シナリオ詳細
幻想グルメフェスタ
オープニング
●オサビレ商店街
「僕らの手でグルメフェスタをやりましょう!」
そう息巻いたのは、緑の帽子に緑エプロンを装着した若者である。エプロンにはでかでかと『モッサン』と書かれていた。
彼は束になった企画書をテーブルに叩き付け、同じ卓についた老人たちを見回した。
太い白眉毛をあげる老人。
「新しい郷土料理は沢山でいた。オサビレ鍋やオサビレバーガー。オサビレラーメン……それぞれ洋食屋やカフェで出しているが、定着にはまだ遠い」
丸めがねの老人が机の上で手を組む。
「然様。前回のイベントから一ヶ月しか経っていない今、再びイベントを開く意味が必要となる」
「まあ待て、若者の意見も聞こうじゃないか」
長い顔の老人が手を翳すと、うむと頷いて注目が集まった。
咳払いする緑エプロン君。
「この村はある熱意ある人々によって復活しました。
そのおかげで僕もこの村に戻る決心がついた。他にも村へ帰ってきている人は沢山いる。
しかし、それだけではまだだめだ。あの人たちがくれた炎は、僕らがこれから絶やさずに燃やし続けるための篝火です。僕らが、自分の手で薪をくべることができると、皆に示さなくちゃならない!」
緑エプロン君の語りに、バーコードみたいな頭をした老人が頷いた。
「よかろう……『計画』を許可する。全ては」
「「オサビレの未来のために」」
とか言っていると、部屋の明かりがパッとついた。
スイッチに指をあてて立っている男。黒いマントに黒装束の、割と普通のおっさんである。人名もそのままクロマントという。
「おじーちゃんたち、なにやってるの」
「オサビレ委員会ごっこ?」
「孫が成人するような歳になってまで……」
クロマントが企画書の束を持ち上げると、ぴんと眉を上げた。
「これって……」
「うむ、イベントを開くことにしたのじゃ」
●開催、グルメフェスタ!
幻想のある村で『グルメフェスタ』が開催された。
この村は山と海に挟まれているせいか食材調達に優れ、一度徹底的に流通管理が行なわれた結果大体の料理は取り扱えるという強みがあった。
その強みを活かし、『料理を作る人』と『料理を食べる人』を同時に沢山呼び込もうと考えて行なわれたのが、このグルメフェスタである。
内容はカンタン。
エントリーした料理人はブースで料理を作りまくり、参加者はそのうちの料理に投票する。その票数によって優勝者を決め、めっちゃ褒め称えようというものである。
ひょんなことからこのイベントを知り、訪れることになったあなたは……。
- 幻想グルメフェスタ完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年04月27日 21時55分
- 参加人数50/50人
- 相談8日
- 参加費50RC
参加者 : 50 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(50人)
リプレイ
●グルメフェスタ開催
本日は晴れ。朝からあちこちを行き交う人々。あちこちからあがる煙。
イベントの空気をかぎつけたミュージシャンやジプシーたちがあちこちで演奏や雑伎を披露する一方で、色々な料理の香りが混ざり合っていく。
鉄板の上でひっくり返る大きな肉。
卵を割ってフライパンに落とすさまや、ぐつぐつとゆだった鍋へ何かの麺が放り込まれるさま。
食という一点に集合した多くの人々が、それぞれの腕を披露し、そして堪能していく。
オサビレ商店街主催、グルメフェスタが始まっていた。
個性豊かなブースを端から見ていけば、イベントのカラーも分かるだろう。
例えば零のオムライス。
「こっちの世界に来る前の元居た世界での話なんだが、高校に行くのを機に一人暮らしを始めてな。それで折角だしご飯を……っていう感じかね?」
フランスパンマイスターで知られる彼も、自らの内面をさらけ出す。
「自由に料理ができるって大事だから、そーゆう機会があるやつはこれを機に作ると良いんだ!」
隣のブースでは碧が自分流の鍋を煮込んでいる。
「野菜類と肉類と香辛料を適当に入れたごった煮でありますが。簡易な辛味鍋。
形はどうあれ、美味しく食べられれば良いのでありますよ」
碧たちが語っているのは、インタビューをして回る記者への回答だ。
「我は最低限、生きるために食べられればそれで良かったので、見た目や味にはこだわりはありませんでしたけどね。本当にただ、生きるためだけの料理であります」
このイベントは料理を作るというだけでなく、作り手のひととなりを知る機会でもあるのだ。
「完成、ホットカルボナーラだよ」
ミルヴィの料理はトウモロコシで麺を作ってゆでるという料理だ。
「辛いけどチーズの甘さで食べやすいはずサ。お母さんの料理を食べやすくアレンジしたんだー。旅の仲間にも評判良かったンだこれ」
どの料理も個性的で、そして時に故郷や魂のありかを示してくれる。
その一方、『何を好むか』で人々の性格やルーツが分かることもあった。
料理を食べ、投票所にやってきたシルヴィアや威降、黒羽たちの会話を聞いてみてもそれが分かるだろう。
「出された以上残すなんてことは絶対しねぇが、投票はシビアにいくぜ。特に味に関して、調味料の味しかしねぇようなやつは論外だ。素材の持ち味を生かし、そこに必要最低限の調味料で味を整える。そして最後に愛情で料理という芸術の調和を図る。そういった料理を評価していくつもりだ」
これには黒羽の真面目さや堅実さが現われ、ある意味で自分への厳しさも表われている。これもまた好みの一環と言えるだろう。
シルヴィアや威降は純粋な好みや趣味で決めているようで
「味付けに特別好みはありませんが、濃過ぎない方が良いですね。あと辛いものは少し苦手かもしれません。後は、見た目が綺麗なものが好きです。色鮮やかと言う訳ではなく、盛り付けが丁寧で美しい……という意味ですね」
「素材の味を活かした料理が気に入ったな。俺はあまりソースとか付けないんだ。素材本来の味や調理の際の下味くらいで十分っていうか。素材にもよるけど、何も無くても仄かに甘いものとかあるしね」
これには彼らの生まれ育った環境や、理想とするセンスが見えることがあるだろう。それゆえ投票の傾向もそう簡単には読めない。
と、ここで試食テントでの会話を見てみよう。
「自分で作るのも良いけれど、やっぱり色んな料理を食べて楽しむ方が好きだわ、私」
竜胆の好みはずばり『うどん』だった。
「あの食感が昔から好きなのよね。今回の投票で少しでもお店のバリエーションが増えたり、『あの』感じが根付いてくれたらいいと思うけど……世界が変わるというのも、こういう面では大変よね。好きな食べ物が無かったり、あったとしても何か違ったり」
そちらは? と尋ねられてリジアは暫く考えた後
「……ラーメン。……ハンバーグ、か」
と具体的な名前を出してきた。
「上に乗ったものは、こう、いろんな物がある。肉であり、野菜であり……それらが、邪魔し合うことがない。あの液体に浸ることで程よい味になる。なにより……あの麺は、なんだ。妙に、食べ進める手が止まらない」
『大体、あの男がいけない』と小さく漏らすリジアには、食の好みという形で当人の歴史が刻まれていた。
歴史と言えば……。
「今ここで食うメシは何でも美味い! ある意味で『正しい歴史』を食ってるわけだからな!」
と語ったゴリョウだ。
「元々原始的な生活してた獣人達の所に超未来的な宇宙エルフたちがやってきて、色々あって共存したってのが俺の世界なんだが、それで一番ワリ食ったのが食文化なのよ。素材を食う時代から宇宙食へと一気に飛んだ結果、間の食文化がスッポリ抜けたわけだ。結果、素材の栄養素だけ抜いて適当に味付けたモンが基本食ってワケだ」
大地の味、海の味。それらを愛する者は、深い意味で世界を愛しているとも言えるだろう。
ウィルフレドは
「俺の故郷は荒廃していて食糧も不足していた。豊かな食は素晴らしいことだ」
と語り、ダグラスもそれには同意していた。
「おそらくどの料理も美味しいと思われる故、優劣はつけがたいのですが、投票基準は『この村周辺の食材を用いた料理』にしますぞ」
言いつつ、ダグラスは出品された料理のコンプリートを目指してもいた。
「各地から集った料理人が思い思いの料理を作るのであれば、それらを頂く側としては誠心誠意臨まねばならないですからな。け、決して、食べる料理を選びきれないからではないですぞ……!」
料理と食そのものが単純に幸せ。そういう考えだってあるのだ。
一方で、アベルは高らかにこう語った。
「美少女の料理。それは付加価値だと思いませんか」
そう、料理そのものの来歴である。
「料理の味ってのは思い出が付加されるんですよ。美少女が作ってくれた! それは思い出であり料理の味を構成する一因なんだ!! って訳で俺は美少女の料理に投票しますね? どんなに失敗でも、炭でも、燃えてても」
食の好みは千差万別。それゆえ、人が現われる。
●人気の肉料理
個別に設置されているとはいえ、ブースはある程度カテゴリー分けされていた。
ルナールとルーキスのブースは肉と魚のエリアだ。
料理はシンプルな魚の塩焼きや獣肉ステーキだ。
「得意料理と言っても、そんなに得意じゃないんだよな料理って俺。ま、塩と醤油で味付けして焼けば大体美味い。シンプルなのが楽だし美味いだろ? あー、あと仕上げに乗せる木の芽(ハーブ)は欠かせないかな。長年一人旅をしていれば自然と憶えるもの、ちょっと山に入れば食材なんて溢れてるよ」
「肉ならある程度腹も膨れるしね、工程を変えれば保存も出来る。旅のお供には丁度良いのさ。酒飲みならアルコールには合うでしょ。ワインでもビールでも、一緒に合わせて食べてみるといいさ」
好みはどことなく似ているが、それぞれの個性も少なからず出る料理が並んでいく。
「身一つで家を出た事、と。ミア、お肉が大好きだから……にゃ?」
一方でミアは花嫁修業の一環として覚えたらしい料理テクニックで、『テリヤキチキンの炙りロール』を作っていた。
「今回は、あの村のテリヤキチキン使う……の。この美味しさ、ミア忘れられない……の♪」
一方、その隣にいた雄二郎は豪快な肉野菜炒めを作っていた。
「懐かしいなぁ! ワタシがまだ独り身だった頃、毎日毎日毎日作って食べていたスタミナ肉野菜炒め! ヒーローの心と身体を支える濃い味付けと量!! とにかく量だ! たくさん食らえ!! 限界まで詰め込めろ! 肉肉肉野菜肉肉! 肉と野菜を糧に体を作り上げるのだ!」
かと思えば、メルトは鶏肉と葉野菜のサンドを作っている。
「まあ、あれだ。あちこち旅する自由人だし、自然とそれなりに料理は出来るようになるよね。保存の効くものとか野外で手に入るもので作れる料理限定だけど。ほら、ガブっといくといいよ。それが一番美味いんだから」
作る料理はその人々の歴史でもあり、経験でもあると言えるだろう。
彼らの今を形作る、一要素なのだ。
やはりと言うべきか、肉料理を好む者は多かった。
「ナーちゃんはね! オニクをたくさんつかったリョーリがすき! 『ヒトリで野宿』ばっかりしていたからね。あんまりコったリョーリはたべたことがないしつくれない! でもドーブツさんをつかまえてマルヤキにしちゃえばなんだってオイシクなるってことにきがついたんだ!」
『ヒトをアイすにはまずはカラダから! っていうもんね!』と独特の標語を述べるナーガ。
それに限らずアイヒヘルヒェンも『私は肉が好きだ、肉が食べたい。野菜は食べ飽きているのだ』と肉料理を選んでいた。
「私の世界のエルフは9割が菜食主義であったからな……。族長の娘である私は、対外的なイメージのため菜食主義であることを強いられたのだ。意味がわからないだろう?」
抑圧とその反動として肉料理を好むアイヒヘルヒェン。
一方でリルクルスは順応という形で肉料理を好んだようだ。
「料理という技術が肉の味を最大限に高めるのもよいものだ。ガッツリとした肉料理、味の方向性を強いて決めるとすれば辛い物か。キッカケ、だと? ただ単に、野生においても我は野菜や魚よりも肉を摂取する機会が多く、過去にヒトの街で売られていた肉料理が気に入っただけだ」
料理の好みに現われる、習性や文化。
中にはドラゴンリリーのような変わり種もいる。
「元の世界だと、野生動物……猪とか、鹿とか、生で食べてた。肉メインの、料理を探す。けれどあんまり味が濃いのは、苦手かも。肉の味が強ければ強いほど、良い。焼いただけ、とか。調味料振っただけ、とか。血が滴ってると最高、かな」
その意見に半分同意するイース。
「口内に広がる肉汁・脂の旨味、筋繊維を噛み切る感触が『生きる為に命を喰らっている』事を思わせる。その野性味というか、生命体としての本能を刺激するような感覚が好きだ。淡白な肉も悪くないが、特に好きなのは上質な、程良く脂が差している肉だ」
流石ウォーカーといったところか、野性味の強い者も少なくない。
そして野生とはまた別の形で、肉料理を好む者もいた。
「我が好む料理は大衆料理、中でも所謂ジャンクフードの類であるな」
と語るのはルクスだ。ハンバーガーや串焼きといった料理を積極的に選んでいた。
「育った村の気風も有ろうが、あの辺りはどうにも薄味の野菜だらけで刺激に欠けるのである。食べて笑顔になれる料理がやはり一番であるのぅ」
「シューはお肉が大好きだよ! でも一番すきなのはイノシシの肉を使った料理かなぁ」
ブースの中から見つけたイノシシ料理を笑顔で頬張るシュー。
「イノシシのお肉は前いた世界で初めて狩りで取れた獲物でね。だから一番思い入れがある食材なんだ」
文化どころか生態系からして異なる者も多いこの土地。
料理というものへの考え方もまた、広くて深い。
肉料理が人気な一方で、魚料理にも人気が集まっていた。
「死ぬまで必死にもがくのは綺麗で、そんな命を尊敬してるの。だから生に近いまま頂くのが好き。あと、海の中では干したり燃やしたりは手間がかかるからね」
そう語るのはカタラァナだ。自分の料理を歌や料理で喧伝しつつ、魚のお造りを出していた。主に活け作りだ。
魚の生食を怖がる人もいるにはいるが、逆に大好きという人もやっぱりいる。
「にゃにゃーん♪ 私、お刺身が大好きですの~♪ 白身も赤身も、それ以外もお刺身なら何でも大好き。あ、勿論ワサビとお醤油も欠かせませんですぅ。ちょっとだけつけると更に美味しくなりますにゃ♪」
いかにもネコといったテンションでお刺身を食べる鈴音。
他にも颯人や舞花もお刺身の存在を喜んでいた。
「味はそこまで濃くない物が良いな。昔はそうでもなかったのだが、最近は少し好みが変わったのかその様な感じだ」
二人の好みが一番マッチするのは蕎麦だったが、その次に魚やお刺身。薄味でさっぱりした料理を好んだようだ。
「旅人として色んな世界の人がやってきているという事は、文化として料理にもその影響があるのね。とても見慣れた料理があるのはそのせいか、それともこの世界でも同じような料理が発展したのか……。そういう歴史、気にしてみるとちょっと面白そう」
薄味を好む者もあれば、逆に濃い味を好む者もいる。
それについて語っていたのがラルフと雪だ。
「昔の女性助手が物を食べるのすら不摂生するのを見かねて彼女の郷土料理を作ってくれたのだよ。研究の片手間にも食べられるようにトルティーヤだかタコスだったかな? 彼女オリジナルでホットタコスと言っていたな。辛いものは集中力の回復を高めるから、と」
彼女は元気にしているだろうか、と昔を懐かしみながら辛い料理を手に取るラルフ。
雪も同じように辛いものを好んだ。
「単純に、空腹で行き倒れた時に食べさせられた物が辛かったから、というだけ。その日の事を忘れないように、思い出すように辛いものを食べる事にしている。命を繋がれた戒めと、感謝と」
細かい理由は異なるが、他人とのつながりや暖かさ、刺激のようなものが、彼らの好みとして深く根付いたのかもしれない。
●甘い物はいいものだ
殆どが肉か魚か野菜の料理になるかと思われていたグルメフェスタだが、意外にもスイーツ関連のエントリーも多数存在していた。
パンケーキにクレームブリュレ、大福にチーズケーキ。カフェで取り扱いそうなメニューだ。
エントリーしたポテトはこう語る。
「私は一人で元居た世界を旅する役目だったから、その旅の間も食事に困らないようにと教えて貰った。パンケーキは女神様が好きで、私が作った料理の中で始めに食べて貰った料理だ。焦げてたけど、美味しいって言って全部食べて貰えて嬉しかったんだ」
特定の誰かを喜ばせるため。甘い物はよく、そんな理由で作られるという。
ピーチパイを作っていたクロバもそうだ。
「まぁ、そうだな……はじめは家族がクソマズい料理しか作れなくて、オレが必死こいて作れるようにしたのがきっかけなんだが……。さてさて、『美味い』言わせた事が楽しくなって張りきったんだろうな。あと、血は繋がってないが妹が甘いもん好きだった。それで得意になったのかもしれないな」
シュトゥルーデルを作っていたウェールも、その考えに似ていた。
「俺がいた世界の我が子、息子の好きな食べ物を使った料理を作ったことの無い父親はかっこいい父親と言えない気がしてな。一緒に暮らしてた頃は家事もほぼ幼い息子にまかせっきりで苦労をかけて、この世界に旅人として召喚される直前にも、涙で顔がぐしゃぐしゃになってるのに無理して笑ってくれて、俺を見送った。だから、もしもまた会えた時の為に……俺の作った料理で、息子が無理していない笑顔を浮かべてくれるよう料理を始めた。だから、料理を作る時は食べてくれる人の笑顔を想像している」
さて、その一方で生活の中で自然と根付いた技もある。
ゲオルグはクレームブリュレを作りながらこう語った。
「私が料理が得意なのは……父や母とは死に別れてしまったし伴侶も居ないからなぁ。出来立ての温かな食事をしようと思ったら自分で作るしかなかったのだ。そういう理由で料理が出来るようになったわけだが、それを食べた者が美味しいと言ってくれるのは嬉しかったな」
ミディーセラも、器用にクルミやナッツで覆ったチーズケーキを作ってみせながら、昔のことを語った。
「好き……というよりかは、よく作っていた、ですね。その、育て親たちがうるさい時にこれを出しておけばしばらくは静かになるので。料理に関しても覚えざるを得なかった、ですね」
料理には思い出や、生き方や、歴史が配合されている。
「アイス大福風シマエナガ一座の出来上がり!」
ルチアーノが楽しげに差し出したのはアイスクリームの大福だ。
「料理は、人を楽しませようと考えていると自然に上手くなっていくんだよ。味、食感、そして見栄え。全てを気にしながら作っていくと、良い物に出来上がるんだ。題材にシマエナガを選んだ理由? そこに存在するだけで、癒されるからだよ。実物を掌に抱えてみるとわかるけど、フワフワして可愛いよー!」
さて、こういったスイーツに目をキラキラさせた人々は、勿論居る。
「俺は以前、料理は食べられるならば、必要最低限の味付けでいいと考えてたいた……だが」
リゲルがどこまでも幸せそうにパンケーキを頬張っている。
「大切な嫁……フィアンセと娘を持ち、愛情の篭った料理を頂くにつれ、料理の本当の価値を知った。心を込め、工夫された料理はとても美味しくHPだけではなく、APまで回復されるのだ!」
パンケーキは人気なようで、Morguxも『加えてコーヒーがあれば完璧だ』と言って頬張っていた。
「混沌に来た当初、食事なんて面倒だと思っていた。だが、口にしてみると色々と奇妙な感覚に囚われる。あくまで生命維持の為に食事していたが、最近はこういうのも悪くはねぇ……とは感じる」
「ご飯を食べるって言うのは、何より心を満たしてくれるものだから。お腹が減ってる時に美味しい物を食べた時。ソレだけで人の想いを揺さぶって、私が使う魔法よりとっても凄い魔法なんだって思うんだ」
アリスはそんな風に語って、ホイップクリームがたくさん入ったクレープにかぶりついた。
その近くでは、シェンシーがチョコレートをつかったスイーツを味わっている。
「バレンタイン……こっちじゃグラオ・クローネ、だったか? それでチョコレートってものを知って……甘味の味を初めて知って気に入った、そんなところだ。……美味い食事を知って、それがたまたま甘味だった。別に、そう特別なことじゃあない」
「私もお菓子は好きよ」
エスラはそんな風に語って、昔のことを思い出した。
「私にそれまでの記憶はなかったけれど、最初にもらったのがお菓子だったのは覚えてるの。そう、私の最初の記憶がお菓子だったの。お父さんが亡くなってから、私は世間から距離を置きがちだったわ。きっと珍しいお菓子が好きなのは、外には自分の知らないものが沢山あるのにそんな風にしてた反動なのかもしれないわ」
故郷の味というのは意外にもあちこちにあるもののようで、誰かが昔を懐かしんで再現しようとするようだ。練達の『ディストピアめし』がいい例だろう。
Lumiliaはそういった異界の料理には興味があったようだ。
『いろいろ食べてみないとですね』といって回った中で見つけたのはまさに『ディストピアめし(チョコレート味)』。
チョコと言われているのにまるでチョコらしくないその味わいに、不思議な甘みと魅力があるのだ。
そしてその希少さに、ちょっと贅沢な気持ちにもなる。
贅沢といえば、レオン・カルラもそんな気持ちのようだ。
「彼女ったら、とっても楽しそうだね。カルラ」
『ええ!彼ったら、とっても嬉しそうね。レオン』
「美味しいごはん」『面白いごはん』
「混沌世界のグルメ!!というものが食べたいな』
『でもでも!チーズが大好き』「元の世界ではあまり食べられなかったからね」
『とっても好きだったのに……』「お母さんに会いたい?」『お父さんに会いたい?』
「今は……」『え、ええ。今はとにかく楽しみましょうよ』
世界には色々な料理がある。いくつもの世界観が紛れ込む混沌の世は価値観の宝庫だ。
「世界にはいろんな料理があるのね。とっても勉強になったし、とっても美味しかったわ!」
ジェーリーはスイーツを沢山堪能していた。特にクレームブリュレのような紅茶に合いそうなお料理を見つけたことで気分も良さそうだ。
「ルアミィも甘い物が好きなのです! あまーいケーキとかクッキーとかパフェとか大好きですし、みずみずしい果物も大好きなのです。海洋のお料理ももちろん好きなのですけど、幻想にも色々美味しいお料理あって来た時はびっくりしたのですよ!」
沢山のスイーツを前に楽しそうなルアミィ。
誰かを笑顔にするための料理が、また別の誰かに価値をもつ。料理に限ったことではないが、世界を回す大切な要素に違いない。
イベントは大変に盛り上がり、多くの人が訪れた。
投票の締め切り時間も近いと言うことで、投票所に人が集まってくる。
話は自然と好みの話題になるようだ。
「いちばん好きな料理はオムライスなの……!」
そう語るのはリピィーだ。
「とろとろふわふわのたまご、グリンピースもはいったちょっとこいめのチキンライス、かけるのはやっぱりケチャップなのよ。お花とかかいてからたべるなの。やっぱりふわふわがごはんにからまってケチャップのさんみが間をとりもってくれるなの~!」
ぽわぽわとお花を飛ばして語るリピィー。
その一方でアランは口元をぬぐって『タレかつ丼』と呟いた。
「白米の上に、タレにくぐらせたカツを数枚のせたシンプルなかつ丼。醤油をベースとした甘辛いタレを使っているので卵でとじたカツやソースカツとはまた違った味わいが楽しめる……あれはうめぇ。これに温泉卵が合わされば究極の一品となることは間違いない」
そこへカタラァナにひたすら試食を勧められたらしいエマが投票所にやってきた。
「美味しく食べられるのならそれこそサシミの生け捕りとかでも構わないんですがね、えひひひひ。料理で言うなら、クリームシチューみたいなものが最近気に入ってます」
『しみわたるーって感じの』と思い出に浸るエマ。
投票所に集まる人々の様子を、イシュトカと勇司は感慨深そうに眺めていた。
「あの商店街が…いや、この村がこうして持ち直して、
自分達の力で何とかしようとしてるのを見ると、何だか感慨深いモノがあるよな、ホントにさ」
「大げさかもしれないが、この世界に来たことには意味があったと、そう思うよ」
彼らの好みはそれぞれだ。
「俺の好みはハンバーガーとかかね。イシュトカは?」
「敢えて言えば……チーズと葡萄酒。手の込んだ料理も確かに素晴らしいが、この世界の営みだけが生み出すことの出来る味は、やはり格別だよ」
さてどうなるものだろうか。
仮に誰が優勝しても、人々は満たされた気持ちでイベントの終わりを迎えるだろう。
二人はそれぞれ、投票用紙を畳んで箱に入れた。
それから暫くして。
沢山の投票が集計され、ステージに会長らしき男が上がった。
いくらか挨拶のようなことを述べてから、手元のメモに目をやる。
「今回はどの料理にも沢山の票が入りました。優勝も僅差といったとことでしたが……あえて、優勝を一人決めることにしましょう。優勝は、ミルヴィ=カーソン氏の『ホットカルボナーラ』です!」
ステージにあげられ、めっちゃ褒められるミルヴィ。
「美味しい料理や美しい料理が沢山あり、そのどれも素晴らしかったのですが、トウモロコシで麺を作る面白さや風土を感じさせる味わい、彩りに票が集まったのでしょう! 皆様、どうぞ拍手でお迎えください!」
お腹の満たされた人々の拍手が会場を包み込む。
イベントは、すばらしい成功に終わったようだ。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
優勝者は誰になってもおかしくないくらい、素敵なエピソードや価値観、そして美味しそうな料理でした。目移りしすぎて一つだけ選ぶのがとっても大変で、投票者の気持ちも分かってきたり……。
このたびは遊びに来ていただき、まことにありがとうございました。
ぜひまた、遊びにいらしてくださいね。
GMコメント
好きなものを語るとき、人はその一面を見せるといいます。
得意なことを語るとき、人はその一面を覗かせるとも。
今回はそんなひととき。
グルメフェスタに参加して、皆様のプロファイルを映してみませんか。
【概要とオーダー】
成功条件:グルメフェスタに『料理』か『投票』のどちらかで参加する。
オサビレ商店街でグルメフェスタが行なわれます。
このイベントに参加しましょう。
裏方やその他色々は(実質的にやっているとしても)描写はされないことがありますのでご注意ください。
【参加方法】
プレイング冒頭に『料理』『投票』のどちらかを鉤括弧つきでコピペすることで、参加方針を決定します。
●『料理』
幻想にある食材を使って料理をつくりましょう。
ここで作れる料理は『一人につき一種まで』です。
料理の種類は自由です。お肉を焼こうがパフェを積み上げようが、妙にこった名前の料理にしようが中華やイタリアンに拘ろうが、幻想にしかなさそうな変な名前のポポポ料理をつくろうが!
加えて、あなたが料理が得意な理由や、どんなきっかけで料理をするようになったのかを語って見てください。
村人NPCがインタビューが回るので、そこで応える形になるでしょう。
料理は人の業。それゆえそのルーツを語ることは、人としての側面を覗かせてくれることでしょう。
●『投票』
出品されている料理を食べます。といっても、この時点で何が出品されるか分かりませんので、投票の基準として『自分の好きな料理』を語ってください。
○○を使った料理が好き。辛いものが好き。○○の郷土料理が欲しい。変わったものが好き。他にも歯ごたえや香りや彩りや……好みは人それぞれ違うものですよね。
そして、なぜ好きなのか。どんなキッカケで好きになったのかを語ってみましょう。
状況的には、集まった人と語り合う調子で自分の気持ちを語るカンジになるでしょうか。
食は生物のサイクルであり、料理を食べることは人間のサイクル。その好みを語ることはすなわち、人間としての自分自身を語ることにもなるでしょう。
あなたのもつ人間味が、ここに表われるかもしれませんね。
【グループ参加】
お友達グループと一緒に行動する際は『プルー・ビビットカラー(p3n000004)』といったように同行者のフルネームIDを記載してください。
3人を超えるグループの場合のみ【ダンジョン愛好会】のようにグループ名でまとめてもOKです。
これらの記載が無くてもできるだけ察して組むようにいたしますが、気づかずに迷子になる危険もあるので記載方法にはご注意ください。
【アドリブ度】
イベントシナリオ内では基本的に『アドリブ控えめ』でお送りします。
【オマケ解説】
※以降は知らなくてもOKなオマケ解説です。興味があるかたはご覧ください。
●オサビレ商店街
近くに総合商業施設ジャクスができたことで一度は廃れた商店街。
ジャクス撤退により廃村一歩手前までいったが、イレギュラーズたちの素晴らしい活躍で復活することができた。
今回のグルメフェスタができたのもこれがキッカケ。
関連依頼(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/230)
●クロマント
オサビレ商店街(というより商店街の老人たち)の復活を願ってローレットに駆け込んだ若者。行動力以外とくに能力はないが、割と皆に愛されている。
●モスバ村から来た緑エプロン君
テリヤキチキンという野生動物の狩猟で生計を立てている村に住んでいた若者。
父の死去をきっかけにオサビレを離れモスバ村へと移住していた。
そっちでハンバーガーショップ『モッサン』に勤めていたが、Uターンしてオサビレ商店街に系列店舗を出すことになった。関連依頼には背景として映っていた。
関連依頼(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/254)
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