PandoraPartyProject
ヴィーグリーズ会戦
フレイスネフィラ。並びにミーミルンド動く――
その報は即座に王都に届けられ迎撃の準備が進められた。
幾度もの策謀に失敗した彼らに潤沢な戦力が無いのは分かっていた。
どこかで決戦に出てくるしかないのだと――故に国家を守る為に――正確には貴族らは己らの既得権益を守るためにという面があるが――ともあれこと外敵に対しては、正に迅速たる動きを幻想軍は見せていた。
かつて王都を襲わんとした軍勢の事例は砂蠍がいたが、あの時とは情勢が異なる。
北より至る鉄帝の軍勢はなく万全足りうる状態で奴らを叩ける。
本来であれば負けなど考えられない所だ――が。
「報告申し上げます! ミーミルンドは『角笛』を所持し、掲げております!!
奴らめはこちらにこそ正統たる勇者王の末裔がいると……!!」
ミーミルンド側にも一切勝算が無いという訳でもなかった。
古廟スラン・ロウに安置されていた筈の王権の象徴レガリア――その一つたる角笛を今ここで出してきたのだ。イミルの民らの封印の核にも使われていた角笛は何者かにより奪われた後、消息が不明だったのだが……まさか勇者王の末裔を名乗る少年と共に出してくるとは。
「南部のアーヘン卿は準備が遅れると! それから東部のベルゲバッツ卿、コーウェン卿も天義に不穏な動きありとの事で、軍勢を動かすのは難しいと連絡が……!」
「……今更天義が動くはずもないでしょうに、突然理由付けをする貴族が増えましたね」
「怖気づいた――ていうよりも万一に備えての保身か? まぁ敵にならないだけマシと言えばマシかもしれないけどな……」
『花の騎士』シャルロッテ・ド・レーヌ(p3n000072)とシラス(p3p004421)は舞い込んでくる報告に思わず吐息を零してしまうものだ。
幻想王国は伝統と血筋の国だ。血を敬い、血に従う。
だからこそ――ミーミルンドが出してきた角笛にはある程度の力があった。
出所不明なアンジェロという少年が本当に勇者王の血筋かはともあれ『もしかしたら?』という疑念が幾らかの貴族の足を留めているのだ。いうなれば情勢を『見』に留める日和見の貴族共が出てきたというか……
保身に走るとはなんともため息の出る話だが――今更来ない者共の事に思いを馳せても仕方ないとシラス達は考えを断ち切る。角笛に惑わされた貴族ばかりという訳でもないのだ。今も決戦の場に馳せ参じようとしている貴族達もいる。
予定していたよりは戦力は減るだろうが――それでも。
勝たねばならぬ。
「皆予定が入るなんて残念だなぁ。だがこちらには我が友人たるイレギュラーズもいるのだ!! うん! 勝利は間違いない!! ベルナールには気の毒だが、今宵は勝利の美酒を楽しませてもらうとしようか!」
楽天的な『放蕩王』フォルデルマン三世だが……実際、角笛の威光になど惑わされないイレギュラーズがいる事は頼もしい事この上なかった。新世代の勇者として称えられた彼らが戦場に居れば、幻想軍の士気も上がっている。
「陛下――ミーミルンド一派、並びにフレイスネフィラが率いる巨人の軍勢は現在、王都に向かってきています。こちら側としましては、これを防ぐべく防衛線を構築中です。中部に存在するヴィーグリーズの丘にて彼らと決戦を行います」
さて。いついかなる時も笑顔な我らが国王陛下殿に一応イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が状況を説明しておこう。
ヴィーグリーズとは幻想中部に存在する広大な丘の地名だ。
この地で決戦を行うのが最も部隊を展開しやすいと判断され――急ピッチで準備が進められている。各地より集った幻想の騎士達が防衛線を形成、或いは彼らに攻勢を仕掛けんとしているのだ。ミーミルンド派の中核を担うクローディスや、古代獣の主『真ノワールクロウ』なども敵としていれば敵の数も決して少なくはない、が。
ここにはローレットも参戦している。
幻想王国より出された救援依頼によりイレギュラーズがいる、という訳だ。
敵の戦力は魔物も含んでいるが故に決して少なくはない……が、これ以上の纏まった戦力はまずもってない。この決戦によって奴らを打ち破れば――事件も幕を迎えよう。
「あと一息と言った所でしょう陛下。正に正念場……ここでの勝利が全てを決める事になります」
「よし! ならば皆よ、新時代の勇者達よ!! 今こそ力を貸してくれ!!
妹思いの男爵は私によくお菓子をくれたが、こんなことになるとは!
とても残念な事だ。巨人はでかくて怖いしな!」
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)が言を紡げば『ならば』とフォルデルマンは立ち上がり声を挙げる。
その言葉には――珍しく力が籠っていて。
「だが親愛なる友人――そして勇者たるイレギュラーズ諸君もいれば怖くない!
今こそ行こう、ヴィーグリーズへ! かつてより至った古のいね、いにぇ」
(あ、噛んだ)
(モロに噛んだな……)
(普通この重要な場面で噛むか……?)
「――因縁に終止符を打つのだ!!」
鬨の声が挙がる――噛んだけど。
ともあれここに集った者達は一騎当千の強者達とフォルデルマンは信じている。
彼らと共にあれば打ち破れぬ困難などあろうものか。
さぁ行こう。
イミルの民、ミーミルンド。この国の古から連なる者達との決戦の場へ。
――後の世に『ヴィーグリーズ会戦』として伝わる戦いが始まろうとしていた。
これまでのリーグルの唄(幻想編) / 再現性東京 / R.O.O
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