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シナリオ詳細

<仏魔殿領域・常世穢国>久遠なる森

完了

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 知れぬ。知れぬ。行方が知れぬ。
 どこへ行ったか、どこへ連れていかれたか。
 あの森に近付いてはならぬ。

 久遠の森は黄泉の国へと繋がっている――そんな言い伝えが、かの地には存在していた。


 豊穣郷、カムイグラ。
 絶望の青を踏破した先に在ったのは一つの国。
 この地ではかつて大きな事件があり――神使達によって解決を迎えた。
 巫女姫に取って代わられていた霞帝は目覚め、再びその統治が復活したのである。
 ……『帝』とは代々、大精霊より加護を得た者がその地位に就く。
 豊穣郷神威神楽の守護者たる大精霊――黄泉津瑞神を中心とし。
 更には東西南北を司る『四神』達もまた加護を齎すものだ。
 そしてその四神の一柱たる玄武より一つの依頼が――神使達へと舞い込んだ。

「先日も話したがの。今豊穣では行方が分からなくなっておる民がおるのだ……
 皆にはその事件が起こっている地へ出向き、事態を調べてほしいのじゃ!」

 カムイグラの北部に位置する、玄武を祀る牛宿大寺――
 その地で玄武が語るのは『久遠なる森』という地の近くで生じている行方不明事件だ。名前の通り突如として行方が分からなくなる者がいるという事だが……それは豊穣の此岸の辺が原因となって時折起こる神隠し――つまりは。
「『バグ召喚』による影響ではないって事だよな?」
「うむ! 此岸の辺に飛ばされる者がいる訳ではない。そのままに行方が分からなんだ」
「……なるほど。何か全く別の原因が生じている訳だね」
 バグ召喚、あるいは空中神殿へと飛ばされる正式な召喚の類でもないのだと――玄武と話すのはレイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)にイズマ・トーティス(p3p009471)だ。
 かの召喚の類が生じればその場から転移する。
 それが実質的に行方不明の様に見えているのではないか……という訳ではなさそうだ。行方不明者が出ているのがカムイグラに存在する『久遠なる森』という地の近くで限定されている事などからしてイズマの言う様に『全く別の原因』があると見るのが妥当だろう。
 故に神使達にはその『原因』を調べてきてほしいのだと。
「久遠なる森、かぁ。どういう所なんだい、そこは?」
「うーむ……実は我も分からんとしか言いようがないのだ。あの地は文献の類が全くと言っていい程になくての……聞いた話でも不吉なる地だのなんだとの言い伝えられているとしか……」
 さすればムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)も言を紡ぐものだ。
 ――が。久遠なる森に関する情報は奇妙なまでに少ないのだとか。
 遥か過去から『森に踏み入れば帰ってこれない』という言い伝えから近隣の者は近寄らぬらしく。森の奥には何があるのか――想像もつかぬのだとか。
 ただ、そういった話がある地だとしても近頃の情勢は明らかに奇妙だ。
 最早言い伝えだの只の噂だので片付ける事が出来ない程度には行方知れずが生じている。
 嘆く民があらば放置も出来ぬし、それに。
「それに――これまた関係があるかは今一つハッキリとはせぬが。
 昨今、行方不明の事件が生じ始めた頃より、妙な人影も目撃されているらしいでの」
「……妙な人影、というと」
「一つは豊穣の衣を纏う緑髪の爺。一つは……大陸風、と言えばいいのかの。とにかく豊穣のではない衣を身に纏う男の姿を見かけたという民もおるのじゃ」
 奇妙な事件の陰に見え隠れする妖しき人影――
 それらはなんでも森の方で見かけられたと言う……近隣の者であるならば森に近付こうなどとはせぬ。恐らくは外の者、と思われるのだが……いや……『もしかすると』……
「事態になんらか関わっている人物――かもしれない?」
「うむ。その辺りも含めてお主らに頼みたいのよ。
 一つは行方不明者の調査。もしかすると森に迷い込んでいるだけかもしれぬ。
 一つは久遠の森自体の調査。只管奥に進むだけでも良い。解明してみてほしいのじゃ。
 一つはその妖しき者達の調査。森を進んでいれば接触出来るやもしれぬ……
 上手く接触出来れば後は任すが、油断はせぬようにな」
 イズマの方へと視線を向けながら――玄武は指を三つ、順番に立てて説明す。
 行方不明者が見つかれば保護してほしい。
 久遠の森に異常がないか、或いは奥に原因らしきものがないか探ってほしい。
 妙な人影が見つかれば関与があるかどうか探ってほしい――
 簡単に分類するならこういった所だろうか。久遠なる森には妖怪の類も出るらしく、半端な者には頼めない……つまり神使の様な信用の出来る者でなければと――あっ。
「ああそれとじゃ! 実はのぉ、既に行方不明者が出た身内が心配したようで……神使以外の者にも森に対する調査の依頼を出しておる様なのじゃ。つまり」
「つまり森で探ってれば同業者がいるかも、と?」
「うむ。友好的であれば情報の共有などが出来たりするやもしれぬな」
 と。手を叩いて今思い出したとばかりに玄武はレイチェルへと言う。
 例えば『小瑠璃』の巴と称される人物がかの地には既に出向いているという――先行して既に森に入っているのであれば、接触できれば何らかの情報を共有する事が可能かもしれぬ、と。
 また巴以外にも玄武とは別口で依頼を受けて森に足を踏み入れている者もいるとか。
 ……ただ、そういった者達の中には連絡が取れなくなっている者もいるそうだ。大陸側には『ミイラ取りがミイラになる』という言葉もあるのだったか――? まぁ、そういって増えている行方不明者達の安否を確認する為にも。
「すまぬが頼んだぞ! 戻ってきたら皆で盛大にぱぁあありぃタイムじゃ――!!」
 神使達よ、お願い申し上げる。


 深い森。
 他を拒絶する様な久遠なる森にも魔物……いやカムイグラ風に言えば『妖怪』はいる。
 いやむしろこの様に深き森だからこそ、とも言えるだろうか。
 彼らは森に迷い込んだ者達を襲わんとする。
 領域を侵す者への――攻撃が如く。
「……やれやれ。ここ最近、森へ入る者が増えて困ったものだ」
「『困ったもの』? ふっ、よくもまぁそんな事を言う――
 むしろ森に入る者が増えてお前や『彼女』は喜びに打ち震えているのではないか?」
 その、一角にて。
 二つの人影が言を交わせていた――一人は緑髪の老人。一人は軍服の様な衣を纏った男。
 ……玄武の言っていた妖しき人影達であろうか。
 両者は危険な森の中にいるというのに心を乱している様子は一切見られない。いつ妖怪達の牙が剥くとも知れぬのに――
 だが、妖怪らが彼らを襲う気配はない。
 むしろ……妖怪達は彼らの近くに鎮座し周囲を警戒している様子だ。これではまるで……
「どうかな――事が大きくなればやがては『今代の帝』の耳にも届こう。
 ……或いは瑞の耳にもな。事を知れば瑞は悲しむやもしれぬ。中々本意ではない所だ」
「『そんな事』はとうの昔から分かっていた事ではないかね。今更に、感傷と言った所か?」
「そうではないがな……それよりも、そちらはどうか?」
「あぁ。妖を退け、尚に威勢と勇気を持って立ち向かって来た輩は私が幾人か捕らえた。
 今頃は『彼女』の下でその魂に触れられている所であろう」
 まるで――彼らを護る様に布陣している様な――
 その渦中にて二人は悠々と言の葉を紡ぎ続ける。
 老人は柔和な表情を保ちながらも、どこか悲し気な感情の色を目の端に滲ませ。覇気ありし男の方はこれからも侵入者が増える様な事態を心待ちしているかの様に――口の端を吊り上げるものだ。
「まぁ全て捕らえる事が出来た訳ではないがね。
 中々に面白い者らもいたよ。
 陰陽に連なる術士。符術を用いる三つ目者。『空』なる若人……
 互いに手の内の限りを尽くす死戦ではなかったが、皆実に配下に加えたい者ばかりだった」
「――逃がした者がいるのか?」
「人聞きの悪い事を言わないでほしいものだ。また相まみえる約束をしただけの事」
 ククッ、と含み笑いをする男――があらば、老人の方は額を手で押さえる仕草。
 どうやら久遠なる森へと訪れる予定があるのは神使達だけでは無い様だ。
 巴の様に玄武以外のどこぞから依頼を受けたか――それとも偶然か――
 この森の踏破を目指して至った者達がいたらしい。
 ……そして。
「それよりも。我らが此処にて淀んでいる内に外は随分と面白おかしい事があった様だぞ。
 西の大海が踏破。鬼とヤオヨロズ。巫女姫。新しき豊穣の世……
 新生なる風がやってくる。実に、実に――面白いではないか」
「そんなに楽しいかね?」
「ああ『旧き我ら』の下へどのような者達が送り込まれてくる事か。
 『今代の帝』の治世の下で如何な人材が芽吹き、育ち、今を紡いでいるのか。
 彼女も――偲雪の君も、きっと楽しみにしている事であろうよ」

GMコメント

 茶零四です。カムイグラ長編です。
 行方不明になっている人物が多いようです。はたして何が起こっている事か……
 ご縁があればよろしくお願いします――

●依頼目標(指針)
 久遠なる森付近で生じている行方不明事件の調査

●フィールド
 久遠なる森と呼ばれるカムイグラに存在する森林地帯です。
 深い、深い森の果てには何があるのかは分かっていません……というよりも実は何故か、この森に対する文献の類が一切ありません。それなり以上に昔から存在している森なのにどうしてなのか――?

 現時点で理由は分かりませんが、この森の付近で行方不明者が出ているのは事実です。
 森の調査を行い、行方不明者の手がかりを掴んでください――

●行動指針
 皆さんはなんらかのグループで一纏めに行動していても構いませんし、お一人や少数で行動されてもOKです。主には以下の三点が重視されるかと思われます。(別に一点しか行えない訳ではありません。あくまで指針として以下の三点が考えられるだけで、森を進みながら妖しい連中も調査する! などでもOKです)

1:行方不明者の調査。
 行方不明者達が通った跡がないか――どこか森の中で動けなくなっているのではないか――そういった、行方不明者自体を重点的に調査する内容です。森は進んでいれば妖怪などが出てきたりするかもしれないので、ちょっと注意は必要かもしれませんね。

2:久遠の森自体の調査。
 1と似たようなものですが、主に久遠の森を突き進む事が主眼です。未開の先に何があるのか……もしも『何か』があれば行方不明者達もそこにいるかもしれません。こちらでも周囲を探索し、冒険をする様な技能が役に立つことでしょう。

3:妖しき者達の調査。
 久遠なる森では、近隣の村の者でもない妖しい存在が目撃されています。
 一人は緑髪の老人。一人は豊穣ではない衣を身に纏った者。
 何か事情を知っている者かもしれません。接触を試みてもいいかもしれません。
 彼らと話す事が出来ればなんらかの情報を得る事が出来るやも……?

●妖怪
 いわゆる魔物の類です。
 戦闘力は一般人よりは強いですが、皆さん程優れてもいません。
 森に侵入してきた者達へと襲い掛かってきます。後述する『緑髪の老人』と『軍服姿の男』にはなぜか襲い掛からないようです……

●NPC(味方)
・『小瑠璃』の巴
 豊穣各地で傭兵や用心棒的な仕事を行いながら各地を転々としている鬼人種です。
 『牛宿大寺』でも話題になっている行方不明事件の調査の為に(尤も、依頼主は玄武とは違うようですが)久遠なる森へと訪れました。皆さんより一足先に森に入っている様なので、なんらか先行して情報などを持っているかもしれません。

●NPC(立場は様々)
・その他の探索者
 他にも久遠なる森へと足を踏み入れている者がいる可能性があります。
 それは巴と同様に玄武以外からの依頼を受けてきていたり、或いは興味本位だったりとするかもしれません。
 OP中で示唆されているのは陰陽に連なる術士。符術を用いる三つ目者。『空』なる若人などがいる様です……?

●NPC(???)
・緑髪の老人
 久遠の森の周辺で目撃されている一人です。巴にも、いつの間にか背後に現れたらしく、もしかすると皆さんの前にも現れるかもしれません。その時出逢った際の雰囲気ではあまり危険な人物とは思えなかったそうですが……?

・軍服姿の男
 謎の人物です。先述の老人と同様に久遠の森の周辺で目撃されています。
 ただ、老人と異なりただならぬ気配や好戦的な雰囲気を感じ取った者も少なくありません。
 妖を倒し続けていたり、力に優れていると判断された場合現れます。その際にどう動くかは不明です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はD-です。
 基本的に多くの部分が不完全で信用出来ない情報と考えて下さい。
 不測の事態は恐らく起きるでしょう。

  • <仏魔殿領域・常世穢国>久遠なる森完了
  • GM名茶零四
  • 種別長編
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年01月29日 23時02分
  • 参加人数30/30人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(30人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
セララ(p3p000273)
魔法騎士
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
彼岸会 空観(p3p007169)
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
一条 夢心地(p3p008344)
殿
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
シガー・アッシュグレイ(p3p008560)
紫煙揺らし
希紗良(p3p008628)
鬼菱ノ姫
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
鏡(p3p008705)
瑞鬼(p3p008720)
幽世歩き
節樹 トウカ(p3p008730)
散らぬ桃花
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
Я・E・D(p3p009532)
赤い頭巾の魔砲狼
猪市 きゐこ(p3p010262)
炎熱百計
シャム=E=ロローキン(p3p010306)
うら若き姫騎士

リプレイ


 鳥の鳴き声すら聞こえぬ。
 静寂。包まれるその先に在るのは『何』か――
「ふーむ、以前も来たがなんとも不気味な森よ……
 『何が』とは言えぬが、妙な雰囲気をどうしても感じるな」
「少なくとも、なんか見た事のねーやべー奴らが彷徨いてるってんだろ?」
 ならそいつらを蹴散らしてれば親玉が来るよな――ッと。
 斯様な言の葉を述べながら久遠なる森へと足を踏み入れるのは『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)と共に周囲を警戒する『空の王』カイト・シャルラハ(p3p000684)であった。
 事態不明。ああされど妖しげな者がいるのであれば――
 ぶちのめしていけば事も無し。
「しからば往くかカイト殿!
 見かけた妖怪はボコっても良いと玄武殿も(たしか)言ってたのである!」
「まぁ排除していかない事には――先にも進めないしな、っとォ!!」
 故に往く。優れし耳にて百合子は周囲を窺い。
 カイトは敵意を此方に向けてくる存在がいないかを探るものだ――
 さすれば至る妖の類。鋭き牙を向けてくる猫又の様な存在を打ちのめして。
「恐れるならば逃げるがよい! 強者の場所にな! さぁさ行けぃ行け!!」
 目論むは奴らの逃げる先。奴らよりも『上』がいるであろう場所に――案内せよと。
「……ふむ。行方不明者の話は聞いていたが、妖怪がちょっと悪さしている……
 と言うには些か被害が大きそうだな。それにあまりに情報が少ない事もおかしい。
 妖怪が首魁だとすれば、そうまで隠匿を優先する思考を宿しているかは――疑問だしな」
「確かに妖怪にしてはあまりに情報が少ないのが気にかかる所です。
 或いは……率いている頭目でもいるのか……」
 そして、百合子らと同じく森の探索を行うは『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)や『白秘夜叉』鬼桜 雪之丞(p3p002312)もである――
 足を踏み入れる前に近隣の村で情報の聞き取りを行っていたラダだが、あの森付近へと往く者は最近増えていたとの事だ。それは開国――と言っていいのか、絶望の青が踏破されて以降、海洋を中心に外との交流が増えてきた事も一因の一つ。
 海を越え、しかし尚に更なる未知の領域があると知れば往く者もいるのだと。そしてそういった流れに呼応する豊穣の者もいたと……
 いわば往くのは余所者が中心――とも言えるだろうか。
 ……しかし森に入るのが余所者であれ近隣の者であれ、あまりにも情報が少ないのはどうにも無秩序な犯行とも思えない所であった。例えば妖怪が活発的に動いている様な様子も、実際に入ってみても窺えないし――と?
「ひ……っ、ね、ねえラダちゃん! 今なにか聞こえなかったぁ……!?
 何かしら今の音……何か、こう、コップが割れる様な音がしたような……
 もしかして今のがラップ音……!!?」
「……落ち着けジルーシャ。今のはただ枝が落ちただけだ」
「ん~? どうしたんですかジルーシャさん、もしかしてお化けが怖いとか……?」
 そ、そそそそんな訳ないでしょ!! ラダの裾を掴んで周囲をめっちゃ警戒しているのは『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)である。あまりの警戒心に、微かなる物音さえも疑わしく聞こえてくる――で、あらばラダは吐息を一つ零すものだ。
 同時、斯様な様子に笑みを見せるは『特異運命座標』猪市 きゐこ(p3p010262)である。
 お化けなんて周囲には確認されない――しかしお化けが出るなら出るで好都合。霊魂より情報を得ればいいだけなのだから――ッ!
「さぁ私達も進みましょうか! ふふふ、眼にも耳にも任せてください!」
「ジルーシャさん、参りますよ。大丈夫です、式神を先行させますから」
「ま、待って! 皆、置いていかないでね! はぐれたら泣くわよ――アタシが!!」
 進む一同。きゐこが周囲を見据え、雪之丞が式神を先行偵察すれば、ジルーシャも指先が武者震いしながらも周囲の精霊と意志を疎通させんと、竪琴を奏でるものだ――
 慎重に歩みを進める四者が狙うのは地図の作成である。
 地図なき森など闇雲に進んでもはたしてどれだけ進めている事か……後の事を考えても地図を付ける意味は大きい。同時、雪之丞は通りかかる木々に傷跡も付けるものだ。
 迷いの森と言えば、いつの間にやら方向感覚を失っている――と言う事も考えられるから。
「……いえ、或いは『狂わされている』可能性もあるでしょうか、ね」
 いずれにせよそういった手合いを考慮し彼女は道なき道を行くものだ。
 この果てがいずれなる地へと――続いているのだとしても。
「久遠、か。その名前にも……意味が交わっていそうだな」
 ファミリアーの鳥を天へと放り『散らぬ桃花』節樹 トウカ(p3p008730)は呟くものだ。
 久遠。仏語。長く久しいこと。遠い過去または未来――
 ……またはある事柄がいつまでも続くこと。永遠。
 意味深な言葉である、と。名前には『意味』があるものだと考えれば、この森には如何なる意図があって斯様な名前が用いられたか。言い伝えばかりで文献がないのは、知りすぎた者や本が消されたか、それとも。
「いや。とにかく進んでみなきゃあな――幸いと言うべきか、一人でもねぇことだしよ」
 見据える周囲。同時に集中を施せば……トウカの位置と『共鳴』しうる者も近くにはいるものだ。意思を交わす事叶うその術をもってすれば、互いに連絡を取り合う役目を担う事も出来よう――近くの情報を共有し、進んで往くのだ。
 更には飛ばしたファミリアーからの情報をも知覚する。
 映る視覚には他のイレギュラーズが飛ばしたであろう同類のファミリアーや式神の姿も見えるものだ――であれば。
「全く、どれだけ広大な森だというのか……
 しかし森と言えば……玄武からの依頼だが青龍からも話を聞いた方が良かったかもなぁ」
 『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)の使役する式神もその中には存在していた。
 広大な森であれば猫の手も借りたい状況である――また共に捜索を行うイレギュラーズとの情報共有の為にも式神を飛ばし、彼自身は周囲を空から観察する様な広き視点にて周囲を探っていく。
 刹那に思考するは依頼主の玄武――の同類である四神、青龍。
 大樹として在る青龍ならば何か知っていただろうかと……いや、ともあれ今は目前に集中するとしようか。木乃伊取りが木乃伊になるなど、笑い話にもならぬからと。
 異質なる圧がどこかに込められし森を突き進む。
「さぁ行け。逃げてみせろ。お前らの巣が、親玉が……どこにあるか示してみせろ」
 同時。錬は邪魔立てする妖あらば斬り捨て打ち倒していた。
 が。強引に命までは奪わぬ――むしろ泳がせ、奴らの行く末を探らんともするものだ。
 そしてどこかで動けぬ状態になっている者がおらぬかと目も巡らせて。
「しっかし、神隠しなんてもうとっくに終わったもんだと思ってたんですけど、ねえ。
 はぁ。どうやらこの国にはまだまだ曰く付きの話が絶えないモノなのかしら」
 斯様な状況。『雪風』ゼファー(p3p007625)もまた森の中を突き進んでいた。
 その足元には倒れ伏した妖複数――
 槍を振るいて血を落とし、未だ己が周囲に蔓延る殺意を真正面から見据えるものだ。
 狼に猪、それから蜘蛛の様な個体共……おぉおぉこれまた大勢でひしめき合って。
「ま、丁度いいぐらいだわ」
 されどゼファーは臆さぬ。むしろ好都合であるとばかりに。
 ――此れは呼び水。妖怪の血潮が在れば更に呼び寄せ、打ちのめす対象が増えよう。
 然らばいずれは無視できなくなる『者』がいる筈だと――

「邪魔よッ――どきなさい!」

 そしてゼファー同様に妖を斬り伏せるのは『プロメテウスの恋焔』アルテミア・フィルティス(p3p001981)だ。陰より跳躍し飛来した妖怪を貫きて森の深部へと只管に進んで往く。
 このような所で疲弊している暇はないのだ。
 木の陰にて息を整え周囲を窺い、更に潜む敵がいないか警戒する。
 ……文献の類が一切ない森など妖しい事この上ない。
 記録を残せないのか、残した傍から消されるのか……
「どちらにしても、何らかの力が働いていそうね……ソレがこの奥にいる存在なのかしら……それとも、この森自体を明らかにしたくない、なんらかの理由があった……?」
 ――『あの子』は此処にも手を伸ばしていたのかしら。
 アルテミアが想いを巡らせるは――かつて豊穣に君臨し巫女姫と呼ばれた存在。一時なれど豊穣の大地をその掌の上に置いた『あの子』であれば、この森の事もなんらか知っていたか……? いや、しかし『あの子』はもう……
 頭を振りて念を打ち消す。全ては奥へと進めば分かる事なのだからと。

「全く――どれだけいるんでしょうねぇ。奥からまぁ次から次へと……」

 一方。『幻灯奇怪』鏡(p3p008705)の方針はあえて接敵回数を増やしているゼファーやアルテミアとは真逆であった――現れし妖怪達は躱し、身を潜めて戦闘を回避する。
 鏡が狙うは森で目撃されているという妖しき者達のみ。
 妖怪退治が主目的ではないのだ。故に、己が存在を極力絶ちて戦を躱し。
 一人で行動し――只管に万全のままに機を窺おう。
「まぁ、来ちゃったものは仕方ないですけど、ねぇ」
 己が刃を抜き放つは致し方無き時のみと。
 どうしても邪魔な妖がいた時のみに――彼女の殺意が微かに零れて。
「ねぇねぇ鬼灯くん、黄泉ってなあに?」
「ああ――黄泉とは亡くなった方が行く場所だよ。三途の果て、もう戻れぬ地の事さ」
「まあ! じゃあ、この森は怖い所なのかしら?」
 そうだね、章殿――ここは黄泉へ続く坂道なのかもしれない。
 同じ頃。薄暗き森の中、天を眺めて言うは『零れぬ希望』黒影 鬼灯(p3p007949)だ。
 久遠の森――以前訪れた事もある森へと再び足を踏み入れる事になろうとは。
 ……事の次第によっては暦にも伝達しておかねばならないかもしれない。
 無論『そう』ならぬ事が最善ではあるのだが――と。己が妻たる章を抱き直し、往く。
 狂わされぬ感覚をその身に宿し、真っすぐに『奥』であろう方角へと。
「さて。しかし万一と言う事はありうる……
 ヘンゼルとグレーテルのパンくずの様に、鳥に啄まれ無ければ良いのだがな」
「糸は美味しくないからきっと大丈夫なのだわ! 鳥さんめっ、なのだわ!」
 そうだね、と鬼灯は紡ぎながらいざという時の為に『目印』の設置も行っている。
 それは糸だ。裁縫鞄から取り出した糸を搦めて……枝に結び付けて目印としよう。
 周囲の景色は瞬間的に記憶し覚えてはいるが――何が起こるか分からぬ。
 故に何が起こっても大丈夫な様にと備えているのだ。
 そして――歩き続ければやがて誰ぞと会う事もあるかもしれない。
 行方不明になった者、或いはその行方不明者達を探しに来た他の捜索者とも……
「――あら? お師匠さん、こんな所でなにしてるんすか?」
「おろろ。坊主もいるとはこれまた奇遇――
 なぁに、あっしも困ってる人を放ってはおけねぇってだけでさ」
 と、思っていれば。知古の間柄と偶然にも再会したのは『歪角の庭師』八重 慧(p3p008813)であった。草陰から現れたのは妖の類かと身構えたのだが――そこにおわすは自らの『師匠』とも言うべき人物。名を栴檀(せんだん)と言う者であった。
「そっすか、お師匠さんらしいっすね――あっ。それならお師匠さん、この森について……」
「はっは。あっしも二日ぐらい前に辿り着いたばかりなんで、そう深い事情は知りやせんでさ。まぁただ……ちと厄介な連中が出回ってるんで、進みが遅いってのもありやすがね」
 ――厄介な連中。
 慧の眉が顰められる。文献“の”ない森、不穏な言い伝え……元々イヤな予感はしていたのだが、お師匠さんが『そう』言う程の何かがやはり――此処にはいるというのか。
 ふと確認するのは先程まで己が通ってきた木々の間だ。
 そこにはいざ何かあった際の目印として花が一輪添えられていた。
 外に出る時の目印になるモノだ――まぁ、これを早急に使う事態にならないのが一番ではあるのだが、しかし。
「お師匠さん、それは……『敵』っすか?」
 これより先がどうなるにせよ――それは師匠の言葉を聞いてからだと。
 意を決して言の葉を紡ぐ。さすれば……

「さぁ。アレはどちらと言えばいいのか――なんとも不思議な『女』もいたもんでさぁ」

 ――奇妙な事を彼は口にしたのだ。


「うむ、うむ! くるしゅうない! ここぞ正しく森林浴に都合よき所じゃ!
 しかしこのような場所で民の行方が知れぬ様になっているとは……」
 待っておれよ、無辜なる民らよ――! 堅き決意と共に森へと赴くは『殿』一条 夢心地(p3p008344)だ。本来であればこのような森を探索するには土地勘のある者の先導が必須なのだが……しかし無いものをねだっても仕方ない、と。故に。
「おぉこれはこれは大層な樹もあったものよ……
 のう。お主、この地にその根を座してどれ程かえ?」
 彼が語り掛けるのは――この森そのもの。
 自然と意志を交わせ、彼らを先導者とせんとしているのである。
 聞くべき事は多々にあるが……しかし要点を絞れば三つであろう。
 ――ここ最近変わったことはあったか。
 ――人間を見なかったか。
 ――調子はどうか。
 特に見据えるは幹太く、背の高いバカデカ樹木。こういうのは永く生きているモノ程知っているものだから……自然に対する深き造詣からソレを見つけ、意思を疎通させんとする。
 さすれば――見えてくるは断面の様な情報。
 たしかに、いる。奥へとふらふらと進む様な人影の姿が……
 よくは見えぬが、しかし『正気ではない』様な雰囲気の足取りで……
「うん――やっぱり妙だなぁ。どっかで人が倒れている気配もないし、助けを求める声もない」
 そして同様に植物から情報を得んとしていたのは『黒武護』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)もであった。元々は周囲で助けを求める感情の色がないか探知の術を張り巡らせていたのだが……一向に引っかからぬが故に、植物の様子を見る事にしたのだ。
 といっても夢心地の様に意思の疎通を試みている訳ではない。ムスティスラーフが見るは、人が通ることで生まれる草木の折れや地面の擦れ等の特徴がないか――自然の中に発生しうる人の気配を探らんとしているのである。
 であれば確かに人が通った様な跡はある。
 しかし奇妙な事に誰も途中で立ち止まっている様な様子が見られないのだ……
 つまり、一直線に奥へ奥へと向かっている――?
 誰かに襲撃された訳でもなく、自分の意志で?
「これはちょっと皆と情報を共有していく必要がありそうだね……
 もしかすると意志そのものを捻じ曲げて奥へと向かわせる何かがあるのかもしれない」
 警戒する。最早自分達も、その効果範囲にいるのかもしれないと。
 共鳴の響きを示し――一刻も早くと情報の共有に努めて。
「んな~~どうしてお昼時なのにこんなに薄暗いんですか……ぴえぴえ……こういう暗い森……私苦手です! ううっ、ですがですがこれも依頼……逃げては務まりません……ですがお化けが出てはどうしましょうか……ぴえん……んん゛、ン~~ルララ……」
 そして同じ頃。近くにあった手ごろな樹の棒を拾って、地面を叩きながら半分泣きそうな顔で森を進んでいるのは『ぽんこつかしまし』シャム=E=ロローキン(p3p010306)だ――あ、これ?
 これはジャングルとか不安定な地形を進む際の歩き方のテクニックです。こうすると地面が埋没している所を発見できたり、潜んでいる蛇とかを追い払う事出来るんですよ。でもそれだけだと不安なのでシャムは歌います。
 だってどっか別の方から『きゃあああ――! ラダ、ラダちゃん助けて――!!』という声がどこからか聞こえてくるんですよ! これあれですよ! お化けが出たんですよヤダ――!!
 微かに震える声色が(多分)お化け達を打ち祓う事を願ってッ――!
「――これ、そこな娘。おぬしもこの森の調査に来たのか?」
「ぴえ――!! ごめんなさいごめんなさい、許してください呪わないで……
 あっ、ひ、人ですか……? 生きている人ですか……!? 足がある!!?」
「ええい落ち着けぃ。勝手に死人にするでないわ」
 瞬間。そんなシャムへと言の葉を投げたのは――『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)だ。
 なんぞ騒がしい娘がいる。あれじゃ逆に目立つじゃろう……お化けとか以前に熊とか寄ってくるのではないか? 故にと背後より声を掛けたら、想像以上に彼女の恐怖心の背筋を撫でてしまった様だ。
 全く。この娘……シャムというらしいが、この調子で迷子者が出ても困る。
「はっ! あっ、はいそうです……私も調査に来たんです! それでですね、ちょっとここが想像以上に暗かったので、あの、その、なんというか……さっきのは忘れてください後生ですから!」
「分かった分かった。ほれ、それより前を見ていろ――声に惹かれて妖しき気配が来ておるぞ」
 瞬間。瑞鬼が指さした先からは――確かに妖怪らしき者の気配が接近していた。
 このままでは程なく会敵してしまおう……故に。
「戦うのは他の奴の仕事。とっとと逃げるぞ、シャム」
「はい!! 今回は調査目的ですし、無論です! ついていきます姉御! ンギャ!!」
 さっさとここから離れようと――したらシャムが盛大に落ち葉でスッ転んだので、もういっそのことと脇に抱えて逃げる瑞鬼。グズン。尻を……尻を強打しました……すみませんもうちょろちょろしません……
 ――しかし同時。瑞鬼は心のどこかで直感的に感じている、不穏な気配にも気付いていた。
 それは瑞鬼が巡らせている探知の術に何も引っ掛からぬが故。
 ……周囲に誰も『助け』を求める様な感情を出している者がおらぬのだ。
 森で行方不明になった人物……例えばなんらかの事情で身動きが取れていない者などがいたとすれば、少しはその声を知覚できる筈だが。いや無論、この探知の術とて距離はある……まだそういった領域に到達してないというだけかもしれないが。
「――なにやら、きな臭いのぉ」
 が。瑞鬼の直感は告げていた。
 『何か』あると。これには、理由が。
 その為にも余計な消耗など御免被る。涙目のシャムを引き連れ、捜索と探索を重視して……

「……玄武のじーさんから聞いた話、想定より厄介な事になってるなァ。こりゃ。
 この森の気配……まだ上手い事言えねぇが、あまりにもキナ臭すぎるぜ」

 そしてその異常なる気配は――『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)も感じている所であった。
 なんだろうか。この気配、例えるならば触れれば終わる爆発物がある様な感じではない。
 強いて言えば……入れば抜け出せぬ泥沼がある様な感覚だ。
 ――想定よりもなにがしかの事態は進行しているやもしれぬ、と。故に。
「にしても、触れている文献が一切無いとはな。如何なる理由でそうなったかは知らぬが、"何かしら普通ではない事象を孕んでいる"のは間違いなさそうだ。こういう所には多少なりの情報やら文献やらがあって然るべきだからな……」
「ここには表に出てはいけない何かでもあるのか?
 ……慎重に進んでいこう。とにかく森の奥へ進めば『何か』がある筈だ」
 それが良い事か悪い事はともかくとしてね、と。『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)らへと言を紡いだのは『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)だ――
 暗きを見据える目。敵意を感知する術。
 優れし三感に加え、周囲を空から見据える様な視点をもってして――歩を進めていく。
 イズマにしろ汰磨羈にしろ、レイチェルと同様にこの森が異質である事は既に感じていた。いやそもそも……玄武自らが依頼してくる程なのだ。その時点で只事ではないと分かってはいたが、しかし。
「奇妙な人影の情報もあらば、やはり油断は出来ぬな」
「ああ。そいつらがどこまで関わってるかは知らねぇが……
 ま、とにかくこんなに妖が沸くのも変だ。ぶっ潰しつつ進ませてもらうとするか」
 それらの不安要素に加えて妖しき者達もいるのであれば警戒は必須と汰磨羈は言い、さすればレイチェルもまた賛同するものだ。敵の位置を把握する役目はイズマや汰磨羈が担い、レイチェルは冒険の知見から危険な領域がないかを探っていく――
 先んじて妖を発見できれば奇襲する手もあるのだと。と、そうしていれば。

「んっ……あ、また人がいやがる! あんたらは行方不明者じゃない? よな」

 先んじて先行して森を探っていた一人である――巴が汰磨羈らの前へと。
「どうなってんだ? 今日だけでもう何人にも会ってるぞ……
 うう。こんなに多くちゃ、行方不明者なのかそうじゃねーのか分かり辛いぞー!」
「まぁまぁ落ち着け。妖怪の類でないだけ襲われないのだから良いではないか――
 それよりも情報交換と行かぬか? ここは広い。無駄な探索は避けるべきであろう」
「まぁそれもそうだな……いい事言うなたぬき!」
 なんてったこのガキャァ! 思わず妖怪化せん汰磨羈だが聞き間違いと言う事にして巴と情報交換の時間だ――こちらの部分は探索したが何もなかったなどの情報だけでも無駄を省いて効率的になるものだと。
「あっ。そうだ……この森よ、変な爺さんとかいたりするから気を付けろよ。
 まぁ襲ってくる気配とかはないんだが、なんだか変な雰囲気でよ……」
「ふむ……そうなんだね? ありがとう。気を付けておくよ。
 ――この森自体、なんだか変な感じがするしね」
 同時。イズマもまた巴へと言を紡ぐものだ。
 ……この森はなんだか妙だ。なんか、時間が止まってるみたいだ……
 この森は一体何なのだろうか。
 ――知りたい。その不審な人物達も、一体いつからいて、何をしているのか。
「ま、全部は実際出会ってから――てな。よし、続きと行こうぜ」
 煙管の煙揺蕩う。レイチェルが皆へと声を掛け――歩みを再開だ。
 体力も可能な限り温存しておかねばと……慎重に進むもの。
 この森がどこまで続いているかも分からぬが故に。
 場合によっては長期戦になり得ることも想定していなければならぬやもしれぬ。ならばその折の疲労を少なくするのは――サバイバルに特化したような技能と知識だ。
「うーん、山ほど妖怪が出てくるね!
 幾ら広いからってこんなにも出てくるものなのかな……?」
 そしてレイチェル同様に冒険の知見を活かして進むのは『魔法騎士』セララ(p3p000273)もだ。森の調査も行いつつ――妖怪も出てくる危険な森になっているのであれば、退治も重要であろうと彼女は行動している。
 村人から聞けていた話だと、狼や猪など……動物型の妖怪が多いとの事だった。そして案の定というべきか襲い来る妖怪達――それらを聖剣をもって打ち倒し、往く。
 ――しかし不思議な森だ。進めど進めど果たして正確に前に進めている事か。
「空に出てみれば――って思ったけど、なにも見えないなぁ……」
 故に一度方角を確認する為にもと飛行し、空へと飛翔。
 何か特徴的なモノでも見えないかと目を凝らすが――広がっているのは森ばかり、だ。幸い、太陽の位置は確認できるが故に方向感覚を狂わされている訳ではなさそうだが……さて。どこまで進めば何がしかの変化が見えてくる事か。
 或いは、あの話が本当だとでもいうのだろうか?
 久遠の森は黄泉の国へと繋がっている――……
 それが真実かどうか『可能性を連れたなら』笹木 花丸(p3p008689)は知らぬ、が。
「でも『そう』呼ばれる所以はきっとあるんだよね」
「ええ。古くより聖地、忌み地と呼ばれる様になる土地には理由があります。
 ……この森もその系統であると。そう考えるのが自然で御座いましょう」
 彼女は『帰心人心』彼岸会 無量(p3p007169)達と共に進むものだ。
 久遠なる森。その性質が如何であるか……無量の言う前者はその土地の神性を保つ為。後者は、何かしらの要因によって被害を被るのを避ける為踏み入ってはならない――つまり禁忌としている理由が込められている場合があると。
 害獣、野盗、危険性の高い地形……
 理由は様々。しかしこの森の異質な空気を感じ取っていた無量はこの森も『そう』であろうと。
「ええ、拙者もそう思います! しかし――豊穣を護る四神すら実態を知らぬとは異様の一言……単なる事件なら御の字というところですがはてさて……拙者知ってるんです。こういう折はきっとそう簡単には行かぬものだと」
 同時。『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)もこの森に対する考えを思考する。
 そも、神隠しと言えばバグ召喚が思い起こされる――しかしそれとは異なる、と。
 単純に考えれば森に近づけたくない何者かが攫っているか、殺害しているかのどちらかだろう……しかし花丸にしろルル家にしろ、それなりに森の中を進んで捜索しているが、なにがしか争いがあったような跡は見受けられない。
 勿論、隅から隅まで全て探し尽くしている訳ではないが。それにしても行方不明になった人数の多さから考えても……もしも殺害されている様な道筋を辿っているのであればもう少し痕跡がある筈だ。
 それに、霊魂の類も――花丸の目には感知されない。
「うーん……? やっぱり浚われてる、って言う事なのかな。
 もうちょっと調べてみないと何とも言えないけれど。そっちの線の方が怪しいよね」
「花丸さんの目にも見つからないなんて、手強い森よね……もしくは、何か理由でもあるのかしら……?」
 顎に手を当て思案を巡らせる。妖怪も度々出てくるのであればじっくりと一か所を調査し、推察する暇も中々取り辛いものだ……『揺れずの聖域』タイム(p3p007854)も、助けを求める感情を感知する術を展開しているが、今の所特に反応はない。
 どういう事なのか。なんとも『ちぐはぐ』な印象をタイムを受けていた。
 危険な香りがする――けれど実際の危険は襲ってくる妖怪以外からはほとんどない。
 首を傾げながらもタイム達は歩みを進めて……いれば。
「それにしても――ぱぁりぃタイムとは、タイムさんの事を言っているのでしょうか。
 タイムさん『ぱぁりぃ』とは如何なる異名でしょうか? 何やら不思議な言の葉ですが」
「ええ!!? んんん、とね、ぱぁりぃタイムっていうのはわたしじゃなくてお祭りみたいな意味で~玄武さんのお茶目っぷりが出てるだけというか……」
「お待ちください。『ぱぁりぃ』と言う技術は聞いたことがあります。
 なんでも相手の撃を受け流し、弾き、無防備なる点へと致命の一撃を叩き込む……
 その様な守の技なのだとか――タイムさんが伝承者として使えるのかもしれません」
「えっ、技術なの!!? わ、私が使い手……!? 使えるかな……」
 瞬間。無量と『月下美人』雪村 沙月(p3p007273)の物珍しい視線がタイムへと注がれる――あわわわと、とりあえず指先を伸ばして武術っぽいポーズを取るタイムだが、これであってるのかは全然自信ない。ぴえ~ん! これがぱりぃだよ~?
 ――と、その時。草陰から狼型の妖が飛び出してくるッ――!
「わー! 何々何々――!?」
 思わず飛び出た手。偶然向かってくる狼を受け流し、偶然狼の首筋に直撃すれば――はっ、これが……パリィ……!? これがパリィタイム……!?
「お見事ですタイムさん――後はお任せを」
「ふふ。鬼が出るか蛇が出るかと思っていましたが……よもや狼を打ち倒されるとは」
 さすれば備えていた沙月と無量が狼へと追撃す。
 最適なる太刀筋を導く一撃が狼へと放たれ――派手な物音を立てるものだ。
 尤も、それは無量の狙い通りでもある。
 元より単なる野生の獣であれば物音や気配に気付いて習性的に離れていく筈だ――余計な遭遇や戦闘を回避する為にも己らが存在を醸し出しているのである。
 そして沙月は狼を打ち倒せば再度、優れし嗅覚にて周囲を探る。
 人間の匂いがあるかどうか。野生の獣や妖怪とは異なる匂いがないかと……
 持ち物を落としている可能性もあるのだから――と。
「……ふむ。奥へ、奥へと匂いが強くなっていますね……このまま進みましょうか」
「しっかし本当に痕跡がないのが不思議ですねぇ。
 まるで自分から奥へと進んでいるかのようですよ――妖怪の類に攫われた風でもなし」
 さすれば沙月は感じ取る。匂いが――奥の方で集結しつつある、と。
 同時。ルル家もまた周囲に行方不明者がいないか、或いは妖怪の仕業なのではないかと知識を総動員し探っていたのだが……あまりにもそういった痕跡がない事から、逆算的に事を推察しつつあった。
 ――この森に迷い込んだ者は、どういう訳か自ら奥へと進んでいる。
 少なくともそういう者が多そうだ、と――むぅ。果たしてこのまま奥へと進んでいいかどうか。
「むむむ。そうだ! こういうアテがない時こそ占いですよ!
 見よ! ヴィオ直伝の占いパワー! うーんえいやえいや、あらほらさっさ!
 ――ん~! よくわかりませんが多分こっちですね!」
 大丈夫、ヴィオちゃん印の占いですよ! うおー!
 自信満々に進むルル家。本当に大丈夫かなぁ、と心配になったタイムは――ファミリアーを通じて『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)にも連絡をとっておくものだ。
「成程ねぇ。そっちはとりあえずこのまま奥へ……か。了解了解後で合流しようぜ」
 風牙は単独で行動をしている。ただでさえ広い森なのだ――可能な限り散開しておいたほういいだろう、と。故に風牙は人里が近い方から森の方へと侵入を果たしていた。
 曰くのある森に進んで入っていこうとする連中など、その狙いは最深部に決まっている。
「森の浅いところをウロウロせず、奥を目指すもんだろうしな――と」
 そして風牙は人が通ったであろう痕跡を発見しながら進んでいた。
 折れた枝、足跡……などなど。人の進みは獣とは異なる。
 特徴的な印があればそれを辿るのだ――
 これをそのまま辿る事が出来ればやがては彼らが行き着いた先に辿り着こう。
 ……ただ。行方不明者は一向に発見できていなかった。
 どこまで行った? どこまで行ってしまったのだ?
 時折発見しうる人影は全て今の所イレギュラーズばかりであった。と、再び風牙の視界に入った者達も、また……

「おや――これは誰かと思ったら希紗良ちゃん」
「おおアッシュ殿。奇遇でありますな――そちらも行方不明者の事を聞いて?」

 神使であった。それは依頼により赴いていた『スモーキングエルフ』シガー・アッシュグレイ(p3p008560)と『鬼菱ノ姫』希紗良(p3p008628)の両名――互いに此処に来ていたとは知らなかったが故に、偶然にも知古に再会していた様だ。
「ああまぁ、ね。ただ今の所成果はないんだけどね……皆どこに行ったんだか」
「ふむふむ……キサはこの森の奥に何があるのかが気になるのであります。行方不明者の捜索は大事でありますが……しかし、それ以上にこの先には『何か』あるのだと、キサの直感が告げているのです」
「それなら、とりあえず進めるところまで進んでみよう。
 その途中で行方不明者が見つかるかもしれないからね。一緒にどうだい?」
 勿論でありますアッシュ殿、と。
 希紗良とシガーはここまでの道のりを簡単に情報交換しつつ二人は歩みを合わせて往く。薄暗き森、何が潜むやもしれぬこの地でも――背を預けるだけの信を置ける方が一緒だと、ほんに心強きもの。
 ファミリアーの小鳥を希紗良は放ち。シガーは周囲の自然から情報がないかと探り続ける。誰か倒れている行方不明者でも見つける事が出来れば治療するつもりだったのだが……しかし、幸か不幸かそういった者は一切見当たらなくて。
「流石に、行方不明者を見つけたら一度戻る方が良いかな?
 後はどこまで進むかも……ね。日暮れまでこの森にいると危険が増しそうだ」
「そうでありますね――如何したものか……むむむ」
 故にどうしたものかと思案する。
 このまま進み続けるか否か。飛び出てきた妖を希紗良は斬り捨てる――も。このまま夕方に至り、夜へと時間が突入すれば容易くはいかぬかもしれぬ。この先で誰ぞを見つけたなら、一度引き返すのも手かと。探検心と人の命を天秤にかけることは出来ない所だ……
 そして似た考えは他のイレギュラーズの面々も抱きつつあった。
 進むか、退くか。闇雲に進むよりは体力も考えて戻るべきかと。
 夕暮れにはまだ少しばかり余裕があるが――さて――

「……おや。誰かと思えば懐かしい顔を見かけたものだ――希紗良」

 瞬間。希紗良は背後より声を掛けられた。
 知っている声。まさか、いやしかし、この声は――
「――清之介殿! なぜここに? ここは危ないであります!」
「ん……知り合いかい、希紗良ちゃん?」
「は、はい。自らの師と言いますか……いえしかし何故此処に……お元気そうで何よりでありますが!」
 それは月原清之介なる希紗良の知古であった。
 柔和な笑顔を浮かべているその男は、一振りの刃を帯刀している……さすれば希紗良は思いもかけず出逢ってしまった知り合いの様子に驚きつつも――駆け寄り、笑顔の色を口端に綻ばせているものだ。
 彼は己が師と言える存在。全幅の信頼せし、武人の御方――と。
「ははは。いや何、色々あってな。それよりも――希紗良はこの奥に進むつもりか?」
「――むっ、じ、実は悩んでおりまして……行方不明者を探しているのですが……」
「そうか――ならば気を付けておいた方がいい。ここにはあまりに危険な人物がいるからね」
 危険? と首を傾げる希紗良。
 そんな彼女に清之介は語る。
 己が得た情報を。己が『この地』で活動してきて得た情報を――『嘘偽りなく』
「ああ。かつて――この豊穣の国に恐怖の時代を齎さんとした『男』の事だよ」


 『赤い頭巾の断罪狼』Я・E・D(p3p009532)は卓越した技能の数々にて森を進んでいた。
 妖怪は躱し、或いは容易に御しきれる程度であれば動きを縛りて吹き飛ばし。
 邪魔な木々は透過する術をもってして、周囲を捜索し罠がないかも感知して。
 常に耳を立ててどこぞで不審な音が生じないかを常に確認。
 ――『誰』かがいるなら必ず生活の痕跡や音がどこかに在る筈なのだ。
 大量の行方不明者がどこかに捕らえられでもしているのなら尚更に。
 ……故にЯ・E・Dは周囲の警戒も完璧に成しつつ進んでいた――筈なのに。

「ふむ。お嬢さん……で、いいのかな? 見事な動きだ、感服するよ」

 ――いつの間にやら背後に『誰か』がいた。
 急速に方向転換。見据えれば、そこにいるは『緑髪の老人』――
「うん、ようやく会えた――貴方達が行方不明事件の犯人だね」
 彼が噂に聞き及んでいた妖しき人物の一人、か。
 ……情報によればもう一人いる筈だが、そちらの姿は見られない。
 他の所にいるのかいないかは――はともかくとして。
「単刀直入に言うね。貴方達の本拠地に案内して欲しいな」
「はっはっは。これはまた、本当に単刀直入だね」
「このまま進んでも良いんだけれど、どうせなら案内されて正式に招かれたいからね」
 まずはこの老人と交渉を開始せんとするものだ。
 ……どうにもこうにも森の中に動物とか怪物ではない『意志を持ったナニか』が居るような気はしていたのだ。それが彼ら……やもしれぬ。言葉として口に出しているのはさも『分かっている』かの様な声色だが――これ自体はハッタリだ。
 正解なら良し。正解でなくてもなんらかの反応を探る事は出来よう。
 ――彼女は交渉人としての知見と技能を用いて彼と相対す。
 少しでも情報を絞り出す為に。
「森に入った者を殺さずに浚っているって事は、奥に導く気はあるんだよね?」
「ふむ、それは…………と、その前に。ところで君は『なんともない』のかね?」
「――何が?」
 故に憶測をあえて断言口調でハッタリを繰り返す――が。その時。
 老人は何やら訝し気な表情で此方を見てきている。
 今自分とこうして会話しているのが不思議な様な――そんな目を、と。

「見つけたよ……成程、いつのまにか背後に立っているなんて……匂うね」

 さては君、タチかな――?
 言うはムスティスラーフだ。邪魔立てする妖怪をむっちによる砲撃にて薙ぎ払えば、そこにいたのは件の老人。場に飛び込む様に至ったムスティスラーフは真正面から老人を見据えるものだ……彼は怪しげではあるが、しかし――
「タチ? タチとはなんの事かね?」
「ううん何でもないよ――それよりも君はこの森で発生している行方不明者達の事についてなにか知っていないかな?」
「――知っていると言ったら、どうするかね?」
「うん、そうだね……なら仲良くお喋りしたい所かな!」
 僕のタイプだ! いや、まぁそれは仮に百歩譲って置いておくとしても、彼は間違いなくこの事態に対する『核心』を知っていると見ている。彼を逃す手はない――周囲、共鳴が届きし味方がいれば事態に進展があった事を知らせて。
「ほう……今回は随分と大所帯で来たようだね。
 それも……ああ、特別な者達ばかりのようだ。神使がこれほど至るとは」
「神使だと何か不都合な事でもあるのかな?」
「いや。ただ、遂にこの時が来たかと思うだけだよ」
 ――老人が、今の交信を感知した?
 ムスティスラーフは一瞬警戒するが、しかし老人は未だにこやかな表情を浮かべている。
 咎める気も何もないようだ。それは余裕の表れか、はたして……
「だが――どうやら話が通じなさそうな相手ではないな。
 やれやれ、ようやく言葉を交わす事が出来る奴が現れた、って所かね……」
「やぁやぁ麿が来たぞ! むぅ、あれぞが妖しき者か……!
 成程、確かに麿の目からしても怪しさが満点ッ! そなた――何者か!」
「これはまぁ凄い『殿』っぽい人物も今の世にはいるものなのだね……」
 が。なにはともあれその連絡を起点とし、イレギュラーズの間にも情報が伝わり始める者だ。共鳴の印を受け取ったトウカが至り、そして近くを捜索していた夢心地の姿も見え始める――和服纏う老人よりも豊穣人らしい夢心地の姿にちょっと面食らっている様だが。
「ふむ。ふむ。面白い。実に面白い――
 これほどの神使が此処に来るとは……いいだろう。
 ならば望み通り、少し話をしようではないか――私はここの『守人』の一人だ」
「……守人? 何かを護ってる、と言う事か?」
「うむ。我らは永い時を此処で過ごしている……そして守っているのだよ。『理想郷』を」
 理想郷――? 老人の紡ぐ言の葉に、トウカは訝し気な表情を向けるものだ。と、同時。
「胡散臭い言葉が飛び出てきたもんだな……
 理想郷、なんて言葉は簡単に使うもんじゃないぜ」
 更にその場へと到達せしめたのは風牙だ。
「そもそもその理想郷とやらが――行方不明者の事件とどう繋がってくるんだ? まさか理想郷に誘われて、そこの居心地がよかったから住み着いてる……とかじゃねぇよな?」
「ほう。察しが良いな――その通りだよ」
 はっ? 思わず誰かがそんな言葉を零した。
 理想郷? 何の話だ。そんなもの――
「ちょ、ちょちょちょちょーっと待って! 理想郷? そんなのが実在するの? だって文献も何もないのよ? ていう事は人の出入りなんて無い筈なのにどうしてそんなのが……」
 刹那。更に集ったのは――きゐこだ。
 地図の作成に努めていた彼女からすれば理想郷などと違和感しかない。
 どう考えたってこの地にそんなものある筈がないのだ。見渡す限り森の、こんな所に。
「むしろ黄泉に通じている、という話なら聞き及んでおりますが」
「ひぃ……黄泉ってアレよねぇ……地獄とか冥界とかって意味よねぇ……
 ううっ。やっぱりここってお化けの巣窟なんじゃ……!!」
「うん? お化け――はっはっは。成程な。うむうむ。霊魂の類は確かにいるやもしれぬぞ」
 噓でしょお!!? 雪之丞の言に続いてジルーシャも述べれば――老人がいきなり肯定してきた。やめてそういうの、そろそろ本気で泣くわよッ!!?
「――というか、お前達はもしやこの地がどういう場所なのか知らされずに来たのか?」
「……知らされるも何も文献がないという話なのだが」
「おや。成程。一般的にはそういう事になっているのか――うむうむ」
 ならば答えよう。と老人はラダの方を向いて応えるものだ。
 お化けが出るかもしれない? むしろ出るに相応しい地だよ、こおは。
 なぜならこの地は――『墓場』だ。

「ここはそもそも――歴代の帝の『遺骨』が収められる地。
 『皇陵』と呼ばれし、ごく一部の者達だけが所在を知る地なのだからな」


 慎重に(ヴィオ印の占いもしながら)歩みを進めるルル家達――
 が、その目前に人の気配が生じていた。
 妖怪ではない。かといってイレギュラーズである感じもしない……
「ん――そこにいんのは誰だ? 出てこいよ」
「――ほう、其方も気付きます、か」
 さすれば。どうやら向こう側も気付いたようだ――それなりに距離がある状態で気付けるとは、向こうもどうやら只者ではないと無量らは悟りて。であれば。
「やー! こんにちは! 拙者、天香家ご当主の側女をしております夢見ルル家と申します! いやー、実はですね拙者達行方不明の方々を探しておりまして! ここで出逢ったのも何かの縁! 何かご存知ではないでしょうか?」
「花丸ちゃん達はここで人を探す依頼を受けてきたんだよ。
 四神の玄武さんからね! そっちもかな?」
「ん、玄武……? 四神からって事は、まさか神使か?」
 ルル家や花丸がまずはと、友好的に話しかけてみるものだ――
 目前にいる人物は、どうにも鬼人種の様である。
 金色の髪を宿す彼は目撃されていた妖しき者とは違うようだが……
(あれ、この人って確か……前に見た事ある様な……)
 瞬間。タイムが気付くものだ。以前にどこかで逢った事があると――
 彼の名前は『空』
 ある『党』に所属する一人であり、ここにきているのは、しかし個人的な目的によるもの……
「行方不明者……? ああ、なんか噂になってるヤツか。だが悪いがしらねーな。そもそも俺は……あのクソイラつく軍服野郎をぶちのめしに来ただけだからよ……!」
「――ふむ。その言い草、何かあったかとお見受けしますが?」
「大した事じゃねぇ。
 あの野郎が俺を舐めた戦い方しやがっただけの事……お前らには関係ねーよ。
 それより帰んな。ここは色々『やべー』ぞ。精神が弱い奴はいるだけでアウトだ」
「……えっ? えっ? それってどういう事? ここに何かあるの?」
 空へと語り掛ける沙月とタイム――しかし、彼女らも心のどこかで感じつつあった。
 この森は何か『妙な力』で覆われていると。
 ……多くの戦いこなしたイレギュラーズであればさほど影響はないように感じるが、しかし。
「説明し辛いけどよ。まぁ……行くなら奥へと進めば分かるぜ。
 奥には『街』があるからよ――そこまで行ってみろ」
 自然に醸し出していたタイムの上目遣い――に、何となし目を逸らす空。
 同時。彼が指さしたのは一つの方角。森の奥の奥……そこに『街』がある?
「このような森に、街が? 確かですか?」
「嘘はいわねーよ。証明もしねーがな。ああそれはそうと、お前ら軍服姿の野郎を見かけなかったか? さっきも言ったが俺はあの野郎をぶちのめす為にここにだな……」
「ううむ。今の所拙者達はまだ誰にも逢ってはいませんね……申し訳ない!」
 そうかい、まぁいいさと。空はルル家達へと返答すれば。
「……ま、進むなら精々気を付ける事だな。行方不明者の仲間入りなんざ、するんじゃねーぞ」
 雑に手を振って彼もまた森の奥へと――消えていく。
 街があると示した方とは別の方向に、だ。軍服姿は街にはいないと踏んでいるのだろうか……?
 ともあれ。
「ところでタイムさん」
「んっ?」
「その上目遣い、可愛らしいですね――もう一度やっていただいてもいいですか?」
 今度は私を真正面に、と。ふええと慌てるタイムへ無量は言を紡いでいた。


 同時刻――緑髪の老人が言の葉による応酬を続けていた頃。
 別の地点では激しき戦闘が繰り広げられていた。
「ぬぁ――! 待て、待て、待てッ! 吾らは人が消える理由を知りたいだけで……」
「フフッ……つれない事を言ってくれるな。お前達の戦いぶり、実に見事であった――
 私の血も騒ぐほどにな。故に少しばかり付き合ってくれたまえよ!」
 抉られる大地。吹き飛ぶ木々。
 ――その渦中にいる一人は百合子であった。
 跳躍し、躱した視線の先にいたのは軍服姿の何者か。

『以前森に来た時に此方を観察していたのは貴殿らか――?』

 そう語り掛けようとした百合子であったが、問答無用ばかりに軍服姿は攻勢を仕掛けてきた。ええい、せめて対話が終わるまでは待ってほしい所であったが……!
「クハッ! ああ全くならばやむを得まいな――カイト殿、往くぞ!」
「ったく! 妖怪達の親玉が出てきたと思えばやっぱりこういう事になるかね――!」
 しかしそれならそれで『そういう形』での対話に切り替えるものである……!
 まずは奴めを大人しくさせんと、百合子とカイトは互いに全霊を。自らを強化しうる加護を齎し――万全をもってして敵に当たろう。高速で飛翔せしカイトが上から攻め、百裂の拳を誘う百合子が真正面から攻め立てるものだ――!
「おい、だがよ勝負するってんなら……勝ったなら諸々教えてもらうからな!
 なんで人が消えちまってるのとか、そっちが誘拐してるのか――とかよ!」
「ハハハ良かろう! なんなら片手間に教えてやっても構わぬぞ――そうだな。
 誘拐と言えば確かに誘拐が真相と言える事態がこの森では起こっているのだよ!」
 同時。始まった戦闘であるが、あくまで調査の事は忘れずとカイトは言を重ねる。
 ――さすれば軍服の男も高らかな声を響かせながら答えるものだ。
 この森で起こっている事の、一端を。
 ……そして。斯様な激しい戦闘が行われれば周囲のイレギュラーズも集まってくるもので。
「誘拐――? ふむ。なんとも面白くない単語が聞こえてきたものだな」
「鬼灯くん! あの人、悪い人なのだわ!」
 その内の一人が鬼灯であった。
 木の上。枝を足場とする彼は、優れし瞳にて戦場を見据える――
 中央で暴を振るう一人の男。かの人物が述べた言葉を、吟味しながら……
「ククッ。だが、私はその誘拐そのものには一切関わっておらぬよ……
 主犯は一人の『女』だ。私は奴を守護する『守人』の一人に過ぎん」
「へぇ。そいつは良い事を聞いたわ――もののついでにもうちょっと口を軽くしてくれない?」
 さすれば。その戦場に介入する影があった――ゼファーだ。
 自由なる翼を得るかの如き神速を此処に。軍服姿の男へと一閃すれば、言の葉を紡いで。
「その女性ってのは誰? あと、さっきからぶちのめしてた妖怪達……
 貴方達は襲われないみたいだけど、それも関係あるのかしら?」
「無論、あるとも。この森は『彼女』の今や彼女の領域だ――
 心脆弱な人間や知恵無き魔物など『彼女』の力には逆らえんよ」
 が。刃が一歩の所で届かない。
 男は最小の動きによって数多の攻撃を躱している――それは戦闘技量の高さも示すが、なにより異常に戦い慣れしている様子すら感じさせた。気を窺う鬼灯、百合子、カイト、ゼファーの攻めをもってしても今一つその芯に攻撃が届かない。
 ――強い。
 これほど強いというのに、コイツは首魁ではないというのか。
 奴の言が全て事実であれば、首魁は『彼女』と度々呼んでいる女性の様だが。
「うーん、喧嘩っ早いんだね!
 いいよ、でもそっちがそうお望みなら――付き合ってあげるよ!」
「やれやれ。どうしてこう戦い好きな奴が多いのだかな。
 ま、なにはともあれ救助に奴は邪魔だ、大人しくさせてもらうとしようか」
 直後。戦場へと畳みかけてきたのはセララと錬であった。
 戦闘音を感知し襲来。軍服の男へと一閃し、己が実力を此処に集約しよう。
 錬もまた奴へと真銀の刀を鍛造し――一閃。
 直後にはセララが白き衣にドーナッツの加護も咥えて、さすれば。
「ボクの実力、見せてあげる! いっくよ――! ギガセララ、ブレイクッ!!」
「ほう、面白い小娘だ――来たまえ。その全霊、我が身で受け取ろうではないか!」
 激突する。衝撃波が生じる程の刹那に、打ち込んだ撃の数は幾つか。
 闘争の果てにこそ初めて分かり合える事もあるのだと。そして。

「――いやぁようやくお会いできましたねぇ」

 その時。戦場へとにこやかなる表情のままに歩を進めたのは――鏡だ。
 ようやくにも逢えた。そんな標的へと……尋ねたかった質問は三つある。
 一つ。アナタは何者ですか
 二つ。行方不明は『アナタの仕業』ですか
 三つ。目的はなんでしょう?
「お手伝いは必要ですか?」
「ほう、手伝い? もしも仮に全てを晒したら――こちらに協力するのかね?」
「さて。それは話次第でしょう。ああ、まぁ、ただ、そうですねぇ……」
 それ以前に一つ、お願いが。
 鏡は口を開く。声は生じさせず、唇の動きだけで表現するは……

『――私に斬られてくれますかぁ?』

 その、一言。
 同時。意味を理解したのか――軍服の男が笑う。
 面白おかしいように。含み笑いから高笑いへと変じて。
 盛大に鏡の事を気に入ったかのように――
「フ、ハハハ! ハハハハハ!
 良いぞ。その殺意、内に込められし闘争の魂……
 美しい。輝かしいばかりだ! 面白い――貴様、私の幕下に加わらんか!」
 ――私は。
 強い者が好きだ。
 強い者を傘下に加える事も好きだ。
 強い者を捻じ伏せ蹂躙するも――この上なき喜びだ。
 だから、ああ。お前の質問には答えてやっても良いがその前に。
「昂るものだ。少し、強めに叩いてやるが――死んでくれるなよ」
「さてさて。あんまり自分が勝つものだと――思わないで欲しいものですがねぇ」
 口端吊り上がりながら二頭の暴獣が激突する。
 殺意と殺意。闘志と闘志。絶死の間合いで舞踊の如く。
 食らい合うは凄惨――血反吐血飛沫ああ撒き散れば……
「おいおいおい――なんだこの現場は。
 妖怪達の行く末を辿れば、既に戦闘が始まっているとは」
 同時。戦闘の気配を感じて更にやってきたのは――汰磨羈であった。
 妖怪達に襲われぬ者達がいればそれは真っ先に疑うべき相手……しかし何も聞かずにいきなり疑ってかかるのも失礼だ。せめて最初ぐらいは友好的な接触を――と思っていたにも関わらず、最早そんな段階は既にぶっちぎっていた。どうしてだ。
「余計な面倒はごめんだぞ……!
 ええい、意思が通じるのならば拳ではなく、言の葉を交わせたらどうなんだ!」
「――貴方達は一体、誰なんだ? いつからここにいて、何をしている?」
 故。警戒は怠らぬままにイズマと共に言を降り注がせるものだ。
 いずれにせよこの森に迷い込んだ者ではあるまい――ならば奴から聞き出す事は山の様にあるのだから……彼の懐に在りしお守りが一つ、小さく淡く輝き縁と縁を結び付けて……
「いつから此処にいる……? さて、いつからであったかな。
 最早覚えてもおらんよ。随分と昔からだ。
 この森の外は随分と激動の時代を迎えていたようだが。我らはそれを知らぬ程にはな」
「引きこもり、てか? 出れなかった訳じゃあねぇだろ――?」
「いいや。そこが肝でな――私はともかくここの者達は外に出れぬのだ」
 次いで、レイチェルも言を重ねる。
 炎を纏いて如何なる事態へ移ろうと動けるようにしながら――さすれば。
「そもそも――お前達、もしやここが『墓場』であることは知らずに来たのか?」
「――墓場だと?」
「正確には歴代『帝』の遺骨を納める地、と言う意味だがな」

 何――? この森には、歴代の『帝』の――遺骨が――?

「ほう……どうやら誰ぞも知らぬままに来たようだな。妙な話だ。墓荒らしがいてはいけぬからと、厳重に秘匿されていたのは知っていたが……豊穣の有力なる者達の中には此処が遺骨を納める地である事を知っている者も当然いる筈だが。例えば天香家はどうした?」
「――えっ? 天香家がなんですって? 今貴方なんとおっしゃいました?」
 瞬間。そこへと現れたのは――ルル家だ。
 天香家――? まさかそんな名前が出てくるとは。
 ……かつての長胤ならば、もしかすれば知っていたのだろうか?
「ふむ――もう少し詳しいお話を伺いたい所ですが、乱暴に過ぎるお方ですね。
 ……腕の一本ぐらいは折って差し上げた方が落ち着かれるでしょうか?」
「ほう。気の強い女だな――嫌いではないぞ。いやむしろ好きだな。
 強い者は誰であろうと問わん。実に好ましい存在だ――力が伴っているかは知らんがね」
「あの軍服ってもしかして……さっきの空さんの……」
「うん――花丸ちゃんもそう思うな。だけど今から伝えに行く暇とかはなさそうだね」
 そして沙月やタイム、花丸も奴を見据える者である――
 先程、空の言っていた人物が奴か。成程、とても危険な匂いを醸し出している……
 ……しかし成程。久遠なる森の文献が異常に少ないのは帝の遺骨を納める地であることを誰にも知られたくなかったからか。豊穣の有力者達によって文献などは管理され、情報は徹底的に封鎖されていたのだろう――
 そして数少ない久遠なる森の真実を知る有力者達――例えば天香家などであれば知っていたかもしれないが――
「巫女姫の折に……亡くなったのね」
 呟くは、アルテミアだ。
 巫女姫――アルテミアにとっても身内の彼女が齎した一連の動乱――
「――一つ、聞きたいわ。
 あなたはいったい何者なの? あの子の……巫女姫と関わっていた者なの?」
 故に。ならばと、彼女は問わざるを得ない。
 ここは歴代『帝』の遺骨を納めている地?
 なら、ねぇ……
「貴方は?」
「フッ――私は、かつて『帝』の地位にあったに過ぎん男だよ。
 今はその座から堕ち、このような場所に落ち延びた程度」
 一息。
「私は『干戈』の名にて座し者。ディリヒ・フォン・ゲルストラー。
 そして――この世の外より訪れしウォーカー。
 この国で言うなら『神人』だったかな?」
 つまり。
「お前達と同じイレギュラーズだ。
 尤も、私がこの世界に召喚されたのも……最早忘れる程昔の話だが」


「『干戈帝』ディリヒ・フォン・ゲルストラー。歴史的に言うと兵部省と非常に関わりが深い人物だ……が、あの男は危険だ。無類の戦好きで、かつてこの国で発生していた大内乱をわざと長引かせるような戦い方を繰り返していたという――」
 所変わってシガーや希紗良がいる地点で清之介は語り続けていた。
 己が知りえた情報を。ここは歴代の帝が眠る地――
 その中で、幾人かの『帝』の姿が見受けられるのだと。
「死人が動き出したか実は生きていたか。どちらか分からない、が。
 いずれにせよ見過ごせない事態だ。不穏な影が見え隠れする……」
「むむ、なんと……そのような事が起こっていたのでありますか……」
「……しかし。そちらさんもよく事情を知っている事だな。前から調べていたのか?」
「まぁ。旅をしていて色々あってね――偶々この森の事を知ったのさ」
 顎に手を当て神妙な顔をする希紗良。
 一方でシガーは変わらず優し気な微笑みを浮かべている清之介を――一瞥する。
 嘘は付いていなさそうだが……しかし妙に詳しい事だと。
 昨日今日で調べた事とは思えない。一体どこから、或いはもっと前から関わっている……?
「さて――ともあれ、これからもこの森に関わるのなら共闘出来る事もある筈だ。
 希紗良。考えていてくれると嬉しい」
「あ、はいっなのであります! ――んっ、清之介殿はどちらに?」
「ああ。実は、拙者にも『仲間』がいる。そちらと合流する予定があるんだ」
 刹那。シガーらの頭上に――飛翔する何かが見える。
 鳥か? いや飛行種か?
 彼方に見えるが故に人相はよく分からぬが……何やら天狗の仮面が見える様な……
 ともあれ清之介にも仲間がいる様なのは確かな様で。
「ではまた機会があれば会おう――共に、目的を達する事が出来る事を祈っている」
 言葉と共に、清之介は森のいずこかへと消えていく。
 ……まるで。身を隠すよう様な印象があったのは、気のせいであったか。それとも……


「――おっと。お師匠さん、すまないっす。
 どうやら他の面々がどうにも怪しげな人達を見つけたようで……」
 更に慧もまた――自らの師である栴檀から情報を得ていた。
 が。ムスティスラーフからの共鳴による合図を得た慧は現地に向かわんとする。
 お師匠さんと語るべき事はありそうだが……今は依頼を、と。
「ああ慧。一つだけお気を付けなせぇ」
 が。往く前に――栴檀は少しだけ引き留める。
 この地には、この地を包む『何か』がある。
 それの仔細はまだ知れぬ。呪いか何かの類かもしれないが……

『――古く、長く、積み重ねられたモンは、厄介ですぜ』

 栴檀は語る。神秘は年月が重ねられているモノほど、厄介になるのだと。
 そしてこの地は――相応に『古い』のだと。


「ふむ――これは何やら空気が変わったのぉ」
 瑞鬼は天を見上げていた。
 シャムを引き連れ妖怪を退けていたが――刹那。何かが変わった様な気がしたのだ。
 それは言葉では上手く説明しきれない、勘の一種の様なものだが……
 恐らく、間違いない。
「え、え? なんですか瑞鬼さん? 陸鮫は用意できてますよ!
 ほら、こんな感じに――アッ! イタイイタイタイ!!
 ふーふー! 普段は懐いてる子なんですけどね、偶に私の事を噛むんですよ!」
「シャム。もしかしておぬし陸鮫に非常食か何かだと見られてはおらなんだよな……?」
 ちがいますよー! ねー陸鮫君! え、なに。なんでじっーと見てるの? こわいよ?
 陸鮫と仲良く(多分)戯れているシャムだが――しかし彼女も不穏な気配は感じつつあった。
 ……なんだかこれからこわいことが起こりそうな予感がしている。
「ああ、全く。どこぞの馬鹿にはお灸をすえてやらんとな――」
「ひぇ!!? お灸!? お灸ですか!? ごごごごごごごめんなさいごめんなさい、姉御大明神様それだけは何卒――!!」
 ……お主ではないぞ、シャム。
 泣きそう。ていうか鳴いてるシャムの声を聴きながら。
 瑞鬼はこの地に蔓延るであろう『馬鹿者』に対する思考を巡らせていた……


「――まぁそんな事はどうでもいいではないか。
 さぁ闘争の続きだ。私に勝ってみせろ――案ぜよ我が『武器』は使わぬ!
 私に勝てば全て包み隠さず話してやろうではないか! フ、ハハハハハ!」
 『干戈帝』と名乗ったディリヒ――しかしすぐさま戦闘の気配を取り戻す。
 戦狂い。そのような雰囲気を醸し出すこの男――はたして止まるか否か。
 数度打ち合ったのみであるが、この男は強い。
 その拳は岩をも打ち砕き、針の穴さえあれば通してくるかの如き精密さも宿している――その上でこの男なんと『武器無し』でこの状態だと――?
「ッ、いいわ……そこまでお望みなら、続きといきましょう。
 でも舐めないでよね――ッ押し切らせてもらうわよッ!!」
「バトルが終わったら恨みっこなしで行こうね! 約束だよ!!」
 が。向かってくるというのならば打ち砕いてみせようと。
 アルテミアとセララは刃携えディリヒを迎撃する。
 イレギュラーズ側か、奴か。どちらが果たして先に倒れる事か――
 誰もがそう思った、その時。

『――ダメだよ? 貴方はまたそうやってすぐに喧嘩をしようとするんだから』

 刹那。周囲に轟いたのは……声?
「いや、これは……念話の類、か?」
「――俺たちにも聞こえるな。これは……『女の声』だな」
 さすれば汰磨羈やレイチェルの脳髄にも声は届いていた。
 一定の範囲に無差別に届けるテレパス――の様なモノだろうか?
 一体どこから届けているのか……思考を巡らせるよりも早く。
「――君かね。やれやれ、多少は見逃してほしい所なのだがな。
 これほど黄金の如く美しく、気高き魂と力を前にして自重せよと言うのか――」
『うん!』
「一言で済ませないでほしいものだが」
 『干戈』が反応せしめた。彼の知り合いからの声、だろうか……?
 待てよ。確か彼は主犯は『女』と言うような言を紡いでいたが……
『それよりも、その子達は通してほしいな――折角のお客さんだよ?』
「彼らは行方不明者を取り戻しにきたのだ。敵になるぞ?」
『その時はその時だよ! いいからとーしてー!』
 なんか、こう。凄く無邪気な声が過ぎる……
 どこか毒気を抜かれる様な。漲っていた闘争心が霧散していくような……
 ああ『平和にせねばならぬ』とする心が芽生えてしまうような……
「――ッ。いかんな、これは。油断せしめれば頭を揺らされそうだ」
 軽く。頭を叩いて首を振るのは百合子だ。
 なんとなし頭がぼやける様な感覚を少しばかり得ていてしまっていた。
 ……もしや、行方不明者達はこれが進行していた様な状態なのだろうか。
 頭がぼやけ、そしてふらふらと森の奥へと突き進んでしまっていた……?
 と、その時。
「お前達――此処をまっすぐ進め。さすれば『見えて』くる」
「何が?」
「彼女の抱く理想郷が、だ」
 ディリヒは言う。戦いは、今日の所は仕舞だと。
 先に進みたまえ。その先に全てあると。
 示され、向けば――いつの間にやら道の様なモノがあった。
 舗装されている訳ではない。しかし草木が生い茂っていない道が一つ……
 罠ではないか? 信用できるか?
 思う事は多々あれど、しかし事件の真相を確かめる事が出来るのならば、と。
「行くか――ジルーシャ、あと少しだから頑張れ!」
「ひいい無理よぉ……だって墓場の奥底でしょ……きっと骸骨たちがいるんだわ……」
「今からでは引き返す方が恐らく時間がかかりますよ。確かめてから帰りましょう」
「そうですよ! もう少しだけ、ファイトですよ!」
 故にラダ、ジルーシャ、雪之丞、きゐこらは――滅茶滅茶渋るジルーシャを引き連れ往くものだ。緑髪の老人の方でも似た事があったのか、彼女らも奥へと通されている――ここまでの地図も……奥まで進めば完成するやもしれぬのだから。
 歩く。
 只管に。示された道を歩き続けて。
 さすればそこに現れるは――一つの街。
「……なんだろうここ。高天京?」
「似てはいるが……しかし、なんだ? 何か違うような気がするな……」
 刹那。Я・E・Dと章姫を抱き直す鬼灯が気付いた。
 この入り口は高天京に――酷似していると。
 しかしどこか違う。何か違う事も、視覚ではない。心でどこか理解できていて……
 と、次の瞬間。
 街の奥から誰ぞが歩いてくる。
 ゆっくりと。ゆっくりと。
 白き翼をはためかせ。
 イレギュラーズ達の目の前に現れたのは、一人の女性――

「――初めまして」

 その声色はイレギュラーズに対して友好的な穏やかさを秘めていて。
 そして。
「初めまして! 私は偲雪! 何代も何代も前に帝をしてたんだよ――よろしくね!」
 彼女は語る。自らは――かつての帝の一人だと。
 彼女の名は『正眼帝』偲雪。
 かつて、鬼もヤオヨロズも笑って暮らせる世の中を作ろうと願った人物であり。

 そして――殺された人物である。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

鏡(p3p008705)[重傷]

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 久遠なる森の果てに在ったのは――街と女性?
 この森の真実はまたやがて……ひとまず、ありがとうございました。

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