PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<グランドウォークライ>Do you remember

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ある男の話をしよう。
 その男は強かった。ただただ只管に強かった。
 岩を砕くは容易、風すら置き去りに疾走し。
 数多の矛を浮けようとも決して倒れぬ不朽であった。
 その男は最強と称えられ――やがて国の頂点にまで上り詰める。
 絶頂であった。正に自らの全盛期にして、自らの最強ぶりを決して疑わなかった――

 故に、若さゆえの過ちも多かった。

 最強の男に惹かれる異性は多く、そして男も拒まなかった。
 それ故の行為がやがてどのような結果を生むかも一切合切放置して、だ。
 ……男は強かったが聡明ではなかった、という事だろうか。
 全てを喰い、全てを捨て。
 彼という人となりが落ち着いたのはそれから随分と酸いも甘いも過ごした千辛万苦の末。
 老いた男にかつての力はなく。
 故に求めしは次代の後継。曲りなりの皇帝としての責務――

「随分と勝手な話よねぇ。
 後で反省すればなにもかもが帳消しになるとでも思っていたのかしら」

 だがそんな事情など『知った事ではない』のだ。
 なんだソレは。なんだその殊勝な様は。
 ふざけるな。今更になんの顔を見せるというのだ――
 かつてのかつて『もういらぬ』とゴミの様に捨てておきながら、今更漁りになど来るな。
 ――憎悪。
 『ソレ』は生まれ落ちた時からきっと憎悪に包まれていた。
 鋼鉄が国の帝都。その城塞の一角にて崖下を眺めるはラド・バウが闘士ビッツ・ビネガー……『そのもの』だ。ビッツは皇帝暗殺の疑いをかけられ、また些かの事情により帝都を離れていた――のだが。
 ここにいるビッツはそのビッツ『ではない』
 かといって偽物でもない。
 もしもR.O.Oに個体ごとの登録名があるのならば、彼もまたビッツ・ビネガーとして表示されるであろう――完全なる同一個体にして完全なる別人。なにがしかの『事情』により生じたもう一人のビッツ。

 彼こそが皇帝暗殺の真犯人。鋼鉄の国を覆う混沌の原因。

 ――彼は『此処』にいる。
 今やある人物の力によって覆われようとしているスチールグラード。
 その城塞……玉座の間に。尤も、今は空白の座であり誰の椅子でもないのだが……
 憮然とした表情でそこにビッツは座している。
 なんの感慨もありはしない。こんなものは只の椅子だ――あの男を殺した時から。
「はぁ。いつ崩れるのかと待っていたのだけれど、ヴェルスは本当に余計な事をしてくれたわ。アタシの『アタシ』みたいに中央から離れようとすればもっと事は簡単に済んだでしょうに」
 或いは――彼に味方するイレギュラーズがいなければ――だろうか。
 ビッツの目的はこの国の崩壊にある。
 あの男の手に抱かれていたこの国が全て滅茶苦茶になる事を期待していたのだ。
 だから――皇帝殺害後に名乗り出なかった。
 そうすれば各地で『俺が、俺が』と主張し始める馬鹿共が出ると思っていたし、実際そうなった。各地の軍閥の衝突は苛烈さを増し……見ろ! 正義の国が――大々的でないにせよ動くほどの事態となったではないか!
 あのまま進んでいけばこの国は本当に滅茶苦茶になる筈だった。
 アタシはそれを、ワインでも飲みながら待つつもりだったのに……
「フフ。まぁちょっとコレは予想外ではあるけれど……ま、いいとしましょう」
 見据える。窓の外では奇妙な桃色の結晶が満ちている。
 ……どうにも己以外の何か別の思惑が生じている様だが、まぁなんでもいい。
 結局この国が潰れてくれればなんでも良いのだから。
 そしてザーバやガイウスと言った強大なる馬鹿共も動いているとか……アレらが動けばヴェルスと言えどそうそう簡単に事は進むまい。最悪帝都の掌握を己が妨害しようかとも思ったが、これなら必要なさそうだ。故に――
「さ。こんな汚い玉座なんてもういいわ。アタシはどこか旅行にでもいきましょうかね――と?」
 瞬間。『あら?』とビッツが言葉を零したと同時。
 玉座の間に通じる扉が砕かれて――いくつかの影が飛び込んできた。


「ビッツさん……成程ね、本当にもう一人いたんだ……!」
「ビッツから『ビッツが真犯人』と聞いてはいましたが――これもR.O.Oが故ですかね」
 それは現場・ネイコ(p3x008689)と九重ツルギ(p3x007105)などのイレギュラーズの姿であった――現場・ネイコはビッツより聞いた『もう一人のビッツ』の事を探っていれば、帝都でもビッツの姿を見たという情報を得たのだ。
 彼は避暑と称して帝都から離れた地にいるのに、帝都で目撃される筈がない――本来ならば。しかし真犯人を絞り込む目的で動いていたツルギは、帝都で目撃されたビッツこそが裏で動いている者であると当たりを付けた。
 そして予測した。今日というこの日に、恐らく真犯人のビッツが動くであろうことを。
 帝位の空白を作った者が、帝位を奪おうとする動きを許すはずがない。
 いるのならば玉座の間と踏んで……そして当たった。
「なぁに? 無粋な子達ね――
 外の大変な様子は見えてるでしょ? そっちに行かなくていいの?」
「勿論行くよ。でも、ビッツさんを放っておくわけにもいかないね」
「是非お話を伺わせて頂きたいものです――皇帝を何故殺したのか」
 逃がす訳にはいかない。
 皇帝暗殺を成した者が誰なのか分からないから今の混乱が起こっているのだ。
 彼という『もう一人のビッツ』が何故生じているのか……
 それも気にはなるが、さて。

「アタシを? なんですって?」

 ――しかし眼前のビッツから生じる『圧』は余計な思考を全て消し飛ばす。
 忘れてはならない。彼はS級――ラド・バウの頂点達が集う領域に在りし一人。
 そして先代皇帝を抹殺した実力者。
「いいわ、遊んであげる。でもねアタシ最近虫の居所が悪いの……」
 優雅に。手を伸ばして。
「壊れてもしらないからね?」

 直後。まるで大波かの様な殺意が玉座の間全体に――溢れ出した。

 おかしい。この『圧』はなんだろうか? 幾らビッツがS級闘士とは言え、それを考慮しても尋常ならざるものだとツルギの肌が感じている。
 ――されど負ける訳にはいかない。退くわけにはいかないのだ。
 如何な実力をこのビッツが持っているのだとしても。
「最低でも、暫く此処にいてもらうよ」
 ネイコは言う。『此処』に向かってきている者がいるのだから、と。
 本物――いや、『もう一人のビッツ』が。
 ここに。もう一人の己に相対する為に来ているのだからと。

GMコメント

 茶零四です。
 当シナリオは夏あかねSDの『<グランドウォークライ>Do not forge』との連動シナリオになります。

●備考
 本シナリオは<グランドウォークライ>Do not forget(夏あかねSD)との排他シナリオになります。
 どちらかにしか参加できません事をご了承下さい。


●依頼達成条件
 ビッツ・ビネガーの一定時間の足止めor撃退or撃破

 いずれかを果たしてください。

●フィールド
 帝都スチールグラード――その玉座の間です。
 戦うには十分なスペースがあります。周囲は無人……だと思われます。

●『ビッツ・ビネガー』
 それは正しくビッツ・ビネガーです。
 別人――偽物――? いえいえ彼はビッツ・ビネガー。
 皇帝を殺した者。その手を振るいて心臓を打ち抜いた者。

 その実力はまるで『バグ』っているかのように尋常非ざるものです。元々S級闘士でもありますので、相応に実力は高いと思われますがそれを考慮しても尚『強い』実力を感じられます。
 ――彼からは並々ならぬ憤怒と憎悪が感じ取られます。
 普段のビッツは良くも悪くも『遊ぶ』傾向があるのですが……今回に限ってはそういう趣向はあまり見受けられないかもしれません。存分にご注意ください。

 ビッツは隙あらば『この場から去ろう』とします。
 当然留める事が出来なければ失敗しますので、それもご注意ください。
 全滅は勿論の事、数が減っても危ういでしょう。

●サクラメント
 本シナリオでは近くに特殊サクラメントが顕現しています。
 そこから再び戦場に戻る事は可能ですが、多少タイムラグがありますので即座に駆けつける事ができるわけではない事を念頭に置いて下さい。

●フルメタルバトルロア
 https://rev1.reversion.jp/page/fullmetalbattleroar
 こちらは『鋼鉄内乱フルメタル・バトルロア』のシナリオです。

・ゼシュテリオン軍閥
 ヴェルスが皇帝暗殺容疑を物理で晴らすべく組織した軍閥です。
 鋼鉄将校ショッケンをはじめとするヴェルス派閥軍人とヴァルフォロメイを筆頭とする教派クラースナヤ・ズヴェズダーが一緒になって組織した軍閥で、移動要塞ギアバジリカを拠点とし様々な軍閥と戦います。

・黒鉄十字柩(エクスギア)
 戦士をただちに戦場へと送り出す高機動棺型出撃装置です。
 ギアバジリカから発射され、ジェットの推進力で敵地へと突入。十字架形態をとり敵地の地面へ突き刺さります。
 棺の中は聖なる結界で守られており、勢いと揺れはともかく戦場へ安全に到達することができます。

・移動要塞ギアバジリカ
 クラースナヤ・ズヴェズダーによって発見、改造された古代の要塞です。
 巨大な聖堂が無数に組み合わさった外見をしており、折りたたまれた複数の脚を使った移動を可能としています。

※重要な備考『デスカウント』
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <グランドウォークライ>Do you remember完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年09月26日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

セララ(p3x000273)
妖精勇者
ニアサー(p3x000323)
Dirty Angel
IJ0854(p3x000854)
人型戦車
スティア(p3x001034)
天真爛漫
ユウキ(p3x006804)
勇気、優希、悠木
九重ツルギ(p3x007105)
殉教者
スイッチ(p3x008566)
機翼疾駆
現場・ネイコ(p3x008689)
ご安全に!プリンセス
アズハ(p3x009471)
青き調和
フィーネ(p3x009867)
ヒーラー

リプレイ


 暴風吹き荒れる。
 それはあくまでも比喩ではあるが――しかし。
「これがS級――ラド・バウの頂点達が集う領域に在る一人の圧なんだね」
 『ご安全に!プリンセス』現場・ネイコ(p3x008689)は、その暴風の主と相対していた。
 ――それはビッツ・ビネガーの攻勢。
 Sクラスの最も華麗で美しく残酷な番人と呼ばれし彼の戦いの一端。ビッツの振るう腕はまるで神速の如く――しかし鮮やかに舞う、本来の彼からすればあまりに荒々しいその在り様は。
「ダークレギオン……? いや、今はビッツさんを止めるんだ――行くよ皆ッ!」
 何か『別』の要因が関わっているのだとネイコは思考するが、しかし集中を妨げている場合ではない。
 例え誰が相手であろうと、簡単に壊れたりなどするものか。
 ――彼女の一声と共にビッツとの距離を詰める。
 逃がさぬ様に。万が一にもこの場から逃走などさせぬ為に包囲しする様な円状となりて。
「――ったく、すげぇ圧だ……! だけどよ『だからこそ』ってヤツだよなぁ……!」
「ごきげんようビッツ様、少し遊びに付き合って頂きますわ」
 その一角。ビッツより感じられる殺意と暴力に『勇気、優希、悠木』ユウキ(p3x006804)はむしろ歓喜するものだ。これがR.O.Oの世界とは言えS級の壁、か――少しでも油断すれば包囲に穴を開けられようと『ヒーラー』フィーネ(p3x009867)は背筋に感じている。
 それでも一時の壁となろう。それでも一時の戦いに身を委ねよう。
 ――往く。
 入り口や窓の位置を注意して、逃さぬ様にしながら。
 ビッツへとユウキの拳が繰り出されるのだ――五指に込めた力が彼の懐へ。さすればフィーネはいつでも治癒術を齎せるように備え、ネイコはビッツへと向かう者らが倒れぬか見据えながら刃に気迫を纏わせるものだ。
 味方を巻き込まぬ様に位置取りを見据えながら――しかし。
「やぁねぇ。そんなんでこのアタシに挑むつもり?」
 対するビッツには焦りすらない。
 ユウキの拳の一閃をまるで受け流すように。直後に放つ返しの一閃は彼女の首筋――
「っ、ぉ!」
 辛うじて躱すユウキ――抉り飛ばされるが如き一撃は、マトモに直撃すればそれだけで死を連想させるものだ……ビッツの一撃はまるで洗練されている。超越の破壊力がその一閃に在る訳ではないが、的確に人体の急所を穿たんとしてくるのだ。
 大岩を粉砕する、ではなく。大岩であろうとも貫く――そんな印象だろうか。
「好き勝手した挙句に逃亡しようなんて私が許さないよ。
 どれだけの人に迷惑がかかっていると思ってるの!」
 それでも尚にイレギュラーズ達は包囲を続ける。
 今ここで雲隠れされてしまえば次に見つける事など叶うかどうか――いやなにより『天真爛漫』スティア(p3x001034)はこのビッツを許せなかった。皇帝暗殺から始まった一連の事件によってどれ程の混乱が生じていたか。
 各地に軍閥が生じ、一部では正義も動く事態となった――
「諦めるもんか! 私を壊せるものなら壊してみろ――!」
「煩いわねぇ。アンタみたいに顔が良くてギャンギャン言う娘は、嫌いよ」
 意思を堅く。そしてスティアは斬撃一つ。
 前後から彼を押さえる様に――如何にビッツが鋭き流れを持とうとも、あらゆる面から攻撃を仕掛ければ全て捌き切れるはずもない。紡ぐ一閃がビッツを捉え……同時、ビッツの手刀がスティアの顔へと。
 まるでその肌に傷を付けんとしているが如く、なぞる。
 ――狂暴性の塊。
 あまりに『余裕』を感じぬその在り様、普段のビッツを知る者からすれば多少以上の違和感があるものだ。良くも悪くも相手を甚振るビッツの戦いには余裕が感じられ、それが引いては彼の実力の高さをも示していた。
 だがこのビッツは異なる。
 感じるのは残虐性。虐めてやろう、ではなく煩わしいかのように掃わんとしてくるその様――
『おはようございます、私はIJ、貴方の健康を守ります。
 心身に多大な負担がかかっている事が想定されます――
 ビッツ、貴方の心の痛みは10段階で言うとどのくらいですか?』
 これは『人型戦車』IJ0854(p3x000854)にとっては見過ごせぬ。
 観測しうる範囲においてビッツには異常がある――スティアとの対角線上に陣取る様に位置したIJ0854もまた、逃走の阻止を優先しつつ言葉を投げかけるものだ。こちらが逃がさぬ事を念頭に置いていることを、なるべく悟られないためにも。
「なぁにこの木偶の坊は。アタシの心配だなんて随分と余裕なのね。
 心? そんなのが一体なんになるのかしら」
『当機でよければお話をお伺いしますよ。他人に理解できないと思うことでも、話すと楽になることがあります――精神衛生における事柄については、それが肝要です』
「知った風な口を利くのねぇ。お利口さんだわ」
 使い潰してあげようかしら。
 腕を振るえば生じる衝撃波。即座に反応したIJ0854が瞳部に輝きを伴わせ、回避行動。
 肩を削られながらも止まらない――FML、FlexibleMissileLauncher装填。
 放つ。直線上に高速で突き進む一閃が対話の為の道を切り開かん。
 どうしても話さない患者には、話してもらうまで纏わりつくのだから。
「はは――なるほどね。ストレス発散なら付き合ってあげるよ。
 やっぱり体を動かさないとね、嫌な気っていうのは外にでていかないものさ」
「尤も、流石のS級闘士。足止めだけであってもそう楽はさせてもらえそうにないか」
 故に『アルコ空団“路を聴く者”』アズハ(p3x009471)と『可能性の分岐点』スイッチ(p3x008566)も続く。アズハは多少距離を保ちながらビッツに撃を放ち、アッシュもまた刀身に雷撃を纏わせ往くものだ――眼前にビッツを捉えしターゲット・スコープを顕現させ。
 目標をセンターに入れて――一閃。
 が、浅い。ビッツがほんの微かにこちらを見たかと思えば、足首のステップで微かに直撃ラインをずらしたのか。実際のS級闘士――いやあくまでR.O.Oの世界の、であるので現実でも『こう』かは分からないが――しかし。
「いい経験にはなりそうだ」
 だからこそスイッチの闘志に火も付く。
 楽に勝てる相手でないのは重々承知。それにこそ意味もあるのだと、包囲に穴が開かないようにしつつイレギュラーズ達も立ち回るものだ。
「二人のビッツ、かぁ。殺人犯のほうが偽物と言いたい所だけれど……そうとは限らないよね。ねぇねぇ。キミが本物のビッツ――でいいのかな? それとも違うからこんな事をしてるのかな?」
 さすれば――『妖精勇者』セララ(p3x000273)も立ち向かう。
 口端に咥えしドーナッツを内へと一口。自らの身体に活力を齎しながら、紡ぐのはビッツの心へと。
「キミが本物のビッツで、けれど本物と認められないから暴れてるのかな?」
「――本物? ふふっ、違うわよ。アタシはアタシ。
 本物も偽物もない――ビッツ・ビネガーに間違いはないわ」
「ふぅん? だけど殺人鬼は倒さないとね。そしてキミを偽物のビッツにして皆の記憶から消し去るよ。だーれもキミの事なんて覚えてないようにしてあげる」
 刹那。顰められる眉の動きをセララは見逃さなかった。
 このビッツが本物か偽物か。或いは両方本物なのか――
 いずれにせよ彼は見逃せないのだ。だから『此処』にいてもらう。
「――この国を守るためにね!」
「ええ。退く訳にはいきません――暴いてしまった秘密の責もあるのだから!」
 セララの一撃。続くのは『殉教者』九重ツルギ(p3x007105)だ。
 彼はビッツの調査を担当した一人。
 そして、だからこそビッツが隠したかった事を――見てしまったのだ。
「申し訳ないですが今しばらくお付き合いいただきましょうか……!」
「いい顔つき、いい男ね……うざったらしいったらありゃしないわよ」
 ツルギの一撃。返すようにビッツも立ち回り、激烈なる闘争に身を投じる。
 包囲は逃がさぬ形――ああそれはビッツも分かっている。
 だけれどもどうでもいい。
 だってアタシはこんな程度で負ける筈はないのだから。
「クソ皇帝を殺したアタシに、この程度で押し込める事が出来るとでも?」
「さて――しかし、皆が憧れる称号『王殺し』の持ち主だ。カッコいいのだからもっと堂々としていればいいのに。どうしてそうコソコソとばかりしている?」
 実際にビッツは多数に囲まれながらも、敵に与えている傷の方が明らかに多いレベルだ――だけど『Dirty Angel』ニアサー(p3x000323)は疑問にも思う。
 皇帝殺し。ああ、その栄誉を――少なくともこの鋼鉄の国における最高の栄誉を――
「どうして」
 ひた隠しにするのだ。
 味方を巻き込まぬ射線が生まれれば彼女は紡ぐ。
 突き出された両手。その先から大気中を帯電し――無数の球雷を顕現させ、放つのだ。
 幾重にも重なる電流音。激しき雷撃の如く収束すれば、雷鳴轟き道筋を穿つ。
 激しき閃光と共に――さすれば。

「嫌よ。なんであんな男が築き上げたこの国を大事に大事にしなきゃいけないの」

 吐き捨てるように、ビッツは呟いた。
 それこそ彼にとって最も重大な要素。隠れた理由にして、全てを無茶苦茶にする為……
「……この国を完全に速く壊したければ自らが玉座の主になるのが最も近道なのは明白。なぜそうしない? そうする事すら――嫌だというのか?」
 大きく跳躍し雷撃を躱さんとするビッツ。
 追撃するようにニアサーは雷撃を軌道修正しながら放ち続け、て。
「嫌ね。そんなことをしたら邪魔してくる輩が絶対にいるじゃないの……
 煩わしいわどうでもいい。こんな国勝手に滅びてしまえばそれでいいのよ。
 アタシが汗水たらして積極的に崩してやるつもりすらないわ」
 尚にビッツは言い続ける。
 嫌だ嫌だ触れるのも嫌だ。視界にも入れたくない、あの男が関わったモノなど。
 全部壊れてしまえ。砕けて無くなって滅んで消えて。
「では……あなたは……」
 無謬の平原にこそなってしまうがいい。
 その意思を感じ取ったニアサーは――微かに、涙ぐむ様な声になりて。

「――あなたの願いは鋼鉄崩壊の先にあるのですか?」

 辛うじて、紡ぐ。
 国という体制の崩壊だけではない。全てが憎いのかと。
 その悲痛なる声に応えるように――ビッツの口端は、歪む様に吊り上がっていた。


 ――何故今まで名乗り出なかったの?
 ――アタシの事なんてどうでもよかったのかしら。
 ――いや、アンタはアタシの事なんて忘れてたのね。


 セララは感じた。刹那の思念――程度ではあるが。
「忘れられるのが怖いのかな? それとも忘れられてたから、なのかな?」
 それは一瞬の間隙を突いて彼の思惑を読まんとした術によるものだ。
 感じたソレは……かの出来事の感情なのだろうか?
 セララに煽られ、そして思考したのは――
「あら。乙女を除くだなんて、不躾な子ね」
「ふふーん。文句があるなら殺人なんてした事の方を後悔するんだね!」
 そうしなければ、このような出来事などなかったのだと。
 振るわれるビッツの殺意――そして一閃。
 顔・首・鳩尾……とにかく体の中心部を狙ってくる。殺意の高さの表れでもあり、もしもい一対一で相対していれば既に誰ぞの首などもがれていただろうか――?
 しかし一人で戦っている訳ではないのだ。
「させない! こっちが相手だよ、ビッツさん!!」
「ハッ。これだよな……S級って奴らはよ! 上等だぜ、心が躍るってヤツだ!」
 仕留めに掛かるビッツを横から介入するのは、スティアとユウキだ。
 花弁舞い散らせ居合の如く斬撃一つ。直後にユウキもまた拳を捻じ込ませる――
 ハッキリ言ってビッツの速度は尋常ではなく、反応に遅れるユウキでは先手を取る事は叶わない。だがそれならそれでやりようもあるものだと、後の先を狙うものだ……状況を見て臨機応変に。
 このS級を相手取るにはそれぐらいして然るべきだろう、と。
 スティアは特に動きを観察し続け、常に思考を巡らせて。

「――ああもう。メイクが崩れちゃうじゃないの」

 が。であればビッツの苛立ちも徐々に、徐々に増えていく――
 連携を重視し、常にビッツを押さえられるように立ち回るイレギュラーズ達。
 それこそが煩わしい。心の逆鱗を撫でるかのようだ。
 だから。
「そろそろ殺すわ」
「おっと――まずい、ね!」
 瞬間。その動作の『鳴り』を機敏に感じたのは距離を取りながら撃を紡いでいたスイッチか。スラスターからの推進力を力に、刻む様に繰り出す――と同時。ビッツからの殺意が破裂す様に膨れ上がる様を感じて。
 直後。ビッツの『殻』が弾けた。
 膨大なる殺意の波が眼光と共に一人を見定める。己を押さえんとしている輩を、一人ずつ。
 超速に至るその動きは先までの比ではない――
 スティアの繰り出す刃を指先で撫でる様に摘み、そのまま沿うように首筋へ。
 ユウキの放つ拳を下から掌底。ズラし、空いた腹へと絶死の一撃を。
 あり得べからざる衝撃。あり得べからざる力が其処にあるのだ。
 手刀は正に真実、刀の様に。穿つ拳は万象を貫く槍の様に。
 そのまま続けざまにイレギュラーズ達の陣形を崩さんとして――
『ああ、ダメです。それはいけません。
 それは『逃げ』なのですよ――逃げてはなりません。
 貴方は痛みを甘受すべきです……その痛みこそは、貴方を護る為にあるのですから』
 だがさせぬ。攻撃の激化に対しIJ0854が割り込んだ。
『当方には引き続き話し合いの用意があります。さぁ、対面すべきは我々ではなく貴方自身ではありませんか――? その力ただの力ではありませんね。如何にS級と言えども、あまりに異質な暴を感じます』
「で? だから何だって言うのぉ?
 仮にこれがアタシの力ではないのが混ざっているとして――」
 防御の姿勢。何が来ようとも耐えうるべき姿勢をIJ0854は取り。
 しかし――ビッツはその上からあえて『叩きのめす』道を選んだ。
 防御。衝突。衝撃。破砕音。
「痛みなんてアタシにはありゃしないわ。
 それにあの野郎を殺したのは全部全部アタシの意志。
 ああ、でもそうね強いて言うなら――ただただ胸糞悪いだけよ!」
『――自らが穢されているとは感じませんか。これは、重症ですね』
 揺らぐ身体。それでも強引に踏み留まり、IJ0854は言葉を紡ぎ続ける。
 少しでも。少しでも彼から言葉を引き出そう。苛立てばそれだけ――出てくるモノもある。
 それを解消するためにここに居座ることになるのですから。
「逃げるなよ、ビッツさん!」
 だから、アズハも矢継ぎ早に言葉を続ける。
 ビッツは今否定した。逃げる? そもそも痛みはない、と。
 だが。
「自分の全てから、逃げるな! 今が向き合うチャンスなんだ。
 いや逃げればもう二度と訪れないかもしれない――逃げるなど許さない!!」
 それは目を逸らしているだけなのだと。
 眼を閉じて耳を塞いで生きていけばさぞや楽だろうさ。だが許さない。
 そんなものは生き様でもなんでもないのだッ――!
 動き阻害すべく攻撃を重ねていく。一撃で足りずならば二撃でも三撃でも!
 殺人犯よ。現場に戻りたがるのには理由があるのだ――
 貴方も何か『期待』していたことがあったのでは、と。
「あああもう本当に煩いわねぇ……どこまでしつこいのかしらアンタ達は!」
「言ったでしょ、簡単に壊れたりしないって! ずっとずっと、嘘をついてたつもりなんてないよ!」
「そう何度も崩させたりなどしません! 攻撃を超える回復力を……
 殺意を超える救済の力を見せてあげます!」
 食い下がる。誰も彼もが食い下がる。
 あまりのしつこさに包囲に穴を開けそこから脱出せんともするのだが――絶対に逃すまいと、数多の傷を受けながらも立ちはだかるのはネイコだ。そして同時に、仲間は絶対に倒させませんと。
 振り絞る。それはフィーネの全霊だ。
 サクラメントからの死に戻りがあるとはいえ、それだけでは戻ってくるまでの間の厚みがどうしても薄くなる瞬間がある。それを支えている一人が、彼女の力だ。
 彼女が戦線を少しでも支え、ネイコらが戻る時間を稼ぐ。
 無論ビッツはそのように厄介な存在があらば彼女から狙わんとするが――
「させない。そうはいかない。ビッツ、あなたの願いは叶えさせられないから」
『この辺りで休戦は如何ですか? ええ、まだ対話も諦めてはおりませんよ』
 その動きはニアサーやIJ0854によって阻まれる。
 ニアサーがフィーネへの撃を庇い、IJ0854がビッツの前進自体を阻まんとして。
 同時。ガトリング砲の斉射――どれだけ俊敏に動こうとも躱せぬ弾幕を紡ぐのだ。
 そしてニアサーがまだ健在であれば、二撃を基とする連携なる攻撃を。その技の軌跡は東からくる風のように柔らかく――そして緩やかで心地の良い死を共に運んでくる。
 護り、そして攻めるのも忘れない。
 一時でもビッツに余裕を作らせまいとすれば。
「虫の居所の悪いところ申し訳ないけれど、さぁ、付き合ってもらおうか。
 なぁにまだまだ。こっちが折れるまで、ね」
 更にスイッチも往く。IJやスティアがビッツの凶刃に倒れれば、即座に。
 誰かが倒れても必ず誰かが彼を押さえよう――
「壊れそうになったって……想いだけは壊れないんだ。
 何度も何度も想いを繋ぎ合わせてみせるよ。ビッツさんが何度壊そうとしても!
 ――立ち上がってみせるんだからっ!」
 死を受けても尚再び舞い戻る。死の恐怖が無いかの如く鮮烈に輝きを見せる――
 サクラメントから迅速に戻りて戦線に復帰。それまでは残った者が死力を賭す。
 ビッツの暴風如きに負けてたまるかと。
 ――そうでもなくば、これから来る『もう一人』に魅せられない。
 ネイコらの不退転の決意は確実に実を結びつつあった。
 数的有利とサクラメントからの復帰を最大限に生かしてビッツを追い詰める――
 確実に傷は増えている。強大な力を持っていると言えど、しかし確実に。
「ビッツさん。貴方がなぜ皇帝に勝てたか分かりますか?」
 瞬間。言葉を紡いだのは、ツルギだ。
 曲がりなりにも皇帝はこの国最強の称号だ。その人物が何故負けた――?
 老衰、奇襲……様々な事象の積み重ねはあるでしょう、が。
「――実の息子に手を掛けるには、躊躇いがあったのでしょう」
 トドメを許したのは。
「貴方を御父上が愛していたからに他ならない! 違いますか!」
「今更遅いのよ。愛っていうのはね、年月が経てば経つ程芳醇になるものじゃないの。
 水をやらなかった木に、枯れ果てた時にようやく水をやって――成長すると思う!?」
 交差する。ツルギの剣撃と、ビッツの一閃が。
 ――だがやはり逃がさない。押し込める。円陣の中央へ、戻すように!
 手が足りねば身命を賭してでも踏み留まろう。或いは生にしがみ付いてでも。
「成さねばならぬ……事があるのですッ!」
 縫い留める。必ずや、此処に!
「ハッ。成程な……アンタの気持ちは分かるよ。
 さんざん放置した癖に必要だから呼び寄せる――あぁクソだよなぁ」
 同時。死しても尚即座に全力の移動をもって戻ってきたユウキが、言うは記憶の一端。
「もしかして手紙でも貰ったか? アタシもだ。分かるぜ」
 求めていたからこそ、ムカつく。
 愛が欲しかったからこそ、ムカつく。
 ――それなのにどうして何もかも手遅れになった後に来るのだ。
 憎悪に間違いはなく、殺意に揺らぎは無い……だが、本質はその裏返し。
「焦がれていた故の愛憎ってヤツだ、違うか?」
「――黙りなさいよ。アンタの過去なんて、アタシになんの関係も、ないわッ!」
「それにしては鈍ってないかな? さっきから動きが、ね!」
 直後、ユウキに続いてスティアもまた踏み込んだ。
「壊れてもしらないからね? って言ってたわりに大したことないね。私の心を折るような攻撃をしてくるのかなって思っていたけど……全然ダメだよ。本当にS級闘士なの? 子供の喧嘩の方がまだマシに見えるよ――案外安いんだね、ビッツさんって」
「言ってくれるじゃないの小娘……アンタ、人をイラつかせる天才よ」
「ううん。ビッツさんが大したことないだけだよ!」
 S級闘士の実力があるなら、もっとちゃんと見せてほしいんだけど!
 紡ぐ剣閃と共に言葉の刃も鋭く深く。仮に実力で劣っていようと、心では負けない。
 濁流とも言うべき苛烈な勢いがスティアに降り注ぐが――刀に込める力は決して最後まで衰えさせず、捌き続けるものだ。どんな状況が続こうとも……
「絶対に、諦めてあげないんだから」
 言いつつ、更に前進。その動きをフィーネの治癒が援護し。
 ユウキにセララ、ニアサーが往く。スイッチやネイコ、IJ0854も適時ビッツと相対し、アズハの一撃にツルギの一撃も常に。
 誰しもの気迫は折れず、朽ちず、在り続けている。ビッツの殺意は未だ強大であり油断は出来ねども、しかし少なくとも時間を稼ぐ事は存分に出来ていて――
「――ッ! そこ、いるのは誰なのかな!!」
「潜んでいる者が――いますね!」
 瞬間。セララとアズハが見据えたのは、玉座の間の、一角――壁の方だ。
 セララの優れた耳と――そして壁の先を見通す眼が不審な人影を捉えて――
 そこへと紡がれるのはネイコの一撃だ。
 彼女の探知していた敵意の反応はない、が……

「ん~~~わぉわぉわぉ。お待ちください。私は善良なるタダのピエロ……
 え、そういうのいいからはよ進めろって? ん~~~ド正論ッ!!」

 壁に着弾すると同時。飛び出してきたのは――大仰な身振り手振りを晒すピエロが一人。
 ――不審だ。このような所に、少なくともイレギュラーズでないものなど。
 警戒が頂点に。さすればそれをわざと嘲り笑う様にピエロは……
「あ~タダ舞台袖でワイン啜りながら見てただけなのになーんて酷い! いきなり攻撃してくるとか、引きますわー」
「……アンタ、まだいたの」
「おんやこれはこれは、アンタもまーだ生きてたんですか」
 ビッツの方へと言葉を紡ぐ。
 知り合いか――しかし仲がよさそうな雰囲気ではなさそうだが。
 ……このピエロは何のつもりだ? 本当に、ただ『見ていた』だけとでも?
『お答えを。場合によっては撃滅します』
「んああああ! もうそんな敵対視しないでくださいよぉ。お姫様の管轄でこれ以上なんぞやをするつもりなんてなーいんですから。ったく、帰りますよ帰ります~わたしゃ翡翠の方で忙しいんで、あヨイショッっと」
「翡翠……!?」
 IJ0854の声――に、これまたわざとらしくも驚きみせて。
 その時。零れた単語に構えるスティア……
 だが、ピエロは即座に居合の構えを見せた彼女を、恐れる様に姿を通路の奥へと隠してゆく――道中。スティアが逃亡阻止の為に放っていた精霊のサメちゃんを、その指先に捉えて遊んで潰して高笑いながら。
 ……敵意はない、というそれはある意味事実だったのだろう。ネイコの探知に引っかかっていなかったのだから、明確に攻撃してくる心算は無かったと思われる。趣味悪く派手に動く舞台を観察していただけ――
 ただ、状況次第ではどう動いていたかまでは分からない。あのピエロ、嫌な気配を醸し出していた。もしも戦況が例えば劣勢以下の状況であったなら後ろから何か仕掛けてきていたのではないか――? 或いはセララが気付かなかったら――
 だが、いずれにせよあのピエロを追う暇はない。
 目の前のビッツをどうにかする事こそ最優先なのだから。
「……とんだ闖入者がいたものだけど、やる事は変わらないね」
「ええ。あと一歩……いえ、二歩か三歩か知りませんが……!」
 故に、再度注意は円陣の中央へ。
 スイッチが推進力を力に。
 フィーネは変わらず、己に天使の祝福たる加護を掛けながら治癒の術を紡ぎ続け……

 と、その時。

「あら、随分と……待たせちゃったかしらね?」
 声がした。
 知り得る声。いや、目の前にいるビッツと『全く同じ声』が別方向より。
 それは――この戦いの終焉をある意味、指し示していた声であった。


 ビッツ・ビネガーは辿り着いた。それは『もう一人のビッツ』の事である。
 イレギュラーズ達が戦っていたのが皇帝を殺害したビッツであるならば、こちらは――
「殺しそびれた方、って所かしらねぇ」
「殺しそびれた……ですか。では、貴方も……」
 ビッツへと、ツルギが言葉を零す。
 ええ――と紡ぐビッツの表情は、さて。
「……アタシがやりたかったのに。
 アイツが皇帝になったからやれなかったことを勝手にやってくれたわね」
 なんと形容したものだっただろうか。
 ビッツは耐えていたのだ。あの男が父さんだと気づいて――しかし無用な混乱を起こすまでもないと。けれど、ああけれど。
「アンタじゃなかったらそんなこともあったのねって位で終わったわよ。
 皇帝はより強い者が。此れまでの歴史でだって暗殺は幾らでもあったでしょう。ラド・バウなんて正式試合で打倒する莫迦正直な奴の方が少ないわ。
 けど、嘘っぱちみたいじゃない? アタシ、『皇帝になんかなりたくないのよ』……よりによっても『アタシ』なんだもの。やんなっちゃう」
 吐息を零す。どうして――『アタシ』なのかと。
 あり得ない事。あってはいけない事。
 けれど、このR.O.Oという世界は『ソレ』を実現した。
 『二人のビッツ』が存在するという事を。
 ソレには些か『ある人物』の意図と手も加わっていたわけだが……しかし、全く同じという訳でもない。父という存在にどこか諦めてもいたビッツと、諦めず憎悪したビッツ。光と闇……という区分かは分からないが、願いの果ての到達点が異なる二人がこそ顕現したのか。
 ダークウイッシュ。その単語がアズハの脳裏に思い浮かびて。
(――データでさえ、全く同じならば片方は上書きされるが常だろう。けれど、それでも二人が同時に存在するのは……やはり……)
 記憶か、経験か……アズハは思考を重ねていた。
 とにかく差異があるのだと。容姿は同じでも、行動が何もかも違う――
「フンッ……つまり『アンタ』は『アタシ』に文句を言いに来たわけ?」
「まぁね。別に『アンタ』がいるのは構わないわ。似た顔が世の中には三人ぐらいいるって言うじゃない? でも――ああ勘違いしないでね。恨んではいないわ」
「ビッツ様……」
 嘘でも何でもないわよ、と。思わずフィーネに紡いで。
「恨んでなんかいないわよ。優しいあの子達はアタシが父さんを殺された恨み言の一つでも言いに来たと思って協力してくれた。父さんが皇帝じゃなかったらアタシだってアイツを殺してたわ。だから、恨むことなんて赦されないわ」
 ただ。
 『最強の男を殺した』
 『嘘吐きで、本音を何時だってファンデーションで塗り固めて隠した』
 『汚らしい感情を持った』
「――そんな『アンタ』と決別の機会をくれた子達にぐらいは、応えないとね」
 後ろを振り向く。
 シラス(p3x004421)が、吹雪(p3x004727)達が、後ろから迫っている敵を凌いでくれている。
 あの子達が、アタシが家族だなんだにくよくよして戸惑いを見せる姿など期待しているだろうか――?
 否、否。何より己が性分ではないと、微かな笑みを零し、て。
「やってみなさいよ臆病者。結局何もできなかったアンタに、何が出来るって言うの。
 一時は帝都から逃げ出したアンタなんかに……!」
「それは違います――どれだけの感情があっても、何もしない選択肢を選べたんです!」
 血まみれのビッツが叫び、しかし即座にフィーネが言葉を紡ぐ。
 一線を越えたか、越えなかったか。それには重大な差があるのだ。
 ――理解は出来ないのだろうか、彼には。
 父を憎みながらも『しなかった』者はどちらも理解でき、しかし『一線を超えてしまった』。その選択をとれてしまった者には――しなかった者の心理が理解できない。
 ……言葉では決して片付かず、決着をつけるしかない。
 ここに至るまでに、闇に落ちているビッツの身は傷ついている。
 この状態で逆転しうる要素があろうものか。ましてや『もう一人のビッツ』も加わっているというのに。
「じゃあね。『アタシ』――これでサヨナラよ」
「キミを倒して、この国を守って見せるッ――! ギガッ、セララ――ブレイクッ!!」
 最期の攻勢。今際の刹那。
 セララらと共にトドメを刺さんとして――

「……覚えていてくれたなら、こうもならなかったかもしれないのにね」

 瞬間。それが皇帝を殺したビッツの、本音だったかもしれない。
 ただ覚えていてほしかった。ただもう少し早く来てほしかった。
 化粧をしていた理由は母に似せたから。
 例え自らの顔が分からなかったとしても、母を一片でも愛していたのなら……
 ――閉じる瞼。
 直後。その身は、まるで砂が崩れる様に――データの粒子として消えていく。
 ……それはやはり彼は分かたれた、間違ったデータであったからなのだろうか? それとも、バグに触れた者の末路はこうなのだろうか?
「……存在を壊しても心は残り続けるんだよ」
 そこへ言の葉を堕としたのはニアサーだ。
 誰が失われようと、誰かが覚えているのならば全ては――残り続ける。
 だからニアサーを壊してもきっとまた会える。そして、それは同様に……
「……いずれにせよこれで皇帝暗殺の犯人は死んだんだね。
 という事は――これでビッツさんが改めて皇帝に?」
「なぁに言ってるのよ。アタシの手柄じゃないわ。
 トドメを刺したのはアンタ達よ――それに、さっきも言ったでしょ?
 アタシは『皇帝になんかなりたくないのよ』」
 ネイコの問いに、一息。
「そもそも――アンタ達は暴漢に襲われた時、そのナイフに罪の是非を問うの?」
「……それはつまり、皇帝暗殺には黒幕がいる、と?」
 言いながら、しかしスイッチはなんとなくその正体を推察できていた。
 ――ディアナという少女。この帝都の一連の騒動に関わっているとされる人物。
 そんな者の名前を聞いていた。今もイレギュラーズが一部対処している筈だが……
「狙ったかは知らないけれど、やっぱり一番重要な所の奴を排除してこそ――でしょ」
『理解できない訳ではありませんが、しかしその言の内はやはり『自分が皇帝なんて面倒くさいから』という理由の成分の方が多だと思うのですが』
 IJ0854の声――ホホホとわざとらしい笑みをビッツは見せ、て。
「ま、とにかく皇帝なんていう地位は、解決する為にあちこち走り回って頑張ったアンタ達の中から選ばれるのが一番よぉ! 具体的なその選出方法は――ええ、ヴェルスの奴にでもぶん投げるとするけどねぇ!」
 彼はあっけらかんと言ってのけた。
 その表情には、少なくとも見える所に『もう一人のアタシ』を倒したことによる感情の揺れは見られない。それは引いては先代皇帝との因縁が完全に途絶えてしまった事でもあるのだが――
「それでいいんだよね? ビッツさん」
「勿論よ。あんまり過去の事ばかり見てるのは、アタシの性にも合わないしね」
「そうか――それでこそ、アンタって奴だぜ」
 スティアの問いにも、変わらず。
 同時。ユウキが『現実』の方を思い浮かべビッツへと紡ぐものだ。
「さぁ……一度帰りましょうか。外も騒がしいし、長居は無用だわ」
 そして、退いていく。通ってきた道を返る様に、赴いて。
 この国の玉座は未だ少し空白のままに。
 されば、出でる直前。その玉座に向けて零すように――呟く。

 アタシを忘れないで。(Do not forget)
 アンタは覚えてる?(Do you remember?)

 ……同時。開いていた窓より風が至る。
 言の葉を浚う様に。蕩けて消えるは、今際の一声……

成否

成功

MVP

セララ(p3x000273)
妖精勇者

状態異常

セララ(p3x000273)[死亡×3]
妖精勇者
ニアサー(p3x000323)[死亡×2]
Dirty Angel
IJ0854(p3x000854)[死亡×3]
人型戦車
スティア(p3x001034)[死亡×2]
天真爛漫
ユウキ(p3x006804)[死亡×2]
勇気、優希、悠木
九重ツルギ(p3x007105)[死亡×2]
殉教者
スイッチ(p3x008566)[死亡×2]
機翼疾駆
現場・ネイコ(p3x008689)[死亡×3]
ご安全に!プリンセス
アズハ(p3x009471)[死亡×2]
青き調和
フィーネ(p3x009867)[死亡]
ヒーラー

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 皇帝とビッツの関わり。分かたれた存在……
 憎く。愛してほしく。感情の果てが――皇帝暗殺という一連を作り出したのでしょう。

 皇帝という空白の座がどうなるのかは、また今後にて。
 今はグランドウォークライの結末をこそ待ちましょう。
 ありがとうございました。

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