PandoraPartyProject

シナリオ詳細

カメーナエ図録

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 宵色の壁紙を照らす灰雪のシャンデリア。その中央で一人の警備員が膝から崩れ落ちた。

『第四階層の心象絵画、たしかに頂戴しました。怪盗グラドゥス三世』
「今度はここかよ、あんにゃろォォーーっ!?」

 アルカモトラズ監獄第四階層、通称カメーナエ画廊。ここは極悪非道なる囚人から押収したヘンテコ絵画を展示し売り捌く闇の画廊。
 豪奢な、それでいて空っぽの額縁が整然と並んだ大ホールは中身のないプレゼントボックスに似ていた。残された無人のソファは大海原を揺蕩う筏のように頼りなく、消えた絵画の代わりにサイズ違いの小さなカードが一枚、壁にはりついている。

「また、やられたか……」
 叫び声を聞きつけ新たな足音がホールに響く。
「申し訳ございません、博士!」
「良いよ……」
「軽いです、博士!」

 博士と呼ばれた老人は柔らかく微笑んだ。否、正確に言えば柔らかく尻尾を振った。
 気品を忘れぬ紳士、パルナスム博士といえば審美眼に長けたテリア犬として有名である。

「どうするんですか、パルナスム博士! 今日から偉い人たちが絵を買いに来るんですよね? 何かすっごい人たちが描いた何かドすっごい絵が一枚も無いだなんて知られたら我々も檻の中へGoToですよ!?」
「何かドすっごい絵って……あれは別世界から来た異邦人の心の在り方を風景画や抽象画として具象化した由緒正しき……」
「どうするんですか!?」
「どっかに異邦の英哲俊士の絵、落ちてない……?」
「落ちてないです!! もうダメです!!」
「諦め早いのう、キミ……」
 
 この物語は「異邦人の絵が購入者の家に届いたところ」から始まる。逆に、異邦人の絵が一枚も売って無ければいつまでたっても物語は始まらないのだ。



「丁度良かった」
 ある日、境界図書館を訪れるとカストルが柔らかく手招きをした。
「先日、絵を提供してくれた世界の事を覚えているかい? 君の絵がその後どうなったのか、興味があるだろうと思ってね」
 そう言って青年が差し出したのは、宵色を纏った一冊の図録だった。
 

NMコメント

 こんにちは、駒米と申します。
 図録を作りたかった。

 今回は「あなたの絵が掲載された図録の解説文」という体でリプレイをお返しいたしますので、頭の中にある最強の力作を描いてみてください。逆に最強の手抜きでも良いかもしれません。
 プレイングによっては画家としての人生や絵の解説が捏造され、おもしろエピソードが勝手に付け加えられていきます。

・プレイングに書いてあった方がよいもの。
 ・お名前(ペンネーム)
 ・絵のタイトル
 ・描いたのはどんな絵か(水彩、油絵、墨絵、スケッチ、人物画などあればご自由に)
 ・この絵を描いた理由

・世界観
 禁酒法時代のアメリカによく似た文明をもつ世界です。人間しかいないと言われていましたが……?
 黒スーツが葉巻を吸い、サクソフォンとトランペットがダンスホールを揺らし、緑の札束が紙吹雪のごとく舞う暗黒街が多く存在します。
 カティスバーグ諸島に存在する絶海の孤島『アルカモトラズ島』はそんな暗黒街のボス達を収監する施設であり、監視の為に化け物が雇われているという噂です。

・NPC
パルナスム博士
ダークブルーのスーツを着たテリア犬でとても小さい
初代怪盗グラドゥス

警備員さん
逆三角形のマッスル人類でとても大きい
語彙? なにそれおいしいの?

  • カメーナエ図録完了
  • NM名駒米
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年12月26日 21時00分
  • 章数1章
  • 総採用数19人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂

ヨハンナ=ベルンシュタイン
『華葬』
水彩/キャンバス
ラエティティア美術館(作品番号p3p000394)
 
 その生涯を薄霧で包まれた銀の画家ヨハンナ=ベルンシュタインが描いたこの神秘的な水彩画は、創世以来最も詩や戯曲の題材となった作品と言えよう。
 満たされた夜空に浮かぶ甘やかな白月。一面に咲き誇った月華の寝台で眠る赤髪の乙女の瞳は柔らに、されど固く閉じられている。
 熟した林檎を思わせる少女の赤髪と月の光に照らされた白のかんばせ。沙羅の細波を掬い取ったかのような緻密なタッチと透明性のある色彩は作者の繊細な性格を現しているかのようだ。
 しかしこの作品で最も特徴的なのはモデルである女性が慈愛をもって描かれている事であろう。

 モデルとなった女性については長年「ヨハンナ自身である」と言う俗説が囁かれてきたが、近年になってヨハンナ=ベルンシュタイン本人のものとされるスケッチがカメーナエ画廊から発見された事によって正式に否定された。
 眠る女性は作者の双子の妹である『レイチェル=ベルンシュタイン』をモデルにして描かれたものであり、瞳や髪の色も残されたヨハンナの外見とは異なっている。スケッチに描かれた開かれたレイチェルの瞳は美しい天空の蒼であった。(解説1217頁参照)
 
 二度目の死は忘れられる事──。
 ヨハンナはそう残している。
 これほど美しく、愛に満ちたメメント・モリがあるだろうか?

成否

成功


第1章 第2節

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚

Mer
『深海』
油彩/キャンバス
マーレボルジェ・コレクション(p3p000062)(注1


 黒と中央の白点のみで構成された本作は長らく作者不明の抽象絵画とされていた。
 題名以外の情報は無く(注2、それこそが写実的で明晰な、真実の眼を持つ海の賢者Merから腐敗した世界へ届けられた贈り物である。

 近寄ってよく目をこらして見ると『深海』の表層には黒の油彩が何層にも重ねられている。
 闇を見つめる者だけに、この絵画は真実の姿を見せるのだ。
 筆の運びが残した力強い渦や人間の輪郭。何百、何千にも及ぶ激しい慟哭の感情は黒色の中に埋没し認識されないままでいる。
 No see in The sea.
 所有者たちは(注3、手に入れた『深海』を見て漠然とした不安や暗澹たる気持ちを抱いたと言うが、それは違う。短期間で作品を手放した者は作者の深く強い想いに気づかないまま食われたのだ。

 海底に沈んだ享楽と退廃の都。
 見上げた太陽はまだ小さく、近づく程に苦痛を照らし出す。しかし私も、そして恐らく作者も太陽へと向かう人間が増えることを願っている。

 注1:初代怪盗グラドゥスがこの絵画を気に入り、数年ぶりに予告状を出した話はあまりにも有名である。

 注2:『深海』を包む布には「ノリア・ソーリア」「人魚」と言う走り書きがあるが未だに解読されていない。寓話聖句説が濃厚である。

 注3:何故か所有者にはリストランテ経営者が多かった。

成否

成功


第1章 第3節

カイロ・コールド(p3p008306)
闇と土蛇

何事にも犠牲は必要不可欠だ。
理解していても犠牲を増やす者は生粋のサディストなのだろうか。
人間とは、げに恐ろしき生き物よ。     
                   ――絵画裏に書かれていた文字より。


黄金は貴く
『犠牲』
油彩/キャンバス
ペカタ大聖堂(作品番号p3p008306)

 この有名な象徴画又は寓意画の意味は知らずとも、誰もが目にした主題であろう。
 当時の画壇に一石を投じたこの作品は風俗社会の闇を如実に表現している。

 絵の中央上部には身なりの良い小太りの紳士が一人、大笑しながら座っている。その足元には黄金色の硬貨や財宝が堆く積まれ、掴んだ肉厚の指からも宝石や真珠が溢れている。
 一方で財宝の山の中には折り重なるように人間の手や足、頭らしきものが覗く。黄金や宝飾品の下には夥しい量の血液が流れ、中央から下を暗赤で染めている。
 闇と光。手にした欲望の成果は数多の犠牲によって成り立つ。そんな社会の現実を示した一枚である。
 この絵を描いた理由について教会の査問を受けた作者は手紙にてこう返している。
「趣味ですよ趣味。趣味に理由はないでしょう?」

 また、この絵画は度々所有者が不可解な失踪を遂げている。
 残された日記には「カイロ・コールドに会う」とあり、カイロなる人物が何者であるのかは目下調査中である。
 絵画の下段を染める血の色が徐々に濃くなっているのは果たして画材の所為なのか。
 それとも。
 

成否

成功


第1章 第4節

ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
白いわたがし

ポポトクララ
『おはようリトル、お元気ですか』
サンドアート/キャンバス
リトルレディ・コレクション(作品番号p3p001802)

 歴史に刻まれた「カメーナエ境界展覧会」において最初に購入された作品。
 嵐の過ぎ去った浜辺には希望に満ちた朝日と冒険心、そして見る者の心を明るく照らす親愛の情が描かれている。
 太陽の優しい光を描いたマーブル模様は金色の砂と蒼森の黒土が使われており、また二種類の署名から『ポポトクララ』はこの愛らしくも楽しい作品を描いた画家たちの合同名義とされている。
 
 この作品はレイディアンス家のコレクションであり、一般公開はされていない。
 曰く「この絵が行きたい場所、会いたい人にだけ、お貸しすることにしていますの。だって魔女ポシェティケト・フルートゥフルから届いた大切なお手紙ですからね!」との事。
 子供ならではの微笑ましい、そして小さなレディらしい逞しい想像力である。
 彼女は『嵐夜の大脱獄』の被害者として境界展覧会へ招かれたと言われているが、極悪な囚人十名をこの年端もいかぬ少女が一夜で廃人にしたとは誰も考えていないだろう。

 このサンドアートに纏わる不思議な話がもう一つある。
 天気の荒れやすいカティスバーグ諸島であるが、何故かレイディアンス家の屋敷がある島だけは、まるでこの絵画のような穏やかな天候に恵まれやすいというのだ。この絵には本当に魔女や妖精の加護があるのかもしれない。

成否

成功


第1章 第5節

イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って

イーハトーヴ・アーケイディアン
『ひかりのまち』
水彩/スケッチブック
ピエタース中央図書院(作品番号p3p006934)

 鮮やかながらも調和の取れた色彩で描かれた優しい水彩画の連作。
 汚れたクマのぬいぐるみを出迎えたのは同じ境遇を経験した沢山のぬいぐるみ達、そして温もりであった。
 ここには荒れ果てた時代に失われた正しさと隣人愛、そして牧歌的な情景が描き出されている。
 
 本作は数多くの子供たちに愛されている絵本『ひかりのまち』の原画、その内の一枚である。
 画家イーハトーヴ・アーケイディアンは多才な芸術家であり、彼の非凡なる才と愛情深さは文学面においても存分に発揮された。
 スケッチブックや手紙に残された『ひかりのまち』の物語は絵本として纏められ、その収益金は貧しく助けを必要とする子供たちの救済基金に当てられた。
 この絵画を寄贈されたワンダーズ孤児院は現在、ピエタース中央図書院と名を変えている。
 

「ここはどこ?」
「ひかりのまちさ」
 今までだんまりだった貝が口をひらきました。
「みんなつらい場所からここに来る」
「オレはつらくなんてなかったよ」
 そういいながらクマは涙をぬぐいました。
「本当だよ」
「最初は誰だってそう言うの」
 呆れたようにおねえさんウサギが言いました。
「そんなことよりクマさんの歓迎会をしなくちゃ!」
 そんなことを言われたのは初めてで、クマはびっくりしてしまいました。(本文より引用)

成否

成功


第1章 第6節

ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣

ヴェル=ローランド
『別れ』
鉛筆・色鉛筆/薄画布
ウィアートル駅舎(作品番号p3p008566)

 長い年月を経て、色褪せたようにも見える淡い白黄の中央には寄り添い合う二人の人物が描かれている。
 黒の鉛筆で描かれた人物は性別すら曖昧だ。あらゆる年代と性別を飲み込んだ二人の周囲には驚くほど多くの色が敷き詰められている。
 柔和な新芽の隣には凍った湖底が、温かな桜の笑顔には断絶の銀が降っている。
 この特徴的な配色こそヴェル=ローランドの世界を如実に表現していると言えよう。

 ヴェル=ローランドによる作品は本作『別れ』のみである。
 人生に別れは付き物だ。
 別離の哀しみと再会の喜び。岐路に立たされた時、万物に対してこの試練は平等に訪れる。
 別れとは何であろうか?
 他人の目から見た別れと当人同士の別れは違うかもしれない。
 別れが持つ哀しみだけでは無く希望や愛情に満ちた側面を併せ持つ本作は見る者の心を惹きつけ、強く動かしてやまない。

 本作がウィアートル駅に贈られたのは必然だったのかもしれない。
 出会いと別れを繰り返す待合室に飾られたこの絵を見るためには顔を上げねばならない。何とも旅立ちの日に相応しいではないか(注1

 注1:人生に絶望した刃物商の男がこの絵の前でパレットナイフはないかと声をかけられ自殺を思い止まったと言う。老舗の刃物メーカー「ヴェルグリーズ」はその画家の青年の名にあやかり名付けられた。

成否

成功


第1章 第7節

黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家

黒衣
『陽だまり』
水墨画/二双紙
フェリーキタース美術館(作品番号p3p007949)

 美しい花畑で眠る少女の人形とその傍らに寄り添う黒い衣をまとった青年。
 少女の人形を陽光とするなら、さながら青年は黒影だろうか。
 墨の濃淡が多彩な陰影を描きだし、精緻な筆遣いによる雪華の世界は見る者の心を神々の住まう幻霞譚の世界へと誘う。

 絢爛を良しとする既存の価値観に真正面から向き合った本作は、カメーナエ画廊で発表された作品の中でも特に異国情緒に溢れた夫妻像の一つである。
 小さな花を抱いた美しい少女の人形は幸せそうだ。
 花咲く空の下、透明な楽園から出た人形はどのような夢を見ているのだろうか? 深く眠る愛らしい頬には弾けんばかりの喜びが溢れている。
 この作品は完成後に二つ、大きな変更点が加えられた。
 その一つが横たわった黒衣の青年だ。顔の大半を隠したこの青年は少女の人形を守るように描かれ、僅かに覗く瞳には妻へ対する深い愛情と僅かな憂色の陰が射している。
 数多くの芸術家にとって理想の絵を描く事は、まだ見ぬ恋人の姿を描くようなものだ。しかしこの『陽だまり』は溢れた愛を残す一つの手法として「絵画」という形をとったに過ぎない。何と純粋な愛だろうか。

 もう一つ、大きな変更点がある。
 それは人形の少女の手の中に太陽色のヒヤシンスが描きこまれた事だ。
 黄色のヒヤシンス、その花言葉は『あなたとなら幸せ』。

成否

成功


第1章 第8節

フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守

 悩んだ時には情報をアウトプットするんだ。
 書き、描く。
 頭がスッキリするし物理的な記録も残る。一石二鳥だろう?


FreeCry
『水月花』
連作/所在不明(通し番号p3p008595)

 小川の中で無邪気に笑う水彩画の少女と安楽椅子に座る油彩の賢老は同一人物だ。(解説2051頁)
『水月花』は一人の女性をモデルとして、その生涯を多岐に渡って描いた作品群である。
 少女から老年に至るまで様々な時代と共に描かれているが、このシリーズには一作だけ誰も描かれていない月夜の風景画が混ざっている。
 それが本作である。
 孤月が照らす瑠璃色の夜。野花の咲く森の中から月を見上げる苔むした岩はどこか寂しげだ。
 その背には薄灰色の墓標が、岩を支えるように静かに寄り添っている。
 
 使用される画材や画風は様々で一見同一人物が描いた作とは思えないが、フリークライが残した水月花シリーズには間違えようもない或る一つの特徴がある。
 それは全ての作品にモデルに対する親愛や敬愛、そして感謝の心がこめられている事だ。
 この画家は長い年月を彼女と共に生きてきたのだろう。心揺さぶるものを芸術と呼ぶなら、この二人の在り方は美しい芸術である。



 見てごらん。世界はまだまだ広くて知らない事だらけだ。
 私はもう少し遠くまで足を伸ばしてみることにするよ。
 これもフィールドワークの一つだよ、フリック。
 私が自由なことは君が誰より知っているだろう?

成否

成功


第1章 第9節

エルシア・クレンオータ(p3p008209)
自然を想う心

エルシア
『妖精の輪』
色鉛筆/スケッチ
メルヴェイユ王立芸術学院(作品番号p3p008209)

『妖精の輪』は自然が持つ不安と親近感、畏怖すると同時に敬愛の念を抱く。そんな森への神秘性を表現した作品だ。
 本作は妖精や幻想神話世界をありふれた自然の中に見出す「夢在派」の成立に寄与し、今でも数多の芸術家たちに大きな影響を与えている。

 暗夜と針葉樹の影が色濃く包んだ森の中にぽっかりと口を開けた奇妙な空間。
 なだらかな土と芝の上では小さなキノコたちが歪なカドリールを踊り、愉快な菌環は仄かな光沢を帯びて観客の心を不思議な妖精の舞台へと誘っていく。
 この『妖精の輪』に使われた画材は多くが色鉛筆に由来するが、この光沢のみが既存するどの成分にも一致せず明確な色としての呼び名がつけられずにいた。
 前年、メルヴェイユ王立芸術学院はこの輝きを『エルシア・クレンオータ』と名付け、新色として発表すると同時に常設展示へと踏み切った。

 余談ではあるが、珈琲に花が浮かんだ。エールから蜂蜜の味がした。いつの間にか寝てたなど不思議な経験をした解析班の研究者たちは、この絵には妖精が住んでいると半ば本気で信じていた。
 光沢の解析は失敗したが彼らは一つの偉大な発見をしている。
 愛らしい春の風を思わせる文字が『エルシア』と言う作者名だと解読したのだ。
 解読方法は明かされていない。「粘ったら教えてくれた」と口を揃えて言うのだから。

成否

成功


第1章 第10節

リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛

《極秘》
ルカ・インビンシブル
『すごく強いやつ』
立体作品/キャンバス・鉄・他

 芸術に言葉はいらない。
 国籍も思想も宗教も争いも関係無く、ただそこにある。
 見る者は感覚的に直感的に受け取り、ただ満ちていく。
 だからこそ芸術は美しい。

『すごく強いやつ』は鉄の部品を金で継いだミクストメディア・コラージュ作品である。
 並んだ極小の歯車は迷宮の如き工場群にも見えるが、銃の引き金、折れた鷹章など大小様々な部品が固定されたキャンバスは竜章鳳姿にして金城鉄壁の堂々たる姿を誇り、何より作者の楽しい気持ちが強く伝わってくる。
 本作をすぐに公開出来ない事を口惜しく思う。
 キャンバス裏にあった歯車による長時間動力源の発動方法。そして微細な歯車や折れた武具の破片を再現した結果、新しい武器が開発できるほどの大発明であることが判明した。
 この純粋な天才の気持ちを汲めるほど、我らの世界は成熟しきってはいない。
 彼の好意に満ちた作品を悪意が汚すなど、以ての外だ。
 ルカ・インビンシブルよ、待っていてほしい。
 いつかこの世界が平和になる、その時まで。

●一方その頃、世界最高の天才集団
「歯車にときめかない者などいなーい!」
「さー、いえっさー!」
「火力こそ正義!」
「ふん、動いたぐらいで何だ」
「すいません室長!」
「はしゃぎすぎました室長!」
「これを蒸気潜水艇リュカシス内部に飾ったらめっちゃ格好いいだろうがッ」
「天才か?」
「うん」

成否

成功


第1章 第11節

カルウェット コーラス(p3p008549)
旅の果てに、銀の盾

カル
『うれしいね』
クレヨン/画用紙
ラ・メール・ロワ邸所蔵

 この作品に、講釈ぶった堅苦しい説明を長々とつける必要は無いだろう。
 自分の好きなものをめいっぱいにつめこんだ紙面は、子供ならではの大胆にして自由な発想だ。素敵な画家の笑顔と共に、今にも『うれしいね』という声が聴こえてきそうな、そんな作品である。

 大人になるにつれ宝物を見つける回数は減っていく。
 例えばそれは朝起きた時に覚えていた素敵な夢であったり、初夏の公園で友人と食べるジェラートの味であったりするし。
 森の中で見つけた小さな切り株の隠れ家であったり、クリスマス・イヴに見る真っ白な初雪の絨毯であったりする。
 レモンクリームのパイ、キャラメルソースを模様にした猫隊長のふわふわ。
 縦の線、横の線、お気に入りの色を組み合わせたであろうカラフルな丸。
 大きくのびのびしたクレヨンの線は小難しい理屈の枠にとどまらない。
 楽しいもの、好きなものを全身全霊で伝えようとする純粋な心は、見る者の心を明るく照らす。
 好きであることに理由はいらない。
 この作品を見ていると忘れていた童心がよみがえるようだ。

 子供のための詩集『ハニーケークス・カルウェット』は作家ローバー・メール・ロワが本作からインスピレーションを受け編まれた。代表作の一つ『お砂糖が好きな猫のための歌』は遊び歌として多くの子供たちに親しまれ、今では定番のコーラス曲となっている。

成否

成功


第1章 第12節

散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士

Tyltyl Mytyl
『青い鳥』
油彩/キャンバス(麻)、花束、卵の殻
レガリア美術館(作品番号p3p008200)

 本作を描いた画家Tyltyl Mytyllは記憶喪失であったと記録されている。
 彼女を構成する要素は散々になってしまったが、透明な瑠璃色の宇宙へ鏤められた黄金色の星の欠片は亡んでなどいなかった。燃えるように静かに、昏々と眠っていた彼女という概念を丁寧に拾い集め縁の線で結びつければ、驚くほど美しい星図の形が現れる。

 彼女の代表作『青い鳥』は油彩画と幾つかの置物で構成された作品だ。
 額縁の中では蒼褪めた油彩の樹々が犇めきあっている。
 鬱蒼とした樹苑の籠。そして、その檻から抜け出そうと羽搏く一羽の青い鳥。
 天翔する一筋の花色は恐れる事無く不穏な空気を切り裂いている。見ていると力強い羽根の音が聞こえてくるようだ。
 画面の片隅には鳥籠を持った兄妹の姿がある。幸せの象徴である青い鳥を逃がしてしまったのか、其の姿は必死だ。
 彼らの追い求める『幸せ』とは果たして何なのだろうか。
 数少ない作者の要望として作品の前には必ず花束と割れた卵の殻が用意されている。
 作者は云った。
「存外、此れをご覧に為って居るあなたさまの直ぐ側にも――青い鳥は居るのかも知れませんよ」(注

 注:幸せはすぐそばに。
 木枠の裏には青い鳥の悪戯が一片、隠されている。このページに辿り着いた貴方にも正解の花丸を。

 

成否

成功


第1章 第13節

ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
白いわたがし

ポポ
『森と魔女たちと』
画用紙/パステル、クレヨン
セルウス回遊美術館(作品番号p3p001802)

 ポポは他にも作品を残している。
 彼女が描くのは優しくて摩訶不思議で、ユニークかつファンタジックな世界だ。
 本作『森と魔女たちと』もその内の一枚である。
 中央のどっしりとした白テーブルに座っているのはとんがり帽子をかぶった見目麗しい魔女たち、それぞれが得意な魔法を披露しているようだ。
 よく見ると、クレヨンで描かれた大きなテーブルは大きな鹿の背中であり、周囲の枯れ木のような純白のクリスマスツリーは真珠のフェロニエールやクロッシェレースの雪の結晶で飾られた鹿の角である。


 Merry, Mary, Poppins Pochette.
 金の星を鳴らしましょう。
 緑の宿り木探して飾れば、楽しいお茶会始まるよ。
 Merry, Mary, Had a Little Deer.
 銀のスパイス、メレンゲパイ。
 シナモントフィーにジンジャーティー。
 お菓子も紅茶もたっぷりあるわ。
 さあさ、さあさ、おいでなさい。
 Merry, Mary, The Witches ' Day.
 とんがり帽子の魔女が笑った、大きな鹿のテーブル囲んで。
 ネージュの結晶、ジングルの砂、お庭へ続く抽斗の灯り。
 魔女のおしゃべりは魔法のスペル、七色菫の花が咲く。
 オーナメントがゆらゆら揺れるへんてこな森。
 ホワイトツリーは鹿の角!

成否

成功


第1章 第14節

マギー・クレスト(p3p008373)
マジカルプリンス☆マギー

ウィリアム
『ハミングバード』
水彩/キャンバス
ベオ美術館(作品番号p3p008373)

 精霊ニュンフのような柔らかい筆運び。精緻に重なりあう色彩は春の風に似て優しく、爽やかな空の色は永遠性に満ちた視点から描かれている。
 本作『ハミングバード』からは溢れんばかりの感謝と希望、そして朝露一滴ほどの寂寥感が伝わってくる。
 陽光に見守られた鮮やかなハミングバードは無邪気さと変化の寓意だ。
 朝靄色に染まる薄紫のアスターと純白のマギー(注1が咲く花畑。小さな首で必死に花を覗きこみ、ハチドリは涙のような甘い蜜で喉を潤す。

 本作を描いたウィリアムという画家については詳細な情報が残されている。
 年代や地方は不明だが、彼は男爵家の長男として生を受けた。
 家同士の約束によって当初は歳の離れた少女と婚約を交わしていたが、本家筋に当たる別の女性と結婚している。
 彼は安泰した人生をおくり『ハミングバード』はその中で描かれた。
 
 しかしこれは正確な記録では無いという説がある。
 曰く、ウィリアムとは憂いを帯びた大人の男性ではなく、無邪気で明るい、男の子のような少女であったと言うのだ。
 作者名で判断する限り前者の説が有力に思えるが、この世界では見えるものだけが全てでは無い。
 だからこそ少し立ち止まってみてほしい。果たしてこの絵を描いたのは、私であったボクとは、一体誰の事であったのか。
 
 注1:マーガレットのこと

成否

成功


第1章 第15節

不動 狂歌(p3p008820)
斬竜刀

狂歌
『農村』
水墨画/二番唐紙
フェーネム美術学園(作品番号p3p008820)
 
 このように素朴かつ童話的で、自然に調和した美しい村が存在しているという事実に驚きを隠せない。
 神秘的な文字で書かれた村の名前を我々は読むことができない。それが本作を一層、浪漫あふれる作品にしている。(注1
 狂歌の『農村』はその名の通り、小さな農村を描いた作品である。
 水を引きこんだ畑には葦に似た草が生い茂り、踏みしめられただけの簡素な畦道の傍には愛らしい家屋がぽつぽつと建っている。
 家の半分を占める大きな茅葺の屋根からは細く長い煙がたなびき、畑に出た民に昼餉の時間が近い事を知らせる。
 畑向こうにはぼんやりと、鶴のように優美な山が描かれている。なめらかな曲線の合間をゆっくりと流れるように雲と時間が流れていく。
 暴力的な日常を忘れさせてくれる、穏やかな風景だ。
 作者である狂歌は何を思いながらこの光景を見ていたのであろうか。
 それとも、この牧歌的な光景こそが彼女の在り方なのか。丁寧に摩られた油煙墨で描かれた世界は単色で構成されたとは思えないほど生命力に満ちている。

 狂歌の本職は絵描きでは無く、その証拠に本作には特筆すべき技法は使われていない。しかし見る者の魂を癒す不思議な魅力は誰にも真似することはできないだろう。
 学生諸君もぜひ奮起して作品に取り組んで欲しい。

 注:カンジで「カムイグラ」と書かれている。

成否

成功


第1章 第16節

エシャメル・コッコ(p3p008572)
魔法少女

コッコ=ガハク
『きゅうきょくのプリン』
画用紙/クレヨン
トルタ料理学校(作品番号p3p008572)

 どこかの誰かの困った声を聞きつけて。
 ココッと参上、エシャメル・コッコ!
 今日の両手装備は向日葵代わりの十色クレヨン!
 本日限りのガハクぎょー、はりきってくな!
「なにをかくそーコッコは絵もうまいな! そのコッコがトクベツに絵を描いてやるな! これで解決まちがいなしな!」
「何と!! 頼もしい助っ人ですね、パルナスム博士!」
「よろしくお願いします……」
 ガハクという響きにただならぬ圧を感じた小型犬に戦慄走る。
 完成はこちらな、と料理番組も真っ青な準備の良さで取り出されたのは……。


 愛とは何か。美しい物か。それとも恐ろしい物か。判断するのは酷く難しい。
 ならば欲望は? 醜い物か。それとも生命が存続するための得難い理由か。
 本作『きゅうきょくのプリン』の美しさに余計な言葉は必要ない。
 画伯によれば、本作は究極の良い子だけが行けるプリンの国にある伝説の至高のプリンを描いたものである。
 山の如く巨大なプリンの天頂からは珈琲色のカラメルソースが流れ落ち、ガラス皿の底をひたひたと満たしている。色の様子から見て新鮮な卵と生乳がたっぷりと使用されているのは間違いなく天鵞絨の美しい黄色の表面に匙を入れれば途端にバニラとカラメルの甘い香りが弾け出し――。

 ※現在お読みの作品は美術品図録で間違いありません。

成否

成功


第1章 第17節

ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸

やなぎ
『あめ』
彩色絵具/キャンバス
サリクス大聖堂(作品番号 p3p000788)

 本作『あめ』はステンドグラスの図案として広く採用されている。
 教会の祭壇上に飾られたあの幻想的な光景を見た者も多いだろう。
 題名の『あめ』とは果たして雨の事だろうか。飴、それとも天の事か。もしかしたら其の全てかもしれない。
 見る者の解釈によって『あめ』は姿を変え、そのどれもが真実だ。
 本作を、作者は「子が親に息災の便りを送るような気持ちで描いた」と述べている。
 親の敷いたレール、プログラミングされた機械に自由はない。しかしここには自由がある。
 作者自身の指の腹を筆代わりにして一つ一つ丁寧に刻まれた色彩は、時に力強く、時に淡く、キャンバスの中を変幻自在に走り回る。
 自分という個の意志を『あめ』として意思表明した本作は、正に心象絵画と呼ぶに相応しい作品と言えよう。
 彼の手紙は伝えたかった相手に届いたのだろうか? そうであれば良いと心から思う。

 やなぎが無類のこんぺいとう好きであった事は一部の界隈では非常に有名だ。『あめ』に感銘を受けた飴細工職人が作った、乳白と真紅の二色金平糖『ランドウェラ』は現在も人気の菓子として作られている。(黒色の缶が特徴的な本品はカメーナエ物販コーナーにて販売中)



 ――どこか遠く空の下。
 あめ、と呟く夢の色。
 二振りの刀を刷いた青年の手の中で、小さな缶がころりと鳴った。

成否

成功


第1章 第18節

咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳

百咲 合花(ももさき あいか)
『夏百合』
水彩/酸性紙
S&S美術館(作品番号p3p001385)

 ――見苦しければ捨てればいいし、褪せた花でも気に入れば愛でればいい。
 これの価値はお前に任せた。
 
 白百合の花はしばしば取り上げられる画題だ。
 純潔、処女性、そして死。
 百合が持つ象徴性、抽象性は多岐に渡り、その美しさと共に人々を魅了し続けてきた。
 絵画の良い点は美の持つ瞬時性を切り取り不変の物にできるということだ。
 その対論存在が本作『夏百合』である。
 製作者、百咲 合花は芸術家であると同時に、酷く現実主義的な側面を持っていた。
 一見して実在するかのように見える一輪の白百合に影は存在しない。画面を覆う幽玄なる木陰の中で明月のように輝いている。
 百合の花弁に色は塗られていない。紙の純白さ、そのままを映し出している。
『夏百合』は購入者への絶対条件が存在する。その為、本作をヴァニタス画と分類する者もいる。
 百咲が望んだのは「本作が劣化しようとも、けして修復をしないこと」。これを認めない買い手にはどのような大金を積まれようとも、けして『夏百合』が売却されることは無かった。
 咲く花は時間の流れと共に歩みを進める。本作も自然と同様、いずれは永遠性を破棄するのだろう。そうして「変化」と云う新たな美を手に入れた。
 これから『夏百合』は冬へと向かっていく。その道を征く姿の、何と華々しく凛々しき事か。

成否

成功


第1章 第19節

我楽多(p3p008883)
白兎

うさぎ
『いぬさん』
画用紙/クレヨン
パルナスム・コレクション(作品番号p3p008883)

「孫が可愛くてつらい」
「正気に戻って下さい、パルナスム博士。我楽多殿はあなたの孫ではありません」

『私は目が見えないのでこの子に見て貰いながら描きますが宜しいですか?』
『あっ、はい。どうぞ……』

 異世界から来たうさぎと少女は、現れるなりそう言った。そうして完成した絵を見たパルナスム博士と守衛は咄嗟に両手で顔を覆い、出かかった遠吠えを何とか止めた。
 クレヨンで描かれていたのはダークブルーのスーツを着てツンとおすましする小さなテリア犬の姿。
 画用紙を掲げる白い作者は頬を淡色に染め、褒めてほめてとキラキラ、ストロベリーの瞳を輝かせている。
 えっ、かわいさの化身かな?

「ありがとう、我楽多殿。こんなに素敵な肖像画は今まで見た事がないよ……」
 何とか紳士力を保ちながら、パルナスム博士は前脚で雪兎のような前髪を撫でた。
「文字はあまりうまく書けませんでしたが」
「これは、味がある字と言うんだよ。それにサインは誰も真似できないくらいで丁度いい。さあ、お爺ちゃんについておいで。とっておきのお茶を出そう……」
「はーい」
「博士」
 我楽多を先導して画廊から出ようとする尻尾ブンブンのパルナスム博士に守衛から待ったがかけられた。
「何我楽多殿の絵を持って出ていこうとしてるんですか」
「本作はたった今お買い上げされました……」

成否

成功


第1章 第20節

 宵色表紙の図録が十と九冊。

●終わりに

 アルカモトラズ監獄第四階層、通称カメーナエ画廊。
 二百年前、この場所に寄せられた十と九枚の作品が世界中へと散らばり歴史の転換点になった。
 一つ一つの物語を紐解きたい所だが、いまは時間が限られているため、また別の場所で話すとしよう。

 異邦人から与えられたと云う此れら作品の詳細な内容を知る者は、もう居ない。
 しかし我々は力強く物語る作品の中に作者たちの持つ不滅の輝きを見た。
 
 カメーナエ展覧会は所有者や協賛者の支援や協力の下、根強い愛好家たちの声に推される形で実現した。
 歴史的価値の高い19の作品が私の代で再び一つ場所に集った事を心から誇りに、そして喜ばしく思う。
 大盛況のホールと笑顔溢れる眼前の光景、この奇跡のような一瞬を作者たちも見て貰いたかった。

                        ドクター・パルナスム38世


●APPENDIX(付録)
 第一章 記憶の章
 第二章 希望の章
 第三章 欲望の章
 第四章 太陽の章
 第五章 曙光の章
 第六章 由縁の章
 第七章 家族の章
 第八章 自由の章
 第九章 精霊の章
 第十章 歯車の章
 第十一章 喜びの章
 第十二章 幸福の章
 第十三章 聖夜の章
 第十四章 岐路の章
 第十五章 懐郷の章
 第十六章 卵王の章
 第十七章 意思の章
 第十八章 必滅の章
 第十九章 感謝の章

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