シナリオ詳細
<夏祭り2022>纏う色は
オープニング
●
かっと太陽が照り付ける。濃い影が街中に伸びていて、日傘をさした蜻蛉(p3p002599)は自身からも伸びるそれが黒猫のシルエットのようだと口元を綻ばせる。
綻ばせて――それから、熱のこもった吐息を零した。
「溶けてしまいそうやわ……」
カンカン照りと言って良いだろう。暑いものは暑い。いかに涼し気な色合いを纏ったって、せめてもの日焼け防止に薄手の長袖にしたって、暑いったら暑いのだ。
こんな時に海へ飛び込んだならきっと気持ちが良いのだろうが、生憎今は水着の持ち合わせがない。それに折角開拓二周年を迎えるシレンツィオリゾートまで来たのだから、観光だってしてみたい。ここ三番街(セレニティームーン)はリゾート化にあたって注力された観光地区でもあるのだと言う。
(案内冊子には……ええと、)
はらりとパンフレットを開く蜻蛉。有名なホテルの数々や、プライベートビーチ、繁華街や映画館などもあるようだ。
「……?」
いつしか日陰に移動し、冊子を読みふけっていた蜻蛉は、ふと聞いたことのある声に顔を上げる。ばちりと目が合った浴衣の少女は、その瞳をまん丸に見開いた。
「やっぱり――蜻蛉オネーサマじゃないですかあぁぁぁああああああ!!!!!!」
「え……? どうして、あ、待っ」
待って、という前に少女が蜻蛉へ向かって全力で飛んでくる。浴衣で動きづらいだろうに、どうやったらその速度が出るのか。しかし蜻蛉の胸へ飛び込んできたその勢いは柔らかく、優しい。
「オネーサマ! 会いたかったですううぅぅぅ」
「柚姫ちゃん、よね? どうしてここに?」
すりすり顔を寄せて前面に好意を押し出してくる少女、双葉 柚姫に蜻蛉はそっと問いかけた。彼女の実家は海洋の着物屋を営んでいて、彼女も家業を覚える為に店の手伝いをしていたはずだが。
「聞いて下さい! 着物屋『双葉』、シレンツィオリゾートに支店を出すことになったんです!」
話が長くなりそうな気配を感じたため、蜻蛉は柚姫を近くのカフェへ誘う。甘ったるいパフェをぱくりと食べた少女はきらきらと目を輝かせた。
「リゾートと言えば観光客の方が沢山いらっしゃるでしょう? 着物は他国の方には珍しいだろうから、着物がレンタルできるようなお店を作ったんです」
「素敵やわ。柚姫ちゃんがお店を任されているの?」
着物を着なくても死ぬわけではないし、文化の違いなので着ない人は一生着ないだろう。そういった体験ができるというのはとても魅力的だ。
けれど、蜻蛉の問いに柚姫は小さく苦笑を浮かべた。
「いえ、まだそんなことは。日々頑張っている最中です。でもシレンツィオリゾート開拓二周年ということで、今回は期間限定で切り盛りしてみることになったんですよ!」
曰く、そういった経験もまた必要だという事で本店から1人送り出されて来たらしい。とはいえ支店の店員も気心の知れた者たちだし、店主とその配偶者が送り出したということは、彼らも柚姫の努力と実力をある程度認めているのだ。
「じゃあ、ここで成功て次に繋げていかんとね?」
「はいっ!」
元気よく返事をした柚姫は、ふと蜻蛉を凝視した。目を瞬かせた蜻蛉はかくりと首を傾げる。
どうしたのだろう。何か口元についていたとか?
「蜻蛉オネーサマ。よろしければ――うちで浴衣のレンタル、如何ですか?」
夏だから浴衣もレンタル対象になっていて、いつも美しく着こなしてくれるお姉様が目の前にいて、しかも外でちょっと暑そうにしていたし。イレギュラーズであるお姉様始めとしてお友達なども是非。是非。是非!!
だんだん圧が強くなり、テーブルの上に身を乗り出していく柚姫。落ち着いてと蜻蛉に言われると我に返って席に座る。
「でも、観光して回るなら涼しい恰好の方が良さそうやわ」
「じゃあ……!」
「ふふ。お邪魔してええかしら」
ふわりと微笑んだ蜻蛉に、柚姫は満面の笑顔で頷いた。
- <夏祭り2022>纏う色は完了
- GM名愁
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2022年08月07日 22時05分
- 参加人数31/31人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 31 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(31人)
リプレイ
●
「あるかない、種族の……浴衣は、ありますの?」
ドキドキしながら聞いたノリアは、勿論ですと頷かれてホッと表情を緩める。
裾が長くて綺麗な浴衣は、普通の人では引きずってしまう。自分のような種族だからこそ着られるのだけれど、せっかくの浴衣を汚してしまうのは勿体無い気持ちもあり。
(せっかくなら、彩りゆたかな、浴衣を……似合うか、心配になってきましたの)
やっぱり緊張してきた。けれどこの地に構えた店のスタッフなだけあって、ノリアに似合いそうで華やかな浴衣を数着見繕られ、逆に悩むことになるのは少し後の話。
(あれ、リリーの大きさに合うの、あるのかな……?)
意気揚々と双葉まできたリリーは、店の前でぴたりと止まる。レンタルになかったらどうしよう。けれど精霊種には妖精サイズもあるのだからと思い直し、店へ入っていく。
思った通り、というか思った以上に浴衣はあって、鮮やかなそれらに目が回ってしまいそう。どれにしようか、真剣に考えるリリーの脳内に浮かぶのは海洋の鮮やかな青と――大好きな人の緋色だ。
わあ、すごい、とキルシェの瞳がキラキラ光る。素敵な浴衣の中からとっておきを選んで、帯と帯飾りもバッチリ。帯飾りはリチェとお揃いね、なんて微笑んだキルシェは次の瞬間ハッとした。
(どうやって着るのかしら?)
大好きな蜻蛉お姉さんは綺麗に着こなしているけれど、キルシェは初めてだ。視線を巡らせた彼女は近くにいた店員の少女に着付けをお願いする。
「まあ、可愛らしい柄! 動物がお好きなんですか?」
「リチェっていう可愛いジャイアントモルモットがいるの!」
深緑の花畑を思わせるような浴衣に帯を巻いて、そこへ柚姫が青い布を蝶のように結んでくれる。最後に帯飾りをつけたなら、
「「かわいい!」」
柚姫と声が被って、2人は顔を見合わせてからふふっと笑みをこぼした。
「あら、キルシェちゃんやないの」
「蜻蛉お姉さん!」
振り返ったキルシェに蜻蛉が微笑む。それから柚姫が「蜻蛉おねーさまー!!」と見たことのある展開が起きて――もちろん柚姫は手加減してくれたのだけど、背中を支えてくれた人もいた。
「どなたですか!?」
「んふふ。今日はこの人に似合う浴衣を見繕って貰いたいんよ」
お願いできる? と聞けば力強く頷かれる。蜻蛉はキルシェにまたねと手を振って、柚姫と共に浴衣を見繕い始めた。
「こういうのは如何です?」
「青はいつも着とる印象が強いから、違うものを見てみたいんよね」
「なるほど。ではこちらの――」
借りてきた猫のような縁を囲んで、肩に布地を当ててみる。その勢いに圧倒されていた縁も、慣れてくれば只々苦笑いだ。
「大人しゅうしとってね」
「自分で着られるんだが……聞いちゃくれねぇな、相変わらず」
次々と着せ替えられ、たどり着いたのは銀鼠の色。渋くていつもと違う雰囲気で、蜻蛉は満足だ。
「柚姫ちゃんは、どう思う?」
「――……いいと、思いますとも!」
「嬢ちゃん方の見立てなら間違いねぇな」
縁もほめれば尚更悔しそうな顔をするのはなんとしたことか。素直にほめているのに。
「心配しねぇでも、お前さんの“お姉様”をとったりしねぇよ。……“蜻蛉”は連れて行くがね」
「〜〜っ」
「はいはい、柚姫ちゃん。ダメよ?」
お客さんなんだから、と嗜めてから蜻蛉が嬉しそうに笑うから。そんな笑みをさせられる彼が、殊更羨ましくも悔しいのである。
しかし店の者として客を満足させられたことは嬉しいので――結果として、柚姫は複雑な心持ちなのだった。
昼早々に浴衣を選べば夕方からの祭りに間に合う、と店に入ったアレクシアは鮮やかな浴衣に目を輝かせる。
「シラス君に似合うようにコーディネートしてあげる!」
「それじゃあ俺はアレクシアの浴衣を考えるか」
なんて会話で始まった選び合い。先に名前を呼んだのはアレクシアの方だった。
「浴衣はこれ! 暗めの色で鳥が似合うかなって。帯はこれで――」
元々イメージが固まっていたのだろう。アレクシアから次々渡されるものは、どれもシラスにしっくりくる。最後にこれ、と渡された和傘にシラスは目を瞬かせた。
「日焼けにもなって丁度いいし……似合うと思ったんだ! これまでの浴衣も見てきたし、好みにもだいぶ近いと思わない?」
「流石アレクシア。バッチリだよ」
なんて言う彼女が眩しくて。目を細めたシラスは、次は俺だなとアレクシアへ手招きをした。
「これとかどう? 涼しげで可愛いと思うんだ」
アレクシアといえば花だ。小物にも花柄があったら可愛いなと思うし、深緑という出身柄か、淡い緑などが彼女に似合うとも思う。
「試着してみたよ! どうかな?」
「うん、すごくいい! あと、アレクシアが良ければ髪型も整えてもらわない?」
折角の日、いつもと違ったお洒落をするのも悪くないだろう。そう言えばアレクシアは少しばかり伸びてきた髪先に触れて、それから満面の笑みで頷いた。
相手に選んでもらった浴衣で、特別にお洒落をして。さあ、お祭りへ繰り出そう!
●
「白黒キネマもあるのかァ、懐かしい感じがしていいねぇ」
「色々楽しめそうだね……」
ヨタカと武器商人は連れ立って映画館へ。この前はお揃いで着てみたから、ヨタカは自身の髪色によく似た浴衣を、武器商人は藤色の浴衣をとそれぞれで決めてみる。違う色合いの浴衣もやはり愛らしく、格好良い。
映画は最新から懐かしいものまで、ジャンルも多種多様だ。それらの映画からこれぞと選んでチケットを買い、席へ向かう2人。まもなくしめ映画は始まった。
段々と映画の世界に入り込んでいく感覚。それに浸っていると、不意に肘掛けへ置いた手が隣の武器商人に包まれる。ちらりと互いを見て、より穏やかな気持ちで再び映画の中へ。
同じものを同じ時に、愛しい人と共に分かち合っている幸せ。次は息子も連れてこよう――2人は同じ思いを片隅に、映画の世界観に浸った。
「いやぁ~~やっぱり寿ちゃんは浴衣似合うなぁ~~~~! ちょっとそこでくるっとターンとかしてみて!」
「たーん……こ、こうですか?」
寿が慣れないながらもくるりと回れば、千尋から大絶賛の嵐。ちょっと気恥ずかしいけど、ひらひらした浴衣は可愛らしい。
さて千尋の手に握られしはラブロマンス映画のチケット。これで映画館デートと洒落込むのだ。どんなものか楽しみです、とワクワクする寿を連れて映画館へ――。
(――いやあんなに過激とは思わないじゃん!?!?)
純粋な女の子を連れて行くべきではなかった。しかし幸いにして、寿は映画の内容を思い出してドキドキしているだけで好感度は下がっていなさそうである。
「な、なかなか過激な映画だったな。こ、寿ちゃんはあんな恋愛したいと思った事とかある?」
「私の恋愛、ですか?あんな風に誰かを想えたら、とても幸せだと思います」
でもできたらひと夏だけじゃなくて、なんて思ってしまって。寿は熟れた果実のように真っ赤な顔を覆ってしまったのだった。
場所は変わり――エステットはきょろりと辺りを見渡す。賑やかで、活気があって、治安も悪くなさそうだ。
(これなら怪しい人も気にしなくて良さそうデスネ!)
さあ、素敵な買い物へ。いざ行かん、ニュー・キャピテーヌストリート!
●
「花火、自分でやったことなかったな」
「そうなんだ? 私もだよ!」
不慣れ2人で始まる手持ち花火。シキはここにつけるんだよね? とサンディへ火をつける位置を確認する。
「うおっち!びっくりしたぁ」
「わ、光がしゃーって出たよ!」
なんて目を丸くしてみたり、慣れてきたら複数本同時に持ってみたり。あっという間に袋から手持ち花火が無くなっていく。
「なにこれ。線香花火?」
「静かにしてないとすぐ終わるらしいな」
じゃあ息を潜めなきゃ、なんて2人で息を殺す。黙っている時間がなんだか楽しくなってしまいそうだ。
(あ、サンディ君の顔が照らされてる)
いつもと違って見える彼の顔にふふ、と笑ったら――ああ、落ちてしまった。
「あ」
それを見て声を出したサンディの花火も、ぽとりと。
「もう一回やる?」
「望むところだ!」
次はもっと長く保たせるぞ、と2人は腕まくり。嗚呼、来年も同じように遊べるだろうか?
そう問えば、サンディは当然と笑って小指を差し出した。
「たこ焼き、あつあつ、好き、する! はふはふ!」
カルウェットは屋台で買ったたこ焼きを歩きながらもぐもぐ。タコの食感ににんまりしてしまう。
「綿飴もふわふわ……甘い。不思議だ」
その隣でイラリカも菫色のような綿飴をぱくり。屋台で出るものはどれも不思議で美味しくて、楽しかった。
「あ! 花火!」
不意に顔を上げたカルウェットが目を輝かせれば、瞳に華が映る。対照的にイラリカは首を傾げた。
「イラリカ、花火、知る、ない?」
「初めてだ」
それなら自分が教えてあげなくては。カルウェットは嬉々として花火職人の凄さを語り、花火の美しさを語る。
「綺麗ーとか、花火むかって、声出す、よいって!」
「なるほど……?」
首を傾げながらもカルウェットの言うことなら間違いない、と頷くイラリカ。丁度遠方でどーん、と花火の音が響く。
「あれ! イラリカ、叫ぶ、して!」
「き、綺麗だー」
「もっと、届く、させて!」
それじゃあ届かないと、カルウェットがお手本を見せるように大きく叫ぶ。その声量にイラリカは目を丸くして、次こそはと星のように輝く光の花へ向かって息を吸った。
「エト、つかまって。ここの砂は荒いみたいだ」
「うん、ありがとう」
コルクは言葉に甘えてウィリアムの腕をつかむ。草履は慣れないけれど、それ以上に彼との近さでドキドキしてしまいそうだ。
(肩幅とか、筋肉の付き方とか……やっぱり、男の子なんだな)
同じ衣装を同じようには着られない。男女の差を感じずにはいられない。
「エトの浴衣、本当に綺麗だな。星の河を纏ったみたいだ」
「えっ? そ、そんな……ウィルくんも、とっても似合ってて格好良いよ」
ほほを染めながら返すコルクにくすりと笑って、ウィリアムはおもむろに手持ち花火の入った袋を取り出した。
「エトはやったことある? 折角だからやってみたいと思って」
「初めてだよ。えっと、どうやればいいの?」
そういうものがこの世界にはあるのか。興味深げにコルクが聞けば、ウィリアムは袋の背面に記載された遊び方を見ながら答える。……もしかして。
「ウィルくんも初めて?」
「ん? ああ、そうだよ。お互い初めての経験だな」
にっと笑った彼から花火を渡されて、火に恐る恐る近づける。シュワ、と鳴ったそれにコルクは目を輝かせた。
「中々派手に火が出るんだな」
「魔法の杖みたい。今ならウィルくんみたいに、魔法だって使えそうじゃない?」
ほら、と誰もいない方向へ花火の向く先を滑らせるコルク。その軌跡はまるで浴衣に刺繍された星の河のようだ。
「魔法か。エトならきっと素敵な魔法が使えるな」
「ふふ、そうだといいな。ねえ、ウィルくんも一緒に楽しもう!」
まだ沢山余っている花火を示されて、ウィリアムもまたそれを手に取る。今だけは2人の魔法使いが遊ぶ夜だ。
「フランさん、こっちこっち!」
「どこまで行くのー!?」
「端っこから全制覇だよっ!」
パタパタと、双子のような浴衣が屋台の間を駆けていく。フランと花丸はクレッシタ通りの端までかけて行った。
「そうだ、はいこれ!」
「お面? リヴァイアサン、かな?」
「みたいだよ、花丸ちゃんは水竜様!」
お祭りならこれがなくちゃ。対の面を被ったならいざ、屋台巡りへ!
「焼きそば美味しい〜」
「見て見て花丸さん! チョコバナナとフランクフルト!」
焼きそばを食べる花丸へ、串を指の間に挟んだフランがシャキーン! と格好つけてみたり。
「うっ……たこ焼きお腹に溜まる……」
「でも美味しいし……いやもう満腹かも」
調子に乗りに乗って、満腹になりかけの状態で味違いのたこ焼きを交換してみたり。
全ての原因はと言えば、浴衣を締め付ける帯のせいに他ならない。これさえなければもうちょっと入るのに!
「フランさん、ちょっと休んで続きにしない?」
「さんせーい! あそこにベンチがあるよ!」
そんなわけで、2人は少しばかりの休息を取るのだった。
「人が多いな」
ゲオルグはようやくベンチへ腰掛けると、大丈夫かとにゃんたまやジークに声をかける。道ゆく人々に興味津々な彼らも微笑ましいが、連れ去られないか心配にもなる。
「ほら、皆。こっちでご飯を食べよう」
使い捨ての皿に買ってきたものを載せれば、わらわらとふわもこたちがやってくる。周囲の光景やその様子を微笑ましく眺め、今日はしっかり構ってあげようと思いながら、ゲオルグはぐいっとエールを煽った。
「いらっしゃい!」
一際元気に客へ声をかける屋台がある。五平餅ののぼりを上げたゴリョウは慣れた手つきでもち米を串焼きにし、甘辛いタレへつけていく。
「へえ、もち米なのか」
「おう、豊穣産だぜ!」
客が興味深いというように買って食べ歩く。宣伝にもなるし、労働者たちが気軽に食べられるものとして普及もしやすい。
(二番街が誇るB級グルメの一つとして流行らせてやるぜぇ!)
と目標を掲げつつ、次々やってくる客へ丁寧な仕事ぶりで五平餅を提供する。
「わあ、ここがクレッシタ通りですね!」
マリエッタがたたっとかけていく。後ろから続くユーフォニーとムエンもわあ、とあたりを見渡し――エールののぼりに目が行った。
「ユーフォニーさん、ムエンさん。お約束通り、お酒はダメですからね!」
「む」
「こ、この前はすこーし飲み過ぎちゃっただけなんですってば!」
マリエッタの釘差しにムエンが拗ねた顔をして見せ、ユーフォニーが慌てる。仕方がない、2人とも前科があるので。酔っ払いの相手は本当に大変なのだ。
「あと食べ過ぎも! せっかくだから色々たくさん食べてみましょう?」
それはもちろん。頷いて、3人は屋台並ぶ通りへ繰り出す。気になったものを購入して集合場所で女子会だ。
最初にやってきたのはユーフォニー。彼女はキキョウ柄の浴衣を見ておーいと手を振る。ムエンだ。程なくしてマリエッタもやってくる。
「女子会の始まりですね!」
「ええ! お2人はどんなものを買ってきたんですか?」
マリエッタの問いかけにまず差し出されたのはふわふわで綺麗な色の入り混じった綿菓子。ムエンからユーフォニーへというそれを彼女は嬉しそうに受け取る。
「それから、2人も食べるなら……」
「わぁい、かき氷♪」
続いて出されたものは黒蜜のかかった特大かき氷にユーフォニーが喜色を浮かべる。がしかし、そもそも3人で食べなければ溶ける方が早いのでは?
「ん、黒蜜美味しいですね!」
「あ"っ……いっ、た……」
「あ、食べ過ぎて頭キーンってなりました? なんだっけ、食べるコツがありましたよね?」
などとわいわい賑やかにかき氷を食べる3人。ユーフォニーは途中で綿菓子もぱくり。ふわふわであまあまなそれに彼女の顔がとろけてしまう。
「……ユーフォニーに見える世界って、こんな虹色なのかなって」
「え? ……そうですね。綺麗な色だけ、というわけではないですけれど」
ぽつりと零されたムエンの言葉にユーフォニーは考える。綺麗なばかりの世界ではない。けれどだからこそ、こんな風に綺麗で幸せな色ばかりで満ちるようになったらいいなとも思う。
「あ、そうだ! 私も色々買ってきたんですよ!」
ふと思い出してユーフォニーは袋から色々と取り出す。ベビーカステラにチョコバナナ、いちご飴やぶどう飴。問われてマリエッタも「そうだった!」という顔をする。
「私もわたあめと……あとはりんご飴とか」
次々と出てくる甘味。色々食べるとなると、焼きそばのようなしっかりお腹に溜まるものよりお菓子のようなものに目が行ってしまう。甘い物は別腹とも言うし。
こうして見ると本当に、随分色々な物を買ってしまったが――女子が3人いるのである。甘い物ばかりなら問題ないだろう。
「祭りの喧騒の中で一緒に食べるものは格別だな」
「はい。自分では買わないようなものも食べられますし」
「ムエンさん、マリエッタさん! こっち向いてください」
不意に呼ばれて振り向けば、ユーフォニーが小さな端末を構えている。確かaPhoneというやつだ。
「それじゃあ行きますよー! はいっ、ちーず!」
カシャ。
機械的な音が小さく響き、2人は目を瞬かせる。ユーフォニーは満足そうにその画像を見て、どうですかと言わんばかりに2人へ自撮りを見せたのだった。
「んふふ、お師匠の浴衣、かっこいいね! ボクが選んだからね!」
ほめてほめて、ともっとお師匠を見て、という気持ちが全面に出まくっているリコリスにリーディアは小さく微笑む。しかしその視線は彼女の「あ!」という言葉ですぐ移ろった。
「師匠あの綿あめ食べよう!」
「綿あめですか。いいですよ」
2人分買って、それからリーディアはおやと思う。これは――これは?
「なんだか( ‘ᾥ’ )に見えてきたね~」
こともなげに言って容赦なく食らいつくリコリス。突っ込むべきではないのだろうか。ないのかもしれない。
などという奇妙な出来事を挟みつつも、2人は屋台の間を歩いていく。リコリスが立ち止まったことにすぐさま気づいたリーディアは、視線の先に射的屋があることに気づいた。
「リコリスさん、射的屋に行きたいの?」
「うん! あのねあのね、お師匠の取ったぬいぐるみが欲しい!」
自分が取ったものではないのだと言い募る可愛い赤頭巾のお願いを無下になどできようか。リーディアは射的用の銃を構え、ぬいぐるみをまっすぐに狙う。
「――氷の狼の遠吠えを聞くがいい」
一発。ぐらりと揺れたぬいぐるみが、軽い音を立てて下へと落ちていく。
「お師匠すごい! 流石! お師匠だぁ~いすき!」
「はは、それは嬉しいね。可愛い赤頭巾が喜んでくれるなら何よりだ」
ぬいぐるみを彼女に渡して。リーディアは優しい声音とともに彼女の頭を撫でた。
「ソア、手を」
差し出してくるエストレーリャの浴衣姿は格好良くて。そんな彼が手を差し出してくれるから、ソアは満面の笑みで手を取る。
「エスト、行こう! いろいろ食べて回らないとっ」
「ふふ、そうだね。でもそんな可愛い恰好ではぐれないようにしないと」
食べ物につられてどこまでも行ってしまいそう、なんて言ったら彼女は拗ねてしまうかも。だからそんなことは言わずに、ただぎゅっと手を、指と指を絡める。
チョコバナナに五平餅、りんご飴とのぼりが並ぶ。途中でゴリョウが屋台を出していたから、それも仲良く食べて。
「あっあっ次は綿あめ食べたい! それとね……」
ソアは気になるもの美味しいものを食べてご満悦。ほっぺが落ちてしまいそうと押さえれば、その上から不意にエストレーリャの手が覆ってくる。
「エスト、……っ?!」
思った以上に近い顔に目を瞬かせていれば――ぺろり、と。
「うん、甘いね」
「エ、エスト」
カチコチに固まったソアに彼はいたずらっぽく笑ってみせる。同じくらい鼓動が高鳴っていることは内緒だ。
「あんまり可愛いから、」
言いかけた言葉はりんご飴に遮られる。それから彼女の顔が近づいて、ぺろりと。
「うん、あ、甘い、ねっ」
お返ししてきた方も真っ赤で、された方もまた然り。幸いなのは人気のない場所であることか。
2人は言葉少なになり、けれどぴったりと先ほどよりも寄り添って――互いの体温を感じていた。
待ち合わせというのは、デートの醍醐味だ。そこで相手の姿に少しばかりの惚けてしまっても仕方がないと、アイラは思う。
「ね、ラピス」
「なんだいアイラ。……随分嬉しそうだけれど」
ラピスが目を瞬かせれば、アイラはなお笑みを深めて、彼の耳元に口を寄せる。
「とっても、とーっても! 浴衣、似合ってます!」
誰にも見られたくないと、隠したくなってしまう気持ちもわかる気がする。けれどそれ以上に、素敵な旦那様をたくさん見てもらいたい。
「僕だって自慢したい気持ちはあるんだよ?」
「そうですか?」
「もちろんさ」
だから、指を絡めて一緒に行こう。指輪が屋台の灯りをきらりと弾いた。
「あ、ラピスの焼きそば美味しそう! わけっこしましょう?」
「ふふ、いいよ」
笑った彼がごく自然にあーんと口を開けるから、目をぱちくりとさせたアイラはほんの少し頬を染めて、彼の口元にリンゴ飴を寄せる。
「ん。……甘酸っぱくて美味しい。じゃあほら、アイラも」
「むむ。……では、遠慮なく!」
そうは言っても、ちょっぴり恥ずかしい気持ちはあるから。焼きそばの味がよくわからなかったのは、仕方ないことだと思う。
けれど、嫌ではないのだ。
「……ねえ、ラピス。浴衣でのお出かけも楽しいですね」
「うん。これからもずっと、一緒に沢山の場所を見に行こうね――愛しのアイラ」
アイラはその言葉にますます頬を染めて、けれど嬉しそうに笑った。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お待たせいたしました。
お楽しみ頂けますと幸いです。ご参加有り難うございました!
GMコメント
●できること
浴衣選び!
浴衣でお出掛け!
●ロケーション
シレンツィオリゾートの三番街。
島の南西に位置し、リゾート化にあたって注力された観光地区です。
カジノや繁華街、映画館、コンサートホールなど、富裕層向けの観光資源が集まっています。
また、支店は三番街と二番街の境にほど近く、二番街へ向かう事も可能です。
二番街は一般労働者が暮らす地域で、安くて美味しいグルメやインディーズアートなどが溢れています。
詳細は以下よりご確認ください。
https://rev1.reversion.jp/page/sirenzio
●プレイング書式
以下のように記載いただけますと幸いです。
1行目:パートタグ、昼or夜
2行目:グループタグ・同行者名+ID
3行目:これ以降プレイング
例:
【1】昼
シャルル(p3n000032)
浴衣で繁華街に行ってみよう!
●パート【1】浴衣選び!
着物屋『双葉』シレンツィオ支店で浴衣をレンタルすることが可能です。
沢山の浴衣が展示されていますので、色や柄、帯の色などで悩んでみたり、友人や恋人とお揃いにすることもできます。
必要があれば小物や髪のセットも可能です。
もし浴衣の着付けが出来ない方がいらっしゃった場合、希望を出せば今回切り盛りを任されている双葉 柚姫および、双葉のスタッフが着付けてくれます。
●パート【2】浴衣でお出掛け!(二番街)
【1】でレンタルした浴衣でお出かけです。【1】の描写はしませんが、レンタルしたということになります。
二番街に向かう方はこちらのパートとなります。
三番街よりも気安いイメージで、あまり治安は良くありません。が、イベシナなので今回治安については気にしなくて大丈夫です。
開拓二周年を祝うためのお祭りムード満載で、どこのお店も盛況です。屋台なども出ているため、食べ歩きも出来ます。
・ルヴィド・ビーチ
二番街にある小さな海岸です。貴族のプライベートビーチに比べたら砂は荒いですが、はだしで不明ないこともありません。
海洋の花火職人が作った安心安全な手持ち花火で遊ぶことができます。勿論人に向けたらいけませんよ!
・クレッシタ通り
港にほど近い通りで、沢山の屋台が出ています。お祭りなどで見られるものは大体売っているでしょう。
焼きそばやチョコバナナ、りんご飴にわたがし。お面などもあるようです。串焼きと一緒にエールを販売している屋台もあります。
通りには申し訳程度にベンチが置かれています。
・大衆居酒屋『ヴィローチェ』
一般労働者たちに好かれる大衆居酒屋です。安い酒と安いつまみ、それらをスピーディにテーブルまで運んでくれます。
つまみは海の幸を存分に使用して、マリネやカルパッチョ、魚の香草焼きやフィッシュ&チップスなどが出てきます。
・レストラン『マニーフィコ』
一般労働者たちに使用されるレストランです。窓越しにストリートダンサーたちや、港の方で上がる花火などが見られるでしょう。
メニューを見ると素朴でシンプルな品物が多いでしょう。大体安いです。
●パート【3】浴衣でお出掛け!(三番街)
【1】でレンタルした浴衣でお出かけです。【1】の描写はしませんが、レンタルしたということになります。
三番街に向かう方はこちらのパートとなります。
二番街よりも富裕層向けの観光資源が多く、しっとりとビーチを散策したり、繁華街へ繰り出してみたり、映画館でデートなどもできるでしょう。
開拓二周年を祝うムードもこちらはお上品に。素敵なドリンクが出てきたり、花火が打ちあがっていたりします。
・コンテュール・ビーチ
カヌレ・ジェラート・コンテュールの出資によって建設されたプライベートビーチです。一般人は入れませんが、ローレットは入ることが許可されています。サンダルを脱いでパウダーサンドを歩いてみましょう。
・シロタイガー・ビーチ
豊穣からの出資によって整備された公共ビーチです。良質な海を堪能できるだけでなく、ショッピング・レストランエリアが融合しアーティスティックなカフェやアクセサリーショップが軒を連ねます。象徴的建造物であるカヌレ・ベイ・サンズも見えます。
・ニュー・キャピテーヌストリート
海洋王国の貴族にして元海賊キャピテーヌ・P・ピラータによって整備、開発された繁華街です。多数の世界的有名ブランド店が軒を連ね立ち並ぶ巨大広告が賑やかな景観を演出します。
・キャピテーヌ・ピカデリー
いくつものスクリーンをもつ巨大複合映画館です。シネコン施設や立体スクリーンや4D上映施設は勿論のこと、キネマスコープが並ぶエリアや白黒のキネマ映画を流す劇場までもを備えています。その様子はどこか、ヒイズルの高天京壱号映画館を思わせます。
●注意事項
本シナリオはイベントシナリオです。軽めの描写となりますこと、全員の描写をお約束できない事をご了承ください。
アドリブの可否に関して、プレイングにアドリブ不可と明記がなければアドリブが入るものと思ってください。
同行者、あるいはグループタグは忘れずにお願い致します。
●ご挨拶
愁と申します。
久しく浴衣を着ていませんが、たまに着たい気持ちにはなります。まだ着付けができるかわかりませんが。
それではお友達や恋人とお誘いあわせでも、おひとり様でも、どうぞよろしくお願い致します。
Tweet