シナリオ詳細
<夏祭り2018>ペーシュ・メルバと氷の器と夏の海と
オープニング
●あまり有名ではない……
山からの風が抜ける気持ちのいいボードウォークからは、抜けたような靑空とネオ・フロンティアならではの美しい海がー望できる。素晴らしい……が、海洋王国の有名なこのビーチは、ローレットで一度は見かけたことがある顔であふれていた。
「ソルベ卿主催の『水着・浴衣コンテスト』があるからな。たぶん、そのせいだろう」
ビーチチェアにもたれていた『未解決事件を追う者』クルール・ルネ・シモン(p3n000025)は体を起こすと、丸レンズのサングラスをとった。
「退屈か?」
正直、退屈はしていない。
ビーチバレーに洞窟探検、豪華客船でのダンスパーティーなどなど、イベントは盛りだくさんだ。海岸沿いに立ち並ぶ土産物屋を冷かして歩くだけでも十二分に楽しめている。
ただ……。
「もうちょっと変わったこともしてみたい、か。ワガママだな」
クルールは手にしていた新聞を広げた。小さな囲み記事を指さして、読めという。
それは「桃の出荷はじまる」というタイトルの記事だった。ネオ・フロンティアの中でもあまり有名ではない海岸に建つコロニアル風のホテルで、今年も桃を使った氷菓が作られると書かれている。
「ペーシュ・メルバって知ってるか?」
唐突に話題を変えられて、新聞から上げた目を瞬かせていると、情報屋はペーシュ・メルバが何なのか、めんどくさそうに説明してくれた。
曰く、砂糖で甘く煮た桃にバニラアイスとシロップを添え、ラズベリーソースをかけたデザートだという。
「氷を削って作った器に入れて食べるんだ。これが考案された世界では、氷の白鳥が広げた翼の間に盛りつけるのが正統派らしい。……作れば、ペーシュ・メルバが無料で食べられるぞ」
ちょうどビーチで奇声が上がり――スイカ割りをしていた一団だ。スイカではなく、仲間の頭を棒で叩いたらしい――途中がよく聞き取れなかった。
「だから、氷の塊を彫って器を作るんだ。別に白鳥でなくてもいい。好きに作れ。氷と彫刻の道具はホテルで貸し出してくれる。どうだ、夏らしい工作をして美味しいものが食べられるぞ……ちょっと変わった夏の思い出が欲しいんだろ? なら、そのホテルへ行け」
俺も今から行くんだけどな。クルールはサングラスをかけなおすと、ビーチチェアから立ち上がった。
「氷の器に盛ったペーシュ・メルバに、アーモンドスライス、ミント、ブラウンシュガーなど、お好みで飾るといいぞ」
- <夏祭り2018>ペーシュ・メルバと氷の器と夏の海と完了
- GM名そうすけ
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年08月02日 21時00分
- 参加人数48/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 48 人
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参加者一覧(48人)
リプレイ
●
思わず飛び上るほど熱した白い砂にビーチパラソルが落とす薄紫色の影。
仲良し五人組はピクニックテーブルで氷の器づくりを楽しんでいた。
ルチアーノ・グレコは雪だるまのようにまるいシマエナガを氷で作った。
夏に冬鳥とはいかに。
本当に作りたかったのは恋人ポーの姿だったが、初挑戦で挑むには難度が高すぎる。絶対に失敗したくないので、彼女の因子であるシマエナガで妥協した。
背中を優しく繰り抜いて器にし、ホテルの給仕にペーシュ・メルバを入れてもらうと、シマエナガの氷の体がほんのりと桃色づいた。冬の太陽に見立てた輪切りオレンジを添える。
(「よし、完ぺきだ。……みんなはどんな仕上がりになったかな?」)
ルチアーノは他の作品を見て回ることにした。
エーリカ・マルトリッツは器のモチーフに凌霄花を選んでいた。
鮮やかなオレンジ色の花が夏の青空に向かってゆれながら咲き登るようすを、眩いばかりの日々を与えてくれる仲間たちの笑顔と重ねながら氷の塊を削っていく。
(「私が顔も隠さず”おともだち”と一緒に何かを作っているなんて……」)
緊張しつつ凌霄花を五つ作り、一つ一つに小さく丸めたペーシュ・メルバを入れた。甘酸っぱい木苺のソースで花弁の色を作り、濃い青紫色のブルーベリーで影をつける。
後ろから見守っていたルチアーノは、エーリカの器を見て微笑んだ。
恋人が優しいまなざしを向ける先が気になって、ノースポールもエーリカの手元を見た。
「エーリカさんの器、綺麗ね。それに………皆さん、レベル高くないです?」
エーリカも顔を上げて回りを見る。
「……わ、わ、みんなじょうず」
「うん、みんなじょうずだね。ポーは一生懸命に立つ向日葵って感じがいいね」
花は花でもノースポールが作っているのは夏の代名詞、向日葵だ。
ちょっぴり形は歪だが、それが厳しい夏の熱さに耐え、めげることなく太陽に向かう向日葵の一生懸命さを感じさせてくれる。
器に盛ったペーシュ・メルバにチョコソースを格子かけして完成だ。
「シラスは題材も上手いね。手堅く完成度の高い器が出来ているよ」
シラスはヘヘンと鼻の下をこすり、左手の指先で彫刻刀をクルクルと回した。
「任せてよ、こういうのは得意分野だぜ」
作っているのは『スイカ割りのスイカ』。
シラスは氷の大玉を作って中をくり抜き、外側に皮の模様を彫り込んでスイカを作っていた。
「桃のシャーベットに木苺を絡めてスイカの実にするんだ。種に似せたチョコチップを盛りつければ出来上がりだよ。あ、違った。最後に仕上げに器の一部を砕いて実と混ぜて出来上がり!」
難度が高い、といえばシラスの隣でノミを振るうノーラの作品もなかなか……。
「ノーラさん、怪我しないように気を付けてね」とルチアーノ。
ファミリアの白猫、マシュマロがモデルらしいが……。当のマシュマロは出来上がりつつある器に不満があるらしく、テーブルに尻尾をペタン、ペタンと打ちつけている。
――頭か大きくて体とのバランスがおかしいニャ、お肌も粗削りでがたがたニャ。
マシュマロの心の叫びが聞こえたのか、ノーラはノースポールに助けを求めた。
「鳥さーん……」
「はいっ! ノーラさん、大丈夫ですよ! ここはこうして……」
手伝って貰いながら形を整え、ペーシュ・メルバを盛ってチョコソースで顔を描く。アーモンドスライスを飾るころには、マシュマロのご機嫌もすっかり直っていた。
「アイスマシュマロの完成だ。みんなのも可愛くて美味しそうだな! じゃぁ、早速いただきまーす!」
一口でみんなの顔がとろける。
「ああ、美味しい……ちべたい……しあわせ」
シラスの言葉にエーリカがペーシュ・メルバを口に入れながら頷く。
「甘いものがお好きなんですね?」
「う、うん。あまいもの、すき。それから、……み、みんなのことも」
「僕たちもエーリカが大好きですよ」
凌霄花の色より鮮やかに、うつむくエーリカの頬が色づいた。
●
濃い紺青の海の色、水平線を割るむくむくした入道雲に向かって元気いっぱいに翼を広げる二羽のニワトリとひよこたち――。
メートヒェン・メヒャーニクはひよこを作っていた。器としてよりも、大皿の装飾として使ってもらうために数を作る。割れた殻も氷で作って、中にペーシュ・メルバを入れた。
「よし、これだけ揃えればいいだろう。樹里殿、いいように大皿の上に飾って……って、大丈夫か?」
言っておいてなんだが、どう見ても大丈夫じゃなさそうだ。
メートヒェンは樹里の皿がある程度形になるまで手伝って、それからピーチティーの用意をすることにした。もうひとりの方は……まあ、大丈夫だろう。
「大皿は……えぇ、流石に非力な私でもそれくらいは削れます」
担当の江野 樹里は、えっへん、とできた大皿を前に胸を反らしたが、大部分はメートヒェンが彫っている……。
「盛りつけが大事なのです。ここからが本番ですよ? こけちゃんが作ったニワトリさんを大皿に置いて、まわりにメーちゃんさんがつくったヒヨコちゃんたちを遊ばせましょう。あ、先にお庭を作らなきゃ」
大皿の上に夏の庭で遊ぶニワトリの親子をイメージ。キンキンに凍らせた桃を細かく削ってバニラの上に散らし、フランボワーズソースと蜂蜜をかけてミントの葉を散らした。
トリーネ=セイントバードは氷塊にくちばしを突きたて、削りまくっていた。
――ココココッ!
聖鳥のくちばし捌きで姿を現した氷のニワトリは、ちょっぴりデフォルメされた可愛らしい体つきだった。
「まだまだー! ぴよエール! ぴよちゃんよ、私に力をー! こけぇー!!」
細部にまでこだわった翼の間に、チョコの枝を重ねて作った巣を置く。そこへ卵型のペーシュ・メルバを盛りつけた。
「ふっ、できたわ。メートヒェン、お願い」
メートヒェンはティーポットをテーブルに置くと、できたばかりの氷ニワトリを大皿の左側に置いた。
「あ、こけちゃんはこちらへどうぞ。皿の上でスイーツを食べながらひんやり涼んでください」と樹里。
トリーネが、自作の器の横にひよこたちと乗れば完成だ。
「めーちゃんのひよこかわいい! 偉いにわとりと健気なひよこのコラボレーション! 完璧ね!」
テンション高くぴょんぴょん跳ぶトリーネ。
「体を冷やし過ぎないように気を付けてね」
ピーチティーを背の高いグラスに注ぎながら、メートヒェンが横目で忠告する。
「へいきー! 冷たくて気持ちいいー!」
「そんなに跳んで……滑ると危ないですよ。あっ、ほら!」
つるっ。ずでーん!!
綿菓子のような夏雲に、トリーネの絶叫が突き刺さった。
「さあ作るよ! わたしは器作るよ!」
透き通った氷を前に本能全開でハシャギまくる犬、もといコヨーテのロク。
「……あれ? なにこの道具」
テンションが下ったのはほんの一瞬。すぐにポポポポ、ポンっと頭の上にお花が咲いた。
「まあいいか! かじればいいもの!」
めっさポジティブ。一心不乱に犬歯、時々ベロでコヨーテの形を作っていく……。
そのころ。
クリスティアン=リクセト=エードルンドは、ホテルのカフェでトッピングの材料を王族らしくスマートに調達し、その場でペーシュ・メルバのトッピンクをすませた。
「色付けにブラウンシュガーをひとつまみ……うーん! ゴージャツ且つビューティフル! とても素晴らしいトッピングだね!」
自画自賛で締めくくると、華麗な足取りでロクの元へ向かった。
「おーい、ロク君!」
「……で、できた!! できたよ、王子!!」
「おや、とっても可愛らしい犬の器だね」
クリスティアンがロイヤルスマイルでロクの力作を称える。
が、違うのだ。本当は――。
「これは……そうこれは犬! 王子がこれから飼うであろう犬!! ほ、ほら、日頃のお礼に王子にサプライズを、てね」
「これから飼うであろう犬……? そ、そうか! ありがとう!」
てっきり……いや、言わないほうがいいこともある。
「さあ、この器で王子スペシャルトッピングをとくと味……あれ?」
「おいしそう! 王子スペシャル……あ、あー!」
出来上がった器にはペーシュ・メルバを盛る場所がなかった。
波打ち際を、ロクの絶叫が走った。
●
どこまでも続く青の空の下に、美しい海が広がっている。陸地に近い部分は、まるで空が溶け込んだようなネモフィラ色、それが沖へと進むにつれてどんどん青さを増していき、やがて見事な瑠璃色になっている。
「あの下にコレを沈めるといい感じじゃね? インスタ映えしそう……水中カメラがあったらなぁ」
「いい感じかもしれんが、沈めたら食べられなくなるだろ」
【しおから亭】のオーナーシェフ、パン・♂・ケーキと従業員、奥州 一悟は「宝箱を開ける盗賊タコ」を作っていた。
海賊タコが宝箱を見つけて開けると、中には絶品スィーツが……というコンセプトの器で、まず氷のブロックを積み上げて大きな氷塊にし、そこから削り出した大作だ。
一悟が指示を受けながら大胆に氷を削り、パン・オスが仕上げをする。タコの頭には海賊がかぶる帽子を乗せ、顔に傷を入れた。脚の吸盤やうねるさまなどもを抜かずに作っていく。
「すげー! この器カッコいい、最高だぜ。溶けてしまうなんてもったいないよな」
出来上がりにはしゃぐ一悟の横で、パン・オスは宝箱の中にペーシュ・メルバを入れ、周りに小さくダイヤモンドカットした果汁シャーベットを散らした。上から飴を糸のように伸ばしてかけて、宝石のキラキラした感じを表現する。うねうねとした脚の間にもペーシュ・メルバを盛った。
そこへ海底の砂っぽい演出と称し、一悟が砕いたアーモンドをちりばめた。
さあ、太陽の下へ運び出し、溶けないうちに食べよう!
(「しかし、一緒に食べる相手が一悟なのがなぁ……」)
「ん、オーナー。なんか言った?」
何でもない、とパン・オスは首を振った。
海賊タコがビーチへ運び出されていく横で、リュグナート・ヴェクサシオンとアマリリスの二人は「血塗られた海賊船と花の海」を作っていた。
「男1人での甘味は気が退けたので助かりました……と、前にもこんな遣り取りをしましたね、ふふ」
リュグナートはマストを折らないように気をつけながら、風をはらんで膨れる帆を彫り込んでいく。
「ふふ、再びリュグナードさまとご一緒ですね! 騎士たるもの、食べられるときに食べておかねば戦はできませんから!」
「アマリリス様は何をお作りに……ああ、ハイビスカスですか。トロピカルな感じがでますね」
「ええ、いま花びらを……ぁ、でも、えへへ集中できませんね、なかなか!」
ちょっと時間はかかったが、溶けて形が崩れる前に「血塗られた海賊船と花の海」の器が完成した。
給仕がアイスボックスを担いでくるまでの間、しばしお喋り。
「思いを通わせた方もお出来になられたとの事で……おめでとうございます」
「ふぇ!? あ、えと、はい……最初は怖い人でした、今では、優しい人です、悲しいくらい優しい人……あ、リュグナードさまも、ちゃんと好きです!!」
船の甲板にスイーツの積み荷を乗せられ、血の代わりにイチゴシロップをかける。花弁もイチゴシロップで色づけた。
「完成ですね。……うーん、美味しい。また、一緒にスイーツ食べたいです!!」
「ええ、有り難う御座います。沢山食べに行きましょう!」
海賊船の下で海賊タコが宝箱を開けているそのころ、紺碧の海を悠々と泳ぐクジラの姿があった。
エクスマリア=カリブルヌスとリトル・リリーの仲良し二人組は、クジラの背の上でせっせとノミを動かしていた。エクスマリアの髪が背中で波打つたびに、白い氷片が波しぶきのように散る。そのたびにリトルが笑い声をあげてよける。繰り抜いた背中にペーシュ・メルバを入れるのだ。
「マリアたちの器、完成」
「ふたりでがんばってうつわもこんなにいいのができちゃった!」
「あとはここに盛りつけをして……」
アイスの種類をバニラからチョコミントに変えて、トッピングに2人の髪色――金箔と銀箔を散らす。
「あとはたべるだけ、だけどリリーにはうまくとどかないや……どうしよう?」
エクスマリアは器用に髪の毛でスプーンを二本掴み、それぞれペーシュ・メルバをすくった。ちょっと少なめにすくった方のスプーンをリトルに差だす。
「ほら、リリー、口を」
あーん、といいながら、自分も口を開ける。
「ん、なになに? ……あーんして、って? えへへ、ありがと♪ それじゃぁ、あーん♪」
同時にスプーンを口に入れた。
「んーっ、あまくてつめたくて、とってもおいしー♪ えへへ、いいおもいでになったね!」
●
高く澄んだ空と潮の香りを含んだ空気。青い海から届く波の音を聞きながら、アニー・メルヴィルはプルメリアの花でレイを作っていた。
女神が宿る花環をかけた旅人の首はペーシュ・メルバだ。ブルーベリーやクランベリー、ストロベリーなどのベリー系で飾り、プルメリアの花にも色づけ。
「トッピングもベリー系で色鮮やか! 完璧ではないでしょうか!」
ふと、横のビーチパラソルが気になった。
実食を後回しにして、覗きに行く。
コーデリア・ハーグリーブスもまた、花をモチーフにした器を作っていた。
存在感抜群、色鮮やかな花びらを持つ初夏の花、アルストロメリアの器だ。
「この暑さですから、トッピングは爽やかなものが良いでしょう」
フルーツを形よく飾ってミントの葉を添える。
――と、器に青い影が落ちた。
「こんにちは、ハーグリーブスさま。素敵な花の器ですね!」
え、どこかで会ったことがある? ローレット?
頭の中で必死に思い出しながらも、コーデリアは笑顔でアニーの賛辞を受けた。
「花言葉は凛々しさや気配り。私も斯様にありたいものですから……とはいえ、完全再現は無理でした」
「ううん、とっても素敵です!」
「ありがとうございます。でも、あちらの方が同じデフォルメでも……」
コーデリアの視線の先では、イーディス=フィニーが彫刻刀を振るっていた。
「あれは折り紙の睡蓮ですね。前にウォーカーの方に折っていただいたことがあります」
もちろん、本人は「植物の睡蓮」を彫っている……つもりだ。
イーディスは昔を懐かしむような表情でつぶやいた。
「――あー、彫り物の手伝いをしていた時のことを思い出すな、これ」
木漏れ日の下でみんなと木を彫った。たしかあの時も、睡蓮をモチーフにして菓子入れを作った気がする。木と氷では色々と勝手が違うけれど……。
「うし、出来た。ちょいと雑だが。まぁ、こんなもんだろうさ」
器にペーシュ・メルバを盛りつけ、シロップとミントを添える。
「んでは、お楽しみのアイスを、と――」
そこでようやく自分に向けられた視線に気がついた。
「おーい。早く食べないと溶けるぜ」
慌てて食べ始めた二人を見て、イーディスは笑い声をあげた。
「にぎやか、たのしい!」
風のって流れてきた笑い声につられ、手鏡の中のQ.U.U.A.も笑顔になった。
「よし! このかおできまり!(`・ω・´)」
彫刻刀を手に取る。
「スマイルきゅーあちゃんをかたちにするよ!(・∀・)」
作るのは自分自身。両腕を前にのばしてペーシュ・メルバが乗せられるようにしよう。
どんどこ氷を削っていく。細かいところは気にしない。
出来上がりはロケットパンチ発射直前のようなポーズになったが、それはそれでカッコイイからありだ。
桃とカラフルなアイスを器の腕に乗せて、後ろで発光して照らす(効果音つき)。
「かがやくアイスきゅーあちゃんのできあがり!☆(ゝω・)v」
さくっと仕上げて二つ目に取り掛かるQ.U.U.A.とは対照的に、ヴィクター・ランバートは器づくりに苦戦していた。
「……予想以上に難しい。力量、角度は完璧な筈だ。同じ要素であるのに同様に削れぬ」
作ろうとしている器は長方形。完ぺきな美しさの長方形を作るのは意外と難しい。なぜなら――。
「端が直線にならない。つまり、それ以外の要素がある……気温と、氷の耐久度の推移か」
その通り。
「それらを計算して調節をしなければならないのか」
な~んて氷の前で唸っているうちに、ほら、もう角が溶けて丸くなっていく。
「おーい。休んでからまた取り掛かった方がいいと思うぜ」
見かねて声をかけたのは、浴衣を肩肌ぬぎしたゴリョウ・クートンだ。
ゴリョウの前には氷のちゃんこ鍋がデデーンと置かれていた。鍋の側面に土俵入りする力士の意匠まで彫り込む凝りようだ。鍋の中身もオーソドックスなペーシュ・メルバに、甘さ控えめのアイスココアを流しいれ、練乳を軽く一回してちゃんこ風にしてある。
「君の前にあるそれは……」
「ん? ああ、これはちゃんこ鍋だ! 知り合いのニホンジンが言ってたが、俺みてぇな浴衣したヤツはこういうの食ってんだろ?」
ヴィクターは知らないと素直に答えた。ウォーカーではあるが、そのニホンジンとやらとは召喚元の世界が異なるようだ。
「そうかい。まあ、いいや。よかったら食ってみないかい?」
少し考えてから、製造歩兵は手招きするゴリョウのテーブルへ向かった。
●
白木の大テーブルで、天義の聖職者たちが喜びそうな氷像合作が出来上がりつつあった。特に意図されたものではなく、偶然の産物だ。
だが、本人たちは気づいていない。
(「ペーシュ・メルバ! 懐かしいデザートだ! この世界にも伝わっていたんだね」)
テーブルの左端で、マルベート・トゥールーズは「天使の翼」をモチーフにした器を作っていた。
四枚の翼が中心を抱く形で、中心部にアイスと桃を盛る場所を作る。
「このデザートに余計なトッピングは不要だね。代わりにソースには凝らせて貰おう」
隣の氷壁に作った器を寄せると、「真紅のソース」を作りにホテルへ戻った。
オルクス・アケディアは冷却用の氷壁の内側で「精緻な心臓」を作っていた。
空に浮かぶ木槌がノミの頭を叩き、コツコツと大動脈と肺動脈の交差部分を彫り込んでいく。
アケディアは出来を確かめると、ふむ、と唸った。
額で切りそろえた白髪の下で義眼がぐるりと動く。
『珍しく真剣に集中していると思ったが……』
「……静かにしていてください」
『すまない、我が契約者殿』
儀式呪具のオルクスが沈黙すると、木槌とノミがまた動き出した。コツコツ、コツコツ――。
「…………よい出来になりました」
『否定はしないが周りの目も気にすべきではないか?』
「……気にいりませんか?」
オルクスは、いや、と言葉を濁したのちに続けた。
『良い出来だと思うぞ?』
倫理的にどうかと思うが……。
鼓動を刻まない冷たい心臓に、二対の羽根をはやした妖精の姿が写り込んだ。オルクスが眼窩の中で身じろぎすると、妖精はふわっと氷の壁を飛び越えて向こう側へ姿を消した。
ポキンと何かが折れた音がして、氷の壁を氷の角が転がりながら回り込んできた。
「すみません!」
エリーナが角の欠けた氷羊と一緒に、氷壁の上から顔をのぞかせた。肩の上に先ほどの妖精がたっている。
アケディアは氷の角をつまみあげると、エリーナに手渡した。
特製ソースを手にマルベートが戻ってきた。椅子を引く。
――と、対面で素っ頓狂な声があがった。
「えっ、ちょ……溶け……これ溶けます!」
リリアーヌ・リヴェラにテーブル中の視線が集まる。
「……当たり前ですね」
小鳥の止まった樹……の器には、真夏の太陽は苛烈すぎる。羽根も枝も、溶けてぐったりだ。
「お隣さんの壁の一部をもらって、小鳥を冷やすといい」
リリアーヌが頷く前に、マルベートの提案を受け入れたアケディアが壁の一部を壊した。
「丁寧であればよいという物ではない、スピードとの兼ね合いも大事である……学ばせて頂きました、やはり経験という物は大事ですね!」
さあ、それぞれの器にペーシュ・メルバを盛りつけてトッピング――。
「わあ、スゴイ! 大作ですね」
見学に立ち寄ったヨハン=レームが、テーブルの端で目をキラキラと輝かせていた。
『力作ではあるが……?』
オルクスの呟きにあわせてアケディアが首をかしげる。エリーナとリリアーヌも首を傾げた。
「え? みなさん、バラバラに作られていたんですか。僕、てっきり……」
「あ、なるほど。そういうことか!」
リリアーヌは氷壁を崩すと「天使の翼」を真ん中に据えた。ペーシュ・メルバの代わりに「精緻な心臓」を置く。崩れた壁の上に「小鳥」を配し、前に「羊」を遊ばせた。
「あ、待ってください。僕のも……」
ヨハンは走って器を取りに戻ると、急いで戻った。
「猫の器です。丸くなって寝ているところ……氷の塊に耳をつけたけなんですけど、それなりに見えるでしょ? コレをそこにおいて……」
冷たい桃とアイスに埋もれ、崩れた教会に残る「天使の羽根に包まれた心臓のイコン」。その傍でまどろむ猫を、小鳥と羊が見守っている。赤い血――ベリーのソース――は誰のもの?
「食べるのがもったいないですね!」
でも、食べないと溶けるよ?
誰が言ったのか、その一言で全員がスプーンを手にとった。
●
「おい、しっかりしろ!」
影一つないビーチで、ペーシュ・メルバ溶かして作った酒をガブ飲みすれば、ぶっ倒れてしまうのは当然だろう。
クルール・ルネ・シモンは、白い砂の上に大の字で倒れている銀城 黒羽を助け起こした。
「干物になっちまうぞ……ん?」
前方に砂に埋もれた巨乳発見。
非情にも肩から野郎を滑り落とすと、クルールはエリシアナ=クァスクェムを助けに向かった。
浜辺のバー。氷で作ったワイングラスを満たすのは「セックス・オン・ザ・ビーチ」。
クローネ・グラウヴォルケはワイングラスを手に、氷で作った果物皿からペーシュ・メルバをひと匙すくいとった。
「ペーシュ・メルバもかき氷も存じ上げませんが……折角、器をワイングラスにしたんだ、リキュールでも……問題無いッスよね?」
「別にいいんじゃな~い。こうも暑いと冷たいものが食べたくなるわよねぇ……」
アーリア・スピリッツは、氷の三日月に桃とアイスを飾りつけた。アイスのてっぺんにミントを飾り、ラズベリーソースをかける。
「かんせ~い。さあ、食べましょ~!」
まずは一口。
「冷たくておいしいわぁ……でも、やーっぱりこれがなくちゃねぇ!」
アーリアは白のシャンパンを三日月の器に注ぎ入れた。黄金の黄昏、三日月湖に浮かぶ魅惑の桃島――大人のペーシュ・メルバへバージョンアップだ。
「……いいッスね。アタシも真似してもいいッスか?」
「もちろんよ~。大人のソルベを楽しみましょ~!」
「俺も真似していい?」
おや、と二人がアーリアの隣に顔を向けると、黒髪の少年が座っていた。
「あらぁ、あなたはどんな形にしたのぉ?」
星影 霧玄――の霧玄の方――が、作った器をお姉さんズに見せる。
「俺は霧玄。零夜と交代しながら作ったんだ。星に刺さった月の器だよ。ここにペーシュ・メルバと凍らせたイチゴと種無しマスカット、氷で作った音符を飾って完成……だったけど、しゅわしゅわの青いサイダーを流し入れるともっと素敵になるよね?」
なるなる、なるッス、と一つ向こうからクローネ。
「さっきまで聞こえていた鼻歌は霧玄さんでしたか。ところで、零夜さんはどちらに?」
二人の目の前で、霧玄の髪色が抜けて白くなった。あっという間の早変わりだった。
「零夜だ! よろしくな!」
「あら、二人で一人なのね~。よろしく~」
マスターが青いソーダを注ぎ入れて、こちらは夜空の雰囲気に。もちろん、ノンアルコール。
カウンターから離れたテーブル席で、わいわいと意気投合する三人を見ていたミシュリー・キュオーは、意を決すると「雪ウサギ」の器を手にもって立ち上がった。
「あの、あの……」
カウンターに器を置くと、三つ編みを揺らしてスツールに腰かける。
「私もシュワシュワさせていいですか?」
「いいとも。みんなでしゅわしゅわしようぜ」
零夜のものいいに、カウンターの最端でクローネが小さく吹く。
「あなたの器はうさぎさんね~」
「はい、雪ウサギです。正直あまり器用ではないので……溶けて丸くなってきた氷を見て、うさぎっぽくなら作れるかも、って」
ミシュリーは炭酸水を頼んだ。雪ウサギの背にペーシュ・メルバを盛って炭酸水をかけ、スプーンで崩してシャーベット状にする。
「炭酸のシュワシュワが夏向きですよね」
楽しく食べ始めた四人の後を、酔っ払いを担いだクルールが通っていった。
●
「ルナは手先器用な方だっけ?」
ルーキス・グリムゲルデは額の汗を手でぬぐった。作っているのは一対の翼を象った皿だ。
「俺は錬金術専攻だしなぁ、それなりに器用な方だとは思うぞ」
ルナール・グルナディエが首筋の汗をタオルで拭きながら答える。こちらは恋人の誕生花――ムスカリの花を彫り込んだ氷皿だ。
「どうせだし、途中でアイスごと交換しようか。気合入るでしょう」
「うむ、交換は面白そうだな」
しばらくの間、二人は波が寄せては引く静かな音を聞きながら、無言で氷を掘った。
ルーキスは細部にこだわりすぎないよう、ざっくりと青い空へ羽ばたく一対の翼を作り上げていく。
ルナールも同じように、ムスカリの花とわかる程度に氷の器を彫り込んだ。
「お、流石我が弟子にして恋人。綺麗じゃない」
「あぁ、ルーキスは翼か……うん、翼とか羽のモチーフは好きだし……何より綺麗だ」
それぞれの器にペーシュ・メルバ盛りつけてもらい、それぞれ好みに合ったトッピングを施す。
「海も良いけど、こういう息抜きもいいなぁ」
ルーキスはブラウンシュガーのかかったアイスを一口、頬張った。それにしてもこの器、持って帰れないのが残念。
「んー、家でまた作ればいいと思うがー……」
「いや、ほら……折角ルナが作ったんだし、飾っておきたいじゃない?」
器を入れ替える。
「……うん、俺はルーキスの器を飾りたいかなって、コラ! ミントを返せ」
ルナールは、ミントごとアイスを食べたルーキスの髪を指でクシャクシャにした。
ノエルはモチーフに「翼を広げた白鳥」を選んだ。
(「なるほど、これで氷を削っていけば良いのですね」)
氷塊を慎重に削っていく。
「なかなか氷を削ると言うのも難しいですね。本職の方々はやはり偉大と言うべきでしょうか……」
ちらりと向けた視線の先では、二次 元が氷塊の中から奇跡的に翼を広げた白鳥を掘り出していた。
奇跡的、といったのは訳がある。
ノエルはパテシェと勘違いしたようだが、元はエロイただのオタクである。上手く作ればおにゃのこの気を惹けるかもしれん、という下心満載の動機から作り始め、オタク特有の凝り性と集中力を発揮してしまったにすぎなかった。
注目されているとはつゆしらず、ペーシュ・メルバをコーンフレークとイチゴジャム、ホイップクリームで高く飾りつける。
「完成じゃあ! うははははは! ワシSUGEEE!」
「あの……、私の器を見ていただけませんか?」
ノエルはきょとんとする元に、仕上げた器を見せた。
「こんな感じで良いのでしょうか? 初めて作った割にはまずまずだと思うんですけど」
「え、あ……うむ、とても上手にできておるぞ!」
ノエルの白鳥に、給仕がペーシュ・メルバを盛りつけた。アーモンドスライス、ミント、ブラウンシュガーをトッピングする。
「ささ、氷が解けないうちに飾りつけて……頂くとしよう」
「自分で作った器で食べると言うのはまた格別ですね」
オオカミ娘のまぶしい笑顔にハートを食われ、クソジジィは器より早くトロトロに溶けだした。
ノエルに正体がばれるのは、もう少し後の事――。
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空と海を分ける境界線のように、沖に向かって連なる大きな岩の上にもパラソルとテーブルが出されていた。岩棚の先からイレギュラーズたちが、次々と海に飛び込んでいく。豪快な水しぶきが立て続けにあがった。
「あの人たち、もう器を作って食べたのでしょうか?」
はやいですね、と叶羽・塁は腕を組みながらテーブルの上の氷塊を睨んでいるクロバ=ザ=ホロウメアに声をかけた。
「ん? あぁ、アンタ野球の時マネージャーしてくれた。塁とか言ったっけ?」
「その節はどうも、監督さん。……何をなさっているので?」
「ペーシュなんとかのアイスを盛りつける器をイメージしているところだ。こういった創作物は最初に結果をイメージしておくことが肝心……なのだが、まぁ元が食い物は兎も角、小刀とか使えば割と楽しそうだという程度の動機、いまひとつ……な」
苦り切ったクロバに塁は小さく笑うと、彫刻刀をひとつ手に取った。
「何か指定して下されば器は私が作りましょう」
そうか、と短く返してクロバは器のイメージを塁に伝えた。
「翼を広げた鳥……をイメージした器ですね。これはなかなか彫りごたえありそうです」
「ではオレは、なにか空とか小鳥とかをイメージして果物切ってみるか」
クロバはとりあえずパイナップルに手を伸ばした。
「氷で動物を象る……となると寒い地域の動物の方が風情があるでしょうか」
岩場に上がった水しぶきを足の甲に受けて、シンジュゥ・ソラワルツは軽く首を傾けた。四角く切り出してもらった氷塊にぐっと顔を近づける。
氷にツクモ・リオネットの顔がにじんで見えた。
「はい、涼しげな器だと更に気分が盛り上がりそうな気が致します!」
「では白熊さんなんて如何でしょう? きっと白鳥さんに負けないくらい素敵ですよ!」
二人で一つ、白熊の器を作ることになった。……が、二人とも白熊を見たことがない。とりあえず腹を上にしてダラ~と寝そべる森の熊を思い浮かべながら彫っていく。
「……段々とぬいぐるみじみてきましたね」
あは、あは、と乾いた笑い声を漏らしたツクモを、シンジュゥがフォローした。
「ぬいぐるみのクマさんでいいんじゃないでしょうか。というか、それがいいと思います!」
迷いが晴れると、二人の作業ペースはグングンあがった。
平らに削ったお腹にペーシュ・メルバを二人分盛り付ければ、お腹いっぱいになってお昼寝するクマさんの出来上がり。プルーンの鼻の上に、イチゴを切って作った蝶々を止まらせた。
「か、かわいい……です、よね!」
「かわいいです、十分にかわいいです!」
ひとりだったらどうなっていたことか……。ほっと息をついたツクモに、シンジュゥは笑顔でスプーンを手渡した。
羽休めをしている梟の下で駆けまわる犬。理想は高かったが現実は……。ペンギンとスフィンクス?
「これでよいのです。昼はいまひとつ調子が出ないのです」
サーシャ・O・エンフィールドはペンギン、もとい氷フクロウの足元にペーシュ・メルバを置き、さらにさくらんぼやパイナップル、マンゴーなどのフルーツを山のように盛った。
その隣ではアグライア=O=フォーティス作のスフィンクス、もとい駆ける氷犬が、ベリー系を中心にした甘酸っぱいフルーツソースがかけられたペーシュ・メルバの山に埋もれている。
「はい、そうですね。私もこれでいいと思います。完成ですね。いろいろ大変でしたが……」
「終わってみれば楽しかったのです。さあ、食べるのです♪」
二人で声をそろえて、いただきます!
「ん~、美味しい。……サーシャ様の作られた方もトッピンクがトロピカルで美味しそうですね。私のも少し差し上げますから、良かったらサーシャ様の物も少し下さいな?」
「大賛成なのです。交換です。実は私もアグライアさんの方が美味しそうです~と思っていたのです。アグライアさんの髪と同じ赤い色のトッピングにぐっと目が惹かれました」
パタパタと腰の翼を羽ばたかせるサーシャ。
「それじゃあ、お互いに食べさせあいましょう。はい。あーん、ですよ?」
二人は氷の器が溶けるまで、楽しくおしゃべりしながらスイーツを食べた。
――""ペーシュ・メルバ""って知ってる?
波が沖に連れ去ろうとした声を耳が捕まえた。
振り返る。
アラン・アークライトは、人形を両腕に抱えて岩を登ってくる幼子に、気をつけろよと声をかけた。
「初めて聞いたな……ようは氷の器を作って好きにアイス食えって話だろ」
男の子の人形・レオンが口を開いた。
「綺麗で」
女の子の人形・カルラも口を開いく。
『甘くて』
レオン・カルラが幼子の前で声を重ねる。
「『美味しいの!』」
「そうか。まず、器を作らないとな。で、どんな器を作る?」
レオンは「薔薇」と答えた。
幼子を椅子に座らせ、自分たちはテーブルの上に立つ。
「オレは『太陽』だ。皿の縁を波打つ炎にする。こんなふうに……」
アランは指先に火を灯すと、氷塊を溶かしだした。
人形たちも”終わりなき生命の糸”で彫刻刀を操り、氷塊を削り始める。
完成した器にそれぞれ桃とアイスを乗せ、トッピングした。
「おぉ、やっぱ器から作ると美味さも格別だな」
『ねぇ、アランのは何のトッピング?』
「アランは苺にプリンだ?!」
『そんなの……桃を出すしかないわ!』
やれやれ、しょうがねえな。アランは大げさに溜め息をつく。
「それじゃ、てめぇにはこのプリンの欠片とイチゴをやろう。そらよ」
美味しそうにペーシュ・メルバを食べる人形たち。
その様子を見守るアランの目は、優しくカーブを描いていた。
●
じりじりと照りつける太陽に熱い砂浜。波の音に騒ぎ声。
ちょうどよい大きさの流木を見つけたのでテーブルの代わりにし、砂の上にシートを広げる。その上にテントを張れば、準備完了だ。
「氷を削って自分で器を作るのか……。確かに、これはちょっと変わった夏の思い出になりそうだな」
ポテト チップはさっそくスズランの器を作り始めた。
「アタシは海の波をモチーフにした器を作るんだ! 優雅でオシャレなイメージよ♪」
ギギエッタ・ゴールドムーンは彫刻刀を持った手をしっかり伸ばし、 片目をつむった。目の前に広がる海がお手本だ。
当たりを取ると、ガッガッガッっと豪快に氷を削りだした。
ポテトはざっくりとスズランの形を削り出すと、ひっくり返した。ペーシュ・メルバを入れるために花の中をコツコツと繰り抜いていくが……。
「ポテトはスズランか、可愛いらしいな」
「解かった?」
さすがだね、とポテトは正しくモチーフを見抜いたリゲル=アークライトを持ち上げた。
リゲルの向こうから、ギギエッタがひょいと顔を見せる。
「スズラン? てっきり金魚……ううん、涼しげで可愛いじゃない♪」
慌ててフォローを入れるギギエッタ。
「金魚鉢でいいよ。私もそう見えるし……しかし、リゲルのドラゴンは流石としか言いようがないな」
「うん、リゲルのドラゴンはスゴいわね! ゴージャスでカッコいいー!!」
両端の可愛い女の子2人に褒められて、リゲルは満更でもない顔になった。
「ありがとう。氷の彫刻のドラゴンを見たことがあってさ、それを真似てみたんだが……結構難しいな」
はにかむ顔も謙遜も、嫌味どころか魅力的に感じるのは、リゲルが夏の海の風のように爽やかな二枚目だからだろう。
ポテトはリゲルの頭の上からギギエッタの手元に置かれた器を見た。
「……中々豪快な器だな。でも、夏らしくて良いんじゃないか?」
「あはは。とりあえず完成したけど、荒れ狂う海! って感じになっちゃった……」
「格好いいじゃないか。ダイナミックに切り立つ波に、俺は浪漫を感じるよ」
できた器にそれぞれ、ペーシュ・メルバを盛ってトッピング。
桃を飲みこむ荒波をバックに吼えるキラキラドラゴンを、鉢の中のアーモンド金魚が見ている。
「ガラス細工みたいで綺麗だなー、溶けない氷だったらと惜しく感じてしまうよ」
決して溶けることのない、甘い夏の思い出になりました。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
素敵な思い出づくりのお手伝いができたでしょうか?
いろんな氷の器に盛りつけられたペーシュ・メルバ。トッピングもみなさん凝っていて、書きながら食べたくなって困りました。
ご参加、ありがとうございました。
GMコメント
●海洋(ネオ・フロンティア)で行われる夏祭りに、イレギュラーズが招待されました。
お一人でも、恋人同士でも、仲のいいお友達同士でも、わいわい言いながら氷の器づくりを楽しんだあと、美味しいグラース(アイスクリーム)をビーチで味わいませんか?
ちなみにフランス語でシャーベットをソルベというらしいですよ。
●時間
昼~夕方。
!!必ず以下の【書式】をお守りください!!
守られていない場合、描写されないことがあります。
【書式】
一行目:同行者(ID)またはグループ名
二行目:氷の器のモチーフ
三行目:ペーシュ・メルバのトッピング、またはオリジナルアレンジ
四行目:以下自由記述
※描写される時間にこだわりがある場合は、昼、夕方など四行目以下でご指定下さい。
例【書式】
同行者なし
翼を広げた白鳥
アーモンドスライス
わーん、彫っているあいだに氷が溶けちゃった。これじゃ、白鳥じゃなくておまるだよ、とほほ。
以上、よけしければご参加くださいませ。
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