シナリオ詳細
アロンゲノム・インシデント
完了
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オープニング
●ここに偶像を建てよう。人は神を見られなどしないのだから。
幻想国の冒険者アムラムにとって、それはいつもと変わらぬ安い仕事の筈だった。
深い森に包まれたエドガイ山林には古くからゴブリンやオークといった亜人種族が住み着き、凶暴化した野犬が山を下りて麓の村を襲うことがある。
特に食料の不足しがちな冬などは、春の内に山で確保しきれなかった連中が飢えと焦りのあまりちらほらと下山してくるため、村の若い男達が農具やら棍棒やらをもって駆除するのが習慣であった。
とはいえ若者の多くは華やかな仕事を求めて王都へ上京し、村の高齢化が進んだ昨今はフリーの冒険者ギルドに依頼を出して定期的に駆除してもらうことになる。
「戦闘もちまちましててつまらんし、山に入ると汚れるし疲れるし、そのくせ賃金は低いし……美味しくはねえが、仕事がないよりマシか」
アムラムは苦労して山へ分け入り、獣道をせっせと進んでいく。
一人で済むような仕事ゆえに仲間もいない。話す相手もなく、無言で足を動かすのみ。
思えば最近、スリリングな仕事が減ったように思う。幻想国のあちこちでモンスターが蔓延って、それを自慢の剣で切り倒していく日々は危険ながらも充実していた。だがこれでは、庭にできた蜂の巣を取り除く業者とさしてかわらない。
「さっさと終わらせて、麓で飲むか」
ため息交じりに茂みへ手をかけ、先をのぞき込み。
そして。
アムラムは呼吸を止めた。
呼吸だけではない。
目を剥いて、口を半開きにし、茂みをどけた手の指先までもが硬直した。
そこにあったのは、畑だった。
うすく積もった雪を端にどかし、柔らかく耕された土。
その先では、衣服と帽子を纏ったオークが木と石でできたクワをふって土を今まさに耕している。歩きやすい藁の靴まで履いてだ。
オークはこちらに気づき、ギョッとめをむき声を上げた……が、クワを持って冷静に逃げ出した。
ハッと呼吸が戻り、肩から力が抜ける。
気が狂って幻覚でも見たのかと首を振ったが、土は確かに耕され、雪をどけるためのスコップまでもが置かれていた。
群れを作り略奪をし、野獣のようにその辺の動物や虫を捕まえてむさぼり食い、冬は穴蔵に詰まって冬眠する。そんなモンスターだったはずだ。
それがどんな歪な変化を遂げれば農耕などという考えに行き着くのか。
試しに土をかきわけてみると、ゼシュテルジャガイモが等間隔に埋められている。幻想でもよく用いられる品種で、寒い山に住む人々が好んで育てる芋だ。
この先を見るべきだろうか。
あの逃げ去ったオークを追っていくべきだろうか。
この仕事のために貰った賃金は、それに見合う額だろうか?
「…………」
アムラムは息を呑み、しかし胸から湧き上がる好奇心にあらがえずに歩を進めた。
●怪王種(アロンゲノム)
「翌日、冒険者アムラムは無残な死体となって山の麓へ届けられました。
額に刃物で×印が彫り込まれた死体は、山へ入ることへの警告であり、それが可能なだけの武力がある証なのです」
所変わってローレットギルド酒場。『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はテーブルに並べた資料をイレギュラーズたちと囲んでいた。
モンスターの突然変異。あるは進化。研究機関『プロテオミクス』のゲノム研究が何人かのイレギュラーズの脳裏をよぎった。
そしてそれは、おおむね間違ってはいない。
「『プロテオミクス』は現在、主導者を入れ替え活動拠点を練達に移して『滅びのアーク』がモンスターにもたらす変化について研究を進めていたのです。
その結果、肉腫(ガイアキャンサー)のようにいちから自然発生する種と異なり、既存のモンスターや動物種を改造して入れ替わる『怪王種(アロンゲノム)』が誕生していることが報告されました。
怪王種は一個の王を中心として周囲のモンスターを統率し、同じ怪王種へと変異させていきます。彼らは共通して世界廃滅の本能を持っていることから、魔種と同じく人類の敵……あるいはイレギュラーズの明確な敵であることがわかったのです」
イレギュラーズが精霊種や秘宝種との結びつきを経て新種の誕生に寄与したように、魔種たちが集める『滅びのアーク』もまた肉腫や怪王種の誕生に結びついているのだ。
「今回の事件はそのリアルケースを調査する機会でもあるのです。
まずは山林へと入り、モンスターの集落を調査してください!」
- アロンゲノム・インシデント完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別ラリー
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年01月21日 00時30分
- 章数2章
- 総採用数60人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
綺麗に耕された畑が、あった。
人里から離れた山中。モンスターだらけの土地に。
木の葉一つおちていない、綺麗に整えられた土をつまみあげて『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は目を細める。
事前情報がなければ、人が住み着いたと考えるだろう。それも知恵と道具を適切に使える人間が。
「怪王種、ねぇ……。
この世界に生まれて二十数年、まだまだ知らないことが沢山だわぁ。
きっと、まだ知らないお酒も沢山……なぁんて」
しかし今だアーリアの興味は未知と好奇心にあった。
「もし情報が本当なら、モンスターを統治する王がいるってことだよな。群れのボスとかじゃなくて」
『一般人』三國・誠司(p3p008563)はゴブリン洞窟の奥でグフグフいってるボスゴブリンを想像して、ゆっくりと首を振った。その程度の脅威なら、熟練の冒険者であるアムラムがあのような無残な姿になりはしない。
「マジで放置したら、侵略戦争を仕掛けてくるし、根絶やしにするにしても国崩しのレベルになるってことだよな……」
「きみの世界ではどんな国家体制が普通だったかはわからないけど、今回の規模ならそう構えることはないんじゃなかな?」
険しい目をしていた誠司を気遣ってか、『貴方の為の王子様』ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)はポンと彼の肩を叩いた。
「数十人でも国を名乗ればそれは国。モンスターの規模は行ってみないとわからないけど、数万や数億の規模がこのエリアに詰まってるとは考えづらいし、本当に危ないなら逃げ帰るだけだよ」
『話し合いもできそうにないしね』と肩をすくめ、アントワーヌは進んでいく。
「要はやっつければいいわけデスね! わんこの新技の冴え、見せ付けてやるぜ!!」
おりゃーと言いながら拳をかざして走り出す『シャウト&クラッシュ』わんこ(p3p008288)。
その威勢の良さにアーリアや『ネクロフィリア』物部・ねねこ(p3p007217)はくすくすと笑った。
笑ってから、チラリと横目で見やるアーリア。
「調査の結果は?」
「拘束されて吊されて拷問されて、長時間にわたる飢えと失血によって死んでいますね。モンスターに嬲り殺されたにしては合理的すぎます。霊魂はそのあたりを忘却して、統率されたモンスターの群れに襲われたことだけ主張してました。嘘かほんとかはわかんないですけど」
ねねこは早口に冒険者アムラムの死体への再調査記録を語った。
死体は嘘をつかないが、霊魂は嘘をつく。強いショックでものを忘れることもあるだろう。それゆえ完全な情報そ得ることはできない。
だがこれだけは分かる。
「雑魚モンスターだとナメてかかったら、最悪死ぬより酷い目にあいますよ♪」
言葉と裏腹に、ねねこの表情はワクワクのそれだった。
畑から先。報告にあった集落が見える。
誠司は精密飛行ユニットによって木の上へと登り、身を隠すようにして集落を観察した。
「どうだい?」
木の下から声をかけてくるアントワーヌ。誠司はだらりと汗を流し、そしてすぐに飛行状態を解除してゆるやかに着地した。
「お城の兵士かってくらい巡回してる。しかも三本足の鴉を線でも引いたような正確なコースで巡回飛行させてた。偵察機だ」
空を飛んで上空から有利を取る作戦は辞めた方がよさそうだ。
うーんと唸るアントワーヌに、しかし誠司は不敵に笑ってみせる。
「安心してくれ。建物の位置と巡回ルートは予測できたし記憶した。他の仲間に伝えてくれ。今から複数の方面から同時に襲撃してこの集落を落とすってな」
誠司たちによって発案された襲撃作戦は、集落を六つの方向から同時に襲撃することで兵を分散、各自の戦力でもって殲滅するというものである。『相手が賢いなら戦いは楽』というのが誠司の言い方である。
そしてわんこたちは戦闘部隊として再編成され、正面からの突撃を行うことになった。
「わんこの本領発揮デス!」
指ぬきグローブをしっかりとはめ直し、わんこは真正面からオークの集落へと突撃をかけた。
オークは木を削った粗末な槍でわんこのダッシュパンチを防御――したが、即座にやりは大破。そのまま拳が腹にめり込み、至近距離から繰り出す空気砲がオークを吹き飛ばした。
が、オークは両肘と踵からボッと穴を開きジェット噴射をかけると宙返り半ひねりの動きでクイックターン。
拳をハンマーに変形させて殴りかかってきた。
「わおっ!?」
驚くわんこ――の前へ軽やかに躍り出たアントワーヌが、蹴りつけた靴底でハンマーの衝撃を完全に受け流し、I字バランスの姿勢でにっこりと笑った。
「さあ、お手をどうぞプリンセス。今宵私と踊ってくれますか」
手を差し伸べるアントワーヌ。
わんこはその手を取ると、アントワーヌと共に踊るように回転し、仕込みナイフを露出させた靴でもってオークを斬り付け、その回転を更に活かしてアントワーヌの膝蹴りがオークを派手に吹き飛ばした。
倒れたオークに手をかざし、蕩けるように笑みを浮かべるアーリア。
「いらっしゃい、可愛がってあげるわぁ」
抵抗しようとする動きもむなしく、アーリアが打ち込んだ魔術によって昏倒する。
目配せをすると、誠司とねねこがこの強化オークを縛って後方へと運搬しはじめた。
「ごめんなさいねぇ、これも仕事なのよぉ」
成否
成功
第1章 第2節
オーク集落への多方面同時襲撃作戦が発案されてから、イレギュラーズたちの動きは速かった。
既にB部隊は編成され、突撃準備にかかっていた。
その筆頭、土を手のひらの上で握ったり転がしたりする『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)。
「あの畑……俺も見たが、だいぶやべえな」
「え、どのくらい? ハートがかいてあるオムライスくらい?」
武器の簡易点検を済ませた『奏でる記憶』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)がちらりと振り返る。
どういう例えだ、と真顔になる『虚刃流開祖』源 頼々(p3p008328)。
「その通りだ」
「どういう例――何ィ!?」
ツッコミを入れる前にゴリョウが頷いちゃったもんだから振り返りからのダブル二度見である。
「畑に人類が積み重ねたような工夫はまるで無かった。素人の家庭菜園レベルだ。けどな、土の耕し方から整え方まで一切の余念がねえ。農耕機械すら雑に見えるくらい精密かつ丁寧に耕していやがる。こいつは、モンスターが精密作業をするだけの知恵と、それを命じるだけの統率力を持ってるってことだぜ」
「その農業スキルなんな? 農業ってそこまで分かるものものなんな?」
頭の上にはてなマークとヒヨコとヒヨコ用のちっちゃいプリンを浮かべて目をぱちくりする『魔法少女』エシャメル・コッコ(p3p008572)。ハッとしてプリンを掴んで食べ始めるピヨ崎さん。
横からつまんでプリンを奪う『人為遂行』笹木 花丸(p3p008689)。
「それは花丸ちゃん的にも同意見だね。見てあの鴉。ファミリアーってことがバレバレだけど、バレバレだからこそ近づけないし鳥も飛ばせない」
花丸が抗議するピヨ崎さんを押しのけて空を指さすと、鳥とはおもえないほど四角いラインを描いて飛びつづける鴉の姿があった。
「あの鴉もモンスターの一種なのか、それともあのオークに疑似ファミリアー能力があるのかはわかんないけど、偵察目的なのは確かだよね」
ここで自分もファミリアーで鳥を放てば制空権の奪い合いになる。そうなればアウェイなこちらが不利だ。
「つまり調査は敵を倒してから、ってこと」
「威・力・偵・察! 武器ぃー……ヨシ!
フォーメーショーン……ヨシ! 今日も一日、戦闘日和だぜぃ! ゴアンゼンニィ!」
「まつな! 今日はスネークミッションって聞いてきたな!」
ビッて手を上げるコッコ。
同じくビッて手を上げ、蛇のポーズをとる頼々。
「スネーク?」
「蛇さんみたいににょろにょろいくな」
「スニークな」
「そのチョコバーみたいな名前なんな?」
「ん?」
「ん?」
お互い蛇のポーズのまま向かい合い、そしてコッコは頼々と一緒にカッて振り向いた。
「まあ要するに突っ込んでぶった切っていけばよいのだな!」
「コッコはその後ろからかくれんぼしながらついていくな! プリン(ヒール)係な!」
「そうと決まれば――」
花丸は格闘の構えをとって走り――出そうしたすぐ横でゴリョウが身体をボール状にまるめて斜面を高速で転がっていった。
「突撃ィ!」
「あっずるい!」
ゴリョウの派手な突撃に気づいたオークたち。
巡回兵はすぐさま武器を放り捨て、両腕をガトリングガンに変形させてゴリョウへの射撃を開始した。
「ぶははははは! 効かねえ効かねえ! 痛くもかゆくも――痛え!? 意外と痛え!」
ウオオと言いながら大籠手と盾をかざして完全防御形態になるゴリョウ。
秋奈はその真上をベリーロール姿勢で飛び越えると、銃撃の間を縫ってオークの腕を切断。
返す刀で首も切断。
「もう一匹ぃ!」
と、さらなるオークの首を斬ろうとした刹那、ゴリョウのようにローリングしてきた大柄なオークが間に挟まって刀を止めた。
それも、鋼や岩石のごとく硬化した体表を大鎧にして、特に両腕を頑丈な大盾にしての防御である。
「うえっ、なにこれ!?」
「そういう相手は、花丸ちゃんにお任せ!」
花丸は前傾姿勢で岩石オークへ接近すると、固めた拳をがつんとその盾へと叩きつけた。
衝撃が螺旋を描いてオークの肉体を、そしてその先にある建物の壁へと突き抜けていく。
思わずどすんと尻餅をついた岩石オーク。
その頭には、ピンと硬化した角がはえていた。
「鬼認(鬼認定の略)!」
頼々が猛烈な速度で接近したかと思うと岩石オークの盾を貫通する勢いで斬撃。
空想の刃は岩石オークの腕と首を強制的に切断し、壁へと叩きつけた。
「あっ、逃げたな! 追っかけるんな!」
いつのまにかゴリョウの後ろに隠れていたコッコがぴょこっと顔を出し、どこからともなく取り出したプリンをカブトを開いたゴリョウの口に直接突っ込んでいた。
「いや、深追いすもががが!? 二匹でここまで手子摺るなら集団になったら厄介だ。他の部隊と足並み揃え――」
「牛乳も飲むのな! コッコー!」
「もぶふ!?」
成否
成功
第1章 第3節
滅びの足音はすぐ傍で響いている。
『木漏れ日の先』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)は血を流して倒れるゴブリンを強く踏みつけて、ため息のように煙を吐いた。
甘ったるいコーヒーのような香りがする、魔術性の煙である。
イレギュラーズというものがこの世界に現れてからどれだけの年月がたったのか、ヴァイオレットは正しく理解しているわけではない。けれど彼らは国を作り、組織を作り、やがてローレットというギルドに集まったイレギュラーズたちは様々な絶望を奇跡で塗り替えてきた。
だが、どうじにこうも知っている。
ひとは他人の無能さに期待しては己を守れないこと。それは世界もまた然り。
天義に長年居座り続けた枢機卿や、カムイグラの実権を握った巫女姫をれに出すまでも無く、パンドラが収集される一方で滅びのアークもまた収集されていたのも事実だ。
そしてこちらが冠位魔種を打ち倒すほどの奇跡を発する一方で、彼らが無能にも何もせず茫洋としているだろうなどと……思い上がりも良いところだ。
「ワタクシも静観してばかりも居られませんか」
「どうした。いつになくやる気だな」
『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)はレバー操作によって弾のリロードを行うと、空薬莢を丁寧に拾って革袋へとしまった。
「しかし、怪王種……互いの領分を守って暮らし時に交流して共存できるなら良かったが、根本的に相いれないなら仕方ない。もはやこれは生存競争だ」
「にしてもきたねーモンスターだなぁコイツ。どこの穴蔵から出てきたんだ? くせえし!」
ペッとつばを吐き捨てる『ザ・ゴブリン』キドー(p3p000244)。
お前が言うのかというラダの視線と、同族意識とかは無いんですねというヴァイオレットの視線。
しかし口に出すのははばかられる……と思っていると。
「おめーが言うのかよクソゴブリン! つかゴブリンがゴブリン殺してんじゃねえか、ウケるぜ! ガハハハハ!」
『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)が全部言ってくれた。
よかったこの人がチームにいて!
中指を立てて舌を出すキドー。
「うるせえクソ山賊ゥ! チンケな在来種どもとは格が違えんだよ格がよ!」
「カオスの癌とは好く言ったものだ。私の存在が『腫瘍』だった頃を思い出す。最も【そのような事実は不在】だがな――戯れ言と見做して流すが利口と知れ」
いちゃついていた二人の間にヌッと現れる『同一奇譚』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)。
普通の人は何言ってるんだろうという顔をして黙るが、オラボナ慣れしているラダは次の射撃地点に目星をつけながら『誰も過去など詮索しない』と当たり前みたいにつぶやいた。
ニッと笑うキドーやグドルフ。闇から生まれて闇に暮らす者とて、いまは同じイレギュラーズ。ローレットの仲間である。ヴァイオレットはくすくすと笑って口元を布で覆った。
「それでは参りましょう。私たちそれぞれの、大切なものをまもるために」
「「ねえしンなもん」」
キドーはナイフを、グドルフは斧をかついで身を沈めた。
初撃を担当するのはラダである。
集落北側に集まって家畜の世話をしていたゴブリンたちを一人ずつ、茂みの中から頭を打っていく。
スコープの中で赤く花咲くゴブリンたち。
周囲のゴブリンたちはすぐさま戦闘態勢に入り、両足をバッタのような逆関節に変化させ跳躍。肘から骨のブレードを露出させ、射撃をおこなったラダの方へと一斉に飛びかかっていく。
ジャンプ一発で距離を詰める俊敏さも恐ろしいが、射撃位置を即座に割り出し共有する素早さも恐ろしい。
だがこちらは――。
「経験が違う」
ぬう、っと立ち上がり両腕を広げてみせるオラボナ。
無数のブレードがオラボナの肉体に突き刺さり切り込まれずぶずぶと沈んでいくが、オラボナは独特の笑い声をあげて彼らのブレードに名状しがたいなにかを浸食させていく。
途端、キドーは持っていた魔術爆弾をオラボナめがけて投擲。
オラボナは笑いながらそれを自分の胸元で爆発させ、集合していたゴブリン達をまとめて吹き飛ばした。
「なんだなんだオイ。ピョンピョン跳ねるだけで雑魚かよ。俺の足下にも及ばねえなあ在来ゴブリンよお」
「だと思うだろ?」
グドルフが家畜小屋のさきを指さした。
途端。家畜小屋が内側から爆発でもしたように吹き飛び、牛の二倍ほど大きなゴブリンが出現。両腕を巨大チェーンソーに変えてこちらへ突進してきた。
「うそじゃん」
げっそりするキドーをよそに、グドルフはクロスした剣と斧でチェーンソーを受け止める。上手に刃の間に食い込ませることで強制的にチェーンの動きを止め、その隙にヴァイオレットが第三の目を解放。チェンソーゴブリンに金色の光を幻視させ、ありもせぬ爆発と衝撃によって吹き飛ばした。
「畳みかけます。どうぞお先へ」
成否
成功
第1章 第4節
野犬の群れ、と呼ぶにはあまりにも強力すぎた。
身体は蝦夷狼のように大きく、低く唸ることで周囲の水分が瞬間氷結し無数のナイフを作り出す。しかもそれを念ずることで操作するようで、自らの牙や爪の延長のごとく自由自在に放ってくるのだ。
かと思えば、別の個体は炎の尾を長く長く伸ばし鞭のようにしならせては周囲を焼き払っていき、また別の固体は背骨あたりから等間隔に生えた骨のアンテナからバチバチと電撃を散らし、望む場所に雷を放てるようになっていた。
「これが変異した動物たち……怪王種ね」
放たれた炎の鞭を細剣によって強引に払いのけると、『プロメテウスの恋焔』アルテミア・フィルティス(p3p001981)はファイアテイルに向けて距離を詰めた。
ガフッと牙を剥き、炎を吐き出すファイアテイル。
「やると思ったわ!」
寸前で斜めに転がることで回避。起き上がりざまに繰り出した『焔纏・破刀』――からの『千裂』。
ファイアテイルが炎の尾を二つに増やして至近距離のアルテミアを狙うもそれを切り払い、流れるような突きによってファイアテイルを討ち取っていく。
「特殊能力をもってるけど、むしろ弱い方なのかな? 他の部隊は数人がかりで一匹倒してるって聞くよ」
『魔法騎士』セララ(p3p000273)は電撃を放つトールボーンの乱発電撃をまっすぐな突撃によって強引に抜けると、眼前へ打ち込まれた巨大な雷の柱をかわすように真上へ直角飛行。
「魔法騎士セララ参上! 悪い奴らはやっつけちゃうのだ!」
靴からはえた魔法の翼がはばたき、雷をまくようにかわしながら飛行すると聖剣ラグナロクを両手でしっかりと構えた。
「ひっさつ――ギガセララブレイク!!」
切り裂き、突き抜ける。
足でブレーキをかけ二メートルほど地面をけずるセララ。
そんなセララへ向け、回転した氷のナイフが次々と飛来。
フリーズレインによる範囲砲撃だ。
が、そこへ割り込んだのが『舞蝶刃』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)。
まるでアジアに伝わる美しい舞踊のように魔法の布を空に流すが如くクルクルとダンスすると、飛来するすべての氷ナイフを払いのけてしまった。
ビッと『夢煌の水晶剣』を突きつけるアンナ。
「戦い慣れてない一般市民でさえ対処できていた野犬がこの有様とは……滅びの足音を感じるわね。むしろ、世界がより本気を出してきたとでもいうのかしら?」
「まるで魔物や動物の反転……。パンドラと対をなす滅びのアークなら、奇跡の逆転も可能というわけですか」
氷のナイフを剣でたたき落とす『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)。
パンドラ。それは神託によって得られた廃滅の運命を破壊できる唯一にして最強の希望。イレギュラーズが世界を救うとされる所以である。
一方で滅びのアークとは廃滅の運命を実現する可能性増幅器。世界中の動物や魔物が怪王種となり人類みな反転した世界を想像して、シフォリィは顔をしかめた。
魔種がもたらす悲劇の多くを、自分は目の当たりにしてきたからだ。
「そうなればこちらもまた、戦うのみ!」
シフォリィはまっすぐに突っ込み白銀の剣サーブル・ドゥ・プレーヌリュヌをギラリと光らせた。
飛び退こうと足に力を込めるフリーズレイン。
が、その足に結びついたアンナのクロスによって転倒してしまった。
隙を逃さぬシフォリィではない。
すれ違いざまに繰り出した剣がフリーズレインの肉体を真っ二つに切り裂き、崩れ落とさせた。
崩れた獣をまたいで、木造の小屋へと向かう。
扉をあけて中に入ってみると、藁をしいた床にトランプカードが散らばっていた。
が、ただ散っていたわけではない。
見下ろした先にできていたのは、ストレートフラッシュの役だった。
成否
成功
第1章 第5節
両腕を機関銃に変えたオークが、全身を鋼のごとき装甲に覆われた超大型犬にまたがって走る。
圧倒的な機動力と火力。そして面制圧力とでもいうべき力の使い方は恐ろしく、並の冒険者が数人がかりで挑んだところで勝ち目が五分五分というところだろう。
だがしかし。
「相手が悪かったね」
『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は祝福のステップを踏み、激しい銃撃を真正面から引き受ける。
連続ダメージとリカバリーヒールによる競り合いとなったが、その横に控えていたのが『策士』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)。
急速なAP回復によって治癒効果が尽きることは無く、どころか――。
「逃がすわけ無いわ」
『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は自らのパワーを最大限に込めた一撃必殺の剣『カリブルヌス・改』を解き放ち、ガトリングオークとそれが騎乗していた装甲犬をまとめて打ち抜いていった。
敵の殲滅を終え、集落に並ぶ建物内を調査するイーリンたち。
他部隊の取得した情報も様々な方法で集まり、いくつかの情報が纏まっていった。
「ここで一旦まとめておきましょうか。怪王種によって作られたモンスター集落。
その特徴と通常固体との差……」
手帳に書き出した文字列を、ココロが横からのぞき込む。
「モンスターは食料を自力で生産しようとしてたよね。生産技術や効率自体はよくないんだけど、群れの数を増やすには略奪よりも効率的なのは確かだと思うよ。けど、これだけでまかなえるほど完成してないし、まだ耕してる最中だし……結局メインの生存方法は略奪ってことになるんじゃないかな」
「どのみちモンスターといえど食うに困れば滅ぶわけか……」
マニエラは腕組みをし、破壊したガトリングオークの腕を見る。
「兵器開発自体には興味がなさそうだ。威嚇目的で木や石を使って粗末な武器もどきを作ることはあるが、そもそも肉体に備わった戦闘能力や素の耐久力に頼った方が、武具を纏うよりずっと効率的なんだろう。もしくは、固体の生産がそう難しくないか、だな」
「生産能力に関しては、そこまで警戒しなくてよさそうよ」
イーリンはページをめくってグラフのようなものを指さした。
「怪王種になったことで種の繁殖能力が爆発的に拡大した様子はないわね。
固体によってそういう変異をおこすものもあるかもしれないけど、それがデフォルトで備わる能力じゃないってことは確かよ」
「実際、変異の方向性は主に戦闘力の強化にあるからな……」
怪王種化した野犬に騎乗する怪王種オークなんていう発展のしかたをするくらいなので、やはり優先されるのは戦闘力ということなのだろう。
「まずはこの情報を持ち帰りましょう。知は力だわ」
イーリンはぱたんと手帳を閉じ、とめておいた馬へと戻っていった。
成否
成功
第1章 第6節
集落中央へ進むに従って現れるモンスターの強さが上がっていくのを、シラス(p3p004421)は肌で感じていた。
「いくら片付けてもきりがないぜ。どんだけため込んでたんだ?」
まるで戦車のように胸から大砲を生やしたオークの砲撃をスライディングでかわし、至近距離から連続のパンチとキックを浴びせていくシラス。
あまりの勢いにオークの身体が若干浮いたその隙に、『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)は距離を詰めて必殺の『蒼影剣』をたたき込む。
「群れを成す魔物にリーダーが現れるのは間々ありますが、別種となるほど変異、改造されるとなると厄介極まりないですね。
それが一体紛れ込むだけで、数を増やしていくとなると、尚更。
今後の対策の為にも、資料は必要です。しっかり記録を取っておきましょう」
大砲を破壊されたオークは次の砲撃を失敗し。仕方なくといった様子でドラマへと掴みかかる。
が、ドラマの髪の毛一本たりとも触れることはできなかった。
急速に飛び退いたドラマの代わりに、マルク・シリング(p3p001309)による魔力砲撃――『魔光閃熱波』が死角より叩きつけられる。
白目を剥いて倒れたオーク。
それ以上動かないのを確認すると、マルクは額から流れる汗を拭ってため息をついた。
「やっとか……僕ら三人がかりで一匹倒すのがやっとって、相当だぞ」
彼らはただの三人ではない。超人的なまでに洗練された戦闘バランスを誇る三人だ。おそらく同レベルの冒険者達を八割がたたたきのめせる戦力を、彼らは保有している。
そんな彼らをして三人がかりだなどと、普通なら群れを統率するレベルのボスモンスターの力量だ。
「で、このタイプ……というかほぼ同種のオーク何匹目だっけ?」
「数えて五匹目ですね」
「嫌になるな……」
やれやれと首を振るシラス。
だが、本当に嫌になるのはこれからだ。
「さっきのがせいぜい中ボスクラスってことは……この群れのボスはえげつないほど強いってことだよな」
「おそらくはそのはず……おっと」
マルクが何かに気づいて足を止めた。
「何か来る。集落の中心方向からだ」
言われなくとも、シラスたちにもそれは分かった。というか、分からないはずがなかった。
エンジンやタイヤの音を聞いて『これは大型トラックだな』とわかるように、近づく振動と家々の間、もとい上からちらちらと見える角のようなものがプレッシャーとなって迫ってくる。
「三人で迎え撃つ?」
「冗談でしょ」
肩をすくめて顔を見合わせるマルクとシラス。
ドラマはひとまず仲間に分かるように大きな声をあげ、きびすを返して走り出した。
成否
成功
第1章 第7節
集落の調査が最終段階へと進んだ。
そんなイレギュラーズたちを待っていたものとは……
GMコメント
このシナリオはラリーシナリオです。仕様についてはマニュアルをご覧ください。
https://rev1.reversion.jp/page/scenariorule#menu13
■グループタグ
誰かと一緒に参加したい場合はプレイングの一行目に【】で囲んだグループ名と人数を記載してください。所属タグと同列でOKです。(人数を記載するのは、人数が揃わないうちに描写が完了してしまうのを防ぐためです)
このタグによってサーチするので、逆にキャラIDや名前を書いてもはぐれてしまうおそれがあります。ご注意ください。
例:【もふもふチーム】3名
■オーダー:エドガイ山林への調査と異常なモンスター事件の解決
不可解なモンスターの異常発達が報告されました。
ローレットへこの事件への調査、および解決が依頼されています。
■怪王種(アロンゲノム)
練達へ移籍した研究機関『プロテオミクス』がモンスターとアークの関係を調査するうちに発見した新種のモンスター種別です。
まだ実際の発生ケースが少ないため詳しい情報も不足しています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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●第一章:エドガイ山林への調査
農耕オークが目撃された畑の先。木造家屋の並ぶ集落を調査します。
ほぼ確実にモンスターとの遭遇が予想されるため、戦闘の準備を必ずしてください。
このあたりで出没していたモンスターは『オーク』『ゴブリン』『野犬』といったオーソドックスかつあまり脅威にならないようなものばかりですが、もし彼らが異常発達ないしは異常進化を遂げたならその限りではありません。
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