シナリオ詳細
砂の都と六月の花嫁
オープニング
●求む、花嫁
「ウェディング・ドレスを着るの?」
と、エルス・ティーネ (p3p007325)は首をかしげるのである。
ラサは、オアシスの街レイアル。此処は多数の商人が拠点とし、商業都市としても栄えている場所だ。
街には前文明の遺跡の様な場所もある。例えば、いまエルスが居る場所などがそうで、壁画のようなものが残された広い洞窟であった。開いた天井からは日がさしているが、しかし洞窟内は涼しく――地下に水脈でもあるのだろう、おかげで空気が冷却されている――て、むしろ天から降り注ぐ日は、どこか幻想的な、神聖な空気を醸し出している。
「ええ。此処で、結婚式をあげる……と言うイベントを行おうと思いまして」
と、イベントごとを取り仕切る商家の女性が言った。隣には、服屋の女性が居て、うんうんと唸っている。
「ジューン・ブライドと言う概念をご存じですか? 元々は旅人(ウォーカー)達の世界の文化なのですが」
「六月の花嫁、ね。聞いたことはあるわ」
エルスが言う。ジューン・ブライド。地球風世界からの旅人(ウォーカー)からもたらされた文化だ。六月を司る女神は、出産や結婚を担当しているらしく、故に六月の結婚は縁起がいい、と言うものだ。
「これは商機としても見逃せない……いえ、こほん。やはりご夫婦には幸せになってもらいたいものですからね。私達も、大々的に売り出していきたい所なんですよ」
「もう六月も終わりますが、そこはそれ。今年のうちに宣伝しておけば、来年の六月は予約でいっぱい……と言うわけです! いえ、ここで結婚式をアピールしておけば、来月以降も予約がどんどんと! と、期待しております!」
二人が口々にそう言うのへ、エルスは苦笑した。ラサの商人としては、売れるモノが売れるというイベントを放っておきたくはないのだろう。
「ですが、その予約の比率もエルス様と、お仲間次第……と言う事です。先ほども申し上げました通り、皆さんには、まずここでウェディングドレスを始めとした、結婚衣装を着ていただきます!」
「もちろん、衣装は私共で用意いたします! 自前のものでも構いませんのでお好みで。当社としても、色々取り揃えておりますので、是非お試しください! 旅人(ウォーカー)デザインのものから、近頃はカムイグラ風の衣装も仕入れておりまして!」
と、服屋の女性が言う。まくしたてるようにイベント商人が続いた。
「そしてそして、皆さんはここで結婚式のモデルになっていただければと思います! 練達から仕入れた最新式のカメラでその様子をパシャパシャと撮影して、宣材に使わせていただくのです! 皆様のような素敵な新郎新婦の写真を見たお客様は、これはもう、幸せな結婚式を当社のイベントであげるしかない! となってくださるはずです!」
「モデル、ね。それで、この洞窟で結婚式の真似事をするわけ」
エルスは、ふむふむ、と口元に手をやった。ウェディング衣装を着て、モデルとなる……。
「この遺跡、ごらんのとおり中々雰囲気のいい場なのですが、地元の人たちはあまり重視していないのですよね。観光資源の発掘と言う事で、この場所も売り込みたくて……」
と、イベント商人が言う。
「地域の活性化にもつながりますので、是非お願いしたいのです!」
服屋の商人が言った。なるほど、とエルスは思う。
「この場所に、結婚式の聖地の様な価値を持たせられれば……と言う事ね。いいわ、ラサのためだものね。引き受けるわ」
エルスが微笑んで言うのへ、商人のふたりは「やった!」と手を叩いて喜んでみせた。
「本当ですか! 助かります!」
「ええ! 御高名なエルス・ティーネさまがモデルになってくださるのならば、衣装担当の私も腕が鳴ると言うものです!」
「そう言われると気恥ずかしいけれど……早速、ローレットに持ち帰って仲間を募るわ。成立したら連絡して、また戻って来るから、しばらく待ってて頂戴」
その言葉に、商人のふたりは改めて礼を言うのであった――。
- 砂の都と六月の花嫁完了
- GM名洗井落雲
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2021年07月14日 22時05分
- 参加人数34/50人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 34 人
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参加者一覧(34人)
リプレイ
●ドレスの花畑
「まぁ、まぁ! こんなに素敵などれすや白無垢が……!」
感激したように澄恋は言う。その目の前には様々な種類のウェディング衣装が並んでいて、常に白無垢を着ている澄恋でも、思わず飛びついてしまうほどだ。
「むむむ、たまにはどれすとやらを……と思いましたが、この白無垢の首元の桜の刺しゅうを見てください! ああ、こちらの生成り生地に上品な金糸が施してあって……ああ、白無垢からも目が離せません! どうでしょう、未来の旦那様……♪」
と、試作品の左腕を取り出してほおずりなどをしつつ、澄恋は衣装を確かめて回るのである。
さて、衣装をチェックしているのは澄恋だけではない。此度は挙式の宣伝の依頼を受けたいレギュラーズ。仕事もあるが休息も兼ねて、衣装の吟味に没頭していた。
「色々な世界の衣装が見れるのは貴重ですわ、せっかくですから1着試着したいですわね」
むぅ、と唸りながら、ドレスを眺めるフィリーネ。普段の衣装もドレスを思わせるもので、今回は普段着のデザインのインスピレーションを得るために訪れたのだそうだ。
「ねぇ、シューヴェルトさん。どう思います? 客観的な意見が欲しいですわ」
「そうだな……僕としては、こっちの白をベースにしたものとか……ああ、こちらの黒をベースにしたものも、映えると思うよ」
シューヴェルトがとフィリーネが今日顔を合わせたのは全くの偶然だった。会場でたまたま出会った二人は、こうしてフィリーネのドレス選びを行っている。
「この白百合のヴェールなんかも、フィリーネに似合うと思う」
「ありがとうございます。では、試着してまいりますね♪」
そう言ってドレスを抱えていくフィリーネの背を、シューヴェルトは見送った。
「結婚せずにウェディングドレス着ると一生結婚出来ないみたいな話も有ったわね」
ぽつり、と呟くアリシア。すでにドレスを着ていて、黒を基調に赤をあしらった、いわゆるマーメイドドレス。
「白いウェディングドレスを未婚の女性が着ると婚期が遅れるって聞いたね〜」
続くのはアイリス。アイリスが着ているのは白をメインとし、黒の花柄トーンのプリンセスドレスだ。
「婚期のことなどは気にしてもしょうがないと思うんですよ、私とか特にすでに行き遅れてるようなものですしね!
なので思いっきり楽しみましょう! ドレスに合わせる小物類とかもチェックしにいかないといけませんよね!」
クリムがにこにこと笑いながら言った。青白の、フリルを沢山あしらったドレスは、普段着ないデザインの衣装であるが故に、なんだか気分も高揚すると言うものだ。
「うん、みんな! とても似合ってるよ!」
と、そいうのはレイリーだ。三人のドレスはレイリーが選んだもので、どれも本人のイメージに合った、とてもよく似合ったドレスをチョイスしている。レイリーは三人それぞれに、優しく、甘くハグをした。それぞれが、くすぐったそうな笑顔を見せる。ちなみに、レイリーは濃い青色の、チャイナ風のドレスで、これもレイリーにはよく似合っていた。
「で、ミーナ、どうかな? 綺麗?」
レイリーが、ミーナに向けて微笑んだ。
「黒色の意味って『貴女の色に染まっています』だったかしら?」
アリシアは、どこかはずかしげにそわそわ。
「ふふふ〜、どうかな〜? 似合うかな〜?」
アイリスは、楽しげにくるりと回って。
「普段はこういう色の服は着ないんで新鮮ですね、似合ってますかね?」
クリムは、嬉しげに笑って。
ミーナにそれぞれ、自分の姿をアピールする。
「……あーもー。うん、個別に言えない語彙力のなさが悲しいが、皆綺麗だぜ。愛してるよ」
ミーナは気恥ずかしそうに頭を掻きながらそう言って、それからみんなに優しくキスをして回った。
「……で、何で皆こっちににじり寄ってくるのかね? いや、言っただろ? 私はもういいって。私は皆の見てればそれでいいんだって」
「いやいや、ミーナも着てごらんよ? この白の豊穣風の柄の付いたドレスなんて、似合うと思うよ?」
レイリーに、アイリスが続く。
「こっちの、淡い水色のもいいと思うよ~?」
「これなんてどうでしょう! この白いドレスです!」
クリムが差し出すドレスの隣から、アリシアがおずおずとドレスを差し出した。薄水色の、妖精をイメージしたドレスだ。
「これとか、いいと思う……」
次々と差し出されるドレスに、ミーナは目を丸くして首を振った。
「いや、私はもういいって……」
そう言って拒否するミーナだが、その硬い意思が陥落するまで、ほんの数秒もかからなかった。
周りに飾られた、沢山のドレス。各国の意匠から、旅人の世界のものまで。その可憐な花畑にも似た光景に、フラーゴラは目を丸くして、きらきらと輝かせていた。
「結婚……! ウエディングドレス……!
ずっと憧れだったんだあ……!」
ほわぁ、とため息をつきながら歩くフラーゴラは、目の前の影に気づかなかった。とん、とぶつかり、
「ご、ごめんなさい……!」
と声をあげるのへ、相手……マグタレーナは、その目を閉じたままにっこりと笑った。
「いいえ、構いませんよ……ええと」
「あ、ワタシ、フラーゴラ。フラーゴラ・トラモント」
「フラーゴラさんとおっしゃるのですね。わたくしはマグタレーナ・マトカ・マハロヴァ。マグタレーナとお呼びください」
そう微笑んでから、ドレスの生地に手を通す。
「貴女もドレスをお探しなのでしょう? 目を閉じれども分かります。
獣種の闊達さ、恋い焦がれる少女の純粋さ、そして心に決めた相手へのフラーゴラさん自身の一途さ……。
であれば、姫君の可愛らしさと大人のエレガントさを両立できるマーメイドラインのドレスなど如何?」
「マーメイドラインって言うんだ……大人っぽくていいなぁ……」
指し示されたドレスを感激の目で見ながら、フラーゴラは声をあげた。
「これにする……! ありがとう、マグタレーナさん!」
「ふふ、どういたしまして。であれば、よろしければ御髪のセットもお手伝いしましょう?」
「いいの……? マグタレーナさんみたいな、シニヨンヘアがいいなぁ……」
えへへ、とフラーゴラが笑うのへ、一瞬マグタレーナが目を開いたような気がしたがさておき。
「では、わたくしは合わせて白のドレスを選びましょう。さぁ、更衣室へ行きましょう?」
そう言って、二人はドレスを手に、歓談しながら歩き始めた。
「……俺達、もといイレギュラーズに、結婚式の宣伝のオファーが来るのは良いことだ。
で、ダイヤ。きみが乗り気になってくっついてきたのも……まあ、別に俺は怒らないよ。
でも、なんで……ダイヤ……お前の選ぶ俺の衣装が……尽く……純白のウェディングドレスなんだ……?
俺は男物が着たいぞ……」
と、そう告げる大地の下に、次々と純白のドレスを持ってくるのは、ダイヤだ。
「かわいいオマエにかわいい衣装。当たり前ダロー?」
ダイヤのペースの押されっぱなしの大地だが、決して悪い気持ちではない。ダイヤは大地の事を本当に大切に思っているから、ドレスを見立ててくれるのだろう……男物が着たいが其れは其れとして。
「あっ、ダイヤ。今君が手にとったやつ、俺すごくいいと思うな。ダイヤによく似合うと思う。可愛いよ」
そう言った途端、ダイヤの頬にふと朱がさした。ダイヤはそれまでの調子がどこへ行ったやら、恥ずかし気に、
「ほ、本当カ……?」
と尋ねるので、大地はとても愛おしい気持ちになるのだった。
むー、と唸りながら、真剣な目をしてドレスを見つめているミーサを見ると、誘ってよかったものだな、とアーマデルは思う。
自身は、僧兵として冠婚行事に関わったことはあるため、商業的な意味合いでのそれに興味はあるものの、男一人、縁が遠いのは事実。
そこでミーサを誘ってみたわけだが、やはり女の子はドレスに興味があるだろう。
「あーっ、ミーサだ!」
と、声が上がった。その先に居たのは、
「オイリ……?」
きょとん、とした様子でミーサが言う。ドレスを着ていたオイリはとてとてと走って来ると、ミーサに抱き着いて、
「ひさしぶり! ミーサ、辛そうだったから……元気そうで良かった!」
「オイリも……久しぶりですね」
ミーサが嬉しそうに目を細める。オイリはミーサに抱き着いたまま、
「あっ、スヴィもいるじゃん! ほら、私!」
朔にドレスを当てられていたスヴィが、目を丸くして驚いた。
「オイリ、ミーサ……?」
「……おやぁ? 朔にアーマデル。お二人にもお相手が?」
オイリの保護者である希がそう言うのへ、朔はわたわたと慌てて、
「いやまって違うよ? 彼とはなんというか師匠と弟子というか……と、とりあえずそんな関係だから!!
いや照れ隠しじゃないし、おねーさんとしてこう、頼れる人でありたいだけで……」
「朔殿、それでは相手の思うつぼだぞ」
アーマデルは苦笑して、
「ご無沙汰している。希殿も、多分目的は一緒か」
その言葉に、希は頷く――と同時に。
「やっぱり! 聞いた声がすると思ったら、オイリにミーサ、スヴィだ!」
と、第四の子供が駆け寄ってくるそれはヨエルだ。久しぶりの再会に、四人の顔に幸せそうな笑顔が浮かぶ。
「なんだ、君達も来ていたのか」
稔がそう言う。
「だから言っただろう、虚。問題ないと。子供だって、こう言ったものには憧れを抱く……それにヨエルは、舞台衣装への興味であって……」
「相変わらずそうね」
朔が笑った。
「おとーさん、ぼく、三人と話してくるよ」
「おとーさんはやめろ。好きにしてくると良い」
「うん。そうだ、この後写真撮るんだよね? 一緒に写真撮ろうよ! 3人が僕のお嫁さんになってくれれば、赤い絨毯の上で一緒にさ!」
「えー、写真は良いけど、ヨエルがお婿さんなの?」
オイリがべーっ、と舌を出す。ミーサがくすくすと笑った。
「オイリは、タキシードとかも似合うかも?」
「うん……オイリ、元気ですし……着てみませんか?」
スヴィが穏やかに笑って言うのへ、オイリはええっ、と目を丸くした。
「わたしはドレス着てますから。逆にヨエルにドレスを着せれば、ちょうど花嫁四人じゃない?」
「ええっ、ぼくもドレス着るの? それこそやだよーっ!」
楽し気にはしゃぎ合う子供達を見ながら、保護者達はどこか安どの気持ちを抱くのだった。
「まともに仕事すればいいもの作るのよね、あなた。ちょっと悔しいけれど認めるわ」
そう言うルチアが着ているのは、白をベースに、レース編みの花飾りをつけたドレスだ。大胆に背中を開けたデザインは、スティーブンのデザインしたそれだ。
「綺麗所のドレスが集まって目の保養だが、まぁ俺の作ったドレスが最高だろ?」
笑うスティーブンが着ているのは、ルチアと同じデザインの、黒を基調とした『ドレス』だ。つまり、スティーブンは女装をしている。それも、しっかりと化粧を整え、胸も盛り、一見すれば……いや、何度見ようとも女性と見紛うような完成度のものだ。ルチアはむぅ、と唸った。
「男の癖して私より似合ってるのが負けた気になるというか、腹が立つというか……」
「ん? なんだ変な顔して。可愛くしたんだから笑え笑え」
ルチアの気持ちに気づかずか、スティーブンはにっこりと笑って、ルチアの背中を押した。
もうすぐ、式のモデルの撮影が始まる。ルチアは呆れ半分、楽しみ半分、スティーブンと共に式場へと向かった。
●夢見る式場
「お手をどうぞ、プリンセス。私と共に歩んでくれますか?」
アントワーヌが恭しく手を差し出すのへ、行人は優しくその手を取った。
「そうだな、一緒に行こう。歩く速さは合わせるから」
ひんやりとした洞窟の中に作られた式場に、上天より優しく降り注ぐ陽光が、二人を神秘的な雰囲気で包み込む。
結婚……いつか、そう言う関係になれるのだろうか。
思いを同じくしながら、しかし二人は、お互いが思い合っていることに気づいてはいない。
だから、まだ、少しだけ、踏み出すことに、恐れがある。
だが……今はこのまま。出来れば、こうやって二人で……手探りで歩くのも、きっといいだろう。
「雰囲気はバッチリ……だね。それに君も……美しいね、アントワーヌ。さあ、ポーズでも取るかい?」
微笑う行人に、アントワーヌは刹那、瞳を閉じてから、凛々しく笑った。
美しいね、なんて言いなれてるのだろう? でも、その言葉は嬉しい。
――私の可愛いお姫様に、これからたくさんの幸せがありますように。
――願わくば、旅を愛する君の隣をずっと歩んでいられますように。
心に浮かんだその言葉を、しかし口にすることはできないまま、アントワーヌは行人の手の甲に、優しく口づけをした。
マーメイドラインのドレスを着たウィズィが、フリルたっぷりのプリンセスラインのドレスを着たステラの隣に立って、しずしずとポーズを決める。
何枚かの写真を撮った後は、
「そうだ、お色直ししようか!」
と、ウィズィが提案するので、
「いいですね! では、お互いとっておきの衣装で!」
笑い合いながら、別々の更衣室へと向かっていく。しばしの後に、先に出てきたのはウィズィだ。先ほどとは違い、プリンセスラインのドレスを着たウィズィは、ステラを待って式場に立つ――そこへ現れたのは、
「ステラちゃん……その格好……!」
「えへへ、どうですか? 似合いますか?」
そう言ってはにかむステラが着ているのは、シルバーのシンプルなタキシードだ。凛々しい姿も中々似合う。ウィズィは思わずため息をついた。
「すごい! かっこいいよ、ステラちゃん!」
「ふふ、今日の拙は新郎ですね! こうやって……」
と、ウィズィをお姫様抱っこしてみせるステラ。ウィズィは驚きながらも、ステラの首に腕を回して、その頬をくっつけた。
「えへへ、なんだか幸せ……本物の新婚さんみたいだね!」
「ええ、とっても楽しいです!」
二人の最高の笑顔を、カメラマンが写真に収めていた。
設えられたステンドグラス、描かれた聖人が、二人を祝福するように見下ろしている。
「いつもは執り行う側だから、なんだか落ち着きませんわね……。
でも……ふっふふー、自分で選んだドレスを着るのは、格別の気分でございますわー!」
そう言うヴァレーリヤへ、マリアは嬉しそうに笑った。
「ふふ……式を執り行うヴァリューシャも見てみたいな……。
君のドレス姿、最高に綺麗だよ。私は……どうかな?」
はにかむように笑うマリアへ、ヴァレーリヤは、
「もちろん、とても……綺麗ですわよ」
そう言ってほほ笑んだ。
「ねぇ、マリィ。指輪、嵌めて下さいますこと?」
「はい……」
微笑んで跪き、マリアはヴァレーリヤに指輪をはめた。
「私、マリアは病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、ヴァレーリヤを妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓います。
……なんちゃってね! いつか、ごっこじゃなくて、ちゃんと式……挙げられる日が来ると良いね。ううん、絶対に、挙げて見せよう!」
そう言うマリアへ、ヴァレーリヤも微笑して頷いた。
「ええ、必ず……貴女と」
二人は幸せそうに微笑む。いつか、本当の誓いを遂げらえる日を夢見ながら。
「結婚式の”モデル”という事だけれど。
僕たち、ここで本物の愛を誓っても……いいですか?
えへへ。本物の結婚式、しちゃいましょう!」
白いタキシードを着た冰星の言葉は、何時も突然だ。
厭な何もかもを吹き飛ばす突風みたいだ、と。
思えば、出逢った時からそうだった、と。小羽はそう思う。
健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも……。神父がそう言うのへ、冰星の瞳が潤んでいるのを、小羽は見た。
「誓います。……僕が、ぜったい貴方を幸せにしてみせます」
冰星がそう言って、ゆっくりと、小羽へと口づけをする。小羽はそれを受け入れる。少しの後に、ゆっくりと二人は離れた。
「当たり前よ!
我を幸せにしなかったら罰が当たるわ!」
たった一枚の布で保たれていた隔絶と孤独が取り払われる。誓います、と冰星が言った時、その時に感じた胸の高鳴りは、きっと一生、忘れることはない。
笑う小羽の目じりには、確かな幸せを感じたが故の涙が、優しく輝いていた。
結婚前にウェディングドレスを着ると婚期を逃すなんて言うけれど。そんなものは、ただの迷信だと笑い飛ばしたい。
結婚なんて、この世界に来るまで、エルスは考えたことはなかった。姫だなんていうけれど、父からはそんなものは不要だと言われていたから。
「……私、こんなドレス着て……だ、大丈夫、かしら」
そう呟くエルスに、答えるものはいない。答えて欲しい人は、今日ここには居ない。
(可愛いを武器にする、可愛いを受け入れる……!
アドバイスを貰ったけれど……すぐは、難しいわ……っ)
そう胸中で呟きながら、思う。もしここに彼が居たら、彼はどういうのだろうか?
似合ってるじゃないか、お嬢ちゃん、なんて――いつものように、楽しげに笑ってくれる?
「でもそれも、私を揶揄うのも、甘い言葉も口付けるのも……きっと彼にとっては子供だましの延長戦」
少しだけ胸に走る痛みを感じながら、エルスは上天より振る陽光を浴びて、ゆっくりと瞳を閉じた。
隣にいて欲しい人。自分が釣り合うかと言われれば、自身はない。それでも。
好きなのだから。
陽光を浴びる物憂げなエルスを、カメラマンが被写体としてカメラに収めていた。
●安息のある場所
「うっうっ……いや考えてもみろよ、ウェディングドレスとか着るってことは結婚、別の馬の骨だかわからない奴に嫁いで行ってしまうわけだろ?
妹にそんな日が来ると思うと……アァーー!! クソォ! 俺は許さないからなぁ! 俺の雪雫を連れていくなら俺を超えていけェ!!
もれなくクリティカル100で相手してやる!!」
頭を抱えながら叫ぶクロバを、シフォリィがなだめる。
もう、せっかく二人きりになれる所まで来たのに、ドレスを見るなりこれなんだから。
そんな風に思うシフォリィ。落ち着いたのか、クロバはこほん、と咳払い。
「それで、こんな所に来て、ドレスが汚れないか?」
「もう、相変わらずですね。似合ってますか、ほら」
くるり、と回る。クロバは笑った。
「……あー、うん。なんというかとても、綺麗だ。
やはりドレスは君に似合うと思うよ、とても、ね」
「ふふ、それは良かったです。
クロバさん。今はまだわからないけれど、私は本当の意味でこういうドレスに袖を通せる日が来るといいなって、思ってますからね?」
少しだけ顔を赤らめて言うシフォリィに、クロバは少しだけあっけに取られてから、
「本当の意味で袖を通させてあけられるかどうか、まだわからない。
だから……待っててくれ。いつかその答えを言いに行くから」
そう言って、その手を差し出した。
何処かの隅、物陰で。
純白に包まれた身を縮こめ。
独り、くすんくすんと鼻を鳴らして。
少女の夢を詰め込んだ、何処までも清廉な白。
此の夢に身を包むことは屹度、幸せな心地の筈なのに。
人の目に晒されることが気恥ずかしくて、逃げ出す様に駆け出してしまって。
……引っ込み思案が今日ばかりは仇になったもので。
「へなちょこさんを巻こうだなんて百年早いさね、娘さん」
此の純白に身を包む事こそが、女のさいわいなのだと。
其の為に、清らかに、慎ましく、優しくあれと。
口酸っぱく云われて居たものだけれど。
其の何れからも外れてしまって。
姿見に映る自分は、綺麗とも可愛いとも云えず。
唯、
ウェストをきりりと締め付けるコルセットが息苦しいだけ。
「なんだか。自分では、似合っているのかどうか、よくわからなくて。
……その、わたしはこんな身体なので」
アッシュは呟く、声震わせて。
「良いんじゃ、ないかい?」
ヘーゼルは一言だけそう言って。
「それなら。こんなわたしであっても、もらってくれますか?」
そうやって、すがるようにそう言って。
「頂いて良いのなら、じゃあふたりで逃げちゃおっか」
そう言って差し出した、瑠璃唐綿に鈴蘭、紫丁香花の小振りな花束。
「洋服選びを係の人に任せたのは良かったけれど、まさかあんなに色々持ってこられるなんてね」
フルーツのジュースをコップに入れて、式場の片隅に座るヴェルグリーズと星穹の二人。
「すみません……顔に出ていたかしら。本当に、情けない。
女性なら服選びは楽しめる筈なのに、私ときたらいつもこう……」
「いやいや、人によるものだよ。俺も疲れてしまったから、休めるのは嬉しい」
そう言って式場に目を向ければ、仲睦まじげに式のモデルになっている人たちを見る。
……恋なんて。私に、する日は、来ないでしょうね。
きらびやかな世界を見て、つい自虐的になってしまう。私は最低だ。
そんな星穹の心を知らずか、ヴェルグリーズは穏やかに言葉を紡ぐ。
「あちらは華やかだ。でも、それに負けず劣らず星穹殿も美しいのだけれど」
「……あら、お褒め頂き光栄です」
冷静にそう告げる。しかし頬に差した朱は隠せない。ただ、心は素直に成れずに。
「いや、ウェディングドレスも素敵だよ。星穹殿の淡い水色の髪によく似合っている。
愛らしい中にもどこか儚い雰囲気があって、思わず手を伸ばしてしまいそうになるよ」
顔を赤らめて、少しだけうつむいた。
「あの、ヴェルグリーズ様……此方を見ないでください。
反応が薄かったのは申し訳ないのですが、も、もう無理ですっ……!」
「ごめん、ごめん。でも、星穹殿はとても可愛いものだからね」
お世辞だとわかっていても、期待してしまう。
ドレスを着たとて問題はないのだと。
錯覚してしまう。私は此処に居ていいのだと。
戦わなければ、救われた命の礼にも、ならないのに。
隣に座る、あなたの笑顔はとてもまぶしくて。
ああ、これが本当にただの夢であったなら。こんなにも、心乱されなかったのに――。
「着飾るのは好きだけど自由に動き回れないのはなぁ」
布おもーい、などと笑いながらルーキスはルナールを見る。
「んー、まあ旦那様に磨きがかかったから良しとしましょう」
「野郎は単なる花嫁の引き立て役だ、俺を磨いても仕方なくないか?」
苦笑するルナール。ルーキスは楽しげに笑った。
「引き立て役なものか、旦那様」
「ま、それでルーキスが楽しいなら良いんだが」
よっ、とルーキスが立ち上がる。
「やあ、普段着てるのと違うドレスだと疲れるなあ」
ルーキスが笑う。
「さ、花嫁がつかれているんだぞ。
ほーら、合法的に花嫁を抱えられる良い機会だぞー」
「合法的、合法的……?」
ルナールは苦笑すると、
「……うん、俺の奥さんだし。これが許されるのは俺だけ。俺だけの特権な?」
そう言って、ルーキスを抱き上げた。ルーキスが、ルナールの腕に手を回して、優しく抱き着いた。
「もう少し撮影もしなきゃだね。
さあ、行こう、旦那様」
「了解、奥さん」
二人は笑いながら、再び式場へと歩いていく。
かくして、イレギュラーズ達の撮影は終わりを告げる。
今日の催しはあくまで仮装。
しかし、そこに抱いた思いは確かに真実。
その想いを確かに心に抱いて、イレギュラーズ達は再び日常へと戻っていくのだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
この思い出を大切にしていただければ、とても嬉しいです。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
此方のお仕事は、イレギュラーズ達への依頼(リクエスト)により発生したものとなります。
●成功条件
結婚式のモデルとして、宣伝を成功させる。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●状況
ラサのオアシスの街、レイアル。そこには、古代遺跡の様な洞窟のある商業都市としても栄えている街です。
たまたまこの街に立ち寄ったエルス・ティーネ (p3p007325)さんは、現地の商人から、「結婚式の宣伝モデルをやって欲しい」と依頼を受けます。
地域の活性化も兼ねて、依頼を受けたエルスさんは、共にモデルを務めてくれる仲間を求めて、依頼をローレットに持ち帰りました。
……と言うわけで、その仕事を受諾したのが皆さんです。
モデル、とは言いますが、難しいものではありません。自前、或いは服屋の商人が用意した結婚衣装を着て、実際に結婚式をイメージして行動していただければそれでいいです。
●描写先
今回は、以下の様な描写を予定しています。
【1】衣装選択
今回は、様々なウェディング衣装が用意されています。旅人(ウォーカー)世界のものから、混沌世界各国のものまで。
メタ的な事を言えば、「プレイングに指定すれば何でもあります」。そんなウェディング衣装を選ぶ場面の描写になります。
一人で、じっくりと。お友達と、和気あいあいと。色々と着せ替えを楽しんでみてください。
【2】結婚式モデル
実際に結婚式のモデルとして、式を執り行います。周りにはカメラマンもいて、宣材として利用するための写真を撮っていますが、希望があれば思い出の写真を残してくれるかも。
ここでは、まさに文字通り、結婚式を執り行うことができます。もちろん実際に結婚するわけではないので、お友達と楽しんだり、或いは恋人同士で、勿論一人でも、未来の予行演習として未来のお相手を思い浮かべて。
式の予行演習などをしてみるのもよいのではないでしょうか?
【3】静かな遺跡の陰
休憩スペースもご用意してあります。此処では周りの喧騒から離れて、静かに過ごすことができます。
お友達、恋人さんと。遺跡の静かな場所二人きり。ウェディング衣装を着て、穏やかな時間を過ごしましょう。
●プレイングの書式
一行目:【行き先の数字】
二行目:【一緒に参加するお友達の名前とID】、あるいは【グループタグ】
三行目:本文
の形式での記入をお願いいたします。
書式が崩れていたり、グループタグ等が記入されていなかった場合、希望の個所に参加できなかったり、迷子などが発生する可能性があります。
プレイング記入例
【2】
【ファーリナさんとゆかいな仲間達】
ウェディングドレスモデルですよ! わたしがモデルをやれば売り上げ増間違いなしです!
●諸注意
基本的には、アドリブや、複数人セットでの描写が多めになります。アドリブNGと言う方や、完全に単独での描写を希望の方は、その旨をプレイングにご記入いただけますよう、ご協力お願いいたします。
過度な暴力行為、性的な行為、未成年の飲酒喫煙、その他公序良俗に反する行為は、描写できかねる可能性がございます。
可能な限りリプレイ内への登場、描写を行いますが、プレイングの不備(白紙など)などにより、出来かねる場合がございます。予めご了承ください。
以上となります。
それでは、皆様のご参加とプレイングをお待ちしております。
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