シナリオ詳細
そらにみる
オープニング
●星に願いを
「ねえ、知ってる? この空の上、きらめく星のもっと上には、神様がいるんだ、って」
土手に寝そべり、夜の空を見つめながら、彼女はそんなことを言う。
その横顔は微笑んだ笑顔で、見えていない空のもっと上の世界を、すうっと夢想しているかの様だった。
「知らなかったな。どこ情報?」
「旅人さん」
「ああ」
色んな世界から喚ばれた人たちだ。きっとその、星と神様の関係は、色んな世界の中のどこかの世界で紡がれたお噺なのだろうと、僕は思う。
「それでね、聞いたの。7月の7日では、その星の上の神様の二人が、年に一度会える日、なんだって」
「年に一度しか会えないの?」
「そう。たった一日。365日ある中で、364日は会えないの」
それは、なんて辛い決まりだろうか。
「私、貴方と364日も会えないのは、きっと我慢出来ないなぁ」
「……僕もだよ」
「だよね、知ってる。……あ、それでね、聞いたの。その日は地上で、お祭りをするんだって」
……年に一度の逢瀬の日に騒がしくして、いいのだろうか。
「楽しく騒ぐ口実がほしいのかもしれないよね。他にも、儀式的な意味合いは、あるのかもしれないのだけれど」
「かもね。で、それを幻想でもしたい、ってことかな?」
「察しがいいね、流石だよ」
それはどうも。
「きっと、きっといい日にできるよ」
「ああ。きっと、いい日にしてあげよう」
●キミの願いを
ローレットの壁に、一枚の紙がある。
大きめの長方形を縦に張り付けたそれは、カラーに印字され、催し物の開催を宣伝する文句に彩られていた。
「皆に招待状だ」
と、そう説明した『黒猫の』ショウ(p3n000005)は、概要を口にする。
「今度の7月7日の夜に、ちょっとしたお祭りをするらしい。そんなに大きな規模じゃないから大勢で、とはいかないけれど」
ここ最近は忙しかったし、たまには息抜きも必要だろう。
「煩わしいのは、この日ばかりは無しということで。少し羽を休めてきたら、どうかな」
- そらにみる完了
- GM名ユズキ
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年07月20日 21時50分
- 参加人数30/30人
- 相談5日
- 参加費50RC
参加者 : 30 人
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参加者一覧(30人)
リプレイ
その夜は、満天の星空を抱えていた。
ふわふわと漂っていた雲は、昼間のうちに風が流してしまい、見上げた視界には小さなガラス片を散りばめた様な星々がきらめいている。
そんな絶好のロケーションに、七夕のお祭りは始まった。
国の名に相応しい幻想を見せた景色の中、『機工技師』アオイ=アークライト(p3p005658)が一人歩いている。
向かうのは幾つも並べられた、長く伸びた笹の葉の所だ。
細長く切られた一枚の短冊を、そこにくくりつける。
記された願いは、【壊れることなき一時の平穏】だ。
元居た戦争続きの世界から混沌に喚ばれ、サーカスとの大きな決戦を経た彼は、その自身が歩んできた道程を思い返す。
「戦い続きでも」
今はただ、一時だとしても。
この平穏を満喫しよう、と。
「ねえねえ、そこのあなた! 今日は星がきれいだね!」
そう思って空を見上げる彼を、元気な声が足元から呼んだ。
それは、同じ様に短冊を飾った『脳内お花畑犬』ロク(p3p005176)だ。
「でも年に一回、晴れてる日にしか会えないなんて……可哀想だよね神様……長生きなのかな?」
「あぁ……そうだな、きっと長生きなんだろうな」
よいしょ、と屈んだアオイはロクに目線を合わせ、言葉を返す。
……犬? と、ロクの見た目に内心思いつつ、
「ところで、わたし、何に見える? コヨーテ型の獣種なんだけど」
「あ、犬じゃないんだ」
「…………うん後日あらためてちょっと話そうか!」
一瞬怒った様な雰囲気を察しつつも、それが納められたのなら、うん。
それはきっと、星の神様のおかげなのだろう。
残念そうに尻尾を揺らす後ろで、【犬に間違われませんように】と書かれた短冊が、ひらりと風に揺れた。
七夕祭りとして開催された現地には、願いを書くための机が幾つか置かれている。
思い思いに賑わう一角には、勿論友達同士の姿は多い。
その中で、空を見上げながらフッ、と思考を泳がせる集団があった。
(神様の、年に一度の逢瀬の日……。でも、なんでそこでお願い事叶えるって話になるんだろう)
と、『遠き光』ルアナ・テルフォード(p3p000291)は疑問を抱き、一緒に集まった『一刀繚乱』九重 竜胆(p3p002735)達は「さて、何を願ったものか」と頭を少し捻る。
「七夕って初めて聞いたけど、ロマンチックでステキな風習だね」
視線を落として短冊を見つめながら、願い事……と考える『特異運命座標』サクラ(p3p005004)は、ポツリとそう溢す。
それに頷いた竜胆は、しかし悩む。
「いざ願い事って考えると中々思い浮かばないものね。剣の腕って言うのはソレこそ自分次第だし……あっ、ねぇ、貴方達は短冊にどんな願い事を書く心算なの?」
「うーん、天義に残った家族が健康でいられます様に……って、殺しても死なないような人達だから何も心配はしてないけど」
一応ね。
そういうサクラは短冊にペンを走らせる。
それをなるほどと頷き、スティアは? と銀髪の少女へと竜胆は視線を向けた。
問われた『サイネリア』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は、んー、と短い唸りを一つ入れ、
「改まって考えると難しい……でも、日々の平和な日常が続けばいいなって思うし、毎日楽しく過ごせますように、ってお願いしようかな」
「良いわね、私もその願いに乗せてもらってもいい? 願いが合わされば、効果も二倍……なんてね」
「あ、いいねっ、私もそんな気がしてきた! ルアナさんはどう?」
せっかくだしみんなは? と覗き込むスティアは、書いてあったルアナの短冊を見る。
書いてあるのは、【召喚の時に無くした記憶が戻りますように】だ。
「覚えてなくても日々楽しいんだけど、やっぱり気になるし……あ、でも、それだけじゃないんだよ」
と、二枚目の短冊を机に置いたルアナは笑って言う。
言葉にした思いはきっと叶うのだと、そう思いながら、
「皆のお願い事が叶いますように」
と、そうカタチにした。
「……おおう」
眩しい。これが、若さか……。
そんな心中を抱いた『布合わせ』那木口・葵(p3p000514)はちらりと星を見上げる。
普段は店に籠って服飾をしてばかりの彼女だ、たまには羽休めでもと、思い。
「千客万来商売繁盛……」
周りの皆の願いに比べて、もしやこれは俗物的なのでは……?
「葵さん、高いとこに短冊付けてください!」
「あ、はいはーい」
そんな悩みは置いておいて、使役するぬいぐるみの活躍の場だ。
笹の葉を支える添え木を登り、みんなの短冊を結びつけていく。
「よーし、じゃあ屋台にでもいこうか」
祭りと言えば屋台巡りだ。
と、歩いていく背中を見つめながら、
「……これは、恥ずかしいから秘密」
「サクラー?」
「今行くよ、夜はまだまだこれからだー!」
サクラは、【みんなともっと仲良くなれますように】と、星に願う。
「へぇ」
そうして夜風に揺れる短冊を見上げて、『不屈の』宗高・みつき(p3p001078)は息を漏らす。
「こっちの世界にも七夕の風習が流れてきてんだなぁ」
それは、喚ばれる前の、自分の世界を思い出しての物だ。
恋しく思ってしまった。と、一つ笑みを浮かべて、下駄を鳴らしてみつきは短冊を一枚つまむ。
「無病息災、これだな」
首から下は妹からの借り物だし、とは心中で呟き、願いを乗せた短冊を吊るして、みつきは浴衣姿で雑踏へ歩いていった。
「なるほど」
短冊に願いを。
笹に飾るその行動の意味を理解する『遍歴の騎士たるヴァンパイア』シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)は、頷きながら短冊に向かいペンを取り、
「あ、そうね……そうだわ」
思い立った様に足で地面をトントンと叩く。そうして起こるのは魔方陣による召喚で、
「折角の機会だもの。我が忠信、貴女も願い、書いてみたら?」
契約妖精、シルキーがそこに現れる。
シャルロットの言葉に頷くシルキーは、短冊に【またみんなで一緒に過ごせますように】と記し、
「多くの民が平和と安寧を享受できますように」
騎士であり、領主でもあった彼女の願いは、異世界に於いても民を思うものだった。
そんな彼女達の後ろを、翅を羽ばたかせて飛ぶ姿がある。
小さな小さな妖精が、短冊を抱える様に持って運んでいるのだ。
そんな彼女が降り立つ机には、『偽りの攻略者』エリーナ(p3p005250) の姿がある。
「……」
両の手で頬杖を付きながら見るエリーナの先で、妖精は短冊にペンを走らせる。
小さな体には大きなペンだ。それでも一生懸命に願いを込める彼女をみて、視線を横へ逸らす。そこには、先に書いておいたエリーナの短冊がある。
「私の記憶……」
召喚された時に失った記憶を、エリーナは求めていた。
それが戻った時どうなるのか、そもそも自分は、何者なのか。そう言った不安はあれども。
「それでも、知りたい」
と、そう思うのだ。
流れる様な星々の下、『砂狼の傭兵』ラノール・メルカノワ(p3p000045)は言う。
一緒に、何を願おうか、と。
「願い……」
問われた『夜鷹』エーリカ・マルトリッツ(p3p000117)は、彼の顔を見て考える。
笑顔で見てくるラノールを見て、考える。
(悩み、迷い、躓き乍らでも)
「私は……。わたしたちの旅路が、幸いにみちたもので、ありますように、と。おほしさまには、そうお願いします」
「……そうか、ふふ。そう、私も、二人の旅路が、どこまでも未来に進んでいますようにと願ったんだ」
それは、言葉に差違はあれど、向く先は同じだ。
だからラノールは、嬉しさから頬を緩めクスクスと笑みを溢す。そして、エーリカは。
「それと、もうひとつ」
星に願うわけではない、自分自身への願いがある。と、彼女は続ける。
それは、
「わたし、もっとじょうずにわらえるようになりたい
もっともっと、ラノールに"うれしい"をつたえたい」
今まで、人と、他人と分かち合う事が難しかった事を成したいと願う。
だってそれは、きっと、
「あなたがそばにいてくれるなら、かなう気がするの」
そう遠くない、二人の未来に、叶うはずだから。
「ーーあぁ、任せてくれ。そのかわり、君の最も幸せな笑顔は、私に向けてくれ」
こつん。
と、二人の額が合わさる。
そうして伝わるのはきっと、熱だけではない、もっと深いものなのだろう。
「異界の夜空には、なにがいるのでしょう」
と、空の向こうを視る様に顔をあげた『朱鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)は思う。
願掛け、叶うといいですね、と。
「こっちの世界にも織姫さんと彦星さん、いてるのやろか」
折り紙で飾りを作る『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)が、声に釣られて空を見る。
……確か、そんな言い伝えもあったけど……。
「……。一年の内一日しか会えないのは、寂しいな。今頃は、神様達が会っているのかな」
見よう見まねで作りあげた、歪に連ねた紙の鎖を、『慈愛の恩恵』ポテト チップ(p3p000294)は微妙な顔で持ち上げた。
それをコロコロと笑った蜻蛉は、「二人の願い事は何やろか……?」と問いを送る。
ふむ。と、視線を短冊に落とした雪之丞は、改めると願うものは少ないですね、と思案を一つ入れ、声を作った。
「拙の願うものは……そうですね。この地で出会った方々との縁が、長く続きますように、と」
「私は……二人の願いが叶います様に。知り合い全員の願いだと欲張り過ぎだがこれぐらいはね。そういう蜻蛉は?」
ポテトの言葉に、ん? と返事をした蜻蛉は、「そうやねぇ……」と言って、短冊を飾る。
「この世界で出逢うた人が幸せでありますように。ありきたりで、普遍的なもの……やけど、そうあって欲しいから」
糸で笹にくくられた三枚の短冊が、仲良く横に並ぶ。その下で三人は、ポテトの自作したお茶菓子に舌鼓を打った。
「また来年も、一緒に」
三人元気に、星空を見上げられますように。
「ねぇ、零は何を願ったの?」
黒と白が、道を歩いている。
同じ顔立ちの二人はまるで双子の様だがそうではなく、この世界に与えられたギフトによる物だ。
「ん? んーと……秘密だ! 言ったらツマラねぇだろ?」
「ふーん……。そんなに言えないような願いなのか」
「そんなんじゃねぇよ!」
わいわいと二人で騒がしいのは、『二重旋律』星影 霧玄(p3p004883)だった。
一つの体に二つの人格を内包する彼は、そのもう一人を実体化させられる。その能力で、それぞれが願いを掛けに来たのだ。
「言う必要がねぇ、それだけだ。そういう霧玄こそどうなんだよ」
「秘密かな! 言う必要を感じないし!」
「んなっ、仕返しかこのヤロー!」
小突き合いながら賑やかに去る二人の背後で願いが揺れる。
霧玄を守る。
零を守る。
そんなお互いの為の願いと、もう一つ。最後に加えられた、家族を守る。という、願いよりも決意のような想いが、短冊に乗っていた。
時は過ぎ、色多く、数多く短冊が並ぶ前を、短冊を握った『鳶指』シラス(p3p004421)が立つ。
かさかさと風に揺れた葉が奏でる重なり音を聞きつつ、「神様って大変だなぁ」と、そんなことをぼんやり思う。
「年に一度の逢瀬の日だってのに、皆のお願い事まで託されるなんて」
と、そんな感慨はおいておいて、
「何を書こうか……欲しいものは沢山あったはずだけど」
そう思うが、しかし。
それは、大体はお金で叶う願い達だ。ことここにおいては、そういうものじゃない。
「そう……人の手では届かない願い、そういうのだ」
ならどうだろうか。
願いに足る想いは……。そう考えた時、シラスの頭に過ったのは、亡くなった人たちのことだ。
「……みんなの眠りが安らかでありますように」
頷き、納得して、シラスはその短冊を笹にくくりつけた。
「ロマンチックねぇ」
願い事を書くために用意された、色とりどりの短冊の前。一つ一つ、色を眺めながら、『調香師』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は一人呟いた。
説明された七夕の由来、年に一度の恋人と会える日を、彼はロマンチックだと思う。
でも。
「あぁ、でも……アタシだったら寂しくて、我慢なんてできないわね、きっと」
と、そうも思う。
「あらっ、いい色ね」
ふと見つけた藤色の短冊に思考を呼び戻される。
それを手に取り、いざ願い事を、
「……思い付かないわね」
仕事は順調で、調香師として有名になる、というのは願いというより自分が叶える目標だ。
「あ、いいこと思い付いたわ!」
ニッと笑ったジルーシャは、願いを書いた短冊にさっと指を一撫でする。
そうして飾られる短冊をには、【空の上の二人が、来年も一緒に過ごせますように】と書かれ、優しい匂いが風に乗って空へと上っていった。
笹が並ぶ道のすぐそばには、いくつかの出店が並んでいる。
飲食と遊戯を楽しめる様にと並ぶそれらの通りを、『まほろばを求めて』マナ・ニール(p3p000350)が歩いていた。
「……七夕を行事として楽しむのは、初めてですね」
大きく暖簾のかかった店を見て回り、こういうものなのかと思いながらゆったりと道を進む。
……こうしてお祭りを楽しめばいい、そういうこと、ですよね……?
馴染みないイベントの楽しみ方だが、それでいいはずだ。そう考え、ふと思う。
「そういえば、確か今日は……年に一度のこの日にしか逢引き出来ない男女の日……でしたか」
……私にも、そのような方が現れるのでしょうか。
「年に一度しか会えなくても、それでも待っていられるような方と」
それはマナにも、誰にもまだわからない。だから、ふと沸いたそんな思いは置いておいて、彼女は笹の葉の前へ行く。
そうしていざペンを取り、短冊に向かうと、書きたい願いが後から後から思い付いてしまう。
「……よくばりさんですね。しかし、まあ。やはりこれが一番、ですね」
うん。
一人頷き、【来年もまた、無事に七夕を行えますように】と願う短冊を、マナは飾った。
「なんだか不思議な感じ」
異世界からの旅人である『魔法少女』アリス・フィン・アーデルハイド(p3p005015)は、かつて見た景色を幻想で見ることに、なんとなくそう思う。
既視感というか、なんというか。
元居た世界の風景と重なってしまうのだろう。
だから、呼んでしまう。
「桜」
今は会えない人の名を。
「どんなに時間が掛かっても、いつか必ず帰るから」
願いか、誓いか、そう書いた短冊を吊るしてアリスは笑う。
桜を想い、ここにはないその人へ伝えるように。
「こっちの世界も、楽しいことばかりじゃないけれど。守りたい人達が出来たよ」
世界を渡り、戦う場所が変わっても、そんな人達の悲しいところは見たくない。
だからーー
「えへへ、やっぱり帰るのが遅くなっちゃうかも」
アリスは魔法少女として、これからも戦っていくのだろう。
「本当にありがとうございました!」
祭りの運営が設置したテントの前、深く頭を下げてそう言う者がいる。
『Life is fragile』鴉羽・九鬼(p3p006158)だ。ボール大の人魂を傍に浮かせた少女は、顔を上げて相手を見る。
「えへへ、今回は私が見つけれたし、ある意味ラッキーでもあったのかな……!」
そう言って笑う『魔剣殺しの』ヨルムンガンド(p3p002370)は、目の前の少女を「おっちょこちょいな娘」と認識しつつ、しかし思う。
「明るくて、見ていると面白い九鬼と出会えたから……私はラッキーだったな!」
「ふふ、そうですかーーってあれ、私今、褒められてます?」
と、そんな九鬼の疑問は置いておいて。
「それにしても七夕のお祭り、この世界にもあるんですね。……願い事かぁ」
生まれついてのドジ属性に負けず、今年こそは綺麗に飾りたい。
そう思う九鬼は、さて、願うべきはなんだろうかと頭を捻る。
「私の居た世界でも、人間達が開催してたらしいなぁ……参加するのは初めてだが……!」
考えながら、ちらりと見るヨルムンガンドの横顔に、「あっ」と閃きの声を九鬼は上げ、それを短冊に記していく。
「願いは決まったのかな……! さて、私は……そうだなぁ」
……折角出会えたんだし。と、短冊に向かう九鬼を見ながら、ヨルムンガンドは思う。このおっちょこちょいな少女に、【九鬼にささやかでも幸運が訪れますように】、と。
だから、そう書いた。
「そういえば、ヨルさんはどんなお願い事を? 差し支えなければ、教えて頂いても……?」
「ん? ふふ、それはね……内緒だよぉ」
「えぇー!?」
楽しそうに言うヨルムンガンドは、目を丸くする九鬼を見ながら笑ってその場を離れる。
そして、高くつけられたヨルムンガンドの短冊の下。九鬼の願った【ヨルさんの願い事が叶いますように】という短冊が、そこにあった。
「願い事?」
次々と飾られていく笹の葉を眺めながら、木枠に腰をもたれさせた『星を追う者』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)はそう聞き返した。
「そうそう」
こくこくと頷く『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は、ウィリアムの隣でくつろぎながら肯定の言葉に続けてもう一度、「何を願うの?」と問いかける。
「願い事って言っても、パッと浮かばないんだよなぁ……そういうアレクシアは、何を願うんだ?」
「私は、お願いなら山程あるけどなぁ。でも今回は、兄さんに会えますようにってお願いしたの」
そう答えるアレクシアの笑みに、ウィリアムは、
「聞いたかも知れないけど、今日はさ。二人のカミサマが年に一度だけ会える日なんだ。
それが転じて、別れた人や会いたい人と再び会えるようにと、願いをかける風習もあったらしいよ」
と、天の川の風習の背景を語る。
そんな、再会に縁のある願いなのだから、と、
「だから、まあ……うん。きっと叶うさ、その願い。俺も……叶うように、願ってる」
そう伝えた。
それを聞いたアレクシアは、一度深く頷くと、一度飾った短冊をほどいて新しい短冊を手に取る。
「私の願い事は自分で頑張って叶えるよ。だから、今日は、神様二人がゆっくりお話できますように、って、お願いしなおさなきゃ」
言って、再度吊るした短冊を満足そうに見た彼女はウィリアムを振り返って笑う。
「君も、私の願いが叶うように願ってくれるのは嬉しいけれど、まずは自分の事を、ね?」
そうして目の前まで歩いて、指をピッと立てて言うのは、
「私の願いを気にしていたら、自分のを取り逃しちゃうぞ!」
という言葉だ。
それから二人は、他愛ない会話をしばらく続けていた。
「七夕、かぁ」
聞こえてきた声に、『暇人』銀城 黒羽(p3p000505)は呟く。
空を見上げながら、ゆっくりと喧騒を離れて歩く彼は、星を空に探す。
「さーさーのーはーさーらさら」
音程を取って、覚えている歌を口ずさむ。
確かこの歌がこのイベントには合っていたはずだ、と、そう思いつつ、天の川を探すのだ。
「よっ、と」
ごろりと草の上に腰を下ろし、投げ出すように大地に横たわる。
満天の輝きを視界一杯に納めて、召喚からのこれまでを、静かに振り返り、彼の夜は過ぎていった。
「オレの世界と同じ、年に一度の逢瀬って奴か」
いつか、妹がロマンチックだと言っていたな。
と、『業に染まる哭刃』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)はふと思い出す。
「会いたいときに会えないだなんて、神様も面倒ねー」
空の上にいるだけなら暇そうなのに、と身も蓋もない事を言うのは、同行する『白銀の大狼』ルーミニス・アルトリウス(p3p002760)だ。
「あとは流れ星に願い事をすると、って話だったか。オレに夢はないし、七夕の願い事って奴に別段興味はないが……」
「あー……。夢は自分で叶えるから別にいいし、悩むわね。……あ、じゃあ365日に一回会わないと気が済まない神様に習ってこういうのはどうかしら!」
それは、
「離ればなれになったとしても、必ず友人と再会できますように」
年に一度ではなくても、いつか、必ず会えるようにと言う願い。
「アタシは謙虚だから一年に一回じゃなくてもいいのよ!」
「謙虚って意味なんだったっけか……?」
ドヤ顔するルーミニスに苦笑いを返したクロバは、まぁ願うだけならタダだしな。と思う。
「ま、離れたりする事にならないのが一番なんだけどね? だから、クロバ」
と、ルーミニスはクロバの顔をジッと見る。そうして一息を入れて、
「あんまり無茶とか、変な事とかするんじゃないわよ!」
そう言う。
それをクロバは、真面目な顔で聞いて、こう返した。
「問題はない、ただ勝ち続ける。それが、オレが戦い続けた先に求めている"理由"に繋がるんだからな。そういうルーミニスこそ無茶するなよ」
「……アタシがするのは平気だからいいのよ! 真似するんじゃないわよ、いいわね?」
見合って言い合って、そうして一瞬の間の後にクスッと笑う。
「ああ、そうそう派手に散ってやるもんか」
そして、いつか帰る日に。
空を望む土手に、二つの影が腰かけていた。
きらきらとした星灯りの下、そこにいるのは『戦花』アマリリス(p3p004731)と、『黒キ幻影』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)だ。
「一年に一度しか逢瀬が出来ないとは、寂しいものでしょうか?」
とは、アマリリスの言。
「私ならきっと……次の逢瀬を楽しみに、364の夜を過ごすのでしょう」
そういって彼女が隣を見れば、シュバルツもそれに応える。
「二人の神様とやらは一年中お互いの事を思い合い、毎年たった一日の逢瀬を楽しみに待ち続けてるんだろ? ロマンチックな話だぜ」
それは、どれだけ深い信頼に依るものだろうか、と。
「そうですね。一年後も、変わらぬ貴方に愛されるためにーー」
そういいながら、柔らかく微笑んだアマリリスは、シュバルツの体に自分を寄せて、被さるように押し倒す。
「願い事、ありますか?」
「いつになく大胆じゃねぇか。……願い事だって?」
ええ。
と、アマリリスは頷き、
「私は月並みですが、この世界が平和であればと」
……まあ、建前ですが。
そう思いつつ、彼の返事を待つ。
当のシュバルツは、んー、と思案を入れ、そうだな、と前置きして、
「こんな日々がいつまでも続けばいい、と。思ってるのは勿論だが」
強いて言うならば。
「強いて言うなら、どっかの誰かさんを幸せにしてやりたい、かな」
「ーー!」
真っ直ぐな視線と共に告げられた願いに、アマリリスの鼓動は早くなる。
「も、もう、幸せとか、そんな、十分貰えてるもの。だって……」
だって、貴方の手前では。ただの女でありたい、と、そう思っていますから。
そう心中で言いながら、アマリリスは体をシュバルツの隣に寝転ばせて、彼の方へと横向きになる。
「このまま、貴方の腕に抱かれて寝たい、という願い事を祈ってみます。だめですかね、だめですか?」
「ん、そう言うことならお安い御用だ。その願い、俺が叶えてやるよ」
包み込むように、シュバルツは抱き寄せる。
「ひええ」
そんな可愛らしい悲鳴を聞きながら、アマリリスの横顔に顔を近づけた彼は、
「愛してるぜ」
そう囁いて、強く抱いた。
(ばかばか、こんなのじゃ寝られるわけないでしょー!!)
アマリリスのそんな心境が伝わったか伝わっていないかは、彼のみぞ知る。
空の下。
煙管を片手に、 『本心は水の底』十夜 縁(p3p000099)は輝き瞬く星空を眺めていた。
辺りには誰もいない。あるのは彼と、空と、空に昇る煙だけだ。
「年に一度だけ、会いたいやつと会える日、か……そいつはめでたいねぇ」
……おっさんは、会いてぇやつにはもう二度と会えねぇからよ。
「ーーあぁでも」
と、縁は思う。むしろその方がいいのかもしれない、と。
もし一度でも会ってしまったら。会えないと分かっているのに、会えてしまったら。
「会えねぇ日々が余計に苦しくなる。もう二度と会えねぇってわかってりゃぁ……段々、忘れていくんだ」
そうなるはずだ。そう、思っていた。
……難しいモンだ。
そんな自嘲混じりの笑みと共に空へ吐き出した煙が、星の光を一瞬曇らせて空気に溶ける。
その一瞬に、縁は思い出す。
ただ一度。自分が犯した失敗のせいで、暗い海の底へと沈んだ"あいつ"の事を。
「……なぁ、お前さんも今、この星空をみているかい?」
それに答えるものは、そこにはいない。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ユズキです。
遅くなって申し訳ありません。
いい七夕を迎えられたらと思います。
GMコメント
ユズキです。
イベントシナリオとして七夕をやろう、どうしよう絶対他の人と被るわ、やべー……まぁいいや!
という見切り発車ですが、まあ、許してにゃん。
●注意事項
このシナリオは上限30人です。
なぜかと言うと、多いと私のキャパオーバーだからですほんとすいません。
また、シナリオの雰囲気からして、ギャグ要素は皆無です(前回とは違います。違うよ!)
まったりゆったりと、友達とふざけあうくらいの気持ちだと多分ベストマッチします。
●目標
無し。
●現場状況
時間帯は深夜です。
笹が飾られ、屋台が少し並んでいるだけの、小さな会場。
空には星が輝いていますが、幻想にも天の川があるかはわかりません。でもきっとあるでしょう、あったほうがいい。
と、思います。
●やること
指針は無いです。
ただ、七夕としては、
・短冊に願いを書いて飾る
・会いたい人と会う
くらいかなとは思います。もちろんそれ以外でも。
・その他
・1PCにつきやりたいことを1つ選択してください。あれもこれもとなるとわけわかりません。
・描写は可能な限りがんばります。が、人数多いとさっくりになります。その点ご了承ください。
・同行者がいる場合、【プレイング冒頭】にID+お名前か、グループ名の記載をお願いします。
・単独参加の場合、他の方との掛け合いが発生する場合があります。が、多分今回は無い可能性の方が高いと思ってください。
完全単独での描写をご希望の方はプレイングに明記をお願い致します。
・白紙やオープニングに沿わないプレイング、他の参加者に迷惑をかけたり不快にさせる行動等、問題がある場合は描写致しません。
特に白紙は今回ほんとに名前も出さないと思われます。
・アドリブNGという方はその旨プレイングに記載して頂けると助かります。
・アドリブOKだと割とのびのび書きます。
それでは、皆様の参加をお待ちしてます。
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