シナリオ詳細
<至高の美味を求めて>輝けるスターシェル
オープニング
●夜の浜辺にて
ザザン、ザザン……と。夜の浜辺に波が打ち寄せる。
引き潮のこの時間、浜辺には色々なものが現れる。
それはたとえば、打ち上げられたばかりの海藻であったり。綺麗な貝殻であったりする。
しかし、そんなものには目もくれない者も居る。
たとえば、熊手で砂浜を掻いている『旅するグルメ辞典』チーサ・ナコック(p3n000201)とかだ。
真剣極まりないその表情は、とても海のレジャーを楽しんでいるようには見えない。
「……むう。確かにこの浜辺の方角から反応があったですが……」
チーサが探しているのは、幻の食材と呼ばれるものの一つ。
確かに食材レーダーに引っかかったのは、この辺りのはずなのだ。
なのにどうして見つからないのか?
単純にマンパワーの問題だろうか……?
チーサはそうやってしばらく浜辺を探して……やがて、諦めたように立ち上が……ろうとして。
誰かにゴンと音をたててぶつかってしまう。
「あ、すまねーのです」
「いや、こちらこそ済まなかった……ん?」
「あ」
その騎士そのものといった格好をした人物に、チーサは覚えがあった。
そして、その手にある熊手にも。
「……こんなところで熊手なんか持って何してるです?」
「同じ台詞を返したいところだが……そうだな、潮干狩りだ」
その言葉にチーサは少し黙り込み……やがて「スターシェル」と口にする。
「……! 何故それを。いや、それを知ったうえで此処にいる……どういうことだ」
「秘密です。それより……私達は協力できると思うのです」
「貴様、悪い顔をしているな……」
●そして依頼になる
「依頼です。興味ある奴は集まってくるです。リゾートなのです」
「……」
チーサの隣で、全身鎧の騎士が立っているが……その騎士を「依頼人です」とチーサは紹介する。
「幻の食材の1つ『スターシェル』の情報が手に入ったです」
スターシェル。七色に輝くというその貝殻だけでも並の宝石に大きく勝るとされ、スターシェル自体も歯応え良くコリコリとした……それでいて濃厚な味であるという。
更に火を通せば柔らかくなり、全く別の……まるで高級なステーキのような味わいをもみせるという。
そうした様々な価値によりスターシェルは遥か昔に乱獲され激減し……幻の食材となり果てたという事情がある。
そして、いつしかスターシェルの事自体を誰もが忘れ去った。
「100年以上昔の話なのです。文献に僅かしか載ってねーようなスターシェル。その旬が今である事も、旬を逃すと遥か深海に潜っていく事すらも知らない連中ばっかりなのです」
そう、スターシェルの数はすでに回復した。しかしその捕獲難易度の高さゆえにスターシェルは未だに幻の食材と呼ばれるに相応しい地位を確保し続けているのだ。
「だが、スターシェルのあるところ『捕食者』の姿もある。当然警戒は必要だ」
「スターシェルの天敵が出るってことです。なんかデケエ触手らしいですが……ま、楽勝ですよね?」
依頼人の行為で近くのホテルを借り切っている。
そう言うと、チーサは満足げに胸を張るのだった。
- <至高の美味を求めて>輝けるスターシェル完了
- GM名天野ハザマ
- 種別長編
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年08月21日 22時05分
- 参加人数30/30人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 30 人
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参加者一覧(30人)
リプレイ
●昼、静かなホテルにて
「夜にいっぱい仕事するからなあ。夜はまったりしないと」
言いながら露天風呂を楽しんでいるのは『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)だ。
「お湯でちゃぷちゃぷ、いい湯加減。茹で上がってないからな? 蒸し鶏じゃないからな?」
「別に食べたりしねえですが」
同じように浸かっている『旅するグルメ辞典』チーサ・ナコック(p3n000201)はそんな事を言いながら、海に視線を向ける。
そこでは『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)がたまに素潜りしながら遊んでいる姿が見えていた。
遊ぶついでにスターシェルが見つかればということらしかったが……もし見つかれば、食材辞典に新しい項目が加わることになるだろうから頑張ってほしい、などと無責任な事を呟く。
「あー……」
そこに響くのは、おっさんじみたおっさんの気持ちよさそうな声。
「日々の疲れは湯にほぐして流してしまうのが一番です……」
まさにザ・おっさんな事を言っているのは『影』バルガル・ミフィスト(p3p007978)だ。
「やはり外の空気も味わえる上のぼせにくいからこそ、長く浸かってのんびりと出来るのが良いですよねぇ。特にこういう海を臨むというと、時間帯によって風景が変わっていくのが実に素晴らしい」
「あー、なんかそれは分かる気がするな」
カイトが同意し、バルガルも「そうでしょう」と頷き返す。
まさに露天風呂の醍醐味はそこにあり、バルガルはそれを分かっているということでもある。
「個人的には日の出や夕焼けに染まった海というのは好ましい物です。そこからの変わり様もまた良きもの、ですからねぇ……チーサさんはそこの所、如何でしょうか?」
「分からないでもねーです。時間と季節、その移ろいを楽しむのは正しい温泉道です」
「そうでしょう、そうでしょう」
「そこのソレにも言ってやるといいのです」
チーサの指さす先にカイトとバルガルが視線を向けると、自分じゃないと思ったのか後ろを振り向く『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)の姿があった。
「私か?」
「はい、クエッションです。此処に居る理由と湯あみ着についての感想を」
「ああ、濡れてしまってな。料理人として清潔な身体は義務だからな……あと湯あみ着は鬱陶しい。規則だから仕方ないがな」
「脱いだらてめーの乳をビンタするですよ。男共は股間蹴り上げて記憶をすっ飛ばすです」
純粋な処刑宣言に3人が思わずそれぞれの表情を浮かべて。
「はー、浮世のことを忘れてのんびりとすごす一時、人類の至宝ですねぇー……あら、どうされました?」
「何もないよ。ああ、何もない。問題もないしな」
ちょっと湯あみ着を直した様子のモカに……入ってきた『流れメイド刃傷派』観音打 至東(p3p008495)は首を傾げてしまう。
「あ、チーサさんいた! 捕食者のこと教えて!」
続けて入ってくるのは『空に願う』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)。
「スターシェルの取り分を『捕食者』に取られたくないから狩りたいんだよね。もっと何か知らない? あ、騎士さんが知ってそうならそっちでもいいんだけど」
「これだけ人数いれば問題ねーのです。どうせ向こうから出てくるですよ」
「えー」
場は一気に騒がしくなり、きゃあきゃあと楽しげな声が外へと響いていく。
至東もヴェルーリアもしっかりと湯あみ着を着てはいるが……一気に女性率の上がった露天温泉。
しかし男性陣であるカイトとバルガルが何の反応も見せなかったのは……きっと、温泉を心から楽しんでいるせいであるに違いない。
……ちなみにだが、ホテルのロビーのソファーでは『揺蕩う老魚』海音寺 潮(p3p001498)が平和に本を読んでいた。
「ふーむ……件の貝についての本はないが、これはこれで興味深いのう……」
恐らくはホテルにいるメンバーで一番優雅な時間を潮は過ごしていただろう。
ちなみにチーサはこの後、『戦場の調理師』嶺渡・蘇芳(p3p000520)に捕まって色々と根掘り葉掘り聞かれていた。
新たな食材と調理人が揃った以上、仕方のないことではある。
●昼、眩い海岸にて
「ま、ダメ元ってやつでしたが! どっちかというと今は遊ぶ方がメインですしね!」
スターシェルの探索を打ち切ったウィズィが、そう叫んで隣にいた『always【BADEND】』Kirill Lukich Shuvalov(p3p010046)に笑いかける。
「ごめんなさい、付き合わせちゃって!」
「いや……暇だしな。あんまり人と話すのも得意じゃねぇけど……まぁ、同じ依頼を受けた仲間だし……」
「そうですか、ありがとうございます!」
初めての海でテンション上がってるとか、そういうわけじゃない。
そんな事を思いつつもKirillは海にチラリと視線を向けて。その動きを即座にウィズィに悟られる。
「そういえば、もしかして海って初めてなんですか?」
「あ、いや……元居た世界では海辺ってものに縁がなかったし……フラッと寄ってみたんだけど……」
「そうですか! じゃあ、たっぷり遊ぶといいと思いますよ!」
そんな事を和気あいあいと話しながら歩く2人とは別の場所で、『機械仕掛の畜生神』來・凰(p3p010043)も歩いていた。
「疑問、目的達成のためには昼間の行動は不要。外出は不適当と判断する」
『とか判断しちゃってるけどなあ、夜まで時間があるから何もしないってのは飽く迄も効率だけの話なのよ。せっかく来たんだから少しは人間ってものを学習する機会と思ったほうがいいぞ~、來・凰』
1人で会話しているようにも思えるが、対話用人格「リオウ」との対話であり、よく聞けばその会話にはきちんと違う人格による「対話」があることに気付くだろう。
「理解不能、私の質量は水泳という行為を行うことが不可能。周囲の人間の行動を模倣することも不可能」
『…あー、忘れてたわ。まあ今のうちに砂浜を見て回って波打ち際で遊びながらやってこうぜ?』
「遊ぶ、とは?」
『…多分俺も海で游んだことなかったからわかんねぇわ、詰んだ。とりあえずなんかノリで行こうぜ』
「外見/ホロの変更を承認。スイムウェアに変更し、海辺を調査。遊ぶという行為を学習しながら夜まで時間を消費する」
そうして凰も海で遊び始め……楽しい昼の時間は過ぎていくのだった。
●夜、スターシェル狩り
太陽が沈み、月が主役になる夜。海岸には多数のイレギュラーズの姿があった。
「とりあえず、チーサさん。スターシェルが沢山取れたら美味しい料理をお願いね?」
「ん、任せとくです」
『赤い頭巾の悪食狼』Я・E・D(p3p009532)はチーサとそんな会話を交わしながら、海岸を歩く。
「んーー探すのに使う道具は普通の熊手で良いよね? 大きさはそこまで大きい感じでは無いと思うし」
「貝、貝類でスかー……そういえばこっち来てから食べてませんね」
「そうなの?」
「そうなんですよ」
何となく一緒に行動している『ダメ人間に見える』佐藤 美咲(p3p009818)はЯ・E・Dに頷いてみせる。
「刺身にできるということはホタテぐらいのサイズはありそうですし、ここは貝殻ごと網で焼いて醤油を垂らすのが良さそうっスね。雰囲気の話になりますが、BBQの貝類ってやけに贅沢な感じがするんスよねー」
潮干狩りというのんびりイベントのせいか、美咲も非常にのんびりとした感じだ。
ちなみにこの調子で騎士に「誰もいないところで甲冑脱いで丸洗いとかするんスか」と聞いていたりするが、答えは貰えなかったらしい。
それはともかく……そう、今はスターシェルを一番見つけやすい時間。此処に居るのはЯ・E・Dだけではない。
『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)もその1人で、スターシェルの生態について考えを巡らせていた。
「旬を逃すと遥か深海に潜っていく……産卵期か何かなのだろうか。だが潜らずにとれるのはいいな」
「ですね。まあ、スターシェルの生態についてはほんと分かってねーのが実際のとこです」
そんなチーサの言葉にアーマデルはなるほど、と頷く。
「まあ、今回は潮干狩りだろう? 経験はあるぞ、そう、あれは召喚されて間もない、去年の夏……」
語り掛けて「いや、それはいい」とアーマデルは咳払いを1つ。
「まあ、故郷では海は…無い訳じゃないらしいが、実物見た事無くてな。混沌で初めて見て、触れた……ああ、今年で二回目だ、もう素人ではないぞ」
そんな事を言うアーマデルにチーサは「そうですか」と頷く。
「何度見ても良いものです、海は。楽しめばいいです、誰もそれを否定しねーです」
そう、何しろ人数はたくさんいるのだ。たとえば。
「コャー。今回もお世話になりますの。またもや幻の食材。気になるの……潮干狩りならわたしでも大丈夫そうなの」
やる気満々の『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)に、チーサは頷く。
「まあ、潮干狩りには体格も何も関係ねーですからね……イレギュラーズにその原則が当てはまるかっていうとアレですが」
「先日使わなかった釣り竿も漁業スキル強化までできるお得品なので持ってきたの。光ってる所を掘るオーソドックス潮干狩りスタイルで貝も入れ食いなの」
「その調子です。胡桃さんみてーなやる気が重要です」
シャドーボクシングのような動きを始める胡桃の他にも、『幻耀双撃』ティスル ティル(p3p006151)もいる。
「チーサさんの食材レーダー、今度は海の幸を見つけたのね? だいぶ前の卵だって色々あったけど見つけられたし、今回だって大丈夫! なんか天敵の動物もいるみたいだけど。まあ、なんとかなるはず?」
「です。その辺りはまあ……これだけ手練れがいれば心配はしてねーのです」
ティスル ティルにチーサは頷き、手近な砂浜に熊手を入れる。
「ティスルにも期待してるです。頑張るですよ?」
「任せて! それじゃあ、私は空から探してみるね?」
そう言って、ティスルは空へと飛び立ち……そして、そこで同じように飛んでいる仲間を発見する。
「おばさんも、本や語り草でしか聞いたことが無かったんだけどー、スターシェルは本当にあったのねー♪」
蘇芳は言いながら、空を飛んで砂浜を探していた。
「どんな味でどんな調理法があうのかしらー。そもそも、食べられるにしても無策で食べられるのかしら―? それに見た目も大きさも良くわからないのよねー? うふふ、どう転んでも、探して採らなきゃわからないわねー♪」
蘇芳がこうして空を飛んでいるのは、スターシェルの蓄光性という点に目を付けたからだ。
「スターシェルは蓄光するって事は、ある程度露出しているって事よねー? それに数が戻った今もなお幻って呼ばれるなら、ただ砂を返せば見つかるって訳ではないでしょうしー。岩場とかも探さないとねー」
実際、似たような事を考えていたらしいカイトも空を飛んでいて、互いに軽く挨拶などしながら通り過ぎていく。
「美味しいご飯のために頑張るぜ!」
「ふふ、お互いにね」
そして、どうやらこの方法は正解の1つであったらしく……蘇芳とカイトは早速1個ずつスターシェルを見つけていた。
「ふふっ、こういう依頼は何度受けても良いものだね。加えて今回はソアもいる。ふたりで仲良く楽しくスターシェルを探そうじゃないか」
『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)は言いながら、隣を歩く『雷虎』ソア(p3p007025)に笑いかける。
そしてソアも、期待感に胸を膨らませマルベートへと笑いかける。
お姉様たるマルベートがワインを持ち込んでご機嫌。ならば美味しいものにありつける予感がしてるんだろうと。
こういう時のマルベートの予感はよく当たるとソアは知っている。
「ボクも期待が膨らんじゃうな、はりきって沢山見つけないと!」
そんな事を言い合いながらも、マルベートとソアは周囲を目を凝らしながら見る。
「ボクの目は暗闇でも良く見える。僅かな光だって見逃さないんだよ」
暗視を活用するソアだけでなく、マルベートも周囲を注意深く見回しながら歩き……やがて、2人の目が何かぼんやりとした輝きを一瞬ではあるが確かに捕捉する。
「なんだか潮干狩りみたいで楽しいね?」
ザクザクと砂を掘るマルベートに潮干狩りそのものだなんて、そんな野暮なことはソアは言わない。
「森育ちだからこういうの新鮮でとっても楽しいなあ!」
ソアも一緒に笑い、2人はやがてそれぞれのスターシェルを掘り出す。
自ら淡く発光しながらも、次々に色を変えていくそれは確かに宝石のように美しくて、幻想的なそれに一瞬だけ魅入られる。
「本当に宝石みたい! ねえ、味見しちゃう?」
「それは我慢だよ。どうせなら最高のマリアージュを楽しまなければね」
そう言って笑うマルベートとソアだが……団体行動しているのは、彼女達だけではない。
【黒狼隊】なるチームで今回のスターシェル探しに参戦してきた一団もいる。
「幻の食材と聞いて! アカツキ・アマギ参上したのじゃ!」
叫ぶ『焔雀護』アカツキ・アマギ(p3p008034)は、まさにその黒狼隊の一員だ。
「潮干狩り、って言うんだっけ? やるのは初めてだけど」
「そうなのか。なら初仕事は成功と行きたいな。この仕事を終えたら皆で食事をしても良いとの事、皆に行渡るだけ確保出来る様に頑張るか」
マルク・シリング(p3p001309)に『黄金剣』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)がそう言って、『人為遂行』笹木 花丸(p3p008689)が元気いっぱいに気合を入れる。
「それに幻の食材って聞いちゃったからには参加しないわけにはいかないよね! オマケに今回は頼りになる皆が一緒だもん! これは皆で頑張ってスターシェルを捕獲してレッツパーリィするしかないよね! 楽しい海鮮バーベキューの為にも頑張っていこう! えいえい、むんっ!」
「確かに。今日は黒狼隊の仲間と一緒だから、狩りも食事も安心だね」
花丸にマルクも頷いて笑い、『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)も気合を入れる。
「何を隠そう、このオレ新道風牙、美味いものを食うのが大好きである! 世界各国、様々な地で依頼を受けるたび、その土地の名物を食うのが趣味である! なので、チーサにはちょっと親近感もあったりする。まあ、それはともかく」
言っている横をチーサが「うんうん、分かるですよ」と言って通り過ぎていくが、それもともかく。
「いい情報をもらった。スターシェル! 海に眠る秘密の美味! 食いてえ! 食う!! よーし、みんなで採りまくるぞー!!」
首元までしっかり覆うウェットスーツを装着。手には熊手とバケツ。背中には愛槍。まさに潮干狩りも戦闘もこなせる完璧スタイルの風牙はやる気満々だ。
「幻の食材にリゾート! これはもう貝をガッてしてジュッて焼いて優勝していくしかないよね?」
「その通りだ!」
『胸いっぱいの可能性を』フラン・ヴィラネル(p3p006816)に風牙も全力で同意し、その熱にあてられたかフランも「よしっ」と気合を入れる。
「いっぱい見つかりますように!」
そんな可愛らしいおまじないをかけるフランに全員がほっこりする。
「忘れ去られた幻の食材ですか。御主人様に召し上がって貰う為にも頑張って捕獲せねばなりませんね。スターシェルの天敵もいるみたいですし、殲滅しましょう。慈悲はありません」
ご主人様……ベネディクトの為にと『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)も気合十分だ。
「なぬ? 獲るだけではない? 天敵がおる??」
「ああ、捕食者……だったか」
依頼内容を思い返すベネディクトにリュティスが肯定の頷きを返し、アカツキも「うーん」と唸る。
「こういう場合は焼き尽くすと妾内では相場が決まっておるのじゃが……あまりやりすぎるとスターシェルを消し炭にしてしまうかもしれぬからのう。ほどほどにやるとしよう!」
「スターシェルは光を放つらしいが、それらしい光を見つけるまでは浜を掘るのが良いのだろうか」
「依頼者からの情報は参考に、なるのか?」
ベネディクトに『砕けぬ蒼翼』ハンス・キングスレー(p3p008418)がそんな疑問を呈する。
何しろ七色に光り蓄光性のある幻の貝。控えめにいっても与太話の類だ。
「ふむ。ほんのり光って見えるらしいんじゃが……おっ、あそこにあるぞ!」
言いながらもアカツキはその場へ走り、愛用の熊手を使い始める。
「おお、あったあった! バケツへぽいぽいっとな」
アカツキがバケツにポイしたその貝を見て、黒狼隊の全員が感嘆の声をあげる。
「凄い……本当に光ってる」
「貝殻だけでもスッゴイお土産になりそうだね! 加工してもらえばアクセサリーにもなるかもだし、来てない皆のお土産にどうかな?」
ハンスも驚き、花丸もそんな提案を投げかける。
そしてハンスは、しかしすぐに思考を切り替える。
「蓄光性があって夜に光る、旬を逃すと深海に潜る、浜辺は探しているだろうし明るければ流石に目立つ……んー、浅瀬にはあまりいないのかなコレ」
とりあえず潜ろうか、と即座に大胆な決断を下すハンスにマルクも負けじと考える。
「夏場だし、服は多少濡れてもすぐ乾くよね。膝くらいの深さまで海に入って、光を手掛かりにスターシェルを探そう」
波間で光が揺らぐけど、水中メガネを借りて水面に顔を潜らせて探せば、きっとスターシェルの位置は分かるはず。
そう判断するマルクにすでに迷いはなく、その熱は自然と黒狼隊の全員に伝わっていく。
「へへっ、バケツが一杯になるまで集めてやるぜ。みんな、誰が一番採れるか競争しようぜ!」
「万一足の指を貝が挟んできたら、風牙先輩のポニテを引っ張らないよう注意しないと!」
風牙がそう言えば、フランがそんなフラグじみた事を言う。
「では、私は辺りを見回して光っている所がないか確認します。特にそれらしい所がなければ潮干狩りの要領で地道に掘っていきましょう」
リュティスに「ああ、頑張ろう」とベネディクトも返し……黒狼隊の面々の動きは加速していく。
そして……そんな黒狼隊から少し離れた場所では、潮が熊手で砂を軽く掘っていた。
「一度皆で明かりを消したら貝自身の光で居場所の目安がつかんかと思ったんじゃがのう」
しかし、それでは中々上手くいかなかった。タイミングの問題なのかどうかは不明だ。
「どのくらい掘ればいいんじゃろか、メートル単位で掘らねばならん様ならちょっとお手上げかのう」
一人ごちる潮は……しかしすぐに「むっ」と声をあげる。熊手を置き、手で砂をどけた先。
そこには確かに輝くスターシェルがあったからだ。
「さぁ夜が本番! 迷った時は人海戦術だ!」
「ははっ、豪気だねえ!」
小鳥の使い魔を低空へ、そして魚の使い魔を沖の方へ、更にメカ子ロリババアにも手伝わせているウィズィに『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)がそう笑う。
「勿論ですよ!」
今回の参加目的の1つであるゴリョウ飯……もといゴリョウに良い笑顔で笑うと、ウィズィは全力の貝探しを誓う。
「効率的に掘っていきますよ……今宵、私は潮干狩りの鬼になる……!」
炎のオーラでも出そうな勢いのウィズィに「元気ね」と視線を向けながら、『月輪』久留見 みるく(p3p007631)は浜辺を歩く。
「七色に光る貝なんてね。昔の人はなんでそんなの食べようと思ったのかしら。つくづく、人間の食の探究心は凄いわね」
そう、七色に光る貝と聞いて、みるくは慌ただしく七色に輝きを変える派手な貝を想像していた。
「さて。そんな事は言いつつ、美味しいものと聞かれたら黙ってるわけにはいかないもの。あたしも貝探しといきましょうか」
言いながらみるくは周囲を探し……そして、一瞬の輝きを見逃さない。
軽く掘ると、そこには確かにスターシェルの姿があった。
「あっ、もしかしてこれがスターシェル!? ふーん……思ったより淡く光るのね。もっとギラギラとゲーミング的に光ってるのかと……あ、ちょっ、待ちなさいよ! 何て早さで潜ろうとするのかしら!? この!」
イキが良いのか、大回転しながら地下に潜ろうとするスターシェルをみるくがなんとか捕まえている横では、やはり貝をゲットしたバルガルとモカが通り過ぎていく。
「何か事が起きても嫌ですからねぇ……確保した貝はとっとと仕事した証としてチーサさんなり甲冑の方なりに押し付けておきましょうか」
「まとめて調理してやればいいだろう。スターシェルに捕食者……さて、どう調理してやろうか」
そう、それなりに貝の数も出そろってきた。そろそろ噂の捕食者が出るのではないかと、そんな風にバルガルは考えていた。
一方のモカはまとめて料理してやる派だが……とりあえず一か所に集めるという点だけは賛成だった。
「幻の貝。どんな味なんだろう。食べたい。なんとしても。どうやって食べようかな……今から楽しみ」
言いながら波打ち際を歩く『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)は、エコーロケーションで貝の居る穴を探していた。
「砂の中に潜る貝の居場所には海中のプランクトンを食べるための小さな穴があるはず」
僅かな光も見逃さない。集中力を全開にして探すオニキスはやがて、目当てのものを見つける。
掘り返せば、そこには確かに光るスターシェルが1つ。
「やった……!」
喜ぶオニキスは、その瞬間を狙うように波間から忍び寄る何かへの警戒が僅かに薄れていて。
「みんなもけっこうゲットしてたみたいだし、ちょっと少なくなってきたかな?」
今年新調したばかりの真っ白な水着を纏っている『一番の宝物は「日常」』セリカ=O=ブランフォール(p3p001548)は、スコップを持ちながら「ふう」と額の汗をぬぐう。
海岸に岩礁地帯、必要そうなら海に潜って捜索。
物陰とか、目立たない、見落としやすい所も入念に、そしてある程度見つけられたら預けれるところへ預けて、また探して…を繰り返していたセリカの成果は中々のもので。
だからこそ、セリカもそこにある危機に気づかない。
「七色に輝く貝殻なら結構目立ちそうだが……でも簡単には見つからないのか。固まって生息してるとか、砂の深くに潜ってるとかか? とりあえず砂浜を掘りながら地道に探すか」
「……人海戦術は有効だ。その分、スターシェルの存在を余人に知らせる事にもなるがな」
「それは今更だろう」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は、現れた騎士へとそう返す。
「また会ったな。その鎧、暑くないか?」
「誇りだ。そういう次元の話ではない」
そう返してくる騎士に苦笑しつつも、イズマは肩をすくめる。
「何故またいるのか、と思うかもしれないが……それは興味があるからだ。幻の食材、珠玉の逸品を食べれるなら……頑張りたくなる。それに、依頼の仲間と一緒に美味しいものを食べれるのも楽しくてね」
「美味いものに人が集うのは当然の帰結だ。大事なのは、その価値を真に理解しているかということにある」
「それは……?」
「……貴様がその価値を理解しているなら、説明せずとも分かることだ」
そう言って立ち去ろうとする騎士の背中をイズマは見つめていたが……何も言いはしない。
「しかしまあ、今はそれを貴様が考える時間は無さそうだな」
「ん? ……あれは!」
その視線の先では、オニキスとセリカがイソギンチャクの化け物のようなモンスターの触手に捕まっていた。
「ぬるぬるしてる……!」
オニキスの放ったMMPHVAPM……マジカル多目的高速徹甲誘導弾『ファントムチェイサー』がイソギンチャクに命中するが、それでもオニキスを離さない。どうやらハートやセリカの手に入れたスターシェルが狙いらしいが、それを手放すなどとんでもないことだ。
「だっだめっ!スターシェルは渡さないよ! って、力づくはだめぇー! それに水着の下には隠してないからそこを探すのはもっともっとだめだからー! というかわたしはスターシェルじゃないからいただくのはぜったいだめぇー!」
オニキスよりも持っているスターシェルの数がちょっと多いセリカは更に執拗に狙われているが、どうにも見方によってはちょっとえっちな風景に見えない事もない。
「痴れ者め」
「仲間が襲われるのを見てはいられない……!」
騎士とイズマが触手へと斬りかかり、ゴリョウがイソギンチャクの触手をがっしりと掴む。
「ぶはははッ、良いぜ大将。綱引きと洒落込もうじゃねぇか! この重量を引きずり込めるようならやってみな! まぁ引きずり込めても俺の鎧は『水中行動』付きだから簡単には食われねぇけどなぁ!」
思わぬ反撃に怯んだ様子を見せるイソギンチャクだが、それでは終わらない。
「ふうん。こいつが噂の捕食者ね。あんただけ美味しい貝を独占するなんて頂けないわね。ちょっとくらい分けてくださる?」
みるくは愛刀である月輪を引き抜きながら、そんな問いかけをする。
しかしイソギンチャクが、それに何かを返すはずもない。ただ返ってくるのは……強い敵意のみ。
「ま、わかってたけど敵意マシマシ。ならこっちも存分にぶった斬れるわね!」
斬りかかるみるくだが、ちょっと違うタイプの者達もいる。
「折角捕った貝を渡す訳にはいかないね……けどこの子も案外美味しいかもしれない。イソギンチャクも美味な生き物だし、美味しい貝を沢山食べて育ったのなら期待出来るのではないかな」
「これも食べられるの?」
生で齧りそうな勢いのマルベートと、ちょっとよだれを垂らしているソア。
あさか捕食者も自分を捕食しようとする連中に会うとは思わなかっただろうが……温泉からこの光景を楽しんでいる至東がいることも予想外だったのではないだろうか?
「触手は至近距離から見るのがダイナミックでかっこいいですが、この距離からも楽しいですネ。ほらほら背後背後。後ろから砂の上を触手が一本這っていますよ……あっ。絡みつかれたローレットが持ち上げられて、水着を……うふふ」
海岸を見れるものの、絶対安全圏とも言える露天風呂からの光景。
まさに高みの見物が出来るその場所は特等席かもしれない。
はァ……なんの憂いもなく見ていられる、セーフティこそまことの愉悦……♪ 露天温泉もよい湯加減で、疲れが癒されていく実感があります……がんばれ触手。ぶっちぎれ」
そんな事を言っている至東はさておいて、現場ではまさに大混乱の大乱闘である。
「……これ、食えるのか?」
そんな事を言いながらアーマデルが蛇銃剣アルファルドと蛇鞭剣ダナブトゥバンを振るう。
「……言われてみると。イソギンチャクって食べられるのかな。種類にもよるみたいだけど……。毒とかないなら試してみてもいいかも。唐揚げとか」
先程触手に捕まっていたハートまでもがそんな事を言う始末だ。
「食事の前の運動には丁度良い相手だ。皆、油断するなよ」
「触手とか兎に角嫌だけど、役目は果たすよ!」
ベネディクトの掛け声に花丸が、黒狼隊の仲間達が声をあげる。
「捕食者は……向こうにしてみれば、僕らが縄張りを荒らす侵入者だよね。食べるわけでも無いのに無益な殺生はしたくない……けど」
マルクは言いながら、捕食者に襲い掛かっていくイレギュラーズ達、そして黒狼隊の仲間に視線を向ける。
「……あるいは、この『捕食者』も食えるか……? うまいもんばっか食ってるなら、身も美味くなってるかもな……」
「させないよ、この貝はわたし達が食べるんだから……よく考えたらイソギンチャクを食べるのも初めてだよね」
愛用の槍である烙地彗天を構えながら呟く風牙、そして食欲全開で襲い掛かるЯ・E・Dを見て「あ、これは食べる方向だな」とマルクは達観した気持ちになる。
見た目が少し、それなり、結構……大幅にゲテモノだが、頑張れば食べられないこともないだろう。
「やだー! ハンスさんだけなら同人誌のネタになるのにー!」
「よーしよし、触手くん。変なとこ触ったら蹴り千切っちゃうぞ」
何やらフランとハンスが触手に捕まっているのをリュティスが助け出すという一場面もあったりしたが。
「せっかく獲ったスターシェルを奪われる訳にはいきませんからね」
そんなリュティスの言葉は、全員の気持ちの代弁であっただろう。
イソギンチャクを食べようとするイレギュラーズと、もはや食われまいとするイソギンチャクの攻防は続いて。
「あっ、ちょっ、私はこういうセンシティブなのは対象外……」
そんな事を言っていた美咲が、触手が腹に巻き付きそうになった瞬間に熊手をぶっ刺して脱出する。
なんと、すでに死にかけていたイソギンチャクへそれがトドメの一撃となり、美咲は真顔のまま砂浜に降り立つ。
「……皆さんは今歪んだ駄肉ややけに深く食い込む触手なんて見ませんでした。いいですね?」
いいえ、しっかり見ましたこの駄肉が、と言える者が居たならば往復ビンタくらいではすまなかっただろう。
実際に美咲が駄肉であるかどうかは個人の感覚によるので、誰も言おうとも思わなかっただろうが、ともかく。
こうして無事に捕食者……イソギンチャクも食材に加わったのである。
●実食、スターシェル
スターシェル探しで盛り上がっていた海岸は今、別の盛り上がりを見せていた。
「お味噌で煮たりアヒージョにしたり唐揚げにしたり……」
イソギンチャクを蘇芳が調理しているが、集まってきた調理に多少の腕の覚えのある者達がスターシェルだけでなくイソギンチャクまで調理を始めている。
イソギンチャクっぽいので皆イソギンチャクと呼んでいるが、どちらかというとイカに近い何かであるようで、しっかり食べられる食材であった。
「光る貝ってだけで装飾品として需要ありそうなのに、貝自体がうまいとなると捨てるところがねぇな。真珠とかも出来たら光るのかな、興味が付きないぜ。養殖とか出来たら一攫千金……いや難しそうだな」
刺身にされたスターシェルに舌鼓を打ちながら、カイトがそう呟く。
元より生態に謎の多い貝だ。上手く養殖がいくとも思えない。
「あるものどんどん食べていくぞ。別のものを焼くからって俺を焼くなよ! 絶対焼くなよ!!!!!」
何かのフリみたいな事を言うカイトだが、流石に上半身は裸で白褌だけの漁師スタイルのスカイウェザーを見て食欲を喚起されるなら、かなりの豪傑だと言わざるを得ないだろう。安心である。
「乾杯! ふふー、ボクもお酒が少し分かってきた」
「ああ、素晴らしいね。幻の食材と言われるだけはある」
言いながらスターシェルとワインのマリアージュを楽しむのはソアとマルベートの2人だ。
海の幸には白ワインが合う。それは今日確信した、ソアの真実。
(もっともっと美味しいものを知りたい。この気持ちは底なしに深いものだと気づいちゃった……食べ終わっても直ぐに次のご馳走を考えてる)
それは美食という世界への深みにソアが嵌ったせいだろうか。この世界には、まだまだ美味しいものが満ち溢れている。
そして、凄い料理人も。
「料理の時間だ! いい食材相手だと腕が鳴るねぇ!」
「ゴリョウ飯を食べに来ました!!!!!」
ゴリョウ専用・百花調理用具、ゴリョウ厳選・千種調味料。
使い慣れた相棒達を振るうゴリョウは、まさに熟練の料理人そのもの。
「ゴリョウ飯……即ちゴリョウさんが作るおいしいご飯! 私が潮干狩りガチ勢だったのはゴリョウ飯を食べるためなのさ……! はい! と言う訳でリクエストです!」
そんなゴリョウの前に陣取ったウィズィの目は、まさにガチ勢そのもの。
「お刺身しゃぶしゃぶ天ぷら! バター焼きコキールガーリックソテー! フライにアヒージョカルパッチョっ! ほか色々!」
「あいよ! 刺身しゃぶしゃぶ天ぷらに炊き込みご飯といった和食が得意だが、リクエストにも応え洋食系もしっかり作らせてもらうぜ!」
言いながらも、ゴリョウの調理の腕は止まらない。
「スターシェルはそのままでも十分美味いのは百も承知。その旨味に頼りきらねぇように技術をもってその魅力を引き出した『料理』を作っていきてぇもんだな!」
「その心意気、まさしくプロなのです」
「料理人としては大先輩の調理技術を勉強させてもらう気満々だがな、ぶはははッ!」
「教えるもんなんかねーです。むしろ負けねえのです」
「ぶはははははッ!」
チーサとそんな会話を交わしながらも、ゴリョウは次から次へと料理を仕上げていき、それは片っ端からウィズィの胃に納まっていく。その近くではセリカもパタパタと手伝いに駆け回ってもいる。
「さて……こちらも負けてはいられない。頑張って調理をするか。メニューは刺身・寿司、バター焼き、フライ・天ぷら、シーフードカレーやシチュー……フライはバンズに挟んでハンバーガーにしてもいいな」
「素敵なものを見せていただいたお礼です。各国巡る流れメイドの料理の腕、存分にふるいましょう。新鮮な食材だからこそ可能な、踊り焼きなどはいかがでしょう。美味しいものを食べ、ぐっすりと眠り……身体と精神の傷を、どうぞ癒やしてくださいませ」
そしてモカや至東も参戦し、すぐに良い香りが漂い始める。
そして、その結果……さながら料理の博覧会のような、そんな雰囲気すら出来上がっていく。
「うんっまーーい! 最高ーー! さっすがゴリョウさん! 鉄人! いや鉄オーク!!」
「ぶはははッ、ウィズィ、褒められても料理しか出ねぇぜ!」
「出してください!」
「料理を……運ぶのは任せて!」
「ならこれ持っていくです!」
「こいつもな!」
ティスルも料理を運ぶために動き回り「ご飯の時間だー!」と元気に声をあげる。
「うーん、相変わらずチーサさんの料理は美味しいね。あっ、捕食者の方、お代わりを貰えるかなぁ?」
「まさかコレを食うと言い出すとは予想できなかったです」
Я・E・Dのリクエストに応えて出された焼きイソギン……もとい捕食者をもぐもぐとЯ・E・Dは頬張って。
そして、実に幸せそうにゴリョウの前に陣取るウィズィの近くでは、黒狼隊の面々も調理を開始していた。
「火についてはアカツキも居るし、問題無いだろう。彼女は火の扱いのプロだからな、事故は起きないさ、ハハハ」
まあ、偶に爆発したりもするが……などと不穏な事を言いながらハンスをねぎらうベネディクトだが、今のところ問題なく調理は進んでいる。
「これだけあれば十分かな。その箱、結構重かった筈だが大丈夫か、ハンス」
「ふふ、余裕ですよベネディクトさん。伊達にこの6枚羽を携えてはいないのです」
「辛ければ無理はするなよ」
ベネディクトの前で格好つけてみたい、というハンスの気持ちを理解してのものかは不明だが、そう言うベネディクトにハンスは微笑みを返す。
「下準備感謝する、いつも済まないな。リュティス」
相変わらずの見事な手並みだ、と褒めるベネディクトにリュティスは一礼で返す。
「アカツキ様のためにバーベキューができるようにせねばなりませんからね。張り切って焼いて下さることでしょうし……」
「君も遠慮なく食べるんだぞ、折角の催しの様な物だからな」
そう言ってベネディクトとリュティスが視線を向ける先では、仲間達が元気に調理をしていた。
「スターシェルは生でもイケるみたいだし、レモン汁とオリーブオイルでぱぱっとマリネに。後は究極の焼き色を見定めるよ……むむ、ハンスさんのとあたしのどっちが先に開くか勝負だ!」
「ふふふ、炭の置き方一つで火加減が違うものじゃぞ。ここをこうして均等に並べてっと。火の扱いならこのアカツキ・アマギにお任せじゃ! 偶に爆発したりもするがご愛嬌じゃぞ」
そうして出来上がったのはリュティスが下準備をして、各人が調理をした品の数々。
ちなみに幸運にも爆発はしなかった。安心である。
「凄いな、海水と少しのお酒で蒸し焼きにしただけなのに、弾力のある身から、程よい塩加減の旨味が染み出してくる」
「アカツキ、火の番サンキューな! ほれ、あーんして」
「おや風ちゃん、妾にもくれるのかのう? それじゃ遠慮なく頂いちゃうのじゃ!」
マルクが舌鼓を打ち、風牙がアカツキの口に貝を放り込む。
「リュティスさんもたまにはゆっくり食べてほしいし、率先して動くよ! ほらほら食べて!」
更にはフランもリュティスの皿に貝を放り込んでいく。
「君も遠慮なく食べるんだぞ、折角の催しの様な物だからな」
リュティスにそう言うと、ベネディクト自身も貝を咀嚼して。
「こちらの野菜とスターシェルは良い感じで焼けているな。マルクはどうだ? 食べているか?」
「……うま。おいし……貝好きなんだよねぇ、ふふ」
そんな感想を漏らすハンスに気付き微笑んだりしていた。
「へえ……確かにそこら辺の貝より身が大きくて艶々してるのね」
そして集まっている者だけではなく、ソロで自由にスターシェルを楽しむみるくのような者もいる。
「そろそろ焼けたかしら? バターをのせたあとに醤油を垂らして……シンプルにバター醤油で。じゃあ、いただきます」
熱々のスターシェルを口に運ぶと、まるで高級な牛肉を焼いたかのような濃厚な味わいがみるくの口の中に広がっていく。
「……ん〜! これは絶品! そりゃあ、欲張って独占しようとするし、昔の人も食べ尽くしちゃう訳ね。来た甲斐あったわ」
誰もがスターシェルを思う存分楽しんでいる中、同じように楽しんでいたアーマデルがチーサの元にふらりと訪れる。
「チーサ殿、酒はあるか? 料理人なら料理用の酒でも美味しいものを使っていそうだと思ってな」
「飲むなら飲む用の酒があるですが……」
じっと見てくるチーサに、アーマデルは否定するように手を横に振る。
「いや、俺じゃない、俺は未成年だ。これ(酒蔵の聖女)が酒に目が無くてな……」
「……目の届くところでやるですよ。一口でも舐めたら煮込むです」
「ああ、分かってる」
「酒蒸しとかバター焼きも気になるところだけど、やはりここはごはん。炊き込みご飯を所望するよ。調理中は砂抜きとかちょっとした手伝いくらいはできるよ。でもやっぱり一番得意なのは味見。まかせて。全面的に」
「炊き込みご飯ならゴリョウが」
「売り切れだ!」
「全部食べましたァ!」
「お、丁度良いな。儂のが炊けたところじゃ」
突入してきたオニキスに潮が炊き込みご飯を振る舞い、一緒にやってきたイズマやヴェルーリアも刺身に舌鼓を打つ。
「ん、美味しい」
「刺身も食感がクセになる。味も濃厚で満足感があるな。焦らず味わって食べるよ。美味しい……!」
「捕食者も美味しいね。毒があっても平気だったけど」
「ぶはははっ、流石にそうだったら毒抜きしてるぜ!」
「でも、ああ。腹をすかせておいてよかった」
同じように料理に舌鼓を打っていたKirillが、本当に嬉しそうにそう呟く。
それは料理人にとっては最高の賛辞だろう。
丁度Kirillの食べている料理を作っていたモカが、ちょっとはにかんだように微笑む。
料理人であれば、ある程度極めれば「美味く作る」ことがスタート地点になるし、美味いと言って貰えるのが最低合格点になったりする。
しかし、それでも。こういう何の気負いもない賛辞は最高の勲章でもあった。
「生のままとか焼いたりするのもいいけど、ボイルしたり出汁を取って汁物にするのも美味しいのかしら」
「好きに食え。その辺りで皆思い思いに食っているだろう」
騒がしくも楽しくスターシェルを楽しんでいるイレギュラーズから1人離れている騎士を見つけ、胡桃は話しかけていた。
「騎士団って何かとか全然分からないし、依頼人さんにしか逢った事がないから食材を探してるのが組織的なのか個人的なのかも分からないし、そこは全然興味ないけれども。ここまで来ると「どういうもの」かは何となく分かるの」
「……」
「表に出ない、古い知を継承しているの」
胡桃の、その言葉に。騎士はなんでもないかのように「そうか」と返す。
「表に出ない、出してはいけない知識というものは当然ある。食では特にな」
「どういう意味なの?」
「かつてのスターシェルの事を思い出せ。美味くて価値もある。ただそれだけでスターシェルは滅びかけた。少し考えれば分かろうものを……いや、分かっていても止まらなかった。こんな恐ろしい事は早々あるまい」
確かにそうかもしれない。胡桃にも、それを否定することはできない。
「……ディグ・ディエル。そう呼ばれた食材もあった。遠い昔に滅び去り、今では『幻』しか手に入らないがな」、
そう言うと、騎士は何処かに消えるように歩き去っていく。それを追う理由は見当たらなくて。
「また何時かスターシェルが戻っても良い様に環境は整えておかないとな」
聞こえてきた、そんなベネディクトの言葉に騎士は一瞬足を止める。
しかし……ただそれだけだ。そうして騎士が去った後も、スターシェル&捕食者パーティーは続いていく。
「たまにはこういう贅沢も良いでしょう。御主人様もああ言っておられますしね」
満足そうに言うリュティスに、その場の全員が頷く。
この場では誰もが誰かを労い、そして誰もが労われる権利、そして義務がある。
「ふふっ、捕食者もあんまり美味しくなかったら双槍で刻み尽くして小魚やプランクトン達の餌にしてしまおうと思ってたけどね」
そう、マルベートが言うとおりに味に懸念があった捕食者も味は上々で、もうすっかり食べ尽くされてあとはお土産分を残すのみとなっている。
「食べられる前にすっかり食べちゃったわねー」
蘇芳のそんな冗談じみたセリフに、誰かが笑う。
スターシェルを食べに来た捕食者はすっかり食べられ、スターシェル自身は未だあちこちで輝きを放っている。
しかし、それを更に獲る気はこの場の誰にもなかった。
ちゃんと残せば、スターシェルの数はまたすぐに増える。
そうして、再び滅びかけたりしないようにしていけたらいい。
その気持ちは、誰もが持つ共通の想いであったからだ。
「一時は密漁かと心配したがのう」
「失礼な。ちゃんと許可も今後の手回しも完璧なのです」
冗談めかして言う潮がチーサに蹴りを入れられていたが、それはさておいて。
「みんなと一緒にお食事できたのもあって、ずっとほわほわしちゃいました!」
「ええ、また来年来たくなるわね!」
セリカにティスルも同意して、互いに楽しげに手などを重ね合う。
「確かに満喫したのう。皆でこうやって賑やかに食事をする、最高じゃな。また来たいのじゃ!」
「ええ。また、来れたら良いですね」
アカツキにハンスも頷き、黒狼隊の面々も同意の声をあげる。
そう、楽しかった。それが全員の素直な感想であっただろう。
「さ、そいじゃあ全員で後片付けだ!」
手をパアン、と良い音をたてて鳴らすゴリョウの合図で、全員が片づけを始めていく。
来た時以上に綺麗に。それが海岸で遊んだ後の義務であり、誰1人としてそれを忘れることはない。
そんな中……宝石にも勝ると言われるスターシェルの貝殻を、ふと風牙は月明かりに掲げる。
そうすると、スターシェルは月の光を吸い込み、綺麗に輝き始める。
それはまるで、地上に落ちた星の欠片のようで。
「どうした?」
「ん? 綺麗だなって思ってさ。貝殻は記念に持ち帰って、ベっさん家に飾ろうか」
良い土産にもなるだろう。きっと今日来た全員が、貝殻を持ち帰るはずだ。
スターシェル。七色に輝くというその貝殻だけでも並の宝石に大きく勝るとされ、スターシェル自体も歯応え良くコリコリとした……それでいて濃厚な味であるという。
更に火を通せば柔らかくなり、全く別の……まるで高級なステーキのような味わいをもみせるという。
そうした様々な価値によりスターシェルは遥か昔に乱獲され激減し……幻の食材となり果てたという事情がある。
そして、いつしかスターシェルの事自体を誰もが忘れ去った。
けれど……今日この日、スターシェルは再び多くの人にその姿と味を刻んだ。
再びスターシェルが絶滅の危機に瀕するような事は、きっとない。
人は同じ過ちを繰り返すほど、愚かではない。
唸る程「幻の食材」と呼ばれるものが存在しているのは、そういった事を防ぐ為の先人の知恵も多分に含まれている。
だからこそ……スターシェルは今後も幻の食材であり続ける。
「素晴らしい味だった」ではなく、「素晴らしい味である」で居続ける為に。
輝けるスターシェルは、そうして未来へと受け継がれていくのだ。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
コングラチュレーション!
スターシェルパーティーを楽しみました!
GMコメント
スターシェルを捕獲しましょう。
今回の選択肢は幾つかあります。
複数参加も可能です。
選択肢1:スターシェル捕獲(海岸:夜)
スターシェルは蓄光性があり、夜に光ります。見つかるかどうかは頑張り次第です。
ちなみに数自体は結構な数がいるようです。
なお、一定数以上のスターシェルが掘り起こされると『捕食者』が出現します。
巨大イソギンチャクみたいな姿をしていますが、触手をたくさん伸ばしてきます。
海と水着と触手。何もおかしくは……ない。
選択肢2:海で遊ぶ(海岸:昼)
スターシェルは昼間は見つからないので、昼は遊びましょう。
輝く太陽、青い海、白い砂浜。何の危険もありません。
準備運動はしっかりと。
選択肢3:ホテルでまったりとする
ホテルでまったりとするのもまた、選択肢の1つです。
海の見える露天風呂もあるので、ゆっくり浸かるのも良いでしょう。
なお、湯あみ着を着る混浴です。
なお、チーサは温泉入ったり潮干狩りしたりしています。
依頼人である騎士は昼は何処にいるか分かりませんが、夜は間違いなく海岸にいます。
スターシェルをたくさん捕まえられたら、いよいよ実食です。
お寿司にバター焼き、刺身に……と、色んな食べ方を楽しみましょう。
ついでに何か別のモノを焼いてもOKです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はC-です。
信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
不測の事態を警戒して下さい。
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