シナリオ詳細
<Celeste et>おいしうれし果実の成り
完了
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
オープニング
●
少年達は、夢に見ていました。
“雲と雷の壁”を抜け、いつか外へと羽ばたく日を。
この島は確かに豊かだけれど、其れだけでは足りない。徐々に減って行く食料、増えていく老人、死んでいく命。大人たちがひそひそと、自分たちのこれからについて不安げに話し合っているのを少年達は知っていました。
だから、外に行きたかった。自分たちが外に行って、全ての問題を解決するんだと。
羽根はないけれど、技術ならある。作ったグライダーでいつか、この島の外へ行くんだ。そうして見知らぬ地を知りたい。ずっと地続きの大地、ご先祖様が住んでいた大地へ、僕たちも降り立つんだ。
其の夢はこんこんと引き継がれ――そうして、とある少年が石板に触れた時。
アーカーシャという島は隔絶から解き放たれ、大地への航路が開かれたのです。
●
「ああ、忙しい、忙しい」
鉄帝中心部。
鉄帝文官の一人であるファリドは部下を幾人か引き連れて廊下を急ぎ足で歩いていた。
其れもこれも、南部のノイスハウゼン上空に現れたあの浮遊島の所為。――いや、所為、というのは少し違うかもしれない。おかげ、と言った方が良いのかも知れない。
島の動きから天候の変化、様々なデータがファリドの元に入って来るものだから、其の仕分けに躍起になっているのだ。
確認するようにファリドは傍の文官に問うた。
「確かに伝説にあるアーカーシュなんだな?」
「既に鉄帝民は其の名称で呼んでおります。降りてきた少年達は自分の事を、“かつて鉄帝から飛び立った者たちの子孫”であると」
「其の少年達は保護出来ているのか?」
「既に。『歯車卿』は聴取後に調査隊を結成しております」
「流石の速さだな。――アーカーシュか。巧くいけば新たな鉄帝の資源を調達できるかもしれない」
ファリドは唇に指を当て、思案する。
『歯車卿』の調査隊では足りない。自分たちも独自に調査隊を指揮する必要があるだろう。今其れを依頼できるのは――イレギュラーズをおいてほかにはあるまい。彼らは覇竜領域で亜竜を手に入れたという。空へのアクセスが容易な彼らなら。
「――だが、頭が痛いな」
「派閥の話ですか」
付き従う文官の一人がひそり、と小声で言う。そうだ、とファリドは頷いた。あの島、アーカーシュを巡り、鉄帝上層部は二つに分かれようとしていた。
一派。国家の為に行動する軍人たちで構成される“軍務派”。
そしてもう一派。特務の機密特権を盾に主導権を握ろうとする“特務派”。
「……何が特務だ。あれだけ堂々と浮かんでいるものに特務も何もあるまいに」
憎々し気に言うファリドは国益のために動く軍務派だ。
特務派よりも先に、何らかの益になるような場所を見付けねばならない。拠点の構築、現地の生物・集落の調査……やる事は山ほどあるが、ファリドに出来る事は一握りしかない。
「悔しいが、イレギュラーズの動きに任せるしかないだろう。出来る限り特務派とは違う地域を調査して、名目だけでも良い、我々軍務派が掌握するんだ」
「はっ」
斯くしてイレギュラーズという矢はアーカーシュへ放たれる。狙うのは未開拓の森部分。鈴成るのは地上でも見るような様々な果実。
其の中には未知の果実があるかもしれない。
――分割されつつある上層部は一先ず置いておいて、君たちは未知の島を探索すれば良い!
- <Celeste et>おいしうれし果実の成り完了
- GM名奇古譚
- 種別ラリー
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年05月04日 21時15分
- 章数2章
- 総採用数30人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
●
残念ながら、キドーは甘いものが苦手だ。甘いのが嫌いという訳ではなくて、どうにも舌が、身体が受け付けないのだ。
果物もそう。熟れ切って甘くなったものを食べるより、まだ青く未熟なものを切って、魚醤やレモン汁と和えたようなものが好きだ。干しエビがあると更に良い。其れってつまり酒のつまみでは?
「てな訳で、果物の味見は御免被る」
――えー。
――なんでよおー。
キドーの周囲をくるくる回る風精霊が不満げに文句を言う。キドーは其れを聞き流しながら、果樹林の奥を目指した。
風精霊に、樹精霊。泉が近くにあるのか、時折水精霊の気配もあるが、どうにも彼らは落ち着かない様子だ。侵入者の存在のせいだろうか。其れにしては、何かに怯えているような仕草もある。
――ねえ、あんまり奥に行っちゃだめだよ
「何でだよ?」
――だって、怖いヒトがいるから
「……怖いヒト?」
――精霊、だけど
風精霊が口を噤む。ふむ、とキドーは唸り、足を止めて周囲を伺った。
ざわざわ。ざわざわ。
揺れる果実樹のざわめきが、何故か空恐ろしく感じる。
成否
成功
第1章 第2節
●
伝説の浮遊島。
「だというのに……果物の名称がどれもこれも、地竜も泥に滑りそうなものなのは何故だ?」
レオナは若干がっくりとした顔をして、果樹を携えた枝を優しく退けて進む。おっと、忘れないようにこの木の根元にも石を積み上げておく。
獣や植物が敵になるかも知れぬ、と盾を携えてきたが、其の気配は感じられない。植物は何も語らず、獣の気配は何故かない。
「だが……何だ?」
ざわり、とうなじを撫でるような気配を感じるのだ。植物に散々伝えた。木々にも、果樹にも、“調査で来ただけであって、無暗矢鱈に傷付けに来た訳ではない”と。植物は其の度に、友好的な態度で返してくれる。
なのに、不穏なざわめきがやまない。植物も口々に“奥には気を付けて”と語るのだ。一体この果樹林の奥に何がいるというのだろう?
「其れは獣か?」
――ちがうよ
「では、植物か?」
――ちがうよ
――精霊だけど、気難しいんだ
ぼんやりとした答えが、レオナを悩ませる。
浮遊島を吹き抜ける風は、こんなにも爽やかなのに。気難しい精霊とやらは、まだ奥で侵入者を見定めている。
成否
成功
第1章 第3節
●
「んー。ピンクのおしりっていうと、アレっスね」
「アレ」
美咲はワイバーンのバーべと、途中で合流したスフィアを連れて思考タイム。
「桃っス」
「……もも……?」
「あれ、知らないっスか? まあるくて、おしりみたいな形をしてて、すっごく甘いんス。多分この浮遊島にあるのは桃とか其の亜種でしょう」
「あしゅ」
「似てるけど違うものって意味っスよ。ほら、アレ」
美咲が指さす先には、ピンクのおしり――ぱっと見は桃そのものに見える果実が揺れていた。
「……」
スフィアはじい、と果実を見詰めている。欲しいのだろうか、と美咲は“わかりづらい”同行者に思った。
「ちょっと待って下さいね。バーべと君は私が毒見して、植生を確認してからっスよ」
ワイバーンの上に立ち上がると、美咲は桃を丁寧に一つ、二つ、三つ摘む。そうして一つを服の袖で丁寧に拭うと、皮を滑らせるように剥いて齧りついた。
「――!? すっぱ!?」
思わず口がお年寄りのようになってしまう美咲。
じっと其れを見ているスフィア。
もぐ、もぐ、もぐ。酸っぱいと言いながら数度咀嚼して呑み込んだ美咲は、嘆くように頭を振った。
「うーん、これは君とバーべに食べさせるにはちょっと……結構酸っぱいっス」
「……」
す、とスフィアが手を伸ばした。
果実に向けてだ。
「……酸っぱいっすよ? いいの?」
「私、……付けてみたい」
「つける?」
「なまえ」
ああ、と美咲が思い出す。
そういえば、この浮遊島で出会った動植物などには、命名権が与えられる事があるとかないとか。美咲は特に興味はなかったが、どうやらこの少女は名付けをしたいようだ。
「うん、じゃあ君が名付けると良いっス。この酸っぱいおしりは、普通の桃とは違うっスからね」
記念にどうぞ、とスフィアに果実を差し出すと、小さな両手が果実を取って。齧る事もせず、大事そうに其れを見下ろしていた。
なんだか胸が暖かくなる美咲。しかし、一つ大事な事を忘れている。
「いってえ!?」
がぶり、と自分のおしりに噛み付かれて、美咲は跳び上がった。誰だと振り返ると、ワイバーンが不満げに美咲を見詰めている。
「人のケツに齧りつくな! 酸っぱくもなんともないでしょ!」
成否
成功
第1章 第4節
●
トストは植物に問う。
君たちが新しい場所に広がるお手伝いをしたいんだけど、どんな処に行きたい? と。
――そう言えば、紅いつぶつぶが何処か遠くに行きたいって言ってた
「紅いつぶつぶ?」
――其の子は水が好きだから、水辺に植えてあげると喜ぶよ
「どうだ? 果実は取れそうか?」
百合子がトストに問う。彼女は主に花を食するが、果実も愛する美少女だ。
「ええとね、“紅いつぶつぶ”が旅立ちを待ってるんだって」
「紅いつぶつぶ。ほう。確か聞き取り調査の中にあったものだな」
「うん。道を教えてくれたから行ってみようか」
植物の指示に従って、百合子の連れているリトルワイバーンの助けを借りながら進むと、果たして現れたのはキイチゴに似た実を揺らした茂みだった。
「おお……! 吾は苺が最も好ましいが、木苺も勿論好ましいぞ! ……と」
けほん、と百合子が咳を一つ。高揚を鎮める。このままではハイテンションのままに果実をもぎりとってしまいそうだった。
「まずはトスト殿の交渉次第だな」
「うん、任せて。……こんにちは。紅いつぶつぶってのは君の事だったんだね」
――だれ?
「君が他の大地に植わるお手伝いをしに来た人間たちだよ」
信じられない、そして嬉しい。
植物の素直な感情がトストに伝わって来る。他の植物の情報は間違っていなかったようだ。
そわそわと交渉を見守っている百合子に少し笑いながら、トストは続ける。
「そうだ、其の前に少しスケッチさせてよ。実をいきなり千切るなんてしないから」
可愛く書いてね、と紅いつぶつぶは言う。
トストは頷いて、手帳に素早く葉の形や特徴を書き記しながら、目の前の植物を分析する。これはキイチゴによく似ているが、其れでも微細な所が異なる植物だ。何より実が大きい。葡萄ほどある。
「ふむ。形は木苺であるが、大きさは葡萄……これは間違いなく新種なのではないか?」
「そうかもね。或いはこの浮遊島で巨大化したという説も捨てきれないけど」
「ふむ。名付けなら吾に任せよ! ……ああ、お前にも名をつけねばな」
ぼくも、と擦り寄ってきた名無しのリトルワイバーンの頭を百合子は撫でて。
其の間にトストはスケッチと解析を終わらせる。
「はい、出来たよ。……ねえ、旅立ちの準備が出来ているならで良いんだけど」
一口食べさせて貰えないかな。
紅いつぶつぶは答える。勿論! 今すぐに食べても良いし、今すぐにでも旅立てると。
トストはぷちり、と紅い房を優しく取る。数粒くらいなら減っても問題ないだろう。トストは一粒、百合子はリトルワイバーンの分も含めて二粒、まあるい深紅の実を取ると、ぽい、と口の中に放り込んだ。
「……! 甘い」
「おお! これは……梨? 桃? に似た瑞々しさ……!」
――でしょう?
自慢げに、紅いつぶつぶの茂みが風に揺れる。
まるで桃か梨のような瑞々しい甘さを持った実は、旅立ちの時を待っている。
成否
成功
第1章 第5節
●
「此処が浮遊島アーカーシュですか」
響子は吹きすさぶ風に髪を押さえ、果樹が鈴なりになっている果樹林へと踏み入る。甘い香り、酸い香り、様々な香りが交じり合ってとても過ごしやすそうだ。
調べ甲斐も作り甲斐もありそう。響子は意気込んだ。
捜すのは“紅いひょうたん”だ。赤い色のものは地上ではあまり目撃されない。
「やはりアーカーシュの環境に対応して変色したのでしょうか……でも、」
果樹林に生えているのだから、果実。……のはず。
疑問に思いながらも、探してみるとすぐに見つかった。紅いひょうたん型の果実が、大きな茂みにころころと成っている。
手に持ってみると重く、爪で軽く叩くと硬い。一つ千切って、毒性があるといけないといけないので持ってきた水筒で洗う。
柔らかくないけれど、本当に食用なのだろうか。まずは、とヘタの部分を響子がナイフで切ると、こぽこぽと果汁のようなものが溢れ出してきた。
「わ!? おっと、おっとっと」
思わず手で掬う。成る程、重みは果汁のものでしたか。恐る恐る口に運んでみると、爽やかな香りがして、レモン水のような少し酸い味がした。
「……ん! これは良いですね……果汁で外皮を煮てみると美味しいかも」
食糧にもなるし、いざという時の水分確保にもなる。取り敢えず外皮も食べられないか試してみようと、響子は幾つか赤いひょうたんを取り、料理に丁度良さそうな場所を探し始めるのだった。
成否
成功
第1章 第6節
「ぶはははっ! 新しい地! 新しい自然! 新しい食材! いやぁ、料理を嗜むモンとしては実に心が躍るねぇ!」
ゴリョウは新たなる食材の息吹を感じて、高鳴る鼓動を抑えきれないでいた。この世界――混沌に召喚されて、和食が持つ無限の魅力に取りつかれた彼だが、其のお眼鏡に叶う果実は見付かるのだろうか。
狙うはオーソドックスな香りがする“紅くて丸い実”。真っ当かつ正統派。だからこそ、調理人の腕が試される。
そして捜す事少し――其れらしき実を見付けた。成る程、緑色にさざめく葉の中に隠れるように、ゴリョウの手に収まりそうな大きさの紅くて丸い実が揺れている。
「成る程、樹木に成ってンのか」
さて、味はどうだろう。毒があったりするのかね? 植物ってのは実に多種多様で、だけれどどういう形であれ、料理人やそうでない者も引き付ける魅力を持っている。
一つぷちりともぎ取って、まずは一齧り。――! これは!
「林檎……にしては甘ぇ!」
ほうほう、と頷きながら咀嚼するゴリョウ。既に彼の頭の中では、この果実をいかに調理するかという計算が始まっている。単品でも美味しく味わえそうだが、加工すればきっともっと美味くなる。日本酒の適合米が単品では美味くねぇのと同じだな。
「よっしゃ! 覚悟しろよ、俺が今からお前を100倍美味く仕上げてやるからな!」
成否
成功
第1章 第7節
「笛といえば……縦笛に、横笛?」
ヘイヨー! こちら“鳴らない笛”捜索隊!
視力に聴力、嗅覚までを研ぎ澄ませて、更には猫のファミリアーに先行させながらヨゾラが言う。
「あとはオカリナとか」
「角笛などもありますね」
フーガと雨紅が続く。
「笛という名前……穴が開いているのかもしれませんね」
「み、みなさん冷静ですね……私はもう、この島が浮いているという事実だけで……ひえぇぇ……」
エマは若干引き攣った笑顔で、其れでも置いて行かれぬようにと付いていくばかりだ。まあ、其れがきっと普通の反応なのだ。ワイバーンに乗って飛べるようになっちゃった人たちの適応力が凄過ぎるだけで……
「或いは足場の悪い処に成っている果実という例もありますね。其の際は私が果実を取りますから、皆さん安全な場所にいてくださいね」
「わー、ありがと! 助かるよ!」
ヴィルメイズはふわふわと風に乗り、高所の果実を確認してくれている。以上5名は“鳴らない笛”を捜して果樹林に分け入っていた。
林檎のような実がなっている木の下を抜けて、大きな木苺が揺れる茂みを潜る。よくわからないかたちの何かを避けて進んでいくと、一つ、雨紅の目に留まったものがあった。
「あら? 皆様、あちらを」
同時に、ヨゾラも視界に入って気付いていた。背の高い木に寄り添うように生えている低木の群れ。其の果実はいわゆるゴーヤのように細長く……
「……あ! 穴みたいなもの、ありますよ!」
興味のままに近付いたエマが皆を振り返る。見て見て、と示した果実には、穴というより凹みのようなものがある。
「成る程、じゃあこれが“鳴らない笛”かな?」
「確かに、吹き口がありませんから此れでは鳴りませんね」
「ていうか、何で果物なのに凹んでるんだろうな?」
「さあ……」
フーガの疑問には皆が首を傾げた。
でも割とそういう不思議な形をした果実って結構あるよね。うん。
雨紅は熱心に木の形状や果実の成り方、色合いと推定の熟し具合や香りまで確認している。此処には残念ながら専門家はいないが、データを持ち換えれば近縁種などが判るかもしれないという事だった。
エマもまた、瞬間記憶で情報を文字通り脳に焼き付けた後、果実をそっともぎ取る。五感は特に警告してこない。毒はないという事だろうか? おいしかったら儲け者だけど、駄目だったらパンドラでなんとか……うーん、なんとか……
と思っていると、隣で果実を見ていたヨゾラがぱくり、と笛を食べた。
「えっ」
「えっ?」
「え、……えひひ、いやなんでも」
毒見役がいるならこれ幸い。エマはそのままヨゾラを見続ける事にした。フーガも同じく一口齧っている。どうやらそんなに硬い果実ではないらしい。フーガはもぐもぐと味わいながら食べ続けているが、ヨゾラは果汁を吸って飲むと、空気を果実に吹き込んでみた。
――ひよろろろ~~~……
「……あ!」
「鳴りましたね」
「いや、今のは鳴ったっていうのか? 何か空気が通るみたいな音だったろ」
「ふむ……? 吹いてみたのですか?」
森に響いた奇妙な音に、皆がなんだなんだと集まって来る。
「へこみを押したら違う音になったりしませんか」
ヴィルメイズの指摘に添って色々押さえて吹いては見たが、音色は変わらない。空気の抜けるような、ひよろろろ~~~……が森の葉を揺らすだけ。
「でもこれ、うめえな。甘みとか酸味はあんまねえけど、純粋に食い物として美味い」
笛がなんのその。ばくばくと皮ごといってるフーガが感想を述べる。成る程、と雨紅は味の感想を書き添えて。
「近縁種だと色からしてゴーヤ……或いは瓜が考えられるでしょうね。でもゴーヤのような苦みはないんでしょう?」
「えひひ、……な、ないですね。あー、美味しい……今だけなら高所だという事を忘れられる…」
エマもつられて、もいでいた実をもぐもぐ食べている。気付けばヴィルメイズも食べていた。彼は兎に角食に困らないという運命のもとにあるので、もしかしたら果実が見付かったのは彼の功績もあるかも……いやどうだろ?
鳴らない笛は正確にいえば“笛にならない笛”だったのである。
鳴らない笛は正確にいえば“笛にならない笛”だったのである。
さて、何という名前が付くだろう?
成否
成功
第1章 第8節
ミシャとチャロロは二人、果樹林の中。
特にこれを探そうという目的はなく、見た事のあるものに限定して、色々な果実を味見しに来ていた。
「見て見てハカセ、これ! ピンクのおしりってこれだよね? モモ?」
「そうだね、形は桃に似ている。味は……どれ」
果実をもぎとり、二人で齧ってみる。直後、すっぱ! と二人して顔をゆがめた。
「ハカセ、これ毒?」
「毒ではないね、純粋に酸っぱい果実なんだと思う。……予想以上に酸っぱかった」
「あ! ハカセ、こっち! ひょうたん? みたいな実がなってる!」
チャロロは新しい果実に目を奪われながらも、“ピンクのおしり”の感想をメモするのを忘れない。
ハカセ――ミシャはチャロロの傍に歩み寄ると、手の届きそうな場所にある黄色いひょうたん型の果実を見上げた。
「見た目は……洋梨だけど。こんな島に洋梨が成るなんてすごいわね」
「洋梨ってオイラ食べた事ないな。美味しい?」
「ええ。甘くてね、とても美味しいわよ。期待しましょうか」
さっきのおしりみたいな事にならないと良いけど。
言いながらミシャは果実をもぎ取り、硬さを確認すると皮を剥いていく。薄い皮を剥くと、濃厚な甘い香りが一帯に広がった。
「おお……凄く甘い匂いがする」
「チャロロは甘いもの好き?」
「好き!」
「じゃあ、一番に食べる権利をあげる」
もし毒が含まれていても、身体の半分以上を機械化している彼なら大丈夫だろう。いざとなったら自分が治せばいい。
ミシャは果汁に気を付けてね、と言い足しながら、チャロロに果実を渡す。果汁が多分に含まれている其れをチャロロはがぶり、と一口食べて――
「~~~~!!!」
瞳を輝かせた。
「美味しい! ハカセ、これすごく甘くて美味しい!」
「毒はなさそう?」
意地悪くミシャが問うと、チャロロははっとして己の腹部を押さえ……
「な、なさそう」
自信なさげにそういうので、思わずミシャは声をあげて笑った。
成否
成功
第1章 第9節
「レリッカっていう村にはイイ酒があるって聞いたんだけれど本当かい!!!」
おう兄ちゃん、果実捜し<酒とは良い度胸だな。
褒美に果実林を探索する権利をやる。
まあ、呑むのはちゃんと仕事してからなんですけどね。
と言う訳でこちら、“天使の忘れ物”捜索隊。イグナートはリトルワイバーンで、Starsは飛行で、それぞれ空から其れらしき木を捜す。
フルールと飛呂、ドラマは地上から果樹林を歩いて探索。――フルールがふと空を見上げたが、イグナートやStarsの姿を見止める事は出来なかった。それほどにこの果樹林――おいては森林は緑烈しく萌え盛っている。
「ここでは木の実の名前がない……というか、見た感じの名称で呼ばれているのね」
「そういやそうだな。他にも紅くて丸い実とか……林檎とか名前つけたらよかったのにな」
天使といえば思い出す子がいる。最近すこし大人びたあの子。そんな思春期の飛呂がフルールに頷いた。途中で一つ見た事のない果実を取って、もぐりと食べながら進む。
「あくまで共通の認識としての呼び方で、きちんとした名という訳ではないみたいね。名前を付けようと思わなかったのかしら?」
「ふむ、其れは確かに不思議ですね。まだ降りてきた少年少女について詳しくはしりませんが、この島の村には“レリッカ”という名前があった筈」
ドラマが頷く。人名、地名はあるのに、果実には名前がない。不思議だ、とフルールとドラマは首を傾げる。
だが、飛呂は余り疑問に思っていないようで。
「あー、うーん……説明し辛いけど、“アレ食べに行こうぜ!”みたいなノリだったんじゃないかな。いつも食べてるものだから、名前を付けようと思わなかったとか。彼らにとっては“天使の忘れ物”が名前だったとか」
つまり、食べに行きたかったら“天使の忘れ物食べに行こうぜ!”という事……じゃないかな。そう言う声は小さい。けれど、フルールとドラマの耳にははっきり届いて、二人を成る程と唸らせた。
「確かに、とても身近なもので、唯一無二のものだったら名前を付ける必要はないものね。村の人たちは区別するために名前がいるけれど、其れが独特な形の果実だったりしたら――」
「おーい!」
ぶわっ、と周囲の翠が逆巻く。
リトルワイバーンに乗ったイグナートだ。
「其れらしきもの、見付けたよ!」
斯くしてStarsが待っていた高木の元へと一同は集まる。その樹はとてもとても高くて――まるで天へとつながる柱のよう。
「とても高い木ですね……見える範囲が全部幹です」
思わずドラマが感嘆の息を吐く。
「太陽の光を浴びようとしたんだろう。葉っぱは森を飛びぬけたあたりから一気に生い茂っている。凄く大きいからもしかして、とイグナート君と話していたら、上にこんな物が成っていた」
地上からは高すぎるから取ってきたと謝罪しながらStarsが皆に配ったのは――天使の両翼を模したような、白い不思議な果実。いや、其れは果たして果実と呼べるのか?
「……羽根?」
「ですね……本当に、天使の羽のような形をしています」
飛呂とドラマは陽光に透かして、手に乗る程度の果実を翳す。其れは透けはせず、確かに中身がある事を示唆していた。
「外側は硬いわ。割って食べる類の果実かしら」
フルールが軽く果実をノックすると、コンコン、と音がする。そうみたいだ、とワイバーンから降りたイグナートが頷いて、ばきり、と羽根の中央部を割った。
「ああっ」
思わず飛呂が声をあげる。天使の羽が! 何故だろうちょっと興奮しちゃう!
……皆の視線を受けて、恥ずかしさに蹲る飛呂。大丈夫よ、例えば物をぶつけて「痛い」って言っちゃうときあるわよね。ドラマが一生懸命慰めている。
一方イグナートの手には、割れた羽根から丸いものがぽろぽろと転がり出ていた。不思議そうに其れを見るフルールとStars。Starsも割ったのを見たのは初めてだったようで。
「其れは……何?」
「ふっふっふ……判らない!」
「判らない」
「だけど取り敢えず食べてみても害はなかった! 鉄帝ではそこそこヤバイものでも食べなきゃ生きていけないバアイあったからね。毒のあるなしは自分で確かめてみたんだ。そしてこれはオレの勘が告げているんだが――柑橘類みたいに、果実酒に出来るものじゃないかと踏んでいる!」
「果実酒」
「酒にするのか?」
「そう! そのまま食べてもぷちぷち爽やかで美味しいが、漬けて酒にすると多分マジきっと100倍美味い! これはオレの勘を信じて良いと思う!」
熱弁するイグナートだが、フルールとStarsはマイペースに、彼の掌に広がるつぶつぶを摘まんで食べている。成る程、柑橘系の爽やかな味がする。
「でも本当に、羽根の形をしているのね。食べ方は少し残酷だけど」
「羽根を割るのはちょっと気が引けたけど、硬かったからもしかして、と思ったんだ。ふっふっふ、ではこれを持ち帰って、レリッカの酒と――」
イグナートが悪だくみの顔をした其の時。
森の奥で何かの気配が膨れ上がり、ぶわっ! と猛風が吹いた。
成否
成功
GMコメント
こんにちは、奇古譚です。
新しい冒険領域! ワクワクしますね。
どうやら色々な思惑があるようですが、今は素直に探索を楽しみましょう。
●目標
「アーカーシュの果樹林を調査せよ」
全2章です。
●立地
浮遊島アーカーシュの村“レリッカ”から歩いて程ないところにある果樹林です。自然に林立した様々な果樹が並んでいます。
通常の大地にもあるような果実もありますが、長い独特な暮らしの中で果樹名は失われ“紅くて丸い実”、“黄色いひょうたん”など、独特な名前が付けられています。
(既存のフルーツを推理する場合は下記“聞き取り結果”をご参照の上、調査して下さい)
また、アーカーシュ特有の果実もあります。
(其の場合は下記“謎の名称一覧”をご覧ください)
他にも色々な果実がある事でしょう。毒見がてら一口いかがでしょうか。
●予感
森の奥がざわざわとしています。
穏やかな森に反して、其処に住む者は未知の侵入者にピリピリしているのかもしれません。
果実を取りすぎると怒りを買う。かも。
●聞き取り結果
紅くて丸い実
黄色いひょうたん
緑のひょうたん
ピンクのおしり
紅いつぶつぶ
小さな花束
●謎の名称一覧
紅いひょうたん
緑のつぶつぶ
鳴らない笛
天使の忘れもの
●特殊ルール『新発見命名権』
浮遊島アーカーシュシナリオ<Celeste et>では、新たな動植物、森や湖に遺跡、魔物等を発見出来ることがあります。
発見者には『命名権』があたえられます。
※命名は公序良俗等の観点からマスタリングされる場合があります。
特に名前を決めない場合は、発見者にちなんだ名が冠されます。
※ユリーカ草、リーヌシュカの実など。
命名権は放棄してもかまいません。
※放棄した場合には、何も起りません。
●
此処まで読んで下さりありがとうございました。
アドリブが多くなる傾向にあります。
NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
では、いってらっしゃい。
Tweet