PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Scheinen Nacht2019>La Chatte Blanche

完了

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 雪が降る夜――シャイネンナハト。
 全ての争いを赦さぬ聖夜は、今年もこの街に束の間の安息を約束してくれる。

 木の看板に描かれたのはふわりとした黒犬の絵だ。
 添えられた文字が白猫とはおかしなものだが、それがバーの名だと云う。
 幻想王都メフ・メフィートの一角に佇む隠れ家である。

 オーセンティックな重い木戸をそっと開けると、暖かな空気が頬を撫でた。
 冷たい空気をいれてしまったことに幾分か申し訳なさを感じつつ、店内へと足を踏み入れる。
 まだ浅い時刻だからなのか、どうやら一人目の客らしい。
「いらっしゃい」
「やあ、輝かんばかりのこの夜に」
「輝かんばかりのこの夜に」
 この夜お決まりの定型句。老いたバーテンダーのしゃがれ声に、『黒猫の』ショウ(p3n000005)は軽く手をあげた。
「カウンターにする?」
「今日はそっちがいいかな」
 暖かな灯りの方へ視線を送ってやる。
「それじゃどうぞ」
 促されるまま、ショウは暖炉を囲む小さな椅子に腰掛けた。
 ジャズピアノの演奏は、この日ずいぶんおとなしく。時折、小さく弾ける薪の音だけが控えめな拍手を贈っていた。
 音色の行方を探せば奏者は居らず、ピアノは鍵盤だけが鳴る仕組みのようだ。
 壁を見れば子供がキリンを描き殴ったような絵画が見え、その下には古めかしい蓄音が置かれている。
 棚の上には壊れたコーヒーサイフォンが飾られていて。絵と名もちぐはぐなら、中身もちぐはぐらしい。相変わらずの様子だ。

「何にするね?」
「モルトがいいかな。いいのはあるかい?」
「グレンフィートの十二年が口開けだね」
「いいね。一杯目には丁度だ」
「飲み方は?」
「丸氷かな」
「はいよ」
 炎に影が揺れ動く、暖炉の前。
 暖かな光を湛えるグラスには、琥珀色の水面から覗く丸氷が揺れている。
 そっと傾ければ所在なげにかちりと抗議して見せる。
 鼻孔をくすぐるシェリー、ドライフルーツ、皮革、僅かに煙草。
 舌先に乗れば柑橘に木片、スパイスのアプローチ。
 繊細な香りはを身体の中心へと滑らせると、ゆっくりと熱を伝えてくれる。
 いい夜になりそうだ。

「何か食べたのかね?」
「忙しくてね」
「駄目だよ、そんなんじゃ」
 カウンターの向こうからバーテンダーがやってきた。
 鍋掴みでくつくつと煮立つ鍋を開けるとビーフシチューがふわりと香る。
「それじゃ、頂こうかな」
 この手の誘惑には負けておくものだ。
 暖めたパンをつけてかじりつくと、香ばしさの中に肉と野菜の旨味が口いっぱいに広がった。
「マスター。これじゃワインが欲しくなるね」
「アーベントロートの赤があるよ」
「いや、すぐ飲みたい」
「それじゃこっち(ハウスワイン)、だ。若いが悪くない」
 グラスに注がれた赤は、クラレットよりほのかに明るい。
 ブラックチェリーにスミレ、胡椒をほのかに感じるが、軽く飲みやすい系統だ。それはそれで悪くない。

 さて、あとは何を頼もうか。

GMコメント

 pipiです。
 とりあえず飲みましょう。話はそれからだ。

●出来ること
 飲み食い。
 おしゃべり。

 ありそうなものがあり、できそうなことができます。
 適当です。ゆるくあそびましょう。

●ロケーション
 幻想王都に佇む静かなバーです。

●Food
 ナッツ、スモークナッツ、ピクルス
 ジャーキー盛り合わせ、チーズ盛り合わせ
 ソーセージ盛り合わせ、生ハムとサラミの盛り合わせ、オイルサーディン
 ポークパテ、鶏レバーパテ、田舎風テリーヌ
 自家製コンビーフ、燻製盛り合わせ
 バゲット

 野菜スティック、カプレーゼ、浅漬けオリーブ
 チョコレート盛り合わせ
 ドライフルーツ盛り合わせ
 レーズンバター

『パスタ』
 アーリオ・オーリオ、オイルサーディン、アラビアータ、からすみ、バジル...

『ピザ』
 マルゲリータ、ゴルゴンゾーラ、気まぐれ

●黒板
 牡蠣(焼き、生)
 自家製ローストビーフ
 自家製ビーフシチュー

●Drink
『カクテル』
 スタンダード各種
 お好みに応じます。
 よく分からない場合は、バーテンダーに『炭酸の有無』『好きな果物』『チョコレートが好き』『強めか弱め』等をお伝え頂いても結構です。

『ウィスキー』
 ブラックウォーカー、ブルーウォーカー、グレイクラウン...
 グレンローレット、グレンフィート、アドバーグ、ハイランドガーデン、ザ・サントヒル、ベイサイドデプレッション...
 アールスローズプラチナム、ビルダーズエンブレム...
 エコーズ...

『テキーラ』
 ラサブランコ、ラサレポサド、ネフェレストアネホ、ブルースパイダー...

『ラム』
 ムルシエラゴ 、ロンリッツパーク、キャプテンドレイク...

『ジン』
 ビーフイーター、エルダートム、スカイブルー、No.10...

『ウォッカ』
 スチールグラード、バニラ、シトラス、バイソングラス...

『ブランデー』
 フォルデルマン、フィッツバルディ、バルツァーレク、アーベンテリアV.S.O.P...

『カルヴァドス』
 バルツァーレク...

『ベルモット』
 マルセイラン、フランセスコ...

『ビール』
 メフ・メフィートペールエール、パドラディ、ミットヴォッホカッツェ、ヘイローEX、ルーベルグ、ゴールデン・ゴリラエール、ローレット・エール...

『リキュール』
 カシス、ラズベリー、等々各種。

『ワイン』
 ハウスワイン、フィッツバルディ(赤、白)、アーベントロート(赤)、バルツァーレク(赤、白、ロゼ)、フルネメシス(白)、デモニア(赤)、ブラックキャット(白)、ポルタ(強化)、ディープシーブラッドワイン...

『スパークリングワイン』
 バルツァーレク(ロゼ)、エストレージャ(白)...

『薬草』
 修道院系、草系、アニス系、ルート系、各種...

『他』
 グリューワイン、こげねこ秘蔵酒、こげねこ秘蔵酒(熱燗)、梅酒;バイカル...

『ノンアルコールカクテル』
 各種...

『ソフトドリンク』
 フレッシュジュース、ジンジャーエール、コーラ、自家製ジンジャービア、クラマト、コーヒー、紅茶、他各種...

●他
 各種シガーあり。

●諸注意
 未成年の飲酒喫煙は出来ません。
 UNKNOWNは自己申告。

 他のPCと同行する際には、一行目に名前の記載をお願いします。

●同行NPC
 呼ばれればそこに行きます。
 呼ばれなければ描写はされません。

 『黒猫の』ショウ(p3n000005)
 『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)

  • <Scheinen Nacht2019>La Chatte Blanche完了
  • GM名pipi
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2020年01月11日 22時05分
  • 参加人数30/30人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(30人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
シエラ・バレスティ(p3p000604)
バレスティ流剣士
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)
幻灯グレイ
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
ライセル(p3p002845)
Dáinsleif
ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
クリスティアン=リクセト=エードルンド(p3p005082)
煌めきの王子
ミラーカ・マギノ(p3p005124)
森よりの刺客
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
閠(p3p006838)
真白き咎鴉
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
彼岸会 空観(p3p007169)
タツミ・ロック・ストレージ(p3p007185)
空気読め太郎
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
コルウィン・ロンミィ(p3p007390)
靡く白スーツ
月城・日向(p3p007839)
仮面暗殺者

サポートNPC一覧(2人)

ショウ(p3n000005)
黒猫の
アルテナ・フォルテ(p3n000007)
冒険者

リプレイ

●08:26 pm
 星が地上で翼を休める夜。やけに白ずんだ雲は厚い。
 いたずら猫が寝具を引きちぎったかのように、街に羽根が舞う――静かな夜。
 窓の外に深々と降り積もる雪を見つめながら、沙月はころりとグラスを傾けた。
 フレッシュグレープフルーツのソルティドッグ。ほろ苦く爽やかな味わいが一杯目には丁度良い。
 フードは焼き牡蠣とチーズの盛り合わせ。
 濃厚な風味の牡蠣で頬張れば爽やかな磯の香りと芳醇な旨味が口いっぱいに広がった。
 チーズを食みながら口を潤すカクテルは既に底をついていて。
 お次は可愛らしい色合いのスロードライバーだ。
 フレッシュオレンジの奥に眠る官能的な甘みに、ついついミモレットをひと囓り。

 ああ、忘れるところだった。
 必要な挨拶は。

 ――輝かんばかりのこの夜に。

「こう見えて成年なのよ!」
「これは大変失礼致しました」
 無辜なる混沌――とみに特異運命座標において。人の齢が見かけ通りとは限らない。
 さりとて元の世界では『いい大人』であったと述べるErstineの瑞々しさは――おそらく彼女にとっては些か不本意ではあろうが――その魅力を構成する一端に他ならないのであろうが。
 いつもはワインを好むErstineだが、この日はカクテルを開拓したい所。
 甘酸っぱく爽やかなストロベリー・ダイキリはフローズンデザートのように飲みやすい。
 とは言え平素の彼女を酔わせるには物足りない一杯ではあるのだが。
「緊張すると酔うのよねぇ……」
 飲み慣れれば強くなれたりするものであろうか。
 マスターと談笑する中、ハっと思考を切り顔を上げる。
 緊張するのはあの方の前だけなんて、言えはしなくて。
「そんな時は酔ってしまうもの良いかもしれませんよ」
 マスターは表情も変えずに述べたが。
「ん……美味しい……これはなんてカクテルなの?」
 たまにはこんなお酒も良いものだと。
「そちらはラブ・ポーションというカクテルです」
 ああ、これは。なんてこと。

「雪明かりと街灯りでホントの輝く夜みたいだね、美咲さん!」
 ヒィロは美咲に笑顔で振り向く。
 窓際の席で横に並んだ二人は街の灯りを見ながら語らっていた。
「えっとー、炭酸しゅわーで、美咲さんの瞳みたいに色んな色が入ってるのお願いしまーす!」
「私は、ジャック・ローズを」
 野菜スティックとスモークナッツも一緒に運ばれてきたテーブルの上。
 キラキラで虹色の二人の一年に。
「「乾杯ー!」」
 ヒィロは隣の美咲に野菜スティックをおねだりする。
「あら、今夜は早速なんだ」
「あーん! えへっ」
 この一年を振り返れば楽しいことばかりで。
「誰かと一緒に過ごせた一年、生まれて初めてだったんだ」
 美咲の目をしっかりと見つめてヒィロは『ありがとう』と言葉に出す。
「こちらこそ、ありがとう。故郷の家族や仲間と離れたことが、まるで気にならないほど楽しい年だった」
 外出が制限されていた美咲にとって、夢にまで見た――否、夢すらも超える旅路。
 願わくば、これからも先、ずっと続くように。

●09:12 pm
「ぶはははっ、いい飯を作るためにもいい酒も知っとかねぇとなぁ!」
 ゴリョウは快活な笑い声と共に椅子に腰掛ける。
 混沌ならではの味を知っておく良い機会だとメニューに目を通す。

「……なんだゴリラエールって」

 ゴリョウ大困惑。恐る恐る頼んでみれば、のどごし爽やか、仕事前にも仕事終わりにもキメたい一杯。なんでもあっちのへべれけ(アーリア)のお墨付きだとか。
 この味を誰かと分かち合いたい。
 くるりと振り返り、目があったのはクリスティアンだ。
 おしゃれなバーに目を輝かせる彼はどのお酒を頼むか迷っているようだった。
「よう! これなんかどうだ?」
 ゴリョウがゴリラエールを差し出す。
 受け取ったクリスティアンは「乾杯っ」とグラスを打ち鳴らし。
「次はカクテルを……バーテンダーさんのお任せでお願いしようかな」
「お好みはございますか。たとえば、炭酸とか」
「炭酸は無しで……、果物はグレープかマスカット……そう、葡萄が好きなんだ」
 溶けかかったシャーベットのように楽しめるこれは、フローズングレープダイキリだ。

「私はイレギュラーズをお休みしますよミラ様!」
 どかりとオレンジジュースのコップをカウンターに置いたシエラ。
 酔っ払ったように、つとつとと涙を浮かべる。そんな彼女の様子に可愛いと目を細めるのはミラーカだった。シエラの背中をぽふぽふ擦り耳をから向ける。
「水が合わなかったんですよ、お友達も来なくなってしまいましたし」
 食べなきゃやってられないとシエラはバジルパスタを頬張った。
「……そうね。でも貴女が私の大切な恋人には変わりないんだから。ほら、口元汚れちゃってるわよ」
 ミラーカはポケットから取り出したハンカチでシエラの口元についたソースを拭き取ってやる。
「あぅあぅ……」
 口を拭かれたシエラの尻尾がふるりと震え出す。
「それはそれとしてぇ~、一緒にまた寝泊りしませんか?」
「聖なる夜……だからってわけじゃないけど、御泊まりはいいわね」
「本当ですか! やりました……朝まで一緒ですー!」
 寝かせてあげないからとミラーカは心の中で微笑んだ。

 落ち着いた照明のバーに自分たちには少し早かっただろうかと顔を見合わせる蛍と珠緒。
「飲酒はまだとしても、こういう場の空気は好きですよ」
 静かに過ごすだけでも二人で居れば幸せを感じるから。
 注文を促された二人は少し悩んでから、シャイネンナハトの夜みたいな明るいカラーと紅茶をセレクトする。目の前に出されたグリーンレッドの二層の色合いに、クリームと煌めく金色のお菓子が乗っているノンアルコールカクテル。
「わぁ!」
「見た目も香りも、とてもよい品ですね」
 紅茶のカップに顔を近づけて香りを楽しむ珠緒。
 食べ物は『気まぐれピザ』。何が入っているかはその日のマスターの気分次第。
 今日は生ハムとトマト、チーズやオニオンにシャイネンナハトらしくローストターキーも乗っている。
「ふふっ、どれも美味しそうね」
 二人はにっっこりと微笑みあう。
「それじゃ……珠緒さんとの、輝かんばかりのこの夜と」
「これから踏み出していく新しい年に」
 祝福の音が小さく鳴った。

「最初はマティーニがいいでありますな」
「お好みはございますか?」
「辛めがいい」
「では私も同じものを」
「かしこまりました」
 No.10の味わいをスカイブルーで傾けて、ほんの少しのベルモットにビターズを一振り。ミキシンググラスをステア。
 グラスにオリーブを沈ませ、レモンピールの香りを辺りに散らす。
 エッダから改まって飲みに誘われるなど珍しいことだが、何やら珍しく凹んでいる様子。
「……ああ、何かショートカクテルの辛いのを」
「これ以上は『ジン』ですよ。凍らせたものがございますが」
「それを」
「マスター、スチールグラードを一つ。ドライフルーツも付けて頂いてもよろしくて?」
「かしこまりました」
「……ありがとう」
 エッダはシャーベットのように凍ったNo.10を煽る。
「以前、自分は貴女に、軍人ならば国民の為に働くものと言った」
 切々と述べたのは鉄帝軍部の動きだ。敵からの収奪でも、勝利のための接収ですらない。いたずらに民を辱める作戦が一部の指揮系統で公然と罷り通る事態について。
 本当は――じっと耳を傾けるヴァレーリヤは想う。懺悔は私の職掌ではないのだけれど、他ならぬ貴女のためであればそれを受けましょうと。
「アドバーグをショットで」
「スチールグラードを」
「かしこまりました」

 自分は、私は、恥ずかしい。
 こんな有様の、何が軍だというのか……!
 許してほしい、ヴィーシャ。

「……サンブーカ・コン・モスカを」
「スチールグラードを」
 酒と共にそっと添えられた二杯のチェイサー。
「祈りを捧げましょう。輝かんばかりのこの夜に」
 慈悲深き主が、貴女の魂に救いの手を差し伸べてくださいますように。

 ああ。
 こうして許されてしまったからには。
 今暫し踏ん張るしかなくて――

●09:51 pm
 バーの片隅。タツミが哀愁漂う背中を向けていた。
「俺みたいな独り身にはこうして一人、バーで飲む夜を過ごすのが性に合っているな」
 憂いげに目を伏せたタツミだが、手元のグラスにはジンジャエールが入っている。
 側には積み上げられたビーフシチューの空皿。
 そして、背中越しに向ける視線はアルテナだ。
 アルテナがこちらに気がづけば、もとに戻ってしまう。染まる頬。
「あ、特製ビーフシチューもうひとつ頼むわ!」
 しかし、食欲には勝てないお年頃。とろとろに煮込まれた牛頬肉の甘美な味わいは、されど――

「輝かんばかりの、この夜に」
「え、あ、ありがとう。輝かんばかりの、この夜に」
 視線の両端で。そんなタツミを挟んでアルテナが眼鏡のおじさんからノンアルコールのグリューワインを受け取った。あれが大人のやり方か!
 そんな寛治はこの日、練達の珍しいシングルモルトを求めていた。
 この店ならあると踏んだ伝説の一品。
 最近はオークションにて高額落札されることも多い、こだわりの少量生産。
 ディスティラリーベンチャーが立ち上げた、あのウィスキー。
 イチ……もとい。
「そう、ワンマンズ・モルト」
 MWR。
「飲み方はいかがなさいましょう?」
「氷はいりません。ストレートの後、トゥワイスアップで」
「かしこまりました」
 ミズナラの香り。干しぶどう、カラメル、カカオを思わせる厚みのある甘みの後に、程よいピートの含み香が鼻腔をくすぐる。
「ああ、これは間違いなく素晴らしい」

 ふらりと立ち寄ってみたが。なかなか良い雰囲気だと義弘は頷いた。
 カウンターに座りウィスキーを頼む。
 透明な氷がカランと鳴って、琥珀色の液体が注がれる。
 苦味の中に香るのは泥炭のそれ。
「争い事は無し、らしいからよ。ヤクザだって、そういう時はある」
 ふっと笑った義弘はどこか哀愁が漂っていた。
 たまには人と呑み交わすのも悪くないだろう。視線を背後に向ければ閠がピアノに聞き入っているのが目に入る。黒布をしてるということは目が見えないのだろうか。
 ビーフシチューにローストビーフをぱくぱく食べている姿は子供のように見えるが。
 カクテルをちびちび煽っているのだ、成人しているらしい。
 閠がほろ酔いで、拙く口遊む歌をもう少し近くで聞いてみようと義弘は立ち上がった。

「日向、ローストビーフがあるよ!」
「へェ、俺様的には食い応えのある肉が良いが」
 メニューを指差してはしゃぐイーハトーヴに日向が応える。
 ビーフシチューにバゲットにおつまみも。どんどん皿に乗せていくイーハトーヴ。
「 って、おめェそんな持ってきて食えんのか?」
 スパークリングワインを頼む日向に、目を輝かせて同じものを頼む。
 テーブルの上に並べられた料理は山盛りで。さすがのイーハトーヴもやりすぎたと焦った。
「あァ、まァ食いきれねェこたァねェけど頼みすぎだな。まァおめェが食いきれなくても俺様が食ィきるけどよォ?」
「う、やっぱり……嬉しくてはしゃぎすぎちゃった」
「俺様と一緒で嬉しいとか本当に変わってんな、おめェ」
 日向と過ごす時間は楽しくて。素敵なお店に出会えたのも、こんなに美味しい料理が食べられるのも。全部、日向のおかげ。
「誘ったのおめェだろ。なんで俺様のおかげになるんだ?」
 相手がいて、自分が居て。ここに来たから。
 輝かんばかりの夜に祝福を――

 ゲオルグとショウはカウンターに並んで座る。
 樽の香りがするウィスキーを転がしながら、ビーフシチューとソーセージの盛り合わせをつついた。
「今日はいつもより食べるね」
「ああ、そういう気分だ」
 友との語らい。ビーフシチューを息を吹きかけ冷まし、ぱくりと頬張る。
 蕩ける肉は柔らかくシチューの旨味が絡んで一層美味しく感じた。
「おっと、いかんいかん……私だけ楽しんではな」
 ジークも呼び出しておすそ分け。
 静かな夜に友と語らいながら過ごす時間は悪くない。

 ビーフイーターを煽りながら視線を流したクローネ。
「……こんな良い店を隠してるなんて…中々小狡いとは思いませんか、ええ?」
「良い店だろう?」
 グラスを傾けてランプの光で遊ぶクローネにショウは笑いかけた。
「……おかげで表では見知った顔で溢れるものですが……ここは幾分か人が少ない様で……」
 落ち着いた照明のバーは居心地が良い。
「……一つ質問を」
 ショウが好きなカクテルを。
「難しい質問だけど、今日はオールドアライアンスの気分かな」
「……ええ、ありがとうございます」
 次の練習はそれにしようとクローネは視線を落とした。

「ご依頼の説明以外でお話をするのは初めてですね」
 ピート香る琥珀のグラスを傾けて。煙管を燻らせながら無量は視線を隣へ送る。
 チョコの盛り合わせの前で手を止めたショウは、漂う紫煙に釣られてリトルシガーを咥えることにした。
 普段飲まぬ酒は、無量にとって悪癖が出ぬようにするため。
 述べた無量は、己が首を手刀で軽くとん打つ。
「物騒だね」
 ショウは笑い。
 けれど――戦いを赦さぬ――こんな夜ならばどうかな、と。
 混ざり合う氷と酒。
「酔って仕舞わぬ様に見張って頂けますか?」
「そうだね。ゆっくり飲もうか」
 ころりと鳴った氷は、ゆったりとした時間を刻み――

●10:44 pm

 ――輝かんばかりのこの夜に。

 グラスを目線まであげ、慣れない言葉を口にする。
 ラム酒キャプテンドレイクのスパイスと甘みを、揺蕩う暖炉の火ごと一口味わい。
 十夜は蜻蛉越しに見える店内へ笑みを零した。
 うだつの上がらないおっさんと、若く綺麗な嬢ちゃん。
 偶に頭の片隅に感じる“ちぐはぐさ”が今夜だけは気にならない。
「聞いた通りのちぐはぐさだが……逆に落ち着くモンだな、不思議なことに」
 グラスの横に見える十夜の和らいだ表情は。
「ほんに、不思議と。でも、うちは白猫より黒猫が好きやけど」
 そんな言葉を返す蜻蛉の舌先を擽るのは、カルヴァドス――バルツァーレクのふくよかな林檎の香り。

「……ねぇ、旦那。うちに付き合うてくれるのは、どしてなん?」
 不意の問い。
 ここでなら”ちぐはぐ”は許される気がして、蜻蛉は秘めた想いを投げかけた。
 傍に居られるだけでいい。それも本心なれば。気持ちを知りたいのもまた女心と云うもの。
「……お前さんと同じ理由ーーと言えりゃぁ格好もついたんだが」
「……言うと思た」
「そうさなぁ、強いて言うなら……忘れねぇため、かね」
 つまんだビターチョコレートは、存外に甘く。
「……忘れへんよ」
 思い出は雪や、舌の上で溶けるチョコレートのように、消えて無くなりはしないと信じて。
 ビーフシチューを掬う十夜の眼鏡は曇り。
 昏い瞳。あるいはあの日、水底から響いた予感さえ隠してしまえる程――

 そんな店の奥。
「さて……」
 聖なる夜にコルウィンはカウンターの奥でペティコロナを燻らせる。
 巌窟王四番。くすぐるのはダークローストのコーヒー、奥深いチョコレートの香り。
 シガーとくれば不可欠なのは酒の方。コニャックか、ウィスキーか。それともラムか。
「幻想の酒には疎くてな。是非ともマスターのお薦めをいただきたい」
 幻想の酒には疎いから。ここは尋ねるのが吉と云うもの。
「ハイランドガーデンはいかがでしょう?」
 穏やかなピートと香り高いシェリーの中にドライフルーツ、微かなバニラ。それから穏やかなヘザーが垣間見えて。

 久しぶりに飲もうと立ち寄ったライセルの視界に映る美しい青年――ラクリマの姿。
「あれ? ラクリマ? 久しぶりだな」
「えっと……。たしか……依頼で一緒したライセルさん!」
 あれはもうじき二年にもなるだろうか。春先の、ちょうど雪の日の事。
 以前はその美貌も相まって、ともすれば近寄りがたい雰囲気でもあったが。
 この日のラクリマは赤ワイン――デモニア(名前がカッコいい)を傾け、既に鼻歌混じりの上機嫌な様子であった。
「とても久しぶりなのです!」
 ばたばたと手を振るラクリマ。なんというか……可愛らしさすら感じて、ライセルは息を呑む。
 シャイネンナハトに男二人。何も起きない筈は――じゃない。余り良い絵面ではないなど云う向きもあるやもしれぬが。
「もー今日はいっぱい飲みましょう! 飲むのです!」
 そっと置かれたグラスに、笑顔のラクリマはワインをどんどこついでやる。
「いただくよ」
 口に含む赤。ベリーとカシスのニュアンス――
「実を言うと当時は少し危うくて、見ててハラハラした」
 ともすれば冷たく壊れやすい瀟洒なガラス細工のようにも見えがちなラクリマだが。その意外に柔らかな、実のところ豊かな喜怒哀楽が垣間見えて。
 先ほどは別人のようにも感じたが、今のほうが話しやすいと、ライセルは安堵する。
 杯を重ね、身体に灯る熱の中。
 ぐらりと身体を傾けたラクリマをそっと支え、ライセルは子供にするように頭を撫でてやって。
 ――落ち着く、大きな手
 心地よいまどろみの中でラクリマは想う。
 果たして己は何歳(いくつ)だと思われているのであろうか、なんて。

 柔らかなソファーに深く腰掛けるアーリアとミディ―セラ。
「ううむ。こうしたバーで飲むのはなかなかに久しぶりで……」
 ジャックローズの水面に揺蕩う氷の粒に宿る、暖炉の温かな光――
 テーブルの上に並べられた色とりどりのカクテルや酒に目移りするミディ―セラの隣で、アーリアはカクテルグラスを傾ける。
 同じ色を宿して流れる美しい髪からミディーセラは目を離せなくて、バレンシアを一口含んだ。
「きょうのわたしは甘えるもーどなんですぅー」
 吐息に林檎を香らせて、アーリアが柔らかな髪を押しあてる。
 そっと撫でれば、ふわふわで、心地よくて――ミディーセラの頬はほのかに染まっていた。
 今夜のこんな姿を思い出すアーリアの姿が浮かんで。
 だからたっぷり甘やかせてやろう、なんて。ミディーセラは口元にいたずらな微笑みを浮かべて。

 シャンパンゴールドのタキシードに見を包んだジェイクに手を引かれ、幻が姿を表す。エメラルドを散りばめたような翠色のホルターネックのイブニングドレスが目を惹いた。その胸元には狼銀の飾り。
「普段も綺麗だが、今宵はどこか神秘的な感じがするよ」
 シャイネンナハトの夜に、恋人達は美しく華やぐ。
 砂糖漬けのチェリーがころころと転げるオールドファッションドのグラスに映る街の灯りと。
 暖炉の暖かさを抱いたスウェディッシュスカイの甘い香りに包まれて、二人は肩を寄せ合った。

 愛おしいジェイクに――けれど幻は視線を合わせられなくて。
 熱くなる頬。恋人の肩に頭を乗せれば優しく包まれる。
 こんな夜ぐらい甘えても構わないだろう。
 幻の艷やかな髪に唇をあてて。
 親愛の証。彼女を守りたいとジェイクは願う。一生を掛けてこの身を捧げるために。
 肩から伝わる熱に幻は目を細めた。
 彼の全てを欲しいと願ったら困らせるだろうか。

 ああ、けれど。
 胸に抱く想いは、熱く――

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

シャイネンナハト、お疲れ様でした。

静かな夜をお楽しみ頂ければ幸いです。

それではまた、皆様のご参加を願って。pipiでした。

PAGETOPPAGEBOTTOM