PandoraPartyProject

シナリオ詳細

“卒業”したクレア

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 毎朝うちの店にやってくる幼い少女クレアは、いつもはつらつとした明るい挨拶をしてくれた。
 彼女は店に入ってくる前に、いつもくんくんとパンを焼く匂いを嗅いで。それから胸いっぱいにその匂いを吸い込んだあと、思いっきり息を吐きながら「おはようございます!」と叫ぶのだ。

 彼女が初めて店にやって来たのは数ヶ月前のことでしかなかったが、その時は彼女はまるで小動物みたいに、まるで誰かの視線を避けるかのように辺りの様子を窺っていたものだ。そして、物欲しげに店先のパンにちらちらと視線を遣っていた。
「食べたいの?」
 そう私が訊いた時、彼女はこくりと頷いた。でも、うちだって商売だ。近所の子でもない見知らぬ子供に、はいそうですかとあげるわけにもゆかない。
 だから、食べるにはお金が必要なことを説明して、両親からお小遣いを貰ってくれば売ってあげると教えてあげた。でも……彼女は、両親からのお小遣い、という言葉がよくわからないらしい。
 ああ、もしかして。彼女は町の外れにある、アカシアこどもの家の子なんだろう。アカシアこどもの家というのはつまり、この町で唯一の孤児院だ……きっと育ちざかりの彼女はこどもの家で出る食事だけでは満足できず、食べ物をくれる人を探してこんなところまでやって来たのだ。
「あなた、アカシアこどもの家の子? 今日は特別に食べさしてあげるけど、今度からはちゃんとお金を持ってきてね」
 そう伝えると彼女は人懐っこい笑みを浮かべて頷いて、うちの店のパンを頬張った。

 彼女はよほどうちのパンがお気に召したのか、その後も毎朝店にやってくるようになった。今度は、教えたとおりにお金を持って。
 素直な子だった。来たら挨拶をするよう言っておいたらそれからは挨拶をするようになったし、名前を教えてと言ったら自分はクレアだと教えてくれた。
 でも、あの孤児院の子は大きくなったら“卒業”して、独り立ちしないといけない決まりだ。あるいは当然、誰かに引き取られた場合にも。
「あなたもいつか卒業して、私の前からいなくなってしまうのよね。できれば町長さんのような立派なかたが引き取ってくれればいいのだけれど……」

 ……もしかしたら私がそう零してしまったせいで、それが現実になってしまったのかもしれない。
 翌日、彼女は私のところを訪れて、今度、町長さんに引き取られて卒業するからもう来れなくなると教えてくれた。町長さんは素晴らしいかただ。町長さんは町の商人ギルドや職人ギルドから選ばれるのだけれど、公正で、誰よりも――それこそ領主様よりも町の人たちのことを考えてくれるとパン屋ギルドの会合に出ている父さんも言っていた。
 だから私は名残惜しかったけれども、彼女の卒業を歓迎することにした。決して、彼女がこの町からいなくなってしまうわけじゃないのだから……そのはずなのに。

 彼女は、二度と私の前に姿を現さなかった。町長さんの家にはうちにも負けない立派なパン窯があるというし、足りずに毎朝来る必要もないとは理解していたけれど。
 でも、毎日朝から晩まで働いて、結局、彼女がいる間にこどもの家を訪れる機会もなかった私と違って、彼女はいつでも店に来てくれる機会があるだろう――私は、そんなふうに勝手に思い込んでいたのだ。
 ……でも、真実は、もっと恐ろしいものであるかもしれなかった。

 この前、ギルドの何かだということで、町長さんがうちの店を訪れた。町長さんと父さんの会合を私なんかが邪魔することはできなかったけれども、町長さんの帰り際、少しだけ会話できそうな機会があったので手短に聞いてみた。
「クレアは元気でやっていますか?」
「誰のことかな? ふむ……アカシアこどもの家からわしがその子を引き取ったと、そうお嬢さんは言うのかね? はて、誰かと間違えてはおらぬかな、わしがあの家から子供を引き取ったのは、8年前が最後なのだがね……」

 ……まさか!
 その後私がこっそり店を抜け出て町長さんのお宅を見にいったけど、確かにクレアらしい子供の姿は見あたらなかった。そんなはずはない……でも、クレアの憶え間違いだったってだけかもしれないのでアカシアこどもの家にも行ってシスターに訊いてみたけれど答えはこうだ。

「クレア? 最近はそんな名前の子はおりませんよ?」

 一体、彼女はどこに行ってしまったのだろう? どうか、彼女が怖い目に遭っていませんように……!

GMコメント

●はじめに
 本シナリオは、ジェイク・夜乃(p3p001103)様、アト・サイン(p3p001394)様、フラーゴラ・トラモント(p3p008825)様、ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)様、コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)様よりリクエストされたものでしたが、内容柄、リクエストシナリオの規格よりもラリーシナリオの規格のほうがより適切であろうと判断いたしましたので、どなたでも参加できるラリーシナリオとなりました。
 基本的には上記5名と他の方で扱いは変わりませんが、何らかの理由でどうしても採用人数を絞る必要がある場合、プレイング内容に優劣がなければ上記5名を優先採用する、くらいはあるかもしれません。

●本シナリオの目的
 パン屋の娘ナオミの依頼は『クレアの安全を確保する』です。もう少し明確な形に直すのであれば、『クレアに関する真相を確かめ、必要であれば救出する』となるでしょう。
 もちろん、依頼人ナオミの生活が脅かされてしまう事態は防ぐようにしてください。

●プレイングについて
 本シナリオでは、1回のプレイングでは1つの調査を深く行なうほうがそうでないよりも高い効果を得るものとします。また、同様の調査内容が被った場合、手分けして調査できる内容でなければより高い効果のもののみを採用し、他を不採用とする場合があります……つまり、必然、複数の調査を行なうようなプレイングは非推奨です。
 どこまでが『1つの調査』であるかは判断の難しいところもありますが、概ね『非戦スキル1回』程度を目安にするといいかもしれません。ただし、『地元のダチコーを説得して無理筋を通す』のような単一目的のために非戦スキルを複数使用して相乗効果を得る使いかたや、『煙突を鑑定するために飛行して近付く』のような失敗の余地のない補助のための非戦スキルであれば問題ありません。もちろん、キャラクター性を表現するためのスキル使用にも制限はありません。最終的にはGM判断となります。

 ペアやグループでの描写を希望する場合は、1行目にグループ名もしくは同行者のIDをお書き添えください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • “卒業”したクレア完了
  • GM名るう
  • 種別ラリー
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2021年11月23日 21時45分
  • 章数4章
  • 総採用数47人
  • 参加費50RC

第3章

第3章 第1節

 フラーゴラが提案したものは、少し遅い秋祭りの開催だった。
 町の人間たちが森の精霊たちに町で作ったものを供えて、精霊たちは人々に混ざってそれを楽しむことにする。精霊たちは人間の町のことを知ることができるだろうし、人間たちもいつの間にか隣にいた精霊たちに気付いて、自分たちが彼らとともにいたことを思い出すだろう。
 その中で、両種族のすれ違いは解消されるに違いなかった。精霊種が珍しくも何ともなくなれば、誰か悪意ある人間が彼らを捕らえようとするのではないかと心配する必要もなくなるし、ナオミも精霊種に繋がる唯一の玄関口ではなくなるのだから、彼女が特段狙われるようになったりもせぬはずだ。

 では、人々に、祭りの開催を促そう。この祭りにどのような意義があるのかを人々に訴えて、実現へと漕ぎつけよう。
 重要なのは、祭りにより利益を得るだろう人々を誘うことだけじゃない。失敗を避けるにはむしろ、直接的な利益を得ない人々にも協力してもらうことなのだ。
 なるべく町全体で盛り上がるようにする。それこそがこの祭りの目的を、最も達成に近づける手段だ。

 妖精女王も森の精霊たちに参加を呼びかけてくれるというし、クレアも楽しいことが起こると聞いて目を輝かせてくれている。
 さあ……ここからは、根回しの時間だ。

【本章について】
 町や森え、秋祭りの開催を勧めるための準備を行なってください。人々への根回しはもちろん、人々や精霊たちへの教育など、為すべきことはいくらでも見つかるに違いありません。
 無事に秋祭りを開催することができたなら、依頼条件を全て達成することが可能です。


第3章 第2節

古木・文(p3p001262)
文具屋

 再び酒場を訪れた文を、口々に老人たちは歓迎してくれた。
「おや、まだ聞き足りないことがあったかな?」
「そういえば、ラクス卿の紋章の由来について語らなんだわい」
 これ以上は耳にタコができるほどうんざり……もとい、大変印象深いお話の数々を自分だけが聞かされるのも勿体ない。実は、ご提案があるのですが、と暇な隠居爺たちに囁いてみせるのは、まさしくこの町の生き字引が子供たちに贈る、町の歴史や精霊たちの昔話を披露する舞台!
「ほう! そこまでしてくださるほど感銘をお受けいただけたとは!」
「その祭り、息子や娘たちにも是非とも協力させるとしよう!」
 だがしかし、まずはその前に成功を祈って景気づけ。結局は気持ちよく酔いたいだけにしか見えない老人たちは、それはもう頼りなく見えて仕方ないのではあるが。

 年金制度もないのに昼間から酒ばかり飲んでいられるような老人たちが、はたして如何なる大層なご身分の持ち主であったのか、文が知るのは酒盛りが終わってそう経たぬ頃のことである……。

成否

成功


第3章 第3節

夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師

 幻が町長宅を訪れた頃には既に、秋祭りの計画は彼の知るところであった。
「流石に、元ギルド長たちに大挙して詰め寄られたら、検討すると答えるしかなくってね……。しかし、このタイミングでナオミ君の件を調査している方がいらっしゃるということは、きっとクレアなる子に関係があるのだろうね」
「お察しの通りです、町長様。そしてこの件は、ラクス卿と妖精女王のお伽話とも関係の深い話なのです……」

 そして幻は町長へと告げた。人にとって真実がお伽話と化すほどの時間、この町を守護してくれたという妖精女王の話を。
 それには恩返しとなる祭りが必要であり、同時に、それは町おこしにも繋がることを。
「町長様は多くのギルドと懇意だとか。お声がけいただけませんか?」
 幻がそう問うたなら、町長はしばし思索を巡らせた後に、承知した、と首肯する。人当たりの良い彼の眼差しの奥にどこか優しさが宿るのは……おそらくは彼がクレアの正体を察し、仔細までは判らぬものの、彼女のためにもこの祭りを成功させる必要があると理解したためだろう。
「今年の祭りであなた方の言う通りの成果が出るのなら、これからも祭りを続けることになるだろう」
 きっと、来年も、再来年も。そして、いつか祭りの起源そのものがお伽話になるほどの未来も。
「とはいえ、町長というのはあくまでも調停役の立場でね。私がやろうと言えばやってくれる者には口を利けるが、そうでない者にまでは無理は言えない。
 ただ、町の人たちに、『町長が乗り気でないからやめよう』とだけは言わせない……それだけは期待してくれても構わないよ」

【MISSION!】
 以降11/14 24:00までの間、『祭りに乗り気でなさそうなのはどのような人々かを考え、会いに行って協力してもらう』内容のプレイングを優先採用します。この際、面会そのものが困難であろうと思われる人物以外とは、問題なく面会が可能であるものとしてくださってかまいません。
 それ以外の内容のプレイングでも問題はありませんが、採用タイミングは遅くなる可能性があります。

成否

成功


第3章 第4節

アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切

 祭りが一般に『楽しいもの』であることは、いかに特殊な環境で育ったアーマデルといえども解っているはずだった。
 では、それが“乗り気じゃない”のははたして誰か……忙しくなるばかりで楽しむ余裕がなくなる者ではないのかと彼は考える。
 例えば、当日はどうしても増えることになるだろう警邏とか。

「まあ、確かに面倒事は増えるわな」
 町の衛兵隊長は確かにそう言った。だが、同時にこうも言う。
「とはいえその日は俺たちも普通に楽しんで、何か問題が起こった時だけ衛兵になればいいんだろ? だったら俺たちだって祭りは歓迎なほうさ」
 だが、それはあくまでも、町全体がお祭りムードになった時の話だと隊長は語るのだ。彼が懸念するのはそうならなかった時――祭りをやっかむ者たちが多く町に残って、祭りを台無しにしようと画策している時だ。
「そん時は俺たちも遊んでられないじゃないか。奥さんや子供たちと一緒に祭りを楽しみたい奴もいるだろうしさ……だから」
 俺たちのためにも、是非とも根回しを成功させてくれ。隊長はアーマデルの両肩に手を置いて、真剣な目でじっと見つめたのだった。

成否

成功


第3章 第5節

夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師

 そんな隊長が特に気にしているのは、裏通りの物乞いたちだろう。精霊女王が町を守護するのなら、自分たちもそのご利益にあやかってもいいはずだ。そしてそのご利益がないのなら、彼らの庇護組織とも言える盗賊ギルドも遺憾なく“富の再分配”を実施してくれることだろう……だから。

「ほう。炊き出しとは随分と気前がいいんだねぇ」
 幻が語った計画に、物乞いたちの顔役に当たる老人は不潔な顔をにたつかせてみせた。物乞いたる彼らの商品は“善行の機会”。祭りの際、炊き出しという形でそれを買ってくれるのであれば、彼らとしても文句はないのであろう。
「あと、新しい服も欲しいねぇ」
 老人は図々しくもそんな要求をした。そうですね……幻も少し悩んだような素振りをしてみせて、勿体ぶりながら期待に応えてみせる。
「祭りとなれば人手も足りないでしょう。皆様のような方を出店で雇うには……確かに、綺麗な服も必要ですね」

 全ては幻の口約束でしかなかったが、逆に言えばこの条件が満たされる限り、物乞いたちは大人しくしているということだった。
 ならば、実際にこの約定を実現してみせる……そうすれば、彼らに関しては上手くゆくだろう。

【MISSION!】
 物乞いたちとの交渉の結果、祭りの際、炊き出しと貧民の雇用&制服の提供が行なわれる必要が生じました。
 これらの施策を実現できない場合、祭りの最中のトラブル発生率が増加します。ただしこの問題は、幻様が自腹を切ってこれらを実施することでも回避が可能です。その場合、幻様にはアイテム『100万Goldの借用書』が付与されることになります。

成否

成功


第3章 第6節

イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って

 とはいえそう言った組織立った動きこそ見せずとも、個々人として新しいお祭りなんて下らないと感じる、保守的な大人たちもいたに違いなかった。
 でも、そういった人たちは祭りの発案者が余所者だからこそ反発するのであって、身内――特に、子供たちが喜ぶとあれば協力とまでは言わずとも納得くらいはしてくれるだろう。
 だから、今度のイーハトーヴは紙芝居屋さん。
「……こうしてラクス卿に力を貸してくれた精霊さんたちは、今も皆を見守ってくれてるんだ」
 皆も会ってみたい? 会いたいよね? ……そんなこともあろうかと、実は今、その精霊さんたちともっと仲良くなるためのお祭りが計画されてるんだ。
 そんな秘密をそっと打ち明けてやったなら、イーハトーヴの色鮮やかな紙芝居に魅了された町の子供たちは皆、揃って大きな歓声を上げた。
 他の人にも教えてあげてくれるかなと訊けば、弾けたように散ってゆく子供たち。いずれ、子供たちの口から子供たちの口に、あるいはそこから大人たちの話題に上り、乗り気でなかった者たちも折れねばならぬ時が来るだろう……そこで。

成否

成功


第3章 第7節

ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)
母になった狼

「……我が社が? あんな森の中の辺鄙な町の祭りを取材?」
 ウルズに詰め寄られた新聞社のデスクは最初、いかにも迷惑そうな顔をしてみせた。だがウルズは意外そうな顔を作って、さらにデスクに畳み掛けてみせる。
「精霊種といえば、昨今まで姿を現さなかった伝説の種族。その女王様に取材できるなんてうまいネタ、まさか、天下の貴紙が逃がすとでも言うんすか!?」
 護衛はするから大丈夫っすよ~。あの手この手で宥めたりすかしたり。最後にはデスクも熱意に折れて、おい、とその場で社内で暇していた記者を呼びつけてくれる。

『精霊女王伝説、現代に蘇る!』
 まだ記者が町に到着した段階にもかかわらず、これからそんな見出しで遠く王都でも喧伝されると知ったなら、もう、町とラクス卿を愛する人たちは、その名誉のためにも祭りを成功させねばならなくなった。半ば強引な空気醸成ではあったが、最後の最後だけは自発なのだから構いはすまい。
 町には、多くの者たちがやって来る。そして外貨を落としてくれる。だとすれば商売人たちは……たとえ個人としては祭りに難色を示していた者も、仕事人としては歓迎してくれるに違いない。

成否

成功


第3章 第8節

夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師

「……で、その一瞬の人手不足のために、職人の技術を物乞いどもにくれてやれってか」
 老人たち――酒場に昼間から集まっていた元ギルド長たちは、しかし幻のギルド合同で貧民への職業訓練所をという提案に、難しい顔を作ってみせた。
「あちらからギルドの門戸を叩いてきた奴を、下働きから叩き上げてやる。それくらいなら今すぐにだって構やしないんだがよ。あいつらはそれすら忍耐ならねえから物乞いで盗っ人なんだ」
 その言葉の意味はすなわち、彼らは貧民を、宝石の原石とすら見ていないということだった。磨いてないから価値がないのではない。磨くことそのものができないから価値を見いだしていない……それは真に貧民たちに価値がないからというよりも、彼らの保守的な職業訓練の在り方が、彼らを磨くのに適さぬだけではあるのだろうが。
 ……では、今のギルドの仕組みを刷新してでも、磨き方を変えることはできるのだろうか?
「まあ、この辺は持ちつ持たれつってことよ」
 ちょっとした盗みくらいには目を瞑りつつ、どうしても我慢ならなくなったら町長の仲介で盗賊ギルドに付け届けてよしなにしてもらう。そんな表通りと裏通りの関係で上手くいっている今、余計なことは必要ないのだと元ギルド長たちは口を揃えて言った。
「ただ、誰にでもできる仕事を祭りの日に与えて着る物と駄賃を出すくらいのことは、神の御心にも精霊様の慈悲にも適うだろうさ……」

成否

失敗


第3章 第9節

アト・サイン(p3p001394)
観光客
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤

 その御心と慈悲をこの町全てに広めるために。旅芸人の三姉妹らは歌唄う。さあ、人と精霊の詩をご照覧あれ。広場は歌声に包まれる。

〽遙か東方の 旧き国
 清き川と 肥えた土に恵まれた 美しき街の物語
 精霊と 人が手を取り合った 冒険譚――

 リュートを奏でるのは次女のアト。長女の『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)と三女のフラーゴラの重唱が追う。

〽――かくして街は 救われた
 しかし去り際に 妖精は人に告げる
 人は 己の高慢と強欲に 飲まれた時
 旧き恩を 忘れるのだから

「いやあ、ここはいい街だ。近いうちに祭りがあるって本当かい?」
 この町はこの歌が警鐘を鳴らすような出来事は起こらないのだろうね。何故ならそんな祭りのあるこの町は、とてもいい詩が思い浮かぶのだろうから。
 足を止めたお嬢さん方に訊ねるアトの姿を、フラーゴラはそわそわと見守っていた。
(どうせ性別不詳なんだから、ワタシの姉役なんかじゃくて夫役をしてくれればよかったのに……)
 ……うん。年頃の女性も多く通りかかる場所に長居なんてダメ。そろそろ次の場所に急がなきゃ。

 半ばアトを引きずるように彼女が向かった先は、アカシアこどもの家だった。
「ワタシたちは旅芸人、祭りで子供たちと一緒に歌いたいから、一緒に練習させてもらえると嬉しいんだけど……ところでこれ、何の袋かな?」
 入口にあった、と語りつつ、先生に小袋を握らせる。中にはクレアが持っていったのと同額のお金と『ごめんなさい、お返しします』のメッセージ。

 最初、フラーゴラたちこそ犯人かと疑っていた先生がたであったが、お金が盗まれはじめた時期と三姉妹が現れた時期が全く違うので、誤解はすぐに解くことができた。そうなると、疑ってしまったという負い目が逆に、協力となって跳ね返る。
 フラーゴラが精霊の仮装をした幼子たちと一緒に歌いたいと願い、仮装衣装を作る分くらいの募金をしたならば、すぐにそのためのグループが作られた。
「でも、もっと大きな子たちにも何かお願いしないとね……」
 秋祭りを提案したのはフラーゴラではあるが、実は、彼女自身は幻の発案を持ち込んだだけだ。借りたものを使わせてもらう以上は、失敗なんてさせたくはない。だから、誰ひとりとして除け者にしたくない。
「例えば……何か作ってバザーに出品したり、料理をしたり? そうだ、ゴミ拾いをして町を綺麗にしたら、皆で一緒に何かを食べようか……」
「温かいスープを皆に奢るくらいは、このアタシに任せなさぁい!」
 気付けば魔法の木馬に乗って、コルネリアがガキンチョどもを追い回していた。
「なんで俺たちがやらなきゃいけないんだよ……」
「しかも浮浪者のオッサンどもと一緒に……」
「あ゙あ゙ん? 自腹切って雇ってんのはアタシなんだから、ガキどもが余計な気を回す心配はないのよぉ?
 ……それに、景観が良くなればアンタたちだって他人様の役に立った気がしてスッキリするでしょ」
 家と家の隙間から排水溝まで、コルネリアは次々に町の汚れを落としていった。雇い主自らゴミ袋を引っ提げて駆けずり回っているともなれば、最初はサボりがちだった悪ガキどもも貧民たちも、いつの間にかそれなりには働いている。
「根回しやら何やらしみったれたのは、アタシの仕事じゃないのよぉ。アタシは現場仕事の方がよく合うわ。
 さて、次の汚れはどこかしら? それともサボり野郎のケツを蹴っ飛ばすのが先かしらぁ?」

成否

成功


第3章 第10節

ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)
母になった狼

 祭りの準備を始めているのは、何も人間たちばかりに限らなかった。精霊たちの領域もまた、人間たちの祭りに興味津々になっている。
 しばらくは、禁足地に入る人間相手に姿を隠さなくていいと聞かされて、木陰から恐る恐るこちらを覗く妖精たち。怯えてウルズの腕に掴まりながら、手帳に何やら書き続ける記者。
「大丈夫っす、ここは女王の領域っすし、そうでなくともあたしが守ってるっす!」
 胸を叩くウルズだが、特段誰かを守るのに向くわけでもないのは秘密だ。だが、早い話が何も起こらなければいい。例えば、記者が女王を悪しざまに書こうと目論んで、女王の怒りを買ってしまうとか。
「祭りの行く末、町の住民と精霊たちの未来、そしてあたしたちの期待、その全てがアンタたちの出す記事に乗っかってるっす、だから……」
 す、とウルズは記者に何かを握らせた。そして、真剣な眼差しで“期待”してるっすと言い含める。
 さようならあたしの今夜の酒代。でも、それに見合う仕事はできたっす……。

 記者が精霊女王を『美しく慈悲深い森の守護者にして敬うべき隣人』として記事を発表するのは、それから数日後の出来事である。

成否

成功


第3章 第11節

古木・文(p3p001262)
文具屋

 そして同時に。
 精霊たちも祭りの際に少しでも人間たちに感謝されたいと願い、森のあちこちで力を揮ってくれていた。
「凄いね……もう秋も終わるのに、また盛秋に戻ったみたいだ」
 まるで時間が逆戻りしたかのように、再び実の生る森の木々。その根元には妖精の輪ができて、みるみるキノコが生えてくる。
「これがもっと美味しくなるのよね?」
「ニンゲンの料理、食べるの初めてだわ!」
 中には文が教えたのに間違って、食べられない実や毒キノコを持ってきてしまう者もいたけれど、文のところにはいつしかたくさんの食べ物が集まっていた。
 これで炊き出しの準備は万端だ。いつかこどもの家の子たちが大人になって、森に入るようになった時、妖精に食べ物をもらったなんていうお伽話みたいな出来事を思い出すことだろう。
 そして、それらの森の恵みは、精霊たちと共存してこそ得られるものなのだ。彼らが傲慢に森から奪う悪い人間にならないように、そういった者たちを見過ごす人間にならないように……いや、それは精霊たちにも教えておかないといけないか。
 ともあれ、互いが末永く付き合えるようにと文は願うのだ。
「……おや、さっきの毒キノコの子。うん、これなら大丈夫。松ぼっくりのジャムは風邪に効くんだよ」

成否

成功


第3章 第12節

フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと

 そうやって他が万事上手く行きつつある中だったから、幻から聞いた水を差すような元ギルド長たちの態度にフラーゴラには我慢がならなかった。
「そんなので、今年はお弟子は何人できた?」
「別に困らん程度にはおったよ」
 これはこれで上手く回る仕組みになっているのだとは老人たちの言。彼らの経験則から言えば、それは間違いではなかったのだろう……けれどもフラーゴラの経験則は違う。そうして切り捨てられた人たちがいるから、この世に魔種は生まれたように思う。

 この町が今までどおり変わることがないのなら、老人たちの遣り方でもいいのかもしれなかった。だが、これから世界に胸を張れる町に変わるため、祭りを開こうというのじゃないか。だったらより役に立つ経験則は、広く世界を見てきたフラーゴラのものであるはずだ。
「守りたいのはプライド……?」
 そんなのはすぐにこの町でしか通用しなくなる。だったら、最後にものを言うのは町長さんが得ているような、『この人になら頼れる』という信頼じゃないか。
 貧民たちを手厚く扱えば、最初はそれを都合よく受け取っていた彼らの中にも、恩を返してくれる人だって現れるはず。もしも、金や人手の問題だと言うのなら……貧民たちに医療を施し衛生環境を向上させることを使命とする『オリーブのしずく』のクラウディア・フィーニーをフラーゴラは知っている。

「……好きにするといい。上手くいくようなら暇潰しの手ほどきくらいは考えておこうか。多少の寄付も期待しておいていい」
 ついに、老人たちも根負けの表情を見せた。
「だがな嬢ちゃんよ……解ってるたぁ思うが、貧民ってのは盗賊どもの飯の種だ。これで損することになる盗賊ギルドを納得させられなけりゃ、決して上手くなんていかないぜ?」

【特殊判定発生!】
 貧民支援団体『オリーブのしずく』の活動のために大幅な支援が必要となったため、フラーゴラ様に『100万Goldの借用書』が付与されました。この資金を元に、今後オリーブのしずくはこの町において、アカシアこどもの家や各ギルドとも連携し、大幅な貧民支援を行なう予定になっています。
 このことに対し、誰かが何らかのアクションを行なう必要はありません。

成否

成功


第3章 第13節

ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼

「……そこでだ。どうせお前たちばかりが嫌がろうと祭りは行なわれるんだろうから、ひとつ噛んでみるってのはどうだ?」
「言い出しっぺの特異運命座標がそう言うんだから、まあ、利益にする以外の道はないだろうさ」
 伝手を辿って面会した盗賊ギルドの幹部は、ジェイクにそんな言葉を返してきた。
 どうやら盗賊ギルドからすれば、突然町に精霊の一大勢力なんていうのが現れて町への影響力を削がれそうになっているばかりか、支配していた貧民たちまで祭りのために表社会に奪われかけている格好だ。そうと明言こそしてはいないが、よほど腹に据えかねている様子はジェイクにも見て取れる。
 まあ、今更祭りを台無しにしようとまでは彼らとて言わない。そんなことをしても金にならないし、何より町の内外が団結しての報復も怖い。
 だが幹部の様子を見るに、この問題は今のままでは、根深い対立となって後々残る恐れもあった。
「で……お前さん。よほど美味い立場でも持ってきてくれたんだろうな?」
 眼光が鋭くジェイクを見据える。つまり、彼はこう言っているのだ……『啜れる利益が十分にあるのなら、ここは特異運命座標の顔を立てて引き下がってやろう』、と。

【LAST MISSION!】
 町の盗賊ギルドに、祭りを通じてどれだけ大きな利益が得られるのか(あるいは、どれだけ大きな不利益を回避できるのか)を提示してください!
 彼らに便宜を図ることができずとも祭りは開催されますが、その場合、その後に大きな対立が発生する可能性があります。
 採用されるプレイングは、『盗賊ギルドが溜飲を下げるのに十分』かつ『他の者たちが被る不利益が許容範囲内』であると考えられる内容のもののみとなります。
 なお、11/20 24:00までに採用可能なプレイングが届かなかった場合、盗賊ギルドが不満を抱えた状態で秋祭りが開催されることとなります。

成否

成功


第3章 第14節

夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)
母になった狼

「利益だって? そんなのは簡単さ」
 けれどもジェイクは嘯いてみせた。
「早い話がお前たちは“自警団”じゃねえか。だったら町の外からも人の来るようなこんな大掛かりなイベントは、警備を強化する必要のある稼ぎ時ってもんじゃないのか?」
 祭り時、衛兵たちだけで全てのトラブルに対処するなんて不可能な話。だったら書き入れ時に乗ろうという各店が、臨時の警備費用を支払うのは義務ではなかろうか。
「金だけじゃねえ。余所者に自分たちの縄張りを荒らされたら気分は悪いだろ?」
 そう訊くジェイクに幹部は頷いてみせる。なら決まりだ。降りかかる火の粉を払うだけで金が入るこの機会、役立てるに越したことなんてないじゃあないか……幸い彼らは荒事には長けてるんだから。
「もちろんギルド自身で出店するプランもあるっすよ!」
 さらに、ウルズまで畳み掛けた。それは、彼女が朧げながら憶えている召喚前の世界――ジャパニーズマフィアのシノギスタイル。つまり、子分を使ってテキ屋を開き、上納金を納めさせる遣り方だ。
「そして、そういった“娯楽事業”を足がかりに、町公認の賭場を始めるわけっす……どうっすか? これでも儲からないって言うんすか――?」

 ――ちょうどその頃幻も、町長に同じプランを見せていたところだった。
「なるほど」
 町長は顎に手を当てたまま、しばし思考を巡らせる。それから徐ろに口を開いて……。
「いい落としどころだと言えるだろうね」

 町長とて表社会の住人ではあるから、裏社会の勢力が伸長することを好ましく思ってないことを幻に語ってみせた。
「しかし、かといって不当な抑圧ができるわけじゃない。彼らとて町の住人ではあるからね」
 彼らが表の業界に参入してくることは、たとえ町長が見逃したとしても、何よりギルドそのものが参入を拒むことだろう――これは相手が誰であろうと同じではあるが。
「とはいえ“残念ながら”そういった仕事は、この町にギルドが存在しない。誰がどこでどのように仕事をしようと自由ということになっている」
 これまでだって、何もせずとも衛兵なんてのは食いっぱぐれの行き着く先になってたし、裏通りではひっそりと賭博が行なわれていた。幻らの案は単に現状を公認するだけだ……流石に賭場の公認に関しては無条件とはゆかず、ある程度の規制を設けるだろうが――。

「――お前さん、詳しいな」
「当然っす! 同業者の話だったっすから」
 ウルズの答えに盗賊ギルド幹部は納得し、何が必要だ、と問いかけた。似たような仕事なら彼とて知らないわけじゃない。だが、所詮は小さな町の中の遣り方だ。異世界のノウハウまで採り入れたなら、誰も見たことのないシノギを作り出すことができる。
 彼は昏い笑みを口許に湛えて、静かに右手を差し出した。
「もちろん、手伝ってくれるんだろうな? 本当に利益が上がるようなら、当然、こちらからも報酬は出すさ……」

 かくして精霊祭りの計画は、町の全体を巻き込む形に整えられる。
 あとは……万全の準備を整えて、全てを上手くゆかせるだけだ。

【今後の予定について】
 次章は精霊祭りの本番になる予定ですが、その前に11/18 24:00頃までは本章のプレイングを受け付けます。
 この間は皆様が遣り残した事柄を実施するための期間とします。特に遣り残しのない方はプレイングを送付する必要はありません。

成否

大成功


第3章 第15節

フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと

 そのためにフラーゴラは精霊女王の下へ。すると精霊たちを集めて何やら説いていた女王様は、ほっとしたような表情でフラーゴラに微笑んだ。
「勝手に人間のものを取ってはいけないけれど、何か欲しくなった時はどうすればいいかを皆に教えてほしい……? それはほら、これを渡してあげればいいんだよ」

 もらうものと同じ価値のお金を使えばいい、と言われても、精霊たちは首を傾げてばかりだった。それくらいは知っていた女王様も、どうやって『同じ価値』を定めているのかまで知るわけじゃない。
「んー……つまりは、信頼の証なの。例えば、ナオミさんは毎日パンを焼いてる。パン作りの練習は、きっととても大変だったはず……だったら、感謝しないと、って思うよね?」
 だから、それに見合うだけのお金を渡す。そのお金は、誰かから盗んだものであってはいけない……そんなことをしたら、その人が得た感謝の証――つまり信用を失ってしまうから。
「じゃあ、どこからそのお金を持ってくればいいの?」
 不満げな様子の精霊たち。欲しければ、仮装して木の実やつるや木の皮で作った小物を売ってみればいいよともフラーゴラは答えてみるけれど……恐らくは、それでは精霊たちはお金を得ることの難しさを知るだけだろう。
「だから、祠を作って、賽銭箱を置こう。精霊には人への加護っていう、もっと感謝に見合うものを与えることができるんだから……」

成否

成功


第3章 第16節

 ……かくして。

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