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シナリオ詳細

<Weiß Krone>桜の下の贈り物

完了

参加者 : 22 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 春。それは暖かな空気に眠っていた動物たちが目覚め、植物たちが色鮮やかに花を咲かせる――命の息吹を感じさせる季節である。そこかしこでその色彩と空気を楽しめる事だろう。
(ラサは砂漠地帯だけれど……)
 エルス・ティーネ(p3p007325)はつと記憶を手繰る。広大な砂漠地帯と点在するオアシス。そのうちのひとつに、桜の木が存在しているのだとエルスは聞いたことがあった。
 砂漠地帯で季節の移ろいを感じることは難しい。それこそ商人たちが開くバザールの商品で季節を感じられる程度かも。その中で春らしい風景が見られるとなると大勢の人が見に行くことだろう。
 けれどあの地で果たして、桜の木は生命活動を続けていられるのだろうか。日は照り、乾燥した風が吹きすさぶ場所である。桜の木が生き続けられるとは思えないが――いや、あの土地で桜を咲かせたと言うくらいなのだからそういう種なのかもしれない。
(ローレットで聞くのも良いかもしれないわね)
 そうとなれば善は急げ。活動地点となるラサから空中庭園を介し、ギルドローレットへ向かう。そのカウンターに乗っていたひよこはエルスの姿を見るとパッと目を輝かせて――。

「皆さん、おススメの依頼があるんです! 誰か、大事な人とお出かけ、なんていかがですか?」



「今年も綺麗に咲きそうだね」
 『Blue Rose』シャルル(p3n000032)は大きな桜の木を見上げていた。桜はまだ満開とまでいかないが、ちらほらと観光客が訪れているらしい。同時にいち早く聞きつけた商人達も集まってバザールを開こうとしているようだ。
「鮮やかな色とまではいかないけど、こういう色もいいな。まさかラサで見られるとは思わなかったけれど」
 『色彩蒐集者』レーヴェン・ルメス(p3n000205)ははらりと落ちてきた花弁を器用に手へ乗せる。今の時期ではまだ沢山の花弁が散るというわけではないだろうが、桜吹雪でなくとも美しさに変わりはない。
「レーヴェンは桜バザールって行ったことあるの?」
「いや。そういうものがあるっていう話は聞いていたけどね。だから今回は来てみたのさ」
 あのあたりの皆とね、とレーヴェンはバザールの準備を進める商人達へ視線を向ける。此方へ向かう途中であのキャラバンと合流したらしい。とはいえ、彼女は彼らと違って商品を売るのではなく、客として買うつもりらしい。
「各地を回ってると花見のタイミングに移動してることもあるからね。まあ、掘り出し物があればそれはラッキーってことで」
「ふうん」
 中々商人も大変なものらしい。なんて思いながら、シャルルは辺りを見渡した。
 U字型の湖が桜の生える土地を囲み、その内側は緑で彩られている。ここばかりは幻想などでも見られるくらいの緑が溢れた場所だ。
 湖を出ると砂交じりの地になるものの、各所に緑は見られる。それらの植物を潰してしまわぬよう配慮しながら商人達はテントを立てているようだった。今年も依然と同じように普通のバザールもあれば、桜に関連した商品のみが集まった『桜バザール』が開かれると言う。
(そういえば、ブラウもなんか意気込んでたな)
 この場所の様子を見てきてほしいとシャルルへ頼んだ黄色いひよこ――ブラウ(p3n000090)の事を思い出す。なんでも希望ヶ浜、というか練達では今の時期にグラオ・クローネみたいなことをするのだとか。名前は確か。
「ホワイトデー、か」

GMコメント

●すること
 花見orバザールで過ごす

●ロケーション
 天候は快晴。
 U字型の湖に沿ってバザールが開かれています。湖の真ん中に大きな桜の木があります。周囲にもちらほら桜があります。

●選択肢1【バザール】
 バザールを見て回り、品物を買うことができます。
 通常のバザールの他に『桜バザール』という桜に関した商品のみを取り扱うバザールが開かれています。どちらでもアクセサリーや洋服、小物から珍しい商品まで取り扱っている事でしょう。
 ただショッピングを楽しむでも良し、ホワイトデーに上げたいものをここで見繕うでも良し、です。
 尚、本シナリオで購入してもアイテムは手に入りませんのでご注意ください。

●選択肢2【広場】
 3方向を湖に囲まれた広場です。広いです。地面には草が生えています。中央には大きな桜の木がそびえ立ち、八分咲きほどになっています。
 休むも良し、買った者を見せ合うも良し。勿論ホワイトデーのプレゼントとして贈っても良し。喧嘩だけはご法度ですのでご注意ください

●NPC
 私の所有するNPCはお呼び頂ければ、リプレイに登場する可能性があります。
 レーヴェンは今回お客としてバザールを回ったり、花見をしたりするようです。

●注意事項
 本シナリオはイベントシナリオです。軽めの描写となりますこと、全員の描写をお約束できない事をご了承ください。
 アドリブの可否に関して、プレイングにアドリブ不可と明記がなければアドリブが入るものと思ってください。
 同行者、あるいはグループタグは忘れずにお願い致します。

●ご挨拶
 AAありがとうございます。愁です。
 2年ぶりの桜バザールを出しました。ホワイトデーと合わせて、皆さん楽しんでくださいね。
 それではご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。

  • <Weiß Krone>桜の下の贈り物完了
  • GM名
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2021年04月02日 22時10分
  • 参加人数22/∞人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 22 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(22人)

グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
勇者と生きる魔王
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
シラス(p3p004421)
超える者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
風巻・威降(p3p004719)
気は心、優しさは風
アイラ・ディアグレイス(p3p006523)
生命の蝶
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
ニゼル=プラウ(p3p006774)
知らないこといっぱい
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
ラピス・ディアグレイス(p3p007373)
瑠璃の光
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
月羽 紡(p3p007862)
二天一流
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士
寿 鶴(p3p009461)
白髪の老婆
白妙姫(p3p009627)
慈鬼

リプレイ


「砂漠にも桜って咲くんだねぇ」
 ルアナと共に桜を見上げたグレイシアは、なんとも不思議な気持ちに襲われた。美しいことには美しいが、砂漠と満開の桜。中々お目にかかれない組み合わせである。
「ところでルアナ、飲み物は大丈夫だろうか?」
「飲み物! なんか喉にぱちぱちするやつ飲みたいかも!」
 桜餅をもぐもぐ、途中から甘さと喉の渇きを覚えていたルアナはごっくんと飲み込むと目を輝かせる。
「確か屋台にあったな。ついでに土産でも見てくるとしよう」
 そんな彼女に目元を和らげ、振り返ったグレイシア。その時ちょいと袖口が引っ張られる。
「む?」
「ルアナおるすばん?」
 まんまるな瞳が何かを訴えかけている。グレイシアは目を瞬かせると、袖口を掴む手を握った。
「此処で逸れるのは面倒だ」
 元からルアナを置いていく選択肢はなかったのだが、ルアナにとってはそうでもなかったらしい。その不安を払拭させるように手を握ればルアナは満面の笑みを浮かべた。
「ねぇねぇこれってデート?」
「…… 何をもってデートと判断するか、という話になりそうだな……」
 デートの定義はわからぬけれど。今は2人、一緒に。
「んーっ、すっかり春だね!」
「沢山の人! 本当に桜色だ……!」
 陽気に伸びをするシラス。その傍らでアレクシアがキョロキョロとあたりを見回す。そして早速気になるものを見つけたのか駆けていくアレクシアの髪が風に靡いた。
(……短いのも似合ってるけど)
 それを視線で追いかけたシラスは目を細める。焼けてしまった彼女の髪も、徐々に元へ戻ってきたのだ。
「折角だから自分の分と……」
 アレクシアは呟きながら雑貨店を見回す。自分の分より『そちら』の方が考え込んでしまいそうだ。
 カーディガンは可愛すぎるし、髪飾りは女子向け。流石にシラスへ送るにはミスマッチだろう。
「どう? 良いの見つかった?」
「うーん……あっ!」
 シラスとあちこちを回ったアレクシアは良い香りのするテントで足を止める。
「シラスくん、少しずつフォーマルな場に出ることも増えたでしょう? 身だしなみを整えるのに……うん、これなんてどうかな?」
 アレクシアが手に取ったのは優しく、主張しすぎず匂う香水。それを贈ってくれるという彼女に、シラスは先程購入したそれを取り出した。
「これは?」
「俺からのプレゼント」
 可愛らしいラッピングから現れたのは桜柄のリボン。今でも、さらに髪が長くなっても彼女なら良いように使ってくれるだろう。
「ありがとう!」
「こちらこそ。さあ、まだまだ色んな店を見に行こうぜ」
 見たのはバザールのほんの一端だから。2人はにっと笑みを浮かべ、まだ見ていない店へと駆け出した。
「シャルル嬢ー!」
 イーハトーヴの声にシャルルが振り返る。彼の両手にはそれぞれ桜色のカップが握られていた。桜ベリーミルクという飲み物だそうだ。
「「美味しい!」」
 2人で飲んで、異口同音。目を瞬かせた後に笑みを咲かせて。ゆっくり歩きながら活気ある桜バザールを眺めていく。
「あっ!」
「ん?」
 彼はあるテントへ目が釘付けの模様。桜色マカロンの出店しい。
「ずっと飾っておきたい可愛さ……でも食べたい……!」
「ふふ。すみません、これ2つ」
 シャルルはくすりと笑いながら注文する。そして目を丸くしたイーハトーヴに片方を差し出した。
「さっき買ってもらったから、お返し」
「いいの? ありがとう!」
 可愛らしいマカロンを、ぱくり。今年の春も共に過ごせる祝い――なんて。

 砂漠に桜。風情ある奇跡というべきかと汰磨羈は桜へ視線を向ける。しかして本日はあちらではなく、桜バザールだ。
「庭園で咲くことはあるけど、模したアクセサリーは興味あるね」
「ええ。アクセサリーも沢山」
 ティアと雪之丞はバザールをきょろきょろ。折角だから互いに似合うアクセを探そうと3人は動き始める。
(雪之丞は桜の簪とかに会いそう。汰磨羈は……桜と葉を交互にあしらったネックレスとか?)
 ティアは色々なアクセを手に取っていく。その傍らでは汰磨羈もまた簪を探していた。ラサの商人ならばいち早く新天地の商品も入手し、売りに出しているはずだ。
「お、いいな。種類豊富じゃないか」
 簪屋を折よく見つけた汰磨羈もまた2人に似合う簪をと探す。一方、雪之丞はあれこれと幅広く見て回っていた。
(髪飾りに耳飾り、混沌ならではの羽根飾りも)
 あらゆる商品が集まっては散らばりゆく土地だ。これまで見たことがないようなものもあって、迷ってしまう。
 されども3人は贈り物を決め、再び一同に会した。
「ふむ、耳飾りにネックレスか」
 汰磨羈はティアからネックレスを、雪之丞から桜の意匠が付いたイヤリングを受け取る。この手の装飾は新鮮だ。
「私は……簪と羽飾り?」
 汰磨羈が選んだのは桃色鮮やかな簪。雪之丞は空飛ぶときにも邪魔にならない、翼へ付ける鎖飾りを選んだ。翼も身と同じように飾る品、というのはなんとも不思議である。
「拙は……あら」
 偶然にも偶然、ティアからは桜の花弁が重なる簪を。汰磨羈からは白寄りのシンプルな簪を。おや、と2人も顔を見合わせている。
「ふふ、それでは順につけますね」
「お、なら私も」
「それなら私も」
 3人揃ってアクセを身に着け、笑い合う。桜に彩られた乙女たちはそのまま、花見へと洒落込んだのだった。
 暑がりの彼女は平気だろうか? なんて、その表情を見れば一目瞭然。
「ラピス! お店、見てみましょう!」
「うん。色々見て回ろう」
 淡い桜が彩るラサの空。その下で2人は手を繋ぎあちら、こちら。
 自分たちのために新しいものも欲しいし、領に迎え入れた子たちのためにプレゼントも買ってあげたい。
 カーテン、食器、春の装いも良さそう。そうしてみて回るアイラの肩を、ラピスがとんとんと軽く叩いた。
「どうかしまし――」
「これを」
 差し出された桜色のリボン。目を瞬かせる妻にラピスは柔らかく目を細める。
「誕生日プレゼントだよ」
「えっ、ぼ、ボクに誕生日の!?」
 つけてあげる、とアイラの背後へ回るラピス。ドキドキしながらもアイラはじんわり胸が暖かくなるのを感じた。
(キミは変わったね、ラピス)
 出逢った頃ならば、きっと覚えてなんていなかった。祝われることなく過ぎてしまった。それが、今では。
「できたよ」
「……に、にあいます、か?」
 ちらりと肩越しに視線を向ければ、彼の笑顔があって。嗚呼、その瞳色に染められてしまう。
「ありがとう……とっても嬉しい」
 ラピス、とアイラの唇が自身の名を呼んでくれる。自身の全てである少女が、呼んでくれる。
 これからもそうであるように。そう在れるように。
(君の全てを覚えて、紡いでいきたいんだ)
 ラピスは笑顔を返して、行こうとアイラへ手を差し出した。



「調子はどうよ?」
「まずまずさ」
 そう告げて質問を返すレーヴェンに、安酒片手のキドーは笑った。
 財布も体も重症には違いない。それでも生きて酒が呑めればなんら問題ないのだ。
 財布とて、致命傷は避けられなかったが先日のレーヴェンの尽力――と謎に突っ込まれていた金――により多少マシだとは思う。
「またなんかあったら遠慮なく俺に、もといローレットに話持ってこいよな」
「ふふ、そうさせてもらうよ。皆、頼りになるからね」
 キドーは頷く。そうして頼りにしてもらって、どこかの馬鹿とは異なる真っ当な方法でのし上がってやろうじゃないか。
 ――地獄で指咥えて見てろよ。
「マリィ、こっちこっち! とっても綺麗ですわよー!」
「ヴァリューシャ、待っておくれ~!」
 花吹雪の下でくるくると回るヴァレーリヤを追いかけて、マリアはそのまま彼女をぎゅっと抱きしめる。桜の下で微笑む恋人のなんと可愛らしいことか。
「花吹雪の向こうに砂丘がぼんやり見えるのって、なんだか夢の中にでも迷い込んだみたい……」
「ふふ、君は相変わらず詩的な表現が素敵だね♪」
 遠くを見やる彼女を抱きしめ直して、でも確かにとマリアもそちらを見る。良くも悪くも『砂漠』のイメージが強くて、予め知らなければまさに夢のようだろう。
「そういえばヴァリューシャ、手に持っているそれは?」
 マリアは視線を彼女の手へ。先程露店で買っていた飲み物だが――。
「アラックですのよ! はい、こっちはマリィの分!」
 差し出して、受け取って、桜の下に腰掛ける。ふわりと香ったそれにマリアは「お酒?」と首を傾げた。
「そう、お酒ですわ! この地に来たらこれを飲まないとっ!」
「名物なのかい? ……あ、ふふ、質問ばかりでごめんね」
 どうやらラサの地はヴァレーリヤの方が物知りらしい――苦笑するマリアに彼女はいいえと笑顔を咲かせる。
「結構強いお酒だから、お水で割っても良いかも。噂によると、お水で割ると、白く濁るみたいですわよ?」
 これは割ったことがない女の言である。しかしマリアは変化の想像をして面白いと笑った。
「それじゃ……乾杯♪」
「ええ、乾杯!」

「レーヴェンさん! それにラダさんも、良ければお茶会をしない?」
 エルスがレーヴェンとラダの姿を見て手を振る。暫しの休憩にとやってきた2人は互いへ視線を合わせた。
「どうだ?」
「もちろん」
 折角の誘いだ、断る訳もない。折角だから荷物の整理もしたいところだ。
「さっき飲み物買ってきたんだ。エルスも少し飲んでみる?」
「ええ、ぜひ!」
 ラダたちが買ってきていた飲食物や、エルスが用意した紅茶と茶菓子を交え、桜の下でひと時を過ごす。砂漠に咲く桜の噂を聞いたことはあったのだというエルスは空を見上げて嬉しそうに目を細めた。
 ラサの名物になったら嬉しいけれど、豊穣にも桜はあるという。できることなら自身の領地にも植えてみたいが、難しいだろうか?
「そういえばレーヴェンは豊穣に行ったこと、ないんだよな」
「うん。少しずつでも行けるようになってるなら、行ってみるのもアリだなって思ってるところ!」
 そうか、とラダは小さく微笑む。互いの生業もあるが故に再開は暫し先――かと思っていたが、次こそはそうなるか。
(海の向こうで顔を合わせるかもな)
 互いにとって異国の地。その頃、彼女はどんなものを仕入れているか、楽しみだ。
「おばあちゃん、お弁当楽しみだね」
「ボク、朝から一生懸命作っとったもんな」
 鶴を見上げてへへ、と嬉しそうに笑ったニゼルは、視線を戻して見知った黄色いひよこを見つける。
「あ、ブラウくん!」
 声をかけるとブラウは視線を向け、あ! と小さく飛び跳ねた。
「ニゼルさんも来てらしたんですね!」
「うん、お花見に。おばあちゃん、ブラウくんだよ」
「肝試しを教えてもらっとった依頼やな? ブラウさん、この子がお世話になりましたわ」
「いえいえこちらこそ!」
 むしろ世話になったのはこちらの方だと告げるひよこを、2人はともに花見へ誘う。
「結構いっぱい作っちゃったから」
「ボクが早う起きて作ったやつやで、良かったら食べてって」
「わぁ、いただきます!」
 大きめの弁当箱には所狭しとおにぎりや卵焼き、ハンバーグなど彩り豊かな野菜と共に詰まっている。ほんのちょっぴり形が悪いのは、きっとニゼルが頑張った証拠だ。
「この煮物といなり寿司は、おばあちゃんが作ったの!」
 もちろん大好きなおばあちゃんの力作も紹介して、3人はそれらを摘みながらのんびり桜を見やる。
「こっちもようけ咲いたるな。元おったとこと変わらん」
「僕の村もあったよ。ここの桜もきれいだなー」
 そうだろうと鶴はにっこり頷く。桜はいつでも、どこでも――地域関わらず、咲き始めから散り際まで――美しく見えるものなのだ。

 1年なんて、時なんてあっという間だ。それはご近所たる2人の関係こそ変わらないまでも、知り得でいることは去年など比較にならない。
 最も、言の葉に載せられたのは意地っ張りだとか相変わらず素性は識れないとか、そんなことだったけれど。
 未散から伝えられた自分の姿に、ヴィクトールは小さく微笑む。
「褒めてますよ? ぜぇんぶ。ふふ」
「ふふ、褒めて頂きありがとうございます。では、私もチル様のことを」
 拝聴しましょう、と言った彼女は確かに楽しみにしていて。しかし聞く度それが胡乱な表情へ変わっていく。
「……其れ、褒めてます?」
「? 褒めていますよ」
 ヴィクトールの白紙に色をつけた、日記に少しばかりの記述が増えた、そこかしこに未散の存在がある。あの"いいセンス"をしたTシャツもついた色のひとつだとも。
 そうですか、となんとも言えない表情だった未散は、しかし茶葉の香りにその顔を綻ばせる。先程バザールで、桜をイメージした茶葉を手に入れたのだ。それは風に運ばれる桜の香りにとてもよく似ている。
「あなたさまのお茶の淹れ方は雑だけど、優しい味がするから好きなんです」
 こればかりは今のところ、代わりがいない。好きなお茶を飲みたいならば彼の元へ赴かなければ。
「では、いつものように雑な紅茶を帰ったら」
「はい。お砂糖は、何時も通りで!」
 ミルクを入れない紅茶に、お砂糖加減は彼の知るままに。
「この光景は、お互い初めてかもしれませんね」
「ええ。風巻の所も私の所も大差はないようですが」
 威降と紡は揃ってラサの桜を見上げていた。熱砂で咲く品種など早々お目にかかれまい。
「風巻は満開が好きですか?」
 紡が今見上げる桜はもう時期満開を迎えるだろう。けれど実は、満開より咲き始めや散り際の方が好きだったりする。
「俺は……そうだなぁ。咲きかけから満開でしょうか」
 散り際は寂寥感も感じてしまうから。そう苦笑した彼はバザールの方を見やった。いつもより大盛況らしいそこには『ホワイトデー』も絡んでいるのだとか。
「風巻」
 呼ばれて振り向くと、紡がラッピングされた箱を差し出していた。察さぬほど要領の悪い男ではない。
「ありがとう、月羽さん」
「味は保証しますよ」
 手作りの菓子。それへ嬉しそうに微笑んだ彼はお返しにと先程買ったものを差し出した。
「簪です。綺麗な髪を纏める時に、使ってください」
 桜の飾りが、きっと彼女の美しい髪に映えるだろうから。
 ころんと桜の下に転がった白妙姫はほうと目を閉じるら、
 戦死の休息日。木漏れ日の柔らかな日差し、頬を撫でる暖かい風。ゆらめく桜は早くもひらひらと花弁を落とし始めている。
 することなど何も思いつかなくて良い。ただ思うままに身を任せ、いざ夢の世界へ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ!
 砂漠の桜、楽しめましたか?

 それでは、またのご縁がありますように。

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