PandoraPartyProject

ギルドスレッド

Wiegenlied

【3】Puppenspiel

【鈴蘭の庭】

レガド・イルシオン、ラドクリフ通りの片隅にあるちいさな喫茶店。
鈴蘭を模したランプが目印の、タルトと紅茶が自慢のお店。

おばあちゃんのとっておき。
こっそり味見させてくれるんだって!


◆ ◆ ◆ ◆ ◆

1:1RP。
ニコとわたしの、或る日の一幕。
(『ドレスコードは”私服”で』)
(そんなことを女中が綴ったのは、つい先日のことだった)

……。

(影は悩んでいた。私服なんて持っていないし、第一着飾ったとしても最終的には闇を纏ってしまうのだから、なにをしても変わらない、そう思っていたのだ。数週間ほど前までは)

……やっぱり、へんなきが、する。

(”夜鷹”ではなく、”エーリカ”を受け入れること)
(其れは、まほうの夜を過ごしてから。影が踏み出した、小さな一歩)

でも、

(大切にしまい込んでいたたからものを髪に、胸に留めて。苦し紛れに布で耳を隠して)
(影は、――否、”娘”は。誰にも見つからないように、駆け足で待ち合わせ場所に向かった)
(幻想の首都、ルミネル広場。賑やかで人通りも多く、普段の娘ならば先ず以って近寄らない類の場所である)
(”願いの叶う噴水”なるものを目印に、幾人かが人待ちに時間を潰しているようだった)

……うう。

(尤も、自分も其の中の一人であるのだけれど)
(時間は指定された時間よりも少々早い。彼女が果たして今の自分を見付けることが出来るだろうか――闇を纏わず、顔も隠さず。ひらひらとしたスカートの裾を抑え乍ら。娘はきょろきょろと頻りに周囲を見回して、”待ち人”を探すことに努めた)

(女中の耳には今頃、ベルの音が響きっぱなしだった事だろう)
(”隠れ蓑”も纏わずに街を彷徨くなんて。娘にとっては自殺行為にも等しいものなのだから――)
(『私服』そのドレスコードは何も、密やかな影を試すつもりも、ましてや困らせるつもりもない提案だった)
(ただ単に、いつもの装いで訪れれば逆に目立ってしまうこと、そして影の苦手な視線を集めることを避ける為だ)

(そう、つい先日までそんな軽い気持ちで提案した事)


(しかし状況というものは、閃光の様に瞬く間に変化する)
(おばけのおまつり、まさかただの賑やかなイベントが人々に色んな影響を与えようとは)


(従僕の女はそんなことを考えながら拠点とする宿の自室を出た)
(肩に掛けたバッグへ鍵を入れ、さて待ち合わせの相手はどう出るだろうかと考える)
(手元の時計を見ると、針はまだ余裕があることを示している)
(密やかな影が時間にルーズか、そうでないか、まだ断定する程待ち合わせをしたことはない)

(けれど、きっと時間より早く来るタイプだ。そう判断し、かつ私服のその姿を探すには十分時間があると考えながら約束した噴水へ向かう)


(ところで、先程から随分とギフトの呼び音が賑やかだ。助けが要る者が随分とこの広場には存在するようだ)
…困りましたね、わたくしはオフなのですけれど。


(思わずそう呟いて、噴水へと視線を向けた)

――あ。


(そこには一人の少女が、所在なさげに佇んでいる)
(従僕の…今はただの”女”はそっと少女に声を掛けた)

すみません、お待たせしてしまったでしょうか。

(白いシャツに黒いパンツ、ヒールの高い黒い靴とバッグ)
(シャツの袖口や、少しだけ見えるくるぶしの肌は白く、色合いは代わり映えしない)
(ただ、いつもより赤みの強い口元が印象的かもしれない)
(リリリリリンリンリン、リン)



(ぴた)
(娘が”女”を認識したと同時、ベルの音は止まる)
(分かり易く其の顔に安堵を宿して、其れから)

ニコ、きれい。

(女は装いを変えても凛とした佇まいを崩すことなくうつくしかった)
(唇を彩る常よりも深い紅は、熟れた林檎のよう。緊張にどきりと鳴った胸を気取られなかっただろうかと、頭の片隅でぼんやりと考え乍ら)
(娘は暫く呆然と女を見つめていた。鼻を擽るかすかな化粧品の粉を含んだような香りも嫌なものではなく、何処か心地よかった)

……あっ。
そ、そうじゃ、なくて。
えと、……ま、待ってない。さっき来たばかりだから。

(ややあって惚けている場合ではないことに気付いたのか、慌ててちょいちょいと髪や裾を直し乍ら)

あの、……わたし。
へんじゃ、ないかな。

(自分の姿を見下ろして、てのひらを組んだり解いたり)
(女が先導して歩き始めるならば、娘も歩幅を合わせて付いて行く筈で)
(止まった)
(影が、目の前の少女がこちらを認識すると共に鳴りやんだ音。もしやとは思っていたが)

わかりやすくて宜しいかもしれませんけれど。

(待ち合わせには便利だ、という意味合いの呟き洩らしながらも、続いた言葉に瞬きをした)


…さようでございますか?ありがとう、ございます。
(”きれい”というのは賛辞である。悪い気は勿論しない、けれど女はそれに対する上手な返答を持ち合わせていなかった)

そうですか、ならばよろしいのですが。
(少女の落着きない仕草を見詰めながら、その質問に答える)
変ではありませんよ。
とても、良くお似合いですし

(ほんの少し前まで闇を纏い、全てを覆っていた影はまだ何を言っても不安になるだろうと考えながら)
(けれど、闇から抜け出した少女には良く似合う可愛らしく、可憐な姿だった)
(まつりの日に言っていた「着てみたかったふく」、そしてそれを纏った少女はきっと「そうであったかもしれない姿」なのだろう)

(ふわりと広がるスカートも、美しい髪を飾る花も…耳はまだ隠されているが、一度に全てを変えることはとても難しいものだ)

…それに、とてもかわいらしい。

(それは今までになく、柔らかい物言いで、もしかすると、微笑んで見えたかもしれない)


(あまり人の多い場所に居続けることもないと、目的地へ向かう事を告げる)
(そして、当然の如く手を差し出した)

参りましょうか。
わかり、やすい?

(今の自分の服装では気付き辛かったのではなかろうかと、首を傾ぎ)

うん。
いつものニコも、きれいだけど。

(女中の常は清廉で潔癖な印象が強かったが、今は女の本来の美麗さを際立たせていた)
(”仕事中”とそうでないときは気の張り方も違うのだろうかと。ぎこちない謝辞にもう一度頷いて見せつつに)
(へんじゃない)

(ぱ、と其のかんばせに安堵を浮かべて。けれど、続く女のことのは、柔らかい表情に。今度は頬を朱に染めて、もじもじと地面を爪先で掻いたり、胸元のリボンを弄ったり)

か、……かわ、かわいい。

(何とも忙しない様子ではあったが、泳ぐ視線が差し伸べられたてのひらを捉えれば其れらも止まった)
(僅か逡巡の間を置いて。其のてのひらに一瞬指先が触れて、離れて。ややあって、漸くてのひらを重ねる事が出来た)

……ありがとう。

(そうして、娘は歩き出す)
(人の目も、波も。極度の緊張からか、受け入れて貰えたことへの安堵のためか。不思議な事に、今は然程気にならなかった)

あのね。
ふくを選ぶのも、鏡の前で身支度をするのも、慣れなくて。
でも、……いま、ニコにほめてもらえて。
がんばってよかったって、……その、たぶん。き、きっと。うれしい。いま。

(道すがら訥々と語る音。傍に立つのが気恥ずかしくて、一歩遅れたところから)
…いえ、大したことではありませんので。
(そう言えばギフトの事を話したことがないと、今更気付きながらもそれを語ろうとはしなかった)

……
(普段も、と言われればそうだろうかと首を傾げた。身だしなみは整えているつもりだけれど)
あまり代わり映えしない格好になってしまっていたでしょうか。
(少女が落ち着かない様子なのに、不味い言葉を使っただろうか、と考えながら)

所謂、男装をしていなくとも、可愛いという言葉は不適当でしたでしょうか。
しかしそれ以外に言葉が…見つかりませんでしたので。何か変わりの言葉を探しておきましょう。

(差し出した手を逡巡の後、取ったか細い手はやはりまつりの夜と同じく、あたたかい)

…?いいえ。

(礼を言われたことを不思議に思いながら、そっと握った手を引いて歩き始めた)

(少し後ろから伝えられた言葉を暫く咀嚼するように黙った)

それはとても、光栄でございます。
しかし…

(声色のトーンが落ちる)
ならば、わたくしももっとそれに見合う身支度をするべきでした。
(けして時間を掛けなかったわけではないけれど、そんなことを言われてしまうと)
(もう少し洒落た装いができたのでは、と考えてしまって)
そう?

(大したことでは無い。そう告げられれば、娘は其れ以上詮索することは無かった)
(代わり映えしないだろうかと、独り言のように告げられることのはにふるふると首を横に振り)

お化粧を変えたり、靴を変えたり。
服を着替えるみたいに、香りを変えたり。
おんなのひとの支度って、自分が知っていることよりも。もっと、たくさん。
いろいろあるんだって、知った。

(ぱっと目を引く口紅だけが化粧ではないこと。服装や場に応じて纏う香りを変えること。髪留めを変えること、爪を整えること)
(娘に出来た事は、精々髪を整えて服装を変えた程度だけれど)
(女性がそうして彩の魔法をかける手間を惜しまない意味を、ぼんやりとだけれど、知ることが出来た)
(目前の女が今、こうして常は見せない姿で現れた事も。娘にとっては、ひとつの魔法のように思えるのだと告げて)
じゅうぶん。
ニコ。とっても、すてきだから。

(なのに、其れ以上だなんて!)
(自分が萎縮してしまいそうだ、なんて。冗談とも本気ともつかぬ声を続けて)

……ほめてもらうの、慣れていないだけだから。
その、……は、はずかしがってる、だけ。だから。

(決していやではないのだと。頬を赤く染め乍らもことのはを返して)
(歩調は早くも遅くも無い。人とぶつかることもない。女が充分に気を遣ってくれているのだろう)
(手を引かれ乍ら歩くことは慣れなかったが、不思議と歩き辛くは感じなかった)
(おんなのひとの支度、そう言う少女の言葉に小さく頷いて)
そう言って頂けると、ありがたく思います。
自分からお誘いしておいて、こう言うのもなんですが

(一息分の間を開ける)

わたくしも、何かの為に己を装うことは得意と致しておりません。
主人が着飾ることを手伝うことの方が、本来の行いですから。


………
(充分と、更なる賛辞も添えられると押し黙り、少々歩調が早くなった)
夜鷹様は、興味深いことの多いお方でございますね。

(ちらりと視線だけ後ろを見ると、色の白い少女の頬がほんのりと染まっているのがわかり、そうであれば、と頷いて返す)
(そんなやり取りをしているうちに、女の歩調が遅くなり、そして停止した)
…ここ、でございますね。

(視線の先には通りの片隅、目立つほどではないが店であることがわかる)
(白く可憐な花のランプ、木の扉の取手は真鍮でできている。シックな落ち着いた雰囲気の店)

(入りますね、と視線で合図しそっと扉を開いた)
(外観からもわかるように、店内はさほど広くはない。所々にある照明と小さな窓からの、柔らかな光が店内の光景を浮かび上がらせている)
(程なくやってきた女性の店員に、2名だと伝えると、奥の方のソファ席が空いていると示された)

奥の方がゆっくりと話もできましょう。
(その席で良いかと振り返りながら尋ねた)
(自分も得意分野では無いのだと。告げる女の声に、娘はほんの少し肩の力を抜く事が出来た)
(それに、あまり過度に緊張していては彼女も居住まいが悪かろう)

……それじゃあ、

(間。)
(言っても良いだろうかと迷う、不自然な間)
(少し早まる歩調に。興味深いと零す音に、首を傾ぎ乍ら)

私は、ニコの主人ではないけれど。
こんど、……こんど、着飾るお手伝いをしてほしい、……かも。

(だめだろうかと。小さな小さな声で以って問い)
(走る程では無いが、早まった歩調が緩やかになり、やがて止まる)
(喧騒から少し離れた其の店は、其処だけ時間の流れを緩やかにしたような穏やかな佇まいだった)
(視線で促されれば娘はしゃんと姿勢を正して、ぎこちない足取りで女に続いた)

……こびとのおうちみたい。

(飾られた花も絵も、調度品も全て。温かみのある空間を醸し出している)
(物珍しげに店内を見回し乍ら。構わないかと尋ねる声に頷きを返し)

わ、わわっ。

(勧められたソファに恐る恐る腰を下ろせば、ふんわりと体重を包み込む様な柔らかな座り心地に目を瞬かせて)
(バランスを崩して、慌てて腰を上げて。何度か収まりの良い位置や重心の置き方を探る様に座り直し、きちんと女と向かい合うまで悪戦苦闘する事暫し)

こんなふかふかな椅子、はじめて。
藁のベッドより、ずっとやわらかい。

(メニューを持って来た店員が堪えきれずに吹き出す様に、かっと頬に朱をのぼらせると小さく縮こまり)
(問い掛けに、耳を傾けて)

ええ、勿論。
わたくしでよろしければ、命じて頂ければなんなりと。

(頷き、そっと握った手に力を込めた)
(さあ少女には何が似合いだろうか、今度大通りを歩く時にショーウィンドウを見てみようと考えながら)
(「こびとのおうち」、その言葉に少女が店を気に入ったとみて、女は安堵した)
以前ご一緒した、深緑に似た空気を感じます。
(素朴な店内の様子を眺めながら)

(ソファに苦戦している少女に手を貸そうかと腕を伸ばしかけたが、幸い良い位置に落ち着いたようだ)
(笑みを堪えきれない店員に小さく咳払いすると、ご注文は後ほどおうかがいしますね、と言い去って行く)

…気にすることはありません、わたくしもとある屋敷に勤めていた頃、同じ様な目に遭った事がございます。

(言いながら少女にも見えるよう、メニューを開いた)
(ヒトに命じるなんて、とんでもない!)
(慌ててふるふるとかぶりを振って)

め、命令じゃ、なくて。
おねがい。

(握り返されるてのひらが気恥ずかしくて、薄く頬を染め乍ら)
(女の支度には、他には何が要るだろうかと、道すがら)

うん。……黄金の樹も、落ち着くところだった。

(尤も、其処では人々の営みを目で追い記憶に焼き付ける事に精一杯で。余り外観や建物をまじまじと見詰めては来なかったから)
(今度行くときはきちんと隅々まで見渡そう、なんて。小さな望みを零しつつに)
ニコも?

(其れは意外な告白だった)
(はじめてのものと相対する時は虚を突かれるものなのだと。”完璧”が似合う女に添えられれば、ほんとう?と恐る恐る顔を上げて)

わあ、

(水彩で描かれた飲み物や菓子の数々は、宛らひとつの絵本のようだった)
(名前を見ても其れがどんなものなのかは判らなかったが、温かみのあるメニューからはどれも美味しいと云う事だけは充分に伝わって来る)
(薄氷の双眸を輝かせ乍ら、そわそわと女を伺って)

あの、ね。
わたし。ちょこれーと、が、すき。
それから、木苺。……これは、赤スグリ?

(今まで食べてきたものの中で、知っているものの名前を挙げていく)
(市で売っているような苺を口にした事は無い。無いが、この鮮やかな赤はきっと、自分の知っているものの仲間であろうと、首を傾いで)
(驚いた様な表情、再び問われれば小さく頷いて)

ええ、この世には想像など無意味だと思わせる、そんな物や事が溢れております。
椅子だってその例外にありませんよ。

(答えた言葉は随分と硬いが、様はソファにはまって無様を晒した詳細を、かわしただけである)

(古い本の様なメニューに少女が瞳を輝かせる)
(やがてこちらに向けられた視線に、思わず金の色が重なった)
チョコレイト、と木苺。
そうですね…それであれば、そちらがよろしいかと。
赤スグリや木苺と似ておりますが、こちらはストロベリー、苺と呼ばれるものです。
木苺よりも甘みの強い果実、それをチョコレイトのクリームに絡め、
同じくチョコレイトタルトに乗せたお菓子ですね。
(あまり馴染みのない味では驚かせてしまうかもしれない、そういう意味で言えば
少女に甘味の好みがあったことに少し安堵した)

ご一緒に何か飲まれますか。
わたくしは紅茶を頂こうと思っておりますが。
(ちらりと視線をメニューへ向け、紅茶の種類を確かめる)
想像が、無意味……。

(思い込み、決め付け、諦め)
(其れ等に身を浸していた娘にとって、女のことのはは稲妻の如き鮮烈さで以って其の身を貫いた)
(自身の世界は狭く、暗く、小さい)
(けれど。一歩外に出てしまえば、自身の常識などちっぽけなものに過ぎないのだ)

じゃあ、……これからも、おどろくことばかりかも。

(彼女に其処までを説かれた訳では無いけれど。娘は心の内で小さな一歩をまたひとつ踏み出していた)
(故に、女もソファに嵌ってしまったのであろうことを娘が追求する事は無かった)
(重なった視線に驚いたのか、薄氷の瞳がまん丸く見開かれて――其れから、照れ臭そうに。微かにはにかみ微笑んだ)

ニコも、あまいもの、すき?

(自分はまだ、何もかもを多くは知らない。故に問いは漠然としたものになってしまったけれど)
(あまいものが好きなのだと。恥じらい混じりではあるものの、正直に言えるようになった事が、すこし嬉しかった)

ちょこれえとと、木苺よりあまい、いちご。
……私、これにする。

(木苺だって自分にとっては貴重な果実だ。其れよりも、もっと甘い存在だなんて!)
(期待に胸を満たし乍ら、落とされる問いに首を傾いで)

あまいタルトをたべるときは、どんなものを飲んだらいいの?

(香草茶は馴染み深いが、其れ以外にはとんと縁が無い)
(似合いのものがあるならば、教えてくれないかと請うて)
(己の言葉がそれ程までに少女を驚かせたとは露知らず)

……糖分は、集中に良いと聞きますから。
(微笑む表情に思わず視線を落としてしまったのは、微笑み返す方法がわからなかったのか)
(はたまた、少女の微笑みに照れているところを見られたくなかったからか)

(ストロベリーは少女の希望を満たせたようだ)
(心なしか弾んだ声に安堵しつつ、飲み物のページに視線を走らせる)

そうですね、同じく甘い物を飲まれる方もいらっしゃいますけれど。
こちらの…オリジナルブランドの紅茶などよろしいかと。
飲んでみて、甘みが欲しければ角砂糖や糖蜜を入れることもできますから。
(メニューに記された説明文には、すっきりした味だと)
(些細な、けれど、確かな一歩だ)
(其れを口に出す事は気恥ずかしかったから、娘は唯、はにかむばかりだったけれど)

私も、あまいもの、すき。

(定期的とまではいかずとも、時折こうして甘いものを取る機会があると云う意味なのだろう)
(落ちた視線に不思議そうに首を傾いだのも束の間。女もまた、感情表現が不得手である事を知っている。故に娘は其れを咎めなかった)

すきなひとは、選んだタルトに似合うお茶を探すのも楽しみにしてるのかも。
……なんだか、ふしぎ。私も、今日はそのなかまいりが出来ているなんて。

(喫茶店で、温かい紅茶とケーキを。夢物語のような、今まで知り得る事の無かった世界)
(未だ知り得ぬ甘露に胸を躍らせて、対面には心を許した存在が居る――嗚呼、何と其れは甘美な響きなのだろうか!)

それじゃあ、私、そのお茶にする。
きまった!

(悩んだ末に、自分で決める事ができた。其れが何だか照れ臭くて、誇らしかった)
………

(はにかむ少女の言葉に、小さく頷いた)
(この年頃で、甘味が嫌いだと言うものはそれ程多くないだろうけれど)
(声を掛けて、誘ってみて良かった…と思う)

ええ、馴染みのお店で様々なパターンを試してみるのも
こうして初めてのお店で小さな冒険を致すのも、楽しいのだと思います。

(改めて、目の前の少女がこうした日常から遠く離れた生活を送っていたのだと痛感する)
(思えば少女が歳相応に過ごしていることは甘い食べ物と、暖かい飲み物。
この緩やかな空間だけが理由ではないようにも感じられて)

(他の要因、と考えを巡らせそうになったところ。
飲み物も決まったようなので、女は頷き、大き過ぎずしかし良く透る声で店員を呼んだ)

(先程席に案内してくれた女性の店員がやってくると、女は注文をと視線で少女を即す)
(小さくとも確かに返ってくる肯定が、嬉しい)
(其れは偏に、娘が望んでも手に入れる事が出来なかったものだからだ)
(店員が来るまでの僅かな時間。娘は無意識に、大切な宝物のようにメニューを抱きしめていた)

なじみのおみせ。ちいさなぼうけん。
……私も、”なじみのおみせ”。見つける事が、できるかな。

(願わくは、其の”はじめて”が、此の店になれば良いなあ、なんて)
(口に出したら、目前の女は笑うだろうか?)

あっ、……え、と。

(やわらかな笑みを浮かべて此方へ歩み寄ってきた店員へ、慌てて姿勢を正し乍ら)
(胸に抱いていた、あまいものがたりへの道標をひらいて。目当ての目録を指先で辿り)

えっと……”ブーシェ・ド・ウール”と、おすすめのあたたかい紅茶を、ください。

(”真っ赤な宝石箱から、ひとくちの幸福のおくりもの”。挿絵のそばに添えられた文言を音でなぞるだけで、ほんのりと胸があたたかくなった)
(うまく注文できただろうか?女と店員を交互にそわそわと見遣り)
(大切そうにメニューを抱く少女の姿に、店のチョイスは悪くなかったと安堵した)

ええ、勿論。
よろしければ、時にはご一緒させて下さいませ。

(口をついて出た言葉に、少し驚く)
(思ってもみない、しかしけしてその場限りの言葉ではない)

(店員はしっかりと頷き、今度は女の方を向いた)

わたくしは”アンモルソ・ド・ピュウ”を
(少女が開いてくれているメニューのを女も指し示す)
(爽やかな黄色いタルトと檸檬の挿絵の隣には”清々しい味わいは、純粋な心を目覚めさせる”。)
(随分詩的な、と思いながら言葉を続けた)

それと、わたくしも同じおすすめの紅茶を。
よろしければポットで頂けますか。
(ポットでお持ちしますね、と応え店員は注文を復唱するとテーブルを離れた)

…楽しみですね。
(少女の視線に頷き、素直な気持ちを言葉に)
う、うん。

(時には、ひとりで。そして、時には、ふたりで)
(淡々と。けれど、あたたかさを宿した音。彼女の声の響き。温度とも言うべきか)
(其の区別は、なんとなく。ほんとうになんとなくだけれど、少しずつ分かってきた気が、する)

ニコがついてきてくれるなら。
ひとりでは入れないような――こういう、かわいいおみせにも。
勇気を出して、入れるかも。

(頼りにしているね、なんて。薄らと頬を染め乍らはにかんで)
(淀み無い注文に、微笑み下がる店員の後ろ姿を目で追った)
(どうやら、自分も上手に注文が出来たようだ。ほう、と安堵の息を吐き出して)

たのしみ。
……なんだか、ふしぎ。
じぶんが、じぶんじゃないみたい。

(愛らしい空間も、着慣れぬ服も、何もかも)
(もじ、と小さく縮こまり乍ら。カウンターの向こう側、珈琲豆を挽く小気味の良い音、甘く香ばしい匂いに耳と鼻をひくつかせて)
(はて、此れは何の香りなのかしらと。頭に浮かんだ疑問を口にすれば、彼女に笑われてしまうだろうか?)

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