シナリオ詳細
“卒業”したクレア
完了
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オープニング
毎朝うちの店にやってくる幼い少女クレアは、いつもはつらつとした明るい挨拶をしてくれた。
彼女は店に入ってくる前に、いつもくんくんとパンを焼く匂いを嗅いで。それから胸いっぱいにその匂いを吸い込んだあと、思いっきり息を吐きながら「おはようございます!」と叫ぶのだ。
彼女が初めて店にやって来たのは数ヶ月前のことでしかなかったが、その時は彼女はまるで小動物みたいに、まるで誰かの視線を避けるかのように辺りの様子を窺っていたものだ。そして、物欲しげに店先のパンにちらちらと視線を遣っていた。
「食べたいの?」
そう私が訊いた時、彼女はこくりと頷いた。でも、うちだって商売だ。近所の子でもない見知らぬ子供に、はいそうですかとあげるわけにもゆかない。
だから、食べるにはお金が必要なことを説明して、両親からお小遣いを貰ってくれば売ってあげると教えてあげた。でも……彼女は、両親からのお小遣い、という言葉がよくわからないらしい。
ああ、もしかして。彼女は町の外れにある、アカシアこどもの家の子なんだろう。アカシアこどもの家というのはつまり、この町で唯一の孤児院だ……きっと育ちざかりの彼女はこどもの家で出る食事だけでは満足できず、食べ物をくれる人を探してこんなところまでやって来たのだ。
「あなた、アカシアこどもの家の子? 今日は特別に食べさしてあげるけど、今度からはちゃんとお金を持ってきてね」
そう伝えると彼女は人懐っこい笑みを浮かべて頷いて、うちの店のパンを頬張った。
彼女はよほどうちのパンがお気に召したのか、その後も毎朝店にやってくるようになった。今度は、教えたとおりにお金を持って。
素直な子だった。来たら挨拶をするよう言っておいたらそれからは挨拶をするようになったし、名前を教えてと言ったら自分はクレアだと教えてくれた。
でも、あの孤児院の子は大きくなったら“卒業”して、独り立ちしないといけない決まりだ。あるいは当然、誰かに引き取られた場合にも。
「あなたもいつか卒業して、私の前からいなくなってしまうのよね。できれば町長さんのような立派なかたが引き取ってくれればいいのだけれど……」
……もしかしたら私がそう零してしまったせいで、それが現実になってしまったのかもしれない。
翌日、彼女は私のところを訪れて、今度、町長さんに引き取られて卒業するからもう来れなくなると教えてくれた。町長さんは素晴らしいかただ。町長さんは町の商人ギルドや職人ギルドから選ばれるのだけれど、公正で、誰よりも――それこそ領主様よりも町の人たちのことを考えてくれるとパン屋ギルドの会合に出ている父さんも言っていた。
だから私は名残惜しかったけれども、彼女の卒業を歓迎することにした。決して、彼女がこの町からいなくなってしまうわけじゃないのだから……そのはずなのに。
彼女は、二度と私の前に姿を現さなかった。町長さんの家にはうちにも負けない立派なパン窯があるというし、足りずに毎朝来る必要もないとは理解していたけれど。
でも、毎日朝から晩まで働いて、結局、彼女がいる間にこどもの家を訪れる機会もなかった私と違って、彼女はいつでも店に来てくれる機会があるだろう――私は、そんなふうに勝手に思い込んでいたのだ。
……でも、真実は、もっと恐ろしいものであるかもしれなかった。
この前、ギルドの何かだということで、町長さんがうちの店を訪れた。町長さんと父さんの会合を私なんかが邪魔することはできなかったけれども、町長さんの帰り際、少しだけ会話できそうな機会があったので手短に聞いてみた。
「クレアは元気でやっていますか?」
「誰のことかな? ふむ……アカシアこどもの家からわしがその子を引き取ったと、そうお嬢さんは言うのかね? はて、誰かと間違えてはおらぬかな、わしがあの家から子供を引き取ったのは、8年前が最後なのだがね……」
……まさか!
その後私がこっそり店を抜け出て町長さんのお宅を見にいったけど、確かにクレアらしい子供の姿は見あたらなかった。そんなはずはない……でも、クレアの憶え間違いだったってだけかもしれないのでアカシアこどもの家にも行ってシスターに訊いてみたけれど答えはこうだ。
「クレア? 最近はそんな名前の子はおりませんよ?」
一体、彼女はどこに行ってしまったのだろう? どうか、彼女が怖い目に遭っていませんように……!
- “卒業”したクレア完了
- GM名るう
- 種別ラリー
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2021年11月23日 21時45分
- 章数4章
- 総採用数47人
- 参加費50RC
第2章
第2章 第1節
秋の精霊種の娘クレアはこの先にいる。そこは禁足地とされる領域なれども、クレアが人間たちを戸惑わせ、大事にしてしまった理由を問うためならば、精霊女王とて踏み入れる罪を罰しはすまい。
彼女は、何を求めていたのか? 人々は今後、彼女とどう接すればいいのか?
その答えが得られたならば、依頼である『クレアの安全確保』と『今後ナオミの生活が脅かされないこと』は達せられるに違いない。
【本章について】
鬱蒼とした森の奥の聖域に、精霊女王がいます。どのようなアプローチをしてみても構いませんが、必要以上に攻撃的な行動には女王の処罰が待っているでしょう。
精霊女王にクレアを呼んでもらえばクレアに対するアプローチも可能になりますが、精霊女王もクレアが何かをしでかしたことは解っているので、まずはクレアと何を話したいのかを伝え、クレアを呼んでもトラブルにならないことを示してみせる必要があります。
第2章 第2節
そうして禁足地を訪れたなら、姿を現したのは緑の葉の髪と咲く花の髪飾りを持った女性であった。
なるほど、彼女の葉が色づき花が実れば秋の娘になることだろうとアーマデル。しかし、その娘がどうして人のルールを侵すのか。
「御免なさいね。あの子ったら、パンの美味しそうな匂いに釣られてしまったみたい」
女王の言葉にアーマデルは、その気持ちは解ると頷いた。そこをナオミに見つかって、孤児院のことも、町長のことも、クレアは彼女の言葉から自分なりの答えを出したのだ――つまりこういうことだろう、と、キドーは女王に確認してみせる。
「クレアはナオミの言葉通りに、アカシア子供の家からただ“持ってくれば”良いのだと考えたってわけだ。卒業に関しても……アンタ、あまり人と関わりすぎてはいけないとでもクレアに教えてたんじゃねェか? これもナオミの言葉を聞いて、嘘を吐くことを思いついたってところか」
すると女王は申し訳なさそうに微笑んで、そのようです、と頷いた。
「でも……あの子、決して別れたくて別れたわけじゃなかったみたいなんですよ。『ナオミがわたしは卒業していなくならなくちゃいけないって言うから町長さんって人の家に行ってずっと待ってたのに、何も面白くないの! どうしよう、嫌われちゃったの!』って嘆いてましたから。どうしてその方がクレアにいなくなってほしいと願ったのか何も知らない私には、また会いに行ってみれば、と言ってあげることもできなかったけれど……」
全ては、クレアが人の世を知らなさすぎたせいで起こった悲喜劇だと言えた。けれども知らぬのは、クレアだけに限らない。今回、町の人々もまた彼女らのことを知らなさすぎた。
「ヒトが語り伝える伝承は変化するもの。悪意の有無には関わりなく、伝え継ぐほどに枝葉が伸びて生い茂り、或いは枝を落としすぎて真実を見失う」
だからアーマデルが望むのは、互いに、互いを知る機会を設けることだ。
「そいつはいい。精霊女王さんよ、結局のところクレアは罪を働いたが、悪意はなかったんだよな?」
それを確認するから、キドーもナオミに会って全ての真実を伝えることを勧めるわけだ。
「ま、俺みたいな邪妖精もどきには、どっちも罪ってほど大したものじゃねェけどな」
すると女王は再び微笑み頷いて、ええ、そうしましょうと指先を掲げる。そして、指で輪を描いて合図する。さあ、あなたもいらっしゃい、私の可愛いクレア。秋の澄空の名を持つ私の娘――……。
【真実(3)】クレアは、ナオミの言葉から人間を学んだ。パンを食べるには孤児院からお金を持ってこなければいけないことも、自分は卒業してナオミの前から消えねばならないことも。
成否
成功
第2章 第3節
本当は、ナオミ自身もその場にいるのが相応しかったのかもしれないけれど、はたして、今すぐに真実を伝えていいものだろうか?
イーハトーヴは見定める必要があった。ナオミが真実を知った時、クレアをどうするつもりなのかを。
結果――。
たとえどんな姿になっていたって、おかえりって言って抱きしめてあげられるならそれでいい。
クレアと再会できたら何を伝えたいかと訊くイーハトーヴに、ナオミは答えを返した。彼女はいまだクレアのことを、誰かに攫われたとばかり思い込んでいる。彼女は、最悪の想像をして――それでもクレアのことを案じてくれているのだろう。
イーハトーヴの水筒の中から、温かい柚子茶が注がれた。きっとそんなことにはならないからと、彼女を勇気づけてやるために。
心優しい彼女であれば、たとえ真実を知った後でもクレアを拒絶することはなさそうだった。いや、きっと彼女は受け入れるに違いない……というのは文がようやく解放された後、代わりにジェイクが自ら酒場の老人たちに捕まって聞き出した話からも想像に難くないことだ。もっともそれは、ジェイクのおごりに気を良くした酔いどれ老人たちの憶測を、すっかり信じるのであれば、だが。
「ラクス卿の子孫が今もいるのかだって? そりゃあこの町の何割かにゃ血が混ざってるわな!」
かく言う自分もそうなのだ、と、老人のひとりは豪語する。この町はいわば卿の一族の町であり、それゆえに精霊女王もこの町を加護しつづけてくれているのだと。
まあ、一族といっても平民のことなので、妾腹の子孫だとか、そもそも勝手にそう名乗るだけということもあるかもしれない。ただ……もしも偶然にも卿の血が濃い人物が生まれたら、精霊とのつながりも強くなるのではないか? そんな可能性をジェイクが訊ねれば、老人たちも否定はしない。
「もしかしたら“ホラ吹き”の中には、本当にラクス卿の血が濃くて、他の奴には見えない精霊様が見えてたのもいたのかもしれないなぁ!」
もしも本当にナオミにラクス卿の血が濃く流れているのなら、ナオミはクレアが精霊女王の娘だと知っても仲良くしてくれる。きっとイーハトーヴはそう信じたかったことだろう。
けれども――もしかしたら、イーハトーヴが蓋した心は恐れているかもしれない。どんなに自分は善良だと思っている人の中にも、異質なものを排除したいという欲望が眠っていることを。
だから今、彼は――……。
【判明した事実(17)】町にはラクス卿の子孫が多く、それゆえに精霊女王は町に加護を与える、とされる。
【特殊判定発生!】
イーハトーヴ様は、11/13 24:00までに、ナオミに真実を『伝える』/『伝えない(流れに任せる)』/『伝えない(まだ伝える準備が整っていないとする)』のプレイングを送付してください!
プレイングには真実を伝えるかどうかとは別に通常通りに行動を含めることが可能で、期限までにプレイングが送付されなかった場合は『クレアが拒絶される可能性を恐れたわけではないが、今はナオミを励ました後に別れることにして、クレアのほうからナオミに会いにくるのを待つ(流れに任せる)』ものとして判定いたします。
まだ伝える準備が整っていないとする場合、以降、どなたかが『真実を伝えるための準備を整える』まで、ナオミとクレアを会わせる内容のプレイングの採用は遅延されます。
成否
成功
第2章 第4節
……ひとまず、イーハトーヴはナオミを励ました後、「再び調査に行く」と告げるとパン屋を後にした。
彼女がクレアと上手くやってくれるだろうことは、きっと疑う必要はない。でも……彼女が精霊と親しくしていると人々が知ったなら?
ある者はそのことに恐怖して、またある者は逆に彼女らを、自らの欲望のために利用しようと目論むかもしれない。
確かにこの町の人々は、善良な人たちも多いように見えた。決して、イーハトーヴが余所者だから体面を繕っていたわけじゃない。彼がいない時――イーハトーヴのフードから飛び発ったシマエナガのジジが、主のいなくなった店先をずっと観察していた間も、人々はご近所さんの娘さんであるナオミを大切に思っていたように見えた。
……が、それはご近所であればの話だ。町の異なる通りへゆけば、もう、そこにいるのは知り合いの知り合いに変わってしまう。治安の悪い裏通りなんかでは尚更だ。
そういった人たちがナオミたちを傷つけることがないように、何か、イーハトーヴにもできることがあればいいのだが……?
成否
成功
第2章 第5節
まず、あなたがたはどうなのか、と幻は女王に問うた。
「ラクス卿と何を誓ったか存じ上げませんが、その盟約は、今も守られねばならないものなのでしょうか?」
大規模召喚前ならいざ知らず、今ならそれなりに強い僕たちがいる。短命ゆえに盟約の存在すら忘れつつある人々を、このままそれに縛られたまま守護しつづけるのか、と。
「あの人間――ああ、そういえばラクスなんて名前でしたね――との盟約などは、単に私の、森の精霊種たちを守る役割のついでに果たすだけのもの」
自身が森に縛られ森を守るのは、自身が森の精霊女王であるからだと彼女は言った。人間に森の中に町を作るのを許したならば、必然、彼らも森に守られることになるというだけで。
「とはいえ……ラクスには今も感謝しているのですよ。あの魔物は他所から現れて、私たちの森も荒らしていたのですから」
ラクス卿はアウルベアを倒すために精霊女王の力添えを求め、遂に王命を達した際には、森を所領として与えられることになった。卿は従者らとともに再び森を訪れて、女王に、森の中に人間の領域を作る許しを請うた。
かくして森は人の領域と精霊の領域に分かれ……しかし今も、人の領域は精霊の領域の一部にすぎぬ。
【真実(4)】精霊女王にとって、町は、森の中の人間種自治区でしかない。人間と精霊は互いの領域を定め、互いに関わり合うことは滅多にないが、精霊女王が森を守護する際、森の一部である町も守護されることは必然である。
成否
成功
第2章 第6節
では、その垣根が取り払われる機会を、偶に設けてみるのはどうか?
それがフラーゴラの提案だった。
「子供に落ち葉や落ちてた枝や木の実で仮想をさせて、誰が精霊かわからないように。そうすることで、精霊が人の間にも混ざりやすいように。
パンが欲しい精霊の子がいるのなら、お金をどろぼうしちゃうのではなくて、お金がなくてもお供えをもらえるように」
つまり人間たちに、精霊を祀るお祭りを開かせるわけだ。決して、人間たちにとっても悪いことにはならないはず……そうすれば精霊たちはこれまで以上に人間を守ろうとしてくれるだろうし、そうでなくともお祭りとなれば、屋台を出したりしていい儲け話になるはずだ。
そして……人々にとって、精霊たちが特別な存在でも何でもないようになってしまえば、わざわざナオミとクレアを狙う必要なんてなくなってしまうのだ。あとは、人々にこの祭りを開催するよう訴えて、町全体をその気分にさせれば全てが丸く収まるのでは……?
成否
成功
GMコメント
●はじめに
本シナリオは、ジェイク・夜乃(p3p001103)様、アト・サイン(p3p001394)様、フラーゴラ・トラモント(p3p008825)様、ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)様、コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)様よりリクエストされたものでしたが、内容柄、リクエストシナリオの規格よりもラリーシナリオの規格のほうがより適切であろうと判断いたしましたので、どなたでも参加できるラリーシナリオとなりました。
基本的には上記5名と他の方で扱いは変わりませんが、何らかの理由でどうしても採用人数を絞る必要がある場合、プレイング内容に優劣がなければ上記5名を優先採用する、くらいはあるかもしれません。
●本シナリオの目的
パン屋の娘ナオミの依頼は『クレアの安全を確保する』です。もう少し明確な形に直すのであれば、『クレアに関する真相を確かめ、必要であれば救出する』となるでしょう。
もちろん、依頼人ナオミの生活が脅かされてしまう事態は防ぐようにしてください。
●プレイングについて
本シナリオでは、1回のプレイングでは1つの調査を深く行なうほうがそうでないよりも高い効果を得るものとします。また、同様の調査内容が被った場合、手分けして調査できる内容でなければより高い効果のもののみを採用し、他を不採用とする場合があります……つまり、必然、複数の調査を行なうようなプレイングは非推奨です。
どこまでが『1つの調査』であるかは判断の難しいところもありますが、概ね『非戦スキル1回』程度を目安にするといいかもしれません。ただし、『地元のダチコーを説得して無理筋を通す』のような単一目的のために非戦スキルを複数使用して相乗効果を得る使いかたや、『煙突を鑑定するために飛行して近付く』のような失敗の余地のない補助のための非戦スキルであれば問題ありません。もちろん、キャラクター性を表現するためのスキル使用にも制限はありません。最終的にはGM判断となります。
ペアやグループでの描写を希望する場合は、1行目にグループ名もしくは同行者のIDをお書き添えください。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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