可惜夜の月

　月が。
　月が出ていた。
　虚空の果てに浮かぶその一つの円は美しい。
　誰もが見惚れる。古来より。
　誰もが惚ける。かつてより。
「ンッふっふ――良きかな良きかな良き日かな」
　豊穣の天守閣。高き座にて胡坐を掻くは一体の存在。
　目が蠢いて眼下を覗く。
　此処からの眺めは絶景だ。多くの家屋が立ち並び、多くの山々が遠くまで見えて。
　風光明媚と言うに相応しい。人が築き上げてきたこれまでの全て――
　ソレを見据えながら、想うのは只管『これまで』の事だ。

　あぁ――実に長かった。

　七扇は招集され、天香家の若き青年は苦しみの狭間に落ちて。
　当主は頭を垂れ、巫女姫は己が願いに動いた。
　全く人とは面白い限りだ。どうして誰も彼も人を愛して哀して、それなのに憎むのだろう。
　感情に縛られた生き物達だ。雁字搦めに囚われて、千切る所かより深みへと。
　自ら落ちていく生き物達だ。
　何もかも捨ててしまえば楽なのに、姉がどうだの兄がどうだの男が女があぁそれそれ。
「全く何処まで愉快にさせてくれるのでしょうな」
　見ているだけでも面白い。
　天香・遮那の魂を掛けた直談判など心が躍った。外より訪れしイレギュラーズ達との交流を経て広めた知見と信頼が義兄を苛立たせその頬を打たせたのだ。腹の底から絞り出した決意と思い出が無為へと帰したあの瞬間など、心の奥底より涙が溢れる。
　巫女姫の心の澱みなどなんたる有り様か。
　男を憎悪し侮蔑して、姉の魂と身に妄執するあの姿。
　些か形は異なるが『いつぞや』の折を見ている様でなんともなんとも。ははぁ彼女の過去には相当に辛辣たる道があったのだろう。彼女が受けた仕打ちを想像すればこそ、胸が張り裂けそうな程に――あぁ。

　腹がよじれる。

　心が躍るのだついぞついぞ。だから私は貴方の道を切り拓きましょう。
　例えばその先にあるのが澱みの果て、屍山血河であろうとも。
　その望みを叶えて進ぜよう。
　なぜなら私はそういうモノだから。貴女が魔種であるというのなら是非も無し。
　もはや『神人』であるなどと言う戯言は脱ぎ棄て私は『私』の名を取り戻しましょう。

　――私は■■■■■。

　遥か過去。人間共の俗欲から形を得てこの世界に零れ落ちたこの世の病。
　この世の清きを堕落させ、営みの大樹を食い散らかす覆滅の一柱。
「ンッふっふ。ンッふっふっふっふ」
　笑みが零れる。待ち侘びた堕落と恩讐の破裂時が遂にだ。
　こんな狭い島国に押し込められてから随分と経ったが――もういいでしょう？
　この地を地獄に落としても。この地の総てを砕いても。
「ああついに、ついにで御座いますな。月とは多くの神秘に関わる素晴らしきガラクタ。
　その顔が出ている。多くの神秘が集っている。
　『大呪』を成すはコレを逃して他に無し――さぁ参りましょう」
　天守閣の更に上に向けて腕を広げる。この国そのものを抱きしめんとするかの如く。
　彼は歓喜していた。
　誰も逃がさない。誰も生かさない。誰も彼も彼女もみんな皆、泥梨の汚濁に沈めて差し上げる。

　月が。
　月が出ていた。
　虚空の果てに浮かぶその一つの円が美しかった。

　ああ――まるで此方を覗いているかのように。

　不気味なほどに輝いている月が『何かの始まり』を告げようとしていた。

　＊カムイグラで不穏な動きが目前に迫っています！

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※シナリオ『静寂の青、外洋の空』の結果から、クエスト『アクエリア・フェデリア開拓　総督府からの知らせ』が発生しました。
※一度だけ名声を獲得出来るクエスト三年目の祝祭が発生しました。
※一度だけ悪名を獲得出来るクエスト三年目の誘いが発生しました。
※サミットの結果、各国に領土が獲得出来るようになりました！
　キャラクターページの右端の『領地』ボタンより、領地ページに移動出来ます！
　→領地システムマニュアル

※――KBH臨時放送のお時間です。

これまでの妖精郷アルヴィオン / これまでのカムイグラ
/ これまでの再現性東京

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