シナリオ詳細
夢への一歩・前編
オープニング
●
「なあ老師、いいだろ?」
なんだか最近、顔を見かける度に瑛・天籟(p3n000247)はそんな言葉を掛けられていた。今日はペイトで翠・明霞。彼女は住まう里が同じだから、顔を見かける度にしょっちゅう言ってくる。
「あ、あの、お、お願いします!」
「ねえ老師、またお出かけしたいな。いいよね?」
先日は用事があって向かったフリアノンで奏・詩華と白・雪花に。
「なあ頼むよ、浮遊島に行ってみたいんだ」
その前はウェスタで柊・弥土何が。「雪玲もきっといきたがってる!」ともキラキラな瞳で言われてしまった。
フリアノンに住まう朱・雪玲も合わせたこの5人は『お外同好会』のメンバーである。この同好会は外に興味のある幼馴染5人組が結成した会だ。イレギュラーズたちが覇竜領域デザストルへ訪れるまではこっそり抜け出そうとして捕まったりなんかもしていたが、今や彼等はイレギュラーズや保護者になれる力量と責任がとれる立場のある亜竜種とともになら集落から出ても大丈夫なことを知っている。知って、しまったのだ。
近頃の天籟にはそれが悩みのタネであった。連日こうして「外に行きたい!」「冒険したい!」「お出かけに連れて行って!」のおねだり攻撃にあっている。
彼等は解っていたのだ。あと少し押せば、天籟が折れることを。
「あ~、もう、わかったわかった。わしがついていこう」
そうしてついに、天籟が折れる日が来た。
お外同好会の5人は大いに喜び、何処に行くか決めておけと天籟に言い渡された。勿論、具体的な提案を出して後で、天籟からのジャッジは入る。竜種が出るという噂のある場所には連れていけないし、安全は確保されねばならないからだ。
「こないだ老師と行ったラサも楽しかったよ」
玉髄の路で商人の護衛をした話を雪花がすれば、雪玲が「お土産、なかなか良かったわ」と白い尾をビタビタさせながらそっぽを向いた。かなり嬉しかったようだ。
「俺はやっぱり冒険がしたいんだよなぁ」
「うん、それは私も!」
「あたしは色んな相手と手合わせがしたいけど……アンタたちとも楽しみたいからね」
「……また服の素材も欲しい、かも」
「私は本があれば……」
「それなら、秘密基地を作ろうぜ!」
「秘密基地?」
「どこに?」
「浮遊島にだ! 雪玲の作業部屋や詩華の本棚、それから皆で飯を食う部屋とか作ってさ!」
「浮遊島で雪玲ちゃんへのお土産素材を私たちで集める!」
「……無理して危険なことしないなら、いいけど」
「老師がついてきてくれるんだ、大丈夫さ」
5人は思い思いに気持ちを伝え合い、それから話し合ったことを天籟へと告げにいく。
「浮遊島の探険と、雪玲たちが来ても大丈夫なような秘密基地を作りたい……んじゃな? それから、浮遊島の探険に弥土何たちが行っている間にお茶会もしたい、と」
「は、はい。外の人とゆっくりお話できたら嬉しいです」
詩華が眼鏡の位置を正しながら告げれば、雪玲も小さく頷いた。
「ふーむ」
「大丈夫そう、老師?」
「島はわしが決めるぞ?」
「それは、勿論!」
危険な浮遊島では秘密基地なぞ作れない。
それから天籟は、秘密基地を作ったとしても5人だけでは赴かないことも約束させた。覇竜領域はどこもかしこも危険が溢れている。一時大丈夫だと思っても、万が一があるかもしれない。
「調査もする必要があるしのぅ……少し多めに人を寄越して欲しいと頼んでみるかの」
「さっすが老師! 頼りになる!」
「……調子が良すぎると不安になるんじゃが」
天籟は肩を落とし、けれども未来ある覇竜の若人たちのため、ローレットへと掛け合うのだった。
- 夢への一歩・前編完了
- GM名壱花
- 種別長編
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年01月30日 22時05分
- 参加人数20/20人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 20 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(20人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●ほかほかティーパーティー!
「き、きききき今日は、その、よろしくお願いします!」
勢いよく下げられた頭を追いかけるようにおさげをぶんと振るい、「あっ、眼鏡落ちちゃう」と慌てて眼鏡のリム端を両手の中指で抑えるのは奏・詩華だ。以前も彼女に会ったことがある『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)が「はぁい」と手を振れば、詩華は知った顔にはにかむような笑みを見せた。
「久しぶりねぇ、元気にしていたかしら?」
「は、はい、お陰様で!」
アーリアが詩華と出会ったのは、去年のちょうど今くらいの時期だ。知った顔とは言え緊張しているのか、詩華の語尾が跳ね上がり続けている。傍らの朱・雪玲が「緊張しすぎ」と呟いたのも耳に入っていないようだった。
「こんにちは! 今日はお誘いありがとう! アナタが雪玲ちゃんかな?」
先程からチラチラと窺うような視線を向けていた雪玲に『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は笑顔で元気に挨拶。焔の巫女服が気になっているようだが素直に口にできない雪玲はそっぽを向いて「そうよ」と答えた。
「弥土何くんから話は聞いてるよ!」
「えっ」
弥土何ってば何を! と思ったのだろう。雪玲が素早く焔へ向き直る。
「前に一緒に水晶を取りに行ったんだ」
「ああ、あの時の余計なお世話……」
「お洋服を作るのが大好きな、とってもいい子だって!」
「そんなんじゃ……」
「会ってお話出来るのを楽しみにしてたんだ! よろしくね!」
ないわよ、まで言わせてもらえなかった雪玲の前に差し出される手。
跳ね除けることは、容易だ。けれど。
(弥土何、他の人にアタシのことそんな風に言ってたなんて)
雪玲は弥土何がどんな気持ちで冒険をしたのかも、皆にどう話したのかも、知らなかった。
(いい子だって紹介してくれてたなんて……)
だから勇気を出して、差し出された手にそろりと手を伸ばした。
「……仲良くして……あげないこともないわ。だってアナタの服、気になるもの」
「えっ、仲良くしてくれるの!? 嬉しい!」
もう友達だね! と焔はひんやりとした雪玲の手をブンブンと振った。
「お土産もね、あるのよぅ」
詩華と目配せをしあって微笑ましく様子を見守っていたアーリアが紙袋を持ち上げる。取っ手の部分がリボンになっている可愛いやつで、キラキラの小さな石や滑らかでお洒落な横文字が踊っている贈答向きの手提げ袋だ。きっと中身を取り出したら雪玲の元へと渡ることだろう。
「これが天義の葡萄でぇ、こっちが豊穣の桃でぇ、それでこっちが海洋のパッションフルーツ、のジャムよぉ」
「わあ、美味しそうですね」
「ふぅん、いいんじゃないの?」
「甘いものはお好き?」
「はい、大好きです!」
「まあ……そうね」
雪玲が素直じゃなくとも、アーリアはふふっと小さく笑う。彼女の口が素直じゃなくても、甘いものや可愛いもの、気になる装飾を見つめる瞳はとても素直だから。
「紅茶に入れても、ケーキに添えてもおいしいのよぉ」
アーリアの言葉で早速ジャムの瓶が開かれ、少女たちは瞳を輝かせ「美味しいですね」と笑顔を見せた。
甘い果物を安定して育てるには手間暇も安全も必要だ。それは覇竜領域では叶わない。いつか現地で彼女たちが味わえるようになればいいとアーリアは思うのだった。
●わくわく冒険と、楽しい基地作り!
「ここいらで良いかの」
先に軽く下見には来ていた天籟が同乗させてもらっていた『あたたかい笑顔』メイメイ・ルー(p3p004460)が操るリトルワイバーンから飛び降り、そう言った。
降り立った場所は草地で、岩等は転がっているが危険そうな獣等の影は見当たらない。念の為メイメイは小鳥のファミリアーをそっと飛ばし、『ドラネコ配達便の恩返し』ユーフォニー(p3p010323)もドラネコの『リーちゃん』を飛ばして辺りの警戒も忘れない。その姿に天籟は満足気に顎を撫でていた。
「それじゃあ老師、行ってくるな!」
「うむ。わしもすぐに向かうが、迷惑をかけるでないぞ」
「うん、老師!」
弥土何と雪花は元気な返事をし、『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)を始めとしたイレギュラーズたちと早速冒険へと旅立った。
「明霞はわしが離れてる間は、ここに居る者等のことを頼むぞ」
「わかってるよ、老師。訓練にもなるからね」
好戦的に翠・明霞が手をパシリと叩いてみせれば、くすくすと笑みが聞こえてくる。
「明霞君は相変わらず訓練をしているんだね」
「ああ。いつか皆で『外』の冒険もしたいからね」
久しぶりと声を掛けてきた『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)に、明霞は口の端を上げて応える。
幼馴染五人の中で一等実力があるのは、明霞だ。けれど自分だけを守る実力があるだけでは駄目なのだと言うことを、彼女はよく理解していた。五人で『お外同好会』なのだ。一番の姉的立場から、明霞は全員を守れるだけの実力を付けたいと思っており、日々訓練を積んで己を磨いている。
「秘密基地……って、いうのは。ちょっとしたお家みたいなもの、なの……かな?」
「そうだね、大人には内緒で……って感じが強いかも知れないけれど――」
首を傾げた『燈囀の鳥』チック・シュテル(p3p000932)にアレクシアが頷き、チラッと天籟を見る。覇竜では『大人に内緒で集落外に』は難しいだろう。
「お外に、というのは……すごい、ですね」
外への憧れはあったものの不安な気持ちの方が強かったメイメイには、お外同好会の子たちに対して素直にそう思い、耳をぴるると震わせた。
「因みに、里の中にもあるよ」
「えっ、あるのですか?」
「ああ。雪玲の家」
「それって……」
「弥土何が勝手に言い出したんだ」
唇の端を上げながら肩を竦めてみせる明霞の姿に、勝手に秘密基地扱いされて怒る雪玲の姿も、作業で引きこもりがちの雪玲の元へ気軽に集まれるようにと考えた弥土何の姿も、その両方が簡単に思い浮かべられてイレギュラーズたちは小さく笑った。
雑談はいつまでも尽きそうになくて。残りは手や身体を動かしながらにしようと、鍬やスコップと言った道具を思い思いに手に取った。
「休憩できる場所をご用意しますね」
メイメイは持ってきた大きな天幕を使ってテントを立ててくれるらしい。手伝うよと明霞が移動した。
「何事も、基盤が大切だ」
よっと掛け声とともに一抱えある岩を持ち上げた『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は、建物よりも下地をしっかりさせるべきだと論じた。うんと頷いたチックも鍬を振るい、ひっくり返した土から石や草をどけていく。人が住んでいないことと上空であるためか土は乾燥して固く、草を手で引っこ抜くよりもそちらの方が早かったからだ。
「鍬の扱い、慣れてるのか?」
「昔、畑の『お手伝い』したこと、あって……」
サイズの問いに、チックがこくりと頷いた。
道具もあるし、人手もある。
後は大きさをどれくらいにするかだが――きっと弥土何辺りは大きいほうが喜ぶだろうし、彼らの友達が増えれば増設したいと言い出すかも知れない。何日か掛けて広くならしておいた方が良いだろう。
下地作りは大切だ。顎に伝って来た汗を拭い、サイズは妥協すること無く満足の行く仕事をするのだった。
リトルワイバーンの翼が風を切る。
一度浮遊島へ全員で向かってから、冒険班と秘密基地作成班とで分かれた。キラキラと瞳を輝かせ続ける柊・弥土何は、勿論冒険班。冒険家志望の白・雪花も一緒だ。
まず弥土何たちが向かったのは草原であった。リトルワイバーンで浮遊島内を移動し、開けた草原へと降り立った。頬を撫ぜる風はひんやりとしているが気持ちよく、天気も快晴。
「今日は冒険日和だぜ!」
「冒険日和! いい言葉だね!」
風を浴びて気持ちよさげに『緋色の鷹翼』カイト・シャルラハ(p3p000684)が告げれば、傍らに立った雪花が嬉しそうに言葉を跳ねさせた。
「まずは食べ物の確保&草の収集かな?」
「そうだな、食べ物があれば皆喜ぶし、染色出来る草があると雪玲が喜ぶぜ!」
弥土何のその言葉だけでも彼が幼馴染を大事に思っていることがわかって、『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は頑張ろうねと微笑んだ。
「食べ物、ですか。それは生き物も入っていますか?」
「うん。俺たちのとこでは基本的に肉は狩るものって感じだ」
なるほどと顎を引いた『溶けない結晶を連れて』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)が「それでしたら」と静かに人差し指を何処かへと向けた。
「うん。兎……っぽい生き物がいるよね」
ジョシュア同様に気付いていた『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)がそう告げる。
しかし。
「え、どこどこ? お肉? もしかしてお肉が食べれちゃうのかなっ?」
「うさぎ……?」
「こう、長い耳が生えた小動物のことだよ」
目の良いふたりにしかその姿を捉えることは叶わず、雪花は目の上に手の庇を作って遠くを眺め、弥土何は首を傾げたからスティアが教えてやる。
「それなら、ドラビットかな」
「みたいだな」
「ふたりは知ってる生き物なんだな。因みにそいつは……」
「「狩れる!」」
「よし!」
揃ったふたりの声に、カイトが快活に笑った。
「えーっと確か」と弥土何がポケットから小さな手帳のようなものを取り出し、ペラペラと捲る。お外同好会の本好きさんである詩華が持たせてくれたものだと雪花が教えてくれた。
「あった。ドラビットは身体が小さく、耳がすごくいい。上手に追い込まないと逃げられる。草食……だってさ」
「逃げられることが前提とした狩りが必要ってことか」
追い回していきなり体力を消耗するのはいただけない。とりあえずドラビットのことは置いておいて、草や果物を探そうと一行は歩き出した。
しゃがみこんで草を見たり、見付けた木々を見上げたり。そうしている間はヨゾラの友人のファゴット・ベアベアがぷかぷか飛んで見てくれている。彼は亜竜にも興味があるらしく、ドラビットたちがモソモソと草を食む様も見たりしているようだ。
「弥土何たちはどんな秘密基地を作りたいんだ?」
「うーん?」
どんな、というほどの知識はないようで、カイトの問いにはふたり揃って首を傾げる。秘密基地は、秘密基地だ。大人に知られているけれど、自分たちだけの冒険拠点。
「秘密基地といえば寛げたり、リラックスできる必要があるよね」
「あ、うん。そんな感じ!」
「それならベッドやソファを作るための皮もあった方が良さそうだね」
「……あ。内装は雪玲がこだわるかもしれないな」
やはり染める用の材料はあるべきだ。紫色の花を見つけ、染めれるかな? 一応摘んでおく? と顔を見合わせあい、弥土何は上空のファゴットに位置を確認して『ここら辺で採れた』をメモに記した。
「あとは……皆で集まって冒険の計画を立てたり、お菓子を食べるんだぜ」
「秘密基地が完成したら僕も入らせてくれますか?」
「勿論だぜ、ジョセ」
秘密基地作りはジョシュアも初めてだ。控えめに尋ねれば、弥土何がジョシュアの愛称を口にした。
「嬉しいです。……その、弥土何」
「おう!」
慣れないながらも敬称を付けなかったジョシュアへニカッと笑みを向ける。
「秘密基地、良いよねぇ。僕等も今度作ろっか、ヨゾラ」
「ふふ、ファゴットさん、今度……」
微笑ましい姿にふわふわとヨゾラの頭の高さまで下りてきたファゴットとヨゾラは声を潜めて笑いあう。勿論、作るのはヨゾラの領地内で、だ。もっと亜竜種たちの遠出が許されるようになったら、その時は自分たちの秘密基地へ招待してみるのも良いかもしれない。
雪花と弥土何、そしてイレギュラーズたちは草原を進んでいく。
時折何かを見つけてはしゃがみ込み、籠とか持ってくれば良かったねと、とりあえず草をバラまかないように縛ってからカバンに放り込んだ。
「ね、雪花さんはどうして外に興味を持ったの?」
「お母さんからね、『一度だけ行った外の冒険』を聞いていたからだよ」
集落の外には危険が溢れているため、安全が保証されている(それですら絶対ではないのだが)場所にしか亜竜種たちは行けない。集落間も地下の専用ルートを使うのだ。あちらこちらに外敵が入り込まないような見張りも居るため、集落からおかしな離れ方をすればすぐに勘付かれて連れ戻される。そして『外』までとなると、更に命は危険に晒される。けれども雪花の母は運良く一度だけ外まで行けた体験をずっと忘れられずに居て、娘の雪花によく語っていた。
「そうなんだ? 私もお母様が冒険の話をしてくれたんだよ。ラサのキャラバン隊の護衛をしたりと、色々と……暴れてたみたい」
暴れていた、なんて言ったことは内緒ねとスティアが笑う。
「お母さんはラサで冒険者さんに保護されたんだって」
当然掟で亜竜種であることは明かせない。追いかけてきた里の人に連れ戻されるまでのほんの数日、冒険者の仕事を手伝ったりラサのバザールを見て回ったのだと、幼い頃は眠る前に何度も聞いた。
「お母様同士が会っていたら素敵だね」
「今の私とスティアちゃんみたいに?」
「そう」
ふたりでくすくすと笑い合う。
(やっぱりのびのびと広く遊べるところを探さないとな)
スティアたちの会話を聞いていたカイトはうんと頷いて。
そうして、「おーい!」と大声で誰かに呼びかける。
「リュウト! いい場所見つかったか!?」
「リュウト?」
他に誰かいるのか? と、弥土何が首を傾げる。
「馬鹿! お前……!」
せっかく潜伏して見守っていたのに、大声で呼ばれては出てこざるを得ない。ヨゾラとジョシュアは元々気付いていたため、苦笑しながらも見守っている。
「ん? 駄目だったか?」
「お前な……」
はあぁぁぁぁぁ。全く悪気のないカイトに溜息しか溢れない。
「怪我はしておらぬかー?」
「げ」
「あ! 老師ー!」
ガックリと落ちたリュウトの肩は遠くから飛んできた天籟の声で正位置に戻り、天籟を目視した弥土何が手を大きく振って無事を知らせた。
「あー、報告。向こうにビッグホーンが居た」
「うむうむ、リュウトも確りと働いておるようじゃな」
サボると雷が落ちることが予想されていたため、ちゃんと斥候として辺りを見ていたのだ。
「ビッグホーン!」
急いで弥土何がメモを捲る。
「これだ! 焼くと美味いやつ!」
「あっ、皮も張りがあってカバンとかも作れるって書いてあるよ!」
「うむ。大きくて角も固く、突進力もあるが……」
ちらり、と天籟の視線がイレギュラーズたちへと向かった。
意味するところは明解だ。
「任せてください。天籟様はふたりをお願いします」
ジョシュアは折り目正しく請け負い、皆で力を合わせてビッグホーンを倒しに行くのだった。
「思っていたより、安全なようですね」
「まあ、老師が選んだわけだしね」
ユーフォニーの言葉に、明霞は小さく笑って応える。今は地面を踏んでならしているところだ。
聞けば老師――天籟は里でも小さな子供の相手を良くしているらしい。けれどそのせいで鍛錬を中々付けてもらえないとぼやけば、またアレクシアがクスクスと笑った。
「これ、草原に行ってた人たちが持ってきてくれたよ」
「角に皮、肉か」
どれも様々な用途に使えそうだ。
「それじゃあ、今日の夜は焼き肉だ」
「それなら、料理をする場所を作るほうが先かな?」
「水や火を使う場所を考えておいた方がいいかもしれませんね」
簡易的に詩華が描いてくれたらしい設計図を広げて三人で覗き込み、それならこの辺り? と指をさして首を傾げあった。
「水や火は使えないけれど、ツリーハウスも作ってみたらどうかな」
「ツリーハウス? ああ、木の上に建てるということか?」
うん、とアレクシアが頷く。大きな木があることが前提だし、建てるのは難しいけれど、と。
「拠点を作るのもありか」
寝泊まりできるくらいスペースの第二の秘密基地的なものもあってもいいかと明霞は頷いた。木の上ならば地を這う生命体に襲われることはないだろう。
それに。
「木々の葉が建物を隠してくれてカモフラージュにもなりますよね」
安全も保たれそうだから良さそうですね、とユーフォニーも微笑んでいた。
浮遊島へ向けてリトルワイバーンで空を飛んだ時、島の中央に池か泉のようなものが見えた。泉である方が良いため、仮称泉ということで話を進める。
「水の確保は重要だ」
泉かぁなんてあまり興味が無さそうな弥土何に『優穏の聲』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)が諭すように静かに告げれば、弥土何は素直に「そうなのか」と受け入れる。
「それじゃあ冒険だね!」
「よーし、がんばろっか!」
腕を振り上げて張り切る姿を見せる雪花の姿に同調した小さな『自在の名手』リリー・シャルラハ(p3p000955)は、心の中でひっそりと拳を握る。
(とはいえ心配だし……何かあっても怖いし……リリーがフルサポート、しよっか)
特に危険そうな時は小さな身体で雪花の前に出るつもりだ。それで止まってくれればいいが……いや、それも考えてフリアノンの知人に声も掛けてきている。
「全く……わらわも暇ではないのじゃが」
ふうとため息を付きながらも、アオは物珍しげに辺りへ視線を向けている。彼女的には仲良くなれる動物が居たら嬉しいのだろう。
「わあ、思ったより大きいね」
そんなこんなで向かった泉。上空から見下ろした時は小さく見えても、畔につけばそれなりの大きさで、『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は口を丸く開けた。
しかし。
「にごってますの」
「うん……そうね」
上空からは光が反射してキラキラしていたように見えたが、眼前で見下ろせばそこは濁っていた。ちょっぴり残念そうに呟いた『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)にオデットが顎を引く。
「泉と思ったが……これでは沼か」
泉の語源は『出づ水』である。地下水脈から湧き上がっているものが泉で、くぼみに水が溜まって出来た池等とは別物だ。しかし濁りきったその状態では新しい水が湧き出ているようには見えず、ふむとゲオルグは顎を撫でる。
「わたしも 毒であれば平気ですが……」
《わだつみの寵愛》で毒無効を付与すれば、80秒は防げるだろう。けれど濁りきって視界が悪いのはどうしようもならない、とノリアが頬に手を当て首を傾げた。
イレギュラーズたちの眼前にある水は濁りきった緑色。藻のような植物の繁殖なのか、水自体か。どちらなのかはわからないが、とにかく濁っている。水場の中央には、ポツンと祠らしきものが建っているのが見えた。距離は畔から30m程だろうか。過去に誰か人が訪れたことがあったのだろうかと、ゲオルグは顎を撫でながら考えを巡らせた。
(何か祀られていたのだろうか)
随分と人が訪れていないこの浮遊島群なのだから、祠の手入れがなされていないはずだ。そこに祀られているのが神にせよ霊魂にせよ精霊にせよ、荒れ果てて汚い場所よりも綺麗に整えられた場所の方がいいはずである。
「私はあの祠を清掃したいのだが、飛べるものは手伝ってはくれないか?」
生憎ゲオルグは飛行ができない。祠ならば様々な小物もあるだろうが、羊の『ジーク』のちいちゃな手ではそれを取ってくることも叶わない。リトルワイバーンでは羽ばたきで祠を傷つける恐れも、また水に棲まう生き物を恐れさせたり気を荒くさせる恐れもあった。
「はーい!」
まず真っ直ぐに手を上げたのは、雪花。
「私もお手伝いするね」
「わらわも手伝うのじゃ」
オデットとアオも頷いて、ひとまず小物を取りに行くねと三人は祠へと飛んでいき、リリーはアオもオデットもいるから大丈夫だろうけど……と思いながらもハラハラと見守った。
「わたしは もぐってみようと思いますの」
「俺は周囲をぐるっと回ってみてもいいか?」
ノリアは詳しく水中の様子を見に、弥土何は歩幅で確かな大きさを知りたいのだろう。ノリアはぽちゃんと水中に飛び込んだが、弥土何に単独行動をさせるわけには行かないから、アオが戻ってくるまで待ってもらうことにした。
(うーん 視界が わるいですの)
海生まれのノリアは淡水は苦手だ。それなのにこんなにも視界が悪いなんて。
まずは深くへと潜り、底がどれくらいかを探る。底へ行き着いたら、《わだつみの寵愛》を幾度か掛け直しながら中央――と思われる方角へ進んでいく。視界が悪くてわからないが、きっとそうだろうと。
そんな時だった。
(あっ)
何かが飛ぶように泳いできて、ノリアの美味しそうな尻尾をがぶりとやった。噛まれるくらい近くに来ればその姿も解る。背びれも尾びれも歯も、全体的にギザギザとした怖いお顔の肉食魚だ。
それ以外にも何かいるのかもしれない。否、こういう所には絶対に、もっと恐ろしいものがいるはずだ。ノリアの知識はそう告げて、ノリアは大慌てで浮上した。
「皆様 危険な 生きものが いるようですの!」
ざばんと水中から飛び出てきたノリア。そんな彼女を追うように、大きなギザギザの魚も飛び出してきた!
真っ先に反応したのは雪花とゲオルグと祠の小物を磨いていたリリーだ。堕天の輝きを魚へ浴びせると、素早く接近したオデットが陽光を集めた手で撃ち抜いた。
その強撃で一瞬で命を散らした魚が落ちていく――のを、慌てて尾びれを掴んだオデットはえいっと陸へと放り投げる。食べられそうなら、この魚も立派な食糧だ。
「たすかりましたの」
ただの肉食魚とは言え、覇竜の過酷な大地で生きている生物だ。ノリアではおそらく何度もガブガブと噛まれなくては倒せなかっただろう。
「もっと 強いお魚も いそうでしたの」
もっと危険な魚ならば視界の悪さもあるから、奇襲されればひとたまりもないだろう。確かにヌシがいそうだと、イレギュラーズたちは頷きあった。
「すごーい! 今のどうやったの? 私も出来る?」
堕天の輝きも、太陽の輝きも、雪花は興味津々だ。
オデットは後で教えてあげるねと笑って祠磨きに戻り、リリーは雪花と話しながらゲオルグと小物を磨いた。
「よし、こんなものかしら?」
心を籠めて綺麗にした祠は、最初に覗き込んだ時よりも随分と小綺麗になった。中に溜まっていた雨が運んできた土汚れを払い、外壁を拭き上げ、小物も確りと磨いた。祠全体が経年劣化しているが、何処と無く周囲の精霊たちが穏やかになったような気配を感ぜられていた。
「後は……」
おやつ用に持ってきていた林檎を添えようと取り出せば、ゲオルグも畔で「こちらも頼む」と皆で食べようと作ってきていたサンドイッチを掲げた。
「いいことありますよーに」
祠まで運んだオデットがお供えをし、手を合わせる。
それに合わせてゲオルグもノリアもリリーも、亜竜種の子たちも手を合わせた。
何が祀られているかは解らないが、きっと祠に祀られている何かにとってそれは悪い行いではないはずだ。
(この浮遊島が、穏やかな場所であり続けられるといい)
ゲオルグがそう願い、きっと皆も似た気持ちを抱いた。
「あれ?」
一番最初にリリーが異変に気がついた。
「何だか水が、少し綺麗になっていない?」
「たしかに そうかもですの」
ノリアがぽちゃんと尾を水に浸してみる。
「しびび とは なりませんの」
透明と言うにはまだまだほど遠い色だ。
だがしかし、きっと何らかの加護が作用した。
もっともっと祠を綺麗にして大事にしていけば、水も飲めるくらい綺麗になるのでは?
漠然とだがそんな予感がして、オデットは「いいことあったわね!」と微笑んだ。
「泉の水が飲めるようになるかもしれない、そうですね」
少し距離はあるが、島の中で水を確保できるのは大きい。
泉組からの聞いた話をするユーフォニーの腕にはいくつかの果実がある。警戒をしに辺りの探索をし、見つけたのである。食べられるかどうかは、調べられる仲間が帰ってきた時に調べてもうつもりだ。
地面をならしている間に周囲の探索を進めた所、いくつかの資材の入手が叶った。立派な木はないが、果実。草原で得たドラビットやビッグホーンの肉。泉の肉食魚。
「魚の鱗、きれいですね」
「うん。飾り、できそう……」
トゲトゲとした魚の鱗は固かったため、鱗を取り除いて焼いて食べてみた所、身は白身で淡白な味だった。集めた草を乾かすのといっしょに残された鱗も乾かせば、それはキラキラと輝く大きな透明なスパンコールめいていた。
「草はベッドになる……するよ」
「わたし、干し草のベッド、好きです」
「木材で足も作れば上等かな?」
持ち込んだ資材で椅子とテーブルを作ってあげようとしていたサイズが口にすれば、メイメイとチックが顔を見合わせて。手伝えることはありませんかー? と近寄っていった。
足りないものは持ち込んで、少しずつ少しずつ。時間も日にちもかけてイレギュラーズたちはお外同好会の子たちと秘密基地を作っていく。地面をならして、下地をしっかりと作って、確りとした柱を作って、それから――。
「洞窟に行こうぜ、珍しい鉱石があるかも知れない」
さあ次はどこへ行こうか。空白だらけの地図を見つめた弥土何にそう声を掛けたのは『竜剣』シラス(p3p004421)だった。
「鉱石かあ。あるかな」
「あるかどうかは解らないが、あるって思った方が楽しいだろ?」
それもそうかと笑った弥土何に少しの間が空く。
建材に使えるだろうし、色のあるものなら砕けば塗料にもなるだろうか?
「あの子への手土産にもいいと思うぜ?」
「そ……う、だよな!」
「それに誰も知らない洞窟の地図を作るなんて最高に冒険してるだろ?」
「うん! 洞窟に行こう!」
「楽しそうだね、オイラもついていくよ!」
「ニルもごいっしょします」
「皆で冒険しよーう!」
冒険は、いつだってワクワクするものだ。
次は洞窟に行くと言い出した弥土何に、『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)は彼と同じ気持ちでついていくことにし、猫(の形をした呪物)のココアを抱えたニルも頷けば、雪花が元気に腕を振り上げた。
冒険と言えば、仲間も大切だ。イレギュラーズたちの他にも、海賊船長のソマリ、ちびスライム探偵さんにちびスライムさん、それから『ラッキー隊隊長』ジュート=ラッキーバレット(p3p010359)の知人のケイク。仲間が増えた。……哀しい別れもあった。自力でリトルワイバーンの手綱を握ったり跨がってしがみつけないメカ子ロリババアちゃんは地上に残ってもらったのだ。
「すっげーな、浮遊島! 洞窟もあるんだな!」
涙の別れ(泣いてない)を乗り越え、辿り着いた洞窟。暗い洞窟を覗き込み、ジュートが声を跳ねさせる。
「……結構暗そうだな」
外から見ると中は暗い。暗視が使えるアクセルとニルとジュートは良いが、弥土何と雪花は使えないようだ。
「こんなこともできるんだぜ?」
「わっ、光った!」
「すげー!」
身体を発光させたシラスに雪花と弥土何が目を丸くする。彼の隣にいれば問題なく地図も記していけそうだ。
アクセルのスライムたちとニルのファミリアーたちを先行させ、先頭にニルとジュートとケイク、中央にシラスと雪花と弥土何、殿にアクセルとソマリと天籟の並びで進んでいく。天籟は危険が無い限り好きにさせてくれるため、アクセルとソマリにふたりの出逢いを尋ねながらふよふよと飛んでいた。
「空で出会った俺達が、空に飛んでる島で一緒に冒険なんて、面白い縁だよなぁ!」
「そうですね、私も貴方の力になれて嬉しいです」
ジュートはケイクと話しながら進んでいたが、「ん?」と足を止める。傍らを見れば、ニルも不思議そうに足を止めていた。
「どうかしたか?」
シラスが雪花と弥土何を少し下げながら声を掛ける。
「地面がぬれています」
「濡れてるっていうよりも、ぺたぺたする感じだ」
パタパタ飛んでいるファミリアーとぴょんぴょん跳ねるスライムは気付かなかったようだが――ジュートとニルは後退し、発光するシラスで地面を照らした。
「いや、これは――」
言い切るよりも前に、粘つく何かがぽたりとシラスに落ちてきた。
「――スライムだ!」
洞窟内なため然程皆とは変わらないが、それでも少し広い視野を持つアクセルが天井から垂れるソレの名称を口にした。素早くシラスが雪花と弥土何に視線を遣れば、天籟がふたりの首根っこを掴んで後方へ下げている。ならば、遠慮なく動けるというもの。
影すら置き去りにする素早い二撃は弥土何の目では捉えられなかったことだろう。素早く動いて眼前に背を向けたシラスに弥土何は目を瞬かせ、そこへ杖を握ったニルの極撃が吹き飛ばす。
「奥にもいるな」
スライムは気付けば襲ってくるようだが、逆に言えば気付くまではのんびりと壁や天井、地面に張り付いているだけだ。
「壁に何か埋まっているのかな?」
「ごはん、ですか?」
アクセルの疑問に、ニルは首を傾げる。スライムの『おいしい』は壁の中にあるのかもしれない。
「これじゃないか?」
早速ゴツゴツと壁を叩いてみたジュートが鉱石のようなものを見つけた。ここまで見かけなかったのは、もしかしたらスライムが溶かして食べてしまっていたからかもしれない。
「スライムのおかげでしょうか? 土も少しちがうようですね」
杖の先で掘ってみたら普通の土とは少し違い、土っぽくない粘土質なことがわかった。これ
は秘密基地に使えるかもしれない。
「じゃあこれ、持って帰ろうぜ」
「ここでいいのか?」
「ん?」
「折角なら一番奥まで行ってみたくないか?」
ここで採取をしたら荷物が増えて奥へは行きづらくなる。採掘するのにも体力は消費されるだろう。
シラスの問に、雪花と弥土何はすぐに答える。
「「行きたい!」」
「決まりだな」
少しの鉱石と粘土を採取したら、残りの採取は帰りに時間があれば。一行はスライムを避けて先へと進んだ。
道が別れている時はアクセルのスライムたちとニルのファミリアーたちが大いに役立った。弥土何はシラスに教わりながら地図を記し、彼の言うことに何度も「すげー」と「なるほどな!」を繰り返し、常に楽しげにしていた。雪花はニルからスライムを食べたことがあると聞いて大層驚きながらも、ソマリやアクセルから齎される知らない冒険の話を楽しそうに聞いており、そんなふたりを天籟はあたたかく見守っていた。
「カニ、がいます」
「本当だ、背中から何か生えてるな!」
ニルは蟹を知っている。食べたことがあるからだ。けれども鉱石のようなものが生えている蟹は食べたことがない。これも食べられる?
すぐに前に行きたがる弥土何をシラスは手で牽制し、蟹へと近寄っていった。
どうやら蟹に敵意はないらしい。背中に鉱石を生やし、えっちらおっちら歩いているだけだ。
「この蟹に生えてる鉱石って」
子供の頭くらいの大きさの蟹の前にしゃがみこみ、ジュートが調べる。
「やっぱり。さっき採取した鉱石と一緒だぜ!」
とういうことは。
つまり。
――ぼとっ。
何かが落ちた。
いや、確認するまでもない。スライムだ。
すると、先程までおとなしかった蟹がハサミを振り上げだす!
「スライムと蟹が戦ってる!」
食べるために襲うスライムに、身を守るためにハサミを振るう鉱石蟹。
イレギュラーズたちは顔を見合わせ――ひとまず蟹に味方した。
「蟹を捕まえるのはまた後にするとして――」
「蟹の餌になるものが存在するってこと、だよね?」
シラスの言葉をアクセルが引き取り、視線を奥へと向ける。
道はまだ続いていて、行き止まりではない。弥土何と雪花は目を輝かせてまだ先に行こうと告げているし、天籟からも待ったはかからない。
道は段々と狭く、そしてどうやら下っていっているようだった。最初は三人で並べた道も今ではひとりがやっとというところで、スライムに襲撃されないよう、または鉱石蟹を怒らせないよう、慎重に一行は進んだ。
そうしてどれだけ進んだだろうか。
暗い道の先に『明かりが見えた』。
「わっ……!」
「きれい……!」
道の先は、拓けていた。
土壁には輝く水晶のような結晶体がいくつも生え、中央には水を湛えた窪みがあった。地底湖だろうか。鉱石蟹たちが時折そこへ出入りをしているのは、水草か何かが生えているからかもしれない。
弥土何と雪花は目を輝かせ、その景色を見つめている。
彼らの冒険の一頁が、新たに埋まった瞬間だった。
洞窟のスライム――覇竜領域で生き抜くスライムの粘液が染み込んだ粘土は、乾いたらかなり固くなった。
「少しキラキラして見えるが、強度は良くなったな」
そきに砕いた鉱石を混ぜたもので壁材の試作をしたサイズが満足気に頷く。
「植物のカーテンとかつくれたら隠蔽性が上がりそうなんだけどなー……」
「蔦のあるような植物とかかな?」
「近くには生えていませんでしたね」
サイズの言葉にアレクシアとユーフォニーも首を傾げた。無くとも草を編んでどうにかしても良いだろう。
「あっ……明霞さま」
「ん?」
「旗を作りません、か?」
「旗?」
「秘密基地だから、目立ってはいけないのかもです、が」
隠蔽性について考えている三人をチラッと見たメイメイが両手をいじりながら、それでもっと口を開く。
「皆さまの場所、という証の旗を」
真剣なその表情に、明霞はいいねと笑った。
だってそれって、とっても『秘密基地らしい』じゃない。
ひとつひとつ手作りなのも、『自分たちの』感があってとてもいい。
そんな小さな特別を少しずつ積み重ね、この世にひとつしかない秘密基地を作っていく。
●続・ティーパーティー!
「やっとるかのー」
「あ、老師」
浮遊島への引率をし、一旦フリアノンへ戻ってきた天籟がお茶会へ顔を出した。
「今、焔から和服について聞いていたところよ」
「アーリアさんが『きゃんぷがいど』というのも見せてくれたんですよ」
雪玲がクールに、詩華がニコニコと語れば、天籟もおうおうと嬉しそうに頷いた。
「今度来る時はボクの持っている洋服や和服もいくつか持ってくるね!」
「いいの?」
「友達だもん! 着付けとかも教えてあげられるよ!」
「……うん。楽しみにしているわ」
「なんじゃ。雪玲が素直じゃな」
持ち込んだせんべいをバリッとした天籟を雪玲が直様にらみつけた。
そこに、あのぅとそろりと美しい爪を持つ手が持ち上がる。アーリアの手だ。
「もしかして老師って……」
「わしじゃが?」
「――え、えええ貴方が老師!?」
かなりの年寄りを想像していたのか、アーリアは丸く開いた口に手を添えて驚いた。その表情に天籟はわははと笑う。
「浮遊島はどんな感じだったか聞かせてもらってもいいかな?」
ずっと雪玲がソワソワとしていることに気付いていた焔が水を向ける。
「そうねぇ、老師もお酒を頂きながらお話しましょ!」
いつの間にかティーカップからお酒の入ったグラスに持ち替えたアーリアが「これも持ってきたの」と酒を天籟へと勧めた。
「そうじゃなぁ……」
酒とせんべいを手に、天籟は浮遊島での皆の活動を四名に聞かせるのだった。
まるで、新しい冒険譚の一頁のように。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
島名案、ありがとうございました。次回OPにて発表されます。
お外同好会の5人はとても楽しく過ごせています。
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
GMコメント
ごきげんよう、壱花です。
鉄帝大変っぽいのですが……そうだ、覇竜に行こう!!!
●目的
浮遊島へ冒険に行こう!
お外同好会の子たちと楽しく過ごそう!
●シナリオについて
このシナリオは二部編成を予定しており、今回は前編です。最終的にはお外同好会の子たち(お友達含む)が冒険の拠点とする秘密基地の完成を目指しています。(※なんかすごい!立派!な拠点ではなく、あくまで遊びの延長線の秘密基地です。)前編ではお留守番組の子たちも、後編ではちょっと出来ているであろう秘密基地へやって来る予定です。
NPCに絡む必要はありません。のびやかに過ごしてください。
『お外同好会』…集落を越え、外に興味のある幼馴染5人組。
●フィールド:浮遊島
霊嶺リーベルタース付近の浮遊島のひとつ。移動にはリトルワイバーンを利用するか飛行スキルが必要です。(希望者には里からリトルワイバーンを貸し出されます。)
丘のような大地に洞窟や泉、朽ちた遺跡のようなもの等があります。土肌ではなく、広範囲に草が生えています。森のようにはなってはいませんが、少しだけ木もあるようです。
天籟が比較的安全そうな浮遊島を選んでいるので、竜種は絶対に出現しません。
★島の名前募集中!
お外同好会の5人の秘密基地を作る浮遊島にはまだ名前がありません。ですので、名前候補を募集しています。
「こういう名前、どうかな? 意味はこういう意味なんだ!」とプレイングに記してあった場合、お外同好会の子たちで相談しあい、決まります。
●プレイングについて
一行目:行き先【1】~【3】いずれかひとつを選択
二行目:同行者(居る場合。居なければ本文でOKです)
同行者が居る場合はニ行目に、迷子防止の魔法の言葉【団体名(+人数の数字)】or【名前+ID】の記載をお願いします。その際、特別な呼び方や関係等がありましたら三行目以降に記載がありますととても嬉しいです。
「相談掲示板で同行者募集が不得手……でも誰かと過ごしたい」な方は、お気軽に弊NPCにお声がけください。お相手いたします。
【1】冒険
浮遊島の探険をします。モンスターが出る場所もあります。
基本的に亜竜種たちは『生存域の拡大』を目的に活動しています。強敵が存在しないか、水の水質を調べたり、秘密基地を作っても安全であるかを調べたり、食べられる物や資源となりそうなものを調べましょう。安全でなくては秘密基地が作れません。
行き先は下記から一箇所選べます。
※モンスターは一例です。★がついているのは強いので、遭遇した際は逃げましょう。
『洞窟』…奥へ行くと宝石のような物が生えています。
モンスター:スライム、鉱石蟹
『泉』……中央に祠のある泉。亜竜種の誰かが来たことがあるのでしょうか?
モンスター:ギザギザしている肉食魚、★鮫歯の巨大魚(ヌシ)
『草原』…風の気持ち良い風光明媚な草原です。
変わった草や食べられるものがあるかも?
モンスター:ビッグホーン(牛みたいな魔獣)、ドラビット(兎亜竜)
『湿地』…島の外れの方にあります。泥芋等があるかも?
モンスター:クレイスライム
【2】秘密基地作り(序盤)
まずは秘密基地作成地を綺麗にしましょう。
地面をならしたり、危ないものを取り除いたりしていきます。
お外同好会の子たちが過ごしやすい秘密基地にするには何が必要かをワイワイ話し合ったり、希望や夢、浪漫を語り合ったりしましょう。きっと素敵な秘密基地になります。(彼等はすごく立派で堅牢な拠点を求めてはいません。)
【1】で他の人が得れている素材次第では、それが建材にもなります。
後編で『お留守番組』が来れる(雨風を凌げる)程度には完成します。
【3】お茶会
フリアノンでお茶が出来ます。
詩華と雪玲はこちらに居ます
食べ物は詩華と雪玲が「お客様が来るから!」とシフォンケーキとカップケーキを焼きました。カラフルなクリームやチョコレートも用意されているので、カップケーキをデコることも出来ます。
飲み物はフリアノン産の緑茶と紅茶があります。成人済みの人用にお酒もあります。
詩華と雪玲は『外』に興味があるため、美味しそうなお菓子や飲み物の持ち込みは歓迎です。
●NPC
・瑛・天籟(p3n000247)
亜竜集落ペイトで里長を始めとした民等の武術師範、そして里長の護衛をしているちびっこ亜竜種。
基本的に亜竜種のほとんどの人を子供か孫くらいに思っているので、お目付け役です。里の人からは老師と呼ばれることが多いようです。(老師=中国語で先生)(※ペイト出身の人や亜竜集落の人は既知として接してくれて大丈夫です)
あっちこっちフラフラしているので【1~3】に居ます。
あまりやる気が無さそうについていくだけですが、危険を感じた場合はお外同好会の子を優先的に守りますし、しんがりも務められます。
お茶会では持ち込んだせんべいをバリバリして女子たちに煙たがられます。
・朱・雪玲
亜竜集落フリアノン出身の少女。服作りが好きで、その素材になりそうなものについ視線がいってしまいます。
服飾関連への興味が強いです。珍しい外の装い等が気になっています。
外の文化を知らない彼女たちは知らない言葉ですが、所謂ツンデレ。素直になれませんが、いつも幼馴染たちのことを考えています。
フリアノンでお留守番。【3】に居ます。今回は『亜竜型』をしています。
関連シナリオ:『誰が為の冒険』
・奏・詩華
亜竜集落フリアノン出身の少女。大人しめな文学少女で眼鏡っ子。
冒険譚やお城の恋愛物語、その他諸々創作からレシピ本、ビジネス書まで……とにかくなんでも本なら大好き! 知らない物語のお話や、本の話をすると喜びます。
フリアノンでお留守番。【3】に居ます。
関連シナリオ:『覓むるは智』
・柊・弥土何
亜竜集落ウェスタ出身の少年。夢はこの手で世界地図を完成すること。
とても楽しみにしていたので、わくわくしっぱなしです。
【1】に居ます。近辺の地図を作成したいようで、辺りをキョロキョロしてはメモを書いているため、他のことがおろそかになりがちです。
また、雪玲のために服や装飾の素材となるものも探したがっています。
関連シナリオ:『誰が為の冒険』
・白・雪花
亜竜集落フリアノン出身の亜竜種。夢は冒険者になること。
【1】に居ます。魔法を嗜んでいるので少し戦えます……が、考えなしの猪突猛進タイプでトラブルメーカーになりがち。天籟から強敵が現れたら逃げるようにしっかりと言いつけられています。
関連シナリオ:『民のため、友のため』
・翠・明霞
亜竜集落ペイト出身の亜竜種。外の環境、特に戦う術について強い興味を持っています。
【2】に居ます。5人の中では姉御的な立ち位置なので、率先して秘密基地作成のための作業をします。力仕事から意見出し、モンスターが現れた際の対処等、割となんでも出来ます。
関連シナリオ:『興味の矛先』『武の研鑽』
●EXプレイング
開放してあります。
文字数が欲しい、関係者さんと過ごしたい、等ありましたらどうぞ。
可能な範囲でお応えいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
覇竜領域であるため、情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●ご注意
公序良俗に反する事、他の人への迷惑&妨害行為、未成年の飲酒は厳禁です。年齢不明の方は自己申告でお願いします。
それでは、楽しいひとときとなりますように。
Tweet