シナリオ詳細
<デジールの呼び声>メランコリック・ダブルダウン
オープニング
●竜宮城防衛戦
竜宮城の乙姫メーア・ディーネーからの嘆願をうけ、海洋王国シレンツィオ方面軍の一部部隊は竜宮城の防衛、及びインス島襲撃のために兵を割くこととなった。
当然そこには事態の中心に居たローレットも参加し、一大作戦が実行されたのであった。
「うおー! まもるぜー! とーちゃんの部隊と一緒にまもるぜー!」
竜宮城裏通り。バッティングセンターなど様々な娯楽施設が集まるこのエリアには、ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)が『配備』されている。
彼の周りにはファイヤーセイウチ軍曹やミサイルオットセイ軍曹など、ゼニガタ大佐が信頼する部下たちが多数配属され、それぞれが真蛸砲や蛤機関銃を構え敵軍の到来を待ち構えている。
ワモンはふんわりとここまでの流れを思い出す。
『我が息子、ワモンよ。俺は鉄帝情勢不安によって警戒の強まったアクエリア総督府から離れるわけにはいかん……。だが、友誼を交わし同じイカを食った竜宮の友を見捨てることもまたできん。
俺の師団と共に――俺に代わって、竜宮の民を護るのだ』
きゅぴーんと目を光らせるワモン。
「うおーーーーー! やる気出てきたぜー! みんなー! いくぜー!」
「「オオー!」」
その声を横にうけ、エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)はぽりぽりと頬をかいていた。
「名誉たいさー。俺たちも号令し無いんですかー?」
「名誉たいさー、今日は仕事するんです?」
「名誉たいさー! 途中で帰っちゃダメっすからね!?」
「頭に名誉をつけるな」
名誉がついてるのに不名誉という意味の分からない状態にあるエイヴァン。腕をぶんと振って部下達をなだめた。
彼は海洋シレンツィオ方面軍からの招集をうけ、竜宮城防衛の任務を与えられたのである。当然彼の部下達も勢揃いだ。
「まあ、いい……たまには軍人らしいこともしておくか」
エイヴァンは咆哮のごとき声をあげた。
「総員抜剣! 深怪魔を迎え撃つぞ!」
「「オオー!」」
ここは竜宮城。シレンツィオ近海、ダガヌ海域の先にあるいにしえよりの海底都市だ。
近年増加した深怪魔による被害を受けていた竜宮は、同じく深怪魔によって被害を受けていたシレンツィオ合同軍と協力。破壊された神器玉匣修復のため竜宮幣の収集をローレットへ依頼していた。
陸から海から小島から、あるいは怪物の胃袋から次々と見つかった竜宮幣。
溜まりに溜まった竜宮幣は、100%とは行かずともほぼ全ての回収が見られたのであった。
故に竜宮の巫女メーアはシレンツィオ合同軍と結託し、深怪魔封印のため悪神ダガヌの神殿たるインス島襲撃作戦を決行したのであった。
が、しかし!
「深怪魔の群れが急速接近! まもなく竜宮城へ到達するとみられます!」
「やっぱり……ダガヌも黙ってはいなかったってわけね」
イリス・アトラクトス(p3p000883)は竜宮城正面の中央通りに陣取っていた。周囲にはエルネストの部下とおぼしき割と見知った顔がちらほら見える。
彼本人はフェデリア島防衛のために総督府へ残り、こうして信頼できる部下を預けてくれるということは……言葉にしていないまでも、イリスへの信頼の現れなのかもしれない。
「西のケルネ通りにも部隊を配置しましたわ!」
そう言って姿を見せたのはテティシア・ネーレー。この竜宮に沢山いる精霊『めんてん』の女王である。彼女の左右ではめんてんと、そしてペンギン型ボーイ精霊『ぺんてん』たちがちっちゃい槍を構えてムンッと気合いを入れている。
普段戦いに出ない彼らも、今回は協力するということだろう。
「竜宮の民と私達は、もはや他人ではありません。共に戦いましょう!」
「ハァー! みなぎってきましたわ~~~!」
リディア・T・レオンハート(p3p008325)とフロラ・イーリス・ハスクヴァーナ(p3p010730)も気合いを入れ直し、剣や鎌を手にしている。
「竜宮城って、警備隊以外にも戦えるヤツが沢山いたんだな……これなら心強い」
ニカッと笑い隣に並ぶフーガ・リリオ(p3p010595)。
その一方、東のマイスター通りにもバニーたちが集まり、それぞれが臨戦態勢に入っていた。
「ここは竜宮の主流から外れて己の道をゆく連中が作った、小さな聖域。自分達の居場所は、自分達で護ります!」
ヴィナース・V・ファリディアやサラバンド、ビバリー・ウィンストンといったマイスター街のバニーたち。
「おっと、『自分達で』なんて寂しいこと言うなよ。オレたちも戦うぜ!」
「ま、乗りかかった船だしな」
「ダガヌチたちの発生事件も見逃せません。手を貸しましょう」
新道 風牙(p3p005012)やキドー(p3p000244)、バルガル・ミフィスト(p3p007978)たちもそこへ加わっていく。
竜宮城は、これまでにないほどの防衛力が整いつつある……。
一抹の、言葉にならない不安を抱えつつも。
●エスペランサ破壊作戦
『邪神を祀る神殿でして。あの場所は早く破壊するべきでして』
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)のこの言葉は、今回の作戦を象徴するものと言えるだろう。
フェデリア島の軍港で補給を受けたキャピテーヌ・P・ピラータ(p3n000279)の潜水艇は、以前調査を行った『エスペランサ遺跡』へと向かっている。
乗り込んでいるのはルシアやキャピテーヌ、そして天之空・ミーナ(p3p005003)たちイレギュラーズチームだ。
ここに、『ダガヌチの巫姫』によるシレンツィオ内被害を報告してきたジョージ・キングマン(p3p007332)や綾辻・愛奈(p3p010320)といった面々を加えた、より豪華なメンバーが整っている。
「『ダガヌチ巫姫』の暗躍は無視できん。その拠点というなら、なおのことな」
「ああ、ヤツはとっつかまえてぶちのめさないと……」
ぎゅっと拳を握りしめるミーナ。
武器商人(p3p001107)も独特の表情で笑みを浮かべる
「ヒヒヒ……ここで倒さないと、ねえ」
ミーナの脳裏には、キャピテーヌが涙を流し手を伸ばしたあの姿が焼き付いている。
やっと再会できた……あるいは、見つけ出した『パパ』の願い。
――『キャピテーヌ』『どうか』『しあわせに』
そんな願いによって形作られたフリーパレットは、ダガヌチ巫姫によって喰らわれ、核としていた竜宮幣も奪われ消えてしまった。
「…………」
アンジュ・サルディーネ(p3p006960)は窓の外を見る。あのフリーパレットの中に、確かに『お父さん』の願いが混じっていたのを感じた。もしかしたら、陸に娘を残した海軍の思いが集合した存在だったのかもしれない。
思うことは、たくさんある。けれど……。
「今は、目の前のことに集中しなくちゃね」
「そういうことよ。果たせなかった願いの欠片。それすらも喰らう存在……許せないわ」
セレナ・夜月(p3p010688)は強く拳を握りしめ、そうでしょう? と仲間達へと振り返る。
皆、同じ気持ちだ。『エスペランサ遺跡』で待ち構えるであろう深怪魔やダガヌチたちを突破し、最初の巫女のなれはて……ダガヌチの巫姫を倒すのだ。
「最初の巫女の慣れはて……彼女は、なぜ」
綾辻・愛奈(p3p010320)はそう呟き、隣で黙っていたファニー(p3p010255)が小さく顔を上げる。
「もう、オレも『主人公』ってわけか……やれやれ、まったく、ホネが折れるぜ」
- <デジールの呼び声>メランコリック・ダブルダウン完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別長編
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年10月10日 22時11分
- 参加人数30/30人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 30 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(30人)
リプレイ
●裏通りこそが最前線
「兎も角、まず俺が言いたいことは1つだ! 死なない程度に無理はしろ! 以上!」
『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)はそう言い残すと部下達をしりめに一人で敵陣へ突進していった。
牆壁『摧波熊』を前に出し、地面をこするほどの勢いでごりごりと突進していくパワフルさに、侵攻してきた大量の深怪魔やダガヌチの集団がびくりと反応した。
特に反応が大きかったのは敵側の最前衛。つまりははりついてこちらを分断させる狙いで投入されたであろう大量のフォアレスター部隊である。
槍で武装した半魚人型の深怪魔たちはエイヴァンに驚きつつも、彼の咆哮に意識を引っ張られたのか集中攻撃を開始する。
彼自身もえらく頑強かつ巨躯なのだが、そこへ更にインパクトを上乗せする盾と斧をぶんまわすというバトルスタイルでフォアレスターたちがまとめて吹き飛んでいく。その様はまるでポップコーンを作るフライパン。あるいはメントスゲイザー現象。
特殊弾頭を装填し魔力を爆発させた斧を片手につかみ、ぐるんぐるんと回転するエイヴァンによってフォアレスターたちが硬直した姿勢のまま四方八方へ撥ね飛んでいくのだ。
「うおー、久しぶりに見たけどえげつねえ。つか影響範囲でけえ。あれが竜宮の加護ってやつか」
「てか『名誉大佐』腕上げてねえ?」
「馬鹿、逆だよ逆。手を抜かなくなってきてんだよ」
そんじゃ俺たちも行くかとエイヴァンの部下達が海軍で正式採用されているマスケット銃を抱えて突進。射程におさめるや否やエイヴァンに群がる敵軍へ発砲する。
とはいえ敵の数が数である。5人や10人程度ならエイヴァンをちょっと疲れさせる程度ですむが軽くその倍だの三倍だのが群がったら流石に潰されかねない。なので――。
「うおおお!竜宮の民はオイラ達がまもーる! とーちゃんの分までがんばるぜー!」
『生イカが好き』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)がきりもみ回転しながら群れの中へ突進フォアレスターたちを蹴散らしていく。
「いいかー! 民衆大事に! さいゆーせん! はい、復唱だー!」
「「民衆(いのち)大事に!」」
父ゼニガタの部下である愉快な海の戦士たちが重火器をどかどかぶっ放す姿勢から突撃へとシフト。
というのも、フォアレスターによる露払いが止み、タコと鮫が混ざったような深怪魔『ヘールポップ』が十数体規模で突っ込んできて一気に煙幕を展開。こちらの視界を遮り前衛と後衛を分断する作戦に出たためだ。
こうなるとつらいのが、ダガヌチの寄生によって暴れているめんてんやぺんてん、あるいは竜宮市民たちまでまとめて吹き飛ばしてしまいかねない。
ワモンもあえて煙幕の中に飛び込み、ダガヌチ寄生体のめんてんちゃんめがけてガトリングMADACO弾を叩き込んだ。
「寄生された奴の無力化はまかせろー! 民に犠牲はださせねー! とーちゃんの期待にこたえるためにもやってやるぜ!」
非殺傷弾であるMADACO弾をくらっためんてんがペキュウとかいいながら吹き飛び、ぷるぷると頭を振る。ダガヌチだけが抜け落ちたようで、戦いに巻き込まれないようにと逃げ走る。
それを自らの後ろに庇う形で、それを撃ち殺そうとするリュウグウノツカイ型深怪魔エバーシルバーの銀色魔法弾を弾き落とす――『太陽の翼』カイト・シャルラハ(p3p000684)。
三叉蒼槍をくるくると回し、魔法を払い落とすと、びしりと槍を構えて目を光らせた。明後日の方向に飛んでいった魔法弾がバッティングセンターの建物にツッコミ、ホームランパネルに直撃。なんだか愉快な効果音を鳴らした。
「今日の俺は海軍じゃなくてイレギュラーズとしての参加だぜ! 拗ねてないからな!」
こっちをじっとみている海洋海軍の士官へ振り返ると、ハッとした士官が敬礼をしてきた。
この分だとファクルの部隊は本島の警戒に投入されているのかもしれない。
「巻き込まれたヤツは今のうちに逃げろ! 連中の攻撃は俺が引きつける!」
エバーシルバーたちが集まり、カイトめがけて魔術弾を大量に撃ち込んでくる。しかしカイトはそのなかをびゅんびゅんと飛び回りすべて回避すると、次の射撃を行おうとしたエバーシルバーの胴体に槍を突き立てる。
倒したことを確認するとぽいっと振り捨て、そのまま突き抜けるかのような速度で離脱。振り返ったエバーシルバーの集団へこちらも180度ターンをかけると――。
「さあ祭りだ祭りだ、テメェら纏めて遊ぼうじゃねぇか!」
広げた翼から真っ赤なプレッシャーを放出。エバーシルバーたちが自らの身体に銀の魔力を纏って突進してくるのを、彼は高速で飛行することで振り切っていく。
そんなエバーシルバーたちを撃墜しにかかるのが『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)である。
カイトとすれ違うように飛行すると、脇目も振らずに通り抜けようとするエバーシルバーの集団めがけてぽいっと半透明な球体を放り投げた。
ビー玉くらいのサイズしかないそれはエバーシルバーたちの中心で思い切り爆発。ひまわりの花めいた光の魔力を放射すると、魔力を強制切断されたエバーシルバーたちがコンクリートの建物の列へ一斉に墜落していった。いわば精霊力式EMPボムである。
「前に襲撃を防いだと思ったけど、まだこんなに戦力持ってたのは驚きね。
ま、でもどれだけの数が来ようが全部まとめて吹っ飛ばすだけよ。
住人に寄生しようが私の光はちょっと眠らせるだけ、無駄だってこと教えてあげないとね」
なかなか強力な魔法だが、本当の使い道はここではない。
オデットが高度をおとすと、裏通りで暴れるバニーさんたちを発見した。
海の精霊たちがざわざわしていたせいですぐに気付けたようだ。
「大人しくして! うごかないでっ」
オデットはこちらを発見し建物をよじ登ろうとしてくるダガヌチ寄生体たちめがけて先ほどのボールを何個も投げつけると、度重なる爆発の中でダガヌチの魔力だけをカットされたバニーさんたちがバタバタと倒れていく。
二日酔いみたいに頭をおさえ、うーんと唸ってまわりを見回している。どうやら無事なようだ。
「あの人達が深怪魔に襲われないように保護したいの。手伝ってもらえる?」
「いいとも」
裸体(?)にうさみみとかいうどうかしちゃってる格好の『あなたの世界』八田 悠(p3p000687)がみみをぴこぴこと動かした。なんか器用に水やら海藻やらで身体が充分に隠れているので気にならないが、バニーさんたちは『すごいかっこうね』とは呟いていた。
それは駆けつけた竜宮警備隊たちも同じのようで、槍を装備したバニー騎士というなんともどうかしてる格好の人達を悠はしげしげと眺めた。
「しかしまあ、僕が言うのもなんだけども。
大きな戦いにしては鎧とかしっかり着込んでいるのが少ないなあ。肌色肌色。
いや竜宮城ではこれが正装・フォーマルなんでこれ以上ないくらい壮観だったりするのかもしれないね……」
まあいい、と呟いた悠は『強制配役』のプロトコルを発動。警備隊の人々を強化すると、市民を防衛しながら避難するルートに配置させる。
「ああもう、本当に人手はいくらでも欲しい状態だなあ。
海戦なんだから僕の領海から鮫軍団引っ張ってきたいよ」
やれやれと首を振る悠。とかいっていると鮫型深怪魔たちが突っ込んでくる。悠は額に手を当てたままちらりとそちら側を見ると、相手の情報を破壊、攻撃した。
いびつに変形した状態で墜落するサメ深怪魔たち。
悠は裏通りエリアが充分に防衛されていることを確認すると、増援としてやってきた警備隊の面々へと振り返る。
「ここはなんとかなりそうだ。重要なのは『この状態をいかに維持するか』だけど……まあ、得意分野なんだ。任せてくれていいよ」
●中央通りスクランブル
海洋海軍、そして竜宮警備隊の援軍が中央通りへと投入され、激戦を繰り広げていた『自称・豪農お嬢様』フロラ・イーリス・ハスクヴァーナ(p3p010730)たちはその勢いを増した。
具体的にどう増したのかっていうとね。
「とりあえず私達にできる事はこの竜宮を守り通すこと。……なんて言わなくても、皆様やる気ですわね! やったりますわよ〜〜!!」
天から降ってきた『メテオリット・リーパー』が地面へ突き刺さり、込めた魔力に呼応するようにグリーンの宝石が明滅する。
「さて、さながらきらびやかな宝石のような竜宮を守る”宝石箱”になる時間ですわ。
まあわたくしは開けたら噛み付くミミックみたいなものですけど! ふふ」
斧を引き抜くと、フロラは大きく踏み込んだ斧を包み込むように巨大かつ半透明な魔力の柱が形成され、その先端に鎌の刃が展開される。さながらすさまじく巨大な鎌を振り上げたかのようなフロラは、それをもって眼前の風景をひと薙ぎにした。
「さあ、貴方達の欲を叶えてあげましょう……夢の国はこちらですわ。
貴方のねがいごとはなあに? ……そう。
──いい夢を。」
大量の深怪魔たちが一斉に切り裂かれ、ばらばらと散っていく。
対して、フロラに怯えることなく巨大な鯨型深怪魔メリディアンが突進をしかけてきた。
身体から飛び出した無数の光のラインがカクカクとカーブし、フロラめがけてひとり一斉砲撃を仕掛けてくる。
フロラはその攻撃を鎌を翳すことでこらえながら、ただ冷静に魔物達の群れを見つめている。
(……この竜宮に彼らを呼び込んだのも、同じように祈りに囚われた者なのかもしれませんわね)
そんな彼女を守るように、『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)が前に出て光線の束を払いのけた。
剣のひとふりによって光線が曲がり、中央通りのネオン看板へ直撃。バリンと破裂し火花を散らす。
犬型の深怪魔が次々に現れ、イリスへ咆哮をあげると次々に襲いかかった。
(狙いは集めた竜宮幣か、寄生による混乱か……。
こっちの戦力の分断か陽動って線も十分あるけど、こっちを放っておくわけにもいかないし、今考える事じゃないか。
暴れるだけじゃなくて、何かしらの目的があって攻めてきてると考えて警戒しておいた方がいいかも)
イリスは頭のなかでそんなふうに呟くと、最初に飛びかかってきた犬型深怪魔を切り払う。
続いて連続で三匹が飛びかかってきたが、イリスは巨大な盾を翳すことでそれらをブロック。
常人であれば吹き飛ばされてしかるべき威力だが、イリスはまるで壁のようにその場から動かない。
「今よ、砲撃!」
イリスが叫ぶと、後方でライフルを構えていた海軍の兵隊たちが砲撃を開始。サッと身を伏せたイリスの頭上を無数の銃弾が抜け、深怪魔たちをまとめて穴あきチーズへと変える。
先ほどまで猛威を振るっていたメリディアンすらもだ。
巨体が町に墜落し、派手な音をたてて建物が崩壊する。
それすらも見越していたイリスは建物周辺に待機させていた兵達を飛び上がらせ、囲んでの集中砲火を開始させる。
「第一ウェーブは凌いだ、って所かしら? 防衛ラインは維持できてる!?」
「なんとかかんとかですわ!」
大きなメンダコ型の盾のうしろに身を隠していたティティシアがちょこっと顔を出し、周囲をきょろきょろと見回す。伝令役のめんてんちゃんがとことこやってきて、ティティシアに耳打ちしはじめた。
「ふむふむ……敵の精鋭が接近中ですわ! 気をつけて!」
「ありがとう。ここは任せて、第二防衛ラインまで下がってください」
めんてんちゃんの頭を撫でてやった『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)は、深怪魔を軽く切り捨てながら前へとでる。
そこへやってきたのは、一体のフォアレスターだった。
露払い係の雑魚として知られる半魚人型深怪魔。
これが精鋭だというのだろうか?
リディアがいぶかしげに首をかしげると、フォアレスターはごぼりと黒い粘液のようなものを吐き出した。
粘液はたちまちフォアレスターを包み込み、溶かし、そして骨すら残さず消し去ってしまう。
「リリリリ、リリリリリ――」
耳障りな鈴めいた鳴き声。あるいは、全身の振動によって起こす音。この正体不明の精鋭深怪魔、仮称『ディープ・スライム』の異様さに、リディアは剣を構え直す。
「リ――!」
鋭く、そして素早くティティシアめがけて伸びた粘液を、リディアはこちらもまた素早く切り払う。
「彼女は竜宮にとって大事な存在。この身に代えても、お守りしなければいけません!」
割り込むリディアを邪魔に思ったのか、ディープ・スライムは粘液を拳のように整形しリディアめがけて殴りつけてくる。
粘液とは思えない硬度でぶつかってきたその衝撃に、リディアは一度は吹き飛ばされ光立て看板を破壊しながら転がるも、剣を地に突き立てるようにして強制ブレーキ。再びティティシアめがけ突っ込むディープ・スライムを、今度は横から斬り付けた。
「リディア!?」
「あくまで狙いは彼女というわけですね……ならなおのこと。通すわけにはいきません! 手伝ってください、二人とも!」
「おっと、今日は出番が多いな」
『黄金の旋律』フーガ・リリオ(p3p010595)は召喚したトランペットを構え直すと、それまで奏でていた勇猛な音楽から緊迫感と勢いのある音楽へと変更した。
大群となって押し寄せる深怪魔たちの猛攻を、海軍や警備隊たちの勢いによって押し返す。この『群と群』という戦いは確率によって平均化され、ぶつかればぶつかるほど互いが消耗する。
消耗を取り返すのはヒーラーのつとめであり、それは今フーガのつとめだ。
細かいテンポで吹き鳴らされるトランペット。
そのリズムに併せて軍楽団が太鼓を鳴らし、フーガに併せて金管楽器を吹き鳴らした。
曲調が変化する。スウィング・ジャズだ。
テンポをずらしたことで、そのテンポに合わせていた兵達が深怪魔の攻撃に対してリズムよくカウンターを打ち返すようになっていく。
まるで音楽そのもので味方を操っているかのようだが……実際、戦争における音楽はリズムを使って軍を動かすための高域伝達手段であり立派な兵科だ。それを、フーガは元の世界でよく知っていた。
「イレギュラーズに海洋海軍合同部隊、そして竜宮城警備隊や有志隊。こんなに大勢いたら心強いぜ! さあ、もう一息だ!」
ディープ・スライムの周囲を固めていた深怪魔たちがフーガの演奏に勢いづけられ突撃し、次々に撃破していく。
あちこちで強力な敵を討ち取ったという声があがり、目に見えて自軍の波が相手を押し返しているのがわかった。
「宇宙保安官ッ! ムサシ・セルブライトッ!
ここに住まう人々の生活と住む場所、その命を奪い去る…そんなことはっ!この宇宙保安官がいる限りさせないでありますっ!」
そこへ先陣を切って突っ込んだのは『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)であった。
「ようやく竜宮幣が集まって、修復が終わりそうになっているというのに…!
再び襲撃をしてそこに住まう人々を蹂躙するなど、この宇宙保安官の目の黒いうちはそんなことさせないであります!」
腰から『R83GUARD CUSTOM』を取り出し撃ちまくりながらムサシは突進。
ディープスライムがそれを次々に弾くが、それを隙としてムサシはレーザーコーティングされた警棒を展開。
至近距離で斬りかかる――と、ディープ・スライムはここぞとばかりにムサシをとりこもうと自らを広く展開させた。
フォアレスターを『食った』時からわかっていたことだ。わかっていたのだから、狙ってもいた。
「今であります!」
ムサシは警棒にエネルギーを集中させると相手をV字に切り裂く。
「ゼタシウムブレイザーッ! ……V!」
切り上げた動きのままあえて背を向けるムサシ。なぜなら、同時に飛び込んだリディアの剣がディープ・スライムを横一文字に切り裂き光のV字をターンエーに書き換えたためだ。
ディープ・スライムの前後で背をむけあう格好になったムサシとリディア。
「リディアさん、ここは見栄を切る場面でありますよ」
「見栄?」
ちらりと振り返るリディア。見せつけるように、ムサシは剣をぶんと振ってポーズをとった。
「……なるほど」
リディアは祈るように剣を垂直に立て、背筋を伸ばす。
「リリリ――!」
二人の間で、ディープ・スライムはエネルギーが内部から破裂したのか爆発を起こし吹き飛んでいった。
●マイスター通りに光あれ
「ヴィーナスさん、みんな、下がっててくれ! ここはオレに任せろ!」
『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)はマイスター通りの細い路地を駆け抜けると、向こう側から続々とやってくるフォアレスターの集団めがけて槍を構えた。
(協力してくれたつづりが行方不明になってるのが心配でたまらねえけど……まさか、連中に浚われたとかじゃないよな?
巫姫とかいうやつなら何か知ってるかもだが……いや、だめだ。今はこの防衛任務から離れるわけにはいかねえ。
くそっ、今すぐにでも探しに行きたい! でも、ここに住む人たちも放っておけねえ!
ああくそ、くそくそ! 気ばかり焦る!!)
大きく首を振り、目の前に集中する。
「つづりの手がかりは必ず手に入れる。そして必ず救い出す。
でも、それは今じゃない。だから、今は今現在すべきことにすべての意志と力を集中させろ!
護るべきものは、今、オレの背に広がる街すべてだ!」
ダンッ、と地面を力強く踏み込み、自らを黄金の流星の如く光に包むと風牙はフォアレスターの群れを貫通するほどの勢いで駆け抜けていく。
「やりますねえ。さあ皆、負けてられないよ!」
槍を掲げて叫ぶヴィナース・V・ファリディア。槍はどうやら竜宮警備隊で支給されているものと同じだが、どうも長く使い古した跡がある。こういうときのために鍛えていたのか、それとも、ベテランの戦士から譲り受けたものなのだろうか。
マイスター通りを日夜守ってきたバニーたちがそれぞれ武器をとり、深怪魔たちへと立ち向かっていく。
中には相手の勢いに押されそうになる者もいるが……。
「おお……こちらの陣営は壮観だな。これなら負ける気はしないな。
よし、龍宮城を守りきり、そしてこれからは龍宮城とシレンツィオ、共に栄えよう!
……私もたまには美人の竜宮嬢ちゃんたちをはべらせて豪遊したい。かわいいは正義!」
屋根から飛び降りる形で現れた『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)が深怪魔を踏み潰し、ピッと二本指を立てる挨拶をした。
この環境になじむためかバッチリバニーガールスタイルである。
「こいつを片付けたら――」
「一緒に飲みましょ! 奢っちゃう!」
「約束だ」
ハンサムなスマイルを浮かべ、モカは新たなフォアレスターを回し蹴りによって吹き飛ばす。
すると……両手に鋭い爪をそなえたダガヌチ寄生体が出現。
路肩の立て看板を破壊すると、凄まじい勢いで突っ込んでくる。
「このタイプ……以前にも……」
風牙はハッとして槍で防御。ガキンと爪がぶつかり火花をたて、打撃の重さに風牙はグッと歯を食いしばる。
「また竜宮の民に寄生したのか、ダガヌチ! その人から出て行け!」
風牙の蹴りとモカの蹴りが重なり、ダガヌチを派手に突き飛ばす。
「今だ!」
「任せるッス!」
モカたちの後方から、ギランという激しい音と共に蒼い光りが前方へと追い越していった。
残光すら残す速度で突っ込んだ光は、そのまま『スナック美脚鮪』と看板のたった店の壁を破壊しながら、ダガヌチを店内へと突き飛ばす。倒れた椅子を掴んで叩きつけにかかるダガヌチだが、蒼い光り――もとい『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)はそれを素早く回避。足払いによって相手を転倒させる。
「ここまで関わった以上、もう他人事ではないッスから。全力で防衛に当たらせてもらうッスよ!
バニーガール姿も気に入りましたしね!全部無事に終わったら、パーッと祝勝会ッス!」
長期戦によって尽きていたエネルギーを、竜宮の加護によって大幅に回復。起き上がろうとするダガヌチをチョップでなぎ倒すと、後ろから飛びかかったマイスター通りのバニーたちがサスマタをつかって取り押さえる。
「ふぅ……それにしてもキリが無いッスね。手加減して倒すのも案外難しいし……」
「わかります。人間ってかなり死にやすいですからねえ」
『酔狂者』バルガル・ミフィスト(p3p007978)は煙草をくわえ、百円ライターをこすって火を付ける。
兎の横顔のシルエットがプリントされたライターで、マイスター通りではよくみかけるモデルだ。
「今回の襲撃、どう思います?」
「どう、とは」
イルミナが首をこきりと鳴らして答える。構造上鳴る関節がなさそうなのだが。
「深怪魔だけならともかく、ダガヌチが大量に混じってるのが気になるってことッスか?」
「はい。前者はダガヌの反撃とみるのが普通ですが、後者はやはり……」
「『ダガヌチの巫女』、だろうねえ」
ビバリー・ウィンストンがやってきて、煙草をくわえるとバルガルのほうにくいっと首ごと突き出してきた。まるで身体に染みついたかのごとく煙草に火を付けてやるバルガル。
ボッという小さな音で照らされたビバリーの表情が、驚きと僅かな困惑。見開いた目でバルガルをじっと見つめている。
「…………ど、どうしました?」
「いや。サンキュー」
煙草の煙を吐き出すと、ビバリーは店の外に出て周囲を見回した。
戦闘はある程度収まり、次の襲撃まで多少は時間が空くだろうという様子である。
「しかしこうした相手と挑んでいると何処ぞの肉腫を思い出しますねぇ。
ま、一度は乗り掛かった船ですし、しっかり仕事はこなしますかね」
などと言って、バルガルも店の外へと出てきた。
そこでは『最期に映した男』キドー(p3p000244)とサラバンドが協力してダガヌチに寄生されたバニーをふん縛り、ダガヌチだけを取り除く処理をしていた。
「正直、竜宮城を身内に含めていいのかイマイチ測りかねてる。
住人がどうのとかじゃなく、どうにも……嫌な気配。予感がするんだ
だが、ジャムルピースは別だ!」
くたっとしたバニーさんを別の仲間に任せると、キドーはクイッと酒を飲むようなジェスチャーをした。
「水割りの濃さが完璧に俺好みだった。作り方を誰に教わった?」
「そりゃあ先輩のママさんっすよ。伝統っすから」
「ホントすげえもん伝承してるよなここはよ」
代々受け継いだ秘伝のタレ、みたいなテンションでいーい感じの水割りを出してくる。それがキドーからみた竜宮である。もっといえば、ジャムルピースという店だ。
「こんな店が無くなるのはやっぱ惜しいぜ。戦うにゃあ充分過ぎる理由だよなあ? オイ、サラ。アフターあるかい?」
「キドーさんのそーゆー率直(まっすぐ)なトコあーし好きっす」
いっすよいっすよ、という軽いノリで受け答えするサラバンド。
竜宮という町は伝統と格式をもって『社交場』を運営しているが、キドー目線から見ると若干歪んでいた。
彼女たちの伝統は、はるか昔にある一人の男が伝来した文化であるという。
あとに続く巫女たちはその教えを信じ、ある意味では宗教めいた信念でもって『バニーガール』で居続けている。
一方でサラバンドは、非常に真っ当な手段でスナックを経営し、真っ当に『ママさん』をしていた。
マイスター通りは竜宮における邪道の集まりだが、ある意味最も芯を食った者たちの集まりでもあるのかもしれない。
キドーがアフターについて思いをはせ始めた……その時。
上空から無数の光線が雨のように降り注いだ。
深怪魔メリディアンによる爆撃である。
「うおっ!?」
ヴィーナスたちを庇いながら急いで飛び退く風牙。
店舗群の一角が崩壊し、逃げ遅れた警備隊や自警団に多数のけが人が出ている。
見上げると、巨大な鯨がゆっくりと空を泳いでいる。
「コイツを放っておくのはナシ、ッスね」
「倒すのに骨が折れそうだ」
イルミナとモカが左右の建物を駆け上がるような速度でよじ登り、屋根から屋根へと飛び移っていく。
キドーとバルガルは顔を見合わせると、互いに肩をすくめた。
「じゃ、行きますか」
「だぁな。店がなくなっちゃあ困る」
ナイフから伸びたワイヤーを高所に引っかけて駆け上るバルガルと、高速ロッククライミングの要領でよじ登っていくキドー。
メリディアンが再び爆撃をしかけようと高度を落としたところで、彼らは一斉に襲いかかった。
「――テネムラス・トライキェン!」
「――天凌拝!」
青と黄金の光となったイルミナと風牙。二人は二重螺旋の光となってメリディアンを貫いていく。
と同時に、三階建てのビルの窓を蹴破って飛び出したモカの蹴りが炸裂。
いつのまにかメリディアンの頭部にまでよじ登っていたキドーとバルガルが同時にナイフを突き立てた。
分厚い皮を突き抜けるような衝撃が走り、墜落を開始。バルガルたちはワイヤーや邪妖精を駆使してメリディアンの軌道を調整すると、竜宮城外部の岩場へと激突させた。
●無限の箱庭/悠久の鳥籠
歴史というものを、『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)は重くも軽くも見ていない――などと言えば流石に極論だろうか。
「竜宮の巫女……それも、初代の巫女、か」
ジョージはこれまで『現実』の中で生き、前例が覆る瞬間も神が助けてくれない瞬間も山ほど見てきた。それゆえに、人が信仰を持つ理由を深いところでは理解しない。
巫女という存在は、いわば信仰の中枢であり媒介だ。
はじめて「そうなろう」とした人間の気持ちなど、理解しうるものではないのだ。
「理由は多々あるのだろうが……シレンツィオに手を出したのだ。その報いは、受けてもらおう!」
黒いグローブをした拳をぎゅっと握りしめ、低く低く構えたジョージは獣が食らいつくかのような躍動をもってその拳を繰り出した。
目の前に立ち塞がっていた巨大な……それも身の丈7mはあろうかという巨大なダガヌチの腹に穴があき、そのまま左右に割かれながら消滅していく。
「これで、目につくダガヌチは全て倒したはずだが……」
周囲を見回してみると、ダガヌチの姿はない。
フリーパレットの姿も、ない。
不自然なほどに、手応えが少なすぎるように思えた。
エスペランサ遺跡に集まっていた願いの集合体は、消えてしまったのだろうか。
あれだけの数のエネルギーが突然霧散したならば周囲に相応の影響が出て然るべきだが、ファミリーの情報網を使った限りその様子はない。
「ならば……奴らはどこへ行った?」
長い黒髪の女が、石で出来た椅子に腰掛けている。
服装からして、巫女だろうか。露出の少ない服装で、不思議な紋様の書かれた布で顔を隠してすらいる。
『魔法騎士』セララ(p3p000273)の知っている限り、『竜宮の巫女』とは対照的とすら言える服装だ。しかし、雰囲気はとても近いもののように思えた。
「こんにちわ!ボクの名前はセララだよ。よろしくねっ。
キミがどんな考えを持っているのか、何を望んでいるのか教えて欲しいな。
協力できたり、対立していることでも妥協点が見つかるかもしれない」
同じく椅子に座ったセララは、リュックサックからドーナツをひとつ取り出した。
お持ち帰り用にビニール包装されたそれは、ストロベリーチョコレートでコーティングされカラフルなチョコスプレーのまぶされたオーソドックスなものだ。そしてそれゆえに美味しそうである。
「妥協? 考え?」
「うん、友達になれたら嬉しいな」
「ともだち?」
フウ、と息をついたのが布の動きでわかった。
「私にもはや、願うことも願うべきこともありません。
そも――我々に必要なものが、ダガヌ様の他になにもないのです。
ともだちとは、なぜ必要なのですか?」
「んー?」
ともだちの必要性。
セララがこれまでみじんも考えてこなかった質問だ。そもそも論をするのなら、セララという『少女』が活動する理由に必要性というものが元からなかった。彼女は生まれながらに明るく、そして生まれた瞬間から善と愛に包まれ育まれたいわば最高品種の魔法少女だ。
彼女は願われてこうなったし、祈られてこうなった。愛されてこうなった。
セララは願いの結晶といって、差し支えない。
対して、目の前の『巫女』はどうだろう。
願わず、祈らず、愛さず。
人間であるのかどうかすら疑わしいほど、あまりにも空っぽであった。
空間――に、新しく椅子が出現する。『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)が座るに充分な椅子だ。
彼は石の椅子に腰掛けると、両目をチカチカッと細かく二度点滅させる。
彼(?)の目的は対話に参加することではない。その様子を深く観察し、巫女が仲間達によくない精神干渉を起こすことを防ぐためにここにいる。
そう、セララたちは……巫女との対話を求めて、この遺跡へと入ったのだ。
キッカケは、『ダガヌチの巫女』という存在を発見したことである。
その強い戦闘力から頭ごなしに潰してしまうことも検討されたが、そもそもの生まれ方が『竜宮幣を核にしてダガヌに作られた』ことであるために、倒してもすぐに代わりが生まれる可能性を考えたのである。
無限再生する物体の根治方法は、その影響能力を変えてしまうこと。つまりは対話と交渉である。
フリークライは望んで争いを起こすタチではないが、この『交渉』というものが時として攻撃的な、あるいは恐喝めいた内容にシフトすることもあると、経験から知っていた。
もし、いざという時がくれば……フリークライはその溢れるパワーをもってして戦いに挑むだろう。
交渉とは、武力が(見かけの上でも)釣り合った状態でなければ成立すらしないのだ。
フリークライは、そのための武力として存在している側面も……やはり、ある。
「…………」
ふと顔を上げる。いつもは肩にとまってくれる青い鳥が、ここにはいない。よくよく周りを見回してみれば、そこは石のドームを基礎とした大きな礼拝堂だった。
石の椅子が不規則に置かれ、みな同じ方向をむいている。
向いた側には、神像が建っていた。
記録でこの姿を見たことがある。
おそらくダガヌという神を摸した、石像だろう。
「ココハ――カツテノ、竜宮?」
寂しい場所だ。
『いわしプリンセス』アンジュ・サルディーネ(p3p006960)が最初に抱いたのはそんな感情だった。
石作りの神殿。であるにも関わらず、普通は建物内にあってしかるべきものがほとんど置かれていなかった。
例えば多少洒落た家具であったりとか、食べ物やそれを保管する入れ物であったりとか、更には可愛らしい置物や柄の入ったカーテンなんかが、アンジュの想像する『家』や『部屋』である。
対してここは、石でできた床と椅子。そして複数の柱だけがある。天井すらないこの場所は、極論すれば部屋ですらない。
「なぜ、こんな場所に? あなたは巫女なんだよね? 家具とか、可愛いものとか、置かないの?」
アンジュの問いかけに、『ダガヌチの巫女』は布越しに答えた。
「そんなものがなぜ必要なのですか。ダガヌ様が在らせられれば、他になにも必要ないというのに」
アンジュはその言葉を聞いて、やっとストンと納得したものがあった。
例えばアンジュは――「ママが居て、パパたちが居て、エルキュールが居て……それ以外になんにもいらない」瞬間が確かに在った。
人生の中でなにかが欠けて、それを補って、また欠けてをくり返す。アンジュは幼くしてその仕組みを知り、そしてそれこそが生きると言うことなのだと、うっすらとだが理解していた。
だが目の前の存在には、それがない。
ダガヌという神が与える『幸福』と『満足』という直接的な概念だけに縋り、モノにもヒトにも興味を示せなくなってしまった存在の末路だ。
「竜宮という場所は、ダガヌ様がお創りになられました。満たされぬ者、哀れなる者、すべての者をあつめ、満たす場所です。私達はダガヌ様を信じさえすれば、それでよいのです。他になにが要りましょうか」
「…………」
いまの竜宮とは、あまりにも違う。アンジュのとなりに石の椅子が――『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)が現れた。
そして部屋の外をイワシとサンマが回遊しはじめる。
部屋に生まれた銀色の光彩を浴びて、シフォリィはゆっくりと呼吸を整える。
「私から見た今の竜宮は、『欲望』でできています。もっとキラキラしたい。もっと愛されたい。もっと偉くなったり、威張ったり、自分だけの空間を作って共感されたい。物質では満たせない欲望が、あの場所には詰まっていました」
「愚かなことです。欲など、ダガヌ様が全て満たしてくださるというのに……なぜ物質などを集めて『欲する』必要があるのでしょう。
金、宝石、服、他人、家やそれに類するもの。物質を所有する必要などなぜあるのですか。全て、無駄な物体ではありませんか」
「ええ、そうです」
シフォリィは語調を強めつつあった巫女に、差し込むように肯定を返した。
不意なことだったのか、ぴたりと巫女の言葉がとまる。
そして、シフォリィはこう続けた。
「『無駄』だからやるのです」
シフォリィは知っていた。無駄だと分かっても『やる』と決めた人々のことを。あるいは、その感情を。
それは幸福というマスターピースが手に入らないと知っていながらも、愛だとか承認だとか、あるいは平和だとか風景だとか、昨日出会ったばかりの人の明日だとか。
「無駄とは、夢です。叶わないかもしれない、けれど……だからこそ動ける。叶うと分かった夢など、その場で満たせる夢など、動く価値もありません。
逆に問いましょう。あなたはなぜ動くのですか。なぜフリーパレットを喰らうのです。
あなたが叶えようとして叶えられなかった、そんな――あなたの言う『無駄と夢』があったのではないですか?」
最近やけに冴えているな。。
『紅矢の守護者』天之空・ミーナ(p3p005003)は最近、自らをこう思う。
「この場所は、かつて滅んだ竜宮……というところか。まさかとは思ったが」
まるで在りし日を再現したかのように美しく、そしてどこまでも寂しく創られた石の神殿に、ミーナは座っていた。
「だったらなぜ、今の竜宮の巫女がここを知らない? 巫女が代替わりするなら、知識も伝承されるはずだろう」
「巫女? あれが?」
布の奥で、ダガヌチの巫女は笑ったようだ。いや、失笑したと言うべきだろう。
「巫女とは神に仕えるもの。ダガヌ様に仕えるものです。ダガヌ様を封じたあれらは、魔女であり裏切り者です。巫女であるはずがありません」
「なら――」
そこで、『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)はぐいっと身を乗り出した。
「あなたはなぜ『巫女』になったの。ダガヌがいれば何も要らないなら、巫女だって要らなかったはずじゃない。古き竜宮の民が享受することだけを選んだのなら、近づく必要なんてなかった。
あなたは、ダガヌの何になりたかったの?」
「…………」
かえったのは、沈黙だった。
初めからおかしかったのだ。
ダガヌチの巫女という存在自体が、自己矛盾をおこしている。
セレナは石の椅子に背を戻し、背筋を伸ばして顎を上げた。
「あなたはたくさんのダガヌチを率いてフリーパレットを、願いの物語を喰らった。
ダガヌがかれらを邪魔に思ったから随意にした――と考えられもするけれど、私の知る限り『満足した』人間は行動しないものよ。おなかいっぱい食べればそれ以上食べ物を求めないようにね」
セレナの人生の大半は、たとえば世界の滅亡だの伝説の勇者だのというハナシからは遠かったかもしれない。けれどものの大小で本質が変わることはない。
現象規模は本質をそのままに拡大する。それが魔法の原則であり世界のことわりだ。
その視点から見るに、セレナの世界は『欠損』こそが原動力であった。
あらゆる物理、あらゆる心理、はては神学や歴史といったものにすら、あらゆるものの原動力は欠損だ。
そしてそれは、いかなる世界であっても概ね同じであったろう。
『つまさきに光芒』綾辻・愛奈(p3p010320)にとってすら、それは当てはまる話だ。
「ダガヌチの巫女。あなたには欠けていたのです。そして欠けたものを求め、その方向へと動くのが世界のことわり。あなたには――ダガヌの意志が欠けていた」
椅子にゆるく腰掛け足を組んだ愛奈は頬にさがった髪の毛を指で弄った。
「フェデリア島でおきた事件も含め、その真相を追う中で私は常に感じていたことがありました。
事件の根底にはいつも欲望があったのです。しかも物質によって埋めることの出来ないたぐいの欲が」
金を積めば何でも手に入る、などという言葉の浅さを愛奈は身と心で知っている。
金は価値を数値化したものだが、金が元から価値であったわけではない。
そして価値とは物質以外のものからしかうまれない。
本は紙とインクの複合体にすぎず、人間はタンパク質の塊にすぎない。価値たらしめたのは非物質――つまりは意志と感情であり、意志と感情の欠落から生まれる『動機』だ。
『あの古書店』だって、すぐに手放すことだってできたろう。そうしなかったのは、愛奈自身が欠いたから。欠損を、自分なりに埋めようとしたからだ。
……などと、ダガヌチの巫女を追う中で、振り返ることがある。
「私は今を生きる側です。
過去どうあったとて、今を生きる私は今の……ヒトの営みを守りたい。
それが私があのリゾートで得た答えです」
「私は」
愛奈に対して、ダガヌチの巫女は語調を強めた。
「今を否定します。彼らの生き方は間違っている。ダガヌ様さえいればよいものを、物質に縛られ散財し、物質に縛られ高い塔を建て、物質に縛られにらみ合っている。すべて、意味の無いものなのです」
「意味を決めるのは、あなたではありません」
「では誰だというのです」
愛奈は足を組み替え、いつの間にか手にしていた小さな本をパタンと閉じた。
「己。それを受け入れられないのであれば――『勝者』でしょう」
「ダカヌチの巫姫、貴様等に……食べられたフリーパレットさん達のキャピテーヌさんのお父さんの願いは絶対に叶えられない」
怒りの感情を含め、『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)が椅子から立ち上がる。
「僕は不完全な願望器、僕が望む願いも奇跡も自分の手で叶えたい魔術紋。
ダカヌチの巫姫の本当の名も姿も過去も思いも知らないけど、僕の願いも君達やダガヌになんて絶対叶えられない。
叶えようとした時点で僕の願いを汚すのと同義だ」
がらがらと崩れて行く。
神殿が、その幻影が崩れて行く。
さながらこの場所の意味が喪失していくかのように。
「僕が叶えたい願いはなぁ、竜宮の皆がダカヌなんて馬鹿の影響から解放されて、何のしがらみもなく自由に海の外に行けるように…星空や色んな景色を楽しんで生きれるようになる事なんだよ!
その為に、ダカヌやダカヌチは全部消えろ!」
崩れゆく神殿に、歩む二人がいた。
『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)はそっと手を翳し、振り返る。
「邪神を崇拝するための施設……本当にそうなのかしら。
本当にそうなのかも知れないけれど、断定する前に話して確かめたいと思っていますの
マリィ、一緒に行って頂けますこと?」
「勿論さ、ヴァリューシャ! 行こう!」
その手をとって、横に並ぶ『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)。
「私にとって――ううん、もしかしたらヴァリューシャ、君にとってもダガヌチの巫女はただ倒すべき敵じゃない。彼女の想いを、私達はまだ受け取っていないんだ」
大きな音をたてて、水の流れ込む神殿の柱が倒壊する。
ひび割れた階段を並んで登りながら、マリアはこの神殿で最初に見た幻を思い出していた。
(素敵な夢だったよ。君に会えたら、そのお礼を言わなきゃいけないと思っていたんだ。私は、君の名前だって知らないけれど……)
マリアの手のぬくもりが、流れ込む海水のなかでもわかった。
ヴァレーリヤはその手を少しだけ強く握って、歩みを進める。
あたりが水に満たされ音が籠もった今でも、進むべき道はわかっている。
ゆっくりと、歩みを進めた。
(前にここに来た時、夢を見ましたわ。何度も思い描いた、温かで優しい夢。
本当に悪意だけで動いているのなら、あんな夢は見ないはず。
少なくとも貴女の始まりは、目に映る全ての人が幸福であって欲しいと。そんな願いから始まったのではないかという思いが拭えませんの)
崩れゆく神殿の中央に、長い黒髪の巫女が座っている。
「ねえ、ダガヌチの巫女――貴女の願いを教えてもらえないかしら」
巫女は顔を布一枚で隠したまま、ヴァレーリヤたちへと振り返る。
マリアは自らの胸に手を当てた。
「話しても分かり合えないかも知れないないけど、その時は恨みっこなしさ! 少なくとも私は君を恨まない。
君は、素敵な夢を見せてくれたから。傷付いた人がいたけれど……君はもしかしたら、『傷つけるために傷つけた』わけじゃないかもしれないから」
いずれにせよ私は人を恨んだりしないけれどね、とマリアは小さく付け加えた。
あるのは、許すか許さないか。それだけだ。なぜなら自らは既に満たされ、その幸福を続けること――言い換えるなら、『幸福が消えてしまうかもしれない未来』という欠損を埋めるために行動しているのだから。
崩れ去った椅子の前に、『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)が姿を現した。
「私は貴方を裁き(抱きしめ)にきたんです。始まりの乙姫。貴女はもう……十分に罪を重ねてしまった、許されるべきではない。
けれど……」
隣に、キャピテーヌ・P・ピラータが姿を現す。
マリエッタはキャピテーヌをちらりと見ると、次にダガヌチの巫女を指した。
「キャピテーヌさん。あなたは、あの巫女を恨んでいますか? 滅ぶことを、願っていますか?」
「う……」
キャピテーヌは帽子を深くおろし、目元を覆った。
「私は、パパに……会えた気がしたのだ。パパがなにを望んでたのか、知れるとおもって……」
帽子を握る手が、震えているのが見える。
『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)はそっと、キャピテーヌの肩に手を置いた。
『どうか幸せに』。そうとだけ語り、あのフリーパレットは食われてしまった。
それがパパの願いだったのだろうか。それを見届けることで、あのフリーパレットは幸せそうに昇華されたのだろうか。
「いつものうさみみは、今日はお預けでして。
全てが終わったら、また一緒にぴこぴこして遊ぶのですよ。
だから、お互いにちゃんと帰るのでして。ルシアとの約束ですよ!」
「……うん!」
キャピテーヌは帽子をぐっとあげると、ダガヌチの巫女を見つめた。
「『あれ』は、パパだけど……パパじゃないのだ。パパは死んだのだ。もう、いないのだ!」
大きく叫ぶキャピテーヌを、ルシアは、マリエッタは、そしてずっと後ろから見つめていたアンジュは大きく目を見開いて見た。
「どこにもいない。ただ、心の中にだけ、生き続けているのだ!」
ドンと自らの胸を叩くキャピテーヌ。
欠損こそが人生ならば。
いまこの瞬間こそ、生きていると言えるのだ。
「ありがとうって。よかったって。満足だって。死んだ誰かが『言ってくれる』ことなんてないのだ。自分の心の中でだけ、言ってくれた気がするだけ。けれど、だから、私達はこうして生きるのだ!」
「…………」
もはや崩れた石となった椅子だったものの上に、『スケルトンの』ファニー(p3p010255)はただ立っていた。両手をジャケットのポケットに入れ、眼窩は黒く闇のようだ。
「見ろよ、ダガヌチの巫女。あれが人間の……主人公の物語さ。
『オレたち』はどうしようもなく欠けていて、どうしようもなく満たされねえ。
欠けたものが、そのものが、心にピースにピッタリはまるそれだけが、奇跡だかなんだかで勝手に戻ってきてくれるのを……そうやっていじけて待ってるつもりかよ」
ファニーは肩をすくめ、おどけてみせる。
「なあんてな。それもいいんじゃねえ? 主人公を諦めて、脇役裏方黒子になりきっていじけるのも人生さ。それもまた欠損ってやつなんだろうからな。
けどな、それじゃあやっぱ……『オレ』が許せねえんだよ」
ぴょんと石の山から飛び降りて、ゆっくりと歩き出す。
彼の眼窩には、燃えるような光があった。
「原初の巫女。
封印のため、欲を持つことすら許されなかった巫女。
けれど夢の中なら、そう、夢はいつか覚めるが現実ではない。
ならばずっと夢の中にいれば、現実に影響を与えず、けれど当人は幸せでいられる。
……夢遊病とやらの正体はこれか?
くだらねぇな」
ダガヌチの巫女が、今度こそ椅子から立ち上がる。
「覚めない夢がなんだ。
散らない花がなんだ。
終わらない物語がなんだ。
そんなものはただのまやかしだろうが」
グローブをした左手を翳し、コツンと口づけをした。
「オレが、アンタの物語を終わらせてやるよ」
●幻は消え、冷たい海が残る。それでも私達は生きていかねばならない。
「だまれ――!」
腕を振り回し、ダガヌチの巫女は叫んだ。
それだけで海中が大きく荒れ、巨大な名状しがたい怪物が現れる。
だが、言ってしまえばそれだけだ。
セララは剣を握り、シフォリィもまた剣をとり、フリークライは治癒の聖域を創り怪物の打撃を振り払った。
「巫姫 静寂 居ラレナカッタ。
封印ノタメ 生キレナカッタ?
彼女自身 キット願イ 抱イタ。
ソノ願イ ドノヨウナモノダッタノダロウカ」
払いのけた怪物めがけ、セララとシフォリィが同時に斬りかかる。
「願いは叶えるよ。けれど、神様はいらないんだ」
「恐らくあなたは夢をかなえる代わりに叶えられない者です。そんなあなたが、何を思い夢を喰らうのですか!」
交差した斬撃が、怪物を深く切り裂く。ミーナはそこへ飛び込み、鎌に己の魔力を注ぎ込む。
――はるか昔、つめたいつめたい海の底に竜宮の都があった。
――ひとが生きていくには過酷すぎるこの里にすら、逃げ延びなければならない人々はいた。
――そんな人々を救ったのが、ダガヌの神であった。
――ダガヌはその権能をもって、すべての民を『幸福』にした。
「おしゃべりはここまでだ。私の仲間を弄ぶ事は許さねぇ」
ミーナをつかみ取ろうとする巨大な海洋生物めいた怪物。しかしミーナは掴まれた胴体をそのままに、鎌のひとふりでもってその腕を切り落とす。
抜け殻となった腕を蹴り飛ばし、翼を羽ばたかせることで加速した彼女は怪物を紅蓮の流星となって貫通していった。
――幸福になるために、なにもいらなかった。
――ただダガヌが、全ての欲を即座に満たし、人間は何も求めることなく、そして死んでいった。
――それこそが、最大にして最短の幸福であると。
ぐらりと傾いた怪物の顔面を、ジョージの拳と武器商人のまほうが破壊する。
崩壊し散っていく怪物の残骸を背に、ジョージは眼鏡の位置を冷静に直した。
くるりと振り返る武器商人。
「よくもわるくも、『カミサマ』だったんだねえ」
「いずれにせよ、敵だ」
海水が払われ、ドーム状の空間が生まれる。
アンジュはそこへ着地し、ダガヌチの巫女へと走り出した。
「あなたが『当代』だった時に会いたかったよ」
ごめんね。そう言って拳を繰り出すアンジュ。
空気の膜を突き破り、セレナとルシアが飛び出してくる。
「ルシアが許せないのは、『ダガヌチの巫姫』だけでして!
最初の乙姫も、キャピテーヌちゃんの『パパ』も!
「まだそこにいて願っているはず」ならば!
絶対に離さないのです。助けてみせるのでして!!」
巨大な魔方陣越しに放たれる光線。
巫女はアンジュの拳に吹き飛ばされながらも手を突きだし、名状しがたい槍状の怪物を無数に作り出して発射した。
セレナの結界に突き刺さるたび、黒く欠け新月の様相を成した。
途端、ドウッという空気を割る音と共に黒い光線が放たれた。
「これが私の力? 悪くないわね」
二つの光線を防御しようと無数の怪物を作り出す巫女。
その後ろに回り込み、愛奈は拳銃をしっかりと両手で構えた。
――民は死を恐れた。幸福よりも、死を恐れたのだ。
――ゆえに欲望は禁忌となり、誰もが冷たく暗い場所で震えるだけの存在となった。
――幸福は去り、ダガヌは手をなくした。……かに、見えた。
――民の中に、ダガヌを信じるものが現れたのだ。
銃弾が巫女の背に打ち込まれる。
振り返り、僅かに見えた口元がギッと歯を食いしばった。
怪物が更に現れ襲いかかるが、夜空の作り出した『星天の願歌(せいてんのがんか)』の魔法がそれを払いのける。
魔術紋は星空のように輝き、大切な身体とともに歌う。ヨゾラの望む幸せのために。それは決して、神から与えられる無条件の幸福などではないと否定しながら。
「もう一度言うよ、消えろダガヌチ!」
『星の破撃』――別名『夜の星の破撃(ナハトスターブラスター)』が放たれた。
至近距離まで詰め寄ったヨゾラが星の魔力を拳にこめ、ダガヌチの巫女を殴りつけたのだ。
そこからは格闘戦である。
両腕や両足に怪物を纏わせた巫女はヨゾラたちを払いのけ、即座に両サイドから飛びかかったヴァレーリヤとマリアの攻撃をカニめいた爪で受け止める。
――初代の巫女となった女は、ダガヌのもたらす幸福こそに縋るべきとした。
――その教えは少しずつだが広がり、民は少しずつ、幸福を受け入れていった。
――この、生きるにはあまりに厳しすぎる世界で、ダガヌこそが唯一もたらした『幸福な人生』の答えだとしたのだ。
――だがそれは、ひとりの男の登場によって終わりを告げた。
「ヴァリューシャ! そっちは任せたよ!」
「ええ、マリィ! 貴女も気を付けて!」
マリアとヴァレーリヤは同時に巫女を蹴りつけ離れると巫女の周りにマリアが紅蓮のレールを複数ライン形成。その上をすべるように走り始める。
一方でヴァレーリヤはメイスから太陽のような炎を放ち、側面方向に回り込みながら再びの打撃を繰り出した。
大ぶりのそれをかわすこと、あるいは防ぐことは可能かもしれない。だが、周囲を高速で駆け回るマリアをとらえ警戒しながらであれば別だ。
巫女がヴァレーリヤの打撃を怪物の召喚によって防ごうとしした瞬間、マリアがレールから直角に飛び紅雷を纏った蹴りによって粉砕。無防備となった巫女の身体を、横薙ぎに放ったヴァレーリヤのメイスが直撃した。
――男は竜宮を変えてしまった。
――人々は欠損を楽しみ、欲望を楽しみ、それを夢と呼んで生きた。
――ダガヌは、もはや彼らにとって不要となってしまった。
――そして、巫女はその立場を追われることになる。
――ダガヌを信奉する巫女と、ダガヌを封じるべきとする巫女。その二つが派閥となって割れ、熾烈な戦いの末に……初代の巫女は敗北したのだった。
「あなたの心が叫んでいる。わかります、あなたが……本当は幸せを願っていたことを」
マリエッタは溶け出した血液を大きな鎌に変え、ゆっくりと歩き始める。
同じく、巫女もまた怪物を鎌の形にして召喚すると、ゆっくりと歩き始める。
二人は正面からにらみ合い、そして正面からぶつかり合った。
――ダガヌは封じられ、巫女もまた、溶けいるように封じ込まれた。
――唯一信じた幸福は、失われたのだ。
「私は……あの存在を。フリーパレットを羨んだのかもしれません」
ダガヌを封じるために用いられたのは、人々の『夢』だった。
それは願いであり、欲望であり、心のチップ(欠損)だ。
欠損はだれかの欲望を引き寄せ、生きる糧に変えていく。
ダガヌを失ってはじめて、初代の巫女は知ったのだ。
欠損こそが、人を動かすのだと。
ダガヌの行いそのものが、大きな矛盾であったのだと。
それらを喰らい、滅ぼし、とりこむことで……ダガヌを今度こそ、完全不滅のものにできるのだと。
大きく、ファニーが手を翳した。
その手を振り下ろすその動作ひとつで、巫女は地面に叩きつけられる。
「封印のために奉られたていのいい人身御供。嗚呼、滑稽だな。
夢や願いをそのまま体現したフリーパレットとは正反対だ。
……いや、フリーパレットもあれはあれで、滑稽な存在ではあるんだがな。
けれどだからこそ、オレはあれを勝手に食われちゃぁたまんねぇんだよ。
語り継いでやることができない物語は、アンタなんかよりよっぽど悲しくて寂しいんだからな」
続いて大きく横向きに腕を振れば、巫女は吹き飛ばされ崩れた柱に激突した。
「ゆる、さない」
転がるように崩れながら、巫女は地面に手を突いた。
怪物たちが召喚され、彼女を包み込みひとつの強大な怪物へと変えていく。
「私達からダガヌ様を奪った竜宮を許さない!
私達の死と幸福を否定したフリーパレット(願いの形)を許さない!
ダガヌ様は――もう二度と奪わせない! あの日の竜宮を、もう一度!」
地面を殴りつけたその瞬間、周囲が砂煙に覆われた。
仲間を守ろうと飛び出す者たち。自らの身を守ろうと飛び退く者たち。
そんな中で、ファニーは翳した手をおろし……。
「逃げられた、か」
ダガヌチの巫女が消えていたことに気がついた。
そこへ、キャピテーヌが歩いて行く。
「おい……」
「大丈夫。もう、いいのだ」
キャピテーヌはそうとだけ呟いて、ひび割れた石の台座を見下ろした。
「私は、パパの幻を追ってここまで来たのだ。
パパが何を願っているのか、パパが私をどうしたいのか知りたくて、ここまで」
「…………」
ファニーも、そしてマリエッタやルシア、ミーナたちも黙って彼女の後ろ姿を見ている。
「けれどそんなの……最初から必要なかったのだ。
パパを失った。その欠損を、同じもので埋めようとしただけだったのだ。
もうこの世界のどこにもないのに。なくなってしまったのに、探そうとしただけなのだ」
「キャピテーヌ、アンタ……」
声をかけようとしてぱくんと口を閉ざすファニー。
キャピテーヌは振り返り、目尻を拭って笑った。
「もう、埋まっていたのだ。私には皆がいる。シレンツィオがある。トラブルだらけの町がある。私は、幸せになってみせるのだ。
それがパパの――いいや、私の願いなのだ!」
●竜宮防衛、そしてフェデリアへ
エスペランサ遺跡にてダガヌチの巫女を退けたイレギュラーズたちは遺跡の調査を終え、そして竜宮へと向かった。
竜宮ではダガヌチや深怪魔たちによる襲撃を退け、多少町に被害が出はしたものの死者や重傷者は出ていないとのことだ。
しかし、それで終わりだとは思えない。
いや、終わりではない確証をイレギュラーズたちは得たのだ。
間を割愛し、結論だけを述べるなら――。
「ダガヌ、そして巫女たちの次なる狙いは『フェデリア島』なのだ。あの場所こそが巨大な『玉匣』――ダガヌを再び復活させるための土台なのだ!」
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
――竜宮の防衛に成功しました!
――エスペランサ遺跡の攻略に成功しました!
――シレンツィオリゾート・フェデリア島こそが次の舞台となるでしょう
――最後の戦いに備えてください
GMコメント
シレンツィオ長編シリーズ第三弾。今度はシンプルに防衛戦と襲撃戦の2パート制となっております。
どちらにも参加できそうな方はフリー枠としておきますので、自由に出撃パートを選択してください。
※このシナリオは長編シナリオです。シナリオは複数のパートに分かれており、特定の書式によって配置するパートを選択できます。
半数以上のパートが成功した場合このシナリオは成功扱いとなります。
●概要
インス島襲撃及び天浮の里戦の一方で、竜宮城防衛作戦とエスペランサ遺跡破壊作戦が同時に進行していました。
竜宮城側には押し寄せる無数の深怪魔、そしてダガヌチたちの群れを迎撃する役目が。
エスペランサ遺跡側にはそれを護るダガヌチたちを突破して『ダガヌチの巫姫』を倒す役目が与えられています。
・前回までの参考シナリオ
<潮騒のヴェンタータ>キャピテーヌより敬意を込めて
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8122
<竜想エリタージュ>ねがいごとはなんですか?
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/8344
■■■プレイング書式■■■
迷子防止のため、プレイングには以下の書式を守るようにしてください。
・一行目:パートタグ
・二行目:グループタグ(または空白行)
大きなグループの中で更に小グループを作りたいなら二つタグを作ってください。
・三行目:実際のプレイング内容
書式が守られていない場合はお友達とはぐれたり、やろうとしたことをやり損ねたりすることがあります。くれぐれもご注意ください。
■■■パートタグ■■■
今回のシナリオは前述したとおり『竜宮城防衛戦』『エスペランサ襲撃戦』の二つで構成されています。
以下の内から自分の参加したいパートを一つだけ選び、プレイング冒頭のパートタグに記載して下さい。
以下のメンバーは前回からの継続招待を受けています。どのパートにも参加することができます。
今回の行動によっては、次回の展開に大きな変化がもたらされるかもしれません。
・継続招待:イルミナ、マリエッタ、モカ、ヴァレーリヤ、マリア
【竜宮城】
ダガヌによってけしかけられた深怪魔とダガヌチたちが竜宮城へと迫っています。
海洋海軍合同部隊、そして竜宮城警備隊&有志隊と協力してこの大軍勢を迎え撃ちましょう。
海軍はいくつもの部隊の合同で出来ていますが、主にエルネスト総督、ゼニガタ総督、エイヴァン大佐の部下が多くを占めているようです。
・特殊判定:寄生された民
竜宮城内の民やめんてん、ぺんてんたちがダガヌチに寄生されるケースが発生するでしょう。
こうした人達への対策としては『てかげんした攻撃』や『【不殺】攻撃』が有効とされています。
勿論、こういった対策を他の仲間に任せて深怪魔たちを倒すことを優先しても構いません。
・優先参加
イリス、ワモン、エイヴァン
キドー、バルガル、風牙
フロラ、リディア、フーガ
【エスペランサ遺跡】
『ダガヌチの巫姫』を倒すべく、エスペランサ遺跡へと挑みます。
(後述する対話はせずに)遺跡の探索や調査、特殊な破壊工作などを行うことも可能です。
この場を利用して何かできないかという案も出ているので、一度皆さんで話し合ってみてもいいかもしれません。
・特殊判定:巫姫との対話
このパートでは主には『ダガヌチとの戦闘』が行われますが、プレイングで希望した場合に限り『巫姫との直接対話』が行えます。
その場合パートタグの後ろに【巫姫との対話】というタグを追加してください
(例:【エスペランサ遺跡】【巫姫との対話】)
巫姫と対話する場合、場合によっては不思議な感覚や幻にとらわれるかもしれません。
・優先参加
ファニー、アンジュ、ルシア、ミーナ
ジョージ、愛奈、セレナ
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