シナリオ詳細
あなたとすごしたい
オープニング
●暗殺令嬢の誕生日
十月十三日――
何の変哲もない一日に過ぎないが、毎年やって来るその何の変哲もない一日を特別なものに変えるのは大抵の場合、外的要因である。三百六十五日を記念日に変えるのは誰かの誕生日である。しかしながら、その日は――とても幻想国内が、アーベントロートの領内が、祝賀ムードになるような話ではない筈だ。『無い筈だった』。
「……あら、どうしましたの。そんなお顔をして」
「いや、何となく……そう、こんな事もあるんだなあって思って」
「うふふ。おかしなお方! でも折角の日に気もそぞろでは私、拗ねてしまいますわよ!」
……ローレットにその招待状が届いたのは寝耳に水の出来事だった。
昨年の誕生日は少し遅れて――当日を外して来た招待が今年は違った。
その評判はどうあれ、『暗殺令嬢』リーゼロッテ・アーベントロート(p3n000039)が幻想社交界の中心人物である事は間違いない。
(いや、おっかない拗ね方されても困るけどさ……)
何処か高揚感を感じる彼女の言う事も実際の所、分からなくはないのだ。
今日、この日、イレギュラーズと彼女が一緒に居る事自体が奇跡に近いと言える。
『それは、全く驚くべき事に、恐らくは山のようにあった誘いの全てを、義務的履行の全てを袖にして、自身の誕生日という極めて政治的に重要なイベントをイレギュラーズと共に過ごす事を選んだという事に他ならないのだから』。
「良い所でしょう? うふふ、この辺りは私の領地の中でも特に風光明媚ですのよ。
ですから、別荘を構えるにも一番。一度皆さんを招待してみたかったのです」
成る程、リーゼロッテの言う通り。
梢を吹き抜ける風は何処か涼やかだ。
夏の気配が徐々に遠ざかっていく森の中、遠くから小鳥の声が聞こえていた。
美しい自然の多く残る幻想の景色の中でも彼女が別荘を構える湖畔の景色は格別だった。「皆さんにも見せて差し上げたかったの」。笑顔で言う彼女の言葉が何処まで本音かは知れなかったが――不意の招待は確かにここまで良いものになっていた。
「しかし、意外だったな」
「意外と言いますと?」
「お嬢様が護衛も使用人も連れてこないなんて」
湖畔の別荘にはその主が一人とイレギュラーズが三十人。幻想という国の中でも最も重要な貴人の一人である彼女が、貴族という概念を塗り固めたような完璧なお嬢様がそんな行動に出るとは誰も考えなかったに違いない。実際の所、幸か不幸かは別にして『過剰な寵愛を受けている自信がある』イレギュラーズをしてもそれは意外だった。
「……危ない目にあったりとか、考えないのか」
「皆さんが居るではありませんか。それとも、皆さんが危ないのかしら?」
政敵の多いリーゼロッテのこと。完全に近い中立を保つローレットが相手でなければそんな無防備は晒せまい。お嬢様の今日の依頼(しょうたい)は『自身と湖畔の別荘で楽しい誕生日を過ごす事』である。信頼と安全の担保はそこにもあるのか。
尤も――
「イエスなんて言った日には、首を並べられそうだ」
「うふふ。そうですわねぇ、皆さんに限ってないでしょうけど」
――裏切りや騙し討ちがあったとして華やかに笑うこのお嬢様を何とか出来る自信のある者なぞ、そう滅多に居る者ではない。当然ながら、ローレットにもその気はなくレオンは「まぁ、頑張れ」で一同を送り出したという訳だ。
(――兎に角、責任重大だ)
イレギュラーズは鼻歌さえ口ずさむお嬢様の横顔を見て考えた。
荷物は一切持たないが、手伝う事なんて一切しないが――水を汲みに行こうなんて言われてついてくる彼女が何処に居る。決して普通に居るものか。
なら、ならば――せめても今日位は友人甲斐を見せてやるべきなのだ。きっと。
「楽しい一日にいたしましょうね」
守りたい、その笑顔。
守れなかったら――ちょっと、大分怖いけど。
- あなたとすごしたい完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2019年11月02日 21時50分
- 参加人数30/30人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 30 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(30人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●10/13
その日は本来、幻想の民にとっては息を潜めていた方が良かった日だっただろう。
その日は本来、幻想の貴族にとっては最大限の神経を張り詰め、『粗相』を回避する為だけの日だった筈だ。
少なくとも――
「ああ、素敵! いいお天気!」
――秋晴れの空を見上げ、風光明媚な湖畔の風景で屈託なく笑う少女の日でない事は確かだった。
「ヒヒ、いや、これも『日頃の行い』のお陰かな?」
「もう!」
冗句めいた言葉を投げた武器商人にリーゼロッテが小さく唇を尖らせた。
「冗談、冗談。いや、本気でもいいけどね。
暗殺令嬢の招待を受けたって聞いたら、エヴァーグリーンの旦那がミルフィーユケーキを作ってくれたから持ってきたのさ。あ、よければ今後とも贔屓にしてやってね」
苺のたっぷり乗った『特製ケーキ』を持参した武器商人は準備万端である。
幻想の至宝、一番美しくて一番危険な毒の青薔薇――今日の主役(リーゼロッテ・アーベントロート)を称する言葉は山とある。そんな彼女が今日イレギュラーズを呼びつけたのは、武器商人の手土産を見れば分かる通り、
「こんにちは りーぜろってちゃん。おたんじょうび おめでとう」
至極ストレートなポムグラニットの祝辞を聞けば分かる通り、自身の誕生日会への招待だった。
使用人さえ置き去りにした湖畔の別荘での一時は、彼女の完全なプライヴェートを思わせる。
昨年は当日を外し――そして当日は幻想貴族達と如才ない社交を済ませていたのだろう――たのだから、それは取りも直さずイレギュラーズの『出世』を感じさせるものとなろう。
とは言え……
(親父め、何が『親睦を深めるチャンス』だ。
気が気じゃ無いってんだよ、この状況……あー、胃が痛ぇ……)
(まぁ、気楽とはとても言えない現場だよな……)
……目と目で分かり合ってしまった【護衛】の二人、つまりクリスティアンとシラスは、だからこそ気が休まらない状況となっていた。『暗殺令嬢』リーゼロッテ・アーベントロートはこの幻想で三番目の力の持ち主であるとされているのが一般的であり、敵が多いのは知れた事実である。その高貴なる身の上に『万が一』でも起きればどれ程の嵐が吹くかは想像するに難くなく、むしろ想像さえしたくない。必要があるかどうかは別にして二人が人知れず給仕の真似事等をしながら、護衛に目を配るのも当然であった。
しかして、気を揉むのは二人ばかりである。
「リーゼロッテ様! はっぴーばーすでー!ですわー!!
この佳き日に! このわたくし!」
\きらめけ!/←ここでひっかかりはじめ
\ぼくらの!/←ここでもりあがり
\\\タント様!///←このへんでみんなつられた
「――が!お祝いにやって参りましたわよー!」←ガーリーヘヴンリーアニバーサリーポーズ!
「りーぜろってちゃんは あおいばらをみにつけているのね
わたし ばらのせいれいだから ばらをたいせつにしてくれるひとは すきよ。
ばらには いろんないろがあるけれど どうして あお なの?
どうして あおいばらがすきなの?」
「あらあら、ほっぺをつついてもよろしいの? さすがまぶだち、ですわ。
青薔薇の花言葉は不可能、或いは奇跡。
うふふ、私が好んで身につけるのは家紋が薔薇だから、ですけれど。
涼しげで美しいイメージが好きなのかも知れませんわね」
その当人はと言えば、タント様や先程のポムグラニットと談笑の花を咲かせているばかり。
――綺麗な所でしょう? 皆さんにも見せて差し上げたかったの――
ここまでは裏表を感じさせない時間は彼女の言った通りの『ただの招待』の域を出ていない。
「お誕生日、おめでとうございます。リーゼロッテ様。
――御存じのことと思われますけれど、改めまして。ファーレルの二女リースリットと申します。どうかお見知りおきくださいませ」
「……今年も貴女の大切な日にお招き頂きありがとうございます」
如才なく貴族の礼をしたリースリットに合わせて、シラスも神妙に頭を下げた。
「あらあら、ご丁寧に。うふふ、でもお二人は御老公(あちら)寄りかと思いましたけれど」
少し意地悪くそう言われればシラスは幾らか鼻白み、リースリットは「父は父ですから」と極々僅かな苦笑をした。それは彼女流の冗談だったらしく、お嬢様はただコロコロと笑っている。
『暗殺令嬢』のパブリックイメージは何処へやら。
「お誕生日おめでとうございます!
プレゼントは質感と細部に拘ったリーゼロット様1/6フィギュア……」
「翌朝冷……」
「というのは冗談でして、お誕生日おめでとうございます、お嬢様」
何時ものキャラクターから一転して畏まり、恭しい一礼をした寛治が青い花束を差し出した。
「Blue Rose……青薔薇はかつて不可能の象徴であり、今は奇跡を意味する言葉だとか。
ご自身が言う通り、それはあまりに貴女にお似合いだ。
出会えた奇跡に感謝を。末永くお傍に、と言うのは烏滸がましいが――願わくば、せめて枯れるまでは、お側を飾らせていただけんことを」
黒絹の手袋に包まれたその手を取り、彼は『紳士的に』キスを落とす。
「……」
「……………」
「……………………」
少しだけ頬を染め、そっぽを向いたリーゼロッテは小さく零す。
「……べ、べつに。だからと言ってタゲらなかった訳ではありませんからね!」
別荘に来るまでの時間も、こうしてついてからの時間も景色は実に何とも和やかであった。
「オーッホッホッホッホッホ!
嗚呼! リーゼロッテ様のお誕生日を今年も祝えるとは!
嬉しさでいつもより高笑いしてしまいますわ!
さあ、バーベキューというのなら勿論お野菜は必要ですわよね!
お野菜に関してはキルロード男爵家の長女にしてキルロード農園の副園長たるこのガーベラ・キルロードが我が農園から収穫した野菜を持ってきましたわ! 抜かりはありません!」
「ぶはははっ! こりゃあ頼りになるな、お嬢ちゃん!
しかし、バーベキューをしたいと言われたらこの俺も黙ってられねぇなぁ!
このゴリョウさんに肉焼きの方は任せなぁ!」
自家製の野菜を山程用意したガーベラに、ゴリョウが腕をぶしている。
「BBQなら……あ、トウモロコシとかあるんならそれで焼きトウモロコシとかどうだろう?
後はBBQで誰かが焼いた肉や野菜をこの……パンで挟んで、どう?」
折角の機会、これを機会にと参戦した零のフランスパン(ギフト)は食事のシーンに何時でも深く突き刺さろう。
「……ふむ……肉を焼くのもいいが焼き芋も作ろうか。
網で焼くのもいいがアルミ箔で包んで焼けばおいしく出来ると聞いた……」
サイズの名案にガーベラが了承の高笑いを上げている。
「皆でわいわい! こういうのって作る側に回るのも楽しいよね!」
瞳を輝かせたスティアの手には些か巨大すぎる鉄串が握られていた。普段の不穏さ(※風評被害)を見せない彼女は大きめの具材を豪快に突き刺し、「私の料理の腕を見せる時!」と『スティアスペシャル』をこしらえている。
「うーん、確かに派手で美味しそう!」
それを見た傍らのサクラが(彼女は可憐な見た目の割に『雑』である)歓声を上げる。
そのサクラ曰く『怖いイメージの割に意外と優しそうな』リーゼロッテは少女達の奮闘にすっかり観客として声援を送る構えとなっていた。
流石の対応力と言おうか何と言おうか……
イレギュラーズはこんな時にもやはり抜かりはないのだろう。
事もあろうかお抱えの料理人さえ捨て置いて「バーベキューがしたい」等と似合わない事を所望した彼女の為に、準備は急ピッチで進んでいた。
鉄板を用意し、材料をかき集め、
「それにしてもバーベキュー……」
「初めてですのよ」
「それは、まぁ……私もです。
お肉や野菜、魚介を焼くとか。手の込んだ料理ではないようですが……
それだけに、工夫の仕様も色々とある様ですね」
貴族の子女(リースリットとリーゼロッテ)のやり取りを見るに恐らくはどういうものか余り分かっていないのは明らかだが、銀のスプーンより重いもの等持ったこともないなんて顔をした彼女は会場(?)に用意した椅子に腰掛けて談笑しながらそんな様子を眺めている。
果たして別荘の庭――湖畔の昼時を香ばしく食欲をそそる香りが満たしていく。
「ぶはははは、どんどんいくぜ! 次、一丁!」
「焼き芋が焼けたぞ」
「当家の農園が!」
「はい! スティアスペシャルバーベキューバージョン! お誕生日おめでとう!」
リーゼロッテは興味深そうに次々と運ばれてきた料理に目を丸くしている。
特にスティア曰くの『スペシャル』は巨大な鉄串にかなり豪快に具材の突き刺さったそれである。
ナイフとフォークを手に眉をハの字にしたリーゼロッテは小首を傾げる。
「あの、これはどうやって頂けば……」
「たくさん食べないと大きくなれませんから!
リーゼロッテ様は今でも十分お可愛いと思いますけど、大きくなるともっときっと美人になりますから、ええ。ドシドシ食べていきましょう!」
「……あ、あの……」
うんうんと頷くスティアとやたら力強い(そこそこ雑)なサクラの勢いに気圧されている。
非常に珍しい光景だが、成る程。彼女の小さな口はこれに『齧りつく』発想をもつまい。
「リーゼロッテさま…お誕生日、おめでとうございます……!
こ、このような特別な日に、私まで、招待していただける、なんて……
……あ、それで、その、ええと……こうして、がぶり、です……!」
「!!!?」
見かけたメイメイが挨拶しながら助け舟を出せばリーゼロッテの顔は即座に(><。)である。
その小さな口を令嬢の矜持の許す限界まで開いて、がぶりならずぱくりと串に口をつけた。
「……あら、美味しい」
さもありなん。嗚呼、労働の後は食事の時間である。
ちょっとしたハイキングを楽しみ、準備に骨を折ったイレギュラーズも昼食の時間を楽しんでいた。
(お仕事では容赦なく敵を殺すけど、仲間になり切れてない仲間を殺す事は出来ない。
私って変かなぁ? 弱肉強食なのは目の前のお肉を見れば明らかなのにね)
当たり障りなく挨拶を済ませ、後は肉を焼く事に集中するシエラもいれば、
「おーい、こっちにもっと炭持ってきてくれ、炭! これじゃ生焼けで終わっちまう!」
豪放磊落な声を響かせて、何ともバーベキューを盛り上げるウィリアムも居る。
「ま、仮にも幻想の騎士団で飯を食ってる身だ。
犬らしく、ご主人様のご要望には尻尾振って応えねェとな。
……で、どうだいお嬢様。これが野戦行軍中の兵隊が時たまありつけるご馳走の味だ。
ちょいとばかり、肉質が上等に過ぎるがな」
冗句めいたウィリアムの『随分』な物言いにもリーゼロッテは気分を害した様子はない。
むしろ「貴方は頂かないの?」なんて不似合いな言葉まで賜る始末。
「こりゃ、明日は槍が降るかもなぁ。だが、一つご相伴……」
……勿論、世話をして貰うのは『あたりまえ』。食事を楽しむ面々の中でもリーゼロッテはまずもって、席を立たない、ほぼ自分で焼かないのはご愛嬌ではあるのだが。
「みゃうー(お誕生日おめでとうございまーす)」
なでなでなでなでなでなで。
「うにゃー(撫でていただけるのはうれしいのですが動きようもないような)」
なでなでなでなでなでなでなでなで。
「にゃー」
その理由の一つに『完全に捕まった』陰陽丸が居るのは余談としておこう。
昼食会は太陽の下のパーティをも兼ねていた。
「誕生日おめでとうございます。
昔とった杵柄で芸をしてみるから――よかったら見て聞いて楽しんで貰えると嬉しいわ」
一方で小夜はと言えば、パーティの余興に一舞を見せるという。
盲だ少女とは思えない程に流麗であり、見事なその所作にリーゼロッテは目を細める。
「うふふ。流石というか、以前より腕を上げたのかも」
彼女の評論は唯の芸術に向けられたものではなく、些か物騒にして剣呑な色も孕んでいたが、実際の所それも間違いではないだろう。彼女の舞は武にも通じる。そして、美しき舞を見せるのはこの暗殺令嬢も同じ事なのだから。
「肝心のBBQはゴリョウが腕を振るってくれたみたいだからな」
安心して――ではないが。ポテトは自分の腕を『そちら』に振るう事が出来たものだ。
彼女が用意したシンプルながら可愛らしいケーキの上には林檎の薔薇とマジパンのお嬢様がちょこんと乗せられていた。
「あら!」
一端の女子らしく『可愛らしいもの』がお気に召したのか、小さく胸を張ったポテトにリーゼロッテは微笑んだ。「食べてしまうのが勿体ないくらい」。呟いた彼女の空気はこれまでにない位に和らいでいた。
「噂の暗殺令嬢リーゼロッテと会えるって聞いて来たぜ!
……まぁ、これも役得……なのかな!?
いや、しかし……想像してたよりずっとボリューム…じゃなくて、可憐な」
「褒め言葉だけ聞いておきます。詳しく聞くと何だか不穏な予感がいたしますし」
ルカの言葉に彼女は小さく笑って冗句めいた。ちなみに湖の向こうには逆さにスーツの男が突き刺さっている。
「いやー、まぁ、ははは!
幻想一強い女ってのは、俺にとっちゃ幻想一イイ女って事にゃ変わりはねえからな!
自分はラサを生業にしちゃいるが、アンタみたいなのは中々。
いっそ、俺とデート――ディルクのアニキに紹介でもしたい位だぜ!」
「ディルク……ああ、あの『赤犬』の」
眉を少し動かしたリーゼロッテを見たレジーナが向こうですごい顔をした。
「リーゼロッテ、お誕生日おめでとう!
今年のプレゼントはねー、イレギュラーズの冒険を記録したセララ特製の漫画!
未知の遺跡の探索でしょー、護衛の旅の依頼でしょー、天義でベアトリーチェと戦った時の漫画もあるよ。ね、楽しそうでしょ? 何なら今度一緒に冒険してみない?」
勢い良くみらこみったセララにリーゼロッテは「それもいいかも」と微笑んだ。
実際の所、彼女が不便だらけの冒険に出る可能性等ほとんどないだろう。誰が為に己が身を危険にさらし戦う事なんて凡そないに違いない。
しかし――『現実性を問うなら、まずこの時間も等しく有り得ないのではないか』。
「そういえばオレ、この前イライでゴリラとゴリラカーニバルをしたんだけれどさ。
幻想東部にゴリラマウンテンって山があってさ、そこにゴリラって種族が暮らしてたんだけれどそこにダークゴリラが攻めて来てね……って、オカシナものを見る目で見ないで!
だって本当に居たんだよ!?
ゴリラ語にキョウミあったら辞書を貸そうか!?全部ゴリラ語で書いてあったけれど!」
「ゴリラというと何だかこう、思い出してはいけない事を思い出すのです……」
イグナートの与太話を、
「昔話をしてあげるわ。なんやかんや破滅に向かっていた世界の話よ。
神様たちは人間を救いたいと思ってた。
それは結果的に『正しく』叶わなかったのだけど――
そうね。赤く、赤く。わたしもまた、『戦いの神』って呼ばれたいわ。
だからね、おぜうさま。ぱんt……じゃなかった、わたしね、強くなりたいわ」
「何だかキャンペーン味あるお話なのですわ。納得はしていないのですけれども」
秋奈の『昔話』を何だか真剣に聞くお嬢様なんて、居る訳がないのではなかったか。
閑話休題。
愉快で無軌道な喧騒の時間にあちこちに手を振るリーゼロッテはともあれ至極上機嫌だった。
「……にしても、お嬢。こいつらには随分ご執心なんですねぇ?」
思わず問いかけたクリスティアンに彼女はにこにこと笑うばかり。
「ふーこーめーび、難しいのはわかんないけどきれいだな!
リーゼロッテって空飛んだことあるか? 何なら乗せてあげるけど!」
「愉快な経験かも知れませんわねぇ。でも乱暴な運転をしたら……酷いですわよ?」
カイトの提案に愉快げにして――背に捕まって、敢えて言葉で応えるような事はしない。
ただ、風をきって眼窩を見下ろす彼女の視線は硬質の宝石(つめたいルビー)を思わせなかった。
●湖畔の夜
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
幻想での不人気ぶりと対照的にイレギュラーズにはすこぶる愛されるリーゼロッテは実に盛大に祝われたものだ。人の姿は絶えず、バーベキューから先も実に賑やかなものだった。
「で、疲れた?」
「ええ、少しだけ」
「そう」と微笑んだシャルロットはベンチに座って星を見上げていた。
湖畔の別荘の一幕、二人は実に絵になる所。
使用人さえ遠ざけた徹底ぶりを見せたリーゼロッテの為に『シルキー』を呼んだシャルロットは家事の残りをそちらに任せ、冷たくなってきた夜気の中、こうして時間を過ごしていた。
「誕生日おめでとう、リーゼロッテ。
気の利いたプレゼントは、思いつかなかったけれど、甘えてくれていいのよ?」
膝をポン、と叩いたシャルロットにリーゼロッテは笑う。
「生憎と可愛らしい女ではございませんのよ。
うふふ、それに私は吝かではなくても――あまり甘えると怒られてしまいそう」
「そうです! 拙者リズちゃんと旅行にいきたいです!」
「うわ!?」
ベンチの後ろ――自身の背後からにゅっと生えた神出鬼没なルル家に思わずシャルロットは声を上げていた。
「二人きり……は、考える事は皆同じなようで!
それで旅行です。幻想ではなく、他の国も。いつかは拙者の世界とかも。
リズちゃんがこの幻想という小さな籠で一生を過ごす事になるのは拙者は嫌ですからね!」
腕を組み目を閉じ、ムムっと唸るルル家にリーゼロッテは何とも曖昧な顔をした。
凄絶な位に美しい彼女の美貌は夜に、暗闇に映える。一方でそれを良しとしないルル家の金色の髪はまるで太陽さえ思わせた。
「立場上難しい事は理解していますが!
拙者はリズちゃんに色んな場所を見て欲しいですし、一緒に楽しみたいです。
如何でしょう!?」
「今日があったなら――次がないとは誰が言い切れまして?」
くすくすと笑ったリーゼロッテは一つ嘆息する。
茶番のような時間は彼女が――初めてといっていい位に――自分で選んだ十月十三日である。
イレギュラーズが知る以上にそれにはきっと意味があって。
イレギュラーズが思うよりも彼女は自分自身を持て余している。
「月夜の時間、確かに饗宴に浮かされた熱を沈めるのに丁度良かろうな」
「あら、デイジーさんまで」
「去年のシャイネン・ナハト以来かの、こんな時間を過ごすのは。
暗殺令嬢でも幻想の重鎮でも大貴族アーベントロートの名代でもなく、一人のリーゼロッテの友人としてお祝いさせて貰ったが――どうじゃ? 今宵も一曲踊るのは」
「ずるいなあ」
デイジーの言葉に応じたのはティアである。
「やっぱり考える事同じなんだもん。
去年の舞踏会でもダンスをさせてもらったけど、今日もダンスを所望するのはダメかな?」
「うふふ、こんなに囲まれては『壁の花』は卒業かしら?」
昼の時間は昼の時間――悠久の楽園(ぷれぜんと)はティアが彼女に用意したとっておきだ。
少なくとも孤高の少女はこれだけの友人に囲まれた事はない。
だから、要請を断る事なんてない。
「リード出来たら、弟子にしてくれる?」
「足に泊まらせて下さるの?」
「遥かな願いを望む者。誰かの願いを叶えんとする者。
例えるなら、夜空を翔ける流れ星。
天への願いを受けて、地へと流れ、還し、叶える願い星。
願えばきっと、この夜にも流星が見られる――かも知れないな?」
飲み物片手にやってきたウィリアムが「足に泊めるのは歓迎する奴がきっと大勢だ」と笑う。
「もしお前が何かを願うなら――それが叶うように、俺も願ってる。
或いは、俺達がそれを叶える助けになれる……ってのは自惚れ過ぎかな」
「気障。口説いていらっしゃるの?」
木立を揺らした風に目を閉じたリーゼロッテは小さく鼻歌を漏らしていた。
澄んだ声は鈴なる誘惑。
その呼び声は「ううう」と小さく呻いて肩を落としたレジーナを遂に引っ張り出した。
「……お嬢様ぁ……」
「あらあら、そんな顔をして」
意地悪く薄い唇を撫でたリーゼロッテはレジーナの銀糸を指に取る。
サラサラと髪を、頭を撫でて。
(きょ、今日こそはとこの上なくプランを温め! 決戦は今夜と!
しかし、このマークでは如何ともし難いし、いや。諦めるのは早いわ、我(わたし)!
勝負はこれから、きっとこれからの筈なのよ――!)
頭の中をぐるぐると回る取り留めのない思考をきっとリーゼロッテは知っている。
――では、レナさん。私の事はリズと。
但し、二人きりの時だけね。その方が、秘密の花園みたいでしょう?
あの夜を、あの一瞬を思い出し頬を紅潮させたレジーナの耳にもう一度リーゼロッテは唇を寄せた。
――あとでね。
ぼん、と赤くなり火を噴いたレジーナにはもう構わない。
デイジーの手を、ティアの手を取って盤面の女王は月下に笑う。
「踊りましょう。きっと、月しか見ておりませんから」
湖には――未だ寛治が突き刺さったままだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
YAMIDEITEIっす。
まっくすでれもーど。
また書きすぎてしまった、、、
全員書いた筈ですが抜けてたらお知らせ下さい。
シナリオ、お疲れ様でした。
GMコメント
YAMIDEITEIっす。
おぜうさまの誕生日。
以下詳細。
●依頼達成条件
・湖畔の別荘で10/13を無難に過ごす
●『暗殺令嬢』リーゼロッテ・アーベントロート
幻想の重鎮、大貴族アーベントロートの名代。
幻想きっての武闘派であり、幻想王国第十三騎士団を従えます。
少なくとも幻想最高の暗殺者の一人とされます。
イレギュラーズをちょっと偏愛していますが、彼女の愛情は重くてつらい。
●シチュエーション
10/13、皆さんは驚くべき事にリーゼロッテから招待を受けました。
行先はアーベントロート領に位置する彼女の別荘です。
彼女が自慢する別荘は美しい森に囲まれた湖畔に建つ瀟洒な建物で、多くのゲストを招待しても大丈夫なように多数の部屋が準備されています。
しかしながら、重要なのはここからです。
別荘の準備をした使用人は今回同行していませんし、別荘にもいません。
何故彼女が使用人を置いてきた(排除した)のかは知れませんが……
生活力の無いお嬢様の面倒を見てあげないといけないのは皆さんです。
まぁ、本人曰く護衛も居ないらしいですが、必要かどうかはなんともかんとも。
●出来る事
一行目に下記のタグの何れかを記載して下さい。
【BBQ】:準備も調理も食べる方も。お嬢様は今回、ご自慢のシェフを連れていません。あまつさえ、バーベキューをいうものをしてみたいと主張しています。本人がその詳細を理解しているかどうかは分かりません。望みを叶えてあげましょう。
【おはなし】:お嬢様は皆さんに楽しい話を所望しています。何かしらネタがある人は聞かせてあげましょう。冒険譚でも近況でも小話でも。
【その他】:月を見ながら散歩したりそんなん含めて色々
具体的行動は出来そうな範囲ならご自由に。
別にリーゼロッテを祝わなくてもカップルでいちゃついていようと、全力で飲み食いしてようとOKです。本人もそれでいいと思っています。
同行者が居る場合、必ず一行目に記載して下さい。
リーゼロッテ以外のNPCは存在しません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
続・人数制限であります。
以上、宜しければ御参加下さいませ。
Tweet