PandoraPartyProject

シナリオ詳細

玉髄に潜む

完了

参加者 : 25 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 販路拡大――
 覇竜領域とラサの交易のために必要となる街道整備は先遣隊を送り込み簡易的な『夜戦準備』を整えることにより、次回へと持ち越しとなった。
「フリアノンとラサの交易が本格化すれば、覇竜は一層良い国になる……そうだね、琉珂君?
 君は誰より我々亜竜種の未来を考えてくれている……私は君を信じるよ」
 そう告げる『霞流陣術士』霞・美透(p3p010360)の言葉は『亜竜姫』珱・琉珂 (p3n000246)を勇気づけた事だろう。
 彼女は灯りの役を担い、渓谷に差し込む光の他に光源として大いに探索に役に立った。
 イレギュラーズ達はこの地を愛し、守護しているという二対の獣『獣骨シャームロック』には礼を尽くした。

 ――此処は『玉髄の路』と呼ばれる場所。
 巨大な亜竜の住処であったそうだけれど、今はそれらは『石化』して動くことはないのよ。
 言い伝えだと此処に存在する2体の亜竜――『獣骨シャームロック』は未だに生きてきいる。
 永劫に解かれぬ岩の牢獄で未だ生きている……なーんて、言い伝えだけれどね。

 そんな風に笑う琉珂の言葉を美透も『ベンデグースの赤竜』シャールカーニ・レーカ(p3p010392)も幼い頃に聞いたことがあったのだ。
「私とてフリアノンの地で育った亜竜種だ。シャームロックに敬意を示す事の大切さは知っているさ」
 そう告げてシャームロックを『大いなる地の支配者』と称したシャールカーニは傅いた。
 陣地構築の知識を活かして拠点設営をするシャールカーニの手伝いを行う『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)はシャームロックの身の清掃を行った。
 伝承通りの地の番人であるならば朽ち果てられるのは本意では無い。中継地点となるこの地をみだりに乱す心算もないとしっかりと挨拶として伝えた彼女は『覇竜らしい』人智を超えた危険があるのだろうと警戒を怠ることはなかった。
 例えば、『自在の名手』リトル・リリー(p3p000955)が調査し手に入れた『石ころ』は何らかの生物が石化した後に外部から無理矢理壊された痕跡であると言う。
『特異運命座標』祭・藍世(p3p010536)の解析結果を受け、『竜撃の』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)が推測したのは『石化を齎す怪物がいる可能性』であった。
 それもこの地を愛するシャームロックと対話し。その身が石と転ずることを許諾させるだけの力を持った強大なる獣であろう。
 その推測を確かなものとする為にベネディクト、リリー、そして『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)はファミリアーを野営させることに決定した。
 ――そして、『見た』のだ。『梅妻鶴子』梅・雪華(p3p010448)の式神は石として砕け散っていたが『其処に居た』痕跡を残すように雪華の預けた筆が石ころの上に転がっていた。
 各人が見たのは地を這いずり回る『何らかのモンスター』であったという。

「さて、姫様どうする?」
 雪華の問いかけに琉珂は「危険だけれども、此方がそこに何かをしようとしたことを相手は知ったでしょう」と返した。
「それはそうだ。拠点設営のための部材は念のためにシャームロックの巣穴であっただろう洞穴には隠してある。
 ……だが、其処に不可思議に存在したテントや小動物達だ。何らかの変化が起こった事は察知されているだろう」
 ベネディクトの言葉にアレクシアはこくりと頷いた。夜間に何が起きても良いようにと、テントを設置しその変化を見ておきたかったのだ。
「フリアノンの手であると分かる可能性は?」
「十二分にあるだろうさ。シャームロックの旦那サンが驚異じゃないだけマシかね」
 藍世に美透は「同等の強さの敵かも知れない」と頭を悩ませる。驚異である事には違いない。その場に飛び込む前に更なる調査を続けて戦闘準備を行っておくべきだろう。
「一先ずは、調査の続きでいいのかな? 『一度の敵襲』……っていえば良いのか分からないけど、それでどうなったかを確認しないと」
 リリーへと琉珂は小さく頷いた。シャールカーニは「ラサの商人達にアルパレストの紹介状を通じて貰った部材は高品質のものだった。それらの活きる機会は早々に用意したいものだな」と呟く。
「それじゃあ、一晩明けた様子を見に行ってみようか。今回も夕方までには帰る、だよね?」
 アレクシアの問いかけに琉珂は小さく頷く。さて、『玉髄の路』に潜むのは何者か――


 魚が跳ねる気配がした。
 渓谷の夜には光は射さぬ。故に、シャームロックの双眸は光を灯すことはない。
 その地に、三匹の獣と一つの『抜け殻』が立っていた。
 其れ等はイレギュラーズが配置したものだ。簡易的な柵やテント、松明。
 そうしたモノがこれからの『路』で役に立つ『夜戦準備』であったのだろう。

 ずる――

 何かを引き摺る音が響く。渓谷の空高く、星をも雲が覆い隠す夜にそれは光を避けるように動き出す。

 ずる――ずるずる――

 シャームロックの傍を行きすぎて、それは獣を掴み上げた。
 ぽろぽろと崩れるそれは最早、石となっていたのだろう。三匹諸共、そして一つの抜け殻――式神も、だ。

 ずる――ずる――

「シャームロックよ。何ぞが立ち入った?
 フリアノンの童か? それとも……この地を護ると宣った癖に良くも弱者を赦すモノよ。
 わたくしが護ってやろう。ああ、そうしようか。シャームロック。かわいそうな二匹の骸。わたくしにお任せなさい」

 それは闇夜に消える。『それ』が想像していなかったのは、夜戦準備として設置されていたものが余りにも多かったことだったのだろう。
 尾へと纏わり付いた我楽多は、引き摺るように渓谷の地へと残された。

GMコメント

 夏あかねです。
 第二回目。のんびりといきましょう!

●目的
『玉髄の路』の仮拠点を襲った敵の正体確認&仮拠点設営(続き)

●『玉髄の路』
 フリアノンの『やや後ろ側』――尾骨に沿った場所に流れる川と渓谷です。
 玉髄の路と名付けられたのはこの地に住まう二対の獣シャームロックの瞳が由来であるそうです。
 それらは朽ちた骨の姿をしていますが石化しており、瞳だけは生きていると言い伝えられています。
「夜になるとこの地に何らかの『敵対存在』が訪れ、生きる者を石化させ殺してしまう」と言われていました。
 イレギュラーズはこの路に仮の拠点(夜戦仕様)を設置していましたが夜間の間に何らかの存在に破壊されたようです。

 時刻は朝~夕。深夜の内に出立し、路に入る頃には朝日が昇っている状況となります。
 シャームロックはこの地を蹂躙する愚か者を許さないと言い伝えられています。先に訪れた皆さんは誠意を示し、シャームロックに対して敬意を表しました。それが効を成したようですね。
 落ちていた石ころなどは何らかの存在が石化し破壊された形跡であるようです。
 アレクシアさん、ベネディクトさん、リトル・リリーさんのファミリアーもどうやら石化し破壊されているようです。
 雪華さんの式神は石化し、地面に転がっていましたが、持たされていた筆などからそれがそうであると判別できそうです。

●『驚異』
 どうやら夜間にのみ動き、シャームロックの瞳が指し示す方向からやってくるようです。
 ・何かを引き摺った痕が残されている
 ・石に変える能力を有していそうである
 ・シャームロックの瞳が指し示す方向に存在する
 ・水場には入っていない
 石ころが多い渓谷ですが、前回と比べ資材を運び入れ居てたためにそれらの破壊痕から『追掛けること』が出来そうですね。
 驚異を追掛けることは危険が伴います。現時点ではどのような敵であるかが未知数であるために、戦闘は避けた方が良さそうです。

●二対の獣シャームロック
 まるで獅子を思わせる外観であったであろう獣の骨です。石となっているため骨として朽ちていない部分を総合すれば
 ・獅子のように強大な亜竜
 ・羽は片翼ずつであり、二対で一つである事が分かる
 ・一方は立ち上がり、一方は座っている
 事が分かります。また、言い伝えによると『この地はシャームロックの住処』であったそうです。
 これは言い伝えですが……
『薄桃色の竜』はシャームロックとの友誼を結び、この地を荒らす不届き者を排除すると誓ったことで外より『勇者なる者』を招き入れたとされています。
『薄桃色の竜』はシャームロックが石となることを選んだのは命には終焉がある事を知っていたからだろうと言います。この地を愛した二対が死して朽ちたとてその眼孔に『光を宿す』のは、住処を守り抜きたいという意志があったからではないかと言うことです。

●珱・琉珂
 亜竜集落フリアノンの里長。イレギュラーズです。
 竜覇は火。支援行動及び多少の攻撃を行います。獲物は巨大な裁ち鋏。近くまで同行します。何かあればお声かけ下さい。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はDです。
 多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
 様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。

●Danger!
 当シナリオには現時点で『驚異』との戦闘を行った場合はパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • 玉髄に潜む完了
  • GM名夏あかね
  • 種別長編
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年04月22日 22時05分
  • 参加人数25/25人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 25 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(25人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
終わらない途
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
シラス(p3p004421)
超える者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
星芒 玉兎(p3p009838)
星の巫兎
ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)
ドラゴンライダー
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
霞・美透(p3p010360)
霞流陣術士
月瑠(p3p010361)
未来を背負う者
玉 髄(p3p010370)
特異運命座標
シャールカーニ・レーカ(p3p010392)
緋夜の魔竜
梅・雪華(p3p010448)
梅妻鶴子
スースァ(p3p010535)
欠け竜
祭・藍世(p3p010536)
桜花絢爛

サポートNPC一覧(1人)

珱・琉珂(p3n000246)
里長

リプレイ


 亜竜集落フリアノン。
 その地は、前人未踏とまで称された危険区域『覇竜領域』の中に存在した亜竜種達の郷である。
 抜け道を駆使し、混沌世界では種族を偽って活動する亜竜種が居た事もあるが噂の範疇に留まる程度の観測でしかなかった。
 練達の構築したシステムR.O.Oを駆使して辿り着いた亜竜種達の集落では今後の良き生活のために販路拡大を掲げて居た。
 居た、が――

「ファミリアーが、石になって……砕けた……? そんなこと、あるんですか……?」
 一連の情報を聞いてから『未来を願う』ユーフォニー(p3p010323)は息を呑んだ。来訪者と呼ばれた旅人である彼女は頷き、苦い笑みを浮かべる『亜竜姫』珱・琉珂 (p3n000246)を見遣ってからたじろぐ。
「……もしこの子がそんなことになったら……嫌です。考えたくありません。いくらファミリアーだって……これが、『恐い』という気持ち……?」
 恐怖すら置いて遣ってきたユーフォニーの不安にミーフィアが首を傾げる。
 何も覚えては居なかったユーフォニーはそっとミーフィアを膝に乗せて俯いた。幾人かのファミリアーが偵察に向かい、石となって砕けたのだそうだ。
「ふーーーむ。ふむーーー!」
 髭を撫で付けて『ワクワクハーモニア』ウテナ・ナナ・ナイン(p3p010033)は琉珂から聞いた情報をもう一度おさらいした。
「ファミリアーが石化して“破壊”されたってのがうち的に引っかかってたりするんですよね。
 もしや石化しただけならまだ生きてるんじゃないかって、そう思っちゃうんですよね。物語の読みすぎですかね。関係ないかもですが」
「『破壊された』ファミリアーはもうだめかも知れないけれど、砕けていないシャームロックは……」
「ですよね? 石化しても眸が生きている。ってことは、見てるって事ですよ。声は届くかわかりませんけどね!」
 ウテナは此処で待ち合わせをしワイバーンの育成にも携わる迅家の竜種マニア『迅・天黎』も共に『玉髄の路』へと向かう事にしていた。
 複数のイレギュラーズとの待ち合わせを行い、改めて玉髄の路に設置した簡易な拠点確認に向かうのだ。
 日が昇りきらぬうちにフリアノンを出発し、川沿いに進む。行軍は前回と変わりなく、イレギュラーズは纏まっての行動を琉珂によって義務付けられた。理由も、玉髄の路の危険に対して万全の状態で挑むためである。
「ふわあ」
 欠伸を噛み殺してから『宝食姫』ユウェル・ベルク(p3p010361)は「さとちょー、おはよう」とぱちぱちとまばたきを繰り返す。
「お早う、ユウェルさん。朝、というか、夜中からごめんね?」
「ううん。交易が活発になればうちの宝石ももっと売れるから仕事して来いとおかーさんに言われました!
 なら、仕方ないよね。でも、何だか不穏な様子? わたしはあんまり詳しくないからシャームロックの話は知らないなあ」
 里長である琉珂ならば昔話にも精通しているだろう。だが、ユウェルのように点在する集落出身であればその昔話を知らない者も多い。
「道すがらでいーけど、琉珂さとちょー! シャームロックのお話をもう少し詳しく教えてもらえないかな?
 シャームロックは石になったって言われてて、皆のファミリアーも石になってる。これは関係がありそうだとわたしの勘がいっております!
 もしかしたら言い伝えにもう一体石に関係ある何かとかいるんじゃないかな?」
「そうね。私も文献を改めて調べたの。私が知っている伝承以上に何かないかな、って。
 今日は専門家でフリアノンの天黎さんもいるし……ゆっくりと話しながら向かいましょうか。
 玉髄の路まではもう少し……だけど、そこまでは危険も少ないでしょうしっ」

 ――今は昔、シャームロックと呼ばれる二対の亜竜が居ました。
 それらは番の対同士で片翼ずつの翼を生やし、一匹が天を、一匹が地を護るようにと宿命づけられていたそうです。

「二対って事は4匹だよね、里長」
「ええ。本当はね。……でも、ああ、そうか……『玉髄の路』には一対のシャームロックしか存在しなかった」
 天黎の言葉に耳を傾けながら琉珂は『その言葉』で何か思い出したように古びた文献を取り出した。

 ――天を護る二匹は互いに手を取り合い空へ。地を護る二匹は互いに手を取り合い地を護りました。
 玉髄の路に住まう其れ等の種を『シャームロック』と呼んだそうです。
 ある日、『シャームロック』は薄桃色の竜種と出会いました。『シャームロック』は言います。
『我らはもう、草臥れてしまった。互いが番を失ってしまったのだ』
『それはどういうことでしょう?』
『この地を荒らす物が訪れた。番はヤツを追っていったのだ。ヤツを倒さねばならないのだ』
 その言葉を聞き薄桃色の竜種は『勇者なる者』を招き入れました。彼らは奮闘し、この地に住まう魔物を退治したのです。
 ですが、砕け散った互いの番は二度とは戻りません。
 それでも、天を護るシャームロックと地を護るシャームロックはこの地に存在しています。
『番は何処に行ったのか。我らがこの地を永劫に護ろう。番がまた舞い戻るときまで』
 その時、勇者が退治した魔物の欠片がシャームロックへと囁きました。
『お前に永劫を与えるために石にしてやろう。番が帰ってくるまでの間だ。なあに大丈夫。いざとなれば私を倒せば良いのだから』

「その欠片が今から皆で調べる驚異?
 その魔物のせいで『二対』なのに『二匹』しかいなかった?」
 首を傾ぐユウェルに『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)は「番を待つために、望んで石になったのか……」と呟いた。
「そう、かも」
「シャームロックというのは種族の名前で番の翼を持って生まれてくるんだね。ロマンチック!」
「ああ。けれど、その番を失ったのだとすれば……どれ程に悲しかっただろう」
 ウェールが心を痛めて俯けば、『希う魔道士』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は「着いたね」とくるりと振り返った。
「あれが獅子のような二対の亜竜。今はそれぞれが『片割れだけ』の……興味があるから来てみたかったんだ。僕も色々頑張るよ。
 今は無理でも、いつの日か……『玉髄の路』の星空も見てみたいから、ね」
 シャームロックに挨拶をしようと進むヨゾラにウェールは頷いた。
 彼らはこの地を護る為に佇んでいるという。この地を害する不届き者を決して赦すべからずとした彼らには先遣隊も礼を尽くしたのだ。
 シャームロックの瞳を覗き込み、誠意を示し、表する様にヨゾラは片膝を付く。
(……瞳、綺麗だなぁ…石になってなお、凛々しい姿を保ってる。
 獅子のような獣と聞いているから、石になる前は綺麗な毛並みの美しい獣なのかも)
 獅子を思わせたその姿に、美しき片翼を生やした異形の獣。亜竜と呼ばれたモンスターでありながら、ヨゾラが感じた威圧感は高潔なる存在であることを表しているのだろうか。
「初めまして、二対の亜竜シャームロック。ヨゾラって言います。この地を荒らしたりはしないから、安心してください」
「はじめまして。宜しくお願いします。シャームロック様は何が好きなのでしょう? ベッツィータルト、お好きでしょうか?」
 お供え物のように『おかえりを言う為に』ニル(p3p009185)はそっと置いた。その場に置き去りにすることが不味ければ、あとで『おさがり』として皆で食べれば良い。甘いものは疲れに効くと瑠貴が堂々と告げて居たことがふと頭に過った。
「初めまして。ユーフォニーです。この地へ踏み入ることをお許しいただけないでしょうか。
 おふたりに害をなすことはしません。もし困っていることがあるのならお力になりたいです。どうか、よろしくお願いします」
 緊張しながらドラネコさんと一緒に挨拶をするユーフォニーに続き、『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)は穏やかに声を掛ける。
「私の名はルブラット・メルクライン。異邦人たる事実は認めるが、この地を害するつもりはない。
 どうか、私がこの地を闊歩することを――許さなくとも構わないが、私以外の者の善意は認めてもらいたい。そう、思っているよ」
『初めましてこんにちは。愚弄とか蹂躙などの粗相をするつもりはない……。
 フリアノンの人達が自分達で頑張ろうとするのを手助けに来た。騒がしくしたらすまない』
 念話を用いて挨拶をするウェールは柔らかな声音を心掛けた。
『それと、夜に何があったか知らないだろうか? お二方を石にした方との逢瀬を聞くのは野暮かもしれないが。
 俺達が置いた物は壊したけど、お二方に何の変化もないなら少しは話す余地があるかもしれない。
 最終的に争う事になるとしても、今までお二方の代わりにこの地を守っていたかもしれない誰かさんを、ただ脅威として討伐するのはなんか嫌なんでな。
 それとすまないが無機疎通をお二方に試させてもらうな』
 念話をするウェールに応じる声はない。どうやら、シャームロックは無機物とは言い切れないのだろう。
「リュカちゃん! お手伝いに来たよ!」
 にこやかに微笑みかけた『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)はぱちり、と瞬いてから渓谷の様子を眺めた。
「ここが拠点にしてる場所、そしてあそこにいるのがシャームロックなんだね!
 じゃあまずはご挨拶して……っと。炎堂焔です! しばらくこの辺りで活動すると思うので、よろしくお願いします!」
 丁寧に頭を下げる焔は活動開始前に皆の話を聞いて情報を集積させておこうと張り切った。
 この地に起きた『異変』は確かに『今』も尚、騒がせるものなのだから。


「おいっすー! ちゃんと仮拠点設営のお仕事は捗っておるかねー」
 ひらひらと手を振って遣ってきたのは『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)。
「ガハハ、私ちゃんは見ての通り社長出勤だぜ。ちゃん琉珂にもカッコイイとこ見せちゃうぜー? うぇいうぇい!
 おおっと、やべーやべー忘れてた。初めましてちゃんはシャームロックちゃんに挨拶しておくのが伝統なんだっけ?
 うわー…でけー…とっても怖いとかいうやつじゃあないんだわ! これは浪漫では? ……フフフ、敬意を伝える方法がねぇ」
 皆に任せて「こんにちは」しておけばOKだと告げる琉珂に「ちゃん琉珂がそう言うならそうだ!」と秋奈は頷いた。
「ま、見といてよシャームロックちゃん! 謎の存在の正体、私ちゃんが暴いてやっからよー!」
 返事があるわけではないが声を掛けておくのは大事だと軽い挨拶をする『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)はひらりと手を振る。
「今回も邪魔するぜシャームロック」
「あー、シャームロックさん。お邪魔しゃーっす」
 丁寧に二礼二拍手一礼で挨拶を行う『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)と言えば、挨拶の為に佇んでいるベネディクトに「べーやん、どうにも驚異なんてものが居るみたいだぜ?」と肩を竦めて声を掛ける。拠点設営も大事だが『ヤバ』そうな何かが居る事が問題だ。
『黒狼』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は小さく頷いてから、己達が行うのは驚異への対処だと膝を突く。
「今回もお邪魔をさせて貰うよ、シャームロック。願わくば、我々の行動があなたの思惑に沿う様に」
「きっとここは変わるだろう。だけど、荒らすことはしないよ。手段は違えど、守りたいって気持ちは同じだと思うからさ」
 変化しないのは護る手段の一つだが、護る為に変化を求められることもある。『欠け竜』スースァ(p3p010535)は物言わぬ石竜を眺めやってからゆっくりと立ち上がる。
『特異運命座標』玉 髄(p3p010370)は「さて」とシャームロックらの前に膝を突いた。
「彼等の統べる地に赴き陣を築こうとしている身の上だ、此方も誠意を見せるのが筋というものであろう。
 我とて少々長い期間眠りから覚めたばかりだが、同族に対する礼儀作法まで頭から抜け落ちるほど寝惚けてはおらんわ。
 それに……肉体が石と化す者にはシンパシーを感じてな。なに、貴殿等は美しいが、獲って食ったりはせんわ」
 からりと笑った髄は食糧として金属や鉱石、骨を摂取する事がある。揶揄うような言葉を発してみせる彼にシャームロックが言葉を発する事は無いが語りかけるのは悪くはない。
「そうだな、少しの間昔話でも聞かせてはくれまいか? 貴殿等が護ろうとしている、この土地についてだ」
 しん、と静まる髄の傍らで琉珂は「伝説でしか分からないなんて、少し悲しいわよね」と肩を竦める。
「伝説ならば何と言っていた? 『いざとなれば私を倒せば良いのだから』と」
「ええ。ええ――! なら、この地の驚異を倒すことが出来たなら!」
 そうよね、と瞳を輝かせる琉珂に『ベンデグースの赤竜』シャールカーニ・レーカ(p3p010392)は「そう上手くいくだろうか」と肩を竦める。
「……石となったシャームロックに、現実に存在した石化を齎す外敵か……。
 どうもこれは、一筋縄では終わらない話らしいな。驚異を追う者たちの勇気に幸あらんことを願う。
 イレギュラーズの先達は、やはり逞しいものだな。……この手にもう少し力があれば、調査に赴くと言えたのだろうか」
 冒険者としての在り方で情報を収集し、驚異の撃破を心掛けるイレギュラーズを見れば憧れを抱くとレーカは眩しいものを眺めるように目を細めた。
 拠点の構築も一大事だ。ラサの商人にああやって告げたのだから、調達した建材を使って効果的に陣地を構築したいというのが今回の狙いだ。
「度々の来訪、宸襟を騒がせる事になり申し訳ない。我が身がその瞳に値せぬ事をした時は、躊躇なくその爪牙にかかろう」
 間借りをしている身であるとレーカは改めてシャームロックに挨拶をした。皆が挨拶を終えたところで『自在の名手』リトル・リリー(p3p000955)は改めて『宜しくお願いします』と挨拶してからファミリアーの鳥を二匹、放った。
「……まずいものに気づかれちゃった気がする。ここは……追跡してみるしかないねっ。
 幸い、相手は尻尾か身体かはわからないけど、引きずって移動してるみもたいだからなんらかの跡はあるはず」
「……面倒な事になりそうですね。とにかく、何か無いか探しましょうか」
 隠密をしてサポートをするとリトル・ライはリリーの補佐役に回る。『まずいもの』という言葉に大きく頷いたのは『梅妻鶴子』梅・雪華(p3p010448)。
「あーあひでえ。……ファミリアやら式神だけを石化させんならともかく、これで一つはっきりしたな。
 奴さん俺らを歓迎は……まあ、少なくとも茶菓子を出すような気はねえってってことがさ」
 肩を竦める雪華は引き続きの作業進行は式神に任せると乱雑に「おら、急急如律令だ」と新たな式神を小突いた。
「歓迎されていないことは分かりきった話だったな。どうやら生き物を石化させるバケモンは実在してたみてえだな。
 教えてくれたシャームロックの旦那サン方には感謝するとして……話の通じる相手なら良いがねぇ。これはムリカね」
 わざわざ夜に動いているのだ。陽のある内は寝ているか動けない理由があるのだろうと『桜花絢爛』祭・藍世(p3p010536)は嘆息する。
 藍世が言う様に夜にのみ現れた『驚異』だ。日中は何らかの理由があるとすれば、それが本領を発揮する時間に接敵する可能性もあるのだ。
「路に残された形跡だけで良かった。路への移動中に奇襲があるのではと考えたが……朝日が差せど渓谷の光だけでは視界に不安も多い。
 ……安全の為に明かりはあった方が良いと思う。今回も光源の役割は任せてくれ」
「いいの?」
 薄明かりを身に纏う『霞流陣術士』霞・美透(p3p010360)に危険だけれど、と不安げに呟いた琉珂。くすりと笑ってから美透はその頭をぽんと叩いた。
「信じるといったからには、私も務めを果たすとも。良ければ、琉珂君も私を信じて欲しい。『驚異』の正体に少しでも近づいてみせるさ」
「ええ。物損もありましたしね。これは物理的な脅威のようですわね。祟りのようなものを想像しておりましたわ。
 ……薄々と気付いてはいたのですけど、わたくしったら、どうやら相応に迷信深いみたい」
 くすりと笑った『星の巫兎』星芒 玉兎(p3p009838)に「竜のオバケ!?」と嬉々として震え上がったのはウテナである。
「いえいえ。どうやら物理なのでその線はありえませんもの。
 さて、破壊の痕跡から察するに、脅威はどうやら意思ある何者かである様子。交渉できるならば、そうしたいところですけど。その余地はあるかしら?」
「交渉か……」
 膝を突き残されていた後の確認は設営中の仮拠点の様子を隈無く確認していた『竜剣』シラス(p3p004421)はさてどうだろうかと首を振る。
「わざわざ設営中の仮拠点設営を壊して帰ってるから知恵もある。
 竜種ではなく亜竜にも強くて頭が回るやつは何体か見たことがある。今回もそういう相手だと思っておこう」
「そっか。あれが『驚異』……はっきりとはわからなかったけれど、それでもただの魔物でなさそうな雰囲気は伝わってきたね……」
 シラスが多くの松明を設置しておいたが周囲をぐるりと回ったわけでもなさそうだと告げれば『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は「目に付いたモノを倒したんだね」と頷く。
「ファミリアーも……ごめんね。危険なことをさせてしまって……必ず、『驚異』の正体を暴いてここを安全な場所にしてみせるよ!」
「ああ、アレクシアのファミリアーも犠牲になったし、見過ごしておけないな」
「うん。少し騒がしくしてしまってごめんなさい……でも、もしもこの地にいるものがあなたの敵なら、どうか私たちにもここを『護る』ことに協力させてほしいんだ」
 願うようにアレクシアはシャームロックを眺めた。集中し『彼ら』を見遣れば輝きが感じられた。それはアレクシアが世界より給わった贈り物(ギフト)による効果だ。
「シャームロックはまだそこで見ているのですね。
 恐らくシャームロックと『脅威』は、少なくとも別の意図を持つ存在であるだろうと予想はしていましたが。
 前回の調査で確証を持てたのは一歩前進なのです。未だに正確な関係性は不明なのですが……」
 琉珂が改めて『洗った』伝承によれば弱り目に祟り目と言うべきか、番の復活を待ち望んだシャームロック達が『悪い魔女』に誑かされたかのような状況だ。
「伝承を信じるにせよしないにせよ、岩を砕くほどの物理的な力を持つことはだけは確か。
 シャームロックが未だに砕かれていないということは、やはり彼には脅威に抗いうる何かしらの力があるのかもしれません」
『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)はまじまじとシャームロックを眺める。
「シャームロックが物理的に睨みを利かせているはずの方角から来るのはどういう了見なのか。あるいはシャームロックの眼差し自体が、彼なりの警告なのかもしれませんが」
「きっと、警告と、もう一つ。シャームロックは目線だけで厄介な敵の場所を示してるんじゃない? クーア。
 ただ暴れ能力を振るう凶悪な獣であるなら良いのですが、わざわざこのシャームロックとやらが睨みを効かせる方面が来るというのが気がかりです。この痕跡が警告や誘導ではないか、そう考えると私は追いかけるのは少し怖いですね」
 ねえ、と肩を竦めた『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)は『酷い』と雪華が行った惨状を眺めてから大仰に嘆息した。
「おや、おや、まあ、まあ。見事にボロボロ、元の出来栄えを知らないからいいですが、完全に私の苦手な二度手間待ったなしな状態ですね……お手伝いはしますが、厄介な驚異とやらはどうしたものか」
 現状では対策を打つしかないかと『帰ってきた放浪者』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)はシャームロックに酒を供えてからうん、と伸びをする。彼が目的とするのは陣地の構築と罠の設置だ。
 襲撃者に供えての鳴子や落とし穴を裂く前に設置し、襲撃者対策を万全にする。拠点の管理を行う際に罠の位置を示しておくのも重要な役割だ。
「さて、そんじゃあ襲撃に備えた罠でも仕掛けるか」


「よっしゃベーやん、パパッと作業終わらせて追跡と行くか!」
 千尋は資材の管理台帳を作成し、マニュアルを添えた。誰が見ても簡単に資材管理ができるようにと言う気遣いだ。
「跡を追いかけるにせよ、先ずはやれる事をやってしまおうと思うんだ。千尋はどうだ?」
「オーケー、べーやん! この台帳さえあれば大丈夫だぜ!」
 ベネディクトはトラブルが発生して作業を中断せざるを得なくなるケースもある筈だと、千尋とある程度の作業を続けていた。
 その一つがこの資材管理だ。例えば、レーカが持ち込んだ資材なども千尋が一括で管理することで不足を詳細に知る事が出来る。
 そうして作業が終わってしまえば、ワイバーンと共に空中寄りの索敵が行えるという訳である。
「『脅威』はシャームロック様の味方なのでしょうか。それともシャームロック様にとっても敵、なのでしょうか。
 ニルたちがここを荒らしに来たと思っているなら、荒らしたいと思っているわけじゃないって、伝えられたらいいのでしょうか……」
 悩ましげなニルは設営の手伝いをすると木馬で千尋の作った帳簿を確認しながら資材を運び入れて行く。
 自身のファミリアーの片割れはベネディクトのワイバーンへと載せて貰った。そしてもう一方は焔やシラスたちの同行に付き添うようにする。
「ふたりでひとつのシャームロック様。石になってでも、石になってもなお一緒で……守りたいもの、守りたい場所。
 ここは、そういう場所、なのですね? ならニルも、ここを守りたいのです。
 これからもずっと、見守っていてほしいってきもちと、ニルたちが守るから、ゆっくり休んでくださいってきもち。どっちも、ニルの本当です。
 もしも『残る二匹を待っている』のが本当なら、ニルも一緒に待ちます」
『二対で一つ』
 その言葉を口にしてからヨゾラは「それぞれに名前はあるのかな?」と首を傾いだ。ファミリアーで猫を召喚し、周囲を監視してもらいながら設営の手伝いを行う彼は名前がないのは可哀想だと呟いたのだ。
「二対の獣をずっとシャームロックって呼んでるけど、それって詰まりは種族の名前ということだよね?」
「ふーむ。お名前は、どうなんですかね? 識別するためにシャームロック達が呼んでるかも知れませんよね」
 改めの自己紹介と挨拶をしたウテナは朝から夕までシャームロックの相手をして世間話に華を咲かせ、出来れば声が聞こえないものかと考えていた。
「まあ、ダメもとでもめげないハーモニアなのでいいんですけど、シャームロックさん話ません?
 うちの故郷が最近茨で覆われちゃって大変なんですよね!ㅤまぁそっちはそっちでなんとか対処してるっぽいので問題ないですが!」
 にんまりと笑うウテナはなんとかシャームロックの返事を待っていたかった。ノイズでもなんでもいい。
「……もしできるなら、この地の『驚異』について教えて欲しいんだ。喋れなくて良い、思い浮かべるだけで……私が読み取るから」
 眸を見ながら問いかけるアレクシアは僅かにその人実に何らかの変化があるように感じられた。
 ダメでもともと。シラスは「アレクシア、余り変化はなさそうだよ」と肩を竦め、焔は「どうして変化しないんだろうね?」と首を傾げる。
「でも、ちょっと『悲しそう』」
「え?」
「あ、ううん。何となく……リーディングで思考を読めるかってウテナさんも試してたけど、同じ気持ちにならない?」
「あーー、はいはい! なりました」
 うんうんと頷くウテナにアレクシアは「そうだよね。どうしてかな」と小さく呟いた。
 シャームロック側からの情報を得られるのが一番だ。特に『二対』というのが引っ掛かる。
「あと二匹のシャームロックさんは何処に行ったんですかね? あ、もしかして、その目で追いかけているとか――」
「あり得なくはない!」
「おっとぉ、ビックリしたんですが?」
 がばりと身を乗り出した天黎にウテナは頬を掻いた。ぱちりと瞬くヨゾラは「それってどういう?」と首を傾げる。
「驚異の方向を見ている事を『警告』とか『誘導』とさっき、あの人が言ってたでしょ!?」
「え、あの人って私です?」
「そうそう。お名前は? ふむふむ、『利香ちゃん』!」
「距離が近いんですけど」
「利香ちゃんさんが言ってた通り、誘導してるんじゃない? シャームロックはあと二匹居て、驚異を追いかけていった残り二匹――さっき、ユウェルさんが質問してた通り、伝承漁って貰ったら『番』って言ってたから互いの番なのかも――の居場所を示しているとか!」
 たじろいだ利香の手を掴んでぶんぶんと振る天黎は興奮していた。クーアといえば「凄く勢いが良いのです」と困り顔で利香の隣に立っている。
「ははーん。それも『残った痕跡』を追いかけることで分かりそうですねえ。現場検証してみて、松明の破壊痕とか諸々でも分かりそうですし」
 ウテナはうんうんと頷いてから「シャームロックさんもそう思います?」と目を覗き込んだ。心とか読めちゃう系ハーモニアはシャームロックの変化を見守り、出来る限り情報を掴もうと考えていた。
「『薄桃色の竜』も何者なんだろうね。情報からすると、亜竜種さんじゃなくて竜か亜竜みたいだけど……。
 かの竜が『脅威』じゃないといいな。呼び声による狂気や反転だったら……やだなぁ」
 ぽつりと呟くヨゾラにレーカは「それは『勇者の伝説』ではないか?」と問いかける。勇者の伝説、それは覇竜では時折語られるフリアノンの秘話だ。
「『薄桃色の竜』って何だかおねむくんみたいだね」
 痕跡を追う準備をしていた焔に「おねむくん」とレーカとヨゾラが顔を見合わせる。R.O.Oでイレギュラーズが仲良くなった竜種『オルドネウム』が薄桃色の竜だったのだ。
「なら、本当に勇者がオルドネウム(仮)に連れられてきたかも知れないんだ!」
「ああ。そちらは余り不安視しなくてよさそうだな。どちらかと言えば……」
 ちら、と琉珂を見遣ったレーカは設営の合間に食事を作り調査隊の軽食を作っておこうと作業を進めて行く。
 レーカの視線の意味に気付いてからヨゾラは『似ている』と改めて感じていた。
 薄桃色の竜が、シャームロックの為に勇者を招き入れる。
 薄桃色の髪をした亜竜種がシャームロックに敬意を表し、イレギュラーズを招き入れている。
 イレギュラーズを勇者と置き換えたならば、起点は違えど似ている。
(シャームロックの瞳は生きている。意志も、魂も存在するのかもしれない。この地をずっと見てるなら、害成さぬものも石にしている『脅威』の事は、どう思ってるんだろう……)
 ヨゾラはシャームロックの身体を撫でてから嘆息した。
 シャームロックは伝承の通りならば本当にこの地を護る為に石になった。ならば、悪戯に石を作り続ける『脅威』のことはきっと煩わしく思って居るはずだ。
「正体不明の襲撃にも備えなきゃならんが、そいつ以外の外敵にも対応もしといて損はねえだろ」
 周囲を荒らしていると言われてしまえば仕方が無いが、バクルトは念には念を入れておきたいと考えていた。
 利香はクーアと共に仮拠点の設営を続けている。シャームロックに出来る限りの礼を尽くし、その庇護があるか分からないが生命線になるかも知れないと考えるクーアは統率するように指示をする利香をちら、と見やる。
「ふふ、何も激を飛ばすだけが統率じゃないのですよ、ここの特産があればそれで美味しいスープを作ってもいいですねっ! カボチャはないですけれどね、ふふ!」
「お願いするのです。さて……我々はどのように拠点を防衛するか。
 拠点を作ったそばから破壊されるのは困りもの。賽の河原で石を積むようなものなのです。石にしてくるのは彼方なのですが。
 たとえば地下にいくらか資材を埋めるなりして保護するわけにはいかないでしょうか? それに対する対応で相手の能力も推し量れるでしょうし」
 食事の用意を利香に任せたクーアにバクルトは「其れも良さそうだな」と頷いた。利香はと言えば「相手の知性や能力を推し量れるような構造にしても良いですね」と大仰に頷く。
「クーアの言うように地下室を設け保護するもよし、バケツの様なものに水を入れ資材を破壊する際にぶちまけられるように簡易的なトラップを作る、というのもいいかと思いますが……」
「相手の水耐性も気になるところ。近くの川から水を引っ張ってくるなりして、簡易的な水堀なんか作れないでしょうか?」
 水堀を簡易的に作っておけば、水を厭う相手ならば少しの足止めにもなろう。
 クーアと利香の意見に同意しながら、バクルトは川に設置した罠で魚を獲れるようにしておいたとっひょこりと顔を出した。
「水堀を作るなら此の辺りが良さそうだぞ。暗くなる前には戻っておくべきだな。
 調査に行ってるやつが良い収穫を得られると良いが。しかし、引き摺った跡か……さては蛇の類か……? 全く分からん、調査結果を楽しみにするか」
「蛇かもしれないですねえ」
「蛇っぽい亜竜もいるのです」
 うんうんと頷く二人にバクルドは一先ずは川も拠点の一部として捉えてしまおうかと作業を進めることとした。
「……壊されてばかりと言うのも、困ったことだな。式神は石化させられたが、無機物である筆はそのまま残っていたのだろう?
 拠点設営を行うと聞いて、監視カメラを持ってきていた。これならば正体不明の『驚異』の姿を、うまく捉えられるのではないかな?」
 胴だろうかとルブラットはカメラの設置を提案した。ポータブル式の充電で使用できるカメラならば電源の存在しないこの場所でも多少は役に立つだろうか。
「もしかして、筆やカメラが何か分からなかったのかも知れませんね?」
 作業を手伝うユーフォニーにルブラットは確かに、と合点がいく。
「ならばコレもどうか壊れないでほしいものだ。……決して、安い値段ではなかったから」
 呟いたルブラットにユーフォニーは「設営したこれも壊れないで居て欲しいですね……」とドラネコたちと共に手伝う拠点を眺めやる。
 水、魚の跳ねる音、石ころの音。色々と気になっていた。雪華の式神が持っていた筆が残したのは『~~~~』という線だけである。
「これって蛇など身体的な特徴を指しているんでしょうか?」
「さあ、どうだろうか。何にせよ、引き摺った痕からも蛇の可能性はありそうだ」
 ルブラットにユーフォニーは「難しいですね」と呻いた。
 ルブラットにとって数ヶ月前に思って居たよりも随分とこの地は思い入れがある場所に変化したように感じられる。
 普段の生活と比べては無理に馴染む努力を必要と為ず、覇竜では落ち着いた心地で客人として振る舞えるのが案外、楽なのだろう。
(……まあ、多少は報いようとするのも、悪くない話だな)
 穏やかな心地になったルブラットの傍でユーフォニーはシャームロックの目を覗き込むドラネコに「どうしたの?」と声を掛けた。
「……」
 ドラネコがこてんと首を傾げる。先程の話の通りに、二人きりで『二匹』を待っているとするならば。
「……シャームロックさんは、騙されてしまったんですか……? その『何か』やこの地に対して…おふたりは何を思っているのでしょうか。
 雨の日も風の日も、ずっとここにいるんですよね。どうか……おふたりが心穏やかに過ごせていますように」
 その手伝いが出来ていれば嬉しいとユーフォニーは目を細めた。
 髄が運搬を行う事をサポートするレーカは「そろそろ何かに辿りただろうか……」と空を眺めやる。
 調査隊一行は何処に辿り着いたか――さて。


「目標の設定としましては『破壊痕を辿って脅威の住処に至り、脅威が何者であるかを確認して、これと交渉を持つ』ですね」
「会話できる相手かどうか、もあるけどね」
 うーんと首を傾いだユウェルに玉兎は小さく頷いた。破壊感を見る限りも巨大だ。十分な広さのある洞穴ならば直ぐに見つかりそうだが、そう易々と存在するであろうか。
「あちらは拠点を見て此方の存在を認識している可能性はあります。勿論、わざわざ生物を破壊して行く知恵があるのですもの。
 わたくし達の追跡を予見し、待ち構えている可能性もありますわね。……光を嫌う性質であれば、不興を買う事になるでしょうし」
「まあ、なあ。けど、痕からして飛べねえか、普段は飛ばねえかだと思う。引きずった跡の外に足跡が無いんなら手足が無えのかも。
 行く道にあるテントや式神共こそ排除してったが、奴はそこを執拗に荒らしまわって行くことは無かった……ただそこにある闖入者を無造作に排除しただけ。まだ俺らは、脅威とは看做されてねえんだろうな。それとも『脅し』でしかないか、だ」
「脅し?」
「ああ。脅しだ。俺らに存在をアピールして、此方の動きを見ている可能性さえある」
 雪華にスースァは「成程ね」とと呟いた。完全な単独行動は避けておこうと考える彼女らは『持って帰って貰わねばならない』可能性も考慮していたのだ。
「脅威を追いかけるか。『驚異』が夜に活動するのなら朝昼夕は洞窟などにいる可能性は十分にありそうだな」
 洞窟などに入る必要があるだろうかとウェールは夜になる前に仮拠点に帰れる距離を考えていた。
「石化……が怖いけど、怖がってるだけじゃ前に進めない。
 とはいえ警戒するのは大事だから、ファミリアーどっちかが石化した瞬間にもう片方を空中に飛ばして空から警戒するよっ。せめて姿だけでも見てやるから!」
 やる気を漲らせるリリーは今回接敵して戦うのは分の良い賭けではないと考えていた。
 せめてその姿を見て対策を講じ、夜でも良い。体制を整えてから先頭に赴くべきだ。話が『通じない』事を前提に接しなくてはならない。リリーの感じる焦燥にライも同意するかのようである。
「……そうでもしなきゃ、ここを交易路に使うなんて、無理だろうから……。一番の目的は、それだからねっ」
 脅威を斥けなくては交易路には使用できない。リリーがやる気を滲ませる傍らでシラスは「脚のない幽霊の類いじゃなくて良かったな」と笑う。
「あちこちの伝承でも石化の怪物と言えば蛇が定番だ。巣穴のような住処でもあるんじゃないだろうか?
 居場所を突き止められたなら夜に敵を待つのではなく昼間にこちらから仕掛けられる」
「巣穴を見付けたらファミリアーを飛ばして索敵してみよっか」
「そうしよう。引き摺った痕を探して……それから、其れを追いかけて『脅威』が居るという情報を得てから立て直そう」
 シラスは戦うには備えが足りないだろうと共に進む仲間達へと提案した。先ずは『何かを引き摺った痕』からの対応だ。
 日中にどこに居るか分からない以上は慎重に進まねばならない。アレクシアが息を呑み、別の角度からも痕跡を確認出来るようにとファミリアーを飛ばす。
「ここは覇竜領域だからね、追ってる相手以外にも危ないことはいっぱいあるし。色々気をつけよっか。
 だって、夜に活動してたってことは、夜行性? だよね。今襲いかかってきたら、別の存在だよね」
 焔は神の使いを前線に配置してそろそろと進む。それらしい相手の姿が見えたならば、それを観察し一度は撤退。夜の動きを確認するようにと考えていた。
「美透ちゃん、深追いするんじゃないぜ!」
「ああ、有り難う。そうだな……あまり先に進みすぎると危険だ」
 光源の役目を担う美透を気遣う秋奈は何かがあれば美透を担いで全力で逃げると決めていた。『ワンチャン』目指すのは生態確認だが其れに至らずとも存在を視認しておけば目標は達成とも言える。
「ディルクのアニキも言ってた。一番面倒くさいのは慎重で臆病、その上頭のいいヤツだ……ってな」
 ルカは痕跡を追いながらぼやいた。昼を避けるのは確かに『光が苦手』という可能性もあるが覇竜領域という場所である以上は、容易に結論を出しづらい。
「脅威が避けてんのは水だな。水場には近寄ってねぇ」
 シラスが作っていた松明の痕を見る限りは水を拠点に引き込むことも悪い事ではなさそうだとルカはぼやいた。
 ラサのことを思えばルカも販路を開きたいが、それ以上にこの場所を愛したシャームロックを安心させてやりたいという願いもある。
『二対』とは、と疑問の持った仲間が居たように――『それぞれがもしも片割れを失い、脅威のせいで戻ることが出来ないのなら』
「……さっさと倒してやらなくちゃな」
 呟くルカに「ああ、俺は上から見てくるが何か気になることはあるか?」とベネディクトが問いかける。
「琉珂が『空は別の危険があるから気をつけて』だってよ」
「ああ。承知した。千尋、俺たちは低空域から確認しよう。一緒に乗るか?」
「タンデムと行こうぜ!」
 ヒューッ! とやる気一杯にテンションを上げた千尋にベネディクトは頷いた。ルカがひらりと手を振れば二人は宙へと浮かび上がる。
「ここの生態系? ってのがどんなのかは知らねえけどよ、這いずる哺乳類ってあんまり聞いたことねえんだよな。やっぱり蛇とかか?」
「蛇か……あり得なくはないな。この様な渓谷と川がある事から、俺は洞窟や川の中を通った所に脅威が居るのではないかと考えていたんだ。
 だが、川の中を通った様子は無いとの事だから何処かに身を隠せるような場所があるのだろう。身体も小さくはないし、見付けられそうではあるが……」
 ある程度の高度を保っての確認作業に赴くベネディクトに千尋はうんうんと頷いた。
「蛇って穴掘るみたいだからそれっぽい穴の跡とかねえかなあ。あとはあれだ、爬虫類だったらなんか抜け殻が無いかとか」
「はは。確かに脱皮する可能性はある。……それに穴、か。狡猾な存在ならば寝床に繋がる無数の入り口を有している可能性もあるな」
 ベネディクトのつぶやきに千尋は大きく頷いた。ただし、御伽噺などで出てくる蛇は目を合わせることも危険である。
 空に「おおい」と声を掛けた雪華は「あっち、何か『穴』があるぜ」と指差す。
「何かを引き摺った後を追ってきて穴。嫌な予感がするね」
 スーファの呟きに小さく頷いたのは藍世であった。
「水場に入らないのは……水が苦手な属性なのかな? 亜竜種にはそれぞれに属性があるから、他にもそういう生き物がいるかも?」
 シラスが言った通りに石化していたのは『決まった方向の設置物』だけだった。アレクシアはわざわざ『生物』を破壊した上で、進行方向に逢った者を破壊したのだと納得する。
 周囲に少しばかり生えていた草木の怯え方を感じ取り、擦り切れ、葉も茂っていない場所を『脅威』が進んだことを認識した。
 そして辿り着いたのがこの洞穴ならば。イレギュラーズは全員で進むしかないのだろう。
「ねえねえ、音がする」
 ユウェルが耳を欹てれば、藍世は「水場は近くにあるかね」と振り仰ぐ。
「在りそうだな。これを使えばいい。……それで?」
「雨くらいなら祈祷しといてやるか。ま、雨乞いなんざ確率だけどよ」
 個人的には対話が出来れば良いと告げた雪華にスースァも藍世もそうだと言わんばかりに頷く。
「そういえば気になる点が一つ。
 シャームロックは今もその眼孔に『光を宿す』という伝承だ。しかし見た感じ特にそういう様子は無いだろ?
 シャームロックの目がどうしてそんな風に伝わっているのか知っておきたいんだ。もしかして――」
 シラスは琉珂が言って居たことを思い出す。

 ――二対。

「……此処に居るのが相方じゃないから眸に光が灯らない?」
「あ、かもしれないね。本領発揮できないのかも?」
 首を傾げる焔に「んー?」と秋奈は首を捻った。
「じゃあ、シャームロックちゃんの本当の相方はどこなんだろうね」
 美透を光源として進む秋奈はぴたりと足を止めてから「美透ちゃん、ちょっと光抑えてほしいぜ?」と囁く。
「……ああ」
 美透が感じたのは『嫌な予感』だった。人が通れる程度の洞穴だ。ソレなりの大きさではあるが何方も引き摺った痕がある。
 そこから巨大な空洞に通じているそれだけで、その地に住まう者が何であるかをハッキリと認識できた気がしたのだ。
 雪華は「これが巣穴か」と呟き一方後退する。水の気配は遠離った。成程、ここに『水を厭う者』が棲んでいるのは確かなようだ。
「もし」
 声を投げかける玉兎に『何者か』が動いた。
 暗闇の中を見通す目を持つ者はソレをハッキリ認識したことだろう。
 光は此処では不味いか。玉兎と美透は発光の光を抑えて息を呑む。
「何者かえ」
「おっと、お休みの所を邪魔して悪いね。アタシはフリアノンの祭・藍世ってモンだ」
 藍世は堂々と挨拶をした。販路拡大の為に路を得たいと告げる藍世の言葉を何者かは静かに聞いている。
「そうかえ」
「……かのシャームロックと同じ、この地を愛し、守るもの、か? ……通るだけってのも許しちゃくれないのか?」
 スースァに「いいやいいや」と首を振る。
 ルカが感じたのは奇妙な違和感だ。こんなにもさらりと話を通してくれるのならば、『貿易拠点』を破壊する必要は無い。
「わたくし達は亜竜種と外界の共存共栄を望む者。これは、シャームロックや脅威たる何者かの願うところと、必ずしも矛盾するものではないはず。
 言葉を以て互いの望みを摺り合わせ、妥結出来るならば、それに勝る事は無いでしょう?」
「シャームロック……ああ、外の石礫の事かえ。
 奴らめ、天と地を眺めやるもう『一匹ずつ』を待つために生きて居る奴らかえ」
「やぱりもう一匹ずつ居たのか……」
 雪華はその体に嫌な予感を感じ取り息を呑む。ルカは『兄貴』を思い出す。
 頭がキレるヤツほど面倒くさい奴は居ない。光を控え、出来る限り対話しやすいようにと気遣ったイレギュラーズ達を巣穴に誘い込むようにそれは蠢く。
「もっと近う」
「……」
 振り向いたリリーは首を振る。今は止めておこうと言わんばかりの彼女にアレクシアはシラスと焔を振り返った。
 秋奈はと言えば美透に「下がろ」と囁くだけだ。
「近う」
 もう一度、それが言う。雪華は「やめとけ」と囁き、後方を確認した。
 藍世は「アタシが囮になる」と呟く。いざとなれば肉体さえ確保して貰えればなんとかなるだろうと踏んでいたからだ。
「近くに来たが、なんだ」
「いやのう。シャームロックの話を余所にするなど久方振りでのう。
 ――ほら、見遣れ見遣れ」
 巨大な『蛇』だろうか。その傍によった藍世が大きく振り仰ぎ、息を呑む。
「……シャームロック……?」
 石よりも小さな、若い個体だ。巨大な名蛇を思わす何者かの蜷局の内側に二匹が眠るようにして過している。
 さあ、と血の気の引く感覚を覚えたユウェルは拠点で待つ琉珂を思い浮かべる。彼女が語った伝説はシャームロックへの敬意を表すものであったのに。「勿論、孵って居るよ。奴らの種族は一方が死ねば、たちまちもう一方も死ぬ。
 運が良かったのは『天』と『地』、片方ずつが死に、もう片方ずつが残って生き残った事よのう」
「……さて、どういう意味でございましょう?」
 玉兎の問いかけに『何者か』は笑った。

「――我の餌が伝承に釣られて『こんなにも』沢山やって来よったわ。
 良いぞ。交易。外界の路。繋ぐが良い。そういうことなれば、我はその交易の広場を餌場にしようぞ」

 話しても無駄か、と玉兎が一歩後退する。藍世は「行くぞ!」と叫び走り出す。出来る限り惹き付ければ良い。
 相手は巨体だ。動き出すにも『ラグ』がある。藍世は己の片足に激痛が走ったことを感じる。
「石……」
 だがイレギュラーズである事が効を成したか。それは、完全に女の身体を石化する訳ではなかった。
「走れ!」
 ルカがぐ、と藍世の手を引く。
「これからのためにもきっとこの販路拡大は大事なこと。こんなところで足止めされるわけにはいかない!
 さとちょーも頑張ってるんだからわたしもがんばらないと! この覇竜をよくするために! ――けど、今は!」
 息を呑んだユウェルは洞穴から飛び出し、近くの川へと飛び込んだ。それはスースァが水場を避けていることから考えた退避ルートだ。
「小癪な」
 呟きが聞こえ、水に潜った頭の上に『石』の礫が降ることに気付く。天よりソレを眺めやったのは雪華とベネディクトだ。
 どうやら水がその蛇の能力を阻害しているようである。此の儘地上を行くならば川に沿って拠点に戻れば良い。
「琉珂の許へ急ぐぞ!」
 ベネディクトは直ぐ様に千尋と共に空を駆った。発見したのは『亜竜』だ。
 それも巨大な蜷局を巻く蛇のような存在である。蛇は巨大そのものではある。
 広がった空洞内には収まっているが……成程、『穴』を抜ける際にはその身を小さく変貌させる能力を有していたのか。
 翼を有さぬ其れの傍には『シャームロック』が存在しているようにも見えた。
「べーやん、あれって……」
「ああ。やはり『二対』という言葉は間違いではなかったか。蛇の傍に居たのは片翼の獅子。
 石化していた玉髄の路の者よりも小さいが……成程、石となったシャームロック達のそれぞれの片翼は帰ってきていたのか!」
 ベネディクトに千尋は「でも、どうしてアイツに引っ付いてんだ!?」と目を剥いた。
 黄龍を『乗りこなした』経験もある千尋だ。ワイバーンの操縦は交代だとバランスを生かしてベネディクトの前方へとワイバーンの身の上で躍り出る。
 ベネディクトの肩に手を置いて腕力を活かしてワイバーンの首目掛けて飛び乗れば、勢いの儘にとんとその背を叩いた。
「しっかり掴まってなべーやん! 俺の運転は少々荒っぽいぞ! バイト1時間でバックレた俺の逃げ足の速さをナメんじゃねえ!」

 ――もう日暮れだ。
 洞穴からその身を出さぬそれは唇を吊り上げ笑う。

「夜に待っておれ」
 遠く、離れていく声を聞きながら秋奈は「正面衝突じゃん」と呟くことしか出来なかった。

成否

成功

MVP

月瑠(p3p010361)
未来を背負う者

状態異常

祭・藍世(p3p010536)[重傷]
桜花絢爛

あとがき

 お疲れ様です。
 次回、『何かとってもでっかくて石にしてくる蛇とバトル!』(琉珂風予告)です。
 拠点設営もお疲れ様です。
 頑張って『何かとってもでっかくて石にしてくる蛇』を撃破し、この拠点を活かせるようにしましょう~!

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