PandoraPartyProject

シナリオ詳細

“卒業”したクレア

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 毎朝うちの店にやってくる幼い少女クレアは、いつもはつらつとした明るい挨拶をしてくれた。
 彼女は店に入ってくる前に、いつもくんくんとパンを焼く匂いを嗅いで。それから胸いっぱいにその匂いを吸い込んだあと、思いっきり息を吐きながら「おはようございます!」と叫ぶのだ。

 彼女が初めて店にやって来たのは数ヶ月前のことでしかなかったが、その時は彼女はまるで小動物みたいに、まるで誰かの視線を避けるかのように辺りの様子を窺っていたものだ。そして、物欲しげに店先のパンにちらちらと視線を遣っていた。
「食べたいの?」
 そう私が訊いた時、彼女はこくりと頷いた。でも、うちだって商売だ。近所の子でもない見知らぬ子供に、はいそうですかとあげるわけにもゆかない。
 だから、食べるにはお金が必要なことを説明して、両親からお小遣いを貰ってくれば売ってあげると教えてあげた。でも……彼女は、両親からのお小遣い、という言葉がよくわからないらしい。
 ああ、もしかして。彼女は町の外れにある、アカシアこどもの家の子なんだろう。アカシアこどもの家というのはつまり、この町で唯一の孤児院だ……きっと育ちざかりの彼女はこどもの家で出る食事だけでは満足できず、食べ物をくれる人を探してこんなところまでやって来たのだ。
「あなた、アカシアこどもの家の子? 今日は特別に食べさしてあげるけど、今度からはちゃんとお金を持ってきてね」
 そう伝えると彼女は人懐っこい笑みを浮かべて頷いて、うちの店のパンを頬張った。

 彼女はよほどうちのパンがお気に召したのか、その後も毎朝店にやってくるようになった。今度は、教えたとおりにお金を持って。
 素直な子だった。来たら挨拶をするよう言っておいたらそれからは挨拶をするようになったし、名前を教えてと言ったら自分はクレアだと教えてくれた。
 でも、あの孤児院の子は大きくなったら“卒業”して、独り立ちしないといけない決まりだ。あるいは当然、誰かに引き取られた場合にも。
「あなたもいつか卒業して、私の前からいなくなってしまうのよね。できれば町長さんのような立派なかたが引き取ってくれればいいのだけれど……」

 ……もしかしたら私がそう零してしまったせいで、それが現実になってしまったのかもしれない。
 翌日、彼女は私のところを訪れて、今度、町長さんに引き取られて卒業するからもう来れなくなると教えてくれた。町長さんは素晴らしいかただ。町長さんは町の商人ギルドや職人ギルドから選ばれるのだけれど、公正で、誰よりも――それこそ領主様よりも町の人たちのことを考えてくれるとパン屋ギルドの会合に出ている父さんも言っていた。
 だから私は名残惜しかったけれども、彼女の卒業を歓迎することにした。決して、彼女がこの町からいなくなってしまうわけじゃないのだから……そのはずなのに。

 彼女は、二度と私の前に姿を現さなかった。町長さんの家にはうちにも負けない立派なパン窯があるというし、足りずに毎朝来る必要もないとは理解していたけれど。
 でも、毎日朝から晩まで働いて、結局、彼女がいる間にこどもの家を訪れる機会もなかった私と違って、彼女はいつでも店に来てくれる機会があるだろう――私は、そんなふうに勝手に思い込んでいたのだ。
 ……でも、真実は、もっと恐ろしいものであるかもしれなかった。

 この前、ギルドの何かだということで、町長さんがうちの店を訪れた。町長さんと父さんの会合を私なんかが邪魔することはできなかったけれども、町長さんの帰り際、少しだけ会話できそうな機会があったので手短に聞いてみた。
「クレアは元気でやっていますか?」
「誰のことかな? ふむ……アカシアこどもの家からわしがその子を引き取ったと、そうお嬢さんは言うのかね? はて、誰かと間違えてはおらぬかな、わしがあの家から子供を引き取ったのは、8年前が最後なのだがね……」

 ……まさか!
 その後私がこっそり店を抜け出て町長さんのお宅を見にいったけど、確かにクレアらしい子供の姿は見あたらなかった。そんなはずはない……でも、クレアの憶え間違いだったってだけかもしれないのでアカシアこどもの家にも行ってシスターに訊いてみたけれど答えはこうだ。

「クレア? 最近はそんな名前の子はおりませんよ?」

 一体、彼女はどこに行ってしまったのだろう? どうか、彼女が怖い目に遭っていませんように……!

GMコメント

●はじめに
 本シナリオは、ジェイク・夜乃(p3p001103)様、アト・サイン(p3p001394)様、フラーゴラ・トラモント(p3p008825)様、ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)様、コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)様よりリクエストされたものでしたが、内容柄、リクエストシナリオの規格よりもラリーシナリオの規格のほうがより適切であろうと判断いたしましたので、どなたでも参加できるラリーシナリオとなりました。
 基本的には上記5名と他の方で扱いは変わりませんが、何らかの理由でどうしても採用人数を絞る必要がある場合、プレイング内容に優劣がなければ上記5名を優先採用する、くらいはあるかもしれません。

●本シナリオの目的
 パン屋の娘ナオミの依頼は『クレアの安全を確保する』です。もう少し明確な形に直すのであれば、『クレアに関する真相を確かめ、必要であれば救出する』となるでしょう。
 もちろん、依頼人ナオミの生活が脅かされてしまう事態は防ぐようにしてください。

●プレイングについて
 本シナリオでは、1回のプレイングでは1つの調査を深く行なうほうがそうでないよりも高い効果を得るものとします。また、同様の調査内容が被った場合、手分けして調査できる内容でなければより高い効果のもののみを採用し、他を不採用とする場合があります……つまり、必然、複数の調査を行なうようなプレイングは非推奨です。
 どこまでが『1つの調査』であるかは判断の難しいところもありますが、概ね『非戦スキル1回』程度を目安にするといいかもしれません。ただし、『地元のダチコーを説得して無理筋を通す』のような単一目的のために非戦スキルを複数使用して相乗効果を得る使いかたや、『煙突を鑑定するために飛行して近付く』のような失敗の余地のない補助のための非戦スキルであれば問題ありません。もちろん、キャラクター性を表現するためのスキル使用にも制限はありません。最終的にはGM判断となります。

 ペアやグループでの描写を希望する場合は、1行目にグループ名もしくは同行者のIDをお書き添えください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • “卒業”したクレア完了
  • GM名るう
  • 種別ラリー
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2021年11月23日 21時45分
  • 章数4章
  • 総採用数47人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと

 『卒業』と呼ばれるその仕組み。それは、本当にいいものだろうか?
 クレアがただの迷子ならいいけれど、彼女が、寂しい思いや寒い思いをしてなければいいのだけれど。

 今日の『評判上々』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は旅芸人。歌う狼少女でございまあす。童歌に流行り歌。もうそんな歳じゃないと粋がる大きな子たちを宥めて、小さな子たちと一緒に歌う。
「はい、一緒に歌ってくれたお礼だよぉ……! でも、孤児院の大人には内緒だよ? だって晩ご飯食べられなくなったら怒られるでしょう?」
 子供たちへの掴みはバッチリで、大人たちも見てみぬフリをするために、そっとその場を離れてくれる……今だ。
「ところで……この家には『卒業』っていうのがあるってホント? 卒業したら、どこに行くの?」
「あのね! いい人のとこ!」
「いい子にしてれば幸せになれるんだって!」

 子供たちの言葉は真実か? それとも薄汚れた大人たちの欺瞞を、純真にも真に受けていただけなのか?
 どうか前者であってほしいと、狼少女は願う。

【判明した事実(1)】子供たちは、『卒業』を『良い大人に引き取られること』だと認識している。

成否

成功


第1章 第2節

イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って

 そしてお歌の時間が終われば、今度は使い古した玩具をお医者さんに診てもらう時間だ。今日の担当医は『おもちゃのお医者さん』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)で、看護師はうさぎのぬいぐるみのオフィーリア。彼は使い古された、汚れたり、偶に喧嘩のせいで無理に引っ張られたりした形跡はあるものの大切に使われ続けた人形やぬいぐるみを“治療”しながら……疑問に思うのはこんなこと。
(お小遣いのことさえ知らなかったクレアちゃんが、どこからパン代を持ってきたんだろう? それに、それだけのお金があるのなら、玩具だってもっと新しいものが買えるだろうし……)

「俺、君たちが将来、俺のお客さんになってくれたら嬉しいなって思うんだけど、お金の使い方って何歳から教わるのかな? この間卒業した女の子くらいの年齢になればお小遣いも貰えるの?」
「5歳になればお買い物に行かされるよ。安く買えたら残りがお小遣いになるから、フレデリカは10歳だったけど、お野菜を値切るのが上手だったの」
 イーハトーヴが尋ねれば、ここは、“あの世界”の孤児院とは別天地のようだった。でも、フレデリカって誰だろう? クレアちゃんは、一体どこに……?

【判明した事実(2)】クレアのパン代の出どころには疑問が残る。
【判明した事実(3)】子供たちは、クレアのことを知らない、あるいは憶えていない。

成否

大成功


第1章 第3節

グドルフ・ボイデル(p3p000694)

「よう、ご機嫌そうだなぁオイ? いかにも親もいねえガキを売り捌いて懐を肥やしてそうなツラしてやがるじゃねえか」
 誰の差し金だ、と抜かれそうになるナイフを容易く弾き飛ばしつつ、『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)は裏通りの男の襟首を掴んで凄んで見せた。
「わりいわりい。別におれさまは、お宅の都合に文句言おうってんじゃねえのよ。興味もねえ探偵ごっこの依頼が舞い込んじまっただけでよ」
 クレアってガキを知ってるか。それだけ教えてくれるなら、グドルフには誰がどんな商売をしていたところで構わなかった。たとえ目の前のチンピラも町長も孤児院もグルで、人売りで生計を立てているのだとしても……一方でグドルフに睨まれた男は怯えて喚く。
「し、知らねえし、少なくとも俺はガキなんて手のかかるもんは攫っちゃいねえし、孤児院の奴なら尚更だ! 納得できないって言うならうちの上役に訊いてくれ!」
 まあ……嘘を吐いてはいないんだろうと、山賊はようやく手を離してやった。
「だとすると……誰がそのガキを“卒業”させたんだ? そもそも、そのガキは本当に孤児院で養われてたのかよ?」

【判明した事実(4)】少なくとも町のチンピラは、人身売買には関わっていないし孤児院にも近付いていない。
【コネクション】グドルフは、町の裏社会の顔役との面会が可能になった。

成否

成功


第1章 第4節

アト・サイン(p3p001394)
観光客

「……ああ、なるほど」
 『観光客』アト・サイン(p3p001394)は結論付けた。これはダンジョンではないけれど、幾分意地の悪い知の迷宮なのは確かであるらしい。
「ナオミ、『クレアが孤児院の子だと思ってるのは君だけ』だよ?」

 明るい茶毛のツーサイドアップ。深茶色の大きな瞳。ナオミの憶えていたそれらの特徴は客観的事実であったけれども、クレアがこどもの家の子だというのは、ただのナオミの推量に過ぎない。
 事実、アトが尋ねて回った限りでは、クレアが『こどもの家に帰った』という目撃情報は存在しなかった。そもそも、目撃情報そのものもあやふやなものだ……町の反対側だったり、町の外へと繋がる道沿いだったり。中には誰か別の子と取り違えた目撃情報も混ざっていることだろう。
「つまり……クレアは、誰なんだ?」
 その結論を見通すためには、アトは、もっと深くこの知の迷宮に潜る必要がありそうだ……。

【判明した事実(5)】クレアに関する目撃情報はあやふやである。
【真実(1)】クレアはアカシアこどもの家の子ではない。

成否

成功


第1章 第5節

夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師

 ……であるのなら。
 調査は、自ずと身元引受人である町長に対して行なわねばならないだろう。
 そういえば以前この町の名士に招かれて、奇術を披露したことがあったっけなどと、『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)は思い出す。
「おや、お久しぶりです奇術師先生!」
 唐突な訪問にもかかわらず、名士――リチャード氏は幻を歓迎し、メイドに茶会の用意をさせる。彼が以前の公演の際に幻に伝えた言葉、『今度先生にお困りごとがあればいつでも力になりますよ』が、決して社交辞令ではなく本心だったと証すかのように。
 そのお言葉に甘えて幻が訊けば、彼も町長とは名士同士の旧知の仲であり、町長が引き取ったという少女を知っていると教えてくれた。ただ――それはクレアのことじゃない。
「あの子も随分と別嬪さんになった。隣町に嫁いでよくやってるようだ」

 それが、彼がクレアを知らないせいか。それとも彼も町長とグルで、クレアの存在をはぐらかそうと目論んでいるのだろうか?
 今、ここで何も告げずに彼の思考を読めば、両者のうちどちらであるのかを明らかにできるのであろう。……が、そのような不躾をしてもいいものか? 理由を話せば理解はしてくれるだろうが、承服してくれるかまでは判らない。では、今、幻が為すべきは――……?

【特殊判定発生!】
 11/10 24:00までに、リーディングを『する』/『しない』のプレイングを送付してください! 『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)様のプレイングは、その結果も鑑みての採用となります。
 プレイングにはリーディングの有無とは別に通常通りに行動を含めることが可能で、期限までにプレイングが送付されなかった場合は『今は一旦何もせずにリチャード氏と別れる』ものとして判定いたします。
 なお、リーディングを実行した場合にはリチャード氏の不興を買い、幻様は今後本シナリオで『情報網』系のスキルの使用や関連する行動が不可能となります。

成否

成功


第1章 第6節

夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師

 ――いいや。かつて幻の奇術を子供のような目で楽しんでくれたリチャード氏のことを、幻にはそこまでして疑うべき人物だとは思えなかった。今は、クレアじゃなくても構わない。その前の養子の様子が判れば、町長がどういった人物なのかは概ね見えてくるはずなのだから。

「そのお嫁にいったお嬢さんは幸せに暮らしてらっしゃるんですか?」
「噂に伝え聞くところによれば、随分と大切にされてるようです」
 いかにも喜ばしそうにほっとした表情を浮かべる氏の様子を見るに、きっと嘘を吐いてなどいないのだろう。だとすれば……彼が町長の新しい養子のことを知らないのも、この町で子宝に恵まれない親たちがこどもの家から養子を迎えて幸せに暮らすのがそこまで珍しくないことも、恐らくは本当のことなのだ。
「よろしければ、町長さんと親しい方を紹介していただきたいのですが……」
 最後に幻がそう訊いた時、リチャード氏は、町長を不当に害するためでなければもちろん、と、紹介状まで用意してくれた。

【判明した事実(6)】リチャード氏は、町長がクレアを引き取ったことを知らない。恐らくは他の人も知らないだろう。
【コネクション】幻は、町長の家のメイドとの面会が可能になった。直接町長と面会してもよい(同行者も同様)。

成否

成功


第1章 第7節

ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼

 そんな幻の報告を聞き。
「だが奴さん、必ずしも清廉潔白とも言えないみたいだぜ?」
 『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)の声は落とされた。

 聞いて回った町長の噂。確かに彼は公正ではあるが……それは彼が不正を働いて私腹を肥やすような人物ではないことしか意味しない。どの町にも善良な市民がいる一方で、声を潜めて語られねばならない者たちがいる。町長がそういった裏通りの連中とも折衝していたことは各界ギルド幹部辺りにもなれば誰でも知っており……まあ、その折衝の裏で何かの取引を要求されていたとしてもおかしくはないってわけだ。
 ……とはいえ。
「どんだけ清濁併せ呑む必要があったからって、人身御供を差し出すような人柄だって話は聞かなかったな」
 そう答えて、ジェイクは妻を安心させた。
「その嫁に行った娘さんってのは、両親が死んで、金目当てに遠い町の親戚に狙われた子なんだそうだ。その時に地位ある自分の養子になれば手出しもできなかろうって考えたような人物が、クレアを売り払うとは思いたくねえぜ……」

【判明した事実(7)】町長は、誰かを騙して人身売買するような人物とは思えない。

成否

成功


第1章 第8節

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!

「ナオミの店に初めて来たときのクレアの態度、俺みたいな奴には嫌ってほど心当たりがあるぜ」
 『最期に映した男』キドー(p3p000244)の指先がくいくいと曲がった。あどけない笑顔を浮かべる子供が、必ずしも純真無垢だと思ったら大間違いだ。ガキってのはああ見えて、自分のはにかみが盗みにどう役立つのかを知っている。ゴブリンと同じだ。
 ほうら、そのつもりで尋ねてみれば、ちょうどクレアが現れた頃からいなくなるまで、アカシアこどもの家で毎日少額の盗みがあったって話が見つかった。額が額だし犯人も見つからず仕舞いだったから大人たちは妖精の仕業とでも思うことにしたらしいが、子供たちはさぞかし無実の罪を疑われてこってり絞られたことだろう。
「ま、ガキがゴブリンと同じなら、ガキは妖精と同じってこった。妖精の仕業ってのも、あながち間違いでもないに違いねェさ」

【判明した事実(8)】クレアがいた時期と、アカシアこどもの家でパン代程度の盗みが繰り返された時期は一致する。
【判明した事実(9)】その盗みの犯人は見つかっていない。

成否

成功


第1章 第9節

アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)
凶狼

「つまり……『クレア』は現実の存在なのだ?」
 クレアがナオミの空想上にしか存在しないという可能性をふと想像し、いやいやとすぐに首を振ったヘルミーネ・フォン・ニヴルヘイム(p3p010212)。だが……真実はそれに似た何かである可能性だけは、『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)も想定せざるを得なかった。
(少なくとも、ここが俺の世界なら、人ならざるモノの仕業だと断じていただろう)
 だが、こちらの世界なら、認識阻害に関する能力なり呪いなりを持っただけの少女ということだってあるかもしれない。断定するには至るまい。
 いずれにせよ、ヘルミーネもアーマデルも至った結論は同じだ……つまり、人の目では見落とす可能性のある少女でも、人ならざる目であれば追い得るかもしれないということ。

「……じゃあ、それらしい子が『いた』のは間違いないのだ?」
 霊たちにどこまで時間の経過や生者の違いを判断できていたかまでは知る術はないものの、少なくともヘルミーネは霊たちが、クレアを死霊仲間だと認識していなかったことだけは間違いがなかった。
「よかったのだ……『卒業』は『死』のこと、なんて心配はなかったのだ」
 ついでに言えば死霊らは、町長宅を『特別に仲間が増える場所』とも認識していない。情報のお礼に、彼らのうち望む者たちへと鎮魂歌を歌う。満ちる、死霊たちの感謝の言葉。

「……なるほど。やはりクレアは認識阻害か何かの力を持っていたと見るのが正しそうだな」
 アーマデルも結論付けた。死霊たちによるクレアの目撃情報は、町の住民たちによるものとは範囲に大きな隔たりがあるようだった。人々によるクレアの目撃情報はパン屋から離れれば離れるほど減ってゆくのに対し、死霊たちは町の至るところで彼女を見たと囁いていた……はたして、クレアは何者なのだろう?

【判明した事実(10)】クレアは死亡していない。
【判明した事実(11)】町長宅で殺人事件が起こったことは(少なくとも当シナリオに関わる範囲では)ない。
【判明した事実(12)】クレアは認識阻害に類する能力を持っているらしい。
【判明した事実(13)】クレアは、認識阻害能力を起動したままで町の至るところに出没している。

成否

成功


第1章 第10節

古木・文(p3p001262)
文具屋

 クレアちゃん、浮世離れした子だね。
 そんな『文具屋』古木・文(p3p001262)の受けた印象は、おそらく、クレアの正体とも関係していたに違いなかった。
 この町に図書館や郷土資料館の類があればよかったのだけれど、そういったものは離れた町にある一帯の領主の館くらいのようだ。ただし、町の地理や歴史に詳しい老人ならば、探せば昼間から酒場で盛り上がっていた。
「ほう、この町について知りたいとは感心だ! この町の歴史は300年前、ラクス卿が時の王より恐るべきアウルベア討伐の命を下された時にまで遡る……」

 脱線したり内輪ネタで盛り上がったりする老人たちを苦労して宥めつつ文が聞き出したことによるならば、この町を囲う森の中には、聖域とされる禁足地があるとのことだった。
 そこには、ラクス卿が勝利を誓って盟約を結んだ精霊が住まうとされている。もっともこの町に実際に精霊を見たことのある者などおらず、偶に見たと主張してホラ吹き扱いされる者が出るのがせいぜいではあるのだが。

 老人の長話に延々と付き合わされたせいで、結局、文の訊きたかったことはほとんど訊けず仕舞いであった。
 だが……ここで聞いた話から、こう考えてみることはできぬだろうか?

 パン屋のナオミこそ、その“偶に出るホラ吹き”とされる人物かもしれない、と。

【判明した事実(14)】町を囲う森の中には、姿の見えない精霊がいると伝えられている。

成否

成功


第1章 第11節

グドルフ・ボイデル(p3p000694)

「てーとおめえさん方は、こんなナリしてその精霊様とやらを信じてやがるのか!」
 可笑しそうに笑うグドルフの背を、男はまるで友人のように叩いてみせた。
「こういう稼業は、使い魔なり式神なりの目も用心するものだろう? 目に見えない精霊様も、注意しておくに越したことはないさ」
「ちげえねえ!」

 ここは町の盗賊ギルドの一室。例のチンピラに案内されたグドルフは、ギルドの顔役と飲み交わして口を軽くさせていた。
 顔役曰く、ギルドには、特に最近子供を売り買いしたという話は入ってないらしい。で、本当のところは? そうグドルフがもう一杯勧めつつ訊いたところ、出てきたのが「その子は町に伝わる精霊様なんじゃないか?」なるぶったまげた台詞だったってわけだ。
「だとしたら、おれさまはどうすりゃいいんだよ!」
「さあな! 本当にそうだったら俺にも土産話を聞かせてくれよ!」
 ゲラゲラと大笑いする山賊と盗賊。部屋の隅では案内役のチンピラが、殴られ損みたいな顔で縮こまっていた。

【判明した事実(15)】盗賊ギルドは、クレアの売買に関わっていない。

成否

成功


第1章 第12節

ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)
母になった狼

「つまり……ここでもう一度前提の情報を洗い直してみるっすよ」
 ナオミは嘘こそ吐いていなかったかもしれないが、情報の多くが先入観で構成されていたと判った今、『持ち帰る狼』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)が為すべきは他の目撃情報を探るところからだった。
「確かにそんな子は見かけたねぇ」
「近所の子じゃないなとは思ってたのよ」
 いざウルズがその話題を持ち出したなら、わいわいと世間話が始まるおばさま方。ただ、その最中に誰かが唐突にこんなことに気付く。
「そういえば、知らない子が迷い込んだりしたらすぐに噂になってもおかしくないのに、あたしたち何となく『そういうもの』で納得してた気がするのよねぇ?」

 それは他愛のないお喋りの中の一言だったが、それがまさしく、ナオミの置かれた状況と同じものであることにウルズは気がついた。
(やっぱり、認識が歪められてるみたいっす)
 あたかも、人々がクレアを見て“勝手に納得してしまう”かのように。

【判明した事実(16)】クレアを見た人々は、気付いて然るべき違和感に気付かずに、あるいは気付いても当然のこととして受け入れてしまう。

成否

成功


第1章 第13節

フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと

 もしも彼女が本当に精霊なのだとしたら。辺りにいるほかの精霊たちが、彼女のことを知っているだろう。
「精霊さん、クレアさんを知っている? 明るい茶毛と、深茶色の瞳の……」
 禁足地までの森の中で尋ねれば、フラーゴラの手の中のパンは、供える前に忽然と消えた。
『ふわふわのパンね!』
『こっちはかたーい!』
 はしゃぐ精霊たちの姿がフラーゴラにだけ見える。愛らしい精霊たちはひとしきり喜んだ後で、思い出したかのように彼女に答えてくれる。
『茶毛? あれは色づいた葉よ?』
『瞳はおおきなどんぐりよ?』

 クレアは秋の精霊種。最近生まれた女王の娘。女王の盟約の後継者。
 じゃあ、その娘がどうして孤児のフリなんて?
『さあ? あたしたちにはわからない』
『気になるなら本人に尋ねてみれば?』
 精霊たちは禁足地を指差した。そこが禁足とされるのは、女王たちの平穏を脅かさないため。でも人間たちを戸惑わせてしまったのは姫様なのだから、ワケを聞くくらいなら構わないだろうと精霊たちは囁いている。

 ここでクレアから真意を聞ければ、依頼は達成になるだろう。
 さあ、禁足地に足を踏み入れよう。

【真実(2)】クレアは秋の精霊種である。母たる女王とラクス卿との盟約に従い町を守護する存在となるために、最近は町に出かけて人間種を学んでいた。

成否

大成功

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