シナリオ詳細
再現性東京2010:年次最終学力試験のおしらせ
オープニング
●絶望の音がする
そこはまるで――《東京》であった。
再現性東京――それは練達に存在する『適応できなかった者』の過ごす場所だ。
考えても見て欲しい。何の因果か、神の悪戯か。特異運命座標として突然、ファンタジー世界に召喚された者達が居たのだ。スマートフォンに表示された時刻を確認し、タップで目覚ましを止める。テレビから流れるコメンテーターの声を聞きながらぼんやりと食パンを齧って毎日のルーティンを熟すのだ。自動車の走る音を聞きながら、定期券を改札に翳してスマートフォンを操作しながらエスカレーターを昇る。電子音で到着のベルを鳴らした電車に乗り込んで流れる車窓を眺めるだけの毎日。味気ない毎日。それでも、尊かった日常。
突如として、英雄の如くその名を呼ばれ戦うために武器を取らされた者達。彼らは元の世界に戻りたいと懇願した。
それ故に、地球と呼ばれる、それも日本と呼ばれる場所より訪れた者達は練達の中に一つの区画を作った。
再現性東京<アデプト・トーキョー>はその中に様々な街を内包する。世紀末の予言が聞こえる1999街を始めとした時代考証もおざなりな、日本人――それに興味を持った者―――が作った自分たちの故郷。
――ならば『故郷を再現するため』『日常を謳歌するため』に『学生として』欠かせないイベントが存在した。
ここまでつらつらと希望ヶ浜について書いたが、それは現実逃避に過ぎない、学生ならば当たり前のようにそのイベントは存在した。
そう、テストである。
期末テストがやってくるのだ。バレンタインデーだとか、春休みが楽しみだとか言っている場合ではない。
年次末のテストは無情にもやってきて絶望の音を木霊させてくるのだ。恐ろしい。
「――と、言うわけで、希望ヶ浜学園生の皆さん。テストです」
そうしらっと言った音呂木・ひよの女史。因みに彼女は成績上位者でテストに絶望を感じない方の人種である。
希望ヶ浜学園では2月に年次最終学力試験が行われる。
幼稚舎から大学まで、一斉にその時期ではテストがあり部活動は『テスト休み』に入るために放課後は静けさが漂っている。
だが、流石に『希望ヶ浜学園』は地域有数、外から見ればエスカレーター式の進学校であるために其れなりにテストは重視されているようだ。
「……あ、普通に留年とかありえますよ」
本当ですよ、と。ひよのはにんまりと微笑んだ。
勿論、残念ながら希望ヶ浜学園のテストでは特待生バフはつかえない。学食や寮が無料になったり学費さえも無償である特待生でも成績からは逃れられないのだ。
「そういえば、勉強の方はお得意ですか?
……まあ、得意か、得意じゃ無いかと言うよりも、『対策はお済みですか』? の方が良いのかも知れませんね」
ひよのは肩を竦める。ひよのは対策ノートを『先輩』よりゲットしておいたから今回も楽勝だと微笑んで居るが、対策を怠れば成績が真っ赤に染まることは間違いない。
赤点になり春休みに補習という名前の悪性怪異:夜妖よりも手強い相手を倒さねばならないのは中々に骨が折れる。
因みに、学校は別だが毎回この時期になると勉強を教えて欲しいと泣きついてくる綾敷・なじみと共にひよのは希望ヶ浜学園の図書館で勉強会を開いているのだそうだ。
皆も、同じように勉強会を開いてみるのはどうだろうかという提案なのだろう。
「まあ、皆さんがお忙しいことも知っていますので、対策を皆で始めましょう。
テストまでまだ時間もありますから、頑張りましょうね! 目指せ、成績優秀者、です!」
――因みに、成績が優秀者は学校から表彰されてちょっぴり良いボールペンを貰えたりするそうだ。
合わせて学食でスペシャルランチやメニューを頼むチケットをゲットできる為に、この時期のテストはある意味で競技に近い。皆が成績優秀者を目指して競い合っているのだ。
「あ、 ……夜妖には気をつけて。何処にだって、居ますからね。
夜妖に構ってばかりでテストに出席し忘れた、なんてなったらもう……涙も溢れんばかりですよ!」
- 再現性東京2010:年次最終学力試験のおしらせ完了
- GM名夏あかね
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2021年02月26日 22時05分
- 参加人数54/∞人
- 相談8日
- 参加費50RC
参加者 : 54 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(54人)
リプレイ
●
「やばいやばいなんで一夜漬けしてんの俺。
完全に油断してたくそぉなんでこっち来てテスト受けなきゃなんねぇのかな……」
それは誰もの叫びだった。頭を抱えた零は一応高校行ってたけど召還されて中途半端だったからよぉーーーーー!」と呻いた。
確かに強制的な召喚が自身へと齎した不利益を帳消しにして勉学に触れる良い機会なのかも知れないが……
「それとこれとは話は別と言うかちくしょーー!」
誰かに教わる選択肢は中々難しい。誰かに話しかけて要らぬ緊張をして憶えたこと全てが何処かへ抜け落ちることも恐ろしいのだ。
「俺がある程度コミュニケーション取れるようになったのある種の必要に迫られたと言うやつだから正直学校てやるの超ムズいんだからね?
……現実逃避はそろそろやめて勉強…やるかぁ」
全暗記のためにテスト範囲だけはゲットして一夜漬けに臨みたい――そんな零を救うのはもしかすれば山田君みたいな救世主なのかもしれない。
「あああああぁぁぁぁぁ!!! テストあること忘れていたっすうううう!!!!」
リサは叫んだ――! 理数系は工業系の知識でカヴァーできようとも文系科目は難しい。
作者の気持ちを述べよという論述問題なんて「さっさと給料寄越せ!」「しんどい!」「ねむい!」位なもんだろうとリサ波佐見だ。
「まずは教科書の範囲全部読み込んで一旦脳内に情報を残し、そこから抽出&エラー修正の繰り返し……スヤァ」
「おや。英語なら教えようか?」
「ほ、本当っすか!?」
がばりと起き上がったリサへとモカは頷いた。非常勤英語教師であるモカはStella Biancaも経営多角化の一環で学習塾を構える事を考えていたらしい。
これは渡りに船だ。英語がカバーできれば安心なのである。さあ、折角だからカフェで珈琲でも飲みながら教わろう!
「再現性東京の教育の質って幻想とは段違いね。これだけの知識を若い間から叩き込まれるだ何て、ここは将来のために有能な軍略家でも育てているのかしら……」
そんなカルチャーショックを憶えるのは九尾・理愛先生ことリアである。
「もうすぐ試験だって。ね、よかったら教えてくれるかい。リアせんせ? なに教えてもらおっかなー」
そこそこ真面目に勉強する木でリアに声を掛けたシキではあるが、リアが先生をしているのが新鮮でつい、頬が緩んでくる。
「そういえばリアって勉強できるの? 私はー…さて、どうだろうね? 人並みにはできると思うけど……あ、でも国語は結構好きだね」
「一応、ちっさい頃からジジイの教育を受けてきたけど……まぁ、それは置いといて……へぇ、シキはコクゴが好きなのね」
物語の登場人物の感情を考えるのが好き、と微笑んだシキに「いいものね」と頷いたリアは頭痛を感じて頭を抑える。
「リア?」
「……あぁ、大丈夫。最近、頭痛が酷くてね。ほらほら、それより勉強しないと! テストはもうすぐなのだぞ、学生シキ君?」
テストは普段からの積み重ね――と言うらしい。復習もそのうちだとポテトは教科書と睨めっこ。
夫でアル国語教師のリゲルは「この一週間は君は料理はしなくて良いんだよ。その分勉強に時間を用いてくれたらと思う」と甲斐甲斐しくサポートを。
「ってリゲルもテストの準備とかあるだろう? そこまでしなくて良いのに……でも、有難う。
テスト終わったらいっぱい美味しいご飯作るから、テスト終わるまで宜しくな?」
「OK。今日は何が食べたい? 夕食でも夜食でも、なんでも作るよ。ああでも夜更かしは体に悪い。規則正しく夜は休んだ方がいいかな」
甲斐甲斐しい夫のサポートにポテトはつい笑みを零す。疲れたときにはリゲルが準備した和食を。青魚メインで味噌汁も添えられている。
その優しい味にほっとして、疲れただろうと肩を揉んでくれる彼に「質問良いか?」と問い掛けた。
彼のサポートでテストも屹度、完璧なのだ。
「吾輩にわかる範囲であれば説明しよう」
教師と生徒。立場で言えばアウトな気もするが担当生徒で無ければ問題なく、共に住んでいるのだから致し方ないとグレイシアはルアナの差し出す数学の教科書を眺めて居た。
「おじさま。そういえばこれ分かる? 公式通りに解いたはずなんだけど」
ケーキをフォークでぱくり。ルアナが問い掛ければグレイシアは分かりやすいようにと問題を解いてゆく。ルアナがより理解できるようにと暗算した部分もノートへと書き留める。
そんな彼の横顔に何してても格好良いとルアナの頬は緩んでいた。
「どうだろうか」
「あ、わかった! おじさま凄いなぁ……」
やや合ってから正解を導き出した彼に感嘆し「…おじさまには、できない事なんてない気がする」と期待に笑みを浮かべれば彼の様子が何時もと違う。
「理解できたのならば良かった。
……吾輩にも出来ない事はある…人より長く生きてる分、活用できる知識が多いだけだ」
照れているのかと問い掛けて見上げれば照れ隠しに珈琲を啜った彼は「そういうわけでは無いが……他に分からない問題等はあるだろうか?」と誤魔化した。
●
時々いるおじいちゃんみたいな高校の先生――のレベルで溶け込んでいる文。
生徒には忘れられているかもと、朝活動や放課後に古典や漢文を教え続ける。因みに彼は中々名前が出てこない影がとってよも薄い教職員である。
人数分のお茶を淹れても夜妖の一部と化している。けれど彼は文明の利器の使用方法は知らなかった――試験用紙はみんなで徹夜してガリ版刷りすると思っていた。
「ゑ?」
きょとんとした文の前で他の教師がついでというように試験用紙を印刷しているのを眺めて居た。
『テストとは、点数が悪いのは理解できない授業をした先生の所為だからね君は悪くないよ』と教師が心労で痩せるイベントだ。さて、それが迫ってきているのだ――
「……試験か。モーント……お前なら以前に聞いたかもしれないけど、俺学校行ったことないんだよ。
生物兵器として作られ、目を開けた時にはでっかいもふもふだった。ヒトとして過ごし始めてからは肉体年齢で20代からで、学校という青春の場が、友達が作れる所が羨ましくて……生徒だったけど。
俺は……ここまでのようだ。俺の分も成績優秀者を目指せ……ケアレスミスを防ぐ為の確認と分からない所を飛ばして後でやる事を忘れるなよ。ばたり」
倒れたウェールのそばでモーントは首を傾いだ。まるで何を言ってるのか理解できないとでも言うような表情だ。
「希望が浜学園、多種多様の学問を体系的に学べる場なのはすごく面白い……けど……やることが多いね……生物とか体の成り立ちは面白いけど、人間種だけなのが残念。仕方ないけどね」
アクセルはテーブルにつっぷしながらうだうだと勉強を。颯也はモーントに「教えてよ!」と瞳を輝かしている。モーントは一応は教えることは可能だが、範囲は誤差があると困り顔である。
「アクセル先輩……自分のテストで手一杯な俺が颯也に今すぐ教えたら……認めたくないっすけど、点数が恐ろしい事になるっす。ドジにドジをかけてもプラスにはならないっす」
「うーん……ま、まあ、ともあれ、無事に終わったらグラオ・クローネ……バレンタインデーは我慢してたぶん楽しもうね!」
この後はアキラやマティアスとも合流予定。賑やかな勉強会になりそうだ。
「体育とかなら満点取れるのになー」
そう呟いたのはカイト。今日は人間の姿である。専門の航海術に関しては出来るが1年生は共通科目が多い。
「英語とかはバベルの力でなんとかなるかもしれない。生物は得意だぜ! 魚と鳥と植物は詳しいぜ!
物理? 勘と経験! 数学? さっぱりだぜ! ……あー、やっぱ体動かしたい!!!!」
所がどっこい文法などはバベルでも何ともならない。そんなテストがそこには待っていた――
「このページ終わったらバスケしよーぜ! 体動かせるのならなんでもいい!!」
同級生達は「シャルラハ、勉強しろよ」と揶揄うように声掛ける。
「ついにやってきた学力試験……勉強はしたくないけど結果が残るなら真面目にしないとだね。こうみえてやる時はやるのだー!」
あまりやれそうにない(ががーん!)なスティアの傍らでサクラは数学と日本史が分からないと頭を抱えていた。
「サクラちゃんは日本史と数学が苦手なんだね。でも日本史は意外だなぁ。
合戦の話とか出てきたりするから興味があるのかなーって思ってた!」
「日本ってどこ! 異世界の国の歴史なんて全然わかんないよー!
徳川なんとかってみんな似たような名前だし! 徳川1世とかで良くない!?
数学は普通の計算はわかるけど二次関数って何!? さっぱりわからない! 助けてスティアちゃーん!!」
叫んだサクラにスティアは「んー」と頭を捻った。ええと、とノートにシャープペンシルを走らせる。
「2次関数はあんまり難しく考えなくてよくて、1次関数の時はXが1つだけだったけどそれが2つになったと考えるだけでいいかな?
だからXをXでかけて最後に数字をかけるって感じで! だからグラフにすると放射線状になるの!」
「うぅ…スティアちゃんが謎の呪文を唱えてる……1次関数も難しかった私には何が何だかわからない……バベルが機能してないよ神様……」
――立場が逆だと思っていた大多数は数学が得意なスティアに驚いたのだった。(ちなみに、サクラは目を伏せて「分からない」と微笑んだ)
静かな図書室に響くのはペンの音。かりかり、と擦れる音ばかりが響くその空間は月夜にとって苦手な雰囲気であった。
だが、贅沢も言っては居られない。予めPINEで連絡しておいたひよのが準備してくれた対策ノートと教科書に真面目に向かい続けるだけだ。
「音呂木、これ」
「ええ。これは――」
実に分かりやすい。月夜がひよのに勉強を教わる切欠は音呂木神社を護るという仕事である。
「教えるのが上手ェな」
「そんなことないですよ」とひよのはぱちりと瞬いた。澄んだ空の色の瞳はその言葉とは裏腹に嬉しそうに細められる。
「いいや、分かり易いし覚えやすい。俺でも勉強が出来ている気になりやがる。澄ましたその顔面の皮を、守った甲斐はあったな」
「……ふふ」
目を細めたひよのに月夜は「オメーも大変だな、巫女だかなンだか知らねェが。俺も似たようなもンか、特異運命座標だってよ、笑っちまう」と告げてからゆっくりと立ち上がった。
「あら。どこへ?」
「飲み物買ってくる。テメェは? お礼とかじゃねーぞ。俺が飲んでるのにテメェが何も飲んでないのは気まずいだろ」
「なら、一緒に行きましょうか」
――知恵は血となり力となる。
それはテリエルの故郷の友人が語った言葉である。
「……故にこの学力試験は私の知恵に対する挑戦状であり、私の力を測る場。
ただ黙々と筆を走らせ、数式を、文学を…黙々と…もぐもぐと…」
チョコレートを頬張り続ける。頭を働かせるルーティンだというように甘い物を享受してエネルギーとかしていく。
甘い物は頭を働かせるとテリエルは皆にバスケット入りのキャンディを押しつけようとしていた。不利益が生まれるわけでは無い。眠り薬や虫歯や毒なんて、そんなものは無いのだ。
「甘い物は要らない? 徹夜? 一夜漬け? そんな付け焼き刃、本番じゃ通用しないよ、私はそういう『残業』はしない主義だ。
徹底的にパターン化して積み上げたものこそ、あらゆる場で切り抜ける知恵と力を生み出すんじゃないか?」
「ふむ。曲りなりにも、臨時講師として働いている身の上。ここは一つ、見知った生徒を見に行ってみるとするか。
――という事で、様子を見に来たのだが。苦戦しているようだな、なじみ?」
本来は学校が違うが、ひよのに勉強を見て貰って居るのだろうなじみは彼女に泣きついてひいひいと勉強していた。
汰磨羈は概ねどういう状況か察することができると肩を竦める。
「いいだろう。ここは、私が一肌脱いでやる。ここからは、たまき先生の楽しい課外授業タイムだ!
安心しろ、ひよの。こう見えて、元居た世界では教導官を務めていた事もある」
眼鏡をくいっとしてアピールする『たまき先生の伊達眼鏡』はきらりと輝いている。
なじみは汰磨羈にとっては大事な猫仲間だ。同類の危機は見過ごせない――が、勉強嫌いのなじみを克服させてやる為にはどうしたものか。
「実は私も、大昔ではそうだったからな。気持ちは良く分かるぞ。
だからこそ、今のうちにきっちりと『効率の良い学習方法』をたたき込んでおくべきだとも思っているが……言っておくが、勉強は苦しい方法だけが全てでは無いぞ?」
「美味しく学びたいんだぜ!」
――其れは一寸無理かも知れないが、何か工夫してやることは出来るかと『たまき先生』は考えたのだった……。
●
「ふふん、私に掛かればこの程度、余裕の満点でございますわー!
マリィ、何か分からない事があったら遠慮なく聞いて頂戴ねっ! すぐに私が……(ヴァレーリヤは教科書を開いた)教えて……(ヴァレーリヤは首を傾いだ)これはもしや、暗号文なのでは? 満点を阻止するために教科書に暗号を仕込むとは、なかなかやりますわね……」
ごくり、と息を飲んだ鉄帝人、ヴァレーリヤ。そんな彼女におろおろしたマリアは「ヴァリューシャ!? 分からないものは仕方ないよ!」と獰猛なる虎の爪を隠してそう声を掛けた。
「私に任せて! こ、これはねー……」
意気揚々と教科書を開いたマリアの声は徐々に窄み、震えていく。
「……ヴァリューシャ♪ 教えて?」
「ええ、ええ! 諦めるわけには行きませんわっ! 私のプライドにかけて……かけて……」
――どれ位の時間が経っただろうか。気付けばヴァレーリヤは夢の中。0点にしようとする何者かの陰謀を交わせないままでいたマリアは眠りに着いたヴァレーリヤをそっと覗き込んだ。
「……静かだと思ったら……」
頬を突けば、「んー」と小さく唸る声がする。ああ、それさえも可愛らしい。無防備な寝顔に胸が締め付けられる様な気がしてマリアは囁いた。
「――大好きだよ」
誰も居ないから。頬にそっと唇を落として。
「着ぐるみのフリをすれば練達の方たちにもバレないはずでございますわ! やはりトラコフスカヤは天才ですわね!
お二人が大きな建物に入って行きましたわ! ご主人も親分も幸せそうですわね……ご主人!? あれはキス! はわわ……!」
――以上、トラコフスカヤちゃんが見た! なのである。
――ふと気がつくと、ワタシはひんやりとシタ室内にイタ。微かに古びた紙のような匂いがスル。
モアレは周囲を見回した。沢山の書物の棚が並んだその空間では本を読んだり書き物をしている生物が疎らにあった。
――ふと、ワタシはその空間の、座っている椅子の前にある机に鎮座されている、1枚の紙切れに気がツイタ。
紙切れには『年次最終学力試験』と書かれている。注意書きや参考書物が丁寧に並べられているのを見詰めてからモアレははっと気付いた。
(……これは……試されてイルのかもしれナイ……)
――ワタシはソレに目を通し、「図書室」の札が表にあるその部屋の棚から「おともだちパンチ」という題名の本を引き出シタ。
どうして……。
希は勉強していた。混沌世界に来るまでは不老不死出会ったが故に、学生として学校に潜入する事が多々あった。
故に勉強果たし居て問題では無いが――どうしてするか、がポイントだ。
ラサのファルベライズでの動乱で彼女は敵対した子供の傭兵部隊オンネリオンの兵士であった子供を引き取ることにしたのだ。
まだ手続きは済んでいないが、子供には子供らしく勉学に励んで欲しい。最低限の知識は求められれば与えられるように、と。
長い人生で育児という経験はほぼない。故に、不安ではあるが少しは日常に彩りが戻ったと感じていた。
「……こんな苦労も悪くない、か」
呟いて、小中学校のテキストと一緒にふと眺めたのは中学生用の女子制服であった。
「よし、会長は偉いからテスト勉強しよう! 羽衣教会のみんなと一緒に勉強だよ!
まぁ会長レベルになると、もはやわかんないとことかないからね!ㅤなんでも聞いていいよ!」
えっへんとした茄子子にクラスメイト達が「これは?」と問い掛ける。ちょっぴり答えられるかを疑った結果だ。
「え、その問題は……」
――こそこそと、振り返る。
(ひびくん、これ問題はどう解くの!)
すっとカンペがあがった。公式がしっかりと記載されている。目立つ女子制服姿の日々林 ひびである。
「こういう感じ!ㅤここの式をここに当てはめたら簡単でしょ!
よしよし、ちゃんと教えられてるね! これでテスト当日も完璧!
完璧だ!ㅤこれで会長の株もあがるね! ありがとうひびくん!」
ひびのカンペがもう一度上がった――『会長、他の子にはバレてます』と。
「民俗学の田中Tって顔がけっこーハンモ好みのややダンディだから受講したけど、内容がお堅い感じで頭疲れるね~。でも1日落ち着いて勉強できたしテストは大丈夫そうかも☆」
繁茂はうーんと背伸びを一つ。「ただいまー」と帰ってきた亮へと「おかえり~」ととても自然な様子で繁茂は返した。
「えっ!? 繁茂さん!?」
「えっなんで家に居るかって? 亮ちゃん家の鍵持ってるし~。
まぁまぁ何もタダで上がり込んでるわけじゃないってば。ほらっ! タコ焼きの材料と一度に30個焼けるタコ焼き器! 一緒に腹ごしらえしよぜ☆」
「タコパじゃん! いいね。リリファも呼んでくる。ちょっと待ってて繁茂さん!」
慌ててaPhoneでリリファに連絡を取る亮を見詰めながらいそいそとタコパの準備を始めたのだった……。
●
「ち く し ょ う 。
『人殺しのツラ』だの『どう見ても堅気じゃない』だの『お前のような教師がいるか』だの好き放題言いよってからに……!
何が悲しゅうて今さら学生やらなアカンねん! 俺が学生やっとったんは何年前の話やと思っとんねん!」
図書館で苛立っているハロルド。バベルで何とかなるかも知れない語学はさて置いて、他が壊滅的なのだ。
テストまでは1週間しかないと言うのに――「これで出来るんか? ほんまに? いや、教師アホやろ1週間やで」とハロルドは頭を抱える。
古典教師のアーリア先生はカンニングを考えずにがりがりと勉強するハロルドを見つけ、亮に「教えてあげれば?」と声を掛けた。
「俺、数学なら分かるよ、ハロルドさん」
「私も教えましょうか」
ひよのと亮の傍らでは試験傾向を教えて貰おうとちょこりと座るメイメイの姿がある。
「テスト……良い、結果を残す、と、スペシャルランチのチケットが、いただけると、聞きました……!」
ふんすとやる気十分で。メイメイは闇雲に勉強せずに努力をすることに決めていた。
「じゃあ、メイメイさんに教えますね」
「ええ、よろしくねぇ! じゃあ、先生は見回りに行くから」
めちゃくちゃ教えて欲しそうな顔をしてひよのを眺める秋奈。
「どうかしましたか? 授業で習ったでしょう?」
意地悪なひよのに授業を受けてなかったとショックを受けた顔をして、宿題が溜まっている事から目を背けてSNSを覗いたところを注意される。
「こーら」
「……!」
叱られた事がちょっぴり嬉しくて笑みがこぼれた秋奈はひよのが出した課題にショックを受けたように彼女を見た。
「まあ、きちんとお勉強できたらご褒美あげます……って、秋奈さん凄い勢い」
後輩の驚く勢いに瞬いたのも束の間――数時間で魂の抜けきった秋奈は徐々に夢の中、なのであった。
「ふむふむ、なるほど……この公式は……そういう……
はっ、だいじょうぶです。……乗り越えた先に、スペシャルランチが、待っています、ので」
まだまだメイメイはやる気十分だ。テストの結果には期待しておこう。
「僕たちは大体の教科で心配はないけど、こういう試験は気を抜けないものだからね。
気合を入れるってわけではないけど、少しは勉強しておいたほうがいい」
アオイが使用する希望ヶ浜の一室でリウィルディアとアオイは机を挟んで二人で勉強会を行っていた。
「ゆるくやるつもりだし……チョコとかの菓子に珈琲……紅茶なんかも一応あるけどリウィルはなんか希望あったりするか?」
「そうだなあ。あのチョコと棒のお菓子はどう? あれなら手も汚れにくいし。飲み物は紅茶をもらおうかな」
OKと軽く返された言葉にリウィルディアは教科書をぼんやりと眺める。そうしていつも通りを謳歌するのだ。
「リウィルはどの教科の勉強したい感じだ? 俺は国語と外国語以外はだいたい大丈夫だと思うんだけど……」
「うーん……僕は化学、かな。練達で触れることはあっても、元々僕の周りでは馴染みがなかったからね」
ならば、互いに教え合うことが出来る気がすると二人でああでもないこうでもないと言い合って。
「ふふ、お互い頑張ろうか。終わったらまた遊びに行こう?」
微笑むリウィルディアにアオイは小さく頷いた。あとは本番、終わったら二人でテスト打ち上げをしにいこう。
「ねー、Stella Bianca行こうよ?」
勉強なんて嫌いなの、と頬を膨らませたのはシャオジー。ふわふわとした雰囲気の彼女の傍で楽しげに勉強をするのはシャオジーだ。
「カフェを移動するの?」
ちら、とシャオジーを見遣ったドゥー。彼女はこくこくと頷いてカフェ巡りを提案してくる――が、今はテスト勉強中である。
「内容は簡単なレポートだって聞いたけれど、俺にとってはすっごく難しい。
混沌に来てから色んなことを学んだし、不可能じゃないとは思うけど……だから、頑張るよ」
「ええ……」
珈琲を飲みながらそう言ったドゥーにパフェをつついたシャオジーは勉強はつまらないと唇を尖らせる。
知らない事を知れるのが楽しいから。ドゥーの勉強の筆は進んでいく。そうやって沢山のことを知って行けますように。
生徒達に勉強を教えて欲しいと乞われたミルヴィ。音楽と緊急医療の知識は教えられるという彼女は教員だからねとウィンク一つ。生徒の力になりたいというものだ。
「でも科目は科目、しっかり教えるから覚悟しといてっ。いい点とったらご褒美あげるから♪」
そんな生徒達は音楽を懸命に学ぶ。先生の清楚な色気にアテられて男子生徒は心を躍らせているのだ。
「そうそう、そこの答えはアルトだよっ♪ んー、先生はアルトの声の男の子も渋いバリトンのオジサマも好きだよー」
人工呼吸の基礎知識を教えようとするミルヴィに生徒が「先生、俺と!」と声掛けるが――
「アタシと、だーめ、男女でしょっ、えっちな事考えないのー。メガネがイケてるキミとそこのたくましいキミとで練習だよっ。げへへ……眼福」
――そんな時間も長くは続かない。先生も勉強しよう、と眼鏡君(仮)が数学のテキストを押しつけてきたことに「いやぁ」と小さく叫んだのだった。
●
「まーだー、テス勉してる?」
「ま〜だだよ〜w」
「ww」
「眞田君、きみ今年全部単位とらないと留年するぞ」
クラスメイトの揶揄う声と――それから、先生である。
そんなことを思い出した眞田。蘇る1年前の春の記憶。涙が溢れた気がする。俺、今、泣いているのだろうか。
「嫌だ!なんで22歳にもなってテス勉しないといけないんだ!? 変な記憶思い出させやがって!
こんな所に居たくない、俺はもうゲーセンに戻る! 明日の心配は明日するってえらい人も言ってたし、何とかなるだろ。頑張れ明日の俺!」
叫ぶ眞田である。もう22歳にもなったのだからと足早にゲームセンターへと飛び込んだ。子供達が遊び回っているその場所に「君達今のうちに遊んどけよ!」と声掛ける。
「誰、あのお兄ちゃん」
「あとついでに俺も混ぜて! 遊ぼうぜ!」
遊んでくれるってーと子供が揶揄うように手招いた。本当にテストは意識の外――なのである。
「さて、さてさて」
テスト前である。花丸を誘った定はなじみにPINEしてテスト勉強のために放課後の駅前に集合したわけだが――
「なんで僕達クレープ屋さんに並んでるの?」
「うん、ちょっと現実逃避してた。ゴメンね? でもでもっ、甘い物を食べるとやるぞー! ってやる気が湧いて来るし! だよね、二人共っ!?」
「勿論さ!」
頷く馴染みに白い目のひよの。花丸の言葉に定は「天才じゃん!」と頷いて――「いや騙されないよ! 流されはする僕でもそんな子供騙しでさあ!」
因みに、花丸は特待生バフでなんとかなるだろうと感じていたが――そうも行かないのが学生だ。
「所で花丸さんとひよのさんって学校の成績はどうなの?」
「花丸ちゃんの成績はこっち来るまではそれなり……いや、普通かな? 師匠が勉強は大事だーって言ってたしね! ジョーさんは?」
「僕? 僕は現文や古典、現社なんかは得意だけど理数系はさっぱりさ。だから助けてくれ、いやホント、切実に、お願いします」
なじみが「ひよひよ頭良いよ」とひよのを突けば彼女は「一応」と言い淀む。因みに彼女は成績上位者である。
「ひよのさんっ。いや、ひよの先生っ! 花丸ちゃん達に勉強教えてください今度美味しい物でも何でも奢りますからっ! ほら、ジョーさんもなじみさんも一緒にっ!」
「では、あのスペシャルクレープで」
「「お、鬼ぃ~~!!」」
なじみと花丸の声が木霊した――が、さて、花丸は『スペシャルランチ』の為にやる気を見せるが定は一人、違うことを考えていた。
「じゃあ、何処で勉強しようか。女子の部屋に僕が入るのは不味いし……僕の部屋……」
――それも不味いので、図書館へ行こう! とりあえずはクレープを食べ終わったら、だ。
「試験かぁ……希望ヶ浜学園には友達がいるし、仕事上のメリットも十分に多いから編入を決めたけれど」
単位、取らないとなのかなあとワルツは呆然としながら呟いた。自販機で購入した炭酸飲料は喉を潤すが、心の迷いは拭ってはくれないか。
淡々と歩いていればプリントシール機が設置されるゲームセンターへと辿り着いた。通い慣れてしまったゲームセンターでそれは一段と目を引いた。
(あれってあの子と……)
クリスマスにはサンタクロースのコスチュームで共に撮影をした彼女。仲睦まじいカップルが照れくさそうに筐体へと入っていく様子を眺めながらワルツの脳裏には銀髪の彼女が浮かんだ。
(……もし私がこのまま留年し続ければ、一緒に楽しい大学生活を送れるのかな?)
わかりみ溢れる彼女との大学生活は楽しそうだ。夜妖さえ狩り続ければ誤魔化せるかもしれない。天才的だと考えたところで意識を逸らすように「けぷ」と息を吐いたのだった。
「……グゥゥゥ」
再現性東京には落ち着かない。それもその筈、アルペストゥスは『竜』であるが故に此の地では中々気を張り続ける事になるのだ。
だが、知っている匂いがする。すいすいと歩いて行くのはピンクの『かみかみ対象』だ。着いていくしか無い。
「お、バスティスさんじゃないですか! チーッス! 今から限定スイーツ買いに行きませんか!?」
「なんだしにゃちゃんかー。限定スイーツ買うのは良いけれどテスト勉強は?
可愛いというか可哀想と言うか、しにゃちゃんが良いならいいけどさ、どうなっても知らないよ?」
しにゃこはバスティスに「いやいや、可愛いから大丈夫ですよ!」と念を押す。さて、バスティスはううんと首を捻った。
「で、アルペストゥス君がいるんだけれど……いいの? 希望ヶ浜的に?」
見たことある猫の人に首を傾げられたとアルペストゥスは翼を広げて大丈夫だよアピールをする。
「え? アル君ですか?なんか玄関前にいたんですけどついてきちゃって……
スイーツ買いに行くって解ってるんですかね…あんまり目立たないようにしてくださいよ!」
皆目を背けるために何だかそう言う着ぐるみの生き物が動いてると認識してくれたのだろう。のしのしと着いてくるアルペストゥスに「まあいいや」と納得してバスティスは歩き出す。
「しかしいいですよねー、神様は勉強とか必要ないんじゃないですか?」
「神様は勉強必要ない? そんなわけないでしょ、トト様みたいな学問の神様なら兎も角、権能外は混沌の影響でデバフが酷いんだよ。
お蔭で勉強しないとカッコもつかない。仕方ないね。あたしは単語帳チェックしてるし、セーフだよ。糖分補給も出来る事だし一石二鳥ってネ」
「えっ、はぁー、テスト勉強をサボって食べるスイーツは最高ですね! でしょう、バスティスさん!?」
「あたしはセーフ」
「ええっ!?」
バスティスもしにゃこも楽しそう、と感じたアルペストゥスはばくりと口を開いて――「ギャウッ!」
しにゃこの手にしていたスイーツにしにゃこの手ごと齧り付いたのだった……。
「そろそろテストッスけど、クラスの皆さんも勉強してないって言ってますしまだ焦る時間じゃないッスね! 今日も皆で遊びに行くッスー!」
心を躍らしたイルミナは新しいぬいぐるみを探しましょうと『未来科学部』の部室用に買い物を――
「こういう時、なじみさんがいると色々と情報が手に入るのでありがたいんスけど……一応、連絡取ってみるッス!
あ、もしもし? なーじみさん! あーそびましょ!」
『わーーー! 遊ぼう! 今から!? あ、先生には見つからないようにするのだよ!』
ふふんと自慢げにそういったなじみ。テスト期間は先生達の見回りが確りしているのだ。念には念を。これからイルミナとなじみのぬいぐるみ確保のためのミッションが始まる――!
「正直かったるいが、テスト前にあきらめて遊んでる奴等がいたら、しっかり注意してやんねえとな。
補習とかになったら面倒なのは、生徒達だけじゃねぇんだよな……俺達もそれに付き添わなきゃなんねえし、出来るだけ数は少なくしてえしよ」
幻介はまずはゲームセンターへ向かう。格ゲーをしていたら対戦相手になってやるのも吝かではない。勿論圧勝してお説教である。
商店街では買い食い中の生徒を捕まえて捕獲して注意しよう。
「全く、困ったもんだぜ。気持ちは分からなくはないけどよ」
「そうかしら?」
ふと、隣を見れば鞠を手にした可愛らしい少女が立っていた。
「な――!」
「あっちにクレープが売っているわ! 行きましょうよ。あたし、食べてみたいのよ」
「ちょ、おい!」
「おい、じゃ無くて『お咲』でしょ!」
――お咲ことギフトを使用して少女の姿に化した姉・咲々宮 彩柯は幻介を引き連れて冒険の旅に出て行ったのだった。
セララの自室である――
「あーあ。何で非戦スキルに『勉強』とか、クラスに『勉強家』とか無いんだろ?
うーん。もう30分も勉強したし、ちょっとぐらい休憩してもいいよね」
真面目委員長モードをスキャンして勉強スキルを使用できれば、なんて考えながらドーナツを頬張った。
「……勉強を再開する前に、お部屋のお掃除しよっと」
軽い掃除の後――セララはふと、思い立つ。
「……ちょっと模様替えもしたくなってきたね。どんな風にしようかな?
……あっ! この漫画はシリーズ全部で20冊ある内の一巻目! めっちゃ面白いんだよね」
20冊を読み終えて、お掃除をし、また気付いたら漫画を読みふける。そんなこんなで掃除と模様替えが済んだところで。
「おっと、もうこんな時間。眠くなったから寝よーっと。明日のことは明日のボクに任せた! おやすみー」
――任せて、よかったのだろうか……?
●
「私はこっちに来て日も浅いから勉強とか全然さっぱりなんだよな。進度も違うし。
そうなると全部分かってそうな、分かってるはずの奴に聞いた方が早いよなあ。なあ、校長センセ?
校長ってんなら分かってるよなあ? だから全部吐いて貰うぞ」
――実は其れは無茶ぶりというが纏はこの際気にしなかった。無名偲・無意式はテスト範囲やテスト問題を把握していない。
校長ではあるが、彼はもっぱら神秘分野に寄っているからだ。何が何でも教えて貰うと意気込むが、屹度教えてくれるのは嘘だらけなのは……。
「期末テスト……ですか。愚問ですね…普段から予習復習を欠かさず、勉学に努めていれば恐れるものではありません。
なのに……『校長を殴って亡き者にすればテストが中止になる』なんて噂を真に受け……実際に殴りに来る者と夜妖まで出てくるとは……嘆かわしい。
心配ありません、無名偲校長。私が愛でもって守ってあげます。
さあ! 愛が足りない哀しき者達! 私が殺戮(あい)してあげましょう!」
愛染 亜奈斗こと、アナトはエスカリバールとラブ&ジャスティスと名付けた棘付の鉄球を手に微笑んで居た。纏と無意式は不味いことになったというように顔を見合わせる。
「再現性東京……テスト……校長の、せい? なら……校長を、殴ろう」
祝音の判断は学生ならば誰だってしたい物だった。だが、彼は優しい。直に殴れば痛かろうと沢山の猫を集めた。猫の肉球でふにふにされるのならば屹度痛くはないはずだから――
「校長、みーつけた。ここであったが……なんふんめ?」
猫ぱんちとふにふにとてしてしと、そうしようとするが届かない。何だかとっても悔しい気持ちになる祝音なのだった。
「それに高得点取れば、引き篭もってる事について担任とか校長先生は文句言えないだろうしね」
ぶつぶつと呟いたのは昼顔。テストが嫌と言うよりも、教室に行くのが嫌な所謂『リア充実の中で過ごすの困る勢』である。
肩を竦めて出席を確認して貰って真面目に勉強して難なくこなしておこうと仕事を続ける。
目指すは平均より上である。出来る限り、出席しなくても進級できるだけの点数を取らなくてはいけないと瞬間記憶でポイントを確認して挑む。
――さあ、いざ!
「むむむむむむ……テスト難しいのですよ…。
メイは夜妖退治で、実はあまりテスト勉強をしてなかったのですよ。
昨日も夜に夜妖退治に行っていたので、実は眠くて全然集中できないのですよ。学生とイレギュラーズの両立は大変なのですよ」
欠伸を噛み殺して頭からぷすぷすと煙を出すメイ。まだまだテスト1日目ではあるが、もう限界だ。
先輩やお友達直伝の鉛筆転がしでテストを乗り切るのだと「てーい!」と叫ぶ。
それで出た選択肢を選んでいくだけ。これでテストの答えが埋めていけるのだから先輩の知恵はとっても凄いのだ!
「テストは初めてなのですが、頑張って結果を出したいと思います!」
そうやる気を出したのはシルフィナ。国語、社会、数学、理科、美術、保健体育、家庭――何か抜けている気がするけれど、仕方が無いのだ。
国語と数学は何とかなりそうな気配もする。里香と美術も多分、だ。保健体育と家庭科はメイドとして培った技術でバッチリである。
「依頼が無いときは授業を受けたり…図書館で分からない所を調べていたりしていましたので、なんとなく、多分……出来ると思います……全力で頑張ります!」
それだけ全力ならば其れなりの点数も取れるはずだ。初めてのテストにいざ、参る――!
「さあ! 学力試験も最後まで全力で走り抜けますよ!
お友達は勉強しないでも大丈夫と言っていましたけれども、わっちは頑張らないと大丈夫にならないので、頑張ります!」
ふん、とやる気を出したひばり。普通の試験勉強にあわせ、先輩後輩、近所のお兄さんやお姉さん、コロッケ屋のおじさんに甘味処のおばさん。みんなの協力によって完璧なテスト勉強は走ることを禁じたパワーで発揮できるはずだ。
「皆さまのおかげで良くできましたと! 手伝ってくれた皆さまに、ありがとうと伝え走らないといけませんね!
ついでにどんなテストだったのかとか楽しくおしゃべりしたいです!」
どうやら一日目の科目の結果は上々のようである。
「……ん? テスト……? ……今日無いんじゃない……? だって風が吹いてるし、雨が降ってるし………。
そういうときは遅延とか中止とかするのがセオリーだよねぇ……海洋の南の島とかだともう常識レベルだよぉ……?」
リリーは勉強とか必要ない。潜在能力が凄すぎてテストでは計れないからとごろごろしていた。
おやすみ、とaPhoneは明後日に――放り投げてうとうとと眠る彼女は敢て言うのだった。
追試だったら夜中に校舎の硝子を割りまくってやる、と。いつも通りの逆切れ予告なのである。
(……こうやってテストを受けるのも……学園ノア以来だな……学園ノアとは……勉強の内容は結構違うから……ちょっと不安だけど……勉強は割と得意……だよ……)
グレイルはしっかりと復習やテスト対策もしてきた。ノアで培った勉強方法がしっかりと行かされているようである。
(……あとは……早とちりや簡単なミスさえしなければ……しっかりと見直しもしておかないとね………ひっかけ問題もあるだろうし…怪しいところはチェックして……と……)
解答用紙を2回見直した。今回のテストはミスが内容にと確認する時間の余裕もあった。
(………よし……バッチリ……かな……)
裏も確認し、しっかりと高得点をマークしたことで、先生達が「特待生も捨てたもんじゃ無い!」と喜んだのはここだけの話である。
――さて、1日目のテストを皆頑張った。答案を見た感じ落第は無いだろう。
悲喜こもごもな生徒達を見てアーリアはにんまりと微笑んだ。
「だーかーら、これからお疲れ様会の打ち上げをしまぁす!
テストの日と文化祭と体育祭は、せんせーが美味しいもの食べにつれていくのは定石でしょ?
まぁ、たかーいお肉とかお寿司はまだ早いから、焼き肉とかチョコフォンデュとか色んなものがあるビュッフェだけどねぇ。 ほらほら、ぱぱっと片付けて! いくわよぉー!」
やったーと亮とリリファがばんざいしひよのはなじみからアーリア先生の打ち上げいく、と連絡が入り続けていた。
「……テストの勉強ってのは、学生にしか出来ねぇことだからな。
勉強に集中できる時は、学校を卒業した後にこそ生きてくる物だから今はまぁ、頑張ってくれ」
そう微笑んだのは行人。普通に授業をして、質問があれば受け付ける。分かる範囲なら教えるがテスト問題はノータッチだ。
放課後の居残り勉強の生徒達に「もう遅いぞ」と声を掛けて――いつもの生活をいつもの通り謳歌して。
「テストをしっかり受けられるように。テストに集中できるように。……それじゃあ。世界、護っちまいますか」
そう行って夜妖退治へと向かう。こういうのも想い出で、学生生活は一度しか無いからこそ、後悔の無いように、過ごして欲しい。
――なんて、『先生』から送るたっぷりの思いやりなのだ。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
テストお疲れ様でした!!!!
テスト頑張ったお疲れ様会で、打ち上げいきましょうね! 先生がビュッフェに連れて行ってくれるって!
やったー!
GMコメント
追い詰められると「今日テストやなかったっけ!?単位は!?」って夢を未だに見ます。
経済学部でした、夏あかねです。
●希望ヶ浜学園年次最終学力試験
希望ヶ浜学園も学力テストがあります。勿論幼稚舎から大学まであるマンモス校ですからテストも色々。
幼稚舎ではお歌のテストもありますし、小学校では算数やお歌、体育なんかもあるかもしれませんね。
中、高、大では色々と……まあ、色々とテストがあります。
当シナリオでは『テスト一週間前』から『テスト当日』までです。絶望しようぜ。
※行動は冒頭に【1】【2】【3】【4】でお知らせください。
※ご同行者がいらっしゃる場合は2行目にお名前とIDではぐれないようにご指定ください。グループの場合は【タグ】でOKです。
【1】テスト勉強
皆でテスト勉強をしましょう。希望ヶ浜学園の幽霊学生の皆さんも、教員の皆さんも協力してローレットの特待生の力を見せてやりましょう。
図書館やカフェ、自宅や寮などで皆でテキストと睨めっこして学生気分を味わっては如何でしょうか。
勿論勉強会を開いたり教えたり、テストの準備をせっせと整えたりするのもいいですね!
勉強ができる・できないも自己申告制なので出来ない助けてー!と叫んでみたりするのも楽しそうです。
【2】テスト勉強――をサボる
これはサボっているのではなくて、作戦ですと言わんばかりに遊びましょう。普通に学内や希望ヶ浜市街で遊べます。
知らんぷりをして買い物をしても良いですし、諦めてゲーセンに行ったりゲームをしたり、もう寝ていても良いかもしれません。
そんな日常を思う存分謳歌しましょう。
【3】テスト当日……。
テストの日です! 寝坊してテストを受けそびれる方も居るかも知れませんね。え、夜妖が出て寝過ごしたんですか……残念。
テストのために確り憶えたのに夜妖が出てお一人だけテスト日程が変更されちゃうかも知れません。
カンニングや非戦スキルを駆使した戦略的(?)な事もありっちゃありです。バレなければ。
テストを受けた感覚的に悪そうなら絶望してみても良いですし、もう何もかも忘れてカラオケで叫んできても良いかもしれません。
素敵なスクールライフ!
【4】関係ないけど校長のせいだと思って殴る(何でも出来る項目)
おい、やめないか……。【1】~【3】に当てはまらないことがしたい方は此方をお選び下さい。
テストに関係する夜妖退治をするのもありかもしれませんね!
あんまりにあんまりな場合はマスタリングされる可能性があります。
●NPC
希望ヶ浜『味方関係者』や希望ヶ浜系NPCで担当が付いていないNPC
・音呂木・ひよの(希望ヶ浜学園高校) ←頭が良い
・綾敷・なじみ(外部生) ←苦手な科目が多い
・無名偲・無意式(希望ヶ浜学園校長)
につきましてはお気軽にお声かけ下さい。
校長はテストについては何も知りませんが、校長がいなければテストは無くなるのではって思わなくはありません。倒すか。
なじみは外部の生徒ですが同じ時期にテストがあるのでヒイヒイ言ってます。
その他、クリエイター所有のNPCは登場可能な場合もありますので、お気軽にお声かけください。
夏あかね所有のNPC(月原・亮やフランツェル・ロア・ヘクセンハウス、リヴィエール・ルメス、紅宵・満月)もお気軽にお声かけ頂ければ!
(各国有力のNPC(※王や指導者)や希望ヶ浜にはいないだろうNPCについては申し訳ないです!
また、ご希望に添えない場合もありますのでご了承頂けますと幸いです……)
それでは、楽しんで!
宜しくお願いします!
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