PandoraPartyProject

シナリオ詳細

【Autumn color】from Abbey Road

完了

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 世には伝承と言うものが息づいている。
 リュートを片手に歌い、時に朗々と語る吟遊詩人の姿はあちこちで見られ、きっと日常的な娯楽と言えるのだろう。
 長く愛される伝統的な歌もあれば、流行廃りもある。中にはまるで広告や解説のような代物もあったりして。
 例えば『ハイデの乙女と夕日の姫君』も、その解説的詩歌一つであった。

 ――伯爵家の姫君が滝での水浴びを終えると、服がなくなっている。
 途方に暮れていると麗しの妖精ハイデの乙女がお困りでしょうと語りかけてきた。
 ならば衣を貸しましょうと乙女は誘い、ハイデの乙女と姫君は夕日に溶けて消えてしまいましたとさ――

 子細は歌い手によってまちまちだったりもするが。大抵の場合、服を隠したのはハイデの乙女だったというオチを付ける。
 語り部が一体誰であるのかなど矛盾も見られるが、詩人の歌などそんなものであろう。
 ともあれ、そんな伝説がレフォルール修道院が建った由来であるとされているのだ。
 樽の焼印はそんな修道院のビールであることを示している訳だ。
 銘はハイデンフラウ。夕日を思わせるペールエールで、穏やかなコクとフルーティな香りが特徴である。

 隣の樽はパドラディ修道院のホワイトビール。そのまた隣はホップの苦みと香り高さが堪らないラガーで、こちらは修道院ではなく醸造所からの提供だ。
 まだまだあるが、樽はビール類だけではない。
 ワインにミード、ノチーノにリモーネ。更にはグラッパ等の火酒もある。
 さながら酒の市場か祭りのような案配で、好き者には堪らない空間であろう。
 そこが厳かなる大礼拝堂であるという点を除くなら――

 バレル助祭は眉だけを怒らせた珍妙な表情で、樽をコツコツとノックしている。
 口元がニンマリとしそうになる度に、殊更にうろうろとしていた。
 バレルだけではない。あちこちで忙しなく手を動かしている聖職者達は気もそぞろな様子である。
 浮ついた部下達に『幻想大司教』イレーヌ・アルエ(p3n000081)は苦笑を隠さず、いくらかの指示を下した。

 荘厳なカテドラルと酒樽の取り合わせは不適極まり、なんともスキャンダラスな香りもするが。発端はいくらか政治的な所に立脚していた。
 各地の酒造やいくらかの修道院は、この季節となると新酒を卸してくる。
 これらは都市を経由して町へ流通していくものもあれば、いくらかは租税となったりもする。
 ここへ弱者と強者のバランサーを担う幻想教会が絡んだのだ。
 酒類は当然首都に持ち込まれる物も多く、イレーヌは政治工作を仕掛けて一樽ずつの寄贈を仕向けたのである。
 引き換えは教義上の名誉のようなもので、ここは教会の得意分野という訳だ。

 ではこの樽をどうするか。
 無論、飲むのだ。
 城下の人々が。

 イレーヌの目的は『祭りの創出』だった訳である。


「ねえねえ。これ見た?」
 オクトーバーフェストと書かれた一枚のチラシを突きつける『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)は、珍しい装いだった。
 田舎風のエプロン付きドレスで、可愛らしさと健康的な色気に定評がある。
「何? これ? えっへへ似合う?」
 この時期なら田舎のビール祭りで見かける伝統的な装いだが。なるほど、その祭りを首都でやろうと言う訳だ。
 主催は意外なことに幻想中央大聖堂である。
 この時期に集まる酒類を安価に提供するもので、食べ物もあるようだ。
 あのイレーヌの事だ。上手くせしめたろう酒で勤労意欲の低い貧者を釣り集め、祭りという散財の機会に一時的な労働環境でも作りだしてやるのだろう。
 彼等に事前の設営や荷運びといった力仕事をさせ、当日の酒や食べ物と引き換えにするといった所か。分かりやすい福祉で苦労が見てとれる。
 企画は市場や繁華街にも提示されているようで、酒以外にも多くが楽しめるに違いない。

 会場はかなり賑やかなものだった。
 大通りには出店が立ち並び。大聖堂まで続いている。
 酒類は安価で豊富、アルコール以外にもジンジャービアやフレッシュなジュース等が並んでいる。
 これをリットルサイズのジョッキでたらふく頂く訳だ。
 最初にいくらか支払い、ジョッキやカップはお好みの物を拝借して、麦穂が描かれたバッジを受け取ればエントリーは完了だ。

 食べ物で目立つのはやはり腸詰めである。
 はち切れんばかりに膨らんだ熱々のソーセージにマスタードを付けて噛めば肉汁が溢れ、スパイスと微かなハーブが鼻孔をくすぐってくれる。
 粗挽きの歯ごたえをたっぷりと堪能して、そのままビールを流し込む訳だ。こいつが堪らない。
 付け合わせのザウアークラウトは暖かくやさしめの味付けで、チキンブイヨンスープの旨味を吸わせている。
 スープと言えばキャベツと根菜をごろごろと煮込んだものが素朴ながらも絶品で、疲れた胃袋にそっと寄り添ってくれる。
 いやいやまだまだ若いなら。こちらの手羽元とタマネギのスープは、ほろほろと崩れる鶏肉に、バターとニンニクのがつんとした味わいが魅力だ。

 他には焼きたてのパン類。ふっくらと焼き上げられた暖かな白パンは、肉汁やスープを吸わせてもいいだろう。
 酸味のあるどっしりとしたライ麦のパンは、癖の強いサラミやブラッドソーセージと絶妙に合う。香味野菜だってたっぷり挟んでやろう。こちらはワインが良く進む。
 軽食なら芋やタマネギのフリッターなどが人気のようで、匂いからして生唾が溢れそうだ。柑橘を搾ってもいい。

 いざ参ろう。
 そんな麦穂色の秋祭りへ。

GMコメント

 pipiです。

 テーマカラーは麦穂色。
 もらったバッジを身につけましょう。割引されるぞ。

●出来ること
 食べたりおしゃべりしたり、芸を見物したり出来ます。

 店を出したい? 芸がしたい?
 どうぞどうぞ。
 出来そうなことは大体出来ます。

 ゆるくあそびましょう。

●ロケーション
 幻想中央大聖堂前。広場と大通り。
 にぎやかです。ビール飲んでるおっさんとか、ディアンドル着た美少女とか沢山居ます。
 沢山の出店が立ち並んでおり、喫食が楽しめます。

1:『大通り』
 ソーセージやビールの露店で賑わっています。
 食べ歩きも乙なものです。

2:『広場』
 中央には簡素な舞台が設けられ、吟遊詩人が歌ったり大道芸なんかが繰り広げられています。
 食べたり見物したり。
 お店もあります。

 テーブルや椅子などが用意されています。
 ゆっくり座って食べたい方はこちら。

3:『大礼拝堂』
 裏方本部。忙しそうです。手伝うことも一応出来ます。

4:『その他』
 出来そうなことが出来ます。

●露店で見かけるもの
 ありそうなもんはプレイングに書けばだいたいあります。
 米が欲しけりゃ、あるって事だ!

『フード』
・フランクフルト
・ソーセージ盛り合わせ
・ハム盛り合わせ
・サンドイッチ
・フライドポテト
・フライドオニオン
・根菜のスープ
・手羽元のスープ
・パン類
・その他

〇各種『肉!』類
・ローシンケン
・コッパ
・パンチェッタ
・サラミ
・ラインバイザー
・カイザーシンケン
・バックシンケン
・ベーコン
・シュペックローレ
・アイスパイン
・シンケンヴルスト
・ビアヴルスト
・パプリカリオナ
・ビアシンケンヴルスト
・シャンピニオンヴルスト
・カラブレッサ
・カリーヴルスト
・ブルートヴルスト
・レバーケーゼ
・フライッシュケーゼ
・レバーヴルスト
・レバーローレ
・コーンドビーフ
・シンケンズルチェ
・ローストビーフ
・Tボーンステーキ
・etc...

『ドリンク』
〇アルコール
・ドラッヘンブロイ
・ブルラガー
・メフ・メフィートペールエール
・ローレットエール
・サリュー
・アイゼンクリーク
・ハイデンフラウ
・パドラディ
・ミットヴォッホカッツェ
・ヘイローEX
・メルツェングリュン
・ルーベルグ
・他、ワインや各種果実酒、スピリッツ類等。
・etc...

〇他
 フレッシュジュースやジンジャービア等。

●諸注意
 未成年の飲酒喫煙は出来ません。
 UNKNOWNは自己申告。

 他のPCと同行する際には、一行目に名前の記載をお願いします。

●同行NPC
 呼ばれればそこに行きます。
 呼ばれなければ描写はされません。

『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)
 皆さんの仲間です。
 パラメータ:未成年。

『幻想大司教』イレーヌ・アルエ(p3n000081)
 主催。どっかに居ます。
 パラメータ:意外とイケる口。

『トファラの聖騎士』ギデオン・エルセリオ
 pipiの天義系のシナリオに何度か居ました。知らなくても大丈夫です。
 天義の聖騎士です。催しの見聞に来ています。
 パラメータ:付き合い程度。

『助祭』バレル
 そこらへんにいるビール腹のおっさんです。
 真っ赤になるまで働いています?
 パラメータ:酔うと顔に出るタイプ。

  • 【Autumn color】from Abbey Road完了
  • GM名pipi
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2019年10月29日 23時05分
  • 参加人数30/30人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(30人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
リノ・ガルシア(p3p000675)
宵歩
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
カイル・フォン・フェイティス(p3p002251)
特異運命座標
セレネ(p3p002267)
Blue Moon
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りと誓いと
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
銀(p3p005055)
ツェペシュ
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
フィーア・プレイアディ(p3p006980)
CS-AZ0410
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
シエル・フォン・ルニエ(p3p007603)
特異運命座標

サポートNPC一覧(2人)

アルテナ・フォルテ(p3n000007)
冒険者
イレーヌ・アルエ(p3n000081)
幻想大司教

リプレイ


 幻想王都メフ・メフィートの鬱屈は鳴りを潜め。
 澄み切った青空の中に、浮かぶ雲の流れはやや速い。
 時折すっと吹き抜ける風が肌を撫でる。ひやりとした感触は、晩秋の訪れを告げていた。

 カイルの胸元をくすぐる可憐な指先が離れ。
「準備オッケー!」
 カイルとシエル、二人の胸にきらめいた麦穂色のバッジは言わば正装という訳である。なんでも割引されるらしい。
「さ、カイ! 行くよ行くよー!」
 楽しげに振り返ったシエルの髪がふわりと風に乗り、白銀が秋の陽に染まる。

 この数日は秋の催しが各地で開かれ、今年はテーマに沿った色を纏うことになっているようだ。
 幻想中央教会前には各地のビールが集まり、ハムやソーセージの出店が所狭しと並んでいた。
 良家に生まれたカイルにとって、食べ歩きは少々行儀が悪いとも思えど――
「……どのソーセージやビールも美味いな」
 そう思えるのは普段節制しているからか。いや、隣ではふはふと頬張っているシエルが居るからだろう。
「ふふ、誰かと一緒だと楽しいもんね?」
 見透かしたような言葉に青年ははにかみ。
「それに分けっこして食べれば色んな種類が食べられるしっ! あ、カイ! そのソーセージひと口食べたい!」
 綺麗に焼き目のついたケーゼを半分こ。
「それにしても、カイの持ってるそれ気になるなー」
「あ、シエルはお酒ダメだからな?」
「え、ダメ? 本当に? ちょっぴりもダメ? 舐めるだけとか!」
 麦穂色のビールに喉を鳴らしていれば、せがみたくもなるというもの。
「大人になるまで我慢して」
「そのシュワシュワしてるとこだけ、ね? ね??」
「その代わり、大人になったら一緒に飲もう。約束だ」
「……む、じゃあ大人になったら。絶対よ?」
 可愛らしく口を尖らせながら、絡め合う小指と縮まる距離にシエルの胸が高鳴り。
 カイルの頬が染まるのは、酔いの為だけではあるまい。

「初めてのお祭りか……」
 こうしたものは、創り出すまでは容易とも言える。重要なのは継続だ。
 ともあれ、行人はエールを片手に、道行く人々の活気を肴にしつつ。
 食べ物はどうするか。色々と考えることは出来るが、折角ならオススメに従うのも悪くない。
 やんややんや、沢山買わされてしまい。とはいえ商魂たくましいというよりは、どれも本気で勧めているのだろう。
 幸いにも路銀には余裕が――まあ。
「この辺りは来年じゃないと解らないけど…良いお祭りだよ。それは間違いない」

「ビールのお祭り……とても賑やか、ですね……!」
「うんうん、びっくり!」
 偶然行き会ったメイメイとアルテナが感嘆する。
 二人とも流れで着せられ――もとい貸して貰ったディアンドルの胸元にバッジをつけて。


「ふふ……!」
 まだお酒は飲めないけれど、今日は食べ歩くのだ。
 肉汁弾けるソーセージ、みずみずしいハム。かりかりのフライドポテト。
 少しずつ食べ比べてはジンジャービアをこくり。
「ぷはー」
 思わずため息がもれてしまう。
「あ、あの人が食べてるのは……向こうの屋台の、かな……」
「ねえねえ、行ってみない?」
 もちろん。

「イーリン似合うね」
「ちょっと子供っぽすぎるかしら」
 ウィズィは青、イーリン黄を基調としたディアンドル。
 胸元のバッジをつけあって。
「……胸でかいと合うのかな」
「胸がでかいは余計よ」
 そんな憎まれ口も、けれど笑いながら。二人はビール巡りを始める。
「貴方こそ仕事着と大差ないんじゃない?」
「いや、確かに私の仕事着と似てるけどっ。これはあくまでコスプレ! 今日は楽しむ気満々だから!」
 無論、鍛え上げたしなやかな身体のウィズィにも、細身ながら強い主張のあるイーリンにも、良く似合うことには違いない。

「そういやビール苦手なんだっけ? 見た目通りの子供舌なんだから」
「そうよ、子供舌で悪かったわね! でもこれだけいっぱいあるなら私好みのもあるわきっと」
「よっし、私が見繕ってあげよう!」
「ふふ、さぁ見繕ってもらうわよ」
「あ、このメフ・メフィートペールエールとかどうかな?」
 軽やかでフルーティな香り。ホップは控えめで。
「……気に入った……かも」
「気に入った? 良かったっ」
 同じもので喉を鳴らして。
「……ん、美味し。私もこれ好き!」
 あとは肉類。ソーセージ等を買いそろえ。
「でも一緒に飲み食いして騒がないとわからないわね!」
「よっし! 今日は食べて飲んで騒ぐぞー!」
 二人共、満面の笑顔で改めて乾杯!

 通りを挟んで。普段は惑いの花酒亭で杯を酌み交わす【花穂】の面々。
「おお、お二人はディアンドルですか。よくお似合いです。お祭りが華やぎますね」
「中々似合ってるぜ」
 寛治と義弘の言葉通り、艶やかでみずみずしいラダとリノの褐色肌にディアンドルの組み合わせは、ほんのりとエキゾチックで良く映える。
 男性陣もこの日はスーツスタイルでなくラフに。義弘は薄手のシャツにジーンズ。寛治はポロシャツとチノパンにジャケットを羽織りアースカラーで纏めている。
 褒めそやす二人にリノは。
「なんならヨシヒロとカンジもディアンドル着てみる?」
 なあんて。
「流石に新田さんや俺が着るのは勘弁だ」
 ラダは「ならば男物があれば」とも思ってしまうが、確かに言い得て妙。何かあってもよかろうものだ。

 寛治の選択はメルツェングリュン。
「冬の仕込みが始まる前に、長期保存していたビールを飲みきってしまおう。それがオクトーバーフェストの始まりで、メルツェンはそのお祭りで飲み干されるビールだったのです」
 このビールには肉料理。アイスバイン等がおすすめと添えて。

 義弘はブルラガー。反対の手にはソーセージを山盛りした皿。
「いいわねェこういう催し、教会もたまにはステキなことするじゃない」
「精一杯飲んで食って、楽しまなきゃ損ってもんだぜ」
 ラダはジンジャービアで我慢の時。
「ラダだってすぐ飲めるようになるわよ、その時は美味しいのにしましょうね」
 リノの言う通り、きっとあっという間だから。
「さて、大人組は美味しくお酒といきましょうか」

「乾杯の歌の曲が流れ始めましたね、さ、皆さんご唱和ください」
 さあ、乾杯だ。
「「Eins, zwei, drei, g'suffa! Prost! 」」
 初めてのジンジャービアは、ラダには少々生姜の香りが強くて。次はジンジャーエールにしよう。

「皆幾つも試して好みの酒を見つけたのだろうか」
「人生は長いんだもの、お酒でもなんでも色々試して好きなものを見付けるべきだわ」
 それから。食べ物はもちろんお肉。持ち寄って食べ比べだ。
「やァん、やっぱりビールに腸詰めは鉄板ねェ」
 次はワインも試したい。アテにするならブラッドソーセージか。
「私は腸詰めはハーブやスパイスが強めのが好きだ」
 ぱりっと噛めば口の中で旨味が弾ける。
「悩んじゃうわね、みんなで色々シェアしてみましょ」
 気に入ったものは花酒亭のマスターに仕入れを頼むのも楽しみの一つ。

 義弘はふと天を仰ぎ――
 こういう時くらい酔わなきゃ損だ。
 ――そう考えられるくらいにゃ、楽観的になったのかねぇ。

「うーん、なんとも馴染みのあるような」
 述べた美咲。出身世界ではオクトーバーフェストの名は冠せど、毎月のように各地で開催されているから。
 直接参加した記憶はなく、そも今更――ではあれど。
 ともあれそんな美咲はヒィロと共に、大通りで食べ歩くのだ。
「美咲さん、この服可愛いね! ディアンドルだっけ?」
 頷く美咲の見立て通り、どちらもバッチリ似合っている。
「借りた甲斐があったー! えへっ」
 ナンパには注意したい。カメコトドならグワーで爆発四散するけれど!
「それじゃどれから行こっか!」
 よりどりみどり。
「とりあえずボクはアレ!」
「お、最初から本命くらいな勢い!」
 熱々のフランクフルトにケチャップとマスタードたっぷりと。
「っくーふー。この食べてるのか飲んでるのかくらいの肉汁」
「うわっ肉汁すごっ! んふふふー美味しー!!」
「後でパンにも合わせよ。挟むと汁吸ってたまらんのよ」
 肉汁吸わせたパン。おもわずじゅるりと。
「パンに合せるのもすっごく美味しそうだね!」
 お次はラガー。ヒィロはジンジャービアで。
 これで見た目はおそろいだ。
「乾杯!」
「はーい、乾杯ー!」
 喉を鳴らしてぷはー!
 最高に幸せな味がする。

 賑わう通りの中、きらりと煌めくバッジ。それより煌めくおでこ!
「オーッホッホッホッ!」
 さあ、皆さんご一緒に。

  \きらめけ!/

  \ぼくらの!/

\\\タント様!///

「流石タント様! バッジよりもきらめいてて今日も絶好調だね!」
 シャルレィスもタント様も、今日は葡萄ジュースでワイン気分。
「タント様! お肉! 私お肉一杯食べたい!」
 だってもう、あたり一面に美味しそうな香りが溢れているのだから。
 という訳でメニューを拝見。
「……!? んむむっ……」
 タント様の真剣な眼差し。
「メニューのお名前からどういったものかちっとも想像できませんわー!」
 ほんまやな。
「え? 名前を見てもわからないなんてそんな……」
「シャルレィス様、こ、この『真剣だぜー』とか『びゃびゃぶりゃー』とかは一体何物ですかしら!?」
「カイザーシンケン!? なんかすごい格好良い……! これ実は必殺技帳だったりして!?」
「……まあ! 必殺技ですの!? やはり!」
 さっそく注文。
「あ、あれ?」
「あら? あら? お肉ですわね……?」

 \普通のハム!/

「でもでも、美味しそうですわー!」
 肉汁はほんのり暖かく、舌触りは滑らか。香ばしい焼き色とマスタードのハーモニーがヨシ!
「うん、でもどれもこれも、すっごく美味しい!」
「んむーむっ! どれも最高ですわねー!」
 タント様の輝きがあまねくを照らす。
 闇を払い、清浄を導き――
 こうして世界に平和が訪れた。

「……しかし調子に乗って沢山頼んでしまいましたが……食べ切れますかしら……!」
「大丈夫だよ、タント様!」
 シャルレイスが胸を張る。
「私が絶対全部綺麗に食べてみせるから!」
 ヨシ!


「へい、そこの綺麗なお姉さん!」
 スティアの声に『躊躇なく』振り返ったイレーヌである。
「私に付き合わないかい?」
 悪戯心に火がついたから。
「構いませんよ」
 穏やかな微笑み。
 さて一緒になにを食べようか。ソーセージ、ローストビーフ。Tボーンステーキ。
 気になるものはよりどりみどりで。無限に食べられれば良いのに。
「オススメはありますか?」
「こちらのスープはいかがでしょう?」
「!」
 それもいただいちゃおう。
 食べつつ、話つつ。
 賑やかな大通りと広場を抜け。イレーヌの誘導に任せてたどり着いたのは――
「……あれ?」

 祭の裏方。大礼拝堂はこの日、司令部と倉庫を兼ねている。
「おもーい!」
 スティア。
「おーもーいー!」
 ヴァレーリヤ。
「お二人とも助かります」
「私達二人に! 酒樽運びを! ふんぬ! 任せる! なんて! どっっせーーい!」
「ふええええ」
 どうにか荷車へ乗ってくれた酒樽が、広場のほうへ連れられて往く。
「人使い……荒すぎではありませんこと!?」
「あと一つですから」
「無茶ぶりが過ぎましてよ、イレーヌ! 鉄騎種と言えど、パワーと体力には限界がありますのよー!! せーーい!」
 そう言いながらも答えてしまうのがさすがヴァレーリヤと言ったところか。
 イレーヌもイレーヌで忙しそうに指示を飛ばしている。
 貧しい人々の助けになるならと手伝いを申し出た事に後悔はないが、素直に祭りを楽しんでも良かったのではないか。
 だってあんなに美味しそうで。
「……な、なんでもありませんわよオホホホホ……」

「はぁいおねーさん達、働き詰めで喉が渇いたんじゃなぁい?」
 大胆なディアンドルでビールを運ぶ、救世主(アーリア)の到来である。
「前回は上品にワインだったけど、こっちもイケる口でしょ? きっと」
 苦笑するイレーヌと、クワっと顔をあげるヴァレーリヤ。
「私のお勧めはローレットエール! スティアちゃんにはジンジャービア!」
 てかアーリアのマス一つ空だし、髪の色変わってるし。
 期待の籠もった眼差しに。
「それでは休憩にしましょうか」
「天の助けだー!」
「ですわー!」
 待ちに待ったイレーヌの言葉に、思わずマスを受け取るヴァレーリヤはスティアと共に、へたり込んで。
「こんな神聖な場所で飲むのもまた一興ねぇ、なぁんてね!」
「ナイショですよ?」
 背徳の喉ごしは、罪(ほっぷ)の香。
 やりとげたご褒美に、あとは遊ぶだけだ。

 裏方というのも大変だ。
 見回りを続けるフィーアは、お裾分けにも「気にしないで下さい」の一言であった。
 理由は――語ると長くなってしまうので、殊更に言う必要もあるまい。
 迷惑をかける者が居れば連れだし。それから似運びに事務処理に八面六臂というヤツだ。
「あと……水が欲しいのなら、言って下さい」
 彼女には、そういう機能もついている。

 そんな大礼拝堂の外。
 広場を照らす陽はまだ高い。午後二時頃か。
 今日のセレネは裏方で参加だ。
 思い出すのはサーカス。小さな牙を突き立て――滅ぼしたデモニア。女の子の事。もう一年以上も前になる。
 こうしていれば彼女の気持ちが、少しは分かるだろうか。

 広場の大道芸人達に混ざり、アクロバットやジャグリングを次々に決めた。
 可愛らしい顔は真剣で、微笑ましくも見えるが技は冴えている。
「これ、どうぞ……!」
 手に汗握って見てくれていた、小さな男の子へ進呈する。芸に使った小さな花。
 男の子は驚き、はにかみ、にっこりと笑って。

 ――こんな……気持ちだったのかな。
 伝わるほっこりとした暖かさが、胸のつかえを、少しだけ溶かして。

「そろそろ一休みしましょ」
 蛍に同意した珠緒は広場のテーブルへ。二人は買い込んだ食べ物を載せてやる。
「それじゃ、いただきます」
 お肉。野菜のフリッターとジュース。パンをスープにつけて頂きながら。
「そういえばさっきの『ハイデの乙女と夕日の姫君』のお話」
 吟遊詩人が歌っていた。
「どっちも女の子って、なんだか不思議よね」
「……言われてみれば」
「妖精の子が服を隠してまで誘って……一緒に消えたのが、なんでお姫様なのかしら」
「片方が男性であれば、あの流れにはならなかったのやもですけど。多く歌われ受け継がれているということは、受け入れやすい形なのでしょう」
「もし、愛だからだとしたら、真実の愛に性別は関係ないっていうのは、その、よくわかるけど……」
 ちょっぴりもじもじとした蛍が、横目で珠緒をちらり。
「せめて結末が、めでたしめでたし、で終わってるといいのだけど」
 結末は歌い手次第とは言うが。
「幸福な終わりが望まれるのもまた然りですし。きっと、蛍さんの願われる通りの内容が、メッセージに違いありません」
「桜咲たちに当てはめると、誘ってくださる蛍さんが妖精さんですね」
「そそそそうね!?」
「服隠したりしないで、堂々と正面から……」
 ――言えたら良いのだけれど。
「断りませんから、服は隠さないでくださいね」
 悪戯な微笑みを。

「よう」
 微かに口角を上げ、銀が声をかけたのは。
「これは天義の黒騎士。串刺し公ではありませんか」
 遠く天義の聖騎士ギデオンであった。
「よし給え。しかしこんなところで会うとはなぁ。元気かね?」
「お陰様で。そちらこそお変わりなく!」
「いつか君とはゆっくり酒でも飲み交わしながら話をしたいと思っていたのだ」
 今日は珍しくビールを。
「丁度良い。ヒマなら少し付き合い給えよ?」
「無論ですとも」
「……嗚呼。折角の祭りだ、堅っ苦しいのや湿っぽいのはナシにしよう」
「そうでしたな」
 杯を片手に、二人は笑う。
 いくらか買い込み、テーブルへ。
「こんにちは、ギデオン様。お久しぶりです。お席よろしいですか?」
「やあサクラ殿!」
「君か。掛け給え」
「お邪魔します」
 サクラが持ってきたのはアイスバイン、カリーヴルスト、ローストビーフ、Tボーンステーキ。かなりの量だ。
「これはこれは」
「幻想でギデオン様に会えるとは思ってもみませんでした。お仕事ですか?」
「はっは。敵陣視察ですな」
「敵陣!」
「おいおい」
 ギデオンの笑みからしてジョークのつもりだろう。明るい顔になったものだ。
 積もる話もしつつ、聞けばそれなりの職を負うと言う。
「忙しいというのに祭りの視察とは困ったものです」
「休暇も必要だろう」
 あの国も変わったものだ。

 それにしてもサクラは良く食べる。
「その……アレです!」
 元気の良い声は。
「イレギュラーズの仕事が大変で」
 だんだん小さくなって行き。
「体が資本っていうかなんていうか……?」
「結構ではありませんか」
「そう……ですか?」
 嗚呼しかし。
「……なんでステーキといえば決まってガーリックなのだろうな」
 銀はそっとぼやいて。

「お料理はどれもこれもっ、美味しそうですね!」
「うん、美味しそうなものがたっくさんだ!」
 リュカシスとイーハトーヴの前にも、山盛りの肉類が並んでいる。二人で制覇出来そうだ。
「どれ……」
 まずは色々味見をしつつ。
「……ん! リュカシス、この肉料理、すごく美味しいよ!」
「特に美味しいやつデスカ?」
 アイスバインを一口。
「へへへ、おいしい!」
「えへへ。ね?」

「エールも美味しいや」
「ア! イーハトーヴさんお酒! 大人だ! においだけ! かがせて!」
「ふふ、どうぞ」
「……こ、これは!」
「匂いの感想は?」
 香ばしい麦と、爽やかなホップは。
「苦いパンみたいだ……!」
「あはは、苦いパンかぁ」

 沢山食べて、沢山おしゃべりをする。そんな一時は貴重なものだから。
「ファントムナイトももうすぐだね」
「君も仮装するのかな?」
「仮装の準備はバッチリだよ! 不気味の夜の道案内はお任せくださいネ」
「案内人が君なら、初めてのおばけの夜も心強いな」
 だからお祭りのこと。

「そういえば最近、エンジェルいわしを飼い始めたんだよ」
「エンジェルいわし! ナウなペットと名高いあの……!」
「うん、すごくナウくて可愛い」
「ボクは最近ドスコイと鳴くマンモスを拾ったんだよ」
「ドスコイって鳴く……マンモス?」
「面白くて力強いんだ」
 今度は動物たちと一緒のおでかけでも。

「可愛いよ、幻」
 ディアンドルの『楽な胸元』に、ジェイクの視線が奪われたのは自然の摂理であろう。
 述べたジェイクもレーダーホーゼンを纏い、どちらも伝統的な装いだ。
 そういう訳でまずはローレットエールをマス一杯に注いで。
 合わせは暖かなシュペックローレの薫香と肉汁に舌鼓を打ち。お次はレバーケーゼ。こちらは濃厚な旨味がたまらない。
 けれどもなにより――ジェイクの見つめる先には、揺れる魅惑の果実。
 幻の胸元が目に焼き付いて離れない。
 襲うくらいなら、いっそ酔い潰れてしまおう。
 ドラッヘンブロイなんて、いかにも強そうではないか。
 身体の熱――全てを奪いたいという本能的な衝動――を抑えるよう、ジェイクは杯を重ね続けて。

「……って、ジェイク様ー!?」

 ――

 ――――

 髪を梳いて、指に絡めて、口づけして。
「ジェイク様、大丈夫ですか」
 おや。起きたと思ったのだけれど。
 なぜだかずっと幸せそうに目を閉じているから。
 陽が落ちるまで、もう少しだけ優しい嘘つきのままで――

 徐々に日が傾く中。深紅と黄金を満たすグラスの音を重ね。
「――今日は、酔わねぇように気をつけるんだぜ?」
「……あの日ぃは、その……調子悪かっただけ」
 十夜のからかいに蜻蛉は口ごもり。本音はワインと共に喉の奥へ。果実味は、まだもう少し開いていないか。
 けれど「もうしません」なんて反省する筈もなく。
「ほら、あーんして」
 ローシンケンが揺れるフォークを突きつけられて、見比べ苦笑一つ。
「……おいおい、言った傍からまた酔ってるのか、嬢ちゃん」
「……酔うてません、冗談や」
 ふいの歓声に視線を奪われた、刹那。
 引こうとした手がとまる。

 ――あぁ、確かに美味いな。

 手首に感じる逞しい指。手のひら――熱。
「……素直や、ないんやから」
 ジャグリングに見とれたと。視線だけの言い訳は、果たして誰が為に。

「……ねぇ、好きよ」
 たとえ、貴方が他の誰かを想い続けていても。

 微かな声に目を伏せて。
 ……きっと、俺も酔っちまったんだろうさ。

 そうして傾いた陽が茜に染まり始めた頃。

 給仕をしていたのは、レシピを盗んだり、衣装の作りを調べたり。全ては路地裏カプリチオの為!
 えらい! 忍者偉い!
 最後の目的は、そう。宣伝である。という訳で舞台へゴー。

「皆様ー! 楽しんでますかー!」

 \うおー!/

「路地裏カプリチオの宇宙警察忍者系アイドル! 夢見ルル家ですよー!」

 \うおー!/
 \ルル家!/
 \タント様!/

「本日は拙者の新曲を聞いていってくださいね! それじゃあいきまーす!」

●エンディングテーマ

『コズミック・ラブ・クリティカル』
 作詞・作曲:拙者

 宇宙の中心から混沌を救いに来た拙者は宇宙警察忍者
 日夜奔走
 昼夜暴走
 気になるあの子に必殺連
 街角で出会ったあの人に感じるトキメキはなぁに?(マネー)
(以下略)

 あ。聴いた方は一律1d100を振って下さい。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

依頼お疲れ(?)様でした。

それでは。またのご参加を心待ちにしております。pipiでした。

PAGETOPPAGEBOTTOM