスが自身で目指す場所と定めた最高峰である。何時の日か到達し、彼と戦う。
 子犬ちゃんと揶揄って笑う彼に打ち勝って遂には栄光の頂に至るのだ。そんな夢を壊すかの如くビッツ・ビネガーは家族だなんだと葛藤している。そんな『小さなこと』で迷う様子を見たくて彼の許にやって来たわけじゃない。そう思っていれ、ば。
「ケジメよ。仇討ちなんか生温いもんじゃないわよ」
「……はあ?」
「家族なんてものは影のようなものよ。何時までもべっとりとついてくる。気持ち悪いでしょ、親も兄弟もそんなものなのよ。
 ……だからね、これまでを清算しなくっちゃならないの。分からなくたって構わないわ。
 此の儘、サヨナラしたってアタシの影は生涯張り付いて剥がれないんですもの」
 その横顔に抱いていたのは、なんだったのだろうか。
 少なくともビッツは――なんぞやに迷っている様な様子ではなくて。
「ま、詰まる所、ビッツを辿り着かせなければ話にならねぇって事だろ?
 なら、意地でも辿り着かせてやるよ。勿論、五体満足でな!」
「その為ならマリアちゃんも守らなくっちゃね」
 その時。眼前より至るは敵だ。Teth=Steiner(p3x002831)が防衛システム――並びにシャドーレギオンを見据えて。
 ザミエラ(p3x000787)は守護対象であるマリアの傍に。傷つけさせまいとすれ、ば。
「うおおお! このマリ家に万事任せて下さい! 拙者達が必ずお二人を目的地へ連れて行きますとも!」
 夢見・マリ家(p3x006685)も咆哮と共に敵へと立ち向かう。
 零した言葉はマリア――エクスマリアへとだ。R.O.Oにおけるエクスマリア=カリブルヌスの姿……
 この世界のビッツにとっては他人ではなくて、故にこの場にも彼女はいる。
 ――そうして彼らは突き進んだ。
 邪魔立てする者を粉砕し、マリアを守護し。ビッツを送り届ける為に。

「――ねえ、ビッツさん。抑えておかないと邪魔が入ってしまうでしょう?
 これを片付けてから追いかけさせてもらうから、ゆっくりお話していて頂戴」

 そして。遂に見えた目的地の直前で――言うは吹雪(p3x004727)だ。
 ここは任せてお先に、と。
 その本懐を――どうぞとばかりに。
「ビッツ殿、どうやら此処が正念場。……『あちら』の出方には気をつけてください」
「ええ……行ってくるわ。決着を付けにね」
 そして花楓院萌火(p3x006098)の言も受け取ったビッツ・ビネガーは辿り着いた。
 イレギュラーズ達が戦っていたのが皇帝を殺害したビッツであるならば、こちらは――
「殺しそびれた方、って所かしらねぇ」
「殺しそびれた……ですか。では、貴方も……」
 ビッツへとツルギ(p3x007105)が言葉を零す。
 ええ――と紡ぐビッツの表情は、さて。
「……アタシがやりたかったのに。
 アイツが皇帝になったからやれなかったことを勝手にやってくれたわね」
 なんと形容したものだっただろうか。
 ビッツは耐えていたのだ。あの男が父さんだと気づいて――しかし無用な混乱を起こすまでもないと。けれど、ああけれど。
「アンタじゃなかったらそんなこともあったのねって位で終わったわよ。
 皇帝はより強い者が。此れまでの歴史でだって暗殺は幾らでもあったでしょう。ラド・バウなんて正式試合で打倒する莫迦正直な奴の方が少ないわ。
 けど、嘘っぱちみたいじゃない? アタシ、『皇帝になんかなりたくないのよ』……よりによっても『アタシ』なんだもの。やんなっちゃう」
 吐息を零す。どうして――『アタシ』なのかと。
 あり得ない事。あってはいけない事。
 けれど、このR.O.Oという世界は『ソレ』を実現した。
 『二人のビッツ』が存在するという事を。
 ソレには些か『ある人物』の意図と手も加わっていたわけだが……しかし、全く同じという訳でもない。父という存在にどこか諦めてもいたビッツと、諦めず憎悪したビッツ。光と闇……という区分かは分からないが、願いの果ての到達点が異なる二人がこそ顕現したのか。
 ダークウイッシュ。その単語がアズハ(p3x009471)の脳裏に思い浮かびて。
(――データでさえ、全く同じならば片方は上書きされるが常だろう。けれど、それでも二人が同時に存在するのは……やはり……)
 記憶か、経験か……アズハは思考を重ねていた。
 とにかく差異があるのだと。容姿は同じでも、行動が何もかも違う――
「フンッ……つまり『アンタ』は『アタシ』に文句を言いに来たわけ?」
「まぁね。別に『アンタ』がいるのは構わないわ。似た顔が世の中には三人ぐらいいるって言うじゃない? でも――ああ勘違いしないでね。恨んではいないわ」
「ビッツ様……」
 嘘でも何でもないわよ、と。思わずフィーネ(p3x009867)に紡いで。
「恨んでなんかいないわよ。優しいあの子達はアタシが父さんを殺された恨み言の一つでも言いに来たと思って協力してくれた。父さんが皇帝じゃなかったらアタシだってアイツを殺してたわ。だから、恨むことなんて赦されないわ」
 ただ。
 『最強の男を殺した』
 『嘘吐きで、本音を何時だってファンデーションで塗り固めて隠した』
 『汚らしい感情を持った』
「――そんな『アンタ』と決別の機会をくれた子達にぐらいは、応えないとね」
 後ろを振り向く。
 シラス(p3x004421)が、吹雪(p3x004727)達が、後ろから迫っている敵を凌いでくれている。
 あの子達が、アタシが家族だなんだにくよくよして戸惑いを見せる姿など期待しているだろうか――?
 否、否。何より己が性分ではないと、微かな笑みを零し、て。
「やってみなさいよ臆病者。結局何もできなかったアンタに、何が出来るって言うの。
 一時は帝都から逃げ出したアンタなんかに……!」
「それは違います――どれだけの感情があっても、何もしない選択肢を選べたんです!」
 血まみれのビッツが叫び、しかし即座にフィーネが言葉を紡ぐ。
 一線を越えたか、越えなかったか。それには重大な差があるのだ。
 ――理解は出来ないのだろうか、彼には。
 父を憎みながらも『しなかった』者はどちらも理解でき、しかし『一線を超えてしまった』。その選択をとれてしまった者には――しなかった者の心理が理解できない。
 ……言葉では決して片付かず、決着をつけるしかない。
 ここに至るまでに、闇に落ちているビッツの身は傷ついている。
 この状態で逆転しうる要素があろうものか。ましてや『もう一人のビッツ』も加わっているというのに。
「じゃあね。『アタシ』――これでサヨナラよ」
「キミを倒して、この国を守って見せるッ――! ギガッ、セララ――ブレイクッ!!」
 最期の攻勢。今際の刹那。
 セララ(p3x000273)らと共にトドメを刺さんとして――

「……覚えていてくれたなら、こうもならなかったかもしれないのにね」

 瞬間。それが皇帝を殺したビッツの、本音だったかもしれない。
 ただ覚えていてほしかった。ただもう少し早く来てほしかった。
 化粧をしていた理由は母に似せたから。
 例え自らの顔が分からなかったとしても、母を一片でも愛していたのなら……
 ――閉じる瞼。
 直後。その身は、まるで砂が崩れる様に――データの粒子として消えていく。
 ……それはやはり彼は分かたれた、間違ったデータであったからなのだろうか? それとも、バグに触れた者の末路はこうなのだろうか?
「……存在を壊しても心は残り続けるんだよ」
 そこへ言の葉を堕としたのはニアサー(p3x000323)だ。
 誰が失われようと、誰かが覚えているのならば全ては――残り続ける。
 だからニアサーを壊してもきっとまた会える。そして、それは同様に……
「……いずれにせよこれで皇帝暗殺の犯人は死んだんだね。
 という事は――これでビッツさんが改めて皇帝に?」
「なぁに言ってるのよ。アタシの手柄じゃないわ。
 トドメを刺したのはアンタ達よ――それに、さっきも言ったでしょ?
 アタシは『皇帝になんかなりたくないのよ』」
 ネイコ(p3x008689)の問いに、一息。
「そもそも――アンタ達は暴漢に襲われた時、そのナイフに罪の是非を問うの?」
「……それはつまり、皇帝暗殺には黒幕がいる、と?」
 言いながら、しかしスイッチ(p3x008586)はなんとなくその正体を推察できていた。
 ――ディアナという少女。この帝都の一連の騒動に関わっているとされる人物。
 そんな者の名前を聞いていた。今もイレギュラーズが一部対処している筈だが……
「狙ったかは知らないけれど、やっぱり一番重要な所の奴を排除してこそ――でしょ」
『理解できない訳ではありませんが、しかしその言の内はやはり『自分が皇帝なんて面倒くさいから』という理由の成分の方が多だと思うのですが』
 IJ0854(p3x0008554)の声――ホホホとわざとらしい笑みをビッツは見せ、て。
「ま、とにかく皇帝なんていう地位は、解決する為にあちこち走り回って頑張ったアンタ達の中から選ばれるのが一番よぉ! 具体的なその選出方法は――ええ、ヴェルスの奴にでもぶん投げるとするけどねぇ!」
 彼はあっけらかんと言ってのけた。
 その表情には、少なくとも見える所に『もう一人のアタシ』を倒したことによる感情の揺れは見られない。それは引いては先代皇帝との因縁が完全に途絶えてしまった事でもあるのだが――
「それでいいんだよね? ビッツさん」
「勿論よ。あんまり過去の事ばかり見てるのは、アタシの性にも合わないしね」
「そうか――それでこそ、アンタって奴だぜ」
 スティア(p3x001034)の問いにも、変わらず。
 同時。ユウキ(p3x006804)が『現実』の方を思い浮かべビッツへと紡ぐものだ。
「さぁ……一度帰りましょうか。外も騒がしいし、長居は無用だわ」
 そして、退いていく。通ってきた道を返る様に、赴いて。
 この国の玉座は未だ少し空白のままに。
 されば、出でる直前。その玉座に向けて零すように――呟く。

 アタシを忘れないで。(Do not forget)
 アンタは覚えてる?(Do you remember?)

 ……同時。開いていた窓より風が至る。
 言の葉を浚う様に。蕩けて消えるは、今際の一声……

 ※グランドウォークライの戦況が報告され始めています!
 ※希望ヶ浜学園にてマジ卍祭り文化祭が開催されています!

これまでの再現性東京 / R.O.O

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