シナリオ詳細
ネフェルストの夜明けに
オープニング
●祝勝会を始めよう
「オラァ、飲めお前らァ!」
ハウザーの咆哮が響き渡り、ビール瓶が掲げられる。
ラジカセから流れる陽気な音楽に合わせて虎頭のマラティーや猫頭のニランジャナたちが踊り、それを回りで仲間達がはやすという光景が広がっていた。
ラサの中心にして夢の都、ネフェルスト。マーケットからほど近いそこに、凶(マガキ)たちが頻繁に使う打ち上げ会場があった。あなたはそこへ呼ばれ、祝勝会という名の馬鹿騒ぎに混ざっているのである。
パドラはあなたを見つけると、ビール瓶を翳して手招きをした。
「お疲れ様。ま、色々あったよね」
ラサ傭兵商会連合に、あるとき奇妙な事件が蔓延った。
紅血晶なるアイテムが市場に出回り、紅血晶に魅了された人々は徐々に狂い、やがて怪物へと変わっていく。そんな事件だ。
事件の中心には紅血晶があり、それに影響され怪物化した精霊や動物たちも出始め、いよいよ無視できなくなったところでもう一つの事件もまた起きていた。
幻想種の拉致事件である。頻繁におこるそれらの事件の裏を探るうち、アンガラカという薬品が事件に関係していることが明らかとなった。
それらの事件を、マガキの傭兵パドラが中心となり追い始める。
アンガラカを流通させていたのはラーガ・カンパニーの代表、ラーガ。彼を追ううち、紅血晶がらみの怪物たちも現れ始め、いよいよこれらの事件が裏で繋がっていることを確信したパドラたちは、アジトを抑えられ月の王国へと逃げ込むラーガたちを追い詰めるべく突入を決行。
その過程でアンガラカが紅血晶を作り出す際の副産物であることがわかり、月の王国の『博士』とラーガたちとの実際的な繋がりも明らかとなったのだった。
そんな中でもう一つ明かされたのがパドラの過去である。炎に包まれる我が家の光景と、殺される両親の記憶。おぼろげに揺れる犯人像がラーガのものであったではと追い詰める彼女に告げられたのは、両親を殺したのは育ての親であるハウザーだったのだという真実だった。
当時経営難に陥っていた父はラーガの仕掛けた悪徳な事業に手を染め、それを追っていたハウザーの嗅覚によって悪事が露見してしまった。投降を求めたハウザーに対し抵抗してしまったために殺し合いとなり、結果ハウザーが父を殺すしかなくなってしまったのだ。
事情がわからないわけじゃない。ハウザーが悪意を持って父を殺すような人間だと(性格の悪さは横に置いて)思うわけでもない。
けれど仇討ちを人生の目標としていたパドラにとって、それは衝撃的な事実であった。
同時に、殺してしまったその男もまた、ハウザーにとって『ダチ』と呼べる存在だったのだ。殺してしまった友の娘を育て、その娘が仇討ちに闘志を燃やした様はどんな気持ちであったろうか。
だが、そんなやりとりはどうやら二人の間で決着がついたらしい。
ラーガを追い詰める中で交わされた信頼のまなざしは、どんな事実をも蹴っ飛ばすだけの価値があったのだろう。
事実、今ハウザーとパドラはビール瓶をカチンと乾杯し憎まれ口を言い合っている。
そう、全ては『終わった』のだ。
飲んで歌って、踊って騒いで、馬鹿みたいな遊びをして、そして翌朝床にぶっ倒れて目覚めればいい。
そんな人生を楽しもう。
祝勝会を、始めよう。
●パドラの心
銃で撃って倒せないものは嫌いだ。おばけも嫌いだし、ちっちゃい虫も嫌い。
なにより嫌いなのは、どうしようもない心のモヤモヤだった。
「パドラ、祝勝会始まるよ?」
シキやチャロロ、リーディアや鏡禍たちがネフェルストの街を歩いて行く。
香辛料の混ざった香りと、どこか渇いた夕暮れの空気の香り。
ラーガ・カンパニーの野望を文字通りに打ち砕いて、これから祝勝会を開くのだ。
「うん、先に行ってて。あとから行くから」
手を振って、送り出す。あたりは人々の声で賑やかだ。夕暮れに至っても、夜深くても、ネフェルストの喧噪が落ち着くことなんてないだろう。
私は喧噪の中に溶け込むようにして、裏路地へと足を向けた。
なにも裏路地を歩くことを愛好してるわけじゃない。頭に詰まったモヤモヤしたものを、こうすることで解きほぐせるかと思ったからだ。
モヤモヤしたもの。
言葉にするには、少しだけ絡まりすぎている。
幻想種を浚って博士の実験台にしていた、私の仇でもあったラーガ。
けれど追い詰めたその時、両親を殺したのはハウザーだと奴は言い放った。ハウザーは、否定しなかった。
その原因はやはりラーガだったし、だからこそその額に銃弾を撃ち込んでやったけど。
でも、両親を殺したのは、そして私を育ててくれたのは、どちらもハウザーだった。そのことは、変わらない。
記憶の最初にあったのは、炎に包まれる自分の家と、殺される両親の姿だった。
パパとママを殺した犯人の姿は、陽炎にみたいにゆらめいて、私の記憶の中にぼやけていた。
そんなふうにひとりぼっちになった私を育てたのは、凶(マガキ)のハウザーたちだった。
風邪を引いたらできもしない料理をして、誕生日には子供には不似合いなプレゼントをして、女の子には暴力的過ぎる遊びをして。
けどそれが、私にとっては確かに『家族』のカタチだった。
そんな私が我儘を言ってまでマガキに入ったのは、パパとママを殺したヤツを追うためでもあった。
仇討ち。言葉にしたら陳腐だけど、心に留めておくには重すぎる。
そんな心の鉛を胸に抱えて、生きてきた。
やっと見つけたラーガという悪人は、私の両親の仇を名乗りまでして挑発してきた。ついに見つけたと、そう思った。
やっとトドメを刺せると思った矢先、ヤツが告げたのは、私が思いもしない真実だった。
『お前のパパとママを殺したのは、ハウザーなんだぜ』
嘘だと思った。嘘だと言って欲しかった。
けど。
ハウザーは黙ったまま、目をそらしてうつむいて、唸るだけだった。
あとからシキたちから聞いたところによれば、仕方なく起こった事件の一端なのだという。善良ながら悪事に手を染めてしまった父と、それを止めようとしたハウザー。抵抗は殺し合いへと発展して、命はついに奪われた。
パパは、ハウザーにとって友達だったのに。
「けど、だからってさ……!」
道ばたに転がった木製のビールケースを蹴っ飛ばす。渇いた音を立てて転がったそれは、壁にぶつかって止まった。
歩くのも嫌になって、その場にうずくまった。
ハウザーはアタシの仇だ。パパとママを殺して、家族を奪った。
本当は殺してやりたい。
ハウザーはアタシの家族だ。今のアタシを育ててくれた。
本当は一緒にいたい。
「アタシはこれから、どうすればいいの」
喧噪は、答えてくれない。
- ネフェルストの夜明けに完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2023年06月08日 22時20分
- 参加人数18/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 18 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(18人)
サポートNPC一覧(2人)
リプレイ
●パーティーの夜
「本当ならもっと洒落たレストランとかの方が良かったよな?」
陽気なバーでビール瓶を片手に、『蒼穹の戦神』天之空・ミーナ(p3p005003)は肩をすくめる。
「大丈夫ですよ。“戦勝会”ですから、ね」
対して『volley』Lily Aileen Lane(p3p002187)はにっこりと笑って小首をかしげた。
「何を飲む?ジュースか酒か。好きなの頼んでくれよ」
「むむ、お酒を飲みたいけど、見た目でどうだろう……。飲みたいけど」
「見た目は大丈夫だろ、私も引っかかったことないし」
などと言いながらライムのジュースを手に取る二人。
暫くそうしていると、Lilyが突然涙ぐみ始めた。
いや、突然ではないだろう。ミーナはその理由も、切欠も、全部知っているのだから。
「泣くなよ。大丈夫さ、私はそう簡単に死なない……というか、死んでも死なないからさ」
そんな風に言ってみせるミーナに、Lilyは目元を拭って頷く。
「死なないでね、約束ですよ?」
その一方で、『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)はタンドリーチキンや豆のスープを作って振る舞っていた。
バーは貸し切り状態で、キッチンももはや開放状態。ホームパーティーさながらの雰囲気である。
「ねえウルズさん」
「ん?」
瓶を片手に振り返る『持ち帰る狼』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)。
フラーゴラの振る舞う料理に舌鼓を打っていたウルズだが、彼女の表情にきょとんとする。
「あとでパドラさんの所にも持っていこうかと思って」
「ん、いいんじゃないっすか?」
ウルズから見て、なにか重い事情があるらしいことはわかっていた。だが、踏み込むかどうかの判断で、ウルズは踏み込まない方を選んだのだった。
「飲んで待ってるんで」
そういう人間も、必要なんだろうから。
「どうぞ楽しんでくださいませ」
『刑天(シンティエン)』雨紅(p3p008287)がマガキの傭兵達の中に混じって踊っている。
一緒になって踊ったり歌ったりと、とにかく賑やかだ。
(皆様の苦痛の有無はわかりません、さして気にしていないのかもしれません。
ですがわざわざ祝勝会をするというのは、明日に進もうとする意思や決意だと思うのです。
その門出を少しでも、良いものにできれば嬉しいのです)
そんな時雨紅に出来るのは、歌い踊り楽しませることなのだと。
そんな陽気な音楽を聴きながら、『黒き流星』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)がハウザーと並んでビール瓶を開けていた。
「よぅ。辛気臭ェ面してんな、大将。
今回はさすがに疲れたな。アンタが出張ってるってんでな、本当は俺もそっちに顔出したかったんだが、こっちも散々でな」
その言葉にハッと笑ったハウザーだが、続けた言葉には黙ってしまった。
「っかし、イヴといい、あの嬢ちゃんといい。
年頃の娘に嫌われるなんざ、まるで父親みてぇだな。
そんくらい、慕われてるってことだろうよ」
「……何が言いてえ」
「時間はかかるだろうが。アンタは独りじゃない。腐らず、背負えよ」
ルナは簡潔にそうとだけ言うと、ハウザーの背を叩いて歩み去っていく。
代わりに隣に立ったのは『祝福(グリュック)』エルス・ティーネ(p3p007325)だった。
「ハウザー様〜。見ないうちに何だか辛気臭い顔をされて…え?誰だって?
エルスです、エルスですよ!姿格好は変わってますけど間違いなくエルスです!」
本当に見た目の変わったエルスだったが、事の次第を伝え聞いていたハウザーは『ああ』と小さく答えた。
「それで? その辛気臭い顔は。
あちらでブスッとした表情のお嬢さんに関係があるのですか?
イヴさんと仲良くされてるからどうしてかしらって思ってたんですが……ハウザー様にもそう言う一面があったんですね?」
いわんとすることをすぐに察したハウザーが顔をしかめていると、エルスが手を振った。
「ふふ、茶化すつもりはありません。ただまぁ、すれ違ってばかりでは相手を理解する事は出来ない。
私は理解する事をその時、諦めてしまって……もう、手遅れになってしまいましたけれど……。
ハウザー様には後悔して欲しくないですよ?」
それ以上深入りはすまいという風に、エルスは背を向ける。
「強い絆を築かれたのならば二人はきっと解り合えます……私応援してますからっ」
残されたハウザーは瓶を置き、じっと黙りこくった。
「……くそっ」
そして、ゆっくりと店を出て行く。
祝杯の輪に混じれない。パドラは一人、酒場の裏手にある路地に座り込んでいた。
横倒しになった木製のビールケースは椅子にするには少々ぐらつく。
そんな彼女の元に、フラーゴラがやってきた。
「今、決めなくてもいいんじゃないかな?」
現れて早々の言葉に、パドラが『な』とだけ口にする。
「先延ばしにしちゃうの。その間に悩んで悩んで…答えを出す。
たくさん考えて出した答えはきっといいものだと思うんだ」
そういってスープの入ったお椀を差し出すフラーゴラ。
「や、大変だったねぇ。水天宮の方、こっちこっち。居たよぉ」
お椀を受け取っていると、『闇之雲』武器商人(p3p001107)と『愛し人が為』水天宮 妙見子(p3p010644)が歩いてきた。
こうも居場所がバレてしまうのでは、裏手に来た意味が無いではないか。
「ささ、パドラ様どうぞ」
などと妙見子にビールを注がれてしまえばなおのこと。これでは中にいるのと変わらない。パドラはそう思って苦笑した。
「答えを見つけなくても見つけられなくても…きっと大丈夫です、貴女の選択に価値があるのですから」
「そう。答えは先送りでいいんじゃない? 凶の旦那に恩は感じているし、両親の事件の詳しい経緯も知った。なら後は時間をかけてゆっくり気持ちを消化した方がいいと思うよ。時間をかけても殺意が消えないなら、その時は鉛弾を叩き込めばいいさ」
先送り。できるのだろうか。
ずっと胸に抱えたまま、悶々とした日を無視できるだろうか。
これまで抱えてきた憎しみを、なかったことにできるだろうか。
パドラが考え込んでいると、『金庫破り』サンディ・カルタ(p3p000438)が歩いてきた。
「よっ。とりあえず生きてるようでなによりだぜ。パドラ。とはいえ、その様子だとどっちにも割り切っちゃいねー感じかな」
「まあ、ね」
歯切れの悪い答えに、サンディはあたまをかく。
「俺には親がいねーから、「親の仇」も「親代わり」も自分で感じたことねーけどさ。
ちょっとばかし離れて旅とか、武者修行してもいいんじゃねーか?
親とか仇ってだけじゃなく対等になれば、そこで見えてくるモノもあんだろーさ。
やり過ぎると俺みたいになっちまうけどな。
ま、あの場でも言った通り、助けがいるときは呼んでくれよな」
サンディは一通り喋りきると、ぱっと背を向けて歩いて行く。パーティーに戻るつもりらしい。『心配屋さん』が来る前に、と。
「話は聞かせてもらった」
そう言って、入れ替わりに『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)たちが現れた。
「復讐したいけど復讐相手が味方だったという悩み…似たような経験した事が二回ほどあるから力になれると思う」
「ああ、そうだな」
一緒に現れた『特異運命座標』陰房・一嘉(p3p010848)も腕組みをしてパドラを見た。
サイズは簡素な木刀を取り出し、それをパドラに渡した。
一体何故こんなものをという顔をするパドラに、一嘉が付け加える。
「もしこれから来る仲間達の助言で解決できないのなら、決闘を提案する。荒療治だが、どこかで決着をつけねばな」
「決闘って……無視して殺しちゃうかもよ?」
「それができるなら、もうやっているはずだ」
「…………」
黙ってしまったパドラに、『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)と『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)が呼びかけた。
「仇だから殺したい、家族だから一緒にいたい…
憎しみと親愛でぐるぐるして納得いかない状態なんだね
…僕はかつて信じてた相手に信頼を裏切られた事がある。絶対に許せないと今も思う
でも…パドラさんは僕とは違うよ
家族に裏切られたような衝撃を受けて許せない状態だけど、ハウザーさんと一緒に居たいとも思ってる…!
だから、聞きたい事を彼本人に聞いて…本音を、ぶつけたほうが良い。
何故真実を話してくれなかったのかも。
仇を討ちたい気持ちも、家族だし一緒に居たいって事も。
怒りも悲しみも親愛も…どうしたらいいかわからないって事も」
ヨゾラの話が終わるのを待って、祝音が声をあげる。
「パドラさん…多分ね。納得できないままハウザーさんを撃ち抜いたとして、その後取り返しのつかない事になったら…生きられない位、辛くなると思う。
ただ憎いだけの仇なら殺しても先に進めると思う。
でも、ハウザーさんは一緒にいたい家族でもあるんだよね。
…家族が死ぬのは、辛い…よね」
一通り語り終えると、パドラは帽子に手をやった。
「うん、ありがと……少し考えてみるよ」
二人は顔を見合わせると、頷いて一嘉たちと共にその場を立ち去った。見守る役目はきっと他にいるはずだというように。
実際、その後に入れ替わりで現れたのは『炎の守護者』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)たちだった。
「オイラこういうのどうしたらいいかわかんないけど、きっとハウザーさんを殺してもよけい心のモヤモヤが増えるだけだと思うよ。
ハウザーさんがパドラさんを育てたのは『せめてもの償い』だと思うんだ。
友達が悪事に手を染めて、命を奪わずにいられなかった状況で……。
せめて罪に手を染めなかった娘は生かして育ててやろうと考えたんじゃないかな」
『オイラはパドラさんにハウザーさんを殺してほしくはないよ』と付け加えて、チャロロはうつむく。
「とにかくいちばん悪いラーガは倒したんだから。
紅血晶が出回ることもなくなったし、幻想種も攫われなくなった……。
ひとまず今日は祝勝会でお酒の一杯でも飲んで、気を紛らすことはできないかな?」
「アタシだって、できればそうしたい。そうするのが一番かもしれない。そうは思ってるんだ。けどさ……」
「うん……」
わかるよ、それだけじゃないんだよね。
チャロロの頷きをくんでか、『氷の狼』リーディア・ノイ・ヴォルク(p3p008298)が半歩前へ出る。
「パドラさん、君は今とても苦しんでいるね。
自分の大切な存在を自分の大切な存在が殺していたなんて。
冷静に考えられるわけが無い。……今から言う事はあくまで私の独り言だ。考えだ」
リーディアは腕を組み、そして顔を背ける。
「殺したい、一緒にいたい。
どっちも自然な感情だよ。
無理に自分の感情に白黒付けることは無いと思うんだ。
それでもというなら……彼が居なくなった未来を想像してみるといい。
自分がそれに耐えられるか、耐えられないかだ」
パドラがうつむいた。
『復讐なんて意味が無い』って言葉は、復讐のために生きていない人の言葉だ。
それが生きる糧になる人間もいれば、努力の原動力になる人間もいる。パドラがそうであったように。
けれどその後のことを考えてまで、復讐なんてできない。
今は、その時が来てしまったんだろう。
「パドラさんは敵討ちを終えた後、どうするつもりだったんですか?」
『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)の言葉が、だからぐさりとくる。
「スッキリはするかもだけど、目標が無くなるような、結局今みたいになってたんじゃないかなって思うんです。
だから、もし思い描いていたのがあるのならそれを先に目指してもいいのかなって」
鏡禍はパドラのことを考えたとき、どう向き合うかを考えた。サンドバッグを用意して殴らせたって、きっと解決はしないだろうと。
「泣いたっていい、無茶を吐き出したっていい、それでも貴女を『強い人』だと思うのには変わりありませんから」
「アタシは、そんなんじゃ――」
「いいえ」
鏡禍は首を振る。
「『強い人』です。パドラさんは」
それまで話を聞いていた『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)が、わざとらしく肩をすくめてみせる。
「こういうとき、どうして私を呼ばないのさ、パドラ」
などと言って笑いながら、パドラの横に立ってビール瓶を傾ける。
「私には今の君の気持ちを想像することしかできない。
言葉にできないなら、それでもいいと思う。
矛盾して答えを出せないなら、ゆっくりでいいと思う」
黙って聞いていたパドラに、シキは振り返る。
「でも忘れないでよ。君は1人じゃないから。
――迷うときは私を呼んでよ」
こつんと肩をぶつけるように寄せ、そして伸ばした手で頭を撫でてやる。
パドラは。
「……うん」
目を瞑って、そうとだけ答えた。それが、精一杯の言葉だった。
●けむくじゃらの背中
私ってなんだろう。
そう考えるたび、必ず浮かぶ光景がある。
薄暗い夜の宿舎の一室で、月光に照らされるけむくじゃらの背中だ。
大きくて、丸くて、なんだか不器用そうで、それが可愛いと思ってしまう。
翌日に突き出されたぬいぐるみといえなくもない珍妙な物体よりも、その背中ばかりが思い浮かぶ。
私ってなんだろう。
何のために、生きていたんだっけ。
「あ――」
見つけた背中は、大きくて、丸くて、なんだか不器用そうで。
野外の道ばたに一人で立っていた。
私の気配を敏感に察知して振り返った。
振り返ってから、またアタシに背を向ける。
ここでアタシもきびすを返して立ち去ったら、どうなるだろう。その方が楽だろうって、そうしちゃおうって、心の中がざわざわする。
実際にそうしなかったのは。
もしかしたら、ラーガを撃ったあの瞬間の、ハウザーの背中を見ていたからだと思う。
大きくて、丸くて、なんだか不器用そうで。それが、あの日の背中に似ていたから。
「ハウザー、パーティーまだ終わってないんでしょ。行かないの」
かけるべき言葉が見つからなくて、もぐもぐそんなことを言う。
ほかになにか言うべきなんだろうか。けどそんな言葉、持ち合わせてないから。
隣に立って、ただ前を見た。
ハウザー。アタシを育てた男。それで、アタシのパパを殺した男。
そんな男に、かける言葉って、何?
暫くアタシたちはただただ前ばかり見ていた。
なんでもない光景を、砂粒を数えるみたいにただ黙って。
そんな時間がどれくらい続いただろうか。
ハウザーが突然頭をがりがりとかいてきびすを返した。
「ああ畜生! スッキリしねえ! パドラ、飲みに行くぞ!」
こいつ、誤魔化しやがった。
そう思って振り返ると、ハウザーは顔に思いっきり皺を寄せて空を見上げていた。
「お前の父親を殺したのは俺だ」
誤魔化したんじゃないのかよ。
話の段取りが下手過ぎる。アタシが眉根を寄せていると、ハウザーが『あー』とか『うー』とか言いながら首を廻らせ始めた。言葉を考えているのだろう。ハウザーはそういうところで、隠し事が下手だ。
「お前がどう思ってるのか、俺は知らんが……必要なことだった。だからやった。タイムマシンでいますぐ昔に戻っても、俺は同じ事をしたぜ」
途中から開き直ったような言い方に、なんだか色々ばからしくなってきた。
膝に顎肘をついて身体をねじるようにしてハウザーを見る。多分、精一杯のあきれ顔をして。
「ハウザー。アンタ慰め方、下手過ぎ」
「あんだと!?」
「ははっ」
殺した事実なんて、その理由なんて、本当は……どうでもよかった。
ハウザー。アンタがアタシにとって、今までと違うものになっちゃう気がして、大袈裟に言うなら人生が変わっちゃう気がして、足元がぐらぐらしてた。
けど、そうだよね。
アンタの毛むくじゃらな背中は相変わらず大きくて、丸くて、なんだか不器用そうで、やっぱりちょっと可愛いよ。
「じゃ、いこっか。みんな待ってるだろうし」
同じようにきびすを返すと、ハウザーは『おう』とだけ言って歩き出した。
横を並んで歩く今、もし……『おとうさん』なんて言ったらどうだろう。
慌てふためいて発狂するだろうか。そんな姿を想像して、なんだか笑えた。
今は、やめておいてやろう。
「ハウザー、二次会楽しみだね」
「ん、おう」
復讐は、先延ばしにしよう。
許すことなんか、きっとできないけど。
殺すことだって、まだやらなくていいじゃない。
とりあえず今は、朝まで飲もうか。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――そして夜は明けていく
GMコメント
ラーガ・カンパニーを倒しラサの平和を護ったイレギュラーズたち。
ネフェルストの酒場で、凶(マガキ)傭兵団と共に祝勝会を開くことになりました。
●会場
ネフェルストの酒場です。マガキがよく利用するだけあって頑丈かつめちゃくちゃ広いです。
エスニックなご飯を食べたり冷えたビールを瓶で飲んだりとわいわい楽しんでいるようです。
パドラは会場の外で悶々としています。
■■■グループタグ■■■
一緒に行動するPCがひとりでもいる場合はプレイング冒頭行に【コンビ名】といったようにグループタグをつけて共有してください。
大きなグループの中で更に小グループを作りたい時は【チーム名】【コンビ名】といった具合に二つタグを作って並べて記載ください。
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