シナリオ詳細
<Scheinen Nacht2022>リトル・ゼシュテル・チャリティイベント
オープニング
●シレンツィオの鉄帝
シレンツィオ。その南国の楽園の一エリアに、鉄帝による自治区が存在する。
リトル・ゼシュテルとも呼ばれるそこは、鉄帝と海洋の綱引きによる成果物として、かつて絶望の青と呼ばれたこの海域に生まれ落ちた。
その様相は、まさに小さな鉄帝。蒸気の煙漂う街中は、機械と鉄の脈動する鉄帝の姿そのままであったし、同時に様々な「レジャー施設」が存在するのも、ここがシレンツィオ・リゾートの一角だからだ。
鉄帝本国が現状、冠位魔種の手による一大事を迎えている中、本国から遠く離れたこの地は「平和」であった。そうだろう。鉄帝の悪漢どもは、わざわざ遠く離れたこの地を攻撃しようとは思わないし、仮にここで野心もつ悪漢が暴れたとしても、そのままシレンツィオに駐在する多くの現地兵に瞬く間に鎮圧されて終わるわけで、ここで悪漢が暴れる理由も意味もうまみも全くないわけである。
そういったわけで、リトル・ゼシュテルは本国の動乱とは、まったく関係のないところにあった。だが、それでも民たちの心まで穏やかであったかといえば、それは別問題である。
当然である。遠く離れた南国の地で生きているといっても、鉄帝は偉大なる祖国だ。そこに帰属する意識はあったし、家族をおいて出稼ぎに来ている者もいる。そういった意味から、リトル・ゼシュテルは平和であっても、民たちすべての心がハッピーであったかといえば、ノーであったわけだ。
「うーん、初めて来てみたけど」
と、そういうのはマール・ディーネー。シレンツィオと豊穣の間、竜宮という海底街からやってきた、今は普通の女の子である。
「すごいね! ぜしゅてる、ってところ。しゅわわー、って煙が吹いててて、なんか雲の中を歩いてるみたい!」
「そうですね、お姉ちゃん」
隣でそう語るのは、メーア・ディーネー。彼女もまた、竜宮からやってきた、マールの妹。普通の女の子である。
「……でも、やっぱり、少し、活気がないようですね。いえ、観光客の方もいらっしゃるのでにぎやかなのですが。それでも……」
そういうメーアには、リトル・ゼシュテルの実情がしっかりと分かっていた。シレンツィオ総督府から伝えられた「鉄帝の事情」は十分に聴いていたし、そうでなくても、メーアもマールも、人の心に寄り添うことのできる女の子であったから、リトル・ゼシュテルの住民たちの抱く不安は、感じ取れていた。
「うん……でも、ほら。そのために、チャリティイベントを開こうっていうことになったんだよね?」
マールがそういう。二人が来訪したのは、リトル・ゼシュテルの市民団体から、チャリティイベントを開きたい、という問い合わせが来たからだった。時期は、おりしもシャイネン・ナハト。観光客も集まるこの時期は、イベントを行うのにちょうどいいだろう。チャリティ、ということで、売り上げのうち、『無理せず損をしない程度』を鉄帝に寄付することになる。これは、銀の森などを通じて、抵抗を続ける各派閥などにささやかな支援として贈る予定だそうだ。
「いいじゃん、あたし、ゼシュテルっていうところは言ったことないけど、困ってる人がいたら助けたいし!
ほら、メーア、いこ! えーと、確か『アネル婦人会』っていう人たちなんだよね?」
「そうですね。代表のコンスタンツ・アネル夫人が、鉄帝のために立ち上げた市民団体だそうです――」
しばらくののち、二人はゼシュテルの鉄と煉瓦造りの建物の中にいた。しゅわしゅわと吹き出す蒸気が、わずかに涼しくなったシレンツィオの室温を一定に保ってくれていた。
「初めまして、コンスタンツ・アネルと申します。この度は、遠いところにご足労を……」
コンスタンツ、と名乗った女性(彼女は、鉄帝軍人を夫に持っていたのだそうだ。なんでも、先の大きな戦いに巻き込まれ、国のために戦って亡くなったのだという)は、二人にコーヒーをふるまった。
「砂糖もらっていいですか……?」
マールがそういうのへ、コンスタンツがくすりと笑う。
「はい、もちろん。メーアさんは」
「あ、わたしは大丈夫です」
メーアがほほ笑む。
「それで、チャリティイベントですが。仔細了解しています。リトル・ゼシュテル全域を使ったイベントと、それから、竜宮の方でも、何店舗か協力を申し出ています」
「本当ですか?」
「うん! カジノ(ドラゴンズドリーム)とかも手伝ってくれるって」
コーヒーをフーフーしつつ、マールが言う。
「わたしたちは、ローレットの皆さんにはもちろん、シレンツィオの皆さんにも助けてもらいました。
海洋、鉄帝、豊穣。三つの国の協力によって、今のわたしたちがいるといっても過言ではありません」
メーアがほほ笑む。
「協力は惜しみませんよ。総督府の皆さんも同意見だそうです。支援は行いたいと」
「え? メーア、総督府のみんなとお話ししてたの?」
マールが目を丸くした。
「おねえちゃんがビーチで白い犬と遊んでるときにね?」
「えぇ~! あたしも久しぶりにみんなに会いたかったのに!」
ぶぅ、とマールがほほを膨らませるのへ、コンスタンツは笑った。
「では、詳しい計画を詰めましょう」
その言葉に、マールとメーアはうなづいた。
●チャリティ・イベント
鉄の町、リトル・ゼシュテル。その広場の一角に、大きな大きなシャイネンナハトのツリーが飾られている。ツリーはこれ一本だけではなく、街のあちこちに、蒸気鉄道ラインの主要ポイントにそれぞれ設置されていた。
南国ゆえに、今年は雪は降らなかったが、しかし青く澄んだ夜空は、静謐な冬の色を確かにたたえていた。
雪こそ降らなかったものの、蒸気はまるで雪が積もったように、街のあちこちから噴き出している。街路はシャイネンナハト使用にあちこちが飾り付けられ、商店はチャリティ参加の旗と看板を掲げ、売り出しのセールや、とっておきの食べ物で客を呼び寄せている。
今日は遊園地、VDMランド・シーも夜遅くまで開園していて、一日中様々な催しが行われるはずだ。早速、とらぁくんコースターが水しぶきを上げている。
「平和っちゃ平和だが」
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)は、そんなリトル・ゼシュテルの様子を見ながら、静かに顔を上げた。
「なるほど、ここの連中も、それなりに心を痛めてるってやつか」
「でなければ、街を挙げてのチャリティイベントに、これほどの協力者が現れるとも思えません」
うなづいたのは、小金井・正純(p3p008000)だ。正純の、そしてキドーの心をわずかに震わせたのは、チャリティ団体主催の名前であった。『アネル婦人会』。アネル、という名に、聞き覚えがあった。その代表の、コンスタンツという名にも。
「……その意思は、その名は……受け継がれて、まだ、国のために戦っているのですね……」
正純の言葉は、蒸気の風に隠れて、リトル・ゼシュテルの雑踏へと消えていく。
そこから離れた竜宮の地。空は変わらず海の青さをたたえていたが、今日は特別な術式を展開して、空にシャイネンナハトの雪だるまやツリーを投影して飾り付けている。街のあちこちは『深夜の繁華街』のようなにぎやかさだが、今日はスペシャルサービスとして、様々な『もてなし』を受けられるだろう。
あなた――ローレットのイレギュラーズであるあなたも、このチャリティイベントに招待された一人だった。ふるまいは、自由を約束されている。チャリティということで、お金を落とし、鉄帝に貢献してもいいだろう。あるいはスタッフとして働くことで、労働力を鉄帝にチャリティしてもよい。
平和な一夜の、平和のひと時。
チャリティイベントに参加してみてはいかがだろうか――?
- <Scheinen Nacht2022>リトル・ゼシュテル・チャリティイベント完了
- GM名洗井落雲
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2023年01月12日 22時06分
- 参加人数27/32人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 27 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(27人)
サポートNPC一覧(2人)
リプレイ
●チャリティ・イベント
リトル・ゼシュテル。シレンツィオに存在する鉄帝自治区は、本国の混沌から逃れた、鉄帝唯一の安全地帯であるともいえた。
「ルンペルシュティルツの野郎共!
いいか? 今日のノルマは1人1000Gだ。チャリティに参加してる店を回って金を使え。
家族のある奴は土産に買って帰れ! 独り身はどうせ酒か女に使うんだから1日ぐらい我慢しやがれ!」
キドーの声が張り上げられて、ルンペルシュティルツの社員たちが「へい!」と声を上げた。
「チャリティってガラじゃあないんですけどね」
スキンクが苦笑する。
「でも派遣会社ルンペルシュティルツは『清掃・軽作業』員を派遣する真っ当な『一般企業』。
真っ当な『一般企業』としてはイメージアップの為にこういうイベントに参加しておくべきってワケ。
そうでしょ? 社長」
「おう、まぁ、そうだな……お前も行ってこい! イメージアップ、だよ!」
そういうスキンクに、キドーはわずかに歯切れ悪く答えた。スキンクが肩をすくめて去っていく。近くには正純の姿もあった。
「問題なく進んでいますよ、婦人」
正純がそういうのへ、コンスタンツ・アネルは微笑んで見せた。
「ありがというございます。まさか、皆さんに手伝ってもらえるなんて」
嬉しそうにそういうコンスタンツに、キドーは少し気まずそうに、
「葬儀以来だな。本国じゃなく、シレンツィオに居てくれて正直な所安心したよ。お子さんは元気かい?」
「ええ、おかげさまで。
……最初は、本国の皆さんに申し訳ない気持ちもありましたけれど。
でも、あの人がきっと、先を見据えて守ってくれたんだな、って思うと……ごめんなさいね。ちょっと、うれしくて」
「あまり良い物言いでは無いかもしれませんが、きっとパトリック将軍もあの空でお喜びになっているはずです」
正純がそういうのへ、コンスタンツはうなづいた。
「でも、守られてるだけじゃ、あの人に申し訳ないから。何かしなきゃ、って思いました。
皆さんのお力を借りられて、本当にうれしく思いますよ」
「戦禍を少しでも和らげるために、冬を越えるために、私にもお手伝いさせてください」
正純がほほ笑んでそういうのへ、コンスタンツも柔らかに微笑んでうなづいた。
「……ああ、特務大佐の奥方でスか」
美咲が作業を手伝いながら、そんなコンスタンツ達に視線をやった。アネル。聞き覚えのある名だったが……。
「今の鉄帝国から出られているようで良かったでス」
心からの安堵を、浮かべつつ。美咲は祖国のために、とその手を振るうコンスタンツに協力しようと、静かにうなづいてみせた。
さて、そういった思いをのせて、チャリティイベントは進んでいく。
通りでは、イズマの演奏とともに、缶詰などの保存食料を満載したワゴンが進んでいた。いわゆる『フードドライブ』というやつだ。保存に向かない食品は、調理して配り歩く。実施的な炊き出しも兼ねているわけだ。
「貴方の支援が鉄帝本国の確かな助けとなる。どうかよろしく頼む」
一曲を演奏して、一礼。ぱちぱちと拍手を一身に受け、イズマは次の曲目を演奏し始める。
そんな音楽流れる大通りで、
「そう! 本日! 我らは! 無駄使いを! する!」
「わー!」
と、百合子は宣言し、マールがぴょんぴょんと飛び跳ねながら声を上げた。メーアが苦笑する。
「チャリティーに貢献したいが必要な物は蓄えておるのでな。
必要なもの以外も買ってみたいと思ったのだ。
でも、必要じゃないものを買うのは初めての体験なので……。
マール殿とメーア殿は吾の無駄使いアドバイザーとなっていただきたい!」
「え、百合子さん、こういうことしたことないんだ」
マールが、わ、と驚いた顔をした。
「おねえちゃんは色んなものを買いすぎで……逆に止めてほしいくらいなんですけど」
とほほ、と苦笑するメーア。うむうむ、と百合子がうなづく。
「それくらいが丁度好い! というわけで、こういう時は……小物とかがよいのか?」
「部屋のインテリアになるのとかいいんじゃない? ほら、これ、スノードームとかかわいくない?」
指さしてみる店先には、鉄帝の街を模した、かわいらしいスノードームがある。
「吾の領地の光景を思い出すわ
すっごく寒いぞ! 全身もこもこにならぬと耐えられぬ位寒い!」
「え、そんなに!? じゃあ、あったかい服とかも買った方がいかな?!」
「マフラーとか、手袋とかでしょうか?」
むむむ、と顔を突き合わせるマールとメーア。そんな二人を好ましく思いながら、
「ふふ、まだ無駄遣いは始まったばかり。まずはこれを貰おうか! 2人の分も包んでいただけるか?」
百合子は楽し気に、そういうのだった。
そんな大通りには、レイリーと幸潮の姿がある。おそろいの服で歩く二人だが、レイリーの方は緊張している様子だった。
「今日は誘いをありがとう、レイリー」
そういう幸潮はあまり気にしていない様子だったから、レイリーだけ気にしているのかもしれない、と思ってしまう。
「うん……その、あのさ、実はペアルックって少し恥ずかしい……」
その言葉には、うれしさと気恥ずかしさが乗っている。
「幸潮殿はどうして、したいと思ったの?」
「一つは興味。一つは気紛れ。そしてもう一つは……この世界の私が、レイリーと繋がりを持ちたかっただけだ」
そう言葉にしてみれば、幸潮もまた、わずかにほほが赤らんだような気がした。「ふふ、そうか」とレイリーが嬉しそうに笑う。
「じゃあ、今日は一緒に楽しもう? まずは、この服屋さん」
そういって指さす先にはブティックがある。中に入ってみれば、鉄帝様式というのだろうか、ゼシュテルの文化を取り込んだデザインの服が多い。
「どうかしら? 普段使いに、ブラウスと、色違いのスカートなんて?」
差し出す服を、幸潮は受け取る。
「ふむ……私はレイリーがいいと思ったものでいい。ファッションには明るくなくてな。
……愛を持って選んでくれたんだろ? ありがとさん。
いや……」
恥ずかし気に目をそらすと、
「──ダメだな。無性に言の葉が回ってしまう。変に調子が狂ってる。けど……コレは、悪くない気分だ。
そうだな。レイリー、この世界が閉じゆくまでは、我も汝に付き添うとしよう。何、汝の行先が、理想を求めたが故の悲劇でも」
「突然ね」
レイリーが笑った。
「でも……ありがとう。そこまで慕ってくれると嬉しいわ」
そういって、嬉しそうに、ほほ笑むのであった。
「やっほー! マールちゃん、メーアちゃん! 久しぶりだねっ」
そういってMeerがぱたぱたと手を振って見せる。マールとメーアがそれに気づいて、駆け寄ってきた。
「あ、Meerさんだ! 久しぶり!」
「その節は、本当お世話になりました」
マールが飛びついって抱き着こうと……したのを、メーアが止めて、苦笑しつつ礼を言う。Meerは「相変わらずだね」と楽しそうに笑った。
「Meerさんは、出店してくださってるのですね」
「うん! polarsternリトルゼシュテル出張店だよ!」
後ろにはワゴンがあって、ココアやコーヒー、焼き菓子やクリオネ饅頭が用意されている。スタッフは大忙しのようで、Rifflutは申し訳なさそうに一礼をしつつ、作業に戻っている。
「あれから竜宮の方はどう? 2人は無理してない?」
尋ねるMeerに、マールはうなづいた。
「うん! 外からお客さんがたくさん来るようになって、皆大忙しだけど。前以上に、みんな元気にやってるよ!」
「一応神事などは担当していますけれど、わたしも、もう厳密には『乙姫』ではありませんから。色々と余裕ができて……」
嬉しそうに笑うマールとメーア。Meerも、そんな平和な竜宮の様子に、うれしくなってしまう。
「よかったら、もっといろいろ聞かせて! ほら、ココア、あったかいよ?」
そういって差し出したココアを、二人は嬉しそうに受け取った。
「冷たい風にのせて貴方に届けるよ
ふわっとあたたかいミルクの香り
あまくてやわらかいお菓子の香り
心をノックする音が聴こえたなら
ご案内、僕が手を引いてあげるね♪」
Meerの歌声が、冬の空に響いて通りを駆け抜けていくのを、二人は嬉しそうに聴いていた。そんな通りは多くの人々でにぎわってい、人通りは減ることはないようだ。
「アネル婦人会は……そうか、彼の……」
チャリティイベントのチラシを見つめながら、ヨゾラは少しうれしそうに微笑んだ。
「素敵な方ですよね。祖国のために、と活動なさっているそうですよ」
隣にいたメーアがそういった。
「いい人だったよね。ヨゾラさん、知ってる人?」
マールが尋ねるのへ、ヨゾラがうなづいた。
「うん、すこし、ね。
さて、今日はいっぱい遊びたいなぁ。奥にはVDMランドもあるんでしょ? とらぁくんに会いたいよ~!」
「しってる! かわいいよね、とらぁくん! ぬいぐるみとかほしいなぁ~」
マールがにこにこと笑うのへ、ヨゾラがうなづいた。
「うん。じゃあ、さっそく遊びに行かない? ぬいぐるみ、買ってあげようか?」
「よ、ヨゾラさん! おねえちゃんをあんまり甘やかさないでくださいね?」
申し訳なさそうにいうメーアに、マールは「えー」と声を上げた。
「べ、別に甘やかされてるわけじゃ……ないよね?」
わたわたというマールに、ヨゾラは楽しげに笑って見せた。
「どうかなぁ? ふふ」
二人を見ていると、竜宮に、そしてシレンツィオに、本当に平和が戻ったのだと、改めて確認できる。それはとてもうれしいものだ。この国に幸あれ、とヨゾラは祈りながら、シャイネンナハトの一日を堪能するのであった。
さて、少し時間が流れてみれば、さらに人出は多くなったようだ。リトル・ゼシュテルはこの日大きな賑わいを見せている。
「いやぁ、楽しいですねぇ!」
と、ぎゅるぎゅる回転している『井』と、隣にいたマールが「そうだね~!」と楽しそうにうなづく。回ろうとして、メーアに止められた。
「あっ! いたのですよ!
マールちゃーん! メーアちゃーん! それと、えっと……」
ルシアがそう声をかけながらやってくる。なんか回転している井に困惑しつつ、
「井さんも! しばらく振りでして! 偶然……ではなくて、お祭りでもしかするといるかもって思って! 探してみたのです」
「本当ですか? 会えてよかったです!」
メーアがにこにこと笑う。
「ルシアちゃんとは一緒に捕まっちゃった仲だからねぇ……」
マールがうんうんというのへ、
「え!? どういう仲なんですか!? えっちなことですか!?」
井が回転する。ルシアがうんうんとうなづきながら、
「あの時は大変でしてー! みんなバニーになってしまって!」
「どういうことですか!?」
井さんがなんか回転した。ルシアが苦笑しつつ、
「それは報告書とかを読んでほしいのでして!
そうだ! 言い忘れてたことがあるのですよ! 井さーん!
……素敵な衣装、ありがとうでして!
またメダルが溜まったらお願いしたいのですよ!」
耳元で、小声でそう言って、笑うルシアに、井は「ASMRか!?!?!?!」とぎゅるぎゅる回転しながらうなづくのであった。
さて、マールとメーアといえば、二人も今日一日でいろいろな人と出会っていたようだ。
例えば、千代とはショッピングを楽しんだりしていた。
「お二人は、いつもバニーさんな感じですから!」
と、千代が言う。
「普段着……というと変ですが、お似合いの服などを選んであげたくて!」
「そっか、竜宮の外だと、こういうカッコ、皆してないものね」
マールがむむ、とうなる。メーアがふむ、とうなった。
「確かに、これは正装のようなものですからね。もっとラフな格好というのも、必要でしょうか……?」
「そうですよ~! というわけで、いろいろお買い物しましょ! というか、私が作るのでもいいですよ!」
「え、裁縫とかできるの?」
マールが目を丸くした。
「すごい! あたしも昔、服を縫ってみたことあるけど、とんでもないことになっちゃって!」
「おねえちゃん、結構不器用なので……」
メーアが困ったように言う。千代は笑った。
「では、今度一緒に作りませんか? おそろいの小物とかから作るといいかもしれませんよ?」
「わ、ほんと!? やるやる!」
嬉しそうなマールに、千代も楽しげに笑って見せた。
ほかにも、二人は慧にも遊んでもらったりしていた。にぎやかな大通りで、ゼシュテル式のバーガーなんかをかじりながら、三人でベンチに腰かけている。
「慧さんも遊びに来てくださって、本当にうれしいです」
メーアがほほ笑む。慧はほほなどを気恥ずかしげにかきつつ、
「俺は店出せるほど器用じゃないっすけど、お客さんとして盛り上げるのだって立派な役目っすから……」
「うんうん、あたしも一生懸命お客さんとして盛り上げてるからね!」
にこにこと笑うマールに、慧も嬉しそうに笑った。
「お二人とも、元気そうっすね。本当に良かった」
「おかげさまで、です」
メーアが笑うのへ、慧はうなづく。
「……お二人のこと、最初は心配だったんっす。でも、今は……チャリティとかそういう仕事の話も進めてたんすね。なんか、立派というか、今はお二人のことを応援して、力になりたいって思ってるんっすよ」
そういう慧に、メーアはうなづいた。
「まだまだ、わたし達には至らないところもあると思います。また力を貸してくれると、うれしいです」
メーアの言葉に、慧はうなづいた。
「友達として、必ず」
友達、という言葉に、メーアは嬉しそうにうなづいた。役割を終えて、なお『友達』として接してくれるみんなのことが、メーアもたまらなくうれしかったのだ。
夕方くらいには、二人はオラボナと遊んでいた。VDMランドの、いわゆるコーヒーカップ遊具に乗って、オラボナの絶妙な加減で回転させられるそれに、皆最初は大はしゃぎで、途中から目をくるくる回しながら遊んでいたらしい。
「なんか、久しぶりに目がぐるぐるになった気がする~」
マールがベンチに座りながら、ぐわぐわと頭を揺らした。
「記憶がなくなりそうになった時以来……」
「あんまりいい例えじゃないですよ、おねえちゃん」
メーアも苦笑しつつ、目を丸くしてる。Nyahaha! とオラボナは笑った。
「ウサギパイの完成と謂うべきか」
そういってはみるのものの、結構オラボナもグロッキーではある。
「そこでグロッキーになってるのはオラボナとディーネー姉妹じゃねぇか?
何だその飲み会でテンションより疲れが上回ったみたいな状況は」
そんなベンチに向かって声をかけたのは、タンクを背負ったゴリョウだ。
「貴様。今日は提供側か」
「俺ァいつでも提供側だぜ? まぁ、今日は特に、特別っていうか。蜂蜜入りのペパーミントティーとジンジャーティーを配って歩いてる。吐き気によく効くってやつだ」
ぶはははっ、と笑うゴリョウ。なんともVDMランドにふさわしい。
「あー、お茶、飲むか? 乗り物酔いとかにも効くんだぜ?」
「うー、ありがと、ゴリョウさん……」
マールがそういって、カップを受け取った。
「でも、もう少し……休んでからでもいいですか……?」
メーアが困ったように言うのへ、ゴリョウも苦笑した。
「まぁ、ゆっくりな。遠くを見るといいぜ、遠くを」
「遠くを覗きすぎて星辰を覗かぬようにな」
ぐわぐわと頭を揺らしつつ、オラボナは再びNyahahaha! と笑うのであった。
夜のとばりが下りてくるころには、あちこちでにぎやかな音楽が流れ始めていた。どうやら近くで、チャリティ演奏会などを行っているようだ。
「音楽か、いいな」
クロバがそういうのへ、マールがうなづいた。
「そうだよね! 楽器の演奏とかかっこいい! まぁ、あたしやったことないんだけど……」
「そうなのか? 練習してみたらどうだ? ボーカル兼、ギターなんてどうだろう?
メーアは、キーボードなんて似合いそうだよな?」
「ピアノのような楽器ですよね? わたしは、琴なら少し、というところです。神事で使ったんですよ」
メーアがほほ笑む。
「なら、演奏してみないか? 竜宮に伝わる歌とかをさ。
俺も、楽器は演奏できるから、曲を教えてもらえれば演奏できると思うぞ?」
「いいね! 飛び入りでやってみようか! えーと、あたしはほら、ボーカルで」
「おねえちゃん、歌詞覚えてます? たまにいい加減に歌ってるの、知ってるんですからね?」
むむ、とメーアが言うのへ、マールがうさ耳を抑えて「きこえなーい」みたいなふりをした。クロバが笑う。
「ちょっと場所を借りて練習してみるか。なに、まだまだ、イベントが終わるまで時間はあるからな」
その言葉に、二人は楽しそうにうなづいて見せるのだった。
さて、そんな静かな夜に映えるのが、大きなツリーのオブジェだ。
「ふふ、少し遊び疲れましたわね?」
ヴァレーリヤがそういってほほ笑むのを、マリアはうなづいた。
「本当に少し遊び過ぎたね! でもとっても楽しかった! 少し休もうか。ツリーもとっても綺麗だよ?」
そういって、二人で見上げるツリーは、キラキラとした星々をまとったようで、とても美しいオブジェだった。
「知ってます、マリィ? シャイネンナハトの、おとぎ話。ツリーの下で愛を誓った者たちは、幸せになれる、と」
「そんな噂があるのかい? 素敵だね……。
ではやってみよう!」
そういって、マリアはヴァレーリヤを抱きしめた。ヴァレーリヤは少し驚いた風を見せたけれど、すぐにその腕に身をゆだねた。
「……でも。私はツリーの伝説がなくても君を幸せにしてみせるよ……!」
「ありがとう、マリィ……」
ヴァレーリヤは、ゆっくりと瞳を閉じた。愛する人の体温を感じながら、おとぎ話が本当になればいいと、心から願っていた。
「……今年の冬は一段と冷え込むねぇ」
「せやねぇ、いつもこんなに寒かったやろか」
縁の言葉に、蜻蛉は静かにうなづいた。手にしたホットワインをわずかに口に含むと、熱とアルコールが体を温めてくれる。
何気なくツリーに目を向ければ、まるで今の二人のような、並んで揺れる魚と猫のオーナメント。それに気恥ずかしさを感じてしまう縁をからかうように、蜻蛉はオーナメントをつついて揺らした。
「急に静かになってしもて、どないしたん?」
「……いや、まあ、何だ。変わった飾りもあるモンだと思っただけさね」
「……ふぅん?」
楽し気に、蜻蛉は微笑んだ。むずがゆそうに口元を抑えて見せる縁が、かわいらしくて。
「ワイン、のぅなってしもたね。
ね、寒いんやけど?」
そういう蜻蛉が、今度は驚く番だった。縁は蜻蛉の手を握ると、そのまま羽織のポケットの中へと招いてみせる。
「――そんじゃ、パーティの続きはうちの店でやるか。寒がりの猫が丸くなれるよう、炬燵も用意してあるんでな」
少しだけぶっきらぼうにそういう縁に、
「あら、今年は潮騒へお呼ばれ……嬉しいわ。そうよ、炬燵がないと死んでしまうもの」
蜻蛉はくすくすと笑った。これから二人で紡ぐ時間は、ポケットに収まらないくらいに、いっぱいあるのだろう――。
●竜宮のシャイネンナハト
チャリティイベントには竜宮も参加していて、竜宮でもシャイネンナハトの大きなお祭りが開かれていた。
「あら、人手が足りない? ……では」
と、街を見て回った愛奈であったが、マイスター通りのバーで人手が足りないと聞き、一肌脱ぐことにした。バニースタイルに着替えて、給仕を担当して見せる。周りもバニーなので、恥ずかしがることもあるまい!
「でも、こうしてみると。この街も、本当に平和が戻ったのですね」
ローレットが戦い、平和を取り戻した風景が目の前にある。それがまた、うれしい。
「でも、何か困りごとがありましたら、ローレットにご相談を?」
営業も忘れなく、愛奈は笑って見せた。
「えっと、笑顔を忘れず、ですよね!」
バニーさんで接客、といえば、ユーフォニーもそうだ。隣にはマールやメーアもいる。街の見回りをしていたのだが、人手が足りないお店の手伝いをしてるのだった。
「そうそう! ユーフォニーさんも、竜宮嬢の試験とか受けてみない?」
マールが笑って見せる。
「もう! ……でも、ユーフォニーさんの笑顔、とっても素敵ですよ」
メーアもそううなづく。わずかに顔を赤らめて、ユーフォニーが苦笑した。
「そ、そうでしょうか……? でも、私も竜宮で笑顔を作れたのなら、うれしいです!」
そういって、深海に咲く綺麗な花のように、ユーフォニーは笑顔を浮かべた。
「そう。笑顔。おもてなし。そしてバニー」
バルガルはといえば、満面の笑顔を浮かべて接客を受けている。
「バニーというものは尊いのです。そして至高。ああ、本当にいいですね、ここは。
バニーは神聖ゆえにお障り厳禁。ええ、ええ、わかっておりますもの。
……視線が少し変? いえいえいえいえ、そんなことは」
満足げにグラスを傾けるバルガル。周りで働く竜宮嬢・竜宮男子を愛おしそうに見守りながら、バルガルの至福の時間は過ぎていく……。
「おらぁっ! クウハコラァ!
カラオケこいやおらぁっ!
え、ほんとに来てくれるの?
や っ た ぜ」
というわけで裏通りのカラオケ店である。卮濘に呼ばれたクウハは、二人でチャリティイベント共産のカラオケ店へ。テーブルの上にポテトなどの軽食とジュースを大量に並べながら、いざ、カラオケ――!
「それはそうと、やたらと失恋ソング歌いやがるじゃねーか……。
何だ? 当てつけか? 嫌がらせか?
そりゃ振ったのは多少悪いと思ってるが、誑かしたつもりねェんだけどな……」
卮濘の選曲にそういうクウハに、卮濘は、
「そんなこと……私みたいな重い存在誑かしといて今更言う?
いくら好きだって思ってたっていいでしょ。ね、クウハ〜♪」
楽し気にそう言う。果たしてその真意はどこにあるやら。とはいえ、刹那に見せた、どこかさみしそうな顔を、クウハは見落としてはいなかった。
「……ま、そこまで俺が好きだっつーならその執着に、多少なり報いてやるのも悪くない。
恋愛ってのとはまた違うが、俺が必要としてるって事をオマエが忘れずいられるように、プレゼントの一つでもしてやるよ。
何か希望はあるか、麗しのレディ?」
そういうクウハに、卮濘は、ふふ、と笑って見せた。果たして何を要求されたのかは、二人のみぞ知るのだろう。
「世界、ず~る~い~ッ!?
何でそんな手札が成立するのさ~ッ!?」
と、バニー姿のマリオンがポーカーテーブルの上に突っ伏した。並べられた駄菓子が、ざっ、と崩れる。
「そりゃお前」
バニー姿のマリオンの胸元から視線を外しつつ、世界が言った。
「成立するようにやってるからに決まってるだろ」
「そんなのできないよ~!」
マリオンが嘆くように言う。言うは易く行うは難し、である。
「それにマリオンさんの手札が良い時に限って、おりてる気がするよ!?」
「そりゃそうだろ……マリオンは、手札がいい時に限って表情が輝く」
「素敵な顔ってことかな?」
「単純で手が読みやすいってことだ」
うえぇ、とマリオンが脱力した。マリオンの表情は読みやすい。単じゅ……素直な相手だからだ。ゆえに、はったりも存分に聞いていた。御しやすい相手だ。
「も~! ちょっと待ってて! 賭け品の駄菓子、買い足してくるから!」
マリオンがそういって立ち上がるのへ、世界は肩をすくめた。素寒貧にならないように駄菓子を賭けあうことにしたのだが、これはこれで散財しそうだ。
とはいえ、マリオンも楽しそうだし……これも悪くない。
「こんな聖夜も、ま、悪くないか」
カジノはキラキラしていて、天井のシャンデリアは星のようにも思えた。竜宮の空にはダークブルーの海があって、その上には本当の空があるのだろう。冬の空は、この日は誰にも平等に明るくて静かで、祝福をもたらしてくれているような気がした。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
そして、聖夜は静かに過ぎて。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
シャイネンナハト、シレンツィオでのチャリティイベントです!
●成功条件
チャリティイベントを目いっぱい楽しむ!
●状況
いまだ戦乱のやまぬ鉄帝。シレンツィオに存在する鉄帝自治区、リトル・ゼシュテルは平和を保っていましたが、それでも祖国への心配と不安はいやせるものではありません。
そこで、ゼシュテルの市民団体、『アネル夫人会』は、街を挙げてのチャリティイベントを申請。無事に許可が下ります。ついでに、竜宮のマールとメーアも、そのチャリティイベントの手伝いをすることを承諾し、リトル・ゼシュテルと竜宮を舞台にした、大きなシャイネンナハト・チャリティイベントが開催される運びとなりました。
皆さんは、お客さんとして、あるいはスタッフとして参加して、チャリティイベントを目いっぱい楽しんでください。
皆さんが活動することで、きっと鉄帝本国への力になるはずです。
●プレイング書式
一行目:【向かう場所】(数字でご指定下さい)
二行目:【グループタグ】or同行者(ID) ※なしの場合は空行
三行目:自由記入
例:
【1】
【井さんぐるぐる回る】
ここが天国ですか。
●登場NPCについて
マール・ディーネー(p3n000281)
メーア・ディーネー(p3n000282)
および洗井落雲所有のNPCは滞在していてもかまいません。
●いける場所
【1】リトル・ゼシュテル
シレンツィオに存在する、小さなゼシュテル、です。見た目は鉄帝本国とほとんど変わらぬ、蒸気と鉄と煉瓦のスチームパンク的な光景が広がっています。
とはいえ、そこは南国のシレンツィオ。少々『リゾートより』になっているため、印象は若干異なるかもしれません。
ここでは、主にメイン通りにて、ショッピングや買い食いなどを楽しむことができます。お客さんとして参加してもいいですし、お店を開いて、売り上げをチャリティしてあげてもかまいません。
また、奥には遊園地、VDMランド・フェデリアも存在し、今日は一日中開園しています。様々なイベントや乗り物がありますので、遊びに行くのもいいでしょう。
希望があれば、主催の『アネル婦人会』の代表である、『コンスタンツ・アネル』とお話をすることも可能です。
【2】ゼシュテル・ツリー
リトル・ゼシュテルにいくつか配置された、シャイネンナハトの大きなツリーモニュメントです。
ここでは、静かに、雰囲気よく、友達や恋人さんと会話を楽しむことができるでしょう。
雪こそ降ってはいませんが、ゼシュテルの蒸気はまるで雪のように、白くロマンチックにあたりを包んでいます。
リトル・ゼシュテルだからこそ味わえる、幻想的な光景をお楽しみください。
【3】竜宮
ご存じ竜宮です。まるで深夜の繁華街のような、ネオンと笑顔の輝く海底都市。今日は特別な術法で、空にツリーや雪だるまなどのネオンサイン風のイラストを投影しています。
こちらでは、バニー女子・男子の皆さんと会話して遊んだり、カジノで遊んだり。あるいは下町の定食屋やカラオケボックス・バッティングセンターなどで遊ぶことができます。
もちろん、バニーの格好で誰かをもてなしてあげてもかまいません。チャリティですので、気軽に遊んでみてください。
以上となります。
それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。
Tweet