シナリオ詳細
<希譚>有柄の海祭り
オープニング
●有柄島伝承
逢坂地区は再現性東京の中でも『近郊地区』にフォーカスを当てた地域である。
神奈川県や静岡県の海沿い地域。『田舎』と漁業村をイメージし作られたロケーションには一つ離れ小島が存在して居た。
ぽつりと存在するその島の名前は『有柄(ありえ)』――
後藤(護島)と呼ばれる人々が守人として島を守ってきているらしい。
蛇蠱と呼ばれた彼等は島を護り続ける。彼等の唯一の神を守るが為に。
[信仰ファイル:01 (著:葛籠 神璽)]
有柄島の神について調査を行った。まず、彼等の信仰する神が何かという部分からだ。
まず、有柄という島の名前が神より借りていると考えた方が良いだろう。地名とは地表の部位や地点を指す場合が多い。『沖の御島』と呼ばれているが本来であれば其方が先に名付けられた地名であり、『有柄』が後天的であると考えるべきだ。
[信仰ファイル:02 (著:葛籠 神璽)]
島に渡ってみた所、快く歓迎された。厄払いであるかを問われ『小芥子』を手渡された。其れを使用しての厄払いを行ってくれるらしい。
神事を執り行うのは有柄の『護島』達だ。その中でも外部からの血を受けぬ者が『小芥子』を島内の祠に祀るそうである。
是非、見せて欲しいと乞うたが決して覗いてはならないと叱られた。余り深入りしない方が良いのは確かだ。
●『海祭り』の日
「……『希望ヶ浜 怪異譚』、通称を希譚です。
この書が実在しているかさえ定かではないのですが、在るとした書物がいくつか刊行されています。
葛籠 神璽という著者の足取りを追えば、必ずその先に『真性怪異』が存在して居ると言うわけです。単純明快でしょう?
そして、こちらが葛籠の残した信仰ファイル。その02を見て下さい」
――厄払いであるかを問われ『小芥子』を手渡された
その記述を確認してから澄原 水夜子は言った。
「屹度、このファイル02は海祭りの日に渡ったのでしょう。今までは、私達を否定し閉鎖的であった島が突如として此方を迎え入れる用意をした。
それが数年に一度なのか、それとも何らかの機が熟したが故なのかは分かりません。
R.O.Oの騒動があった1年ほどの猶予の中で私は暫し、この地区の観察を行ってきましたがこれが初めてです」
水夜子は其処まで告げてからファイルを本棚に直した。澄原家の所有する屋敷の一つなのだろうが、専ら彼女が情報収集した資料の収納場所として使用されているようだ。
あまり生活感のないシンプルな室内で「お茶でも入れましょうか」と告げた水夜子にイレギュラーズは首を振る。
――まず、だ。話をしなくてはならない。
「両槻……『万年桜』の一件は調査を続けます。現状の出ている情報を収集し、逢坂の祭りが終わった後に進みましょう。
今回は『突然』始まった海祭りを逃すわけには行きませんから……」
それでも島に渡ることに慎重であったのはイレギュラーズの『調査結果』が大きく影響していたそうだ。
――海に出る仕事の人に尋ねてみたが……どうやら島には洞があるようだな。
潮の流れで漂流物が集まるような場所だと『特別』な場所になるだろう。
それは穢れの溜まる忌み地かもしれないし、寄り神(漂着物)を祀る祠かもしれない。
蛇が丸呑みにする為に大きく開けた口のようでもあり、死者が現世へ再来する為の、母の産道の象徴であったり……。
蛇の腹の中のようだと何人かが告げた。そう、あの島が真性怪異そのものであったならば易々と身体を真性怪異の胎内に飛び込ませるようなものである。
異界を形成した石神――過去の『真性怪異』とは別の安心感に包まれた逢坂地区。
「今回は渡りましょう。
またとない機会。それに、あれでは『大多数を呼び込んでしまう』……つまり、私達をターゲットにした危険はないでしょう。
逢坂から戻った際には音呂木さんに帰ってきたと告げて下さい。彼女が現実と繋ぎ止めてくれるはずですから。
あと……一つだけ約束して下さい。何かあっても私は見捨てて」
微笑んだ水夜子は早速行く準備をしましょうと家の名義で借りておいたバスを邸宅前へと呼んだ。
其れを利用して逢坂地区まで向かうのだそうだ。
街灯がぽつぽつと減ってくる。
潮騒が近付き、磯の香りが迫り来る。
奇妙なことに、田舎にフォーカスを当てたその地には閉塞感はなかった。
今までの調査も行かせるだろうが、あの時に感じた『進むべからず』と言った空気はない。
寧ろ、歓迎さえも感じさせた。
「奇妙ですね」
水夜子はぼそり、と呟く。
「道を辿りましょう。どうやら、今回は其れが正しい。
海が干上がった……と報告を受けていましたが――ああ、これは違う『道のために海が割れた』んだ」
水夜子はまるで自身等を誘うようだと呟いてから、一歩、『蛇の道』に踏み入れた。
ぐんにゃりとした感覚が爪先から伝わり彼女のかんばせが歪む。まるで巨大な蛇の身体を踏みつけたかのようである。
それでも仕方あるまい。
「行きましょう」
有柄の島に着いたとき、島民は言った。
「よくいらっしゃいましたね――厄払いですか?」
その手には小芥子が握られていた。
- <希譚>有柄の海祭り完了
- GM名夏あかね
- 種別長編
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年05月03日 22時05分
- 参加人数30/30人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 30 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(30人)
リプレイ
●
[信仰ファイル:(欠番) (著:葛籠 神璽)]
有柄、について考察してみよう。
有柄という島の名前がその地に棲まう神格の名を表すものであるとしよう。
では、この地に棲まう神とはどのような存在か。厄払いの『小芥子』より推察してみるのはどうだろうか?
「こけし」の語源としては諸説ある。だが、有柄の調査を行った上で私は最も推したい説を此処に記す。
子の成長を願っての願掛け人形とされることも多いが、外部の人間に『小芥子』を渡すことから『子化身』と字を宛がう事がまず第一だ。
そうして『子化身』となった人形は外部の『有柄以外の人間の因果』を受けて神の許へと奉納される。
ある種、有柄(アリエだとすれば、吉兆占う妖怪の一種だろうか?)の為の贄とも言えよう。
私が海祭りで奉納の儀を見せて欲しいと乞うて断られたのは護島の人間以外ではこの贄の儀には耐えられないと見做されるからであるかも知れない。
蛇蠱であるという『護島』はある意味ではこの神に呪われており、ある意味では加護を得ているとも言えよう。
故に、彼らは島を出ることはない。もしくは、出たとしても逢坂に留まるのであろう。
『子化身』は有柄神に捧げられ、その存在で限られた護島以外の人間の信心を集めている。
神とは人の信仰に救う存在だ。元より、私は斯う宣言している。
――神と言う存在は人がなくては成り立たぬのだ、と。
●
「前回から一年程か」
春風の運ぶ潮の匂いは夏をも混ぜ込み、奇怪な感覚に陥らせる。
先に訪れた際にも春であったかと思い返すのは『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)。
「あれも春だったな。虫も獣も、蛇も目を覚ます春だった。
だが祭はなかった。……我々か、よもや竜種が刺激になったとは思いたくないが」
澄原 水夜子の談。其れより導き出されるのはイレギュラーズが訪れた事が引き金となり島内は騒然としたと言うことだけだ。
だが、一転しての海祭りである。それが周期的な偶然で訪れた祭事であるのかは情報の少なさからも想像は出来ない。
「前回は随分と剣呑な雰囲気で終わったはずなのに……これはどういうことなんだろうね」
逢坂から眺めやれば干上がった海には『沖の御島』――有柄島への道が一筋に続いている。
『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)の困惑に対し、水夜子は「島内の混乱は一先ずは収まった、と見るべきでしょう」と返した。
「信仰ファイルや『希譚』関連書籍……葛籠 神璽殿からは真性怪異全てを殺し尽くすのを望まれているようだけれど、全ての謎を解いた先に何があるのか……興味が無いと言えば嘘になるかな」
――果たして、葛籠 神璽とは何者か。
それが本名であるかそれともペンネームであるかは『なけなしの一歩』越智内 定(p3p009033)には想定も着かないが、『神璽』の名は三種の神器を指している事は見て取れる。大仰にも程がある名前を付ける割には信仰ファイルは平々凡々とした執筆家といったイメージが合った。
ある意味で親近感さえ抱くことの出来る情報の数々。ホラー作家が曰く付きの土地を歩いたエッセイを後から読まされているかのような読後感。
「彼が何者かは分からないけれど、さ。
石神地区には何度か行った事があるけれど、逢坂地区は初めてだ。改めて思うと僕ってヤツは本当に出不精だ、住んでる所以外の事を殆ど知らない。
その割には、この島には馴染みがあるような気がするね。やれ島を右回りに一周すると恋が叶うとか、左回りすると神隠しに逢うとか。
そこは満潮になると道が海に覆われて帰れなくなるような所だったけれど……」
「屹度、『再現』の際に参考にされているんだろうよ」
自身にも何となく覚えがある場所だと『求道の復讐者』國定 天川(p3p010201)は呟いた。彼にとっては現代日本に存在する地名『香川』に蛇蠱と呼ばれる伝承があったことが何となく引っ掛かってしまうのだというが。
「一先ずはこの道を辿らなくっちゃならないのでしょう? そうすることが正解だと、私も予感するもの」
外来者をあれだけ拒否していたというのに外様の人間を受け入れる祭りを開く。
それが、外の地を取り込むためなのか『ナニカ』を広げる為であるのかは定かではないが――少なくとも、だ。
希譚と呼ばれた怪異譚を纏め上げた作家が訪れた有柄である事には違いないと『プロメテウスの恋焔』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は息を呑む。この機を逃してはならないと予感が告げるのだ。
「『蛇の道』、か――以前に見つけた、葛籠 神璽が残した30の断片。
あれらの中に記されていた事が事実ならば。コレは三つ首の一つ、逢坂に繋がったモノかもしれんな」
呟く『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)に「首か」とぼやいたのは『嵐の牙』新道 風牙(p3p005012)であった。
「また、あの島に戻ってくることになったか。巨大な蛇神の懐の内へ……
真性怪異。竜種とはまた別の意味で抗い難い連中。
けど、放置すれば確実に被害が出る。何とか、問題収束の糸口を掴まないと」
呟く風牙は嘆息する。R.O.Oの経験から言えば真性怪異とは誰ぞが生み出した存在とも言えるのだ。
誰かの信仰、誰かの願い、そうした『誰か』と人が他人事として放り投げてしまった感情の行く末がこれだというならば、末恐ろしいものである。
「しっかし、こういうのを生み出してしまう人間の心ってやつ、ほんとすごいというか何というか。殴って倒せるだけ、竜のほうがまだマシかもな」
「物理(にくたい)と精神(こころ)であれば、どちらの方が厄介なのでしょうね。
いえ、精神こそが肉体に影響を齎すのかも知れませんが……逢坂地区でしたか。石神とは全く違うので拍子抜けしてしまいそうですね」
島に存在した小規模な村は提灯明かりが並んでいる。干上がった海を避けるようにして小型の船舶を借りる配慮――道を辿りたくはないというイレギュラーズが居れば、という配慮だろう――を見せた水夜子に礼を告げてから、『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)は眉を寄せた。
「……ですが、油断は大敵と言った所でしょうか? 形は違うとはいえ、真性怪異は存在しているはずですから」
「ああ。そうだな。真性怪異の関わる土地で歓迎ムードっていうのは話が出来過ぎじゃないか?」
何とも、この祭りの様子は胡散臭い。『刺し穿つ霊剣』浅蔵 竜真(p3p008541)の感じる違和感をイレギュラーズの誰もが感じているはずだ。
初めてこの地を訪れた者にとっては他の地域や依頼で関連した他、耳にした情報と現状が懸け離れて感じられるであろう。二度目、であるというならば島民達の否定的な眸に閉鎖的な空気感が欠片も存在しないことに驚く筈だ。
「しかし、練達もまた随分おっかないモノがあるもんっスね」
突然迎え入れるとは一体何を考えての事か。見当が付かないともなれば薄気味悪さが付き纏う。ぼやいた『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)は行くならばしっかりと情報を得てこねばならないな、と頬を掻いた。
「あらあら……よくわからずにお祭りに惹かれてきたけれど。
この感じ、たぶん私が想定していたお祭りとはちょっと趣が違うわね? まぁ、わからないものにあまりてらったことをしてもしょうがないわね。
その場で聞いて、体験してみましょう。ふふ、少しワクワクする、なんていうのは不謹慎なのかしら?」
『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)がこてりと首を傾げれば水夜子は「いいえ」と首を振る。
「人間とは未知に心引かれる存在でしょう。故に、怪異もこうして存在する」
「ええ、そうかもしれないわ。このお祭り自体も未知そのものだけれど……『目に見えない何か』というものは興味を擽るものね」
ヴァイスは早速島へと向けて踏み出しましょうとそろそろと足を運んだ。吹いた春風に紫尾の気配が混ざり込む。これぞ、海にフォーカスを当てたスポットの在り方だ。
人が作り上げた、人による世界の在り方。精霊や、妖精エトセトラ。その他人智及ばぬ存在に人間はどうしてこうも名を付けたがるのだろうか。
●
「行ってはならぬ、呼んでもならぬ離れ島か。よくある『神の住まう島』への対応に近いものではあるが、果たして実態はどうなのだろうか」
そうぼやいた『知識の蒐集者』グレイシア=オルトバーン(p3p000111)の傍で『島のお祭りに参加する』と心を躍らせていたのは『絶望を砕く者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)。少女の中では怪異騒ぎの調査ではなく、単純な海祭りという認識での参加であったのだろう。
「でーと!」
「調査ではあるが……」
「……え。ちゃんと調査しなきゃだめ? お仕事なの? ぶー……」
「あまり、島民に調査と勘づかれないようにしたいところだ」
膨れ面のルアナは調査を名目にお祭りを楽しもうと考えていた。勿論、そうした事で島の様子を探るのも立派な調査である。
そうではある、が。真面目なグレイシアはうっかりと島民からの警戒度を上げてしまわぬようにとルアナに口を酸っぱくして事情を説明していた。
「……ぶー」
拗ねるルアナが一歩踏み出せばふにり、と足が柔らかな海の道へと沈んだ。その感覚は奇怪だ。生き物を踏みつけたような感覚にもなるが道は道である。
「こうやって海を渡って島に着く……此処だけ見れば、なかなか面白い事象なんだが……」
状況が違えば絶景の一つとして認識できたのだろうか。ルアナの手をぎゅっと握り先導するグレイシアに「あっ、あのね」とルアナは何かを思い出したように彼を見上げた。
「潮が引いて、そのときだけできる道とか、きいたことあるよ。不思議だよね」
「ほう?」
手をぎゅうと握り、転ばぬように、離れぬようにと気を配るルアナに「行く先が不穏な噂のある島となると、ただの不思議で済ませられないのが悩ましいところだ」とグレイシアは呟く。
「うーん、そうだけど、わたしが一緒だから、きっと何があっても大丈夫だよ! 楽しも?
だって私は勇者だもん。魔王を倒すまでは死なない。だから一緒にいるおじさまも守れるよ!」
「……まぁ、よほどのことが無い限り、ルアナの言う通り大丈夫だろう」
自身等を飲み込むような蛇の道、そうであろうと警戒するグレイシアは軽い笑みを返した。自信満々に大丈夫だと笑う彼女だ。
彼女に『殺して貰わないと行けない』男からすれば、彼女がそこまで宣言するのだから大丈夫なのだろうと認識さえ出来る。
「凄いね、海の道。此の儘集落まで行こう?」
「ああ。転ばぬように」
広域の俯瞰を使って進むルアナはこてりと首を傾いだ。
(ここには『護島』さん、って人たちが住んでいて、神託を齎す神様をまもってる。
空中庭園にいるざんげさんと同じようなものなのかな? 実在するのかな? ……これが『神様の首』だったら、怖いなあ)
皆が言うような『神様の体の上を歩いている』のであれば恐ろしいと胸中で呟くルアナはグレイシアと逸れぬように強く手を握りしめた。
「ボクは神様とか怪異とかもお友達になれたらいいなって思ってるの。
集落の皆は神様と上手く付き合って生きてるんでしょ? なら可能性はあると思うんだ」
それが無理や無謀な事であるかも知れないが、最初から恐れて避けるということは決してしたくはないと『魔法騎士』セララ(p3p000273)は考えていた。
「祭りっスか……何か意味があって開催されるのは間違いねぇ。厄払いなのはそれとして、もう少し知る必要がありそうっスね」
一先ずは祭りに参加するメンバーとの動向をも吸い出る葵。ルールに従って島民と同じ目線で祭りに参加してみればそれだけでも分かることがある。
この島では明確に『島外』の人間は外の存在として分けられている。故に、自身等が動くことが出来るスペースは歓迎と言えども明確に区切られているのだ。
「そもそも、厄払いとは聞いたっスけど、ここの厄って何だ? 年齢由来の厄か、神様由来の厄っつーか呪い? 的な、か」
「あはは、そんな難しいモノじゃございませんよ。ご自身の不幸そのものが『厄』とされるんですから」
手をひらひらと振った護島の青年に葵はふむ、と呟いた。後学のために聞いておきたいと言っては見たがそれ以上は言葉にしてはくれない。
どうやら『外の人間が小芥子を手にする』事の方が重要なのだろう。奉納の道は事態は安全区域とも言える注連縄で区切られている。
「厄払い、というのは具体的にはどうすればいいのかしら?」
「先ずは小芥子を手にして、着いていらして下さい。奉納殿までお連れします。良ければ御神酒と生卵の奉納を」
「奉納用のもの……はこれなのね」
ヴァイスは手にした小芥子は何の変哲もないものである事を認識する。どうやら、この島の木々で手作業で作られたものなのだろう。セララが手にしたものとヴァイスが手にしたものでは少しばかり色や形が変わってみられる。
(まぁでも、こうやって門戸を開いているなら都合しようと思えば何とかなりはするのでしょうね。これも普通のものよね……?
というか、流されるままだけれど、これはどういった由来というか、そういうので厄払いに繋がるのかしら。
聞ければいいのだけれど……まぁ、無理強いはしないでおきましょう)
気を配ってはいるのだけれど、とヴァイスは出来る限り『理不尽なもの』とは会話しないようにしていた。余り深く踏み込むことも危険だ。
「お作法は普通のモノなのね。奉納だけで捧げられるの?」
「勿論。小芥子が持っていってくれますから」
持っていってくれる、という言葉がヴァイスには引っ掛かった。
「なあ、すまない。これはなんのための祭りだろうか。死人の……魂のため? それとも神様のためだろうか」
「有柄の神様は海神様ですからね。海への感謝を伝える祭りですよ。
陸(おか)じゃあ、工業地帯が並び海も汚れ恵みも少なくなりました。けれど、島の周辺ではまだまだ豊漁。これも神のお陰です」
突然歓迎されるだなんて何とも嫌な心地だと肩を竦める『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)に護島の人間はにこやかである。
それならば、厄を祓うための小芥子を神に奉納するのはお門違いではあるまいか。神に感謝をするならばセララが考える『巫女神楽』や『奉納演舞』などがあってもいいものだが――この島では小芥子を神様にお渡しすることで厄を『食べてくれる』と考えているのだと護島の人間は訥々と語った。
「こんぺいとうは好き?」
「是非、奉納してください」
穏やかに笑うランドウェラに島の者は逆に何か持て成しましょうかと問いかけた。葵はその様子に本当に歓迎の心構えで島民達が接しているように感じる。
だが――この島で何かを口にするのはあまり良い心地がしないとランドウェラは首を振った。
「お祭りという割には屋台とかないのかなぁ……おなかすいたな」
「普通の屋台は無いだろうが……島の者が出しているものなら可能性はありそうだろうか?」
きょろりと周囲を見回すルアナとグレイシアは海祭りと言えども、屋台などが並ぶような楽しげな者ではないのかと顔を見合わせる。
酒や卵を奉納すれば良いと告げる島民たちの歓迎ムードにルアナは少しばかりぎこちなく笑い、グレイシアは奉納物などについて詳細を教えて呉れないかと問いかける。
「龍蛇神が居ると言われておりまして、それ故に酒や生卵をお届けさせて貰ってます」
「そうなんだ……あ、その。お参りの作法ってありますか?」
幼い少女の問いかけに、護島の人間は通常通りの二礼二拍手一礼で構わないと言った。注連縄の向こうは限られた者しか入れない為に、あくまでも祭殿近くにまでしか進むことが出来ないようである。
「じゃあ注連縄の向こうに行かなければ良いんだね?」
「ええ、あと参道から逸れちゃいけませんよ。そこも注連縄でしっかりと『領域』を示しとりますからね」
「はーい!」
手をびしりと上げたセララ。神様のための祭りだというならば巫女による奉納神楽などがあるのだろうか。
出来ることならば参加したいと申し出るセララに護島の人間は「奉納の場所まで外の人間は連れていけんので、心だけ頂きます」と穏やかに辞退を申し出る。
(そっか……祭殿はいけるけど、その奥の島内の祠まではボク達が立ち入ることは出来ないんだね)
神様に近づけたら会話をし、平和的に共存することも出来るかと考えたが護島の人間はあくまで神を護る為に立ち回っているのだろう。
故に、対話をする機会をイレギュラーズには与える気が無いのだろう。
そも、セララが考えるに神と呼ばれる存在には種類が存在する。それらは大体が幸魂、荒魂。善悪の両方を内包しながらもどちらかの側面が強いかのように伝えられる。所変われば、立場変われば、とはよく言うが信じる人間次第で神の在り方は変わるのだ。
(……神様ってボク達の想いを反映してると想うんだよね。
怖がったり、恐れたり、あるいは遠ざけたり。そーいう想いがきっと悪い神様を作っちゃうんだ。だからボクは人間に優しい、友達みたいな神様を願って祈ってみよう)
姿形もデフォルメした可愛らしい蛇であれば喜ばしい。白い鱗の蛇だと聞き、セララはデフォルメした蛇を描いた木札を共に奉納してはくれないかと乞うた。
「これが『有柄の神様』ですか? 随分お可愛らしい姿になって……」
微笑ましそうに告げる護島の老人に「そうであればいいなって思ったんだ!」とセララはにんまりと微笑み告げた。
この日のために準備はしてきたつもりだ。『チャンスを活かして』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)は報告書に目を通し、その目的に向かって邁進すると決めていた。
集落への祭りの参加は最も容易に『真性怪異』が求める事を外の人間に行わせてくれるものであろう。小芥子が有柄よりの加護になる可能性はあるが――真性怪異に近付き交渉して起きたいというのがシューヴェルトの想定だ。
(……真性怪異に近付くことは難しいか)
シューヴェルトが求めたいのは真性怪異にこの地に結びつけない形での呪いの契約だ。対価は命に関わるもの以外の全て、ではあるが護島の人間は『注連縄』の向こうへと潜ろうとすることを拒絶する。
つまり、真っ向勝負では交渉の席には立てないのだろう。何とも悔しげに表情を歪めることとなるが、シューヴェルトは想像も易く出来た。
護島の人間。つまりは蛇蠱は『この島に縛り付けられた存在』である。其れ等がどうしてそう呼ばれているのかは分からないが固有の存在である彼らの様に島に留まり続けそう呼ばれる様になるだけの何らかが必要なのだろう。
容易に呪って欲しいと告げて、そうする神でもなく喰らうて終えば命を落とす。非常に排他的な島の有様だ。
『良い夢見ろよ!』ジョーイ・ガ・ジョイ(p3p008783)は「ほーん!」と言った。
「この祭りを調べてくればいいのですかな? ガハハ! なんだ、楽勝でありますぞー! というわけで吾輩は祭りに参加するであります!」
因みに出立前にそれをひよのに告げた所、「ジョーイさんレベルに楽観的だと、神様もびびりそうですね」と軽口を返された。
「いやはや、ふむふむ……前情報の通りに熱烈…とまではいかなくても歓迎されてるようでありますな。
この小芥子……むむむ……なかなかのクオリティ! いやいや、厄払いにここまでの小芥子を用意してくださるとは吾輩感激でありますな!
よろしければ厄払い用とは別に小芥子をお土産に持って帰りたいでありますが、売ってる場所はありますかな?」
「えっ!?」
そんなに驚くことがあるだろうかとジョーイは首を傾げる。
実は『心の声』的には最初に渡される小芥子こそが特別である可能性を認識している。それならば、別のお土産の小芥子をすり替えて持ち帰って終えば良いという認識なのだ。
深入りは避けておきたいが、ひよのにお土産にして『ただいま』を告げる役目こそが自分であるとジョーイは自負していたのだった。
●
懐かしいような、なんとも不吉のような。形容しがたい心地だと『想心インク』古木・文(p3p001262)はゆっくりと沖の御島へと踏み入った。
今回ばかりは楽しいとは言っては居られないような奇妙な心地が感じられるのだ。
(不安……というか心配なのは水夜子さんだ。あの子はどうにも、自己犠牲を当たり前だと思っている節がある。妙に勘の鋭い子だから変なこと考えてなきゃ良いんだけど……)
文はこっそりと出立時に水夜子が救急セットなどを詰め込んだショルダーバックに音呂木神社のお守りを忍ばせた。
彼女に「約束する」と文は告げはしたが、大人というモノは嘘つきだ。本人に何かあった際には未然に防ぐのが『先生』の在り方でもある。
「何かあれば連絡して欲しい。地質学にも精通しているつもりだから」
『とりかご』葛籠 檻(p3p009493)は文に頷いた。有事の際にこけしを手にして来たという文が「そもそも、こけしなんて買ったかな」とぼやく言葉は風に消える。
「いやあ、歓迎してもらえて光栄だよ。今日はなにか特別なお祭りなのかな?」
民俗学者であると立場を明かす『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)はさくさくと山を踏み締める。
「ほうほう……立派なお堂だね。いつ頃建てられたものなのかな?
……ふむ、ご老人。このお祭りは、そもそもいつ頃から続いているものなのかな?」
「さあ、かなりの間だとは思いますけれどもねえ」
「ふふっ、失礼。興味のあることは何でも調べたくなる質でね。あとはまあ、職業柄かな。これでも学校で歴史を教えているのさ」
にこりと微笑むゼフィラに護島の人間は首を捻る。成程、その『歴史』を探る事は難しいだろうか。
――斯うした事象には何処から派生したか歴史を紐解くことさえ難しいことがある。
例えば、だ。この様な閉鎖的な小島であった事からゼフィラは推察する。閉鎖的な小島は『沖の御島』とも呼ばれていた。イコール、それは『陸(おか)から離れた沖に存在する島』であったと言うことだ。
再現性東京は『再現された土地』ではあるが、古き時代を再現し船を利用せねば島に渡れなかった事と推論1に置く。
この推論1はつまりは『現代的な技術を碌に駆使せずに、この小島スポットを作成した』という意味合いである。
推論1から紐解けば手漕ぎ舟でかなりの距離を渡ってこなければならないか、潮が引く海祭りの日を待つしか無かったであろう。
外部を受け入れず、粛々と祭りを続けているうちにその在り方が変容してこの祭りが出来たのならば――
(……成程ね? 本来ならば『外から人間を受け入れる』為の海祭りであったとする。
だが、そもそもにおいて閉鎖的な島では『外の人間』を受け入れる事こそが何らかの意味を持たされた可能性さえあるな)
ゼフィラは水夜子にaPhoneを通じて連絡をとる。推論を伝えればまた違う視点での情報が得られるのではないかと考えたからだ。
――閉鎖的集落ではその地の人間だけが特別であるとされることもあります。信仰心により神様の子であるなどとされるからですね。
もしかすると、潮が引いて道が出来ることを発端にした祭りが外部の人間を受け入れ、
その存在を神の供物にする事にすり替わったのかも知れません。
「……大凡は同意見だ」
頷くゼフィラはaPhoneをポケットの中に滑り込ませた。
あまり大仰に動くと冬眠に目を付けられる可能性も否めない。
「どうかされましたか?」
「メェ」
びくっと肩を跳ねさせた『白ひつじ』メイメイ・ルー(p3p004460)がそろそろと振り返った。ファミリアーを飛ばして木々に紛れて確認していたが島民の接近は予想外であったからだ。
「あ、あの…はじめまして。……えと、はい、そうです。厄払いを、お願いします」
小芥子が気にはなるが、それを渡されたのであれば作法をしっかりと熟すだけだ。厄払いとは島の神様に祓って貰う事を指しているのだろう。
「……白卵にお酒……神さまの好きなもの……?? これをお供えして……えと、何かとなえる文言、などもあるのでしょうか?」
「いいえ、お供えしてこれからの幸いをお願いされりゃいいですよ」
穏やかに笑った島民の笑顔に何かあっても見捨てて欲しいと願った水夜子の事が頭の端にちらついた。
(見捨てることなど、したくもない、です。……皆さま頼もしい方々ばかりです、し……きっと、大丈夫……です、よね)
祭りに参加するだけならば、危険は無い。だが、彼女がそうとまで言ったのだから『祭りの裏側を探ろうとする』事がそもそも危険なのであろうか。
メイメイは山より見下ろす黒々とした海を見下ろしてまるで、暗澹の様だと感じた。
一度浸かれば二度とは帰れぬ暗澹。海とは、人を引き寄せて魔性に飲み込んでしまう。山の気配よりも濃い海の気配に、山に登る意味とは何かとつい、考えてしまう。
――離島だ。山が存在するのは当たり前ではあるが、この山が『神様』そのものであるならば。
それを取り囲む海こそが何らかの謂れを宿している可能性はあるのだろうか。
風牙はにんまりと微笑んで島民の前に立っていた。脳裏に過ったのは出発前の会話だ。
『あ、悪い。オレ、自分にできないような無責任な『約束』はしない主義なんだ』
『……酷い人。私だって死にたくはないですけど、皆さんって死に急ぐんですもの。だから、保険ですよ』
水夜子のその言い分から考えれば、彼女が死に急ぐわけではなさそうだ。どちらかといえば、イレギュラーズが活動で『外れ』た際の身代わりとでも言いたげな。
(……まあ、それでも、仲間もだれも失う訳にはいかないんだけどな。邪魔して悪いとは思うけど! 反省はしない! しないったらしない!)
ふん、と外方を向いていた風牙に島民が「貴方も祭りに参加されますか?」と穏やかな口調で問いかけた。
「この前は大変失礼しました! お詫びを兼ねて、ぜひお祭りの参加とお手伝いをさせてください!」
「ああ……『あの時』はあなた方が。
いいえ、いいですよ。お陰で我々もお祭りを開くことができました」
にんまりと笑うその言葉に風牙はなんだ、と首を捻った。手招く彼らは楽しげに小芥子を持ってこいという。
其れに厄を擦りつけて欲しいと望むのだ。深入りしてはならない。あくまで、自分は外の人間であるという意識を失わない程度に『深み』に踏み入らないと行けないのだ。
風牙は「そうですか!」とビジネススマイルを浮かべて島民の背を追いかける。
手渡された小芥子に描かれていた着物の柄はまるで、蛇の様だと感じながら。
●
「さてお祭りとは言うけれど……この小芥子は一体……」
厄払いでこのようなものを渡されるのは意味ありげすぎると定は頭を抱えた。
なるべく優しそうな人にどういう意味合いがあるのかを問いかけよう。住んでいる国が消し飛びそうになったり竜が来たり、厄は確かに重なっていた。
「何故海祭りの日にだけこうして厄払いをするのかも気になるぜ。
蛇蠱なんて存在がいる位蛇を崇めている島みたいだし、どういった歴史があるのか単純に興味があるね。
島の名前にも由来があったりするのだろうか? 余り突っ込むと拙いかな? ……鬼が出るか蛇が出るか、なんて事に成ったら御免だからね」
呟く定に風牙は「危なくなったら止めてやるよ」と肩を叩いた。
「有り難いけど、それでさらに危険に首を突っ込まれたら僕としちゃ、髪の毛を掻き毟って抜きそうな位後悔しそうだけれど」
「……ないと言い切れないのがこの島だからなあ」
早速、誰かに聞こうと定は歩き出す。集落の中に漂う祭りのムードは、何処か異様で。
並ぶ料理も祭りのための宴会料理と言うよりも、薬膳などを想像させるものばかりであった。
「それにしても、オリーさんは大丈夫かな……」
文は山や海に向かって面々をふと、思い浮かべた。再調査のためにと大鳥居の向こう側へと深く潜ることを目的としたアルテミアは山道を逸れて森の中を進んでいったはずだ。
松明の明かりなどを引きつけて置くのは自身の役目であると文は島民の手伝いに赴いていた。
(……真性怪異の呪いとは何なのか。呪いの影響は。悪化する要件は。解呪は出来るのか。
真性怪異同士の関係は。調べておきたいけど何処へ行ったら分かるのやら。見当もつかないのが歯痒いな)
石神の『お嬢さん』と呼ばれた彼女であれば、自身等と同じ失われた村への片道切符を差し出して連れて行ってしまうだろう。
この地では真性怪異は一種のテリトリーを形成している。有柄の真性怪異は『島』そのものの地に根付いた悍ましき気配を文の肌へとひしひしと実感させているのだ。
「それで、さ。島の名前、有柄。蛇蠱と言う存在。葛籠 神璽と言う作家。
全てを合わせるとまるでヤマタノオロチ伝説にでもなりそうだ。
いや、でもその場合は大蛇を倒したのは十束剣だから、島の名前は有柄ではなく有束でないとおかしいのかな?」
「当て字?」
「かもしれないけど。何にせよ、ただの考えすぎかもしれないけれどこう言う伝承っぽさを感じる展開は厨二的にワクワクするね。
自分に危害が向けられなければ、と言う前提は付くけれど!」
文は「でも、そうして様々な伝承から、導き出されるのかも知れない」と定へと告げた。
「伝承から?」
「そう。そうして過去に存在した伝説、伝承、民話、そうしたものを参考にこの場所を『作り上げた』とするなら」
――そもそも、忘れてはならないのだ。
再現性東京は人工的に作られたスポットであるということを。
「霊魂が淘汰される島とは…死の神を奉る俺としては穏やかではないな。何より、アーマデルが呪われたかと思うと気に食わない」
『残秋』冬越 弾正(p3p007105)の呟きに『冬隣』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は肩を竦めた。
「前回、霊がいないのが気になったが、この島自体が胎内であれば、魂ごと食われている可能性もありそうだ。海の洞にはヒトの魂も流れ着くだろう……」
前回調査されていなかったであろう要件を潰しておこうと弾正は精霊などへの疎通を行う事としていた。見遣る小芥子は普通の木材で出来ているが塗料がこの島の木の実などをすりつぶし特有に作られたものであることが見て取れた。
「油断するなよ、弾正」
「ああ。どうにも怪しい文様なのかも分からないし、見たことのない絵だという印象だな、この小芥子は……」
「ああ。子消しや子化身は都市伝説だと言われるが、都市伝説こそが力を持つ地では真実となることもあるだろう。
触り、持ち歩く事で縁が結ばれる、身代わりのヒトガタ……だろうか。失くさぬよう持ち歩き、『出会って』しまった時は、それを身代わりとして離れるのがいいかもしれないな」
呟くアーマデルに弾正は小さく頷いた。蛇についてはアーマデルの方が詳しい。蛇は視力には優れないが匂いに敏感だ。水浴びをしてから調査に赴くアーマデルは何処か奇妙な心地を感じていた。
「蛇は全てが肉食、即ち、命を直接呑んで生きるもの。
それは蛇神であっても変わりはしないだろう、それが蛇の本質なのだから」
「……水浴びをした事でふと思ったんだが、いいだろうか?」
「ああ」
「『この島で何かを食べて居ると島民の体臭が此方と変化する』というのは――」
そう問うた弾正にアーマデルはどうして、と言いたげな視線を送った。手にした小芥子を籠に入れて欲しいと告げる島民達を遠巻きに眺め、弾正は悩ましげに首を傾ぐ。
「先導するのは巫女達、続く松明の行列に……籠の小芥子、か。
厄払いの祭り、外から訪れる者を歓迎する唯一の日。祭りには奉納がつきもの、卵も酒もまさに蛇神向きの供物ではある。
そこへ外部からヒトを呼び込み、小芥子を持たせて納めさせ……断食の終わりに外から餌を呼び込むような、或いは禁漁期が明けて漁の準備をするような、そんな印象もあるな」
アーマデルの言葉に恐ろしい事だと言いたげに弾正は彼へと視線を送った。矢張り、蛇と縁のある彼の方が幾分か詳しい。
「幾柱かの蛇神と縁はあるが皆男性。この島の主は女性型のようだな。
蛇の中には単為生殖可能なものもいる……考えすぎならそれでいい。
他に蛇らしさを考慮するなら、脱皮とか、より大きくなる為に、古くなった外皮を脱ぎ捨てる行為だが……」
「股別れした蛇の道」
ぽつりと呟いた弾正にアーマデルは『先程まで自身等が渡ってきた道こそが蛇の外皮が島から垂れ下がったもの』であったのかもしれないと静かに息を呑んだ。
「ただ単に滑落の危険があるから、獣が多いから。そんな理由で閉ざされる場所ではなさそうだ」
竜真はお堂から先に向かっていく一行を草陰で眺めていた。立ち入り禁止ではなく実際には『神奈備』と呼ばれるのではないだろうか。
この注連縄こそが常世と現世を分かつ存在であり、護島と呼ばれた『この地の加護を帯びた人間』飲みが踏み入れることを赦されているとすれば。
(……あり得なくはない。分かり易く立ち入りを禁止させているのならばこの奥こそが神籬や神木が存在する天降りの地であるかもしれない)
竜真は極力音を立てぬように其れ等について行くことに決めた。まるで蛇に飲まれるかのような暗澹たる闇ばかりの広がる山を、登るイレギュラーズは多い。
●
「みゃーさんは何に気づいているんだかねぇ。見捨ててって言われてはいそうですか。って見捨てられるほど柔い関係を築いたつもりはねぇんだがよ」
ぼやいた『名無しの』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)は「みゃーさんの奴は絶対に置いてかねぇよ。一人でいるより二人の方が怖くねぇだろ?」と笑う。
海か山か。何方を調査するかは自身等次第だが、レディの食事を見に行くのも悪くはなさそうだ。
「厄除け人形が彼女の食事。……なら山頂に行く連中は食事でも届けに行っているのかね。
山頂ってぇのは神域だって話らしいしよ。正確に言えば大鳥居の先がそうなんだろうな」
「成程。山の神を祀る目的で登っているのかと思いましたが……『真性怪異』に食事を与えているというならば合点も行きます」
リュティスは山を登るような感覚を覚えた事で『山にこそ何かある』と感じていた。二人は山へ向けて歩を進める行列を追いかける。
「だが解せねぇのは逢坂に繋がる首だ。なんで繋がる必要があった?
洞の首は海から溜まる厄を喰らうのだろう。山頂の首は厄祓いで届いた厄を喰らうのだろう。
なら逢坂に繋がる首はどこの何を喰らうために繋がっていやがる。……いや違うな。この首は外部から厄を招くためのものか」
ニコラスは呟いた。どうせ、自身等が登れば神様と呼ばれた存在には行動が露見する。そもそも、島は彼女の体である筈だからだ。
小芥子は手放さず、確かめるように山を登って行くだけで今回限りは構わない。
「そもそもなんでここの奴らは吉兆占って凶の長持を開けたんだ。凶って出たなら開ける必要なんざねぇはずだ。なのになんで開けちまったんだ。
……わかっていても開ける必要があったとすりゃそれはなんだ?」
「開けなくてはならない必要、ですか」
リュティスは首を捻る。どうしても開けなくてはならなかった理由があるとするならば簡便に想定されるのは三つだ。
其れを開けずにいると神の加護が得られない可能性があった。占いで凶と出れど、そうすることで助けを得られたかも知れないからだ。
次に其れを開けることで何らかの利益を得ることが出来た。昔話に良くある『目先の利益に眩んだ』という状況。
そして――『それを開けずに居る事で更なる不運が舞い込む可能性』だ。古今東西、神の祟りとは疫病を指すことが多いとニコラスとリュティスも理解している。天災や疫病に類する何かへの対抗策がそこに存在していた可能性もある。
「……ま、分からねぇな」
「ええ。想像するしかありませんから」
『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は言う――
「危険を避けて振る舞う賢いやり方は、いくらでもあるのでしょうが。
Who dares wins.という格言もあります。蛇の頭と言われる山頂、覗いてみようじゃありませんか」
サイバーゴーグルを身に着けて、松明を見失わないように忍び足で進む。松明の一団は先程の祭りで受け取った小芥子を運んで言って居るのだろう。
山を登るアルテミアは大鳥居の周囲に巫女服――そう称するべきだろうか。非常に華美な祭事用のものに見受けられる――を着用した島民が立っていることに気付いた。
「……進めないかしら」
一先ずは様子を見てみなくてはならないか。大鳥居の先に何があるのか。それを知らねばならない。
アルテミアが考えるに、祠があるならば『アリエ様』に関連する何かが存在するはずだ。もしも、本当に蛇がいるならば。
鱗や抜け殻、或いはもっと生々しい何かが存在する可能性だってある。
「かの30の断片に記されていたもののうち、現時点で気になるのは――」
アルテミアの傍らで汰磨羈は気になることを羅列した。まずはアリエ(アマビエ)の存在、アリエとしての能力を持つ"彼女"。
アリエが凶と占った長持とは何か。そして、蜷局を巻いた山="彼女"そのものであることに、『食事処とされる神域=一番上の首=山頂』ではないかと言うことだ。
「恐怖で支配する=恐れなければ"彼女"に勝ることも出来る……と見るが。
……ふむ。やはり気になるな。今、『長持はどこにあるのだろうか?』
恐らくは"彼女"がアリエの能力を用いて占ったであろうソレを調べる事が出来れば、何かしら進展させる事が出来るかもしれん」
「それが、この大鳥居の向こう側にありそうよね?」
「ああ。そもそもにおいて真性怪異というモノは恐怖心や信仰心でそれを作り上げているものだと認識できるな。
成り立ちで言えば神威神楽の神霊……ファルベライズの大精霊。それらと同カテゴリの非常に力の強いモノなのかもしれない」
域を潜める汰磨羈にアルテミアは頷いた。
汰磨羈は事前に祭りに参加する者達に注意して欲しいと告げた。厄払いに参加した来訪者は無事に皆帰宅しているそうだが、何となく焦臭い。
「この先に『彼女』が居る可能性は……」
「どうかしら?」
首を捻ったアルテミアに汰磨羈は松明の火が大鳥居の向こうに消えて行くのを確かに見た。
「結局、憎しみで相手を殺すって異能染みた力を持つ一族ってことくらいしか分からず仕舞いだったが、こっちじゃどういう扱いなんだ? おっかねぇ」
呟く天川は「山に行くのはいいが、まずは現地人に話でも聞いてみるか? みゃーこ。お前さんが調べた感じどんなもんだ?」と問いかける。
情報収集というモノは必要だ。天川は島民達に名刺を差し出してある程度の情報収集をしてきたのだ。
『あー、すまん。こういうもんでな。
仕事というより趣味で各地の伝承や伝説を追ってるんだが、あんたら蛇蠱って言葉や、この辺りで祀られてる神様なんかの話を知らないか?
後藤って一族の話も聞けるとありがてぇな。おっと! 敵意はねぇぜ? それに、異教の神にも敬意は払うさ』
『ふふ、異教だなんて。貴方のお母様かも知れませんのに』
笑った島民の言葉に天川は呻いた。水夜子の視線は「恐ろしい目に遭いそうですよね」と言いたげでもアル。
「さて……いよいよ山の調査に入るが……あれ、人だよな?
はー……。嫌な予感しかしねぇが追うか……。みゃーこ。無理には付いてこなくていい。一緒に来るなら、いざとなりゃ抱えてでも逃げるから安心しろ」
「天川さんは何となく生き残りそうなので安心できます。……私は、このあと少し、海の方にも行きますが」
「了解」
天川と水夜子は「どこに向かってるんだ──?」「どこですかね?」と言いながらアルテミア達と合流したこととなる。
「あの先ですか。現代ホラーで好奇心旺盛なスパイ。真っ先に脱落するポジションですが……さて、鬼が出るか蛇が出るか」
如何しますか、と問いかける寛治にアルテミアは生きましょうと囁いた。
この先に入るべからずと言われているが、儀式が行われるのもこの先でしかない。
島民達の『目』は此方を向いていないが、この島が真性怪異――蜷局を巻いた蛇の体だとすれば自身等の存在は気付かれている。
「あの向こう、嫌な気配はしますね。ですが、潜って戻れなくなると言うこともないでしょう。
……想定外のトラブルに見舞われる可能性もありますが、それもそれ。命を大事にしながらも慎重に、大胆に、進みましょう」
「みゃーこ。この行列、何か見当は付くか?」
問うた天川に寛治もこくりと頷いて印象を聞いておきたいと口を開いた。
「例えば、だ。山の地形はショートカットすることなく、参道はぐるぐると回るような印象だ。これは蜷局を巻いてると言うことだろ?
ついでに松明を持った人数は視認する限りじゃ、5。それから、巫女服の女は3か」
「もう一陣来ますね。今度は籠を抱えているようです」
振り返る寛治に天川は「アイツらが過ぎてから追い掛けるか」と呟いた。水夜子は大鳥居を潜らせず一度返した方がいいであろうか。
「あと一つ。忘れちゃいけねぇことがある。ここの真性怪異は恐怖で縛る。だから恐れてはいけねぇ。
というよりこんな奴恐れる必要がどこにある? たとえ丸呑みされるその時がきたとしても、笑ってやるよ。
……カジノで身包み剥がされる恐怖と比べりゃ何ともねぇってな」
「ならば、行きましょうか。宝というものはこういう場所に隠されているものですからね」
寛治が眼鏡の位置を正せばニコラスは「だな」と可笑しそうに頷いた。
●
「通ってきた海の道、あれがしっぽ側で、山が残りの躰で、つまり洞が……こりゃウチらも苦労するわな。
みゃこちゃんを見捨てられるわけないじゃんよー……むしろ見捨てられるのは私ちゃんだぜ? ガハハ」
「秋奈さんは置いていっても何となく帰ってきそうですよね」
「どゆこと? ひよの先輩の頭痛を増やさないないように気を付けないと、朱殷の衣といい禄でもない話だもんな」
揶揄われたのだろうかと唇を尖らせる『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)に水夜子はくすくすと笑った。
厄払いは他の面々に任せ、秋奈は海に行くと決めていた。
自身もそろそろ安全圏から一歩踏み出してみるのも悪くは無いかと海へと向かった。海の底にある無数の鳥居の道を辿ることが出来るのは今日限りだろうか。
事前に調査しておいた情報に寄れば『沖の御島』での祭りが行われるときは必ず海面が干上がっているかのように海の道が露出するらしい。道、と言うだけあって盛り上がったその場所のみが水中から顔を出しているような面妖さである。
「前回俺達が帰ろうとして海が割れた時に島民たちは「起きた」と言っていたよね。
この状況もやっぱり彼等がアリエ様と呼ぶ存在が起きたと、そう仮定してみよう」
三つ股に分れる道の内、一つは島へ。あとは、とヴェルグリーズは首を捻った。性質上、潮は苦手ではあるが好奇心が勝る以上は仕方が無い。
「さて、小さな約束もしてあることだし、水中散歩に出掛けようかな」
ダイビング用のライトは準備してあるよ、と照らせば、眩しげに幾人かが目を細める。
「外との交流を嫌っていた住民が、急に外からの来客を歓迎するようになった……。
いわゆるマレビトを出迎える理由は、外の血を入れることで近親交配を避けるため。もしくは、単純になにかの贄にするため。ということが考えられますが……」
首を捻った『ライカンスロープ』ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)は「蛇……動物の蛇のことではないのでしょうね」と呟く。
「大陸を飲み込むほどの蛇……ミドガルズオルム……いえ、流石にそれは……。石神地区の神……石をご神体とする蛇の神……ミシャグジ……?」
石神の神とは明確に別であろうか。海の向こうの禁止区域にまで踏み入れれば、その謎も解けるのであろうか。
「鳥居へ続く道、か。今日の雰囲気と祭の開催、監視の目が減っているかもしれない。
或いは、外から見えないだけでこちらでも祭に関わる何かの為に島民が来ているか?」
普段は隠されているかのような洞も筒抜けになる状態だ。島民が其方にも足を運んでいる可能性もある。
「水夜子、どうだろうか。一緒に行こう?」
「ええ。構いませんよ」
何かあれば連れて逃げることは出来る筈だ。約束をして欲しいと彼女が告げたがそんなこと聞く耳を持っていないのは確かである。
「ところで小芥子って、両腕を落とされた人みたいでちょっと不気味だよな」
「ええ。それを人形に見立て、ままごとで世話をする子供まで居た位ですしね。両手両足がないだなんて、蛇みたい」
呟く水夜子をラダは凝視した。蛇。その言葉が繰り返されるだけで、どうして薄気味悪さを感じるのであろうか。
「そいじゃ、私ちゃんは海に沈むわ!」
言ってきますとどぼんと飛び込めば、海底を移動して行くのが一番だ。海の中の鳥居は朽ちてはいるが『干上がっていない』道にも存在していた。
体に張り付いた桜の花びらはそのままに、『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)はふと思い浮かべる。
壱年前の話は大まかに聞いた。この島自体も普通ではないことは察せられる。否、ここでは其れが普通で自身等がイレギュラーなのかも知れないが――
(……この花びらは何かの呪いなのかな。それとも加護かもしれない。
魔女の魔法はどっちにでも成り得る。なら、この花びらだって、転じてお守りになる可能性があるかも)
アレクシアは島へと入らず、干上がった蛇の道を辿る。これが外の人間を招き入れる合図なのだとすれば、自身等以外にも踏み入れた者が居るかも知れない。
この地を観察していたという水夜子に問うてみれば「逢坂の人は踏み入る事は恐れて居るみたいでしたね」と答えが返される。
「そっか……。随分昔にこの道を辿る人は居れども、最近は少なくなっているんだね。
内地の人間からするととても恐ろしい場所だとこの地が認識されるだけの何かがあった」
それが何であるのかはアレクシアには分からない。『水天の巫女』水瀬 冬佳(p3p006383)は「最近は私達だけのようですね」と呟いた。
「そう、だね。あの歓迎ムードも私達に向けられてた」
「ええ。…………以前と違って『歓迎されている』ようですね。
厄払いの祭り。払った厄は『彼女』の食事……喰らいて吉兆を占う、でしたか。
なら、今まさに占うその時期という事なのでしょうが……一年前、あの後に何か方針が変わったのかもしれません」
「方針転換?」
「もしくは、山に登る集団は集めた厄を食事処に奉納する役割の可能性もありますが……」
山そのものが進退であると言うならば、そこを辿ることには気が進まないと冬佳は呟いた。
海側の道は彼女の体の上だとしても、山を登るよりはよほど良い。干上がり、人間が歩めるようになったこの道の先に何が存在しているかは辿らねば分からないだろう。
「足跡とかは消えちゃっているかな?」
「そうですね。島が『彼女』の身体であるなら、通れるようになっているのも『彼女の意志』の可能性が高い。
私達は『彼女』に文字通り呼ばれているのでしょうね。ええ、そしてそれは以前にも……少なくとも葛籠神璽がそうであったように、繰り返された」
冬佳は足がぐにりと地に沈む感覚に目を眇めた。
奇妙な動物を踏んでいるかのような感触はアレクシアの足裏にも伝わる。指先からゆっくりと降ろし、確認するように辿るが道が泥に転じている様子もない。寧ろ、水中にあったというのに泥濘も少なく『ぐにゃり』としている以外は歩きやすささえあるのだ。
「沈んでしまっている他の道は、朽ちた鳥居は何なのか……
鳥居があったということは、そこは昔は何かを祀っていた道の先だったということなんでしょう?」
「ええ。海に沈んでいた部分に何故鳥居があるのか、という事が気になりますね。
鳥居が神体を象るように配置されているというのは解りますが、それが何故海中にもあるのか。
何時の時代に誰に建てられたものなのか、それに……或いは、可能性としては……
言い換えれば、この鳥居群を以て『彼女』をこの地に、この形に定義し縛り付けている、とも言える……?」
「……この道こそが本当の『アリエ様』であって、今のアリエ様とは別だったりするのかな」
首を捻ったアレクシアは冬佳が「此方を」と手招いた。朽ちた鳥居葉規則的に並んでいるが徐々に海底へと繋がっているようにも見えた。
その道はぐるりと島を覆っているようでもある。鳥居があるのならば参道であったのだろう。
アレクシアの予想の通り、それは島の何処かに繋がっている様子でもある。寧ろ、この道に島民が存在する可能性を危惧したが、水中に繋がる側に向かえば島民と鉢合わせることはなさそうだ。
「全てが頭部に繋がるのなら、葛籠神璽の遺した資料の通り凡そ何処に繋がっているかの予測は付きますが……占う吉兆とは何か、その手掛かりを求め往きましょう」
「うん。島の人は……山を登っているね」
見上げれば松明は、ゆっくりとゆっくりと中腹辺りの『お堂』――それは風牙が調査に入った祭りの行われた場所である――から山頂に向かって進んでいる。
蛇の道と呼ぶしかあるまい、その鳥居の中を潜る冬佳はアレクシアのファミリアーを追従させた。
……どうやら、干上がった道を辿った場所と同じ道に『繋がっている』らしい。回り道になるがそちらに向かってみるのも良いだろう。
秋奈は冬佳に手をぶんぶんと振る。あっち、あっち、と指差す彼女は水中の洞窟を発見していた。
それが回り道となる干上がった道と繋がった洞穴であるならば、全ては此処に帰ってくると言うことなのだろう。
「いやー、私ちゃんたち正解を引いたぜ?」
「……ええ。あまり嬉しい正解ではなさそうですけど」
行くしかないでしょうとミザリィはちら、と見遣った。洞穴に落ちている破片を拾い上げるがそれは『木』であるようである。
「……これは、小芥子の破片、でしょうか。破れた布などは誰かの衣服であることが想定されますが」
悩ましげなミザリィは何らかのヒントが見つかれば良いと洞穴の中をぐるりと見回す。
「『地質学』ではこれは天然の洞穴のようですが……いやですね、報告書を読みましたが……産道……蛇の腹の中、ですか。
私は魔力の生命体。人間とは違って母親の腹から生まれたものではない。
だから、そういった感覚はよく分からない。母親の腹の中とは、いったいどんなものなのでしょうか」
呟くミザリィにヴェルグリーズは「さあ、どうだろうか」と呟いた。
「それは安心する場所だとも言われている。恐れなければ良いとも……。
前回目撃情報のあった下半身が蛇の女性、彼女らがいわゆる『蛇』であるなら、一人で相対するのはあまりに危険すぎるからね」
「その蛇が、『何らかの化身』であるかもしれない、と」
「そうだね。彼女から生まれ落ちるのかも知れない」
ヴェルグリーズはぼやいた。そも、母の胎内とは水に満たされている。この『洞』が通常は海の中だというならばこの地こそ、本当に腹の中であると言わしめるのではないか、と。
●
「行くのか?」
「ええ。気になるもの」
あなたは、と問うたアルテミアに汰磨羈は肩を竦めて「喰われるのは御免だ。危険に陥ったならば助けるが――『気をつけて帰らなくては』」と囁いた。
大鳥居の向こう側に求めるものが可能性はある。松明を掲げて歩く者達は皆、この向こう側に行くのだろうか。
天川と寛治は草むらに膝を突く。第二陣として籠を抱えていた者達はしずしずと足並みを揃えて歩いているようである。
――滝だ。
囂々と音を立てるそれの狭間に女が立っている。大鳥居の入り口で見た華美な巫女服の娘だ。
黒髪を纏め上げた彼女は薄絹とも言える衣を纏った女は一人だけではなかった。三人だ。三人の娘が手を繋ぎ立っている。
「――――」
何かを言って居る。耳を欹てなくては聞こえないか。
「……なんだ?」
天川は少しばかり身を乗り出した。寛治は肩を竦め、竜真は首を捻った。
「……何かを言って居る様だが」
首を捻る竜真は耳を欹てる。祝詞か、それに類する言葉であろうか。聞き取れやしないが楽しげな童歌のようにも聞こえた。
巫女が籠の中から小芥子を投げ入れる。セララやシューヴェルト、ルアナやグレイシアのものと同じか。
ぽい、ぽい、と規則正しくリズムよく投げ入れられていく其れを眺める。
『点睛穿貫』囲 飛呂(p3p010030)は「……余計なものまで知ってしまいそうだけど、危険も承知で触れないと、わかるものもわからなそうだ」とぼやいた。
最近になって自身の在り方に悩みを感じていた飛呂はついつい危険な道を選んでしまっていた。
山や海も当然、集落にも感じられた嫌な気配から逃れるように飛呂はやってきたのだ。蛇のような形をしているのは何らかの理由があるのだろうか。
「(俺は人間だけど、人間じゃない部分もある。だからこそ“人間にはつらいもの”にも多少は耐性あるかもしれない)」
覗き返されても深淵を覗かねばならない。
飛呂は小芥子をぎゅ、と握りしめる。松明を追って気配を隠して遣っては来たが――蛇とは何か。
蛇に逢ったわけでは無いが、彼女らの姿を見ている内にふと思ったのだ。
「松明の明かりが、ぐるりと山を登る参道を照らし続ける。
長い行列……あの火を島の外から見れば蛇に見えたのかも知れないな」
呟く飛呂は海側の道に行った仲間達から見ればどのようにこの場所が見えているのだろうかと考えた。
「あ」
アルテミアは思わず声を漏す。大鳥居の向こう側、存在した滝から『女』が落ちた。
それは汰磨羈が言った通りの喰われるかの様子である。
滝は蛇の口のように長く伸び上がり、喉を通して落ちて行くようにするすると女達の体が滝壺へと飲まれていく。
自身等の声は水音で掻き消されたか。
松明を持っていた村人達は「どうぞ」「どうぞ」と口々に言葉を重ねる。
異様だ。リュティスは彼らが去った後に滝やその周囲を調査しようと囁いた。
「ああ。だが、異常な気配を察知したら――いや、最早、状況さえ異常ではあるが……直ぐに撤退を試みよう。
その時は振り向くな、応えるな。確かめることもなく逃げることが出来るかは分からないが『有柄は動かぬ神ならば』」
「ああ。島民達にさえバレなきゃ島は抜け出せる。
全く――一番怖ェのは人間だってのが良く分かるな」
ぼやいたニコラスに竜真はそうだな、と頷いた。
――ありえさま われらをおまもりくだすって。
聞こえた気がした声に天川は「自己犠牲の塊だな」とぼやいた。
幾人もが草むらで潜んでいる。護島達はぴくりと肩を揺れ動かして『何かを探した』
(バレたか……?)
飛呂は冷や汗が伝った感覚を覚える。仕方が無い。ばれる可能性は厭と言うほどにあった。
何せ、誰もが『この山が神の体だ』と認識しているのだ。ならば、神が何らかを囁いた可能性さえある。
「……任せてくれ」
飛呂は草陰から小芥子を投げた。落ちた小芥子を動物が運んでいったかのように見せかければ問題はあるまい。
落ちていたそれを拾い上げてから「ああ、こんなところに……おかわいそうに」と辿々しく小さな少女が言う。
彼女の目が蜷局が巻いたように妖しく光、吐き出す息と共に覗いた舌は二股に割れていた。
――まるで、蛇だ。
飛呂が息を呑んだ音に気付いたか、気付くことはなかったか。彼女はそろそろとその場を後にする。
●
疆界――異界、疆。
垠の国。有柄――ユウヘイの島の、最初にこの場所を共に訪れたときに横に竚んで居た者の一人は今やこの戸口を叩くことのない存在になってしまったらしいと噂に聞いた。
檻はふと、思い出す。
そんなことを物思っていたからだろうか。
――どぼん、と音がした。
それは幾つも重なり、飛沫を上げて洞の最奥に存在した水場に重苦しいものを落とす。
ミザリィの肌が粟立つ。息を呑み、一歩たじろげば彼女の脳に警鐘が聞こえた。
檻は「……水の流れか」と呟いた。その水場は湖と呼ぶには小さすぎる貯水の場だ。本来ならば『海の中』にあるそこに山から水が流れ込んでいるのだろう。
ヴェルグリーズは「蛇」と小さく呟く。垂れ下がった衣は『足』を覆い隠し幾重にも重なり合うことで下半身を蛇であるかのように見せ付けた。
そう、そう見えたのは――
「あ」
アレクシアの目が見開かれ、冬佳が息を呑む。
アルテミアが見ていた『滝』――それが繋がっていたのはこの洞穴であったか。
流されるように女の遺骸が漂う。小芥子がふわりと浮き上がり、ゆらゆらと揺れている。
秋奈はぽつりと呟いた。
「逢ったことある人じゃん」
巫女さん。何か言われた気がする。アレクシアとアルテミアには聞こえていないのにきんきんと祭り囃子が鳴り響く。
誰だ、誰だ、誰だ。
「逢ったことがある……?」
ヴェルグリーズはミザリィと話したことを思い出す。
――下半身が蛇の女性。
そうだ。そうだ。洞の中には『居る』可能性があった。生温い温度を感じさせる『本来は海中の洞』の中。
「どうしました」
ミザリィがゆるやかに視線を送る。不安を誘うように秋奈が唇を噛み、笑い出した。けらけら、と。
「……人間知らないなら、どんどんつついちゃうんだよなー。難しいなー。
理解できなかったとしても、蛇の尾は踏みたくないもんね。
ねーねー巫女さん蛇巫女さん。私ちゃんはどうしたらいいんだい? お話しーましょ」
「秋奈殿、誰と……」
息を呑んだヴェルグリーズが一歩、たじろいだ。取り落とした懐中電灯がかしゃんと音を立てる。
「ああ……『アリエ様』なる存在か」
久方振りだ、と檻は見遣った。檻も、秋奈も『深みに近付く』のはコレで二度目か。
先日は怒らせた存在ではあるが、此度は赦されたのだろうか。
「小生は小生の神を奉じているが、その器の中身は空だ。なれば其の信仰の器をみたす“神”を、求めたくなるのはしようがないことなのだ」
「いけません」
水夜子が低く檻へと囁く。
「いいや、つまるところ小生は蛇の道を辿り、逢ってみたいだけなのだ。
あの日の『もし』の先を、見てみたいと希う。ただそれだけである」
「逢っては――逢ってはいけません」
水夜子が何度も檻へと繰り返す。転がる懐中電灯は行く場所無く水場へと転げ落ちた。
「いるのだろう?」
檻の問いかけに秋奈の『蜷局を巻いたような眸』がにんまりと笑う。
「え? そうそう。ほらほら。目の前にさあ」
「誰もいない。いや、『生きている者』は俺達以外……」
ヴェルグリーズが息を呑めば秋奈が首を傾げ、水夜子はずんずんと秋奈の下へと近付いた。
「水夜子殿!?」
「だーから、言ったじゃないですか。死にたがりさんめ」
唇を尖らせた水夜子が秋奈の手をぎゅっと掴み、流れ着いた遺骸の元へとざぶざぶと足を進めていく彼女の体を押し退ける。
途端、水夜子の体がぐん、と水中へと引き寄せられた。
「――水夜子!」
ラダは適当に自身の掌を切った。驚愕に目を剥く水夜子は「狙撃手のする事ですか!?」と叫ぶ。
『何か』が緩んだのか倒れ込みそうになった体を慌ててラダが掴む。
その勢いの儘、秋奈と水夜子は水の中から体を引き上げられた。水夜子はショルダーバックからハンカチを取り出しぎゅう、と縛る。
「何を一体!」
「……何かあったときに見殺しに、と言って居たが『私達に何かがあった時の身代わり』だとは聞いていない」
きつく縛られる傷口に僅かに呻き眉を寄せるラダに水夜子は唇を噛みしめる。
周囲を取り囲む気配が僅かに退いたのは『護島以外の人間の血を厭うた』と言うことか。
「腹の中に異物を置き去りにされるのは神と言えどもさぞ堪えるだろうな」
洞の中で息を呑む水夜子は自身のショルダーバックが熱を帯びていく感覚を覚える。
「熱ッ――」
「みゃーさん」
どうした、と手を差し伸べる檻は「熱いな」とショルダーバックを手から取りこぼす。
鞄の中から転がり出たのは文が仕込んでいた音呂木神社のお守りだ。
――ひよのさんは真性怪異には嫌われますからね。ある意味でセーフティーゾーン。ある意味で調査に向かないのです。
帰ったら真っ先に彼女に『ただいま』を告げれば良い。神々のお通り道であるともされる『音呂木』の一人娘の加護は有柄の神の意に反したか。
洞の奥に感じていた水の気配が再度干上がっていく。足首から、膝に掛けてまで。徐々に水位を上げていた其れがぴたりと止まったのだ。
「今のうち、かしら」
振り仰いだミザリィに檻は名残惜しそうに目を遣った。
平常心だ。恐れてはいない。
『供物が落ちてきただけ』ではないか。そう、そうだ。
――食うならば、食らうが良い。恐れなど一匙もないようにしよう。
檻の目は蜷局を巻くようにぐるりと奇妙な気配を宿した。
「……勝ちや負けなどには興味は一切なく、ただ小生は神の姿を見に来た神官でしかないのだがね。
宗派が違うかもしれないがただただ汝のために祈らせてはくれないだろうか。
一つの神しか奉じておらぬと厭であるのならば、それはそれで申し訳ないが。
あるいは、その祈り方を教えてはもらえないだろうか。小生は神へ祈りたいのだ。有柄の神相手であろうと。……呪われてようとも」
その耳に、声が響く。檻はそれ以上の深追いはせず、緩やかに足を一歩、また一歩と出した。
「ひよの殿ーーー!!!」
手をぶんぶんと振るジョーイを見詰めてからひよのはほっと胸を撫で下ろす。
憔悴した様子のヴェルグリーズが手を振り、その背後で「どうしてそんなことを!」と拗ねたような水夜子がラダの手を引いて遣ってくる。
「一体何が……」
「いやあ、吾輩は別行動だったのでサッパリではありますが!
どうやら『逢った』みたいですぞー? 逢坂の神様に……」
「ただいま、ひよの殿」
嘆息するヴェルグリーズに続き「ただいまあ」とルアナが楽しげにグレイシアの手を引いて挨拶をした。
「どうやら『厄払い』の祭りに参加した皆さんは危険な目には遭わなかったようですが……
いえ、違いますね。厄払いをした方は『有柄の神様にとってはお身内』と認識されたのでしょうか。そして――山と海に行った方は……」
白い顔をしたアルテミアは「嫌なものを見たわ」と呟く。
本当に怖いのは人だ。
どうして、あの儀式が行われたのか。
凶の兆しが出た長持とは何であるか――
檻は聞いたと笑う。
「昔話を耳にしたのだ。
竜の洞に棲まう彼女は『今回も体を手に入れた』のでな、何になっても構わぬとは思って居たが、皆に教えるも良かろうか。
小生は彼女の『良き隣人』になれたのかもしれないが」
「……どういう、ことですか」
冬佳とアレクシアが檻を眺め見遣る。
穏やかに微笑んだ男は言った。
この地には、嘗て風土病が存在したのだ。
故、近付いてはならぬ。
故、恐れなくてはならぬ。
島に移り住んだ『ゴトウ』達は皆、疫病に冒された。
神の怒りだ。それを鎮めるならば供物を捧げねばならぬ。
何処で聞いたか、彼の目が妖しく光を帯びたことを、ミザリィは見逃さなかった――
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。お待たせしてしまって申し訳ありません。
希譚を書いていると、色々なことが起こりますね。
これも、もしかしたら……。
[注:繙読後、突然に誰かに呼ばれたとしても決して応えないでください。]
[注:繙読後、何かの気配を感じたとしても決して振り向かないで下さい。]
GMコメント
ご無沙汰しております。
<希譚>逢坂有柄の伝承の続き、でもありますが、全くご存じなくてもお楽しみ頂けるようにお祭りを開きました。
復習と『1年かけて変わってしまった島』の様子をどうぞお楽しみ下さいませ。
●成功条件
誰か一人でもひよのの元に返ってくる。
●希譚とは?
それは希望ヶ浜に古くから伝わっている都市伝説を蒐集した一冊の書です。
実在しているのかさえも『都市伝説』であるこの書には様々な物語が綴られています。
例えば、『石神地区に住まう神様の話』。例えば、『逢坂地区の離島の伝承』。
そうした一連の『都市伝説』を集約したシリーズとなります。
前後を知らなくともお楽しみ頂けますが、もしも気になるなあと言った場合は、各種報告書(リプレイ)や特設ページをごご覧下さいませ。雰囲気を更に感じて頂けるかと思います。
[注:繙読後、突然に誰かに呼ばれたとしても決して応えないでください。]
[注:繙読後、何かの気配を感じたとしても決して振り向かないで下さい。]
●逢坂地区
『海沿いの田舎』『離島』にフォーカスを当てたシチュエーションとなるこの地区は『近郊都市』をイメージスポットにしております。
再現性東京・希望ヶ浜の学生達が鳥渡した外出や旅行に赴く東京街。電車で移動し作られたその場所は『神奈川県~静岡県』の海沿いの街を思わせます。
漁師町です。それなりに文明は発達しており、遠く、工場街が確認できます。少し電車で移動すれば、工場や近代的な建築に変化し、その工業汚水などで漁業が衰退した……という歴史的な流れがありそうです。
また『海の向こう側』については本来の海であるかは確証がありません。此の地は練達です。『日本列島から見える海』をホログラム的に投影してる可能性もあれば、海向こうは混沌の大陸である可能性だってあります。
- 参考リプレイ:<希譚>朱殷の衣
●有柄島(沖の御島)
逢坂地区から確認できる離島です。本依頼のメインスポット。
地区内では『名前を呼んではいけない』『行ってはいけない』とされ、名を呼ばれる事は少ない様です。様々な伝承が付随しています。
島の名前は『ありえ』と読みます。護島(ごとう)という一族が代々居住し、神託を齎す神様を護っているとされているようです。
-参考リプレイ:<希譚>逢坂有柄の伝承
――が、現状はどうでしょう?
まるで皆さんの訪れを待つように海が干上がり、蛇の身体のように道を形成しています。
その上には鳥居が点在しており、朽ちているものもあるようですが……島の近くで三つ股に分れている道の内、島に直通するモノだけが使えそうです。
●蛇蠱(へびみこ)
この島に住まう『護島(ごとう・島の外では後藤とも名乗る)』を指している言葉のようです。
憑き者筋の一種だとも推測されますが……これには気をつけるように、と島を知る外の漁師は発言していました。
【有柄での調査ポイント ※これ以外の行動も可能】
(1)集落で祭りに参加する
厄払いの祭りが行われているそうです。白卵や酒を奉納すれば良いと山近くのお堂まで誘ってくれます。
護島、こと、『後藤さん』たちは『外の皆さん』を歓迎し、小芥子を手にしている相手に対してとても優しく微笑みかけてくれます。
……何でしょうか? このお祭りが何かも調査してみるべきでしょうか。
外から訪れる者を歓迎する唯一の日ではありそうですが……。
(2)有柄のお山を見にいく
(3)有柄の海を確認する
『<希譚>逢坂有柄の伝承』同様の行動が出来ます。お山は蜷局を巻くようですし、立ち入ることを禁じている場所もとても多いようです。
ああ、でも、お祭りだからでしょうか……山に誰かが登っていくのか、松明が見えますね。
海は『一部だけ干上がって』居ます。その他は海の底。朽ちた鳥居の続く道も、また海の底です。
――蛇には気をつけて。
●言葉&NPC
・真性怪異
人の手によって斃すことの出来ない存在。つまりは『神』や『幽霊』等の神霊的存在。人知及ばぬ者とされています。
神仏や霊魂などの超自然的存在のことを指し示し、特異運命座標の力を駆使したとて、その影響に対しては抗うことが出来ない存在のことです。
つまり、『逢った』なら逃げるが勝ち。大体は呪いという結果で未来に何らかの影響を及ぼします。触らぬ神に祟りなし。触り(調査)に行きます。
・音呂木ひよの
ご存じ、希望ヶ浜の夜妖専門家。音呂木神社の巫女。由緒正しき『希望ヶ浜』の血統であるが故か『希譚』の真性怪異には嫌われているようです。
お留守番してます。帰ってきて、『ただいま』と言って上げて下さいね。
・澄原水夜子
「気軽にみゃーこ、みゃーちゃんと呼んで下さい」な澄原病院所属の澄原分家の少女。『希譚』や『真性怪異』の研究家です。
一緒に行動可能です。役に立つかと言われれば、頑張ります。何かあれば聞いてみて下さい。
・葛籠 神璽(つづら しんじ)
作家。希譚関連では、良くその名が見られる。著書多数。
●情報精度
このシナリオの情報精度はDです。
多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
何故ならば、怪異は人知の及ぶ物ではないですから……。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定、又は、『見てはいけないものを見たときに狂気に陥る』可能性が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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