シナリオ詳細
<光芒パルティーレ>リトル・ゼシュテルと地図にない街
オープニング
●我々はこの世界に自由を手に入れた
この珊瑚礁の海を見よ。
輝く太陽を、晴れ渡る空を見よ。
振り返ればそびえ立つ、ゼシュテル建築のタワーを見よ。
ここはシレンツィオ・リゾート。地上の楽園である。
「ホント、皇帝陛下のファインプレーには感謝しかないわねえ」
ビーチチェアに寝そべり、細く美しい脚を組み直す。
水着の上にTシャツを着たビッツ・ビネガー(p3n000095)はサングラスをあげると『でしょ?』と隣にちょこんと座ったパルス・パッション(p3n000070)の顔を見る。
おニューの水着に麦わら帽子を被り、果実のジュースを手にしたパルスはぼーっと海を見つめていた。
ハッとした様子で振り返ると、海パン一丁の『野生開放』コンバルグ・コング(p3n000122)がスイカ片手にやってくる。
「オレ、ウミ、キライ。ケド……ココ、スキ」
握力だけでスイカを握りつぶすと、それを豪快に飲み始める。
更には皮まで喰らい尽くすと、フウと息をついて遠い目をした。
「海といえば、海面は凍り、それをたたき割り飛び込み、必死に魚をとり続けた場所。遊ぶ海など遠い国の話だと思っていた。だというのに……」
「鉄帝にビーチができちゃうんだもんねえ」
パルスが話を繋ぐように言うと、ジュースを飲み干して立ち上がる。
「折角きたんだし、遊ばなきゃ勿体ないよね! 何してあそぼっかな!」
「アタシはここでのんびりしてるほうがいいけど」
ビッツは再び脚を組み直すとぱたぱたと手を振った。
「バカンスなんだもの。好きなことして過ごしましょ」
●リトル・ゼシュテル
かつて海洋王国が『絶望の青』に挑んだ際、鉄帝国はその軍事力をもって介入した。当初こそ激しいぶつかり合いがあったものの、イレギュラーズという存在を介しつつ会談を設けた両首脳は共に青の踏破を目指すことを決めた。
その先には冠位魔種やリヴァイアサンといった国滅級の災害が待っていたが、これらをイレギュラーズたちによるいくつもの奇跡をもって乗り越えた先に豊穣郷カムイグラを見つけたのだった。
前人未踏の偉業を成し遂げた功績は大きく、そして得られる利権もまた大きかった。
鉄帝国は重要拠点であったフェデリアの一部を自国の領土として獲得し、そこに五番街鉄帝租界――通称『リトル・ゼシュテル』を作り上げた。
海洋、鉄帝、豊穣による三角貿易は巨万の富を生み、富は人を呼び、人はまた富を呼ぶ。このサイクルがシレンツィオ・リゾートを最高級リゾート地へと換えたのである。
そう、鉄帝国はついに『常夏の楽園』を手に入れたのだ。
「久しぶりに来てみれば……随分といい立地に店をもてたものだな」
Brewery&Bar Stella Biancaのオーナー、モカ・ビアンキーニ(p3p007999)。
彼女はリトル・ゼシュテルのビーチサイドに開店した自らの店を眺めて微笑んだ。
アクエリア島に一号店を開いたB&Bは、シレンツィオリゾートが富むに伴ってその事業範囲を拡大。今やフェデリア五番街(リトル・ゼシュテル)に店を開くまでに至っていた。
昼は喫茶店、夜は酒場。そんな店を豪快な鉄帝民が好んで訪れ、そして愛用するのだ。
実際彼女の言うように、五番街はこうした庶民的な店を開くには最高だ。
振り返ってみれば路面汽車の『フェデリア・ライトレール』が舗装された路面を走り、時折汽笛を鳴らしている。
停車駅で待つ人々はどこか浮かれた様子で、ガイドブックを開いて次に何をしようかと話し合っていた。
と、そんな様子を眺めていると目の前に『ケッセル・リーモ』の蒸気送迎車がとまった。
黒塗りのリムジンスタイルといういかにもな高級車の窓が開き、マリア・レイシス(p3p006685)が顔を出す。
「やあ、奇遇だね。店を見に来たのかい?」
車にはマリアと運転手以外に誰か乗っているようだと気付いたが、モカはそこには触れずに頷いた。
「折角招待されたのだから、ついでにとな。そちらもか?」
「うん! 『VDMランド・フェデリア』! VDMシーがついに完成したからね! 今日は特別に無料解放しているのさ!」
ほら、と指をさすと巨大なジェットコースターや酒瓶型の建物が見える。
規模やテイストこそ異なるが、鉄帝に建設されたというVDMランドがまさにそのままやってきたという具合だ。
「ここにはカジノも建設したんだ。その名も『VDM・レインボー・フェデリア』! きっと楽しめる筈だよ。遊びに来てね!」
それじゃ、といってマリアが手を振ると窓は閉まり、車もまた走り出す。
モカは吹き抜ける温かい風を感じながら車を見送った。
●地図にない街――通称、無番街(アウトキャスト)
ある観光客がいた。
厳密には、観光ビザでやってきたエッセイストであり、漫画原作者である。
彼は今最もホットなリゾート地であるシレンツィオリゾートを取材すべく単身乗り込んだのだが……。
「早速だな」
彼は数人の子供達に囲まれ、強い口調で物凄い罵倒を受けていた。
要約すると金と貴重品を全部よこさないと殺す、である。
どうしたものかと迷っていると、すぐさま頭を掴んで煉瓦の壁へと叩きつけられた。
なるほどこういう場所か。
鼻から流れる血をなめながら、彼は頭の中で出来事をメモしていた。
「いやあ、ははは。大変でしたねえ」
彼はそのまま無残に海にでも投げ捨てられるのかと思いきや、そうはならなかった。
柄の悪い男達(頭にドラゴンのタトゥーのある巨漢が最初に出た)に言葉少なに保護され、知らない建物の中へと連れてこられたのだ。
どうやら建設途中で放棄されたホテルらしく、看板すらついていなかったが内装はきちんと整っている。
その一室はどこかの会社の応接室といった風情で、大理石テーブルを挟んだ向かい合わせのファーにはスーツ姿のサラリーマンが座って居た。
彼が差し出す名刺によれば、バルガル・ミフィスト(p3p007978)というローレットに所属するイレギュラーズであるらしい。
フェデリア島の外に領地を持っているらしく、そこからこの街へとヒトやモノを流しては外貨を得ているのだと話した。
「日頃からよくしつけてはいるんですがね、子供達がたまにヤンチャをするんです。
暫くすれば奪われたカメラは戻ってくるでしょう。金も、できるだけ補填しましょう。待つ間にワインでも?」
そう言って、バルガルはグラスに早速ワインを注いでいく。
「ここへ『観光』に訪れる人はそういませんよ。労働者地区の二番街ならともかく、パンフレットにも書いてないでしょう。迷い込んだとも思えませんが……」
「取材だろ、取材」
がちゃりと扉が開き、声がした。独特の声色だったので興味が湧いて振り返ったが、そこに立っていたのはあろうことかゴブリンであった。
「彼はキドー(p3p000244)。同じローレットの仲間ですよ」
ハハハと笑うバルガル。一週間くらい寝てない目をしているので笑い方が不気味だ。
対するキドーもその外見を全く裏切らないキヒヒという笑いを浮かべ始めた。
放っておくとコンクリートで固めて海に沈められそうな連中だったが、キドーが鞄から取り出したのは拳銃でもナイフでもなく、奪われたカメラだった。
「アンタのカメラだ。ジョージのやつら、財布の金でハンバーガーを食ってやがった」
続いて取り出した財布には、金がしっかり補填されている。
なぜこんなことを? つい疑問に思って尋ねてみると、キドーは再びキヒヒという笑い声をあげた。
「なあに、別に慈善事業ってわけじゃねえんだよ。観光客が無一文で放り出されたりブチ殺されたりすりゃあシレンツィオ・リゾートの評判にケチがつく。そうすりゃオレらにとって美味い仕事も減るってわけだ。
目先の金貨に食いついちまうガキはいるが、基本的にゃあ安全だと思っていいぜ」
煉瓦に顔面をぶつけられた後に言われても説得力はないが、こうして財産を返されワインを振る舞われる程度には安全ということだろう。
「観光にゃお勧めしねえが、歓迎はするぜ。ようこそ――『地上の楽園』へ」
無番街(アウトキャスト)はシレンツィオ・リゾートという光り輝くリゾート島における影の部分である。
高級ホテルやカジノ。イカれた富が回るその裏には大抵犯罪があり、犯罪者たちが群がっていく。一時はそうして混沌とした空気が島を包みかけたが、ある男の登場でそれは変わったのだった。
男の名は『禍黒の将』アズマ。海洋ギャング『ワダツミ』の頭目であり、飄々とした雰囲気と隠し持ったナイフのようなカリスマをもつ。
彼のカリスマはシレンツィオのアウトローたちを引きつけ、建設が中止された地区へと集めここを街としてしまった。そうして、通称無番街ができあがったのだ。
今では複数の勢力が互いを牽制しつつも自派閥の連中を統率し、カジノやバーの用心棒といった仕事をシレンツィオのあちこちからとってくるに至っている。
「だからさぁ、戻ってこようよ。いい仕事あるよぉ十夜ぁ?」
煙草をくわえ、ヘラヘラとした様子で語るのはそのカリスマことアズマ。
全裸一歩手前の女性達がポールを中心に踊るというなんともなバーで、ピンクと紫のライトを僅かに浴びながら十夜 縁 (p3p000099)と向かい合っていた。
「そう思うんなら、こんな店に俺を呼ぶのは間違いだよな?」
ピーナッツをつまみながら苦笑する縁。
その様子にアズマは驚きを顔に浮かべた。何気ないやりとりだが、アズマは確かに彼の逆鱗に触れ挑発したつもりだったのだ。それが、苦笑一つで流されるとは。
声のトーンを落とし、煙草を灰皿に押しつける。
「……変わったな、縁」
「この海じゃあ、色々あったんでね」
未だピーナッツを摘まみ続ける縁に、アズマはぷはあと息を吐いてソファによりかかった。
「リゾート地で用心棒。いい仕事だと思うんだけどなぁ~。何ならさぁ、ストリート一個分任せたっていいんだよ?」
「俺はもう、興味ねえのさ。そういうヤツには」
「そりゃあ結構!」
笑顔さえ浮かべそう語る縁に、アズマは屈託のない笑みを返す。
「カタギに疲れたらいつでも来たらいいよ。ここにはさ、殴る相手にだけは困らねえから!」
- <光芒パルティーレ>リトル・ゼシュテルと地図にない街完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2022年07月08日 22時05分
- 参加人数40/55人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 40 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(40人)
リプレイ
●ゼシュテル・ビーチ
「やったーーーーー! パルスちゃんとビーチだーーーーーやったーーーーー!(ここが鉄帝側のビーチかぁ。もっと鉄帝っぽく訓練用の施設みたいなのが出来てたりするのかなって思ってたけど、普通の綺麗なビーチになってるんだね)」
「焔ちゃん心の声が反転してる」
ここは五番街、ゼシュテル・ビーチ。
水着姿のパルスにテンションがどうにかなっちゃった『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)を前に、パルス・パッションはあははと笑った。
「えっと、その、パ、パルスちゃんは今日は何しに? あっ、ボクは泳ぎの練習をしにきたんだけど!
そうだ! よかったら泳ぎの練習に付き合って……って何言ってるのボク! そんなことになったらボク死んじゃう!」
心の声を全部外に出す焔。
「常夏の島…鉄帝の海は寒中水泳か自殺するにはもってこいだけど、遊ぶ事が出来ない…けど、此処はあの海とは比べられない位……ここは良い所です」
水着姿で青いサンバイザーをつけた『見たからハムにされた』エル・ウッドランド(p3p006713)は、のんびりとビーチチェアに寝そべっていた。
「私もここに家が欲しいなぁ……暖かいし、キレイだし……」
リゾート地に別荘(?)をたててのんびり暮らす。そんな夢を抱いてしまうくらいには、この環境は心地よすぎた。
「確かに……」
『蒼き燕』夜式・十七号(p3p008363)はいつぞや優勝した水着の姿でビーチに立ち、ゆっくりと景色を眺める。そこへ、ビッツ・ビネガーが『あら』と呟いて立ち止まった。
「失礼。ビッツ・ビネガー氏でよいだろうか。良ければ、ランチでもご一緒させて欲しいのだが」
急に誘って大丈夫だろうか? そんな不安がよぎった十七号だったが、ビッツは手に持っていたオレンジジュースの瓶を十七号へと放ってきた。
「いいわよ。何が食べたいかしら?」
一方で、『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は涼しい格好でビーチチェアに座っていた。
「マリィマリィ! 私、あれに乗ってみたいですわー!」
「いいねヴァリューシャ!」
遠くを横切っていくジェットスキーを指さして笑うヴァレーリヤ。
「楽しいアトラクション、温かな日差し、美味しいお酒とご飯、見渡す限りの透明な海、ここが楽園ですのね! VDMランドも好きだけれど、もうちょっとここで遊んでいたいかも……」
「そうだねヴァリューシャ!」
ふと、ヴァレーリヤの表情から空気が抜けたように見えた。
「? 何でもございませんわ。私も泳ぎが得意だったら、ああやって海で遊べたのだけれど……って、ちょっと思っただけ」
そうとだけ言うと、ヴァレーリヤは立ち上がった。
「マリィ、後で特訓に付き合って頂けますこと? この夏が終わるまでに、泳げるようになってご覧に入れますわー!」
●五番街にトラムはゆきて
「ほわー……確かに絶望の青での航海を邪魔する要素はなくなったけど、こんなに発展するものなんだね。
色々ありすぎて目移りしちゃう。遊ぶもよし、泳ぐもよし。食べたり飲んだりするのもよしだね」
『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)はそう言うと、たまたま一緒になった『陽気な骸骨兵』ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)へ振り返った。
「おお! これが路面汽車に蒸気送迎車! なんとおもしろい…この箱が水の力で動いているのですな! 素晴らしい!
先ほどガイドさんに聞いてきたのですが、有名パティシエの開いたカフェがあるそうですぞ! スケさん、こちらに来てから甘いものに目がなくて!」
「有名……パティシエ……」
『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)は想像にうっとりとした。
「しかし、ようやく休暇らしい休暇が来ましたねー。
いやー…向こうにいた頃より働いてるんじゃないスか、私?
スチールグラードでもそれなりに店を巡ってきましたがー。
なんというか、庶民的な店と酒場の比率が大きかったんスよねー」
「では共に行きましょう! それが終わったらビーチで海遊びですぞ!」
「いいねー!」
美咲もいいねーと言おうとして、何か忘れているような気がして立ち止まった。何だろう?
「本場のジャンクフード……すごい……」
『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)はパンズが五つくらい重なったハンバーガーを前にほわあという顔をしていた。
育ち(?)のせいかジャンク慣れしていないことを差し引いても結構なインパクトである。
「このあとどうしようかな。VDMランドにいってカジノの行って……」
一方店の外を『琥珀の約束』鹿ノ子(p3p007279)がぶらりと歩いていた。ガイドさんに教わったデートスポットの下見である。
「海洋、鉄帝、豊穣の三角貿易の結果、ですか……。
海の向こうの豊穣がここまで影響力を持つとは思いもしませんでしたね。
良いことです。遮那さんも視察の名目でこちらに足を運びやすくなればなお良いのですが」
五番街の南にはオシャレなカフェがあるらしいし、その近くには長めの良い公園や動物園もあると聞く。次はどこに行ってみようか……。
「合間の休息、といったところでしょうか。おもったよりも暑いようですが、チル様は大丈夫でしょうか」
「大丈夫な様に見えますか」
気付いたら紫陽花が枯れてしまっていました、と続けた『魔女の騎士』散々・未散(p3p008200)に、『毀金』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)はなんともいえない表情を返した。
ヴィクトールたちが入ったのはマーケットだった。涼しい屋内の大型モールには洒落た店がいくつも入っている。高級リゾートというわりには庶民的なのは、鉄帝らしさなのだろうか。
「チル様、日傘などどうですか」
「悪くないですね」
などと言ってひとつ手に取る。
うんと綺麗で真っ白くて其れでふたりが入れるものが良い……なんて贅沢を言ってみたら、店主が奥からスッとその通りのものを出してきた。
「所で、あなたさまからそう言い出されるのは何だか珍しい気もしますね。
何か心境の変化でも御座いましたか」
「心境の変化ですか……。強いて言うなら。
もしかしたら、私もちゃんと生きてる人間だったのかもしれない、ってくらい……ですかね」
傘を手に取る未散を、ヴィクトールは優しさのある目で見つめた。
カジノ、VDM・レインボー・フェデリアは今日も賑わっている。
「鉄帝側の施設ならまぁ、なにかあっても大丈夫だろう。
勝ち続けているとVIPルーム的なところに招待され、そこで大敗するとなんかやばいやつらに連れていかれれて、VDMランドで強制労働させられるとかでなければ問題ない。
……そんなことはないよな?」
スロットマシンを回しながらそんなことをぼやく『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)。
隣のスロット台には『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)とコンバルク・コングが並んで座っていた。サイズ差があまりにも激しい。
「ジャラジャラいっぱい、お酒とご飯いっぱい」
「イッパイ……」
「ワカッタ?」
「……ワカッタ」
コングは大きく拳を振りかぶり、スロット台めがけ――
「あー! お客様いけません! ボタンをそんなに強く押しては! あー!」
この後、ルーレット台をゴリラ直感で当てまくったことで裏から無番街の用心棒たちが出撃。一緒に賭けていたエイヴァンまで巻き込み三人で大脱走劇を演じることになるとは、まだ知らぬ未来である。
「壊れていない遊園地なんて初めてでワクワクっす♪」
『赤々靴』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)は謎の猫(とら)耳カチューシャを被りVDMランドの中をスキップしていた。
「お仕事以外で遊園地きたの初めてですね!」
同じくスキップする『おかし大明神』ロリ☆ポップ(p3p010188)。
うしろをついて歩く『反撃の紅』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)は高い観覧車をぼーっと見つめていた。
「ははー、ひっさしぶりに来たですよ。境界世界ぶりですよ?」
「オーケー、今日は目一杯楽しもうゼ!」
『悪戯幽霊』クウハ(p3p010695)はまずはコレだとばかりにビッと指をさす。
「オマエさん方、ジェットコースターは好きか? 俺様は大好きだ!
乗る事自体もそうだが、他の奴らのビビった顔見んのがよォ」
「ジェットコースターは好きですよ! 適度なスリルが味わえるから楽しめるですよ!」
「すごい勢いでまるで弾けるポップコーン☆」
「じぇっとこーすたー? よくわからないけど乗る乗るっす!」
このあとレッドが絶叫し他三人が笑いながら両手をあげ、更にはコーヒーカップでのんびりできるかと見せかけて爆速で回ったことでかえって楽しくなっちゃったり、最後は観覧車で今度こそのんびりしたり……と四人で満喫の限りを尽くすのだった。
「わぁぁ…高くて下を一望できる眺め、素敵っす!」
「高い所は嫌いじゃないです! おやつに、みんな大好きチョコパイも持ってきたよ☆」
「あ、昼食は全部クウハさんに任せるですよ」
「昼食代? おう、任せとけ!
カワイコちゃんは喜ばせてやるもんよ。
こういう時ぐらい、いい格好しとかねェとな」
●無番街
「寿ちゃんも18歳になった事だし、ちょっとアブない冒険もしてみちゃう?」
「一体なんでしょうか? でも私、なんだかワクワクしてきました! よろしくお願いします、伊達さん」
「今まで見たこともないような刺激的な体験になると思うぜ!
大丈夫、ボディガードは任せときな!」
『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)と『日向の巫女』日輪 寿(p3p007633)が連れだって薄暗い路地裏へと入っていく。
手前には『観光客立入禁止』と手書きの看板が立てられ、その周りには無数のスプレーペイントが施されている。とても高級観光地の風情ではないし、ましてや男女が連れ立って入っていく場所ではない。
だが。
「わあ……」
積み上がったスクラップ自動車を越えていけば、そこはもはや別世界。
違法な拡張建築と無理矢理に据え付けたテントが集まりいびつな露天を大量に作り出し、いかにもガラの悪そうな、あるいは悪くならざるを得なくなったよううな人々がそれらを稼働させひとつの『街』にしていた。
彼らは寿を見て、次に千尋を見て、暫し値踏みするような視線を向けていたがひときわ威厳のあるサングラス男が出てきて顎をしゃくると全員視線を外した。サングラス男は千尋に対し、自分の胸の缶バッジを指さす。そこには『UQ』のロゴマーク。
それによく見れば、彼のサングラスは瑠璃雄が持っていたものと同モデルだ。
「まさかアズマが――『ワダツミ』の連中がこの島に来ているとはな」
『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)が赤煉瓦の壁により掛かりハンバーガーをかじっている。
いかにもなジャンクフードで、高級なホテルでは100点の味を堪能できるようなものだが……ここのものは急に120点のハンバーガーが出てくる。そうでないものは30点という激しいムラがあるのもスラム街ならではだ。
先ほどのサングラス男が歩いてきて、十夜の横に並ぶ。UQ缶バッチの隣には『ワダツミ』の紋が入ったピンバッチをつけている。他にも複数のロゴマークが胸に集まっており、それがこの街の群雄割拠具合を現している。要するに彼は各組織の仲介人なのだ。
「旦那。ボスには会っていかないんで?」
サングラスと帽子を外し、青い目と金髪をさらす。
十夜は苦笑した。
「もうツラぁ見せたよ。戻ってこいとさ」
「…………」
男が僅かに肩を動かす。十夜がワダツミに戻るという事実が、それだけ大きな事だというのだろうか。
が、十夜は苦笑を更に深くする。
「ガキの頃、とにかく居場所が欲しくて、適当なギャング団に潜り込んだんだっけか。それが『ワダツミ』だった。
あの時は知ってるやつの方が珍しいくらいの小さな組織だったってのにな」
十代なかばの子供が見慣れない女性に声をかけ、案内料をふっかけようとしている。
横を歩く男がその頭をひっぱたいて、適切な価格を言って通り過ぎていった。
ぶつぶつ文句をいいながらも、どうやら交渉は成立したらしい。
歩いていく姿をみながら、十夜の笑みがまた別のものになる。
「暫くこの辺で仕事するんでな。またくるぜ。ボスによろしく」
少年に案内され、『麗しきカワセミの君』チェレンチィ(p3p008318)と『善行の囚人』イロン=マ=イデン(p3p008964)は常人ではまず入っていこうとしないような廃ホテルの中を通っていた。
廃ホテルと言ってはいるが汚らしさは一切ない。むしろ綺麗過ぎるくらいで、生活感こそあるものの壁や天井はぴかぴかしてみえる。
「建設途中のホテルをほったらかしにしたみたいでさ。ここの偉いヤツが乗っ取ってんのさ」
少年の案内にイデンは『はあ』と返した。乗っ取るというと聞こえは悪いが、島の武力でこれを追い出すことは可能な筈なのでおそらくは『取引』があったのだろう。ならば口を出すことではない。
「ボクがいたスラムとはまた違った感じがしますね……しかし、どこか似ている所もあります」
チェレンチィが視線をやると、こちらを観察するような男達の目があった。チェレンチィのスラムと違うのは、その視線がある程度統一されているということ。そして早々にチェレンチィの危険性に気付いて目をそらすところまで一緒だ。つまりは、ここのスラム民は意識が統率されているということ。
「アウトローにもモラルはある、ですか……」
「それは善行の心ですか?」
「善と法が異なるものなれば」
「なるほど、わかります」
通り過ぎる彼女たち――を、物陰から気付かれることなくずっと見つめる男がいた。
『酔狂者』バルガル・ミフィスト(p3p007978)である。
彼は加えていた煙草を携帯灰皿に押し込むと、くるりと身を返してホテルの従業員通路へと入っていく。
大きな厨房を横切るようにして歩いて行くと、そんな彼の横を器用にすり抜けて子供が小走りにゆく。
「おや、どこへ?」
「キドーさんにパシられてんだよ」
返す子供の目に鋭さはない。どうやら搾取されているというわけではなさそうだ。何ならチップも弾んだことだろう。
バルガルはフッと笑い、一緒に行きましょうといって歩いて行った。
到着した部屋では『最期に映した男』キドー(p3p000244)がのんびりとソファに腰掛け、子供が持ってきた紙袋からトーストのサンドイッチを取り出す。びっくりするくらいチーズの挟まった分厚いやつだ。
「コレコレ、マジでうめえんだよなあ」
キドーがそう言って頬張ると、もう一個を向かいの椅子に座っていた『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)へ突き出した。
同じように囓り、なるほどと呟く。
「確かにこれは、裏社会の味だ。安全な店を目指したらできないな」
「皮肉かぁ?」
「褒めているんだよ」
これでも非合法な世界にいたからな、とモカは指をなめながら苦笑する。
どうやらこの島でチェーン展開をする者の責任者として、無番街の顔役たちに『挨拶』をして回っていたらしい。
「気になる話はあるか?」
「まあ、あるっちゃああるが……」
「美味しそうな匂いが……わわっ、リクサメさん待ってください〜!」
勝手に泳いでいくリクサメを追って無番街へと迷い込んだ『ためらいには勇気を』ユーフォニー(p3p010323)。
彼女が目にしたのは思いっきり漫画肉をぐるぐる回して焼く光景だった。
「ワイくん、これは……!」
そこへドラネコやら山口さんやらがやってきてわいわいし始めた頃、できあがりを待っていた『亜竜祓い』アンリ・マレー(p3p010423)の手元に漫画肉が手渡される。
その隣では同じような肉を切り落とし身の丈3mの黒人男性がドルネケバブを作っていた。
「このワイルドな感じ、ちょっと懐かしいふいんきだな」
アンリは肉にかぶりつき、その様子にユーフォニーたちがおおと声をあげる。
「あ、あれぇ…? 私五番街のリトル・ゼシュテルを目指していたはずなのですが…ここはどこでしょうか? ま、まさかこの年で迷子…?」
不安そうにきょろきょろとする『烏天狗』雑賀 千代(p3p010694)がそこへ入ってきて、異様な(?)面々にサッと狙撃銃を構えた。
そりゃあ不安な時に肉切り包丁を手にした3mの黒人男性がいたらこうもなる。
が、千代が引き金に指をかけるよりも早く、大きな手が銃身をぐっとおさえた。
ありていに言って、それはゴリラだった。
「コング! 無番街の方ってイロイロ変わったモノがあるらしいよ! スゴイ変な味のバナナとか無いか探しに……あれ?」
後ろから現れる『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)。どうやらこのゴリラはコンバルグ・コングという鉄帝の有名人らしい。
「ニク、クエ」
コングが手招きすると、黒人男性がケバブを人数分作って差し出してくる。
イグナートは事情を察したようで、同じケバブを掴んで千代の横に並んだ。
「なあ、それどういう絵面なんだ」
『竜剣』シラス(p3p004421)がやってきて微妙な顔をする。
少女を巨大な男やゴリラが挟んでいたら誰だって微妙に思うものである。
「こういう所は鉄帝のスラムっぽいわねえ」
ビッツ・ビネガーがその後ろから顔を出し、シラスの肩にぽんと手を置いた。
シラスもスラム育ちなだけあって背後の気配には敏感なつもりだったが、手を置かれるまでわからなかった。ついついゾッとしてしまう。
『アンタこういうとこ入らねえだろ、偶には良いじゃんか』と言って彼女(?)を誘ってみたが、もしかしたらこういう所も知っているのかもしれない。色々と謎の多い人間だった。
まあいいかと肩を落とし、シラスもケバブを注文する。
「俺は近いうちA級に上がる、そこでも勝ちまくってみせるぜ。そうしたら……次はアンタだ」
シラスの言葉が聞こえなかったわけではないだろう。だが、ビッツはあえて反応を示さなかった。示すべきは今じゃない、ということなのだろうか。
「あら、美味しいじゃない。やるわね」
なんて、味の話題に変えたりして。
「お師匠!お肉食べよ!!
ほら、あっちからすっごくいいお肉の匂いがする…!
ねえねえお師匠〜! いいでしょ〜?」
『オオカミの牙』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)に腕を引っ張られ、『氷狼の誓い』リーディア・ノイ・ヴォルク(p3p008298)は無番街の通りを歩いていた。
リコリスが指さしたのは『にく』と率直に書かれた看板であり、その下では分厚いステーキを片目に眼帯をした男がひたすらに真剣な表情で焼いていた。
鉄板を、そして肉を隅から隅まで見つめ、もし少しでも間違えたら狂って死ぬのではと思うほどの真剣さで。
やがて赤子でもとりあげるのかという慎重な手付きでステーキを皿にうつすと、わくわくの目で見る『春の約束』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)へと突き出す。
「わあ、ありがとう!」
「なんと丁寧な焼き具合……」
皿はもう一枚あり、そこに二枚目のステーキがのせられ『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)の目の前に突き出される。
二人は粗末な椅子とテーブルにつくと、それをひと囓りした。
驚くほどの、肉。噛んだことはわかるが、旨味だけを広がらせてすぐに食いちぎる事が出来た。
見れば肉に細かくサシがはいり、塩が丁寧に塗り込まれているのが分かる。
暫く驚いていると、イーハトーヴが顔をむけてきた。
「ふふふ、実はね、君のこと、境界世界で見かけたことがあるんだ。
お話してみたいなって思ってたから、偶然ここで出会って、お店探しに付き合ってくれるって言ってもらえて、すごく嬉しかったんだよ」
「道理で初対面でない心地がしたものだ。ふふ、私もまた会えて嬉しいよ」
フッと笑い、ルブラットは頷く。
隣のテーブルについたリコリスは皿を漫画みたいに積み上げながらステーキを『ウマイウマイ』ていいながら平らげ続けている。
「( ‘ᾥ’ )もぐぐもむもむ……ごきゅっ。美味しい!お師匠これすっごく美味しいよ!こんなに食べちゃっていいの?お師匠大好き!」
「しかしリコリスさんの食いっぷりは見ていて気持ちがいいね」
リーディアはそろそろ懐が不安になってきたらしく、財布のある場所に手を当ててみる。足りてはいるだろうが、もしスリにでもやられていたら最悪だ。
そこへ、『乗り越えた先』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)と『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)が入ってくる。
まあ、入るといってもほぼ露店のようなもの。鉄板と男と椅子とテーブルがあるだけの。あとは『にく』の看板があるだけの店だ。
もはや異世界レベルの情緒に目をぱちくりさせたマリエッタの横で、バクルドが照れくさそうに笑う。
「デートになるのかこれ?」
「ふふ、デートですね。今回はよろしくお願いしますっ」
暫し待っていると、柔らかく焼かれたステーキとチーズを挟んだトーストサンドが出てきた。
トーストの焼き方はそれこそ尋常ではないもので、耳の縁部分にまで丁寧にバターをぬり、精巧な芸術品でもつくるような手付きで両面を適切なバランスで焼いていく。
そうしてできあがったサンドイッチに、マリエッタはまた目をぱちくりさせた。
「あ、待ってください、こんなに大きなサンドイッチはさすがに口に入りません!」
「うお、サンドイッチからチーズがデロデロにはみ出してるぞ」
驚きつつもテーブルに持っていき、食べ始める二人。
「楽しいな、マリエッタ」
「ええ、とても……とても」
笑い合い、その笑い声は無番街の雑多な声にのまれて行く。
●街
夜が更け、シレンツィオリゾートの五番街にはネオンサインが光り始める。
無番街はまた異なる光を放ちはじめ、彼らは眠ることなく愉快な喧噪を続けるのだ。
この島はきっといつまでも眠ることなく、地上の楽園であり続けることだろう。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
そしてまた、楽園に朝がくるのだ。
GMコメント
こちらはシレンツィオ・リゾート観光イベントシナリオです。
鉄帝味溢れるリトルゼシュテルやスリリングな無番街を楽しみましょう。
主に五番街(リトル・ゼシュテル)と無番街(アウトキャスト)を扱っていますが、このシナリオ内で別の所に行きたいよというご要望にも一応お応えできます。
●シレンツィオ・リゾート
かつて絶望の青と呼ばれた海域において、決戦の場となった島です。
現在は豊穣・海洋の貿易拠点として急速に発展し、半ばリゾート地の姿を見せています。
多くの海洋・豊穣の富裕層や商人がバカンスに利用しています。また、二国の貿易に強くかかわる鉄帝国人や、幻想の裕福な貴族なども、様々な思惑でこの地に姿を現すことがあります。
住民同士のささやかなトラブルこそあれど、大きな事件は発生しておらず、平和なリゾート地として、今は多くの金を生み出す重要都市となっています。
https://rev1.reversion.jp/page/sirenzio
■■■プレイング書式■■■
迷子防止のため、プレイングには以下の書式を守るようにしてください。
・一行目:パートタグ
・二行目:グループタグ(または空白行)
・三行目:実際のプレイング内容
書式が守られていない場合はお友達とはぐれたり、やろうとしたことをやり損ねたりすることがあります。くれぐれもご注意ください。
■■■グループタグ■■■
一緒に行動するPCがひとりでもいる場合は【コンビ名】といった具合に二行目にグループタグをつけて共有してください。
■■■パートタグ■■■
シナリオ内には様々なお楽しみがあります。
ですが描写されるシーンはそのなかの一つに限られますので、どのシーンを描写してほしいかをこのパートタグを使って示してください。
(なので、パートタグから外れた部分のプレイングは描写されないことがあります。ご注意ください)
【五番街】
リトル・ゼシュテルを楽しみます
街には路面汽車網や蒸気送迎車が走り、高級感と先進的な要素に溢れています。
最も有名なのは遊園地VDMランド・フェデリア。
そしてカジノのVDM・レインボー・フェデリアです。
ビーチでは凍らないどころか温かくすらある海を楽しむべく鉄帝民がバカンスを楽しんでいます。
蒸気クルーザーで海に出たり、ジェットスキーやサーフィンを楽しむ人々もみられます。
困ったらこのパートを選んで『お勧めの店を教えて!』と適当な希望と共にプレイングに書いて頂ければ親切なガイドがご案内致します。
【無番街】
アウトローたちの集まる下町を探索し、非日常を楽しみましょう。
表の街にはないようなヤバイくらい美味い肉料理を出す店や、カロリーのどうかしてるサンドイッチなど隠れた名店も存在します。
また、あんまり表じゃ開けないようなお店もこの無番街には存在しているようです。
治安は最悪ですが、アズマのようなギャングたちが取り仕切っているためそうそう酷いことにはならないでしょう。
●NPC
・ビッツ・ビネガー
・パルス・パッション
・コンバルク・コング
リトル・ゼシュテルへ遊びに来ています。
鉄帝にはない常夏ビーチにだいぶ期限がよいようです
Tweet