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シナリオ詳細

<グラオ・クローネ2021>移り気な空の下で

完了

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 雨が降っていた。
 空は青く、白い小さな雲が広がっている天気の日だ。
 大きな綿を摘まんで散りばめた様なそこから、ぱらぱらと落ちてくる粒は優しいが、肌寒い二月の季節には少し、辛い。

 なんでこの日に限って。

 怨めしそうに空を見上げる少女が呟く。
 その日は二月十四日。混沌のあちこちで、御伽噺に由来したイベントが開催される日だ。
 少女もその例に漏れず、これを機会にと、想い人へ贈り物をするつもりだった。

 でも、いいチャンスかも……?

 ふと思い至るのは、この天候を逆に利用する案だ。
 雨が降るなら傘を差す。大きめな物を用意して、一つに二人で入るという作戦だ。
 これは中々、悪くないと思う。
 心を決めた少女は駆け出した。
 贈り物を入れた鞄を胸に抱えて、傘を買いに雑貨店へ。
 今はどうか、この空の気紛れがもう少し、続きますわうに。


「こんな日に仕事も無いだろう?」
 ローレットに詰めていた『情報屋見習い』シズク(p3n000101)はそう言った。
 椅子に腰掛け本を読む彼女は、今日は仕事をするつもりが無いらしい。
 ただ、情報を扱うものとしての提供はある。
「近くで有志による演し物があるみたいだし、誰かと行ってみたらどうかしら」
 演劇だったり、一発芸だったり、合唱だったり。
 そういうのを披露するステージが拵えられている、と。
「まあ生憎の雨だけど、パラソルも立ってるみたいだし……こんな所に居るより、色気はあると思うよ」
 観賞するのもいいし、誰かと雨宿りするのもいい。
 もちろん、贈り物をプレゼントするムードだって、あるだろう。
 だから。
「風邪を引かないように気を付けるといい。勿論、それを看病するつもりなら、その限りじゃないけれど、ね」
 そんな冗談を言いながら、シズクは訪問者から本へと視線を戻したのだった。

GMコメント

 ユズキです。
 シンプルに場所の提供と言う形ですね。
 ハッピーバレンタインです。

●現場
 ローレット近くの広場。
 外は天気雨な小雨。
 あちこちにパラソルと椅子と机が置かれ、中央には簡易屋根のステージがあって代わる代わるに催し物がされています。
 また、近くにはチョコとアクセサリーの屋台があり、その場で買う事も出来るようにされています。

●場所の指定
【A】雨宿り
 次の目的地へ向かう前の寄り道、もしくはステージを観る為にパラソル下で休憩します。

【B】買い物
 屋台で買い物をします。
 あるのはチョコレートやアクセサリーなどの小物。
 奇抜じゃなければ大体なんでもあると思います。

【C】ローレット内部
 色気なんて要らない、がやがやざわざわした人の出入りが激しい空気の方が落ち着く人の為の場所。
 勿論ここで贈り物しても平気へっちゃらです。

●NPCについて
 お一人で参加しにくいという方は、必要であればシズクを指定していただけます。
 どこにでも現れます。
 特に必要無ければ登場しません、よろしくお願い致します。

●その他大事なこと

1. お相手さんと参加の場合は、迷子防止のお名前とIDを添えてください。

2. 共通のグループ名でも構いません。

3. 一人だけど、同じように一人で来ている誰かと絡みたいという時は明記をお願いします。

4. 完全に一人で満喫したい人もそういう記載をお願いします。無いと絡む可能性があります。

5. 白紙の時は描写されません。

6. キャラクターさんの、やりたいこと・考え・特徴など、記載してくださると書きやすいです。

7. アドリブ可・不可の明記もお願いします。

8. 描写量はイベシナ相応になります。

 以上です。
 それでは、よろしくお願いしますね。

  • <グラオ・クローネ2021>移り気な空の下で完了
  • GM名ユズキ
  • 種別イベントシナリオ
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2021年02月28日 22時20分
  • 参加人数30/30人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(30人)

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
雨は止まない
キドー(p3p000244)
最期に映した男
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)
Red Like Roses
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
希う魔道士
マルク・シリング(p3p001309)
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
祈りの先
アイリス・アニェラ・クラリッサ(p3p002159)
傍らへ共に
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
激情の踊り子
天之空・ミーナ(p3p005003)
黒花の希望
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
夜に一条
美咲・マクスウェル(p3p005192)
あの虹を見よ
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
カモミーユの剣
ネーヴェ(p3p007199)
うさぎのながみみ
レイリー=シュタイン(p3p007270)
白騎士
回言 世界(p3p007315)
貧乏籤
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの
日輪 寿(p3p007633)
日向の巫女
Meer=See=Februar(p3p007819)
おはようの祝福
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
夜咲紡ぎ
雑賀 才蔵(p3p009175)
アサルトサラリーマン
糸色 月夜(p3p009451)
まくなぎ
もこねこ みーお(p3p009481)
ラッキーキャット
矢矧 鎮綱 景護(p3p009538)
忠義はかくあるべし
八剱 真優(p3p009539)
忠義はかくあるべし
アナト・アスタルト(p3p009626)
殺戮の愛(物理)天使
白妙姫(p3p009627)
慈鬼

リプレイ

 空を見ていた。
 伸びた庇の下で二人、降ってくる雨が辺りを叩く音に包まれている。
「なぁ、雨は好きか?」
 ニコラスがチラリとシキを見る。閉じた瞳が何を見て、何を思っているのかは伺い知れないだろう。
「どうだろう。好ましくない事は確かだけどね」
 彼女は、へらりと笑みを張り付ける。口では「仕方ない」、「君のせいじゃない」と言い、友人と遊ぶのは悪くない事なのだと。
 そう言う水宝玉の瞳はニコラスを見て、しかしどこか遠くを幻視しているようだった。
 例えば、過去、いつか曇天の空の下。
「踊ろうぜシキ」
 癪だと、彼は思った。
「雨と日の狭間の下、虹がかかるまで」
 感情の起因は解らないが、好かない物を眺め、音を聞くだけの、気が滅入る時間の為に出掛けた訳ではないのだから。
「……私、踊った事ないけど?」
 強引にも見える手の繋がりに引かれ、水滴の中へ身体を晒す。リードの支えに体温を感じながら、くるり、くるりと円を描いて足を運ぶ踊りだった。
「なぁ俺の友達」
 ぱしゃぱしゃと溜まりを弾く。タタタと辺りを叩く。雨によって生まれる音の中。
「この雨は嫌いかい?」
「……悪くない、なんて」
 雨は止まない。けれど、今だけは。
「ありがとう、私の友達」

 傘は便利だと、ポテトは最初そう思っていた。リゲルと二人、雨から守る大きなそれは、自身を濡らしはしない。
 ふと違和感を覚えたのは、屋台の並びで買い物をしていた時だ。彼と顔を向け合って会話した際、逆側の肩が濡れていた見た。よくよく思えば、マントを伸ばして風に運ばれる粒をも遮っていたのだろうと気付く。
 有難う。
 寒がりな自分が、濡れて風邪を引かない様にと配慮してくれる。そのことに感謝をし、けれど、それでリゲルが風邪を引いては意味がないとも思う。
 晴雨の下で二人、互いの境目が無くなる位に寄り添う。
 途中、見掛けた小物をそれぞれが購入する。自分の為ではなく相手に似合う品物だ。
「これ」
 どうだろう。ポテトが振り返ったタイミングで、リゲルの腕が彼女の首に回る。一秒も無い動作の後には、チョコを模したネックレスが付けられていた。白の土台に、艶のある黒の花が乗った物だ。
「金の髪に良く似合ってる」
 そう言って笑うリゲルの手には、青と緑のシンプルなハンカチがある。
「帰ったらジャガイモの花と星の刺繍をしよう」
 そうして完成するのだと、ポテトは計画を語る。猫型のチョコは精霊の娘へ。花形は、リゲルの母にと、贈り物を選んで、二人は帰路を歩いていった。

「ク、クラリウス様! こっち、こっちです!」
 慌てた様子でパラソルの下へ、シャルティエと共にネーヴェは駆け込む。
「此処なら凌げそう、か」
 肩の滴を払いながら、シャルティエは空を見上げて呟く。
「天気雨、と、言うのでしたか」
 ネーヴェも見る、青い空から降る雨は不思議な光景だ。
「綺麗ですよね」
 降られて大変だったけれど、観賞として悪くない様にシャルティエは思う。
「あ、濡れちゃってます、よ」
 ふと、湿りで潰れた髪を見たネーヴェは、取り出したハンカチを伸ばす。上へ、ほんの少し身を乗り出す身長の差に目を細めた。
「え? あ、ごめんなさい、ありがとうございま」
 シャルティエは、毛先から垂れる水滴を見た。自然と目で追うそれは肌に落ち、つー、と首筋を滑って、
「本当に、大きくなったんですね。以前ならもっと、簡単でしたのに」
「へっ? あ、身長ですか? んんっ、少し屈んだ方が良いですか?」
「あ、いえ、大丈……」
 距離が近いと、ネーヴェは思った。慌てた様子から不意に浮かべた笑顔がすぐ、目の前にある。
「顔が赤いですけど、もしかして風邪……?」
「き、気のせいです、風邪なんて引きません!」
 たぶん。とは胸中に止めて、濡れた二人、空の気まぐれが落ち着くのを待っていた。

「今夜の恋人予定だったネーチャンが先約でよォ……しかたねぇ、明日の仕事探すついでに一杯やろうかと思ったら丁度、お前の顔を見つけたってワケ」
「恋人レンタルの商売はしていないよお客さん」
 ドカッと椅子に座ったキドーは、向かい側で読書中のシズクに経緯を話している。返された言葉は皮肉か、彼女なりの冗談なのだろうと判断。
「いやいやいや、俺だって誰彼構わずベッドに誘う男じゃねぇ。でもフラれて一人飲みは虚しいんだぜ!? せめて美人の顔でも肴にできればなぁ!」
「私のご尊顔は一秒一万Gだから」
「吹っ掛けやがるなこの女……!」
 酷い奴だ。とはいえ本は閉じられ、差し出した酒を一息に呷る辺りノリは悪くない。何を読んだのかと聞けば流行りのモノだと言うし、最近の仕事はと聞けば表にしない様な事情が返ってくる。
「あー、そうだ」
 懐からチョコの箱を取り出したキドーはそれを机に置き、シズクの側へ滑らせる。高級さを滲ませる包装は想いの籠った代物だ。
「フラれた女用を人に渡すかなぁ」
「お下がりで悪かったな!」
 酒を呷って、ほんの少し哀愁を漂わせ。
「あなたに幸福を、なんてよ」
「ガラじゃあないな」
 男は奪われた台詞に苦笑いした。

 ステージは、飛入りを歓ぶ。濡れる事すらも楽しむ様に、水滴を吹き飛ばす様に、キレ良く踊る褐色の美女を人々は見た。
 朗らかな歌声は恋心を語り、視線を集めれば集めるほど、彼女、ミルヴィは一層輝いて、
「バカか小娘、時季を考えろ」
 フードの男に拐われる。
「ちょっとー、なにすんっくちゅん」
 くしゃみに潰された抗議に、それみたことかと頭から強引に着ていたブレザーを被せ、彼、月夜は雨避けの下へと引きずり込む。
「ふふ、ちょっと冷えちゃったカナ? なーに、心配してくれたの?」
「風邪拗らせたら容易く死ぬ生き物だろうが、テメェらは」
「どんな生き物だって死ぬ時は死ぬもの」
 呆れの混ざる言葉に笑って、椅子へストンと座るミルヴィは笑顔のままで言う。
「アタシはアンタに知ってほしい。楽しい事は、沢山あるんだって」
 この世界は面白くねェと、日頃言うものだから、教えたいのだろう。月夜はそれを、お節介小娘が、と悪態で吐き捨てる。
「それはそうとアタシの踊りはどうだった? 何か感想は?」
「ハ、知らねェよ。まァ美味しそうなンじゃねーの」
 彼の第三者を見る目は独特だ。食えるか、食えないかの二種類で判断する。だから、問いへの答えはそうなるし、ただ。
「別に、俺の為に見せてた訳じゃねェだろ、バーカ」
「ふふ、そうね」
 食える上に美味しそうという感想は、実際、悪くない評価なのかもしれなかった。

「近しき者、親しくありたい者へ、感謝と親愛の気持ちを込めた贈り物をする日」
「ぐらお・くろーね。で。ありますか」
 顎に手を当て、品物を吟味する真優の言葉に、景護は頷いた。成程、然様な催し物でしたか、と、納得の意味がある。
 そして、意味を知った真優が何を為そうとしているのかも。
「故国を出て此方に来たのです、私達もあやかりましょう!」
 次々に店を、それも一つ一つ確りと目利きしていく勢いは強い。何しろ、一般的に女性から男性へと贈られる日なのだ。真優としては、常日頃、献身を受ける身として抱く感謝の念は深い。
「それに報いる贈り物なのです。景護、相応しい物を見付けるまで妥協は致しません。覚悟は、出来ておりますか」
「是非もありません、俺も、覚悟は決めてあります。……が」
 何時走り出すか解らない主へ傘を差し入れながら。
「駆け出す際はお声掛けを」
「分かりました。それでは次はあちらです!」
 自分の為に苦心し、選ばれた品という時点で、それは最上となるだろう。景護が願うのは、それが共に味わえる品であればいいという事だけだ。
 主あってこその忠義なのだから、と。

 白妙姫は気ままに立ち寄る。設営された店内、接客の店員との世間話もまた、気紛れに。
「親しき者に菓子を贈って感謝をのう」
 それがこの祭事なのだと、なるほど、なるほどとこくりこくり。
「お歳暮かの」
 違います。と、そう言われれば独特な笑い声で冗談だと言って。
「まぁ、わしに縁者なんぞおらんからの……売り子よ、売り子、お主に一つやろう。袖振り合うも多生の縁というじゃろ?」
 花を象ったチョコを目で愛で一口。甘さに頬を綻ばせ、ファファファとまた声を上げる。
「主らがおらねばわしは祭りを楽しめん。そういう感謝、じゃ」

「グラオ・クローネという愛溢れる日に愛無き悲しき者達の為に私のアガペーなチョコは在るのです、お姉さん」
 一息に言い切ってドンッと机にチョコが置かれ、更にゴトッとバールが添えられる。
「愛天使アナトチョコ、今なら聖遺物付き3000Gです」
「いえ結構です、というか高いよ」
 え? と首を傾げるアナトは、やれやれと首を振って、いいですか? と前置き一ついれてシズクに言う。
「タダより高いモノはないのです、愛無きお姉さん。労力に見合った対価は然るべく支払われなければ。人の営み、人の愛、これぞ、です」
「いえだから結構です」
 繰り返される押し売り問答。後に、愛って守銭奴だな、と、シズクは深く語ったと言う。

 美咲には悩みがある。
 持った傘の下、はしゃぐヒィロに笑み、二人で迎えるイベントをどう過ごすのか、という事だ。目的はチョコ関係の買い物、という事だが。
「買っていただくのが良さそうなのも多いけど、どうしようね」
「出来合いも美味しそうで、見た目が素敵なのが多くて、心が揺れ動いちゃうね!」
 ヒィロの尻尾も揺れる。手提げに尾を通しているのでその分、がさがさと音が聞こえてきて微笑ましい。
 チョコに合わせるのは紅茶、もしくはお酒の選択肢も有り得る。ただ、買うだけではなく、一緒に作る、というのも、それは間違いなく楽しい一時になるのだろうと思うのだ。
 ふと、気付きがある。
「両方やろうか」
 凝ったチョコはお店、シンプルに手作りもする。
「そうしようよ美咲さん!うん、絶対そうしたい!」
 別に一つに決めなければいけない法則も無いのだから、多少、強欲な位がいいのだろう。
「買って良し作って良し食べて良しその後も良し、一粒で四度美味しい完璧な答えだ!」
「そうと決まれば、次は飲み物を仕入れにいくよー!」
「うんっ! えへへ、美咲さんだーいすき!」

 ほぅ、と吐き出す息は微かに白んで溶ける。
「冬の雨は冷たいけれど、街の雰囲気は、何だか暖かいね」
「楽し気な街、いいですよね」
 外へ出たマルクは、折り畳み傘を取り出そうとするリンディスを片手で制し、大きい傘を一つ差して隣へ誘う。
「ええと、じゃあ……」
 どうぞ、と言う招きに、お邪魔しますと控え目に彼女は収まった。
「人が多いからね、こっちの方が良いと思うんだ」
「……それなら、ほら、あんまり傾けると濡れちゃいますよ?」
 少なくない人波を避け、自分の側へと傘を寄せるマルクへ、彼女は身を添わせて歩いていく。
 そうして、屋台を一巡り。穏やかに時間を過ごして、ふと、テントの様な休憩小屋で二人は一度離れる。会釈を一つ入れ、駆け足にいくリンディスの目的は、飾り小箱とリボンのセットだ。
 自作したチョコと包装を小箱に潜め、ラッピングしてから休憩所へ。
「……喜んでくれたら、いいんですけど……」
 戻った彼女は、贈るより先に花束を貰う事になる。12本のバラを飾ったモノで、その意味するところを、二人はまだ、知らない。

「私、チョコはあまり食べたこと無いです」
 と、そう言う寿を連れた千尋は、屋台の食べ歩きをしている。ちらりと横目で見れば、見たことが無いと言わんばかりの興味を示す姿があった。
「これはチョコバナナ、こっちはケーキで、こいつはフォンダンショコラだ」
「フォンダンショコラ」
 説明に復唱する寿に、千尋は二人分で買ったそれを手渡した。観察し、恐れず小口で齧れば、焼き上げられた中に溶けたチョコの甘さが溢れだす。
「美味しいかい?」
「とても!」
 一口、二口で満足する少女の分を、千尋は自然な動きで他を勧めて交換。少食だと言うことを知っているので、丸々食べていた。
(優しい方です)
 そんな心遣いに、寿はそう思う。知らない物を紹介されながら行く道程は、胃にも心にも充足があった。
「じゃ、ラストはチョコレートフォンデュだ!」
「ふぉんでゅ!? まるで滝の様に……!」
 吹き上がり流れ落ちる液体チョコ。そこに、好きな具材を浸して食べるのが流儀だ。ノリノリで選ぶ千尋は一口サイズの焼き餅を取り、緊張の面持ちの寿はマシュマロを選んだ。
 それぞれで浸し、取り出して。
「折角だから食べさせあいっこでもするか! ほれほれ、あーんして」
「あ、ん……んん、とってもおいひいです!」
 パクっと頂く。咀嚼して、味わい、お返しに。
「あーん……ふふ、少し照れてしまいますね」
「ヒュー! 寿ちゃんがフォンデュしたやつは最高だ! この為に生きてきたって感じ!」
 大袈裟とも本気とも取れる千尋に、寿は微笑んでいた。

「ここなら雨風凌げるよー」
 と、レイリーの呼び声に集まった三人は、冷えた身体を僅かに震わせながら一息を吐いた。
「急に降ってきたなぁ。皆、大丈夫か?」
 ミーナの言葉に、やれやれと首を振ったのはアリシアだ。常備していた黒薔薇柄の折り畳み傘を片付けている所に、横からアイリスの抱き付きを受ける。
「こういう日の雨は困るのよ~」
 時期的にもまだまだ寒い。身を寄せあっても、それは解消されないだろう。
「まあこうなるよな」
 と、突発的ながら、したり顔のミーナが用意していたタオルが三人の頭にふわりと乗せられる。やけに準備のいい、まるで解っていた様な、
「いやほら、私、ギフトで天候の予測出来るし」
「じゃあなんで止めなかったの……?」
「濡れ透けた皆が見たかゲフンごふん」
 欲望が過ぎる。
 アリシアの半面に顔を逸らすミーナは、とにかくまあ拭きなよと話題の転換を試みた。アイリスの「仕方無いなぁ」という生暖かい視線が刺さる。
「あ、そうそう、今日はこんなものを用意してきたけど、食べる?」
 と、レイリーが机に置いたのは水筒だ。割れにくい携帯カップを人数分と、それから箱に納まったチョコレートがある。
「実は、私も」
 アリシアが鞄から取り出すのは同じく水筒と、クッキーサンドが並べられたボックスだった。
 レイリーは紅茶、アリシアはハーブティと違いもある。
「あ~、お菓子あるなら食べた~い~」
 輝きを得た瞳で手を伸ばしたアイリスは、掴むと同時にチョコとクッキーを手のひらに食べさせる。左右で感じる甘さと食感の差にほんわか笑う彼女は、カップを摘まんで紅茶を一口、口で啜った。
「あ~、私も一応持って来てるんだ~」
 と、満足と共に思い出した風で出したのは、チョコのバームクーヘンだ。既に切り分けられていて頂きやすくなっている。
「濡れる事を度外視すれば、雨天のパーティも良いのかしらね」
「たしかに、こんなお茶会新鮮よね」
 口を開けるアイリスへとチョコをひょいっと入れながら、
「それにしても、皆準備いいよなぁ……」
 ある意味では今回、一番準備の良かったミーナの呟きにレイリーは笑う。
「バレンタインだしね。ほら、あーん」
「あむ」
 もぐ、もぐ、ごくん。噛むほどに広がる甘さを飲み込んで、ハーブティで流す。
「じゃ、ミーナ? お返しは期待しているわね」
「いや、まあ、ちゃんと私だって用意してるって。そりゃあね。そう言う日、なんだからよ」
 雨音の茶会は静かに続く。

 生憎の雨だった。それでも、世界と共に出掛けられる事が嬉しくて、メーアは笑顔で傘を差して行く。
「目標は全店踏破だ。メーア、今日は忙しくなるが、しっかり付いてきてくれよ?」
「任せて、シャイネンナハトの絨毯爆撃を経験した僕に怖いものなんてないよっ」
 そして二人は行く。主導は基本的に世界だ。
 屋台を観察し、商品を一通り目で撫でる。それから買う物を選ぶのだが、世界には購入基準があった。
 食べたことが無い物、もしくは、入手が難しい物などだ。好みはまた別として、自分用の買溜めとしていく。
「……」
 そしてその間、メーアは世界をじっ……と見ていた。
 何を見て、何を選ぶのか。いや、何を欲しがり、何を好むのかを見ていたのだ。
「ひょっとして欲しいのか? 欲しければ買わないと、手に入らんかもしれんぞ」
「へぁ?」
 そんな視線を受ければ気にならない筈もない。訝しげな気配に慌てたメーアは作り笑いで答えつつ手を振る。
「いやあほらいろんなチョコって目移りしちゃうから甘いものをこれまでいっぱい食べてきた世界さんのチョイスを参考にしようかなーみたいなそんな感じのあれなそれなんだよっ、ね!」
 例えば、と。
 余り見ない味付けの物とか、逆にとてもシンプルなものとか。
 その場のケースに並ぶ見本を見て、店員へと質問を飛ばすことでその場をメーアは乗り切った。
 と思うことにした。
「あ。ね、世界さん! 食べ比べ、してみようよ!」
 それから暫し経って、お互いにそれなりの量を得た頃合いを見計らったメーアはそう提案する。
 露骨に眉根を寄せた表情を浮かべる世界の態度はいつも通りだとスルーして、トリュフチョコを摘まんで差し出していく。
「はい、あーん」
 あ、これ良い感じに見えそう。
 食べさせた事で狙いを完遂したメーアは含み笑い。だが、事態は思わぬ展開になっていく。
「じゃあ次は俺の番だな」
「えっ」
 お返しが来たのだ。食べ比べと言いつつ、一方通行のつもりだったメーアにしてみればそれは不意打ち以外の何者でもない。
「いつもの塩対応じゃない……というかこれ、今日買った奴じゃないよね? ちゃんと見てたんだから!」
「さあ、見過ごしてただけで実際買ってた――のかもよ?」
「~~っもー! 世界さんのばかぁ!」
 出自不明のチョコを食らい、にゅるりと女性体へ変じてしまう衝撃を食らってしまうメーアだった。

 屋台を歩くヨゾラの手には袋が2つある。一つは、領地へと持ち帰るお土産の袋。
 もう一つは、ゴミを入れる袋だ。
「可愛い猫が多いからね……」
 猫にチョコの成分は毒だ。与えるのは勿論、近くにだって置いておくのは恐ろしい。
 だから、彼はその場で買った物はその場で食べるのだ。
 甘い、苦い、楽しい面白い美しい。チョコの見本市みたいなこのイベントで、自分の為だけのチョコを手にいれて口に入れていく。
「チョコは良いよね、はっぴーぐらころー!」
 テンションも高めで回る。猫用おやつと義理クッキーは適度に集めて。
「ふぅ……待ってて、領地の猫達ー!」
 お土産を片手に、ヨゾラは行く。

「やれやれ、こんな日に雨とは」
 苦笑を浮かべる才蔵は、ローレット内の椅子に腰掛けている。空気、というより、雰囲気の浮わついた街は落ち着かなくて、結局ここに辿り着いた、という感じだ。
「ついていなかったね」
「ああ……お邪魔して悪いね、ミス・シズク」
 察したシズクの言葉に彼は頷く。元々、買い損ねていた分の調達が目的ではあったが、事前に用意しておかなかった自らの手落ちもあるだろう、と。
「話し相手が居たのは助かったがね」
「愛想無い相手じゃ物足りなかっただろ」
「そうでも、あったかもしれないが」
 冗談めかしつつ外を見る。窓の向こうに水溜まりは穏やかで、きっと雨は止んだのだろう。
「そろそろ行くよ。お礼、といってはなんだが、チョコをどうぞ」
「ありがとう、また仕事の時にでも」
 立ち上がって一礼をした才蔵は、扉を開けて外へ出た。

「雨はやーですにゃー」
 パラソル下の椅子の上。みーおは四足を伸ばして嘆きをあげる。
 ぶるるっ、と身体を震わせて、水気を辺りに吹き飛ばしたいのを理性で我慢。他の人もいるのだから、そういう心配りはとても大事なのだと知っている。
「にゃ」
 手持ち無沙汰な一時、ふと気付くのは軽快な音楽だ。それは少し離れた特設舞台で行われる演目で、みーおは合わせる様に、無意識に身体を揺らしていた。
 ふみ、ふみと、足に掛かる重みはまるで生地を捏ねる様で。
「はっ、パン屋!」
 留守番を任せていた事を思い出した。雨の終わりを感じて、日向に寝転がりたい欲を飲み込み、みーおは跳んだ。
「今日はぐらころ? でチョコが売れるそうですにゃ。みーおは駄目と言われますにゃけど……ともかく急いで戻るーですにゃ!」

 繋がる手に暖かさを感じた。
 ヴァレーリヤとマリアは二人、パラソルの下で身を寄せ合う。
「困りましたわね」
 ヴァレーリヤが言う。買い物の荷物が無ければ、走って行けるのに、と。
「こんなに良い天気なのに、雨なんて降るんだね」
 と、マリアは返した。不思議と綺麗に見える、沈んでいく夕日に目を細めて。
「すぐ止むと思うけど、ヴァリューシャは寒くないかい?」
「ふふん、ゼシュテル人ですもの。こう見えても、寒さには強くってよ!」
 温かい。吹いた風も、湿る空気も冷たいのに、温もりはそこにある。
 息を吸い、吐いて、空を見てからマリアは正面を向いた。
「今日は1日楽しかったね! あとは、雨が止んだら広場に夜景でも見に行こうか! その後は食事でもどうだい?」
 ちら、と横目。ヴァレーリヤはその誘いに笑みを浮かべて頷いている。
「良いですわねー! 夜景の見えるお店でご飯にするのも良いかも、ですわね!」
 マリアは安堵の息を飲み込んだ。もしかしたら繋いだ手に力が込もって、緊張を感じ取られたかもしれないが、ともかく、誘うことには成功した。
「君と出会って……たくさん遊んで……冒険して……仲良くなって」
 今日、確実に変わると、彼女は知っている。
「私ね、幸せだよ! これからも、一緒にいてね!」
「あら、急にどうしましたのマリィ? でもありがとう、私もとっても幸せでしてよ!」
 この幸せが同じ感情なのかまだ解らないけれど。
「これからも二人で色々な場所に行って、たくさんの思い出を作りましょうねっ!」
「勿論! ……ああ、雨止んだね。それじゃ、行こうか!」
 あの夜から続く、不安と幸せの日は、この後、終わりを迎える。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 特別な思い出になっていれば幸いです。

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