シナリオ詳細
夢への一歩・後編
オープニング
●第XX会お外同好会会議
数日掛けてイレギュラーズたちの力を借り、その中休み。
来れる時に手伝ってもらうことにしてはいるが、瑛・天籟(p3n000247)もお外同好会のメンバーたち(家族からも「老師に迷惑かけてるんじゃないだろうね」と言われるし)も毎日浮遊島に行ってはいられない。
行けない時は、これまで同様の集まり。もとい、会議だ。
今日の集合場所は、フリアノンの広場。朱・雪玲の部屋は今素材で溢れているし、奏・詩華の部屋は外から来た本が増えて足の踏み場を探す方が大変で、柊・弥土何の部屋は散らかっており、翠・明霞は理由を述べずに静かに断り、白・雪花の家では母から「広場で遊んできたら?」と言われたからだ。
「そろそろ決めとかないとな」
腕を組んだ弥土何がそういうのは、5人が秘密基地を作っている浮遊島の名前だ。『島』だけでも5人には通じるが、できれば名前が欲しい。その方が友達を呼んだ時に「○○島へ行こう」と言えちゃうから。島だけだと、どの島なのかわからない。
「どれもいい名前なんだよね」
「沢山提案してもらったのよね?」
「意味も教わって……私の知らない言葉も沢山あったよ」
「だからこそなかなか決まらなかったわけだ」
どれもこれも良い気がして、悩んでしまう。友人同士にみせる砕けた言葉遣いで詩華が明霞にうんと頷くと、暖炉に星に蕾に止まり木……どれもいいけれどと口にしてから明霞が言った。
「あたしたちって感じのがいいよね」
「それじゃあ、これか?」
「うん、『いつつぼし』!」
「私たち5人で」
「5人の夢が叶う場所、だね」
勿論、『いつかはお外』が目標ではあるけれど、それでもあの島は夢への大きな一歩で足がかり。
弥土何が「いつつぼし島」と紙に書いたのを見た雪玲が「もう少し綺麗に書けないの」と口を尖らせる。その姿を見て小さく笑った明霞はそういえばと思い出した。
「メイメイが旗はどうかと言っていたよ」
「旗?」
「掲げるやつ?」
「そう、その旗。掲げてもいいし、目立って狙われるなら建物に掛けるとかくらいでもいいかもね」
「旗……いいな。秘密基地っぽい」
「いいよね、私も旗が欲しいな」
「……図案が必要、よね?」
チラと雪玲が視線を向けると、いつもの姿から人型へと変じた。
「お。雪玲がやる気だ!」
「雪玲ちゃんがやる気だと心強いね!」
「……そんなんじゃない。ただちょっと。そう、ちょっとだけ気になっただけよ。
旗なんだもの、変な旗にされたらワタシのセンスが問われるのよ」
ふいっと顔を背けた雪玲の頬は薄く色づいている。それに気がついた弥土何が口を開きかけるが、素早く明霞が口を塞ぐ。詩華と雪花は素直になれない幼なじみの嬉しげな姿を微笑んで見守っていた。
「夜色の生地に、色違いのいつつ星の刺繍がいいと思うのだけれど」
「いいんじゃないか?」
「素敵だと思うよ」
「夜色は、黒? 青?」
「染めないといけないし、星も目立たせたいから……」
うーんと雪玲が瞳を伏せて悩む。雪玲はいつもこういったことが得意で、真剣だ。
「現地でお手伝いしてくれる人たちと決めようかしら」
「それでいいと思うよ」
「今度行くときは、ふたりとも来てくれるんだろ?」
ふたり、とは雪玲と詩華のことだ。
「うん。皆の作った基地にお邪魔したいな」
「……別に楽しみにはしてないけどね」
「もうっ、雪玲ちゃんったら素直じゃないんだからっ」
えーいっと抱きついてきた雪花とともに転びそうになったのを明霞が抱きとめて、少女たちは楽しげに咲った。
それから数日後、また保護者の天籟とイレギュラーズたちとともに、浮遊島――いつつぼし島へと向かう日が来た。
「忘れ物はないかの?」
「大丈夫!」
「……大きな裁ち鋏も持ったし、裁縫箱も持ったし、サンプルに貰った皮も持ったし、それから……」
「雪玲、すごく楽しみにしてたんだな!」
「ばっ……! そ、そんなことないわ」
弥土何の言葉にカッと頬を赤くした雪玲は、今日は人型だ。斜め掛けの大きな鞄に色々と道具を詰め込んだのかパンパンで、落ち着かなさげに肩紐を掴んでいる。
「雪玲とお留守番していたし、私も楽しみだよ」
ね? と詩華が淡く笑えば、雪玲もウッと息を飲んでから顎を引く。雪玲が一等素直になれるのは詩華相手かもしれない。同じ里で幼馴染として育ち――雪花もなのだが――静かに、けれども寄り添って雪玲の心の機微を察してくれていた。
「老師、今日は皆で夜まで騒ぐからね」
「わかっとるわかっとる」
「夜飯楽しみだなー」
「お話とか、歌とかも聞きたいよね!」
「皆で踊ってみるか?」
「……明霞のは拳舞じゃろ」
皆でいつつぼし島へ行き、冒険をし、基地を作り、小物を作る。
そして夜になったらご飯を食べる計画だ。
30人近い人数の寝る場所はなくて野宿になってしまうから、ベッドが恋しければその前に帰ったっていい。
ご飯を食べて、歌って踊って、話をして。
そうして星を見上げながら眠りにつこう。
それもまた、お外同好会の小さな冒険の一頁になるのだ。
- 夢への一歩・後編完了
- GM名壱花
- 種別長編
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年03月11日 22時05分
- 参加人数20/20人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 20 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(20人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●いつつぼし島
しっかり掴まってろよ、雪玲! なんて元気に柊・弥土何がリトルワイバーンを操って、お外同好会の三名は何回か足を運んだ秘密基地を作った浮遊島――『いつつぼし島』へと降り立った。
「ここが……」
「ワタシたちのいつつぼし島……」
奏・詩華と朱・雪玲は初めて訪れた浮遊島に瞳をまぁるくして、辺りをキョロキョロと眺める。
高い場所にあるのに風は強すぎず、髪を柔らかに揺らしてくれて心地よい。建ててもらって――まだまだ手を加えると告げられている秘密基地は、早く中を覗きたくてワクワクする。雪玲がチラリと幼馴染たちへと視線を向ければ「どう?」と言いたげな顔がみっつあったものだから、「まあまあね」とツンと顎を上げた。
「…………なかなか、いいんじゃないの?」
「雪玲ちゃん、今なんて言ったの?」
「雪玲も気に入った、って」
「雪玲は素直じゃないなー」
「私も雪玲さんと同じ気持ちです」
四名がくすくす笑っても雪玲から「そんなんじゃない」は返らない。素直じゃないけれど、彼女は素直なのだ。
「アナタたちは冒険にいくんでしょ? 茶化してないで早くいったら?」
「えー、俺は雪玲を」
「明霞やお客さんたちに案内してもらうからいいわ」
早く行きなさいと手を振って弥土何を追い払おうとする雪玲。
「弥土何君、行こう? 雪玲ちゃんが心配しちゃうよ」
「暗くなる前に帰って来いって言ってるんだろ、雪玲は」
正しく雪玲の意図を白・雪花と翠・明霞に雪玲はバッと顔を向けるが、それ以上は言わない。表情に全て出てしまっている。だから嫌なのだ、人型は。
「そっか! 今日は皆で飯を食べて泊まるんだったな! お土産、持って帰るぜ、雪玲!」
「羽目を外し過ぎんようにの」
「わかってるよ、老師!」
それじゃあいってきますと元気に雪花と弥土何がイレギュラーズたちと旅立って、雪玲はふうと吐息を零した。
「それでは明霞、皆さん、案内をお願いしても良いですか?」
「……よろしくね」
残った三人は、イレギュラーズたちとともに秘密基地を覗き込んだ。
まだまだ不完全で――ううん、きっとずっと不完全。
完璧だと思ったら変化はそこでおしまいになってしまうから、成長途中の五人のように不完全のままでいい。
冒険をしよう。
秘密基地をしよう。
モノ作りをしよう。
さあ何から手を付けようかと話題に花を咲かせて。
風よし雲よし日差しよし。今日も今日とて絶好の冒険日和。
「それじゃあ今日は前行ったところの先へ行ってみるか」
「「おー!」」
浮遊島だからか良い風が吹いている。抜け目ない視線を辺りへと向けた『蛇喰らい』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)の背後では、『有翼の捕食者』カイト・シャルラハ(p3p000684)の声に合わせて弥土何と雪花が元気に腕を振り上げていた。
「ふたりとも、すごく元気だね」
「そうだね、ファゴットさん」
明るい子どもを見ると、何だかとても楽しくなる。ふわふわと浮かんだファゴットが楽しげに口にするのに、『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は笑って同意を示した。
今日の方針はカイトが口にした通り、前回よりも奥へと踏み込むことだ。
まだドラビットは捕まえていないから、できれば其れも……とは思うものの、見た目がほぼうさぎなドラビットは可愛いから子どもたちは大丈夫かな、なんて案じてしまう。
まず探すのはネコグサっぽい草だ。確かアレを食べていたとファゴットが口にすれば、弥土何がしっかりとメモを取る。コンパスはクルクルと回っていたから、太陽の位置を確かめて、前回同様地図作成。ひょいとカイトが覗き込めば教えることがなさそうなくらい書き込まれていた。既に色んなイレギュラーズに教わったのだろう。
「ネコグサっぽい草のところに罠を仕掛けてみようか?」
ヨゾラの提案に、任せろと気安く応えるのはバクルドだ。どれくらいの大きさかを尋ねて手際よく設置して。
「一箇所だけじゃなく色んなところにも仕掛けるんだ」
もしそこで待機していて成果なし、では見知らぬ地で数ヶ月彷徨ったときなどは生きていけない。幾つも仕掛け、そのひとつでも成果が上がれば御の字くらいでいなくては。
「お。これは傷薬に使える草だぞ」
罠を仕掛けている間に、ヨモギのような見た目の草が群生しているのをカイトが見つけた。傷薬は嬉しい。弥土何がしっかりと地図に記し、雪花は綺麗なのを選んで収穫した。
覇竜大陸は知らない植物が沢山だ。特に此処は浮遊島。覇竜っ子である弥土何や雪花の知らないものも沢山あり、その危険性をよく知っているのはふたりだ。気をつけて採取はするものの、直接その場で色々試そうとする無謀は侵さない。
「ヨゾラ、罠にかかったみたいだよ」
「ありがとう、ファゴットさん」
それじゃあ罠から外して仕留めようとヨゾラは提案し、その間に離れた場所のビッグホーンを狩っておくとカイトとバクルドは連れたった。ビッグホーンは前回も狩ったが、肉が美味いのだ。夜に焼肉にすれば子どもたちが喜ぶこと間違いなし!
「……わ。やっぱり可愛いね」
どうしよう、仕留められるのかな?
チラッとヨゾラは弥土何と雪花を見た。
「わあやった、お肉だ」
「こういう小さいやつの方が肉が柔らかいんだよな」
流石は覇竜っ子。可愛さよりも肉として認識しているようだ。猫好きなヨゾラからするとドラネコは大丈夫かなと案じるが、彼等が食べない理由があるのかもしれない。
「お。仕留めれたか?」
「カイト君おかえり~」
「ビッグホーンはどう?」
「あっちでバクルドが見てくれてるぜ」
「それじゃあそっちに移動しよっか」
仕留め終えたドラビットを紐で縛って持ち、バクルドの方へと向かいながらファゴットが他にも罠に掛かっている場所を教えてくれたからそこも見て回って、抱えきれないくらい捕まえたところで残りは放してやる。食べ過ぎたら生態系が崩れるし、食べ切れる分以上の命を狩る必要はないからだ。
「沢山捕れたようだな」
沢山のドラビットに大きな牛型のビッグホーンが2体。
「さ、始めるか」
ネコグサっぽい草が沢山生えているところから離れ、全員で解体作業だ。
角も皮も、前回とても雪玲が喜んでいた。物流のない覇竜では、動物の全てを使うのは当たり前。丁寧に捌いて肉と其れ以外に分けるのも、ふたりは慣れているようだった。
「ま、この後の調理は他の奴らに任せるが吉ってもんだ。後は適当に酒を見繕ってこなきゃならんなぁ」
「老師がいいお酒を持ってるよ」
「そういえばこないだ、他所の酒も手に入ったって喜んでたな」
「何。それは貰わねぇとな」
「ドラネコはいないのかな」
「そういえば見掛けなかったね」
長閑な浮遊島に見えるけれど、やはり覇竜は覇竜。それなりに生存競争が厳しいのかもしれない。
話を弾ませながら解体を終えた頃、はたとカイトが気が付いた。
「そういえばこれ、どうやって持って帰るんだ?」
「あ」
一度で持って帰るには、狩りすぎたかもしれない。ビッグホーン1体にしておけばよかったが、大人たちは子どもたちに格好いいところを見せたかったのだ。
血の匂いで寄ってきた亜竜に襲われないようにお肉番をふたり残し、何度か往復して秘密基地へと運ぶのだった。
洞窟。そこは暗くて、修行にはぴったりな場所だ。
瞑想も出来るし、視覚以外の感覚を研ぎ澄ませての鍛錬だって出来る。
敢えて灯りを持たずに向かった『闇』シッコク(p3p010498)は、ひとり静かに武者修行。……瞑想、噂に聞いただけで、どういうのか良くは知らないけど。
気の向くままに奥へ奥へと進み、襲いかかってくる何かがあれば倒す。
覇竜においてひとりでのその行いは危険ではあるが、既に此処は先日イレギュラーズたちも来ているし、危険が無いかペイト里長師範代の天籟も巡回に来ている。最悪倒れてしまってもその内回収は叶うだろう。――スライムに溶かされない限りは。
「あれ、音が聞こえたぜ?」
おーい、誰かいるのかー?
暗がりへと向かって、『幸運の女神を探せ』ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)が声を掛けた。洞窟内に声はぐわんぐわんと広がって、少し後に「……居る」とシッコクが応じた。
「何してんの?」
「修行……」
「ほー、感心じゃのぅ」
集った亜竜種三人。全員性格が違う。好い心がけだと天籟はうんうんと頷くが、ジュートは修行には特に興味がない。
「何か見つけてねーか?」
「そういえば……宝石? 自然の石を見つけた」
「お。ラッキーじゃん」
「スライムは見掛けなかった?」
スライムの粘液が何かと役に立つようだから集めておきたいんだ、と『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)。それならとシッコクが応え、全員でスライムの粘液採取をした。前回行っていない道だったから、早速弥土何が地図へと書き足した。
「ニルたちは鉱石蟹さんに会いにいくところです」
行き先は、もっと下がった地底湖だ。今日は鉱石蟹を食べるのだと『陽だまりに佇んで』ニル(p3p009185)は楽しみに大きな籠を背負ってきた。中にはお昼に皆がお腹をすかせないように、お弁当入り。お腹が空くのは『かなしい』だから。
「その宝石、前回見なかったな」
「砕いて絵の具に出来るかな」
「持って帰れば雪玲が喜ぶだろうな」
「ああ!」
弥土何は彼女が喜ぶことを確信しているのだろう。屈託のない明るい笑みを『竜剣』シラス(p3p004421)へと向けていた。
「これだけあれば暫く十分だよね?」
「だなー。結構居てくれて助かったぜ」
スライムの粘液をたっぷりと沢山の瓶に詰め、よいしょと荷物を背負いあげたアクセルは満足そうだ。これだけあれば色々と使える。けれど鮮度が保つのかとか、保たせる保存方法だとかを調べるためにも多く入手することが望ましかったのだ。
一行は地底湖まで下っていく。明るく輝く水晶もいくつか採取してみるつもりだ。これは砕いて服飾にすると雪玲が喜びそうだから。
「そろそろお昼でしょうか?」
鉱石蟹を数匹捕まえてみた時、ニルがそう口にした。皆様の分もありますよとお弁当を広げると、シラスが蟹も試食してみようぜと言い出した。
「天籟ちゃんが教えてくれた話だと、鉱石を取り外せば変質せずに済むんだったよな?」
「そうじゃのー」
ヒントは出したぞと天籟は見守りの姿勢だ。
「とりあえず試しに一匹捌いてみようぜ」
取り外せばいいのだろう、とシラスが鉱石蟹の甲羅から生えている鉱石に手を掛けた。
「……っと」
渾身の力を籠めてバキンとやった瞬間、蟹は死んでしまった。身はまたダメになってしまったことだろう。
「天籟様、どうやったら上手に鉱石を取り除けますか?」
「学びの場でもあるからの」
考えろ、ということなのだろう。
けれど天籟は子ども(のような見た目の子)にとても甘い。
「もうひとつ助言じゃ。鉱石を餌にしてるのがおったじゃろ?」
「あー、なるほど。スライムの酸だな!」
鉱石と蟹の甲羅の成分を調べていたジュートがすぐに気付き、ポンと手を打った。蟹という生物は餌を食べる際に土ごと食べてしまう。それを排出するわけなのだが、この鉱石蟹は排出される部位が甲羅にあるのだろう。若い蟹ならば繋がりが浅くとも、食べられるほどの大きさに成長した立派な鉱石持ちは無理に剥がすと衝撃が大きいのだろう。
「ジュート坊は賢いのぅ」
「へへ!」
「スライムの酸かぁ。オイラたち、粘液しかとって来なかったね」
「まあ、そこはおまけじゃ」
「天籟様、スライムを捕まえていたのですか?」
一番後ろをふよふよ着いてきていた天籟がポイと一体のスライムを放り投げると、スライムは早速蟹へと覆いかぶさり鉱石を溶かしていく。鉱石蟹は確りとジュートが抑えているから、溶かされるままだ。
「天籟、手を見せて」
怪我してるでしょとアクセルがツッコめば、ワハハと笑った天籟はスライムの酸で焼かれた手を大人しく治療される。
「生でいけるのかな」
「塩茹でがいいんじゃないか?」
火を通した方が腹を壊しにくいことを、シラスはよく知っている。
「弥土何、蟹は食べたことあるか?」
シラスの問いに、弥土何が素直にかぶりを振る。
美味いんだぜと差し出されるのは、鉱石蟹の立派な足だ。熱いとか硬いとか楽しげな悲鳴を上げながら、弥土何と雪花は初めての蟹を口にした。
「海の蟹と同じ感じだね」
「塩気はないけどな」
「海にも蟹がいるのかあ!」
いつか海の蟹も味わわせてやるよとシラスが口にすると、弥土何が嬉しげに笑う。弟ってこんな感じなのかもしれない。
「皆様とも食べたいですね」
「じゃあ帰りに酸を……って、耐えれる容器がねーか?」
「それはあれじゃ」
首を傾げたジュートを見て、天籟が明るい水晶を指をさした。鉱石蟹を食べるのに、鉱石蟹の多く生息する地底湖へスライムが来ないのはあれのせいだ、と。溶かせない上に、蟹が隠れてしまうと効率が悪いのだろう。もしかしたらあの輝きも苦手なのかもしれない。
「オイラ、加工するね」
「俺も」
アクセルとジュートが移動し、シッコクもついていく。
「後は……湖も調べておくか」
「危なくない?」
潜るの? と弥土何がシラスに尋ねてくる。
前回は潜らないほうがいいかもと感じた水だが――今は不思議とそんな感じはしない。前回来たときよりも水が澄んでいるのだ。
「待ってろ」
「ニルは見張ってますね」
皆で食べられる分だけの分の蟹を捕まえているから、危ない生き物が出てきたらすぐに出てきてください。ドボンと潜るシラスへ、ニルは真っ直ぐに伝えた。
「大丈夫そうだぜ。飲めるかどうか……は解らないが、游いで遊ぶにはいいんじゃないか?」
地表にある泉では危険な魚が居たと聞いているが、此処には蟹が底を歩いているくらいだ。泳げると聞いて、弥土何と雪花が顔を見合わせる。夏になったら游いで遊ぶのもいいかもしれない。
「お水が また少し きれいになっていますの」
「本当ね。いいこと、続いているみたいね」
先日見つけた泉に到着すれば、真っ先にその水の色が目に飛び込んできた。底は濁っているが、上澄みは綺麗そうだ。『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)が嬉しげに声を跳ねさせると、一緒に覗き込んだ『氷の女王を思う』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)も嬉しそうに翅を羽ばたかせた。
まずはご挨拶しようと『自在の名手』リリー・シャルラハ(p3p000955)の提案で、全員で飛行して――今回は『優穏の聲』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)もともに祠まで向かった。
腰掛けほどの大きさの祠は、全員で囲むと余計に小さく見える。
「私達が清掃させてもらう。家を暴くことを許してほしい」
祠は人で言う家のようなもの。更に奥まで開く事となることを、先にゲオルグが伝えおく。『氷の女王を思う』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)が精霊たちの気配を探れば、嫌がるような感情は感じられず――むしろ喜んでいるように思えて、オデットの口の端があがった。
「今日はピカピカにしちゃうわね」
間近で見る祠の殆どが石製のようだった。木製ではとっくに崩れてしまっているだろう年月を過ごした石は、それゆえにやはり摩耗している。
その中に――一番奥に、ひとつ、木箱があった。
「これが御神体だろうか」
ゲオルグが手を伸ばそうとした。
その時だった。
「あっ 皆様 気をつけて くださいですの!」
上澄みが綺麗になった泉の水。それ故に上の方に上がってきた魚の影が見えるようになった。裏を返せばそれは、水中に住まう者たちからも見えるようになった、と言うことだ。
「あっ」
慌ててノリアがひらひらとした長い尾びれを抱きしめる。そのタイミングで鋭い歯を覗かせた大きな口がザバンと水中から顔を出し、ばくんと尾びれのあった空間へと噛みついた。間一髪の回避であった。
「ヌシ ですの!」
イレギュラーズたちは少しだけ浮遊する高度を上げる。
「倒すのは無理かもだけど、攻撃すれば少し大人しくなる、かな……?」
掃除の間だけでも大人しくしてもらえたら、とリリーは好戦的に眉を上げた。
しかし、オデットとゲオルグはそれを制した。
「待って、リリー」
「そうだな、これは――」
さやさやと囁くような精霊たちの気配から感じる感情に『恐れ』がない。泉のヌシは精霊たちには悪いものではないのだろう。
「……守っている、のか?」
水中の大きな影は、祠の周りをグルグルとまわっている。縄張りへの敵の侵入を警戒しているというよりは祠を守ろうとしている。そのようにゲオルグには感ぜられた。
ならば、余計に刺激をすべきではないだろう。
「わたしたちは 悪さはしません。 祠を きれいにしに 来ましたの」
ノリアがヌシへと話しかける。その言葉が信用を勝ち取るには、真実であることを行動で示すしかない。少しだけ見える影が小さくなり、けれどもグルグルと廻っている気配を感じながら、イレギュラーズたちは作業を進めることとなった。
「よごれた水の 捨てる場を 作りましたの」
泉を汚すわけにはいかないからと、軟水も持ち込んだノリアは地面を掘って最初に少し離れた場所に水捨て場を作った。汚れた布等は当然持ち帰るのだが、拭いた汚れを洗って何度も布を使うために。
「私は綺麗にするスプレーを持ってきたわ」
ジャーンっとオデットが見せるのは、ぴかぴかシャボンスプレー。今日はこれで完璧にしてみせると意気込んだ。
ゲオルグは心の中で再度断りを入れてから、箱へと手を伸ばす。祠の外壁に守られていたからか、箱が崩れはしないが身長した方が良さそうだ。蓋を開けば小さな水色の宝石のようなものがコロンと転がっていた。周囲の下級精霊たちからは夏の木の葉が風に揺れるような強い喜びの感情を感じ、彼等にとって大事な物であることが知れた。
「資材を貰ってくる」
秘密基地へ戻れば木材等もあるだろう。ゲオルグは一度秘密基地へと戻ってから、御神体らしきもののための箱を新調してやることにした。
そうしてヌシに気をつけながら祠の清掃を続ければ、時間はあっという間に過ぎていく。
「どう? ピカピカよ!」
鼻の頭についた泡をぐいっと拭ってオデットが笑う頃には、泉の中でグルグルと廻っていたヌシの存在を感じられなくなっていた。祠に悪さをする訳ではないこと、精霊たちが喜んでいることが伝わって、泉の底で大人しくしているのかもしれない。
「この泉、祠の真下から沸き出ているのかしら?」
オデットの疑問は『洞窟組』と話していたら少しだけ解けていたことだろう。
「水、また少し綺麗になったねっ」
泉を覗き込んだリリーが笑う。祠はもうピカピカだから、後はそれを定期的に保ちさえすれば大丈夫そうだ。
「箱に、クッションも詰めておいた」
秘密基地へ戻って木材を貰った際に事情を話したら「わかったわ」と雪玲
が言い、何だろうと思いながら泉の畔で作業していれば天籟が届け物をしに来てくれた。雪玲お手製の小さなクッションだ。
御供物はゲオルグ特製サンドイッチとにゃんたまクッキー。それから御神酒代わりのフリアノン・ジン。
「口に合うかはわからんが」
「私も!」
妖精印の林檎ジュースをオデットが置いて、皆揃って手を合わせた。
「どうかこのいつつぼし島を見守っていてね」
「子供たちも守ってあげてねっ」
何がここに居るかは解らない。けれども精霊が嬉しそうだから、オデットはそれでいい。リリーもきっと何度も遊びに来るだろう子どもたちのことを願った。
(どうか、この島が穏やかな場所でありますように。そして覇竜領域に住む者達を見守ってやってほしい)
ふわふわ羊のジークとともに手を合わせ、目を閉じる――と、耳元で鈴が鳴ったような気がしてゲオルグは瞳を開けて隣を見た。
「どうか されましたの?」
「いや――」
唐突に顔を向けられたノリアが首を傾げている。それ以外に変わった点はない。
けれど、確かに何かが応えてくれたのだとゲオルグは思ったのだった。
陽が傾いてイレギュラーズたちが秘密基地へ戻った後、泉の上に優しい風が吹いた。
小さな祠に重力を感じさせない『何か』が腰掛けて、下級精霊が歌うようにざわつき、ヌシは水中をぐるりと廻る。周囲の命、全てが島の主に慶びを顕にしていた。
何かが風を震わせた。
『優しき子等に、母なる竜の加護がありますように』
竜種の爪から生まれた上級精霊『ペリ・ハマイイム』はいつつぼし島に祝福を与えた――。
●
調理場予定の場所は前回からも設計図に書いてあった。それように前回訪れた際に、基礎をサイズが考えてくれていた。調理場は居間と続いている空間だ。
「私は今日はそちらから取り掛かりますね」
お外ご飯も楽しいけれど、やっぱり室内で料理が出来たほうが安全だ。
(お水は確か、その内使えるようになりそう、でしたよね)
詩華のための本棚のある部屋も、雪玲の作業部屋も、作ってあげたい。当然一日では難しいことも理解していて、『相賀の弟子』ユーフォニー(p3p010323)は何日も通う気満々で来ている。
「おれは……外で花壇、作る……するね」
「お花ですか? いいですね」
「染料になる花、採れるといい……」
「……すぐ側なら育てるのも楽だものね」
気になったのだろう。『燈囀の鳥』チック・シュテル(p3p000932)の言葉にどこかソワソワとした様子を見せた雪玲は「別に期待してないから」と言って物作りをするイレギュラーズたちの元へと向かう。
「あの、あれは『期待してる』ってことなので……」
「うん」
さり気なくフォローを入れる詩華に解っていると頷いて、チックは外へと出た。
ユーフォニーにどちらに部屋を増やすのかを尋ね、せっかくだから部屋にこもりがちになりそうな雪玲と詩華が室内から見える場所にしようと土を耕し始める。
「坊、チックや」
「……天籟」
「これを使うとよいぞ」
運んできた麻袋をよいせと地面に置いた天籟が、中身は肥料じゃと付け足した。
「花もじゃが、野菜も良いかもしれんの」
腰が痛くなりそうじゃ~と言いながらも、天籟も手伝ってくれるらしい。よいせと掛け声とともに彼がクワを振るう。辺りの土が掘り起こされて飛び散って土の雨が降ってチックは暫し呆然としたけれど、土が柔らかくなって作業はしやすくなった。
「グループ、分ける……する」
「ほー。主は几帳面なタイプじゃな?」
「……わからない。けど、雨泽もそう言ってた……かも?」
ここからは春から夏に掛けて咲く花。
こっちは……とチックがグループを分け、丁寧に土と語らっている。どろんこになりながら、天籟はペイトゴボーも育てられんかのーと言い、チックはアレは美味しかったねと笑った。草花の成長が楽しみだ。
「新しいブロックはこれくらいで良さそうですね」
今日使う分を取り分けて次の分を乾燥させる作業をしたユーフォニーは、肉体労働にふうと汗を拭った。その途端ユーフォニーの額には泥がつき、明霞が指摘した。
ぴかぴかシャボンスプレーは泉に向かったオデットが持ち込んでいるからご飯前に借りようと決めて、ユーフォニーは新しい部屋の増設だ。調理スペースは他の人にシンク等を作ってもらえばOKなところまでは進めてある。建物の外に汲んだ水を入れるタンクも置いて、室内で使えるようにするのだ。
詩華のための本棚も欲しいし、雪玲のための作業台や道具入れもほしい。これはまた資材と大工仕事が必要になるため、今日のところはふたりの意見だけ聞いてメモってある。
「そういえば、合言葉は決めてあるのですか?」
「合言葉?」
力仕事になるものは明霞が取り扱う。首を傾げた彼女へとそうですと口にしたユーフォニーは悩める彼女へとピッと指を立てた。
「秘密基地に入れるひとはこの合言葉を知っているひとだけ、らしいですよ」
「あー、アイツ等好きそうだね」
けれど大切な合言葉をここに居る三名だけで決める訳にはいかない。お外同好会は五人揃っていなくては。
「夜ご飯の時にでも話しておくか」
「決まったら、教えて下さいね!」
そうしたら訪ねる度にその言葉を唱えるのだ。
幾度も通う気のユーフォニーは、そんな日々を楽しそうだと笑った。
「ここが雪玲ちゃん達の秘密基地? すっごく素敵な秘密基地が出来たんだね!」
「あら、可愛い感じねぇ」
「まだまだこれからよ」
ツンとそっぽを向くけれど、雪玲も気に入ってはいるのだろう。瞳が嬉しげに輝いているのを見て、こっそりと顔を見合わせた『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)と『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は笑った。
早速作業をしましょうと雪玲が張り切り、力仕事は任せろと明霞が請け負い、最後に詩華がよろしくお願いしますと頭を下げた。
「めぇ……素敵だと、思います。掲げて嬉しくなる、旗です」
「黒い星を刺繍したから、青にしたわ」
雪玲が見せたデザインを見て、『あたたかい笑顔』メイメイ・ルー(p3p004460)はこれが形に――旗になるのだと、完成前から嬉しげに耳をぴるると震わせた。
「それじゃあ染色をしようか」
「は、はい。よ、よろしく、おねがいします……!」
「俺はあっちの方で作業しているよ」
いい色に染まるといいねと明霞とともにメイメイは移動し、装飾品と本作りを同時に行う予定の『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)も場所を移動する。
「使える材料はこんなものか」
サイズが目をつけたのは、余った資材が中心だ。しかし、こういったものが小物作りにはぴったりで、尚且つ少ない資源でやりくりするというのは挑戦しているようで楽しい。
「ブローチや髪飾りにはなるか」
お外同好会は五名。四人が女子で、一人が男子。ブローチを元にして、髪飾りにもなるようなお揃いのものを用意するのも良さそうだ。喜ぶ顔を思い描き、サイズは作業を始めた。
「雪玲ちゃん、前にあった時と姿が違わない?」
「疲れるんだけれど……この方が作業がしやすいのよ」
聞いても大丈夫なのかなと探りながら焔が問えば、答えはあっさりとしたものだった。
今はメイメイが明霞と染色を行っており、色味を見るために雪玲も眺めている。色は乾くと思っていたより薄くなるから濃いかなって思うくらいにして、と注文を飛ばしていた。
「いい色になるといいね!」
ボクも手伝ってくる! と焔が駆けていった。
「今日はね、インテリアの本を持ってきたの」
「本、ですか?」
居間で本を広げたアーリアに、詩華が反応する。内容に関係なく、読みたいの気持ちが溢れているのが表情に出たのだろう。見守るようなアーリアの視線に、詩華はこほんと咳払い。
「これとか可愛いわぁ! ね、これ。作ってみない?」
「い、いいですね」
詩華は作業は得意ではないけれど、きっと誰かと頑張って作るのは楽しいから。難しいところは助けてくださいねと生真面目な顔でアーリアにお願いし、ふたりでブックスタンド作りを始めていく。
「あ!」
「雪玲さま、どうされました?」
染色した布が渇き、焔とメイメイが針を持って頑張って――完成も間近、となった頃。雪玲がするどい声を発した。
「老師ってば泥だらけじゃない。こっちに来ないでよね」
「扱いが酷いんじゃが!?」
「まあまあ老師」
雪玲の言葉にぷんすこ怒った天籟を明霞が宥める。やり取りにクスクスと笑ったメイメイはハッと気付いて自分の姿を見下ろした。今は刺繍をしているが、明霞とともに行った染色の際に身体のあちらこちらに色がついている。
雪玲の白い指も乾いたか確認する際に色づいている訳だが――これは汚れてるわけじゃないと顎をツンと上げられた。彼女にとってのそれは勲章のようなものなのだろう。
星の色は、赤・白・緑・桃・黒を選んだ。夜空にしようと選んだ濃い青では黒が目立たなくなってしまうから、持ち込んだ金色の刺繍糸(雪玲がとびきり大事にしているらしい)で全ての星に金色の縁取りもし……こっそりとメイメイと焔だけに「これは老師」と教えてくれた。皆を守ってくれているのだ、と。
汚れるのを懸念した訳ではなく、その作業を本人に見られるのが嫌だったのだと解って、メイメイと焔の心はぽかりと暖かくなった。
「今日はお洋服とか着物も持ってきたんだ」
色々持ってきたから好きなのを選んで。一着プレゼントするよ。
そういった焔の心配りを雪玲は少し戸惑いながらも「一着くらいなら……」と受け入れた。
しかし、「着替えてお迎えしたら?」の言葉には首を振る。
「皆”で”じゃないとダメよ」
可愛く着飾るのなら、ひとりだけではダメ。ひとりだけの特別はいらない。
五人揃って、五人でないと。二人を出迎えるのなら、三人でないと。
「……いつかね。皆のお揃いの服とか、作りたい」
できれば内緒で用意して、驚かせたい。その時は手伝ってくれる?
小さく零した言葉は、彼女の本音。焔は明るく笑って、勿論と応えた。
「好きに使ってくれ」
何気ない所作で、サイズの手から詩華へと本が手渡される。装飾作りの合間にちょこちょこと書き込んでいたから、書きたいことの半分以上は書けなかったしページ数は然程多くはない。どうしたって手は2本しか無いから、両手での作業が多い装飾作りをしているのだし、普通ならば何日も何十日も掛けて編纂等を行うのだから仕方がない。
「え。……わ。本? 本ですか? わ、わ、サイズさんのお手製本、ですか!?」
大切そうに両手で本を受け取った詩華の顔が興奮に染まっている。ついでにいうとメガネもずり落ちているが、それに気付かないほど喜んでいることが解った。
「え。すごい。こんなに要点が纏められて……解りやすい……」
断りを入れてからパラパラと捲ったら、既に虜になっている。のめり込んでいる事に気付いた詩華がハッと顔を上げ「本棚の一番良いところに飾りますね」と笑う。
幸せそうなその笑みは、苦労が報われる笑みだった。
太陽が傾き始めたら、パラパラと皆が秘密基地へと戻ってくる。早くに着いた者たちから調理を始め、皆で食事をする準備を整えていった。
「天籟様。ニル、上手に出来たでしょうか?」
鉱石を溶かすスライムの酸を採取してきた。上手に溶かしたつもりだけれど、おいしくなったでしょうかとニルが問う。
「うむ。ニル坊は料理上手じゃの。うまい!」
うまいは『おいしい』だ。
おいしくなぁれのおまじないも要らないくらいだと、他のイレギュラーズたちも蟹身を喜んでいた。
「地底湖があったんだが」
そう口にしたシラスは草原組が獲ってきたドラビッドの串焼きを頬張った。あの水は何処から来ているのかという疑問。それから水が綺麗になったことを口にすれば、泉へと向かった面々が顔を見合わせた。
「泉に祠があってね、お掃除したんだよ」
「ヌシが守ってる感じだったんだよねっ」
泉の水が地下へと浸透しているのだろう。水も飲めるくらい綺麗になる気がする、とは泉組の言だ。――眠りについていた祠の精霊が目覚めたことを、彼等はまだ知らない。
会話が弾む良い頃合いで、お外同好会の五人が集まってメイメイと作った旗を披露した。五色の違う色の糸の染色は冒険をした皆が揃えてくれた材料を使われていて、普段使っている糸よりも良い発色ではないがそれでも皆の力で集めたものだから満足していると雪玲が告げていた。
火を囲んで楽しく過ごせば、時間はあっという間に過ぎていく。
太陽は沈んで、星星が空で輝いて。
お腹も膨れて昼間の疲れもあれば、明日も頑張ろうねと話し合いながら眠りにつくのだ。
「ホットミルクでいいかしら?」
練達で臨時講師もしているアーリアは本当だったら「寝る前にホットミルクを飲んだら歯磨きを!」なんて言うべきかもしれないけれど、今日だけは特別。
「美味しい茶葉も用意してきたから、紅茶も淹れられるよ」
紅茶をミルクで割ってもいいと『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が微笑めば、まだ起きているイレギュラーズやお外同好会の子たちからのリクエストが聞こえてくる。
パチパチと火の爆ぜる音と星の囁きが聞こえる優しい時間。
火の番をしている天籟の元へも、アーリアはそっと差し入れた。
「はい。老師もどうぞ」
「おお、すまんの。……む! このほっとみるく、うまいのぅ!」
ふふっと茶目っ気たっぷりに笑うアーリア特製、隠し味のブランデー入り。酒飲みには入れ過ぎくらいでちょうどいい。
「みんなは『お外』に出れたらどういうことをしたい?」
手を暖かなミルクティーで温めながら『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が口を開いた。『外』への憧れは、新緑という閉鎖された国に居たアレクシアには馴染み深いものだ。五人は顔を見合わせ、それぞれ答える。
「俺は世界地図を作りたい」
「私は冒険者。弥土何君と一緒に回ってもいいかもね」
「あたしは武者修行の旅、だな。ふたりのお守りもしてあげるよ」
「私は世界中の本を読んでみたいです」
「…………」
「雪玲ちゃんは?」
そっと視線を逸らした雪玲に焔が顔を向けた。雪玲は既に人型を解いているから表情は解りにくいが、夢を語るのは少しはずかしいのだろう。
「……ブランドとか、気になっているわ」
オリジナルブランドを立ち上げ、お店を持ってみたい。それはとても難しい話だろうからできればの話で、笑わないで聞いて、の気持ちが籠もった言葉だった。
けれど、ここにいる誰もが笑わないこともまた、知っていた。いいねとその時がたのしみだねと続く言葉に、雪玲は上がった広角を隠すようにミルクティーに口付けた。
「いつかきっと叶うよ」
「そうねぇ、お姉さんもお手伝いしたいなって思っちゃう」
「勿論私も手伝うよ!」
特に冒険への同行はまかせて! と笑うスティアは、聖女然とした見た目に反してたくましい。雪花にどんな場所に行ったことがあるのかとねだられ冒険話に花を咲かせれば、冒険話なら負けないよとアレクシアも鉄帝やラサでの話を披露して、弥土何と雪花の瞳は点に浮かぶ星のように煌めいた。
明霞はそんなふたりを楽しそうに見るし、詩華は穏やかに見守り、雪玲は興味がなさそうにしているが幼馴染たちの笑顔を時折幸せそうに見ている。誰が見ても、お外同好会は仲良し五人組。
「雪花ちゃんって普段どんな感じ?」
それは、スティアの素朴な疑問だった。いい子だと思うし、話していて楽しい。皆にとってもそうなのかな、と。
「雪花か? 雪花はお転婆で――」
「弥土何君! 男子はあっちいっていて!」
「なんだよもー、本当のことだろー」
なんて口にしながらも、弥土何はシラスやカイトたち男性陣が居る方へと素直に向かう。いつも女子四人に囲まれているから、たまには男同士の語らいにも心惹かれるのだろう。
「雪花はいい子だ」
「はい。優しいし、気遣い屋さんでもあります」
「……猪突猛進なのがダメだけど」
「もー、雪玲ちゃん! 皆が褒めてくれてたのに」
「そういえば最近、『よいしょ』という言葉を本で読みまして」
「あー! 詩華ちゃんまで!」
明霞が喉奥でくつくつと笑い、他の二人も笑うから、雪花の声はポーズだけ。関係性が間近で感じられ、スティアは柔らかく微笑んだ。
「そういえば、合言葉を考えたんだ」
ユーフォニーが秘密基地には合言葉が必要だと言ったのだ。
入る時にノックとともに合言葉の遣り取りをする。それはちょっぴり楽しそうだと五人はご飯を食べながら考えたのだと言う。
室内から「煌めく星は?」と聞かれたら、「いつつ星!」と答えることに決めた。だから遊びに来る時は覚えていてね。この合言葉を知っているのはお外同好会のお友達だけ。他の人には内緒だよ、と念押して。
「お主等ー! いつまで起きとるんじゃー!」
いつまでたっても寝ようとしないイレギュラーズとお外同好会の面々に、焚き火をつついていた棒をぶんぶんと振った天籟が「寝とるもんもおるんじゃぞ!」と注意する。
「……老師の声の方が大きいわ」
「ふふ、言えてるー」
くすくす笑う小さな声はさざなみのように広がって。
草が髪について翌朝大変なことになるのも構わずに転がって、星空へと手を伸ばす。浮遊島から見上げる空はいつもより近くて、星も大きいような気がして、ワクワクするような冒険心と好奇心が満たされる。
注意されたって話したいことがいっぱいだから、毛布にくるまって話し続ける。勿論眠っちゃった人を起こさないように、音量だけは絞って。
眠りにつくその直前まで、話をしよう。今までのこと、これからのこと。
話す度に距離が近付いていくような気がするのが嬉しくて、けれど起きた時にどれだけ覚えていられるのかな? なんてことも沢山考えた。
星を掴もうと伸ばした手が力なくぱたりと落ちる時、後に残るのは火の爆ぜる音と星たちのチカチカとした囁き――それから、保護者の小さな亜竜種のため息のみ。
五人の小さな冒険と始まりの一歩へ着いていくのは疲れたけれど、それでも満ち足りていた。明日も明後日も作業をするからまだまだ終わりではないから天籟の肩の荷は降りないが、幸せそうに笑う子等とイレギュラーズを特等席で眺められるのは存外にいいものだった。
瞳を閉ざした皆の頭上を、星が流れていく。
――亜竜種の子等が、幸せでありますように。
ひとり見上げた天籟は、静かにそう願うのだった。
どうかこの幸せが永く、と。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
楽しい時間となっていたら幸いです。
これからも楽しい日々が続きますように!
GMコメント
ごきげんよう、壱花です。
お待たせしました、後編です。
●目的
浮遊島へ行こう!
お外同好会の子たちと楽しく過ごそう!
●シナリオについて
このシナリオは二部編成を予定しており、今回は前編です。最終的にはお外同好会の子たち(お友達含む)が冒険の拠点とする秘密基地の完成を目指しています。(※なんかすごい!立派!な拠点ではなく、あくまで遊びの延長線の秘密基地です。)
NPCに絡む必要はありません。のびやかに過ごしてください。
『お外同好会』…集落を越え、外に興味のある幼馴染5人組。
●フィールド:浮遊島『いつつぼし島』
霊嶺リーベルタース付近の浮遊島のひとつ。移動にはリトルワイバーンを利用するか飛行スキルが必要です。(希望者には里からリトルワイバーンを貸し出されます。)
丘のような大地に洞窟や泉、朽ちた遺跡のようなもの等があります。土肌ではなく、広範囲に草が生えています。森のようにはなってはいませんが、少しだけ木もあるようです。
天籟が比較的安全そうな浮遊島を選んでいるので、竜種は絶対に出現しません。
●プレイングについて
一行目:行き先【1】~【5】いずれかひとつを選択
二行目:同行者(居る場合。居なければ本文でOKです)
同行者が居る場合はニ行目に、迷子防止の魔法の言葉【団体名(+人数の数字)】or【名前+ID】の記載をお願いします。その際、特別な呼び方や関係等がありましたら三行目以降に記載がありますととても嬉しいです。
NPCのみと関わりたい場合は、行き先の隣に【Nのみ】と記載ください。ふたりきりの時間を切り抜く形になるので、行動は短い一時となります。(【1】は皆で行動するので難しいです。)
「相談掲示板で同行者募集が不得手……でも誰かと過ごしたい」な方は、お気軽に弊NPCにお声がけください。お相手いたします。
【1】冒険
前回同様、浮遊島の冒険が出来ます。材料や食材を入手できます。
行き先は『【1】洞窟』の形で記載してください。
リプレイ結果や個別あとがきを元に動いてくださって大丈夫です。
『洞窟』…奥へ行くと宝石のような物が生えている地底湖があります。
モンスター:スライム、鉱石蟹(食べれる)
『泉』……中央に祠のある泉。少し綺麗になりました。
モンスター:ギザギザ肉食魚(食べれる)、★鮫歯の巨大魚(ヌシ)
『草原』…風の気持ち良い風光明媚な草原です。
ビッグホーンを焼いて食べたら美味しかったです。
モンスター:ビッグホーン(食べれる)、ドラビット(食べれる)
『湿地』…島の外れの方にあります。泥芋等があるかも?
モンスター:クレイスライム
【2】秘密基地作り
現状、5人が入れるサイズの部屋(居間)がある感じです。雨風がしのげます。
5人は「すごい、秘密基地だ!」と現状でも満足していますが、部屋を増やしていくことも可能です。(既に一般的な民家程あります。)
前回スライムの粘液が染み込んだ粘土を得ているので、砕いた鉱石を混ぜてものをブロック状に乾燥させてあります。これを組むと壁作りが楽でしょう。使った分をまた作り、乾燥させておくと便利かもしれませんね。作っている間は泥んこになります。
【3】物作り
雪玲と詩華と染め物や装飾等、小物作りが出来ます。
行き先は『【3】染色、縫製』の形でひとつかふたつ記載してください。(絞った方が描写は濃くなります。)
前回メイメイさんが旗作りを提案されています。作成する場合、白い布を持ち込むのなら「染色」、素材から作るなら「縫製」になるかと思います。
『染色』…草原等で入手した草や実で糸や布を染めることが出来ます。
乾かしたりする際は明霞が手伝ってくれます。
『装飾』…ビッグホーンの角や鉱石等を用いた小さな装飾が作れます。
詩華は基地の装飾を増やしたく、雪玲は服や身体の装飾を作りたいと思っています。
『縫製』…集めた材料を縫い合わせたり、刺繍をしたりすることが出来ます。
持ち込んだ素材で洋服を作ってもいいです。
『他』……食器作り(焼くなら窯が必要)、家具作り等の物作りが出来ます。
詩華に聞けば必要そうな物の提案等があることでしょう。
【4】皆で夜ご飯
時間帯は夕方~夜。皆で調理をしたりご飯を食べれます。
調理がメインでしたら夕方から、外で行います。現状焚き火だけが出来、食材を刺した棒を地面に挿して焼くことは出来ます。調理器具は持ち込む必要があります。
食材としては島で取れたモンスター(魚や鉱石蟹等)が基本ですが、食べ物を持ち込むことも可能です。
ご飯は外で火を囲んで食べる形です。
地面を均す時にどけた大きな岩や、転がした丸太が椅子。照明は月と星、焚き火の炎。大皿の代わりの大きな葉っぱには、果実やお肉が山盛りに。
飲み物は天籟が果実水とペイト産の酒を持ってきています。楽しく過ごしましょう!
【5】お泊り
時間帯は夜。
キャンプ――と言うよりは野宿をすることになります。
焚き火を見ながらのんびり過ごしてもいいし、毛布を引いて転がって、いつもより近い星を見上げながらお話をしてもいいでしょう。翌朝身体が痛いかもしれないけれど、それもきっと『冒険』でしか味わえない醍醐味なのです。
●EXプレイング
開放してあります。可能な範囲でお応えいたします。
プレイング文字数が欲しい、関係者さんと過ごしたい、等ありましたらどうぞ。
リプレイ中での描写量が増えたり該当関係者の登場を確約するものではないのですが、壱花は基本的に使用者の描写文字数を増やしているため、関係者の登場目的でない使用に限り『選択肢をふたつ』に増やしても大丈夫です。(が、行動は絞った方がその場面での描写は濃くなります。)
●NPC
・瑛・天籟(p3n000247)
亜竜集落ペイトで里長を始めとした民等の武術師範、そして里長の護衛をしているちびっこ亜竜種。
基本的に亜竜種のほとんどの人を子供か孫くらいに思っているので、お目付け役です。里の人からは老師と呼ばれることが多いようです。(老師=中国語で先生)(※ペイト出身の人や亜竜集落の人は既知として接してくれて大丈夫です)
あっちこっちフラフラしているので【1~5】に居ます。肉・酒好き。
・朱・雪玲
亜竜集落フリアノン出身の少女。服作りが好きで、服飾関連への興味が強いです。珍しい外の装い等が気になっています。
外の文化を知らない彼女たちは知らない言葉ですが、所謂ツンデレ。素直になれませんが、いつも幼馴染たちのことを考えています。今回は人型です。
【2~5】に居ます。
・奏・詩華
亜竜集落フリアノン出身の少女。大人しめな文学少女で眼鏡っ子。
冒険譚やお城の恋愛物語、その他諸々創作からレシピ本、ビジネス書まで……とにかくなんでも本なら大好き! 知らない物語のお話や、本の話をすると喜びます。
【2~5】に居ます。
・柊・弥土何
亜竜集落ウェスタ出身の少年。夢はこの手で世界地図を完成すること。
まだまだ島の地図は完璧ではないけれど、地図が埋まる度に嬉しそうにしています。
【1・4・5】に居ます。
・白・雪花
亜竜集落フリアノン出身の亜竜種。夢は冒険者になること。
皆と一緒に元気に冒険を楽しみます。
【1・4・5】に居ます。
・翠・明霞
亜竜集落ペイト出身の亜竜種。外の環境、特に戦う術について強い興味を持っています。
皆の姉貴分。割と何でも出来るし、必要なら意見もくれます。
【2~5】に居ます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
覇竜領域であるため、情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●ご注意
公序良俗に反する事、他の人への迷惑&妨害行為、未成年の飲酒は厳禁です。年齢不明の方は自己申告でお願いします。
それでは、楽しいひとときとなりますように。
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