シナリオ詳細
<グラオ・クローネ2021>金平糖としょこらあと~希望ヶ浜~
オープニング
●
ごらん、湯煎をしたココア色の艷やかなこと。
型へ流し込むときのわくわくとしたあの気持。
そこへ金平糖を、ひとつ、ふたつ、みっつ?
気持ちの分だけ飾り付けたら、
あげる人? まあいなくたっていいんじゃない。
この魅惑の香り、独り占めしたってかまやしない。
●
噂好きの女子高生たちがaPhone片手におしゃべりしている。
「ねえ、金平糖見つかった?」
「まだー」
「探すとないよね」
「どこも売切れでさ」
「あったけど欲しい色じゃなかった」
「チョコは用意できたのに!」
口々に言いたいことを言いながら熱心にaPhoneを操作する。そのうちひとりが飛びあがらんばかりに喜色をにじませた。
「イヨートーカドーに在庫あるって!」
「ガチ?」
「とにかく行こう、いつまで残ってるかわからないし!」
女の子って何でできてる?
流行、噂話、すてきなものぜんぶ。
希望ヶ浜の一部では、こんなうわさが流行っていた。
チョコレートへ金平糖を添えると、自分にも相手にも幸運が舞い降りる。
赤い金平糖は愛を。
青い金平糖は友情を。
黄色い金平糖は尊敬を。
緑の金平糖は学業を。
紫の金平糖は安全を。
●
「何も入ってなければ?」
「……残念賞ということかしら」
「浮かばれないね」
などとおしゃべりをしているのは、『孤児院最年長』ベネラー (p3n000140)と、その妹分『無口な雄弁』リリコ (p3n000096)だ。
ベネラーは温度計を見ながら手際よく、リリコはもたもたと、一口チョコを作っている。ベネラーが型へチョコを流し込み、リリコがその上から金平糖を置いていく。
「これでじゅうぶんかな?」
「……もう少し手伝って。私だけじゃこんなきれいなまんまるにならない」
「いいよ」
かわいい妹分はちょっと手先が不器用だ。お茶を上手に入れられなかったり、ね。
●
噂話なんて、とあなたは思うかもしれない。
流行なんか、とあなたは思うかもしれない。
だけどたまには信じてみようか。
あなたは学園の調理室へ向かった。
- <グラオ・クローネ2021>金平糖としょこらあと~希望ヶ浜~完了
- GM名赤白みどり
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2021年02月24日 22時05分
- 参加人数30/30人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 30 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(30人)
サポートNPC一覧(2人)
リプレイ
●
チョコレートに金平糖? おいおいやりすぎじゃねェの? と、ネイルバイトは思った。
甘いものに甘いものぶっかけてどうすんだよ。興味本位で試食してみた、前言撤回、ふん、悪くねェじゃん。まあ確かに糖分の補給には手頃だわなァ、もといたトコの探偵軍にも携帯用チョコレートがレーションとして存在していたけど、茹でたジャガイモよりややましなレベルだったわな。その点こいつは歯が溶けそうだが、たしかにうめェ。腑抜けた平和の味がしやがる。脳みそまでニコチンのあいつらにゃ甘すぎるかねェ。
その点、オレはヤニもスイーツも平等に愛せる博愛主義な乙女だからよォ、いいもん作ってやるぜ! ま、全部自分用なんだが。
祝音は戸惑っていた。だってチョコレート作りなんて初めて、調理本と首っ引き。そんなに難しいことは書いてないはずなのに、なんだかとてつもない大仕事に思えてきた。
「こんにちは、お困りですか?」
そんなところへ縁が声をかけてきたので、祝音は飛び上がらんばかりに驚いた。
「あららごめんなさい、驚かせるつもりはなかったのです。よかったらチョコ作りのお手伝いをさせてください」
「あ、うん……君もなにか作るの?」
問われると縁は照れたように笑った。
「はい、私はこの世界で唯一の、そして大事なお友達へ向けて作ります」
「そう……受け取ってもらえるといいね」
「はい!」
縁のふんわりした笑顔は心地よく、祝音の警戒をほぐしていく。
「じゃあ……作ろうか」
「はい、まずはチョコを湯煎で溶かすところからですね。わっ、かわいい型!」
「一口チョコ、いいなぁと思って」
猫さん、わんこさん、うさぎさん、お星さま……エトセトラエトセトラ。
「じゃあ次は金平糖を添えましょう」
「チョコレートに……?」
「はい、幸運が降りてくるそうですよ」
うーんと悩んだ祝音は、紫の金平糖を添えた。安全は大事、石橋を叩いて渡るくらいで丁度いい。その石橋だって安全じゃない時があるのだし。
「紫の金平糖が、紫のお星様が……安全を招いてくれたら、いいな」
「いいチョイスですね」
縁は星型のチョコへ緑と青の金平糖を載せた。
「さあ、ラッピングが終われば完成、私は届けに行ってきます!」
「楽しかったよ……本当に、ありがとう」
「チョコ作り、溶かして型に入れて固めるだけって聞いたのです!」
ソフィリアだってそのくらいは知っている。だから自信満々にそういったのに、返ってきたのはため息。
「そうだな。温度管理に気をつければ、な」
「温度管理……? チョコ、傷みやすいのです?」
「テンパリングって言ってな……まぁそこら辺は俺がやるから、チョコを刻むの手伝ってくれるか?」
「溶かして固めるだけなのに失敗とかあるのです……?」
「ボソボソしたり油分が分離したり、まぁいろいろだな」
「とにかくまずいのですね?」
「あぁ、不味いのが仕上がっても諦めて一緒に食おうな」
きっとそれも良い思い出になるだろう。誠吾がそう思った瞬間、てっきり落ち込むと思ったソフィリアは顔を上げてにぱっと微笑んできた。
「誠吾さんと一緒に食べるチョコなら、失敗してもきっと美味しいのですよ!」
思わず誠吾は相好を崩しそうになった。不機嫌そうな顔でそれを上書きする。
「はいはい。でもまぁ、せっかくなら旨いチョコ作ろうな」
「うん、うちはチョコを刻むのですよ!」
非力なソフィリアは包丁へ力を込めてザクザク切り刻んでいく。そんな彼女の様子を見ながら、誠吾はこっそり微笑んだ。
(あんないい笑顔で返されたら気合い入れて作るしかねーよなぁ?)
できあがったのは兎の彫像みたいな立派なチョコレート。耳の付け根へ金平糖を足して。花飾りの出来上がり
空調の効いた希望が浜の調理室でも、二月の昼は、まだ寒さを感じさせている。
それを吹き飛ばすようにマリアはヴァレーリヤへ笑顔を向けた。
「ヴァリューシャ! どんなチョコを作ろうね! ふふー! 完成したら、作ったのを交換しよう! 美味しいチョコになればいいなぁ♪」
「ええ、美味しいチョコレートを作りましょうねっ! どんなのがいいかしら……」
ふたりの視線が交差する。それだけで何かが喉元までこみ上げてきたものだから、同時に顔をそらした。そろって頬が赤くなっている。
「え、ええっと、そうだ! お酒の入ったチョコなんてどうだい? ヴァリューシャ好きそう!」
「お酒! の入ったチョコレート、良いですわねー! 香り高くて苦味が強めのものが合いそうかしら。せっかくだから一つ一つお酒の種類を変えてみてもいいかも!」
ヴァレーリヤの機嫌が治りほっとするマリア。彼女には笑顔で居てほしい。どんな時も。何があっても。そのためなら自分は……。つきんと胸に痛み。それがなんなのか、もうわかっている。
マリアがテンパリングを行っている間に、ヴァレーリヤが中身を作る。
「お酒と水飴と混ぜて温めて……なんだかいい香りがしてきましたわー!」
できあがったチョコレート、そういえば金平糖を添えるのだったか。二人は何気なく自分のものを隠した。
「あとでのお楽しみですわ!」
「そ、そうだよね、あはは!」
乗せたのは、赤い、金平糖。
「ねえねえ、ミルキィちゃん聞いた? チョコレートに金平糖を添えて贈りあうとお互い幸運がくるんだって! ステキだよねー、わたしたちもやってみない?」
そうもちかけたのはミルキィの友達、掃除屋をしている藤谷千代子だ。いちもにもなくミルキィは乗った。だっておいしいものを作って食べれるんだもん。さらに幸運まで降ってくるとなればやらない手はないでしょう。乙女とは現金なのです。
「うん、やるやる! それじゃあボクタチも作って贈り合ってみよう♪」
てなわけで足取りも軽く調理室へ直行した二人。
「ミルキィ先生! チョコレートの作り方指導よろしくおねがいしまーす!」
「チョコ作りならばっちり任せてだよ! まずは湯煎で溶かして、その次はお水でテンパリングしてー……」
「うわー、手際いい! いやー、やっぱりミルキィたんのお菓子作りはすごいねー」
「千代子ちゃんだっていい感じに進めてるじゃない、そうそうこうして……あとは金平糖を添えるだけ」
何色にしよう、友情の青と学業の緑、せっかくだもの、安全の紫も。何色乗せても大丈夫。乙女は欲張りなのです。
千代子からは青と紫。
「ミルキィちゃんの安全も祈ってプレゼントだよ♪」
「えへへー、こうやって交換するの楽しいね☆」
「べ、べつにうわさ話を信じてるわけじゃないけど……珠緒さんに幸運が舞い降りるなら、やってみてもいいかなって」
と言いつつ蛍は真剣な目でテンパリングをしている。そのとなりでのんびりとチョコを砕いている珠緒。
「希望ヶ浜は、噂話から色々と生まれてきます。夜妖のような悪いことばかりではないと思えば、ありかもですよ。ふたりで楽しめれば、それはもう幸せの訪れなのです」
そうね、と蛍は返した。
(自分にも幸せがっていうのは、愛してる人が幸せならそれだけで自分も幸せだからなのよ、きっとね)
そっと珠緒の横顔を盗み見る。初めて会ったときに比べて、なんと血の気の良くなったことか。さんざめく桜の精のようだ。ひととき春を感じて蛍は微笑む。
できあがったものはその場で交換会。
蛍のチョコは大きなハートにたくさんの金平糖が散らしてある。青、黄、そして赤。
「ね、珠緒さん。金平糖の色の割合、そのまま珠緒さんへのボクの気持ちを込めてみたのよ。だから赤の金平糖が一番多いの……恥ずかしいけど、これがボクのホントの気持ちだから。もしよければ、金平糖を食べる順番でボクへの返事をしてくれたら嬉しいな」
「もうこの時点で幸せいっぱいなのです……。では珠緒からのお返しは、我儘欲張りセットなのです。四色ひとつずつで、全部に赤も一緒です。特別な日の良いことすべて、蛍さんに得て欲しいな、と」
「珠緒さん……」
「蛍さん……」
「それじゃあよろしくね伏見先生」
「アントワーヌから先生と呼ばれるのはなんだかこそばゆいな」
三角巾をしたふたりはくすりと笑いあった。
「とりあえず火加減は火と水の精霊に任せて……」
「伏見先生、ここは希望ヶ浜だよ?」
「そうだったな。理科教師が精霊を使っちゃいけないな。えーと、チョコを刻む、ここまではわかる」
「そうそう。お次はチョコを溶かして。あっ、直接火にかけちゃだめだよ」
「なに、そうなのか、うわ、もう焦げちまった。……なにがおかしい? 先生だって失敗するときはする」
「おっと失礼。私のお姫様は今日もかわいいなって思っていただけさ」
「可愛い、ね。アントワーヌの方が俺にはそう思えるがね」
「私のほうが可愛い……」
アントワーヌは大きな目を見開き、ついでまばたきをした。納得してないようだった。わずかなとまどいのあと、アントワーヌは常と同じ笑みを浮かべた。
(行人君とは一緒に色んな所へ行った。たくさん手も繋いだ。その手の温かさも。精霊君たちと戯れる時の穏やかな声も。緩められた目元も本当に大好きだ。ずっとその隣を歩けたらいいのに……)
だから選んだ金平糖は赤。
(……不思議だね。かっこいい王子様になりたかったし、君の王子様でありたいとも思うのだけど。一人の女性として君に寄り添いたいと思ってしまうんだ。君を縛りたくないのに。私だけのお姫様で。私だけの行人君でいて欲しいと、ふと思ってしまうんだ)
伝わらなくても構わない。行人に幸せが訪れればいい。それだけを願ってアントワーヌは両手に乗せたチョコレートを、ガラスの靴を差し出すように行人へと。
受け取った行人は紫の金平糖が乗ったチョコレートを返した。
「アントワーヌは……危なっかしいからな」
「そうだろうか」
「ああ」
短く言葉をかわし、行人は顔をそらした。赤い金平糖の意味に気づかないほど愚かでも物知らずでもない。はぐらかしてきた答えは、心中そのままの紫。友情の青、愛情の赤。混じって交わってどちらが本音か自分にもわからない。でもこれが自分なりの、答え。
「いいかイシュミル、変に工夫しようとすると何故か失敗するんだ。だから俺のやることの邪魔はするな」
「邪魔なんてしたことがあったかな?」
「罪状を書き連ねてやろうか、ああん?」
アーマデルは胡乱な視線をイシュミルへ送った。
で、まずは情報収集。aPhoneでクックパッパを開き、きちんとチョコレートを計量。しかるのち温度に気をつけながら湯煎。……なんでたぷたぷしてんの? 妙だな、これであってるはずなんだが。しかしそこは初心者、こういうものだろうと思いこんでアーマデルは型へチョコレートを移した。
「金平糖を加えるのか」
「ああ、各種取り揃えてある」
「嘆かわしい、カロリーの取りすぎだ。非常食でもあるまいに」
「やかましい、これはこういうものなんだ。文句言うな」
言いながら金平糖をチョコへ乗せたら、そのまま完全に沈んだ。
「……ま、まあ、腹に入れば一緒だろう。おいイシュミル、ブロッコリーを添えるな。カリフラワーは却下だ。パプリカ? よくわからんが、大丈夫かも、いややめろ、なぜ野菜に固執する。……ちなみにチョコはカカオ豆だから野菜だぞ」
「それはピザソースを野菜と言い張るようなものだな」
なんかとにかく疲れたアーマデルは、いちばん出来のいいのをセレクトしてラッピングし、イシュミルへ押し付けた。
「これはあんたの分だ。あんたに渡すために作ったんだから、おとなしく受け取っておけ。返礼? ……いつ用意したその野菜ジュース」
栄養だけはあるんだよなあと、アーマデルは肩を落とした。
「ルル家はリアにチョコを渡すんだね」
「はい! そういうわけでシキ殿と一緒に作れてよかったです! 拙者これで料理は得意なのですが、シキ殿はお料理はどうですか?」
「料理か……まぁ出来なくはないよ。肉焼いて塩を振ったり……簡単なものなら」
「お菓子はいかがですか!」
「ぶっちゃけろくに作ったことないんだけど、ふふ、でも今日はルル家がいるからね! どーんと大船に乗った気持ちになっているよ、私が!」
「なるほど! 大丈夫です! 拙者も昔は全然ダメでしたから!」
料理くらいこなせなくては、天香家新当主の側付きはできない。お料理初心者のシキのために、ルル家は業務用チョコを湯煎で溶かし型に入れて冷ますオーソドックスな方法を提案した。
「そういえば、学生の間で噂になっている……金平糖の話? ふふ、学生ぽくて可愛らしいよね。せっかくだから私もあやかろうかな」
「良いですね! せっかくですし、作ったらチョコレート交換しませんか?」
「わあ学生っぽい。やろうやろう!」
手にした五色の金平糖から、ふたり、楽しく悩む。暗い色のミルクチョコレートはどんな金平糖も似合うものだから、迷いに迷うその時間も楽し。チョコレートへ金平糖を添えると、自分にも相手にも幸運が舞い降りるのなら、交換すればきっと二倍の幸運が降り注ぐのだ。
「ふふ、おいしくできてるといいけれど」
シキが渡したのは青い金平糖。
「おや、おそろいです!」
ルル家もまた、友情の金平糖。
●
「えー、愛~愛はいりませんか。今なら崇高なる愛天使アナトチョコが3000Gポッキリ」
亜奈斗は道行くいかにもな非モテへ声をかけていく。ああ、だまっていれば可愛いのに。
「チョコレートひとつぶ3000Gは高いと思います」
「あら、ベネラーさんだったかしら。高いって……愛に値段をつけるのならこれ以上値下げするのは愛の冒涜になるというモノ」
「3000Gは高級品に入ると思うのですが」
「……ベネラー、あのね、人のやることにずかずか踏み込むのは良くない」
「だって気になるんだもの」
「やれやれ仕方ありません。子どもへの愛は尊きモノですから……はい、あーん」
「……ありがとう、おいしい」
「いただきま……うわ辛っ!」
「こういう時のシチュエーションは、屋上か、屋上に続く階段って以前いった依頼で聞きました! というわけで屋上で待っていますね!」
いい笑顔で走り去ったマギーの、小さくなっていく後ろ姿を眺めフレイは頬をかいた。
「すぐ行くから暖かくして待っとけよー!」
背後にかけた声も聞こえているやらいないやら。フレイはゆっくり歩きだした。
「というかそんなところで渡すのか。どこ情報だそれ……まぁ良いか」
ここで貰えると思っていたのは内緒内緒。だけど楽しみが先延ばしになったと思えば悪くない。
屋上で風に吹かれ、マギーはフレイを待っていた。
「えっとその……ささやかながら気持ちを込めて用意しました。受け取って貰えます、か?」
贈ったのはふんわりした淡い白系のクリア素材で包まれた生チョコのセット。紫の金平糖が飾られている。
「あーそういやぁ金平糖も一緒に贈るんだっけ。すっかり忘れてたわ。紫はなんて意味だ?」
「あの、安全を、祈って……」
「この一個だけ色が違うやつは?」
「……」
それを言わせるのか、乙女の口から。マギーは口をキュッと結んだ。なんとなく気まずい雰囲気を振り払うように、フレイは明るい声を出した。
「俺はほれ、あんまり出来栄えは良くないが、まずくはないはずだ。ちと甘めにはしてる。ちゃんと味見はした、大丈夫だ。それと……これ」
フレイはポケットから金平糖の袋を取り出した。色は、赤。マギーの顔が輝いた。
そういうものは潜ませておくのが鉄板だろうにとヘーゼルは思わず笑んだ。
かわいらしい大きな紙袋。覗くのは少しいびつなラッピング。ヘーゼルの前でもじもじと顔をそらしたままなのは、渡す時の文句を考えているからか。
眩いなあとヘーゼルは思う。女の子、してるなあ。
残念ながら私はもう汚れた大人になってしまったけれど。
ヘーゼルに見守られながらアッシュは一歩右へ寄った。
(なぜに今日に限って、こんなに落ち着かないのでしょう……)
気持ちを表すように、振子みたいに左右へふらりふらり。
(喜んでいただけるでしょうか、気持ちだけはこめた贈り物なんです。初めてのものだから、少し不格好になってしまったのです……)
決まらない心。ふらりふらり。その顎をヘーゼルが捉えた。かさなる影。絡み合う舌の合間にアッシュが渡されたものは、甘い甘い小さなかけら。頬が赤らんで目元が熱を帯びる。何を伝えるべきだったか、迷いなど吹き飛んでしまった。早く自分のものを渡さないと、涙が溢れてしまいそうだ。
「……一生懸命、つくったんです」
押しつけるように渡した真心。きっと優しい味がする。心臓は跳ねて飛び跳ねて口からまろびでそう。軽い頭痛。頬は熱いままだ。
ころ、と口の中で主張する金平糖。
「……赤でなければ、許しませんから」
「おや、赦しゃしないとは、怖や怖や。ちゃんと赤だったよ。そうさね、娘さんのほっぺたと同じくらいの赤さ!」
学生カバンを下げて歩く帰り道。リウィルディアはどこかぼんやりしていた。
「あ、そうだ。ちょっと待って……いややっぱり歩きながらでいいから!」
先に立ち止まったのはそっちの方なのにとアオイは唇を尖らせた。
「ほら、今日はグラオ・クローネじゃない。だから少し学園の調理室を借りて、チョコを作ってみたんだ。甘い物好きだったでしょ? 機械弄りもして勉強しますもして、糖分が取れるからちょうど良いかなって思ってさ」
早口で言い募りならがリウィルディアはチョコレートをアオイへ差し出した。
「ん、ああ、そういやそうだったな。ありがとね。ということで俺からもどーぞ。」
目をまんまるにしたリウィルディアへ、アオイからもお返しを。
「実は今朝作っといたんだ、味の好みは聞いてないからふつーな感じの。あ、生チョコだから早めに食べてね。」
生チョコに添えられた金平糖は紫。意味は「安全」。危険と隣り合わせな自分たちだからこそ、親しい人には元気でいてほしいし、できればまた来年もこんな風に平穏な時を過ごしたい。
リディルディアからのチョコレートには、何も添えられていなかった。特に気にせず、アオイは商店街へ方角を定める。
「夕飯の献立まだだったよな。」
「あ、うん」
「リウィルの希望があるなら任せるよ。」
「OK、おいしいの作るから」
歩き出したアオイの背へ聞こえないようにぽつり。
(……言えなかったな、また)
夕暮れの放課後、教室にて。
「チョコレート! お姉様からのチョコレート!」
跳ね回るしきみを、スティアは微笑ましく眺めている。
「そんなに喜んでもらえるなんてうれしいわ」
「これが喜ばずにいられますか! お姉様のチョコレートですよ!」
しきみはラッピングされたそれを割れない程度にぎゅーっと抱きしめた。
「ふふ、お姉さま。しあわせ、ですね」
言葉通りの大輪の笑みに、スティアもうれしくなった。
添えた金平糖は、全色。同じ幸せが舞い降りるならたくさんのほうがいい。
「しきみちゃん、そのバッグは何?」
「はっ、いけない。忘れるところでした。これが婚姻と……いいえ、『私チョコ』です。金平糖は全種類ご用意しました。お姉様のこれからのご多幸を願って貴女のしきみからのプレゼントなのですが! 受け取って、いただけるでしょうか……」
最後の言葉が尻すぼみになっていく。
「もちろん、しきみちゃんからのプレゼントならなんでもありがたくいただくよ」
「お姉様……」
「すごい大きい袋だね? 金平糖をたくさんだなんて……考えていることも同じだね。これは絶対に幸福が訪れるに違いないよ」
「はい、お姉様の幸福の一助になれたなら私は幸せです」
「私だけじゃダメだよ、しきみちゃんもでなきゃ。ふたりでいっしょに幸せになろうね」
「はい、はいお姉様……!」
「ゆっくりと大切に食べないとね、とっても幸せ~! ふふっ」
スティアはしきみを抱きしめた。
待ち合わせ場所までのヨタカの足取りは重い。
(うう、生徒は先生から貰ったチョコレートが重い……)
音楽のヨタカ先生はなにげに人気者なのだ。
指定の場所にはリリコと、希望ヶ浜の制服を着た武器商人が居た。
「やあ、リリコ、紫月、お待たせ…。」
「いま来たところだよ、ふふ」
ヨタカは紙袋をおろし、別の包みを取り出した。
「…今日は俺も準備しているんだ…。いつも話を聞いてくれるリリコに……。開けてごらん。」
淡いグリーンの包装紙を解いた中身は、ミントグリーンの色が鮮やかなマニキュア。
「……パーリッシュフェアリーのThursdayね、とってもありがとう」
「我(アタシ)からもリリコへ、いつもお疲れ様。小腹がすいた時にお食べ」
渡されたチョコレートには緑と紫の金平糖。世界を知り、安全であれかしと願いを込めて。
「……あら、かぶってしまったわ」
リリコの返礼も同じ色の金平糖チョコ。ヨタカへもそっと手渡す。
「おやまお揃いだね。ヒヒヒ!」
「ありがとうリリコ…。」
「さて」
武器商人は重たそうな紙袋を見やった。
「おまえが貰ったチョコレートは後で精査するとして……受け取ってくれるかい、小鳥?」
赤い金平糖が輝くチェリー入のチョコレートケーキ。
「わ、わ…もちろん……ありがと…俺からのも受け取ってくれる…?」
「リップだねぇ」
「……夜来香という花の名前が紫月のようで、衝動買してしまった…。」
「うれしいよ、ありがとう」
廃滅病に侵された身にグラオ・クローネは眩しすぎた。けれど、それすら乗り越え、ジェイクは今ここに立っている。
(こうやって今年も迎えられたのは、ローレットのみんなのおかげだし、何より妻である幻が必死に俺を助けようとしたからだ)
あらためて生きている喜びを噛みしめる。この喜びを何に例えよう。そうだ、手作りの金平糖なんか良いかもしれない。幻を彩る蝶をイメージした清涼感のある青い金平糖。それを手にジェイクは妻を呼ぼうとした。
「……愛情の赤と無垢な白が良いでしょうか。ジェイク様の服の色とも合いますし……」
扉の隙間から悩んでいる妻の姿が見えた。今日もため息が出るほど麗しい。
妻は一生懸命だ。結婚してなお、ジェイクが喜んでくれるか心配でたまらないのだろう。
ようやく決めたのか、贈り物が包み紙にくるまれる。朱と白の蝶の翅をプリントしたそれは美しく、幻らしかった。頃合いを見計らい、ジェイクはノックをする。飛び上がらんばかりに驚く幻に笑みを誘われた。
「なんの御用でしょうか、ジェイク様」
「幻、おまえにこれを。喜んでくれるか」
青い金平糖を見た幻の白皙の美貌に影がさす。走馬灯のように、あの苦しかった時期が蘇ってくる。だけど最後は思いを告げあっての結婚。悲しみの涙が、嬉し涙へ変わっていく。
「そう泣くなよ。俺はもうどこにもいかない」
唇が幻の涙をすすった。赤面を見られたくなくて、幻は夫の胸へ飛び込んだ。
まったくこんな日に限って、いや、こんな日だからこそ同僚は仕事をおしつけて帰ったのだ。この万年新婚新米国語教師に。
リゲルは必死になって待ち合わせ場所まで走っていった。2月の夜はまだ寒い。待ち人来たらずのポテトは寒さに震えているだろう。暖かくしていると良いが。
たどりついた先では、やはりポテトが寒そうにしていた。その冷え切った指先を両手で包んで温める。
「すまない、遅くなった」
「いや、いいんだ。のんびり待っていた。リゲルのことだから貧乏くじを断れなかったんだろう?」
「面目ない……」
「ネクタイがずれているぞリゲル」
「ああ、ありがとう」
「それからこれ、プレゼントだ」
渡されたのは綺麗にラッピングされたチョコレート。赤い金平糖が垣間見える。
「……赤、か。うれしいよ。食べるのがもったいないな」
「そう言わずに味見をしてくれ」
ビターに仕上げた一口チョコに、思いを込めて金平糖。噛めば中のガナッシュが蕩けて、上に乗ったナッツ類が食感のアクセントに。
「一緒に作った皆には青と緑と紫の金平糖乗せたの渡したけど、赤い金平糖はリゲルにだけだ」
「手作りなのかい?」
「もちろん」
「どうしてだろう、心が温まる」
「喜んでくれたなら、私も嬉しい」
リゲルは腕時計を見た。
「待たせてしまったお詫びだ。今日のディナーは俺に奢らせてほしい。実は夜景の素敵な店を予約しておいたんだ」
「ふふ、ではエスコートお願いしますね」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
おつかれさまでしたー。
何故か「希望が浜」としか変換されずキイキイ言っていたGMです。
皆さんの幸せなプレイングに癒やされました。
またのご利用をお待ちしています。
GMコメント
希望ヶ浜でちょこっとチョコ作りにチャレンジしませんか。
●いつもの
一行目 同行タグ または空白
二行目 行先タグ
三行目 プレ本文
●行き先
【調理】調理室でチョコを作りましょう、思いを込めて金平糖を添えてみましょう。道具は全て揃っています。作ったことない人はベネラーくんが手伝ってくれます。
【譲渡】チョコを渡すならどこがいい? 廊下、下駄箱、教室、校庭、それとも誰もいない理科準備室? 帰り道にそっと? リリコがいます。
※1・このイベシナではEXプレイングを利用して関係者を呼び出すことができます。
※2・NPCは呼び出しに応じて登場します。
リリコ:両親を失ったトラウマで無口無表情な女の子 好意は素直に表す 「だって明日が来るかなんて、わからないから」
ベネラー:天義の辺境出身の男の子 礼儀正しくおとなしい、頭はいいがちょっとずれてる 「あなたに神の御加護がありますように」
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